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原子核物理の超難問“三体力”に挑む研究者 |
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原酒
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野依良治理事長× 黒川清内閣府特別顧問(前 日本学術会議会長)
新春対談 |
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司会:理化学研究所(理研)も、ここへきて“イノベーション”を非常に意識した活動をしています。理研の中の基礎研究者にも、対外的にもイノベーションの展開をということで、理研を叱咤(しった)激励していただければと思います。まずイノベーションについてお話しいただきたいと思います。
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日本のイノベーションの現状と問題
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野依:国も巨額の予算を投入して基礎研究を推進していますが、なかなか社会的かつ経済的な効果の創出に結び付かない。これは日本だけではなくて、世界的な傾向ですが、その理由は三つあると思います。まず、基礎科学があまりに細分化してしまって、骨太の研究成果が少なくなっていること。二つ目は、基礎研究から産業界への橋渡しの問題。三つ目はかなり深刻なことですが、産業活動の相当の部分が社会的受容性を失いつつあるのではないかという懸念です。研究と技術開発の結果が、社会に対して利益だけではなく、リスクをもたらしているという現実があります。それを回避するためにも、研究者と企業人とが共通の価値観を持って、より包括的な活動を行う必要があると思います。 黒川:それぞれの国が、科学技術の基礎研究そして応用研究は非常に大事であると認識し、国の投資を増やそう、というのがすべての基本だったと思います。ところが、その流れの中では、イノベーションという言葉はほとんど出ていないのです。1994年ごろから突然増えたんですね。急に増えた理由は二つあると思います。 一つ目は、日本だけでなく世界中が科学技術にさまざまな大きな投資をした結果、経済成長して、社会が変わり、人類はこの100年で4倍の66億人になった。けれども、本当に良い社会をつくってくれているのかということ。二つ目は、産業、経済は確かに大事だけれども、地球温暖化、環境破壊、水不足などグローバルな問題について、情報が急激に広がり世界中の人が知るようになった。それらの問題を科学技術は果たして解決してくれるのか、という心配ですね。 野依:そうですね。イノベーション、産学連携で産業技術を創出すると言っているけれども、もっと大事なことは、各種ライフラインの確保。水、食糧、エネルギー、環境、感染症、自然災害、こういった問題だと思います。これらの問題の研究を誰が担うか。これは、採算が取れるとは限りません。そういうところに、やはり独立行政法人がかかわっていかないといけない。もちろん、これらは日本の中だけではできません。国際協調、その観点が必要だと思います。 |
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理研がイノベーションに貢献できること
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野依:理研も基礎研究を産業界にまで届くように展開しなければいけません。そのためにはリレー競技に例えて、バトンを産業界に渡すための“バトンゾーン”が必要だと考えてきました。これからは、基礎−応用−開発というリニアモデルをパラレルモデルに変えて、併走する状況が必要と考え、現在、いろいろな連携プログラムを実施しています。相手が国内にいなければ、海外の企業との連携も考えます。2007年から、企業と連携してイノベーションを生み出すことを目的に、企業名をセンターの名前に入れた「連携センター制度」を立ち上げました。将来を楽しみにしています。 バトンゾーンをつくることによる最大の効用は、人材の育成です。企業人と理研人は、背景も本来の使命も違うが、具体的な共通の課題に取り組むことによって触発され、新たな視点あるいは価値観が生まれてくる、これが大変大きいと思っています。 黒川:米ソの冷戦が終わった1991年に、第二次世界大戦後を支配してきた大きなパラダイム(枠組み)がなくなって、突然、マーケットの“グローバリゼーション”という言葉が登場し、増えたマーケットをどこが取るかという話が出てきました。グローバリゼーションは、避けられない流れです。この流れの中で、日本はバブル経済の頂点でした。その後を見ていれば明らかですが、日本のガバナンス(統治)、研究、産学連携は果たしてやっていけるのか、国内のニーズだけ見ていても仕方ありません。それが今、日本の一番の弱さになっています。この10年、アジアのほかの国は、一気に新しい視点を取り入れました。米国で教育を受けたPh.D.(博士)、M.D.(修士)がたくさんいて、グローバルなビジネス展開をしています。その差はものすごいですね。 野依:同感です。日本の産業界の特徴は、ものづくり、単一技術に強い一方で、アンブレラ型の総合技術の開発は不得手です。例えば、携帯電話の部品は相当な部分が日本製ですが、電話機自体はまったく世界競争力を持ち得ない。内需にとどまっています。社会的な価値を生み出すイノベーションの創出で、世界規模の市場を獲得する製品を開発するとなれば、技術開発者や責任者たちはグローバルな社会、文化に通じていなければなりません。企業も優れた外国人をもっと積極的に登用し、一方で日本の若者を欧米、アジア、中国などにどんどん送り出す必要があります。ですから、私もかかわっていますが“教育の問題”、ここからやらないといけないと思います。 黒川:おっしゃる通りです。日本には優秀な技術者はたくさんいます。もちろん、大企業に多いのですが、中小企業にも素晴らしい人がいます。日本は“ものづくり”が得意といわれますが、原理は米国人が考えています。それをひたむきにつくって磨き上げる技術者が、中小企業にいるんです。ところがその匠(たくみ)の技をどう活かすか、それを世界のマーケットといかに結び付けるか、これが弱い。新しい組み合わせが誕生したら、とんでもないことが起こる可能性があります。企業の研究者が大学の研究者と組んで面白いことをやるとか。これは一人でやる必要はない。それぞれの役割で能力の高い、経験のある人たちでやる、これが大事なのです。 それと、高い志、社会的な正義、あるべき姿だと思ったことに突っ込んでいく情熱がない限り、何か新しいものはできないですね。研究者も美しい姿を見つけたいとか、そういう情熱がすごく大事です。 野依:そのためにバトンゾーンをつくって、違った背景を持つ研究者が一緒になって一生懸命やることが大事です。それをだんだん国際的に広げて大きなフィールドにしていくことが。黒川先生は、全世界をまたにかけて、多彩に活動していらっしゃると感心しているんですよ。 |
