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重力レンズから宇宙の謎に迫る研究者 |
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原酒
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分子イメージングが診断、創薬に
革命をもたらす |
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ヒトの体内の分子を見る
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「まず、実験室を見てください。その方が、私たちがやっていることを理解しやすいでしょう。分子イメージングの研究施設で、これ以上の設備を持っているところは、世界中探してもありません」。鈴木正昭チームリーダー(TL)の顔は自信に満ちあふれ、笑みがこぼれる。
分子イメージング研究プログラム(MIRP)は、2005年7月に発足した。2007年1月、神戸市ポートアイランド、理研発生・再生科学総合研究センターのすぐ近くの神戸MI R&Dセンターに研究拠点を設置。分子プローブ設計創薬研究チーム(鈴木正昭TL)、分子プローブ機能評価研究チーム(尾上浩隆TL)、分子プローブ動態応用研究チーム(渡辺恭良TL)の3チームが連携しながら、活発な研究開発を展開している。 「夜空を見上げると、月や星、遠くの銀河が輝いています。それを見て、さらに新たな天体を見つけることが、20世紀の科学の夢でした。21世紀はどうか。私たちは、生きたヒトの体内で生命の機能をつかさどっている分子を見ようとしています。それが、“分子イメージング”です」 では、どのようにしてヒトの体内の分子を見るのか? 有力な方法の一つがPET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層画像撮影法)である。PETは、陽電子(ポジトロン)が電子と衝突して放射されるガンマ線をとらえて断層画像を撮影する方法だ(図1)。まず、調べたい分子に陽電子を放出する微量の放射性核種を付け、生体に投与する。放射性核種を付けた分子を“分子プローブ”と呼ぶ。投与された放射性核種は次第に別の原子核に崩壊していき、その際に陽電子を放出する。その陽電子が近くの電子と衝突して放出されるガンマ線を検出器がとらえることで、分子がどこに、どれだけあるのかを知ることができる。 PETは、がん検診によく利用されている。がん検診で使われる分子プローブは、グルコースにフッ素18(18F)を付けたFDG(フルオロデオキシグルコース)だ。増殖を続けるがん細胞はエネルギー源としてグルコースをたくさん取り込むので、FDGが集積したがん細胞からは強いガンマ線が検出される。PETの登場によって、従来のX線CTによるがん検診に比べて、がんを発見できる精度が高くなっている。 しかし鈴木TLは、「PETが持っている力は、その程度ではありません。私たちは、まだまだPETを使いこなしてはいないのです」と指摘する。「FDGは、がん細胞だけでなく、大きな臓器や活発に増殖している正常な細胞にも集積してしまうため、診断を間違えることもあります。もし、がん細胞だけに発現している分子のみに結合する分子プローブがあれば、もっと正確に診断できるようになるでしょう。PETの力をより発揮させるための新しい分子プローブを開発し、ヒトの体内でさまざまな分子のイメージングを可能にすること、それが、私たちの目標です」
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不可能を可能にした“高速C-メチル化反応”
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では、分子プローブをどうやってつくるのか。MIRPには、2基の小型サイクロトロンがある(図2-1)。サイクロトロンで高速に加速した陽子を、窒素原子(N)ガスに衝突させる。すると核反応を起こし、放射性核種である炭素11(11C)がつくられる。陽子を衝突させるターゲットを変えることで、さまざまな放射性核種をつくることができる。
