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ケミカルジェネティクスで
生命現象に迫り、創薬を目指す 吉田 稔 |
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化学の力を駆使して生命現象の解明に挑む──それが ケミカルバイオロジー(化学生物学)である。 その中で、微生物などがつくり出す 化合物を細胞に作用させ、どのタンパク質に働き掛けるのか、 どのような変化が起きるのかを詳しく調べることで、遺伝子と機能を 結び付けようというのが、ケミカルジェネティクス(化学遺伝学)だ。 それにより複雑な生命現象が解き明かされ、さらにはその化合物が 新しい治療薬につながる可能性も高い。 理研では、ケミカルジェネティクスを大規模化して 全ゲノムを対象とするケミカルゲノミクスも本格始動。 基礎研究と応用研究の両方から熱い期待が寄せられる、最近話題の ケミカルジェネティクス、ケミカルゲノミクスの最前線を紹介する。 |
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ケミカルゲノミクスによって明らかになってきた細胞の制御機構
吉田グループディレクターは、これまでに微生物がつくり出す化合物や、それを改変した化合物を使い、標的となるタンパク質を特定してきた。その結果、遺伝子発現やタンパク質の輸送など、細胞の重要な機能の仕組みが、次々と明らかになってきている。イラストは、正常な細胞の機能を描いている。化合物はそれぞれ特定のタンパク質に結合し、正常な働きを阻害する。 |
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落ちこぼれ天然物化学者
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「今朝の朝食のメニューは?」と、吉田稔グループディレクター(GD)。和食なら納豆とみそ汁、洋食ならトーストにヨーグルト、という人もいるだろう。「納豆、みそ、パン、そしてヨーグルトも、微生物がつくった物質が利用されています。しょうゆやチーズ、漬物、酒、そして抗生物質のペニシリンや抗がん剤のマイトマイシンも、微生物がつくったものです。微生物はいろいろな物質をつくり、そのどれもが有用なものばかり。微生物への感謝の気持ちを込めて“菌塚(きんづか)”も建立されています」菌塚は京都の曼殊院(まんしゅいん)にあり、そこに刻まれた文字は“酒博士”として知られた応用微生物研究の世界的権威で、特殊法人時代の理化学研究所初代副理事長も務めた坂口謹一郎博士(東京大学名誉教授)によるものだ。吉田GDは、坂口博士の直系の東京大学農学部農芸化学科発酵学研究室で学んだ。「微生物がつくる新しい化合物を探してくる天然物化学から、私の研究は始まりました」 吉田GDは大学院博士課程のとき、放線菌の培養液からトリコスタチンAを発見した。「調べてみると、既知の物質でした。天然物化学では、新奇の物質を見つけることが重要です。既知の物質だと分かったら、通常、それを研究対象にはしません。でも、私はトリコスタチンAの面白さに魅せられ、とてもほかのことをやる気にはなりませんでした」と当時を振り返り、「天然物化学者としては落ちこぼれですね」と笑う。 天然物化学では、まず化合物の構造、“顔”を見る。「既知の化合物の構造と比較すれば、有用な機能を持つかどうか、だいたい分かりますね」。吉田GDは、トリコスタチンAを調べたところ、珍しい構造をしていることに気付いた。そして、マウスの白血病細胞に投与すると、驚くべきことに正常な赤血球細胞に変わることが分かった。しかも、わずか10ナノモルという低濃度で効果がある。「トリコスタチンAはどのタンパク質に作用し、何をしているのか。それを、今で言う“ケミカルジェネティクス”の手法を使って調べ始めました」 |
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ケミカルジェネティクスとは
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“遺伝学”とは、遺伝子と、形態や性質などの最終的に観察することができる“表現型”を結び付けるものである。表現型が変化した変異体を見つけ、その原因となった遺伝子を特定していく。最近では、遺伝情報である塩基配列が明らかになっている遺伝子から面白そうなものを選び、その遺伝子に変異を起こし、表現型がどのように変わるかを調べる“逆遺伝学”が盛んだ。しかし、ヒトなど高等生物では同じ機能を持つ遺伝子が複数あるため、一つの遺伝子に変異があっても別な遺伝子が機能を補ってしまい、表現型が変わらないこともある。
そこで登場したのがケミカルジェネティクスだ。「化合物を投与すると特定のタンパク質と結合して、その働きを阻害し、遺伝子を変異させたときと同じような変化が表現型に現れます。化合物を使って遺伝子と表現型の関係を明らかにしようというのが、ケミカルジェネティクスです」と吉田GDは説明する。 同じような配列を持つ遺伝子は、同じ種類のタンパク質をつくる。化合物は、同種類のタンパク質すべてに作用するので、別の遺伝子によって機能が代替されてしまうことはなく、表現型の変化を調べることができる。しかも、変化が起きるのは化合物を投与している間だけ。取り除けば元に戻るので、変化を観察しやすい。さらに、生存に必須な遺伝子を壊すと発生が途中で止まってしまうため、従来の遺伝学では必須遺伝子の機能を調べることは難しいが、化合物を使う方法ならば研究が可能だ。 ケミカルジェネティクスは新しい遺伝学として、非常に注目されている。その理由を吉田GDは、こう話す。「化合物から攻めていくと、まったく予想もしていなかった面白いことがたくさん出てくる。しかも、その化合物が直接治療薬へつながることも期待できるからです」
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がん、神経変性疾患などの治療薬へ
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吉田GDを魅了したトリコスタチンAについて、ケミカルジェネティクスによって、HDACというタンパク質に結合することが分かった(図1)。HDACは、DNAが巻き付いているヒストンのアセチル基を外す働きを持っている。トリコスタチンAがHDACに結合し、ヒストンの脱アセチル化が阻害されると、遺伝子の発現しやすい状態が続くことになる。
特異的なヒストン脱アセチル化阻害剤はそれまで発見されていなかったため、それだけでも大きな発見だったが、もっと驚くべきことが分かった。「トリコスタチンAを使ってHDACの働きを阻害すると、病気の原因となる遺伝子ではなく、なぜか病気を治す働きを持つ遺伝子の発現が活性化されるのです」。現在では、吉田GDが発見したトリコスタチンAとトラポキシンのほかにHDACの働きを阻害する化合物が多数発見・合成されており、抗がん剤として臨床試験が進んでいるものも10種類ほどある。吉田GDは、「抗がん剤だけではありません」と続ける。「HDAC阻害剤は、ハンチントン病やアルツハイマー病など神経細胞の疾患にも効果があるという報告もあり、大きな注目を集めています」 ![]() |
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スプライシングを狙う抗がん剤
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吉田GDの最近の成果を紹介しよう。吉田GDは、大腸がん細胞や肺がん細胞に対して抗がん活性を持つことが知られていたFR901464という化合物に注目し、その構造を少し変えて安定にしたスプライソスタチンAを用いた実験を行っていた。「スプライソスタチンAは、トリコスタチンAと同様HDACに結合してヒストンの脱アセチル化を阻害しているのではないかと考えていました。ところが、スプライソスタチンAが結合するのは、HDACではなく、スプライシングに必須なSF3bというタンパク質複合体だと分かった(図2)。スプライソスタチンAは、スプライシング阻害剤だったのです」
スプライシングとは、DNAから転写されたRNAのうちタンパク質をつくる情報を持たない“イントロン”部分を取り除いて、情報を持つ“エクソン”部分だけを正確につなぎ合わせることだ。正常なタンパク質がつくられるためには、不可欠なプロセスである。 同じころ、製薬会社のエーザイ(株)はSF3bに結合し、スプライシングを阻害する別の化合物を見つけ、それが抗がん剤として働くことを明らかにした。「スプライシングが阻害されたら正常なタンパク質がつくられず、正常な細胞も死んでしまうと考えるのが自然です。なぜ、がん細胞だけが選択的に死ぬのか、とても不思議。今後、エーザイと共同研究を行い、明らかにしていく予定です。DNAの複製、転写、タンパク質翻訳を阻害する治療薬は、すでに開発されていますが、スプライシングを阻害するものはありませんでした。私たちの研究は、新しいメカニズムで作用する抗がん剤の開発に結び付くと期待しています」 さらに、スプライシングが阻害されると、未熟なRNAが核の中に蓄積し、一部は核の外に運ばれることも分かった。そして、通常では取り除かれるはずのイントロンが残ったまま翻訳され、異常なタンパク質がつくられてしまった。「SF3bはスプライシングに必須なだけでなく、mRNAのイントロンに直接結合することで未熟なmRNAが核の外に出ていかないように、つなぎ留めているのです」 イントロンは、生命科学における最近の重要な研究対象の一つだ。「無駄な部分だと考えられていたイントロンにも機能があるのではないか、そんなことが言われ始めています。イントロンは普通、核の中で安定には存在できませんが、SF3b阻害剤を使うことで大量に蓄積させて、その機能を調べることができます。今回の成果は、イントロンの機能を探る“イントロン生物学”の始まりかもしれません」 吉田GDは、ここで紹介した、ヒストン脱アセチル化を阻害するトリコスタチンAとトラポキシン、スプライシングを阻害するスプライソスタチンAのほかに、タンパク質を核から細胞質に運ぶ核外輸送を阻害するレプトマイシンBなどを発見し、研究を進めている(記事冒頭の図)。抗がん剤などの治療薬につながると期待されているものばかりだ。 ![]() |