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国際化――人材は宝
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司会:世界のグローバリゼーションにいかに対応していくか。理研は野依理事長のイニシアチブで、外国人研究者の割合(11%)をさらに増やし、一方では理研から海外へどんどん研究者を輩出しようと、いろいろな試みをしてきました。野依:「公共の利益が自己の利益を決定して初めて社会的に正統な存在になる」という考えがあります。理研は公的機関ですから当然その立場にありますし、理研に所属する人たちも、この考えを共有してほしいと思っています。国内のみならず、国際社会の信頼に応える存在として、さらに広く人類社会のために貢献したいと考えています。そのためにも理研の国際的な認知度を高めることが必要で、人材確保は不可欠です。脳科学総合研究センターや免疫・アレルギー科学総合研究センターなどでは、サマープログラムをつくって短期的に海外の学生を受け入れています。また、世界における優れた若手人材を育成する制度として「国際特別研究員制度」を創設しました。積極的な人材確保と育成を始めたところです。 黒川:人材の育成がすごく大事だと強調され始めたのは1990年くらいからです。当初、人材を表す言葉として“ヒューマンリソース”が使われていましたが、ここ10年の間に“ヒューマンキャピタル”という言葉が使われるようになってきました。キャピタルとは財宝の“財”です。 ところが、日本の大学はなかなかオープンにならないですね。今、世界中の大学が学部教育にいかにして良い人材を集めるか、そのことにものすごく苦労しています。大学院と違って学部の学生には、将来の政治家、研究者、産業界の人などいろいろな人が集まっています。卒業後も学生時代と同じように分け隔てなく付き合える人間関係を、高校か学部で築かないといけないという意識が世界的にあります。マサチューセッツ工科大学(MIT)のすごくクリエイティブな「メディアラボ」でも、同じ価値観や同じ文化的な背景を持った研究者を、たとえ彼らが優秀だとしても一ヶ所にたくさん集めるのは最悪、いかに違う背景を持った人を集めるかが大事だと言っています。 野依:特に若い人は将来の競争相手、協力者がどういう実力を持っていて、どういう文化を持っているかを知らないと駄目ですね。純粋培養はひ弱で腐敗するだけです。 黒川:終身雇用、年功序列、そこで昇進した人はトーナメントで勝ち続けた人、一回負けたら駄目という人です。一番強いのは、リーグ戦で勝ち残った人でしょう。つまり、失敗にくじけない人、失敗を活かした人。例えば検索サイト「Google(グーグル)」やゲーム機「Wii(ウィー)」を開発した人たちが、そうです。彼らは、とんでもない価値を生み出しました。 野依:新しい価値。やはり創造性を育む文化が必要で、異端の勧め、前衛の勧めが必要だと思います。独創的であるというのは、初めは異端に決まっている。少数派でなければいけないのです。 黒川:違っているというのは、すごく大事ですね。グローバルなマーケットがあって、グローバルに自分の価値観を共有できる人、あるいはグループがどこかにいます。例えば、戦後のソニー(株)の盛田昭夫さん。世界で一番になるんだ、という志でビジネスをする人がいることが大事なんです。日本国内にマーケットがあるからといって、そこに安住しないで世界で一番になりたいという人が、めったにいないところに情けなさを感じます。 野依:日本の場合、国内の相対的評価に甘んじていたんです。理研は年間2000報を超える優れた研究論文を発表しています。この中で飛び切りの良い成果を世界中に知ってもらおうと『RIKEN RESEARCH』という冊子とホームページをつくって配信しています。非常に評判がいいようです。 黒川:イノベーションの閣議決定※1には、人材について“出る杭(くい)”を伸ばすという表現が4ヶ所も出てきます。そんな文章が入っている閣議決定は前代未聞ですね。“出る杭”がいかに大事か、ということです。 教育は、次の世代を育てることですから、学校の先生は社会の宝です。すごく大事なのは、先生をやる、研究をする、ビジネスをするかは人によって違いますが、情熱があって、その情熱を誇りを持って追求しているかどうかです。その職業への情熱と誇りを持っている人を、周囲の人々や社会が「立派な人だね」と認め、それがまわりの社会に波及していくことで健全さを保った、もっと明るい社会になると思います。 野依:教育は世代を継承していくために、一番大事なことですね。ところが大学は、先生たちが研究者であっても教育者ではなくなってきているのが問題です。大学は学生を育てるところですが、理研はユニークな研究者を育てて世界に向かって輩出しなければいけないと思っています。 |
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理研に期待すること
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司会:理研は独立行政法人という枠組みの中で行政改革の対象になるなど、いろいろな議論が起きています。次の世代を担う研究者に対して、理研がもっともっとやるべきこと、理研に期待することをお話しいただければと思います。黒川:まずは人づくりです。一人ひとりの研究者に、3年くらいの十分な期間を与える。上の人が若い研究者を自分の手足のように思っていることがありますが、それはまずいですね。ロバート・ホロビッツ※2は「若い研究者の良いところをどうやって伸ばすか、いかにその機会や場所をつくるかに一番、力を入れている」と言っていました。彼の先生のシドニー・ブレンナー※3も「大学院の学生で採用できるのは毎年せいぜい一人。毎日2時間みんなと話さないと良い人は育たない」と。若い人たちは、そういう場での話に鼓舞されて、3年か4年でほかのところに移ってしまう。そうして育てられた人たちの層の厚さは、すごいと思いますね。 日本の若い人たちもとても可能性があるので、ぜひ理研に行きなさいと言いたいですね。その人たちのために新しい分野をつくってくれるといいですね。 野依:理研は5年の中期計画をつくっています。私は、理研はサステイナブル※4でなければ駄目だと思っています。もちろん国の施策を担う戦略的な研究を組織的に推進することが主ですが、理研のような研究開発型の独立行政法人では、個々の研究者の自由な発想による学術研究も大事です。それを通して、若手の研究者の育成、教育機能を非常に重視してやっていかないと、たとえ直近の5年間で成果が出てもその次につながっていきません。 黒川:おっしゃる通りです。論文の発表数や引用数で評価するのではなく、5年、10年の期間で見て、「理研には誰々がいた」ということが大事です。理研は世界の研究社会で既にブランドになっています。