つくられた放射性核種は、すぐに標識合成室に送られる。標識合成室には外部に放射線が漏れ出さないように遮蔽(しゃへい)したホットセルがあり、その中に標識自動合成装置が設置されている(図2-2)。ホットとは、放射性物質を扱うことを意味する。ここで、サイクロトロンから送られてきた放射性核種を目的の分子に結合させるのだ。しかし、それが難しい。 一つの問題は時間。11Cの半減期(放射性核種がほかの核種に崩壊し、元の半分の量になるまでの時間)は20分。分子プローブを精製し、生体に投与する場所まで運ぶ時間を考えると、11Cと分子の化学反応に使える時間はわずか5分だ。寿命の長い放射性核種を使えばいい、そう思うかもしれない。しかし鈴木TLは、「私たちが使うのは、寿命の短い放射性核種だけ」と断言する。「寿命が長い放射性核種では被曝(ひばく)の危険があります。それではヒトへ使うことはできません。できるだけ寿命が短く、もともと私たちの体内にある原子がいい。11Cは最適なんです」 しかし、そこには大きな問題があった。目的の分子に11Cをわずか数分で、しかも分子がすぐに代謝されてしまわないように付ける方法がなかったのだ。「そんなことは不可能だ、とまで言われていました。でも、不可能だと言われれば、なおさらやってみたくなるでしょう」。そして鈴木TLは、5分で11Cを含むメチル基(―CH3)を有機分子の炭素原子に付けることができる“高速C-メチル化反応”の開発に成功した(図3)。普通の化学反応では数時間から数十時間もかかる。しかも、ほとんどすべての有機分子に11Cを含むメチル基を付けることができる、非常に優れた反応である。「わずか5分の化学反応を成功させるのに5年かかりました(笑)」。成功の鍵は? 「“ひらめき”と“ねばり”です」 標識自動合成装置では精製・濃縮も自動で行い、放射性核種が正しい位置に結合した分子プローブだけがガラス製の容器に詰められる。それを鉛製の容器に入れて密封する。そして、リニアモーター式の最新搬送システムによって動物用PET装置がある部屋に届けられる(図2-3)。搬送にかかる時間は1分ほどだ。そして、マウスなどに投与し、分子プローブが期待通りの動きをしているか動物用PET装置で観察する(図2-4)。その結果は分子プローブ設計創薬研究チームへフィードバックされ、必要に応じて分子の設計を変える。それを何度か繰り返し、新しい分子プローブが誕生する(図4)。
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基礎研究からヒトへ一気通貫
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動物を用いた試験で有用性が認められた分子プローブは、ヒトに投与する段階へと進む。MIRPには、GMP(Good Manufacturing Practice)に準拠した部屋が準備されており、近い将来、運用を始める予定だ。GMPとは、安心して使用できる品質の良い医薬品を供給するために定められた医薬品の製造管理および品質管理規制である。GMP合成室で最大限の注意を払ってつくられた分子プローブは、MIRPと連絡橋でつながった先端医療センターに運ばれ、ヒトに投与されることになっている。
ポートアイランドには神戸医療産業都市構想があり、理研発生・再生科学総合研究センターや先端医療センター、市民病院などがクラスターを形成している。「だから、この場所を選んだのです。ここならば、基礎研究から生まれた最先端の成果を医療の現場ですぐに試すことができます。理研が行うのはあくまでも基礎研究ですが、それをヒトに使えてこそ、初めて社会還元できたといえます」。2012年には、理研が主体となって開発を進めている次世代スーパーコンピュータもポートアイランドに完成する。その連携にも大きな期待を寄せている。 では、分子イメージングによって医療はどのように変わるのだろうか。「10年後には、PETを普通の健康診断で使い、認知症、がん、そして糖尿病などの生活習慣病など、さまざまな疾患を早期に発見できるようになるでしょう」と鈴木TL。そのためには、それぞれの疾患ごとに特化した分子プローブのライブラリーをつくる必要がある。「診断に使える候補分子が見つかれば、私たち化学者は、それを分子プローブに仕上げていくだけです。何の問題もありません」と、鈴木TLは自信を見せる。ゲノム解析が進んだため、候補分子が見つけやすくなっていることも、その自信を後押しする。「日本はこれからさらに高齢化が進みます。そのとき、認知症など高齢者の病気が社会問題となることは間違いありません。分子プローブのライブラリーを充実させ、多くの疾患を診断できるようにしておきたいですね」 もう一つ、大きく期待されているのが、創薬への貢献だ。「創薬革命が起きます」と鈴木TLは断言する。現在は、候補薬剤をマウスなどに投与して調べ、効果が高いことが分かると、ようやくヒトを対象とした臨床試験が始まる。しかし、多くの候補薬剤がこの段階で脱落していく。マウスでは問題がなくても、ヒトでは副作用が起きたり、効果がないことが多いのだ。そのため、一つの新薬の開発には長い年月と数百億円もの巨額の費用がかかる。「その問題を解決できるのが、分子イメージングです」 候補薬剤を分子プローブにすれば、目的の分子と結合し、効果を発揮しているかどうかを、臨床試験に入る前にヒトで確かめることができる。