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ケミカルゲノミクスの基盤を整備
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「これまでは偶然見つかった面白い表現型変化を引き起こす化合物を用いてケミカルジェネティクスが行われてきました。これからは、それを大規模化して対象をゲノム全体に広げ、多数の遺伝子に適用して有用な化合物と標的の両方を見つけ出そうという“ケミカルゲノミクス”の時代です」と吉田GD。しかしケミカルゲノミクスには、化学と生物学の両方の高度な知識が必要だ。両方を兼ね備えた人材は少なく、なかなか広まらないのが現状だ。そこで、吉田GDが動いた。「誰でもケミカルゲノミクス研究ができるように、“ローカリゾーム”など分裂酵母を使ったシステムの構築を進めています(図3)」
分裂酵母は、真核生物でヒトと共通する遺伝子をたくさん持ち、モデル生物となっている。2002年に全ゲノムの解読が終了し、タンパク質をつくる遺伝子の数は4948個と分かった。吉田GDは、その約99%に当たる4910個の遺伝子を取り出し、タンパク質をつくり出すことに成功。さらにタンパク質に蛍光標識を付けて、分裂酵母のどこに局在しているかが分かるデータベース“ローカリゾーム”を作成した。化合物を投与すると、タンパク質の局在が変わる。ローカリゾームの基本データと比較することで、特別な知識がなくても、その化合物が関連するタンパク質を絞り込むことができる。ローカリゾームの構築は6年がかりの仕事だった。「データベースをつくるだけが目的だったら、こんな苦労ばかりの仕事、絶対にやりません。私たちはその先に創薬への貢献という道筋が見えているから、頑張れたのです」 米国では、NHIケミカルゲノミクスセンターを中心に、2004年からケミカルゲノミクスプロジェクトが始まった。ヨーロッパや中国などでもケミカルゲノミクスの研究基盤整備が進んでいる。天然物化学はかつて“日本のお家芸”とも呼ばれた。しかし、ケミカルゲノミクスでは、世界に後れを取っていることは否めない。そこで、2008年4月、理研の基幹研究所に新しい組織“ケミカルバイオロジー研究領域”が設置された。「ケミカルバイオロジー、ケミカルゲノミクスは、ユニークな化合物が出発点です。それがないと先に進みません。そこで、長田裕之領域長が進めている化合物バンクを中心に研究基盤を強化しようというものです」。創薬につなげることを視野に入れ、研究を推進していく。 吉田GDが今、最も興味を持っているのが“エピジェネティクス”だという。生物はDNAに書かれた遺伝情報だけに支配されているわけではない。タンパク質ができた後、アセチル化やメチル化、ユビキチン化などによって機能が変化することが知られている。このようなタンパク質やDNAの後天的な修飾によって引き起こされた遺伝子機能の変化が世代を超えて子孫の細胞に伝わることを、エピジェネティクスという。「ヒストン脱アセチル化による遺伝子調節は、まさにエピジェネティクスです。トリコスタチンAとの付き合いは、まだしばらく続きそうです」。その研究が、画期的な抗がん剤やアルツハイマー病などの神経変性疾患の治療薬へとつながっていくに違いない。■ ![]()
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関連情報
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グリア細胞を標的にして、
難病「ALS」の克服を目指す 山中宏二 |
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ALS(筋萎縮性側索(そくさく)硬化症)は残酷な病気だ。 ALSを発症すると筋肉を動かす運動神経が徐々に死んでいくため、 手足がまひし、発声が不自由になり、やがて食べ物が飲み込めなくなる。 そして発症から2〜5年後には呼吸をつかさどる筋肉がまひし、 人工呼吸器が欠かせない状態になる。 ただし、感覚や記憶、思考能力は正常に保たれるので、 患者は病気の進行をすべて自覚している。 しかし、ALSの有効な治療法はいまだ開発されていない。 これまで、ALSの研究は運動神経に注目したものが主流だったが、 脳科学総合研究センターの山中宏二ユニットリーダー(UL)たちは 運動神経の周りの細胞に注目し、 その中のグリア細胞が運動神経にダメージを与え、 ALSを進行させていることを発見した。この発見は、 ALSの進行を食い止める治療法の開発につながると、 大きな期待が寄せられている。 |
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運動神経だけが死んでいく難病中の難病
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1939年春、米国メジャーリーグベースボール、ニューヨーク・ヤンキースのルー・ゲーリックは極度の打撃不振に陥った。長年、高打率を誇った強打者の不振にファンやチームメートは驚いた。満塁ホームラン23本というメジャー記録を持ち、“鉄の馬(Iron Horse)”と呼ばれたゲーリックの打撃を狂わせ、2130試合連続出場の大記録を途切れさせたのは、ALSだった。ゲーリックはこの年の6月に引退、2年後に亡くなった。37歳の若さだった。米国で“ルー・ゲーリック病”として知られるALSは、神経細胞が徐々に死んでいくことで起きる神経変性疾患の一種である。代表的な神経変性疾患であるアルツハイマー病は、記憶に関係する神経細胞が死んでいき認知症になる。一方ALSは、全身の筋肉をコントロールする大脳や脊髄(せきずい)にある運動神経が死んでいき、動けなくなる病気だ。 日本のALS患者は約6000人。毎年、新たに2000人ほどがALSを発症すると推定されている。発症する年齢は、60代前後が多いが、ゲーリックのように若くして発症するケースもある。 ALS患者の約1割は原因遺伝子を遺伝により受け継ぐことで発症するが、残りの約9割の患者の遺伝子に異常はない。「つまり、ALSは誰がなってもおかしくない病気なのです」。こう語る山中ULは、神経内科の臨床医としてALS患者を担当した経験を持つ。 「神経内科は薬物治療ができる神経の病気を扱います。しかし実際には、原因が未解明で、薬物治療すらできない病気がたくさんあります。“患者さんに対して何ができるのか”、臨床現場で大きなジレンマを経験しました。そして私は、神経変性疾患の原因を解明して治療法を開発したいと思うようになったのです」 山中ULは臨床医を4年間務めた後、基礎研究に身を転じ、2001年からALSの研究に取り組み始めた。なぜALSを研究テーマに選んだのか。「難病中の難病だからです。ALSの病気の進行はとても早く、患者さんは日ごとに症状が悪くなっていきます。病院に来た次の年には歩けなくなり、その次の年には寝たきりになり、その1年後には生きていないかもしれません。臨床医としてALSの患者さんを担当したときの衝撃的な体験が、ALSの研究に取り組む大きなモチベーションになっています」 |
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運動神経の周りの細胞に注目
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1993年、ALSの研究を大きく進展させる発見があった。ALSを発症する家系の人たちに、活性酸素を解毒する酵素“SOD(エスオーディー)1”というタンパク質の遺伝子に変異があることが発見されたのだ。ALS患者の約2%は、この変異型SOD1遺伝子が原因で発症すると推定されている。
その後、変異型SOD1遺伝子を導入することにより、ALSの症状を示すALSモデルマウスがつくられた。このALSモデルマウスにより、ALSの発症や病気が進行する過程を詳しく調べることが初めて可能になった。 変異型SOD1遺伝子は、どのようにしてALSを発症させるのか。ALSモデルマウスとは別に、正常なSOD1遺伝子を取り除いたマウスも作製された。しかし、そのマウスはALSを発症しなかった。これは、SOD1遺伝子がつくる酵素が機能せず、活性酸素を解毒できないためにALSが発症するのではないことを示している。その後の研究により、SOD1遺伝子の変異によりタンパク質の形が変わり、元の酵素としての働きとは異なった未知の毒性を持つようになり、その蓄積が運動神経にダメージを与え、ALSを発症させると考えられるようになった。 「ALSモデルマウスを用いて運動神経をダメージから救う研究が続けられ、発症の時期を少し遅らせるなど治療の手掛かりとなる成果が少しずつ得られ始めました。しかし治療へ向けた画期的な成果は得られませんでした。運動神経だけに注目していたのでは不十分なのではないか。そう思われ始めた時期に、私はALSの研究を始めました」 2001年、山中ULは運動神経の周りにある細胞に注目した研究をいち早くスタートさせた。運動神経の周りには筋肉細胞やたくさんのグリア細胞がある。グリア細胞にはいくつかの種類がある。数が最も多いアストロサイトは、神経細胞に栄養を送るなどその活動を助ける働きがある。ミクログリアは、傷付いたり死んだりした神経細胞の断片を除去する働きがある。 グリア細胞に注目したALS の研究は、ある意味“賭け”だった。「ALSで亡くなった患者さんを調べると、グリア細胞が増えていることは以前からよく知られていました。しかし、それは運動神経が死んだことによる二次的な現象であり、グリア細胞がALSに積極的に関係しているとは考えられていなかったのです」 ではなぜ、山中ULはグリア細胞など運動神経の周りにある細胞に注目したのか。「ALSモデルマウスでは、運動神経だけでなく、全身のあらゆる種類の細胞が変異型SOD1遺伝子を持っています。運動神経の周りにある細胞、例えばグリア細胞でも、変異したSOD1遺伝子が何らかの形でALSに関係していると考えてもおかしくありません。それが発想のきっかけです」 |