理研で過ごした時期が自分の糧(かて)になっているという研究者が、いかに増えるかです。今までのような日本の内向きな人材登用では、この人は伸びる、スターになる、といった話がなかなか見えてきません。難しいとは思いますが、長期的には理研は常に世界的レベルの人たちを輩出していると、世界に分かってもらうことが大事ですね。 野依:今、理研を外からながめると、国のプロジェクトを戦略的に進めているように見えると思いますが、実はほとんどの課題が、これまで地道に質の高い学術的な研究を継続してやってきたことに基づいています。国から研究課題を与えられているのではなくて、実のところは理研側が提案しているんですよ。ここが非常に大事なことで、自律的な活動が重要な理由です。 黒川:研究は成果を出すことが大事ですが、成果を出すのは人。ある人が成果を出すと、そのラインのことを連綿と続けていくだけになる。だから新しいシーズを出してくる人がとても大事なわけですね。 野依:そこでやはり大事なのは、多様性、流動性であり、ダイナミズムです。これはもっともっと強調したいですね。 黒川:そうですね。次世代を担う世界中のいろいろな同世代の人、あるいは5歳くらい若い人たちと切磋琢磨(せっさたくま)したら、いかに競争相手が多いかが分かりますからね。問題がないわけではありませんが、私は理研にはすごく期待しています。理研に入ったら2年くらいは、どこか国内外のほかの研究室と共同研究して切磋琢磨してほしいですね。 野依:理研究者もみんな、内向きなんですよ。外向きと見える場合でも、数百人しか仲間がいないような自分の専門のアカデミーとしかつながっていません。もっと広く見なければいけないですね。私は“際(きわ)”というのが大事だと思っています。“学際”が大事でしょう、それから“国際”も大事ですよね。あと“社会際”というか、社会にもいろいろな分野があるわけですから、その“際”を大事にしないといけないと思っています。 黒川:それは野依先生がおっしゃった、異業種とか、異なった価値、異なった考えの人をたくさん雇い、一緒に仕事をし、いかに付き合うかという問題ですね。自分の考えとは違った考えに出会うことですね。 野依:黒川先生とは専門も違いますが、いつもお目にかかって触発されています。本日はありがとうございました。■ |
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超高速粒子を止めて、誰も見たことの
ないものを見る |
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「最近の物理学は、自然を拷問にかけてしゃべらせているみたいだ――理研に在籍していた朝永(ともなが)振一郎博士(1965年、ノーベル物理学賞受賞)は、かつてそう語ったそうです。これまでの物理学は、粒子をとにかく加速して高いエネルギーにすれば面白いことが見えてくる。そういう考えで進んできました。私たちの研究は逆で、高速の粒子を止めて、“自然のささやきにそっと耳を傾ける”という発想に基づいています」。山崎泰規(やすのり) 主任研究員は、研究室の方針をこう説明する。主なターゲットは、不安定な原子核や反水素だ。
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超高速粒子を1秒以内で止める
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まず、和田道治 先任研究員が中心になって進めている不安定な原子核の研究から紹介しよう。原子核は陽子と中性子からなり、陽子と中性子の数の組み合わせによって、さまざまな種類の原子核がある。ただし、自然界で安定に存在する原子核(安定核)は300種類弱。それ以外の原子核は、じきに壊れてしまう不安定な原子核(不安定核)だ。現在の原子核に関する理論は、安定核の知見に基づいて築かれてきた。「原子核の種類は約1万にも及ぶと理論的に考えられています。1万分の300の安定核だけを調べていても、原子核を正しく理解することはできません」と和田先任研究員は指摘する。1980年代に発明された方法で多数の不安定核種を加速器で人工的につくることができるようになった。その性質を調べてみると、従来の常識を覆す原子核の姿が次々と見えてきた。例えば、安定核では中性子と陽子は一様に分布しているが、陽子よりも中性子の数が極端に多い“中性子過剰不安定核”では、中性子が原子核の外側に広く分布しているものなどが見つかり始めた。今、原子核の常識は塗り替えられつつある。 理研では、次世代加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」を建設し、2007年に運転を開始した。RIBFはウランのような重いイオンを光速の70%にまで加速する能力を持ち、1000の新種を含む4000種類の原子核を生み出すことが期待できる。生み出されたばかりの原子核は超高速で、温度に換算して約10兆K。「私たちはそれを減速して止め、1秒以内に約0.01Kという極低温まで冷やし、周囲から何の影響も受けない状態にすることで、真の性質を精度よく測ろうとしています」 高エネルギーでつくられたあらゆる元素の原子核を極低温まで冷やす装置を開発し、さまざまな原子核の精密測定を行う――この研究計画は、「人の後追いのような研究は大嫌いなんです」と語る和田先任研究員たちが、世界に先駆けて1997年に提案したオリジナルなアイデアだ。いったいどのような仕組みで、10兆Kから0.01Kへの瞬間冷却を行うのか。 まず超高速の原子核を金属の板を通過させて減速させた後、長さ2mの大きなヘリウムガス容器にうち込み、その中で常温まで減速・冷却する。このとき、多くの原子核は1価のプラスイオンの状態。それを真空中に導き出し、“レーザー冷却”という方法で約0.01Kにする。「このとき、ヘリウムガス容器から真空中にイオンを導き出すのが大変なんです。電場をかけてイオンを素早く引っ張り出すのですが、単純な仕組みではすぐに容器の壁や電極にくっついてしまいます」。和田先任研究員は特殊な形状の電極(高周波カーペット電極)を開発して、この問題を解決した(図1)。「電極の表面に電場のバリアをつくり、小さな穴からイオンを真空中に導き出します。そのようなバリアをつくるために、電極の形状などをいろいろと試しました。失敗作で残骸(ざんがい)の山を築きましたよ(笑)」
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常識では考えられないものを見る