もし、想定外の分子に結合して副作用を起こすことが分かったら、候補薬剤の構造を改変し、目的の分子とだけ結合するようにすればよいのだ。新薬の開発にかかる期間とコストは大幅に削減できる。 厚生労働省は2007年12月28日、「マイクロドーズ臨床試験の実施にかかわるガイダンス案」と「治験薬の製造施設の構造設備基準(治験薬GMP)改正案」をつくった。マイクロドーズ臨床試験とは、薬剤開発の早い段階でごく微量の候補薬剤をヒトに1回のみ投与し、その効果や副作用を調べるもの。また、従来の治験薬GMPは大量生産を想定していたが、改正案ではマイクロドーズ臨床試験向けに柔軟な運用が認められる。これらの動きに伴い、分子イメージングによる創薬革命が現実のものとなってきた。 ![]() |
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日本の化学力は世界一
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MIRPには、海外からもたくさんの見学者が訪れる。「皆さんショックを受けて帰っていきます。こんなに進んでいるのかと」。MIRPが分子イメージングの研究でほかをリードしているのはなぜか。「日本の化学力でしょう。分子イメージングの研究は、化学、医学、薬学、生物学、工学などすべての分野が融合しなければできません。その中でも化学の力は非常に重要です」と鈴木TL。分子に放射性核種を付けるのも、分子の構造を改変するのも化学反応だ。「ノーベル化学賞が3年連続で日本から出たように、日本の化学力は世界一です。しかも、理研の理事長はノーベル化学賞を受賞した野依良治先生ですからね」
野依理事長は2001年、ノーベル化学賞の受賞講演で、ヒトの脳のPET画像を紹介している。そのPET画像は、鈴木TL自身が被験者となって撮影されたものだ。「野依先生は、化学が目指すべき重要な項目の一つとして分子イメージングを挙げられたのです。私は野依先生の弟子なんですよ。ぜひ、化学の力で分子イメージングを大きく花咲かせたいと思っています」 ■
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細胞は遺伝子をどのように読み取るのか
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“バイブル”の読み取り方
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私たちの体の始まりは、たった1個の受精卵。それが分裂を繰り返し、皮膚細胞や筋肉細胞、神経細胞など、さまざまな種類の細胞へと分化していく。それらの細胞は、受精卵と同じ生命の設計図、“ゲノム(全遺伝情報)”を持っている。
「ゲノムはバイブルのようなものです」と古関GDは言う。「バイブルが書き換えられることはありませんが、その解釈によってさまざまな宗派が生まれました。同じように、ゲノムは基本的に書き換えられません。その読み取り方によって、さまざまな種類の細胞が生まれ、維持されているのです」 例えば、皮膚細胞が筋肉細胞などほかの種類の細胞に突然、変化しないのは、ゲノムの中で皮膚細胞に必要なタンパク質をつくる遺伝子だけが読み取られ、それ以外の遺伝子は読み取られないように抑制されているからだ。 その抑制方法の一つが、“DNAのメチル化”だ。DNAのある場所にメチル基が付くことで、遺伝子の発現が強く抑制される。そもそもゲノムの中で、細胞に必要なタンパク質をつくるための情報が書かれた領域は、約1%にすぎない。残りの99%は主に、このDNAのメチル化によって強く抑制されている。 しかし、タンパク質の情報が書かれた1%の領域もすべて強く抑制されていると、細胞の分化や維持はできない。例えば、細胞が分化していくときには、さまざまな遺伝子が次々と読み取られ、必要なタンパク質が合成される。「このとき、次に必要な遺伝子は、すぐに読み出し可能な状態で抑制されていることが必要です。私たちの主な研究テーマは、この“読み出し可能な抑制”のメカニズムを解明することです」
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ポリコーム群タンパク質複合体
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読み出し可能な抑制では、“ヒストン修飾”が重要な役割を果たしている。ヒトの場合、一つの細胞の中にあるDNAの長さは約1.8メートルになる。ヒストンは、この長いDNAを巻き取ってコンパクトに収納する役割を持つタンパク質だ(図1)。