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衝撃の研究結果
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運動神経やその周りの細胞で、変異型SOD1遺伝子はどのように働いているのか。それを調べるために、山中ULたちは、特定の種類の細胞群だけから変異型SOD1遺伝子を取り除いたALSモデルマウスを作製することに取り組み始めた。そして2003年、まず運動神経だけから変異型SOD1遺伝子を取り除いたマウスを作製することに成功した。
「すべての運動神経から変異型SOD1遺伝子を取り除くことは技術的にできませんでしたが、全体の3〜5割の運動神経から変異型SOD1遺伝子を取り除くことができました。ただし、これだけ原因遺伝子を除去すれば、そのマウスはALSを発症しないだろうと思いました。ところが結果は衝撃的なものでした。ALSの発症時期が遅くなるだけで、発症後の病気が進行するスピードは変わらなかったのです!」 運動神経を治療のターゲットにすれば、ALSの進行を遅らせることができると期待して、長年、多くの研究者が研究に取り組んできた。しかしこの実験結果は、運動神経だけを治療のターゲットにしても発症時期を遅らせるだけで、病気の進行は食い止められない可能性を示している。「遺伝性ではないALSの患者さんは、発症してから病院にやって来ます。その人たちに、発症を遅らせるような治療はまったく意味がありません」 |
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グリア細胞がALSの進行に関係していた
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山中ULたちは、ミクログリアから変異型SOD1遺伝子を除去したマウスをつくることにも成功した。このマウスでは、発症時期に変化はなかったが、病気の進行が明らかに遅くなった。
さらにアストロサイトから変異SOD1遺伝子を除去したマウスでも、同じように病気の進行が遅くなり、発症から死亡までの罹患期間が約2倍に延びた(図1)。 山中ULたちは、ALSを発症させる主役は運動神経だが、病気の進行には別の主役がいること、つまり、ミクログリアとアストロサイトがALSの進行に積極的に関係していることを見いだしたのだ。「アストロサイトはミクログリアを活性化させ、活性化したミクログリアが一酸化窒素や炎症を引き起こすタンパク質などの毒性のある物質を放出することで運動神経にダメージを与え、ALSが進行すると考えられています」(記事冒頭の図・図2) 山中ULたちは、ALSの進行を食い止める治療のターゲットとして、ミクログリアとアストロサイトが重要であることを世界で初めて示した。ただし、山中ULたちが実験に用いたのは変異型SOD1遺伝子を導入したALSモデルマウスだ。変異型SOD1遺伝子が原因で発症するALSは、全患者数の2%にすぎない。山中ULたちの最終目標は、遺伝性ではない大部分のALSにも有効な治療法を開発することだ。「遺伝性ではない多くのALSでも、アストロサイトやミクログリアに病的な変化が見られます。これらのALSでも、グリア細胞が運動神経に毒性を及ぼし、病気を進行させていると考えています。私たちはそれを確かめるために、変異型SOD1遺伝子以外の原因でALSを発症するモデルマウスをつくる研究を計画しています」
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ALSの克服へ向けて
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今年2月、2種類のグリア細胞がALS治療のターゲットとして有効だという研究結果をプレスリリースした山中ULのもとに、大きな反響が寄せられた。「患者さんやご家族の方から、一日も早く治療法を開発してほしいという切実な要望が多いですね。ALSで手が不自由になった患者さんから直筆の手紙を頂いたり、私を実験台でもいいから使ってくださいと連絡をくださった患者さんもいます」
ALSの治療の標的とすべきは、アストロサイトやミクログリアであることは分かった。次に必要な研究は、ALSの進行を引き起こす異常なアストロサイトやミクログリアの中で起きている分子メカニズムを解明し、治療の標的とすべき分子を突き止めることだ。 「ALSモデルマウスと正常なマウスでは、SOD1遺伝子以外にも、アストロサイトやミクログリアで働く遺伝子や分子の種類や量、それらが機能している場所などに違いがあるはずです。それを調べることで、ALSを進行させる分子メカニズムを解明し、治療の標的とすべき分子を突き止めることができるはずです」 治療の標的とすべき分子が分かれば、その働きを抑えたり強めたりしてグリア細胞を正常な状態に戻し、ALSの進行を遅らせる治療薬の開発が可能となる。 山中ULたちの研究により、ALSに対する再生治療への期待も高まっている。ALS治療のターゲットが運動神経ならば、細胞を移植して機能を回復させる再生治療は難しいと考えられていた。移植した運動神経が正しい神経ネットワークを形成できるかという問題、運動神経の指令を筋肉に伝える軸索の伸びる速度が遅いという問題があるからだ。「軸索は1日に1mmほどしか伸びません。運動神経の軸索は長いものでは1mもあります。1m伸びるには1000日、3年近くかかります。これではとても間に合わない。ALSは末期まで進行してしまいます」 山中ULたちが示したように、グリア細胞がALSの進行に積極的に関係しているのならば、健康なグリア細胞を移植することで治療効果が現れるはずだ。「グリア細胞ならば、移植した場所ですぐに働き始め、ALSの進行を食い止められる可能性があります」 |
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アルツハイマー病の研究にも新たな視点を提供
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アルツハイマー病やパーキンソン病も、神経細胞が徐々に死んでいく神経変性疾患だ。「従来、ALS以外の神経変性疾患の研究も、ほとんどが神経細胞だけに注目したものでした。私たちがALSの研究で示した、異常になったグリア細胞からの毒性によっても神経細胞はダメージを受け死んでいくという事実は、ほかの神経変性疾患の研究動向にも大きな影響を与えています。ALSの研究によりグリア細胞を正常な状態に戻す治療薬が開発できれば、それはALSだけでなく、アルツハイマー病やパーキンソン病などほかの神経変性疾患にも効果を発揮する可能性が十分にあると思います」
グリア細胞を標的にしたALSの治療薬はいつごろ開発できるのか。「まずALSが進行するメカニズムを分子レベルで解明することが、私たちの使命です。そして、10年後には治療薬の効果を確かめる臨床試験が行われるように、研究を進めていきたいと思います」 山中ULたちは、切実な期待を背負いながら、ALSの克服に向けた基礎研究を着実に進めている。■ ![]()
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関連情報
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「ALSとミクログリア」『BRAIN and NERVE』2007年10月号
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「ALSの発症と進行は運動ニューロンとミクログリアにより規定される」『実験医学』2006年10月号
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もっと対話を 「理研サイエンスセミナー」での科学者との対談から 平野啓一郎 作家 |
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昨年11月から3回にわたって行われた「理研サイエンスセミナー」。このセミナーは、科学に縁の薄かった人々に科学の扉を開く目的で開催されたイベントであり、1999年に『日蝕』で芥川賞を受賞した作家の平野啓一郎さんに、文学者の視点から3人の理研研究者と対談してもらった。今回、平野さんにあらためて取材し、全3回のセミナーを振り返って理研や科学について感じたこと、考えたことを語っていただいた。 |
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まず、理研サイエンスセミナー全体のご感想をお聞かせください。
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平野:科学者と文学者は、基本的に遠いところで仕事をしていて、使う言葉が違います。それだけに今回、科学の分野の言葉をたくさん知ることができて、とても刺激的でした。
言い換えれば、現代は異分野の人と接するのが難しい時代だということです。その結果、科学知識については、われわれ科学の門外漢はインターネットや出版物から一方的に情報を摂取しているだけで、どの情報が信用できるのかが分かりにくくなっている。今回、じかに研究者に会って、お互いに疑問をぶつけ合って話すことの重要性を痛感しました。また、そこから共通のテーマが見えてくる可能性も感じました。 もう一つ、僕はニューサイエンス的な流行に対して警戒心を抱いています。一般の人は、学会でどんな議論がされていて、どの学説が説得力のあるデータによって支持されているのかを知らない。だから、マスメディアに露出している人が言っていることを、そのまま科学の世界の通説だと思ってしまう危険性があります。今回のように、現場で本当に面白い仕事をしている研究者が、一般の人の前に出てきて直接話すということが、いま非常に重要だと思いました。 |
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第1回目の「やっぱり誰かを愛したい〜言葉と愛に隠された秘密」をテーマとした、脳科学総合研究センターの岡ノ谷(おかのや)一夫チームリーダーとの対談はいかがでしたか。