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これまで、主に不安定核とほかの原子核を高速で衝突させたときの現象を分析することで、不安定核の構造や性質などが調べられてきた。しかし、衝突のときに至近距離で働く力(核力)はまだよく分かっていない。従って、衝突現象を分析して得られたデータには、不確かな部分が残る。一方、不安定核を止めて極低温にまで冷やせば、レーザー分光など電磁気力を使った測定が可能になる。電磁気力の理論はすでに確立されているので、きちんと測定されたデータは疑う余地がない。「しかも、世の中で最も精度よく測定できるのは、レーザー分光で調べた原子の性質です。原子の性質の精密測定により、原子核の性質も分かります」と和田先任研究員は言う。例えば次世代の時間標準に用いられるような原子の「遷移エネルギー」は、レーザー分光により1000兆分の1(=10-15)という驚くべき精度で測定されている。
和田先任研究員たちは、RIBF以前の既存の加速器施設に冷却装置を導入し、不安定核であるベリリウム同位体のレーザー分光に、すでに成功している。今後、RIBFにSLOWRI(スローリー)(超低速RIビーム生成装置)と名付けた冷却装置を新たに建設して、新たに生み出された原子核の半径や構造、質量などを精密に測定する計画である(図2)。「誰も見たことのない原子核を、今までにない高い精度で測定します。私が一番期待しているのは、これまでの常識では考えられないもの、想像もしなかったことが見えてくることです。原子核にはたくさんの種類があるので、地道に一つ一つ調べることからまず始める必要があります」 |
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反物質の謎に挑む
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次に、山崎主任研究員が中心になって進めている反水素の研究を紹介しよう。反水素は、マイナスの電荷を持つ「反陽子」と、プラスの電荷を持つ「陽電子」からなる(図3)。反陽子や陽電子は「反粒子」と呼ばれ、陽子や電子など私たちの身の回りにある粒子とは、質量や寿命は同じだがプラスとマイナスが反対の電荷を持つ。陽子と反陽子、電子と陽電子が衝突すると、“対(つい)消滅”して光となる。
反水素のように反粒子からなる物質は「反物質」と呼ばれる。現在までの観測によれば、私たちの住む宇宙は物質だけからなり、反物質の世界は存在しないようだ。しかし、これは大きな謎である。宇宙誕生のビッグバンでは、まず光が存在し、光から粒子と反粒子が“対生成”されたと考えられている。現在の物理学の理論によると、このとき粒子と反粒子は同じ数だけつくられたはずだ。そうならば、粒子と反粒子はすべて対消滅して、宇宙は再び光だけの世界に戻ってしまったはずではないか。 何らかの理由で、反粒子よりもわずかに粒子の方が多くつくられ、対消滅せずに残った物質から私たちの宇宙ができたのだろうか。そうだとすれば、物質と反物質に何らかの性質の違いがなければならないだろう。しかし、現在の物理学の理論は、物質と反物質にそのような性質の違いはないという前提で組み立てられている。 なぜ、物質に満ちあふれた宇宙が存在するのか。現在の物理学の理論には、どこかに間違いがあるのか。この大問題に迫るため、山崎主任研究員たちは反水素をつくり、その性質を精密に測定して、水素と違いがあるかどうか調べようとしている。 加速器によって反陽子が初めて生成されたのは1955年。反陽子を減速して陽電子と混ぜて反水素をつくる実験ができるようになったのは2002年。スイスにある欧州合同素粒子原子核研究機構(CERN(セルン))から供給される反陽子を用いて、反水素の合成が実現された。 「実は、反水素を合成したといっても、反水素が観測されたわけではありません」と山崎主任研究員は説明する。「反陽子と陽電子は電荷があるので、電場や磁場のトラップで閉じ込めることができます。しかし、反水素ができると電気的に中性になるため、トラップから抜け出し、容器の壁に衝突します。このとき、反陽子が陽子と対消滅したときに生まれる粒子(パイ中間子)と、陽電子が電子と対消滅したときに生まれる光(ガンマ線)がほぼ同じ場所から出たので、きっと反水素ができていたはずだと考えたわけです。反水素の性質を高い精度で調べるには、反水素をたくさん合成して、それを蓄積する必要があります。しかし、反水素の蓄積にはまだ誰も成功していません」 ![]() |
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反水素の合成・蓄積実験をスタート
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山崎主任研究員たちは、まず、反水素の材料となる陽電子や反陽子を大量に蓄積する技術を開発した。「反陽子の蓄積数は数年前から世界最高記録を維持していましたが、2007年には1000万個の大台に乗せることに成功しました」。さらに、特殊な形状の磁場トラップの中で陽電子と反陽子を混ぜて反水素を合成し、蓄積する新手法を開発した。「実は、研究室の大学院生が、計算で不思議なことを見つけたのがきっかけでしたが、このトラップは比較的高い温度で生成された反水素でも蓄積でき、トラップの中を運動しているうちに自動的に冷却されることが分かりました。つまり、この新手法は、合成・蓄積・冷却の三つを同時に達成できるのです」山崎主任研究員たちは、この新手法に基づく反水素合成装置(図4)を開発し、それを2007年にCERNへ持ち込んで反水素の合成・蓄積実験をスタートさせた。「最初の目標は、反水素合成装置に反陽子を送り込み、蓄積することでした。これは拍子抜けするくらい容易に、70%以上という大変高い効率で、11月に達成できました。300万個の反陽子が蓄積できましたが、300万個という数は、従来の反水素合成装置で蓄積できた数の数百倍です。一般に科学の世界では、扱う量が1桁変わると世界がまったく変わります。この成果をもとに、今年は、世界初となる反水素の大量合成と蓄積を目指します」 大量合成と蓄積に成功した後、反水素のどのような性質を調べるのか。「水素や反水素には磁石の性質があります。まず反水素の磁石の強さを、マイクロ波を用いて1000万分の1(=10-7)の精度で測り、水素の値と比べたいと考えています」 現在の理論によれば、その値はまったく同じだとされる。もし違っていたら?「それは大変なことですよ。だから、まず同じだろうというのが常識です。しかし……」と山崎主任研究員は続ける。「そもそも反粒子は、1929年にイギリスのポール・ディラックが電子を相対論的、かつ量子論的に扱うための理論を編み出した際に出てきてしまった“厄介者”です。ディラック自身、反粒子の存在を最初は信じていなかったようです。ところが天才というのはそういうものかと深く感じ入るのですが、どういうわけか2年後の1931年には反電子(陽電子)や反陽子が存在するのではないかと言いだしました。しかも、それに呼応するかのように、1932年には宇宙線の中に陽電子が実際に発見されたのです。予言した本人が最初信じていなかった常識外のことが本当だったわけで、それが現代の物理学が描き出す世界観の基礎になっています」 さらに山崎主任研究員たちは、反水素と物質の間に働く重力を調べる実験を計画している。「反物質と物質の間で重力がどのように働くか、実験例はまったくありません。反物質には重力が逆に働く、つまり引力ではなく斥力として働くかもしれないという説もあるくらいです。もしそれが本当ならば、反水素は地球の重力に引かれて下に落ちずに、重力に逆らって上へ行きます。それは常識的には考えられませんが、自然科学は実験の学ですから、実際にやってみることが大変大事です」 |
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未知への好奇心
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「もう一つ、ぜひ紹介したい研究があるんです」と山崎主任研究員が言うのは、研究室で築いたビーム技術を応用して細胞の中の特定の構造を数百nm(1nm=10億分の1m=10-9m)の精度で壊して、その機能を調べる研究だ。
「この新技術を使って理研の生物学者と共同研究を始めています。細胞について勉強をしてみると、これが実に面白い。この新技術で今まで分からなかった細胞内の働きが分かるはずです。この研究は、原子核や反物質の研究とはまったく関係ありません。しかし私の中でそれほど違いはない。面白いこと、分かっていないことならば、何でも私の研究対象なんです」■
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世界最高速の次世代スーパーコンピュータ
2012年誕生 渡辺 貞 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部 プロジェクトリーダーに聞く |
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目指すは世界最高速10ペタフロップス
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――開発中の次世代スーパーコンピュータとは?
渡辺:計算速度が世界で一番速いスーパーコンピュータです。目標は10ペタフロップス(1秒間に10ペタ[1016]=1京回の計算を行う)です。 コンピュータの計算速度の測定に使われるLINPACK(リンパック)というアプリケーション(ソフトウェア)で、10ペタフロップスを達成しても、ほかのアプリケーションではその性能が出ないことが多いものです。私たちは、実際に使うアプリケーションでもペタスケールの性能を実現させます。そして、今までに誰もやったことのない計算を行い、科学の新しい知見を得たり、新薬や新しい半導体材料の開発など産業界にも役立つ成果を挙げたいと思っています(図)。 ――これまでの経緯と、現在の開発状況は? 渡辺:理研では、研究には次世代スーパーコンピュータが不可欠であると考え、独自に検討を進めていました。ちょうど同時期に文部科学省でも「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータ開発利用」プロジェクトが進行していて、2005年10月、その開発主体に理研が選ばれたのです。そして、2006年1月に次世代スーパーコンピュータ開発実施本部を設置。その4月からシステム構成の検討を始め、2007年9月にシステムの概念設計を決定、現在は詳細設計に入っています。 ――どういうシステム構成になりますか。 渡辺:スカラ部とベクトル部をつないだ複合システムです。データを細かく分けて順番に処理するスカラ部は原子や分子のような粒子の振る舞いの計算が得意、多くのデータを並列的に処理するベクトル部は血液や大気など流体の計算が得意、というように得手不得手があります。多様な計算が求められる汎用機としては、複合システムの方が使いやすいのです。計算内容によってスカラ部とベクトル部を使い分けることによって、複雑で大規模な計算も可能になります。 次世代スーパーコンピュータは、長期的な国家戦略をもって取り組むべき「国家基幹技術」にも指定されています。複合システムにすることで、今後、両方の技術を発展させることができるという利点もあります。今回は、理研と富士通(株)、日本電気(株)、(株)日立製作所の3社が共同で開発します。 ――世界最高速を達成させるポイントは? 渡辺:LSI(大規模集積回路)の電子回路の線幅は、現在65nm(1nm=10-9m=10億分の1m)が主流です。私たちは45nmという最先端の微細加工技術を使い、計算速度を大幅に向上させます。 LSIを搭載した装置間のデータ伝送には一部、光インターコネクトを使います。電気ではなく光で信号を伝送する技術で、光ファイバーを数千本束ね、大量データを超高速で伝送します。 高性能を省電力で実現する点も大きな特徴です。消費電力は冷却装置などを含めて、10ペタフロップスの性能で稼働すると1時間あたり30メガワット以下。電力効率は2002年に完成した地球シミュレータ(横浜市)の50倍以上と、徹底した省電力化を目指しています。 ![]() |
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誰もやったことのない計算を
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――どういう成果が期待できますか。
渡辺:宇宙物理から地球環境、ものづくり、航空、原子力、防災まで、さまざまな分野での成果が期待できます。特に期待されているのが、ライフサイエンス分野とナノテクノロジー分野です。 生命活動は、すべて化学反応によって引き起こされます。化学反応を分子レベルでシミュレーションして生命活動を理解するといった、今までのコンピュータではできなかったことが可能になります。生体分子から細胞、そして全身までさまざまなレベルで起きる種々の生命現象を統合的に理解したり、新薬の候補物質を効率的に絞り込んで開発期間を大幅に短縮することも可能になるでしょう。 ナノテクノロジー分野では、エネルギー問題の解決や情報機能材料の開発などを目指します。エネルギー問題では、例えばバイオ燃料をトウモロコシなどの食糧からではなく、廃材や稲わらなどから効率よくつくることができる酵素を発見できるかもしれません。情報機能材料においては、デバイス全体を原子スケールでシミュレーションできるので、新しい半導体材料の開発にも役立ちます。 そのような成果を出すためには、10ペタフロップスという計算速度を最大限活かすことができるアプリケーションが必要です。アプリケーション開発は、各分野の拠点、例えばライフサイエンスは理研の和光研究所、ナノテクノロジーは自然科学研究機構の分子科学研究所が行い、次世代スーパーコンピュータ開発実施本部がサポートします。 |
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2012年4月、新しい時代が始まる
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――兵庫県神戸市のポートアイランドに施設が建設されることが決まりました。選定の理由は?