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平野:第1回は最初だったこともあり、文学があいまいなところで議論している問題を、科学者はもっとすっきりと議論しているという印象を持ちました。また、岡ノ谷さんが普通の人に向けて説明する語彙(ごい)をたくさん持っていることにも感心しましたし、正直、話が通じなかったらどうしようと思っていたので、ほっとしました。
研究成果では、鳥の鳴き声が複雑に分節化されているという事実は初めて知りましたし、(交配が人工的に進められるため)家禽(かきん)化によってこそ複雑さがもたらされるという話も面白かったです。また、進化の前提は交配が生む多様性により種族が維持されていくことである、という解釈も新鮮でした。普段、われわれが“人間”とか“現代人”、“僕らの世代”といった言い方をするときに、多様性という観点は、ひとくくりにされて見えなくなっています。今後は、文学や哲学の分野でも、個体差の問題を考えなければならないと思いました。そういう意味でも刺激的でした。 |
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第2回目の発生・再生科学総合研究センターの上田泰己(ひろき)チームリーダーとの「1000年でも2000年でも生きたい〜体内時計が握る鍵」はいかがでしたか。
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平野:時間の問題は自分自身でも考え続けているテーマです。人の移動が活発になり、同じ場所にずっと滞在しながら時間を経験するという生活ではなくなった現代、またインターネットなどの技術の恩恵で、受信した情報を蓄積して時間をおいてから応答できるようになり、僕たちが時間の前後を緩く行き来して、複数の時間を経験しているような現代にあって、体内時計がそうした時間をどう受け止めているのかということに興味がありました。ですから、中心的な時計がありながら複数の時計が全身に散らばっていて、互いに調整しながら機能しているという話がとても面白かったですね。
体内時計のこの仕組みで思い起こされるのは、やや飛躍しますが事実の伝播(でんぱ)ということです。例えば科学では、研究がメディアを通じて啓蒙(けいもう)的な知識として広まっていくほど、もともとの研究とは距離が出てしまう。ですから、個々の体内時計が中心的な時計と常に調節をし続けているように、一般的な知識も、大元となっている研究の話と折り合いをつけていかないと、オカルトに堕落する危うさがある。今回、体内時計というよく知られている概念について進められている研究の実状を、研究者の上田さんはずいぶん明確に語られていました。聴衆にも誤解なく研究の本質が伝わったと思います。 |
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免疫・アレルギー科学総合研究センターの谷口克センター長との第3回目の対談「私のことが知りたい〜自己と非自己の境界線」はいかがでしたか。
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平野:アイデンティティーの問題は、どうしても脳と言語秩序を中心とした話として考えがちです。しかし、人間の身体、つまり胸腺(きょうせん)を中心とした免疫システム自体が持つアイデンティティーがあるという話は見落としがちな点であり、再認識しました。脳のシステムの方は、“徹底した排除の論理”を拒絶して他者を受け入れることができる。一方、免疫のシステムは排除のシステムがはっきりしている。身体は他者を受け入れないその免疫のシステムで維持されているという事実は注目すべき点ですね。
また、無駄のおかげであらゆる事態に対応できるという話が出ましたが、結局、無駄がないと、物事はうまくいかないのではないでしょうか。例えば表現活動が文学と美術、音楽の3分野くらいしかなかった時代には、3分野に振り分けられる人数が多くなる分、構成員は多様性に富んで、その中に優秀な人が含まれる可能性も高かった。しかし、ジャンルが細分化されると、振り分けられる人数自体が減って構成員の多様性が貧しくなります。文学でいえば、世の中に起こったある事象を文学が引き受けようとしても、ジャンルの細分化により構成員が減ると、その事象を引き受けられる優秀な人材はいなくなるおそれが出てきます。あるジャンルが無駄を内包しながらも多様性を備えているというシステムは、現代では実現が難しくなっているだけに大変興味深く思いました。 またある時期、遺伝が身体的特徴をすべて決めるようにいわれていましたが、免疫システムが環境によって形成されるということを考えると、人間という個体をつくっているのは結局偶然ではないか、と思えてきます。遭遇するさまざまな偶然の一つを引き受けて生きていかなければならないとなったときに、遺伝的な条件以上に人間の個体間の差が大きくなってくる。これまで“人間”という大きなくくりで見てきたことも、遺伝、環境、免疫によって起こる個々の事象を丁寧に見た上で、一人の人間がおのおのの人生を、多くの人間と社会の中で共に生きていく、という考え方で問題をとらえる段階にきていると思います。 |
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理研に対するご意見を聞かせていただけますか。
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平野:これまでは基礎研究をしている科学者は、もっと遠い世界で仕事をしている人というイメージでしたが、今回のイベントを通じてもう少し人間味を感じるようになりました。
基礎研究については、哲学の分野も、大学の行政法人化に伴っておろそかにされる傾向にあります。しかし、その傾向が進むと、そのジャンルが行き詰まっていきます。僕たちがさっぱり理解できないような研究が着実に行われているということも重要ではないのでしょうか。 ただ、研究者が一生をかけてどれだけのリスクを背負って仕事をするかというのは大きな問題でしょう。自分の人生が立ち行かなくなってしまうほどのリスクを背負わなければならないとなったら、リスクを回避したくなるのは当然です。そうなったら、例えば文学の分野では、取り込まれるテーマが限られてきて、そのジャンル自体がやせてしまうという結果を招く。ですから、社会がどこまでそういうリスクを許容して、ある程度の猶予期間を持って失敗を寛大に見ることができるか、これは科学の分野でも文学の分野でも必要だと思います。 |
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──
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どんな科学に興味がありますか。科学にどこまで期待しますか。
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平野:いま興味があるのは、火星や宇宙工学ですね。火星のきれいな写真が見られるようになり、リアリティーが感じられるようになってきましたから。
躁うつ病にも興味があります。しかし、解剖学的な見地からどこまで解決されるかという点は疑問に思っています。どんな環境でどんな言葉にからめ捕られて発症してしまったのか、という人文系のアプローチも必要でしょう。ある一つの事象に対して、多様な切り口でいろいろな事実が明らかにされますが、各分野で短絡的な結論を出すべきではなく、すべてを総合して丁寧に見ていく必要があります。それは大変デリケートな作業になるでしょう。つまり、各分野での探求は厳密さを失うべきではないが、対話の可能性を確保し、それによって埋められる部分をもっと重視すべきではないかと思います。 では具体的に、どう対話の可能性を確保するか。現代は一芸に秀でた人間が有用視され、どうしても人間が断片化されるという傾向は否めません。そして、分断化された人間同士は、ほうっておいても自然には混ざり合いませんから、今回のセミナーのように一定の場を設定して、お互いが交渉できるような経路を確保しておくという手段が重要だと思います。 |
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──
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ありがとうございました。■
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ナデシコは紅色やピンクのかれんな花を咲かせ、「大和撫子(やまとなでしこ)」という言葉もあるように、日本の象徴的な花である。北興化学工業(株)とナデシコ育種家の共同グループは、これまで、わい性*のナデシコ「オリビアシリーズ」8品種を生み出している。しかし、花色が白一色の品種をつくり出すことはできなかった。この難問に北興化学工業と理研仁科加速器研究センター生物照射チームは、重イオンビームによる突然変異誘発法を使って挑戦。同チームはこの方法で、すでに新品種のペチュニアやバーベナ、トレニア、さらには淡黄色のサクラ「仁科蔵王」などをつくり出している。そして今回、草丈が約10センチメートルとわい性で、四季咲きなどの特徴をそのまま受け継いだ白一色のナデシコを生み出すことに成功した。この成果について阿部知子チームリーダーに聞いた。 |
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──
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ナデシコはどんな植物ですか。
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阿部:秋の七草の一つで、広く世界に生育しています。日本には固有種や自生しているものが4種あります。江戸時代には、中国から伝来した「セキチク」やその改良品種といわれる「トコナツ」、日本在来種の「カワラナデシコ」と「セキチク」の雑種を改良した「イセナデシコ」などで多くの園芸品種がつくられ大流行しました。