渡辺:理研が設置した外部有識者からなる立地検討部会によって15の候補地について評価を行いました。その結果、アクセスが便利で、連携できる理研発生・再生科学総合研究センターや創薬関連などの民間の研究機関、また大学など教育機関も周辺に多数あることなどから、神戸市が最も優れていると判断しました。地元の強いサポートが期待できることも決め手の一つでした。 神戸を単なる「計算機科学の拠点」ではなく、人材育成や技術向上も行う「研究教育拠点(COE)」にしたいと考えています。“Center” Of Excellenceではなく、“Cluster”Of Excellenceです。神戸を中心に複数の拠点(クラスター)をつくり、その間をネットワークで結んで連携していきます。 ――施設の建設はいつから? 渡辺:計算機棟は現在詳細設計の段階で、2007年度末から施工を開始します。研究棟の設計は詳細を検討中です。世界最速のスーパーコンピュータを置くのにふさわしい外観、また、システム全体が見渡せる場所をつくり、たくさんの方に見学していただきたいとも考えています。 ――完成はいつですか? 渡辺:2010年度末にシステムの一部が動きだし、2011年度末に完成。そして、2012年4月からフルで稼働します。米国でも2012年に10ペタフロップス達成を目指す計画があるという情報が入ってきています。米国の動きもにらみながら、最初の成果はフル稼働の半年後には出したいですね。 ――スーパーコンピュータの開発で、一番うれしい瞬間は? 渡辺:さまざまな人たちの努力や協力があってこそ、次世代スーパーコンピュータの開発に取り組むことができます。期待を背負った中で最初にスイッチを入れるときは、とても緊張しますね。スイッチを入れて“動いた!”と分かったときのあの感動はすごいものです。今からとても楽しみです。■
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ヒト白血病の再発は白血病幹細胞が原因
新しい治療戦略に向けた第一歩 |
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――この研究を始めたきっかけは何ですか。
石川:急性骨髄性白血病は、血液や骨髄の中に異常な白血病細胞が増え、正常な血液細胞や免疫細胞がつくれなくなってしまう病気です。臨床の現場で、急性骨髄性白血病の患者さんに、抗がん剤でがん細胞を死滅させる化学療法や骨髄、臍帯(さいたい)血を用いた移植医療を行っても、再発の可能性が高く、なかなか完治に至らない厳しい現状を目の当たりにしてきました。何としても、白血病の有効な治療法を確立したいとの思いから研究を始めました。 |
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――発症の仕組みについて教えてください。
石川:これまで白血病やがんは、非常に速い速度で無秩序に細胞分裂を繰り返して増殖するがん細胞が病気の原因と考えられてきました。私たちは、急性骨髄性白血病の患者さんの骨髄液から白血病幹細胞を選別し、生まれたばかりの免疫能力のないマウスの血管に注射し「白血病ヒト化マウス」を作製しました。するとこのマウスは、血液中に約1000個の白血病幹細胞を注射しただけで、貧血、血小板減少などヒトの急性骨髄性白血病と同じ症状が現れました(図)。一方、白血病幹細胞以外の白血病細胞の場合は、約100万個の細胞をマウスに注射しても白血病は発症しませんでした。このことから、急性骨髄性白血病は、白血病細胞にごくわずか含まれている白血病幹細胞がもとになり、ほかの大多数の白血病細胞をつくり出していることが要因であると分かりました。 ![]() |
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――白血病幹細胞と再発の関連について教えてください。
石川:白血病幹細胞は骨髄と骨組織の境界に存在し、ゆっくりとした細胞周期で増殖していることが観察されました。また、増殖や分裂の速い腫瘍(しゅよう)細胞を殺す目的で開発された抗がん剤に抵抗性を示しました。つまり、ゆっくり増殖する白血病幹細胞には、これまでの抗がん剤が効かず、その耐性が急性骨髄性白血病再発の主要な原因だったのです。今回の成果から、ごく一部の白血病幹細胞を殺すことが、白血病治療をより完全なものにすることが分かりました。 |
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――今後の展開について教えてください。
石川:一人ひとりの患者さんの病態を再現する白血病ヒト化マウスをつくれば、それぞれの患者さんの白血病細胞に、どの抗がん剤がどの程度効くかを実験的に調べることが可能になります。いわゆるテーラーメイド医療が実現できるわけです。また、マウスの中で患者さんの白血病細胞を増やして創薬に利用するなど、白血病幹細胞を有効に死滅させる新しい治療法の確立が期待できます。■ |
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※本研究成果は、科学雑誌『Nature Biotechnology』オンライン版(10月21日付)に掲載され、日本経済新聞(10/22)、産経新聞(10/22)、日経産業新聞(10/22)、朝日新聞(10/29)などに取り上げられた。
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“迷い”をなくす脳の仕組みを解明
前頭連合野背外側部が迷った経験を |
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――迷いとは何ですか。
田中:私たちはもっともらしい答えが複数あると、どれにするか迷います。迷っているときには、頭の中で複数の答えが用意され、多くの場合には正しい答えを選び行動し、間違った答えは抑え込まれます。迷った経験は次の機会に生かされ、正解率が高くなったり、答えを出すまでの時間が短くなるなど迷いの減少となって表れます。迷いが減少するのは、迷いの経験を検知し正しい答えを選び出すために、脳の準備状態を強化するからだと考えられています。 |
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――迷いと脳の関連にどのような見解があったのですか。
田中:脳梗塞(こうそく)などさまざまな脳障害の診断に使われている機能的磁気共鳴画像法(fMRI法)を使用すると、脳内で活発に活動している部位が分かります。この装置を使って、米国の研究者が脳の大脳前頭連合野の内側にある前帯状溝皮質と呼ばれる領域が迷いを検出していると主張しました。ところが、この領域を損傷した人でも“迷った”経験を次の機会に生かしていることが分かり、謎が深まりました。 |
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――その謎をどのように解明したのですか。
田中:サルに迷いを生じさせる課題を与えて半年以上訓練し、脳の一部を破壊し、また神経細胞の活動を記録しました。課題として用いたのは、図形の形、色、または数で一致するカードを選ばせるウィスコンシンカード分類課題です。サルの能力に合わせてより簡略化するために、数を省き、形と色の一致の2通りの規則にしました。タッチセンサー付きのテレビ画面を使ってサルに課題を行わせました(図)。訓練完成後に、前帯状溝皮質や前頭連合野背外側部を壊してサルの行動を観測しました。その結果、迷った経験を次に生かすためには、前帯状溝皮質ではなく前頭連合野背外側部が必須であることが分かりました。 ![]() |
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――前頭連合野背外側部の働きについて教えてください。
田中:神経細胞の活動を観測した結果、前頭連合野背外側部は、迷った経験を次の答えを出すときまで記憶していることが分かりました。さらに、迷った経験だけでなく、迷わなかった経験も有効に活用されている様子もとらえることができました。面白いことに、迷ったことを伝える神経細胞と、迷わなかったことを伝える神経細胞は、ほぼ同数ありました。これは、脳では迷った後に“心”の準備状態を高めるだけでなく、迷わず正答した後には、無駄な疲労をなくすために“心”の緊張を緩めていることを示唆しています。 |
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――今後の展望を教えてください。
田中:迷いの意味をとらえ直し、迷いを考慮に入れた教育方針や判断ロボットを設計する際の足掛かりになるでしょう。 ■ |
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※本研究成果は米国の科学雑誌『Science』(11月9日号)に掲載され、朝日新聞(11/5)、日刊工業新聞・日経産業新聞(10/26)などに取り上げられた。
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原子核物理の超難問“三体力”に挑む研究者
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「小学生のときは、歴史で頭がいっぱいでした」と語る関口研究員。「平安時代が好きでした。歴史の本を読んで頭の中で勝手に物語を想像して(笑)。“薬子(くすこ)の乱※”に興味がありました。藤原道長たちの繁栄の源流は? と疑問に思ったのがきっかけです。日本オリジナルなものに触れるのが好きでしたね」。その後、中高一貫教育の学校へ進学。「中学3年の自由研究課題で“薬子の乱”をもっとまじめに調べる機会を得ました。まわりには優秀な人が多く、授業で習ったこともない“素粒子”などを調べる人もいました。私も! と思ったのですが、母が“あなたには無理よ”って(笑)」。
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歴史以外に哲学にも興味があった関口研究員。大学で物理学科を選んだ理由は?「哲学と自然科学は、実はすごく密接なんです。真理を突き詰めるとは、どういうものなのかという興味から、だんだん物理を意識するようになりました」。大学のサークル活動では狂言研究会に所属していた。「突拍子もないですかね? 日本オリジナルなものを自分で体験できる機会は、なかなかないと思ったので。おかげさまで舞台度胸はつきました(笑)」。
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その後、大学院へ進学し三体力の問題と出会う。「三体力については中間子論が発表された1930年代から議論されていました。ですが、定量的な議論とその重要性が指摘され始めたのは、ここ10年のことなんです。私にとってはまさに“出会い”でした」。理研での研究は?「重陽子と陽子との弾性散乱の高精度測定。重陽子は一つの陽子と一つの中性子からなる原子核です。ですから、重陽子と陽子で三核子系。三体力を調べるには最も都合が良いシステムです。実際には、理研リングサイクロトロンを使って、私たちのグループが開発したスピン偏極している重陽子ビームと高分解能磁気分析器“SMART”を用いて弾性散乱の散乱角度と運動量を計測するという実験です」。苦労した点は?「散乱したものをただ数えるというと簡単に聞こえますが、測定の誤差を数パーセントに抑えるのはすごく難しい。高い精度を出すのに一番苦労しました」。この実験により、三体力の存在を示す明らかな証拠を見いだした。「三体力研究の変遷を文献から読み解くようにしています。とても難しいのですが(笑)。それを読み、実験をして、これから先、私が伝えられるものは何か? と想像すると、わくわくするし、緊張もします」。今後は理研の次世代加速器施設「RIビームファクトリー」で、三体力をさらに深く理解することを目指している。
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最後に「今思うのは、やはり基礎科学に対する素養を高めなければならないということ。将来はそんなことに貢献できれば」とも語った関口研究員。さらなる活躍が楽しみだ。■
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「2007年度 理化学研究所 科学講演会」開催のお知らせ
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本年度の科学講演会を以下の通り開催致します。今回は「免疫」をテーマに、最先端の研究を紹介します。皆さまのご来場をお待ちしております。