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──
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ナデシコの品種改良は今も盛んなのですか。
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阿部:最近では北興化学工業(株)と育種家が、交配や枝変わりなどで、わい性ナデシコ「オリビアシリーズ」として8種もの新品種を生み出しています。しかし、従来の手法では変異に限界があり、わい性などの優れた特徴をそのまま残して、特に花が白一色の品種をつくり出すことができませんでした。そこで私たちは、重イオンビーム照射による突然変異誘発法を使って新品種作成に挑みました。
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──
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なぜ重イオンビームを使うのですか。
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阿部:突然変異をつくるには、ガンマ線やX線を照射する物理的な方法や、薬剤を使う化学的な方法があります。重イオンビーム照射は、これらの方法に比べて、植物の生存に障害を与えない処理条件で遺伝子の変異率が高いという特徴があります。さらに、傷付く遺伝子の数も少ないため、遺伝子の突然変異の固定に必要な期間が短いという特徴もあります。私たちはすでにこの方法で、ダリア、ペチュニア、バーベナ、トレニアなどで新品種をつくり出し、商品化しています。昨年発表した淡黄色のサクラ「仁科蔵王」は、大きな反響を呼びました。
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──
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具体的にはどんな実験をしたのですか。
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阿部:新品種のもとは、わい性ナデシコの「オリビア」シリーズの一品種、「オリビア ホワイトアイ」です(写真左)。主茎と葉の間から出てくる新芽「腋芽(えきが)」を組織培養して、理研リングサイクロトロンで発生する炭素イオンビームを照射し、発根後、温室で育てました。花弁の赤い模様をなくすだけなので簡単だろうと思っていたら、花色は変わりやすく60%程度の個体の花色が変わるのですが、そのほとんどがピンク色でした。これは先祖返りと思われます。その中である特定の線量を照射したナデシコの腋芽からのみ、健全な白一色の花が咲く変異体ができたのです。そして、白一色の花が咲いた枝のみを切り取り、挿し芽で増殖しました。この選抜と評価を3回繰り返した結果、株全体で白色の花が咲く系統をつくることに成功しました(写真右)。 |
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──
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今回の研究で特筆すべきことは。
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阿部:今回、白い花の変異体ができた照射線量は、これまでの重イオンビームの照射とは異なり、照射後の生存率が低下する中線量の領域でした。この領域も、希少な突然変異獲得に有効であることが分かりました。
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新品種「白いナデシコ」の特徴は。
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阿部:花が白一色、花弁は5枚、四季咲き、耐冬性、そして草丈は約10センチメートルと低く、ガーデニングに最適です。「オリビア ピュアレホワイト」と命名し、2007年12月に品種登録出願しました。2008年3月からカネコ種苗(株)と提携して販売を開始し、4月末には完売してしまいました。10月に新しい苗の販売を始めます。読者の皆さんもぜひ、このナデシコを育ててみてください。■
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革新的電子ビーム源で 挑戦し続ける研究者
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フォトカソード電子ビーム源の開発、それが西谷智博基礎科学特別研究員の研究テーマだ。フォトカソードとは、光を金属や半導体に当て電子を真空中に取り出すもの。西谷研究員は、高輝度と高スピン偏極度を併せ持つ半導体タイプのフォトカソード電子源を開発している。問題となっていた耐久性能をはるかに向上させることにも成功し、高性能高輝度電子源として注目を集めている。また、電子顕微鏡に用いる高スピン偏極・高輝度性能フォトカソードのアイデアを提案し、2008年2月、電子顕微鏡の研究・開発で優れた実績を挙げた若手研究者に贈られる「風戸研究奨励賞」を受賞。デザインコンペに挑戦し、ゴスペルを歌い、バンドではベースを弾く、多彩な才能を持つ西谷研究員の素顔に迫る。 |
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「将来何になるかと聞かれると、実家の大衆食堂を継ぐと答えていました」という西谷研究員。「小学生のときは勉強が嫌いで、理科と算数以外の成績はひどかった。高校生になると、身近な現象を法則や方程式で理解できると分かり、物理や数学に好奇心を抱くようになりました。虚数や無限、光の波動や粒子性など、納得できないと、よく先生に突っ掛かっていましたね」。NHKの「アインシュタインロマン」を見たのは、そんな時期だった。「光速度不変の原理を知り、そんな考え方がありなのかと驚きました。このとき“研究者”という職業が、将来何になるかの答えになったんです」 |
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◆
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その後、東京都立大学から名古屋大学大学院へ。「所属研究室は国際リニアコライダー(ILC)計画(当時はJapan Linear Collider計画)に参加し、電子の回転の向きをそろえたスピン偏極電子源の開発で貢献していました。この計画では、電子と陽電子を加速して衝突させ、宇宙誕生時に近い超高エネルギー状態で素粒子実験を行います。“電子源こそ人間がつくり出す宇宙の源になるのかな”と考え、この研究室で研究したい!と思いました」。西谷研究員らは、ガリウムヒ素の半導体にリンを混ぜた超格子半導体により、90%のスピン偏極度を達成。ILC用の電子源の最終候補にもなっている。博士課程修了後、日本原子力研究開発機構へ。そこでは、困難とされていたフォトカソードの耐久化に取り組み、従来の性能をはるかに超えるフォトカソード開発に成功。そして2007年4月、理研に籍を移し、2008年に“風戸研究奨励賞”を受賞した。主に加速器に使われていた半導体フォトカソード電子ビーム源を電子顕微鏡へ応用するアイデアが評価されたのだ。「このフォトカソードは、大きな電流と高い指向性、可視光による形や時間の構造制御、スピン偏極まで可能な電子ビーム源です。この電子ビーム源で画期的な電子顕微鏡が実現するんです! でも、反響はいまひとつ……」と嘆く。「前例がなければ自分でやってみるしかない。電子顕微鏡とまではいきませんが、この電子ビーム源を用いた観測装置を自作し、それを材料に宣伝して回ろうと思っています」 風戸賞に応募したのは、賞金の100万円を研究費に充てたかったから。「とても助かりました。学生時代には生活費を稼ごうと、多くのデザインコンペに応募していたんです。落選ばかりでしたが、東京・原美術館の“バックミンスター・フラーとの対話”では最終選考まで残りました」。フラーは米国の建築家・数学者で、サッカーボール形のドームを設計したことで有名だ。C60などの炭素分子が“フラーレン”と呼ばれるのは、彼の名前に由来する。西谷研究員が提案したのは、フラーレン形のテーブルチェアセット(図)。「フラーレンを広げると、六角形部分がテーブル、五角形部分がイスになります。開き方は約800万通りもあり、あらゆる平面空間で使えます」 光で電子を取り出せるフォトカソード電子源の用途は、材料加工、医療診断、宇宙での利用など、そのデザイン作品のように何通りにも広がっているという。西谷研究員の電子源が私たちの身近で活躍する日が来るかもしれない。■
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神戸研究所、一般公開を開催
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神戸研究所は5月10日、施設を一般公開し、展示や工作教室など多彩なプログラムで日ごろの活動を紹介しました。林 茂生グループディレクター(発生・再生科学総合研究センター 形態形成シグナル研究グループ)が「発生と再生の秘密を教えてくれる小さな生き物、昆虫」、鈴木正昭副プログラムディレクター(分子イメージング研究プログラム)が「分子に目印をつけて体の中を観察しよう」と題して講演。また、実験動物の展示や身近にある放射線の測定、「発生と病気」などをテーマとした展示などで、来場者は研究者の解説に熱心に耳を傾け、研究現場の雰囲気を楽しんでいる様子でした。このほか、来場者同士で科学について気軽に語り合う「おしゃべりカフェ」では、「自分の遺伝情報。知りたい? 知りたくない?」というテーマで、参加者が活発な議論を繰り広げていました。冷たい雨が降るあいにくの天気でしたが、1000名を超える来場者がありました。 |
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サイエンス・スクール「星空巡業・元素紀行」を開催
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理研仁科加速器研究センター広報委員会は、女子高校生を対象に一泊二日のサイエンス・スクール「星空巡業・元素紀行」を5月3日〜4日、天文学会男女共同参画委員会と協力して主催しました。県内の女子高校生の理系進路選択を支援することを通じて、次世代の人材の育成・啓発、地域への貢献を目的として開催したものです。自分たちが今、高校生だったら参加したいと思うような企画にすることを念頭に、講義や実習、施設の見学はもちろん、研究者と高校生との交流に最大限配慮しました。写真は参加した高校生18名とスタッフ一同です。高校生の笑顔と目の輝きから、このサイエンス・スクールが大成功であったことがお分かりいただけると思います。開催後には“私も指導してくれた研究者の皆さんのように格好良くなりたいので今やるべきことを頑張る”“学ぶ意味が分かった”“将来の夢が広がった” などの感想が数多く寄せられました。講義のストリーミング配信や、出版化の企画も進行中です。詳細は、仁科加速器研究センターのホームページ(http://www.rarf.riken.go.jp/)をご覧ください。 |
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新研究室主宰者の紹介
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新しく就任した研究室主宰者を紹介します。 1:生年月日、2:出生地、3:最終学歴、4:主な職歴、5:研究テーマ、6:信条、7:趣味 |
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基幹研究所 発生システムモデル化研究チーム チームリーダー 大浪修一(おおなみ しゅういち) |
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1:
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1968年10月15日
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2:
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東京都
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3:
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総合研究大学院大学生命科学研究科博士課程
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4:
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慶應義塾大学
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5:
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分子細胞生物学と計算科学を融合した計算発生生物学、発生システム生物学
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6:
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楽しむ
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7:
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旅行、食
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支援チーム チームリーダー 秋元彦太(あきもと ひこた) |
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1:
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1959年6月17日
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2:
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京都府
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3:
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大阪市立大学大学院理学研究科博士課程
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4:
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東京大学物性研究所、ライデン大学(オランダ)、マサチューセッツ大学(米国)
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5:
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低温での低次元ヘリウムおよび電子系
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7:
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ハイキング、サイクリング、ドライブ
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田中メタマテリアル研究室 准主任研究員 田中拓男(たなか たくお) |
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1:
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1968年3月28日
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2:
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兵庫県
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3:
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大阪大学大学院工学研究科博士課程
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4:
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大阪大学大学院、理化学研究所
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5:
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プラズモニック・メタマテリアルを用いたナノフォトニクス/ナノプラズモニクス
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6:
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優れたものは美しい
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7:
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読書、インラインスケート
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脳科学総合研究センター 適応知性研究チーム チームリーダー 藤井直敬(ふじい なおたか) |
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1:
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1965年11月23日
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2:
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広島県
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3:
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東北大学大学院医学研究科博士課程
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4:
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東北大学医学部大学病院、マサチューセッツ工科大学(米国)
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5:
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適応的脳機能の解明
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6:
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笑門来福
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7:
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書道