問い合わせ先:理化学研究所 広報室 TEL : 048-467-9954 FAX : 048-462-4715 |
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常陸宮同妃両殿下、SPring-8をご視察
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11月16日午後、常陸宮(ひたちのみや)同妃両殿下が大型放射光施設SPring-8(兵庫県佐用郡)を視察されました。(財)理化学研究所は1917年に皇室御下賜金などによって創設され、伏見宮貞愛(ふしみのみやさだなる)親王殿下を初代総裁に奉載したことをはじめ、皇室とは歴史的なゆかりがあります。当日は最初に、大熊健司理事がSPring-8とX線自由電子レーザー(XFEL)の施設の概要についてご説明しました。両殿下は、SPring-8で解明された髪の毛の傷みと加齢の関係などの研究成果に関心を示され、また、XFELが人類未踏の新しい光源であることに興味を持たれたご様子でした。続いて、吉良 爽(あきら) (財)高輝度光科学研究センター理事長の案内で、見学者ホールよりSPring-8本体と、本体に付属して設けられているビームラインを使った結晶構造解析の実験風景を見学されました。両殿下はご説明にうなずきながら、熱心に耳を傾けておられました。 |
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「サイエンスアゴラ2007」を開催
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11月23〜25日、「サイエンスアゴラ2007」(主催:科学技術振興機構、後援:理研など)が東京・お台場の国際交流大学村で開催されました。サイエンスアゴラは、“科学と社会をつなぐ”広場(アゴラ)となることを目指し、2006年から始められたイベントです。理研の展示ブースでは、主に横浜研究所と神戸研究所を紹介。神戸研究所のインターネットゲーム“CDBラボパニック”(http://webcgi.cdb.riken.jp/webgame-j/)は、子どもたちに大変人気がありました。24日の講演会「エチゼンクラゲで国を生む 〜新物質クニウムチン発見!〜」では、環境ソフトマテリアル研究ユニットの丑田(うしだ)公規 研究ユニットリーダーら3名が講演しました。最終日の実験教室「身近な野菜からDNAを取り出してみよう!」(写真)は大変好評で、子どもから大人まで多くの参加者があり、ブロッコリーから取り出したDNAをお土産に持ち帰りました。 |
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寅さんとチャップリン
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『理研ニュース』に何か原稿を、と求められ固辞したが、科学と直接関係なくともよいとの唆(そそのか)しもあって、それならと考え、『理研ニュース』らしくないが、ずうずうしく駄文を書かせていただく。耳順を過ぎて、若いころのことが頭をもたげてくる。映画という楽しみがあったが、今はトンとご無沙汰(ぶさた)だ。そこで、映画にまつわる若干の感想を以下にしたためた。 プロ野球で昔、ダブルヘッダーというのがあったが、覚えておられるだろうか。薄暮(はくぼ)ゲームとナイターの二つの試合が一つの球場で行われた。時には、同一球場で対戦チームが変わる変則ダブルというのもあった。やる方もやる方、見る方も見る方だ。いつごろからか、あまり聞かなくなった。時代の移り変わりすら感じさせる。映画でいえば、3本立て。タバコの煙が濛々(もうもう)として、映画の途中で野次(やじ)が飛んだり、終わると拍手。「男はつらいよ」の3本立てなぞ観客のうるさかったこと。今にして思えば、窮屈な映画館で、おせんにキャラメル、ポップコーンを口にしながら、よく長時間飽きないで見たものだ。時には、見ず知らずの隣の人と肩をたたき合いながら声に出して笑い、涙ぐみ、寅さん一家のメンバーの一人ひとりに共感して、日々のつらいことなぞ忘れてしまったものだ。どこかの新聞に出ていたが、渥美 清が亡くなったとき、彼は東洋のチャップリンだと、外国の人が言ったそうだ。けだし、名言である。 映画でのチャップリンのおかしさは、チャップリン自身、人を笑わそうとしているわけではないところにある。彼は、逆に至極まじめである。彼は彼なりの論理に従って行動する。彼の論理と行動は社会の常識の中ではTPOをわきまえないものだが、彼にとっては別に変でも何でもない。観客はその社会の常識をよくわきまえており、また、それと同時にチャップリンの論理と行動にも共感する第三者の眼を持っている。その眼があればこそ、その二つがぶつかったり空回りをしたりして、変てこなことが起こるのだとよく分かり、笑いが生じるのだろう。 寅さんも同じではないだろうか。否、TPOをわきまえない寅さんであっても、同じ日本人としては、その論理と行動に共感する部分が心情的に多くなる。ひいき目に見てしまう。その分、笑いのほかに涙が出てくるのだ。寅さんが行動する状況との関係ではもちろんTPO外れであるものの、まくしたてる寅さんの言葉や予想外の行動の中に、その限定された場での真実を突く面があるのだ。そして、映画全体の流れの中で、やはり寅さんはそこにいられなくなり、最後には旅に出ることによって、彼のTPO外れのすべてが水に流され、寅さんの心のみ残る。 チャップリンにしても、寅さんにしても、それ自身の論理と行動があって、そのことをまじめに貫こうとしている。それが世の中とずれていようがいまいが、貫く姿勢を取る。“科学者”も似ているなぁと言ったら、怒られるであろうか。考えてみれば、我々誰もが、そんなにチャップリンや寅さんと違わないかもしれない。我々の行動をどこかから見ている人がいたら、我々が怒り、泣き、わめくようなことをしている、そのことをおかしくてたまらないと思うであろう。だからこそ、寅さんとチャップリンは、我々の永遠のヒーローなのだ。 ■ |
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