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黒田研究ユニット ユニットリーダー 黒田公美(くろだ くみ) |
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1:
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1970年3月21日
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2:
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東京都
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3:
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大阪大学大学院医学系研究科博士課程
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4:
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大阪大学、McGill(マギル)大学(カナダ)、理化学研究所
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5:
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哺乳類の親子関係(子育てと愛着)の神経機構
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6:
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人生何事も経験
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7:
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赤ちゃんや子どもと遊ぶ
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Launey研究ユニット ユニットリーダー Thomas Launey(トーマス ローニー) |
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1:
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1970年2月3日
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2:
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ル・アーブル(フランス)
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3:
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マルセイユ大学理学博士
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4:
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理化学研究所ポスドク
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5:
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ニューロン内でのタンパク質による情報伝達機構
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6:
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Expected the unexpected
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7:
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息子と遊ぶこと、電子ギズモづくり
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動物実験支援ユニット ユニットリーダー 高橋英機(たかはし えいき) |
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1:
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1970年2月25日
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2:
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神奈川県
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3:
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筑波大学大学院医学研究科博士課程
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4:
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エーザイ(株)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)、理化学研究所
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5:
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動物施設の維持管理および遺伝子組換えマウス作製、マウス胚操作、マウス行動解析など
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6:
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元気出していきましょう!
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7:
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居酒屋巡り
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生体物質分析支援ユニット ユニットリーダー 横沢英良(よこさわ ひでよし) |
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1:
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1944年11月3日
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2:
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長野県
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3:
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東京大学大学院理学系研究科博士課程
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4:
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北海道大学
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5:
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タンパク質分解と翻訳後修飾
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6:
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一生勉強一生青春
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7:
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絵画鑑賞
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機能的磁気共鳴画像測定支援ユニット ユニットリーダー 程 康(チェン カン/Cheng Kang) |
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1:
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1962年8月30日
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2:
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重慶(中国)
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3:
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大阪大学理学博士
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4:
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中国科学院、理化学研究所
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5:
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認知機能マッピング
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6:
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Good things will happen
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7:
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写真、絵画、音楽鑑賞
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バイオリソースセンター マウス表現型知識化研究開発ユニット ユニットリーダー 桝屋啓志(ますや ひろし) |
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1:
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1968年3月26日
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2:
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大阪府
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3:
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総合研究大学院大学生命科学研究科博士課程
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4:
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理化学研究所
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5:
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マウス遺伝学関連情報を統合する情報フレームワーク構築
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6:
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おのが命を救わんと思う者はかえってこれを失う
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7:
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自転車トライアル
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植物科学研究センター 適応制御研究ユニット ユニットリーダー 瀬尾光範(せお みつのり) |
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1:
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1974年4月28日
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2:
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群馬県
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3:
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東京都立大学大学院理学研究科博士課程
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4:
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理化学研究所、日本学術振興会海外特別研究員
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5:
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植物ホルモンの生理作用機構、種子の機能制御、植物の環境応答
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6:
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継続は力なり
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7:
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競馬、ラーメン
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オミックス基盤研究領域 LSAシステム運用ユニット ユニットリーダー 森田良治(もりた りょうじ) |
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1:
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1962年6月29日
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2:
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千葉県
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3:
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杏林大学大学院保健学研究科博士課程
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4:
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理化学研究所、インビトロジェン(株)
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5:
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ゲノムやトランスクリプトーム解析技術を基盤とした技術支援体制の確立
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6:
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「あなたに会えて良かった」と言われる生き方をする
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7:
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ウォーキング
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一家に1枚光マップ 河田 聡 KAWATA Satoshi |
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内容は、私の個人的な思い入れによる書き下ろしである。教科書や専門書に載っていないような新しい(珍しい)説明が並ぶ。電波も赤外線も可視光も紫外線もX線も同じ「光」であることを説明するために、「光の起源」というコラムをつくった。光子ロケットと彗星(すいせい)の話(放射圧)、太陽の色の変化や空の青色の話(散乱)、タマムシの羽やコンパクトディスクの表面の構造色(回折)、油膜やホログラム(干渉)などの話もコラムとして載せた。「Suica(スイカ)」や「PASMO(パスモ)」が電波であることや電子レンジはマイクロ波であること、CD、DVD、ブルーレイディスクも光でありその色が異なることなども記した。紅葉の色の変化やステンドグラスの色、昆虫や動物が見る色なども示した。一般の人が興味を持つ「光」の話は尽きることがない。「光」にかかわるノーベル賞を並べてみたら、なんと36件も見つかった。ここ10年で6件ある。科学はいつも「光」にエネルギーをもらって、進歩を遂げてきたことが分かる。理研播磨研究所で稼働中の大型放射光施設「SPring-8」、同研究所に建設中の「XFEL(X線自由電子レーザー)」、そしてX線天文衛星などについても書いたが、一般の人にどの程度理解してもらえるのだろうか。 配布開始後、たくさんの人から反響をいただいている。読売新聞は、「ミツバチの目で見た花の色」が気に入ったらしく、“金を極微の粒にすると何色に変わるか、その答えは光マップにある”と書かれている。朝日新聞は、携帯電話やDVDに興味を持ったようだ。中部地方の中日新聞は、「光の物語・旅しよう」という特集を組んで「日没時の太陽に一瞬見えるグリーンフラッシュ」を取り上げていただいた。 それぞれの家庭の居間か子ども部屋(あるいはトイレ)にこの地図をはっていただき、訪れたことのない国の町に思いをはせるように、さまざまな「波長」を訪問し、光の物語を楽しんでいただければ幸いである。この地図が、多くの人たちが光に和する(和光市!)ことのきっかけになれば幸いである。理研の広報室には大変お世話になった。お礼申し上げたい。 ■ ![]() |
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