遺伝子が発現するときには、このヒストンが外れたり位置がずれたりして、DNAの二重らせんがほどかれ、遺伝子の情報が読み取られる。ヒストンには、メチル化、アセチル化、リン酸化、ユビキチン化など、さまざまなものが付く“修飾”が行われている。そして、このヒストン修飾の組み合わせが、遺伝子の発現をコントロールする指令暗号になっているという仮説が注目を集めている。 古関GDは、1990年代の半ばから、ヒストン修飾で重要な役割を果たす“ポリコーム群タンパク質複合体”(以下、ポリコーム群)という酵素の研究を進めてきた。この酵素は、30年以上前にショウジョウバエで発見されたもので、ヒストンをメチル化して特定の遺伝子の発現を抑える働きがある。その働きがおかしくなると、例えば頸椎(けいつい)に肋骨(ろっこつ)が生えるなど、体の後ろの特徴が前側(頭側)へずれて現れる。頸椎の遺伝子が発現する場所で、肋骨の遺伝子発現の抑制が外れてしまうため、肋骨が生えてしまうのだ。 「ポリコーム群は、いくつかのタンパク質が集まって遺伝子の発現を抑制します。例えば、そのうちの一つのタンパク質が欠けると抑制作用が弱くなる、二つのタンパク質が欠けると抑制作用がなくなってしまう、といったシステムです」 一方、遺伝子の発現を促進する働きをする“トライソラックス群タンパク質複合体”(以下、トライソラックス群)という酵素も存在する。 ポリコーム群が優勢に働いている場所では、遺伝子の発現が抑えられている。しかし、ポリコーム群が劣勢になると、トライソラックス群がすぐにやって来て遺伝子の発現が促進される、という仕組みが考えられている(図2)。「ポリコーム群とトライソラックス群という反対の働きを持つ二つのシステムが拮抗(きっこう)することで、必要なときにすぐに読み出し可能な抑制が実現しているのです。ただし、さまざまな遺伝子においてこの二つのシステムのバランスを決め、発現をコントロールしている仕組みは、まだよく分かっていません」 1990年、哺乳(ほにゅう)類でもポリコーム群とトライソラックス群のタンパク質が見つかった。「私は、体がどのようにでき上がっていくのかというテーマに関心を持ち続けてきました。そして十数年前、ほかの人がやっていない研究テーマを探していて、哺乳類でのポリコーム群の働きに注目しました」
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がんや免疫不全の克服、再生医療へ向けて
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1996年、古関GDは、ポリコーム群をつくる遺伝子の機能を欠いたノックアウトマウスの作製に、世界で2番目に成功した。このようなマウスには、形態の異常(図3)や免疫不全、細胞のがん化のしやすさにも変化が見られる。ポリコーム群の機能を欠いたマウスの細胞は、がん化しにくくなるのだ。一方、トライソラックス群の機能を欠いたマウスの細胞は、がん細胞のように、細胞分裂を無限に繰り返す。「ポリコーム群やトライソラックス群が、がん化を促進する遺伝子や抑制する遺伝子の発現をコントロールしているのです」
これらのシステムは、特に幹細胞で重要な役割を担っている。幹細胞の一種、体性幹細胞は、ある特定の組織の細胞に分化する能力を持つ細胞だ。体性幹細胞のDNAでは、ポリコーム群やトライソラックス群によって、分化に必要なたくさんの遺伝子が読み出し可能な状態で抑制されていると考えられる。例えば、免疫系の細胞をつくる体性幹細胞でその働きに異常があると、必要な免疫系の細胞がつくられなくなり、免疫不全となる。 一方、受精卵が何回か分裂した“胚盤胞(はいばんほう)”から細胞を取り出して培養したES細胞(胚性幹細胞)は、あらゆる種類の細胞に分化できる能力を持つ万能細胞である。「このES細胞でも、ポリコーム群の働きを欠くと、特定の細胞に分化を始めるなど、ES細胞としての機能を失ってしまいます」 2007年、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥 教授たちがつくり出したiPS細胞が、大きな注目を集めている。それは、皮膚細胞などに数種類の遺伝子を導入することで、万能細胞としての能力を引き出したものだ。なぜ万能細胞となるのか、そのメカニズムは未解明だが、遺伝子導入によりヒストン修飾などの状態が変わり、多くの遺伝子が読み出し可能な抑制状態となり、万能細胞としての機能を持つようになると考えられる。 現在、ES細胞やiPS細胞から必要な種類の細胞をつくり出し、事故や病気で損傷した組織に移植して機能を再生させる、再生医療の研究が盛んに行われている。再生医療の実現のためには、DNAのメチル化やヒストン修飾の状態を調べたり、その状態を変化させることで、必要な種類の細胞へ分化させたりする技術が必要だ。 細胞が遺伝子を読み取るメカニズムの研究は、がんや免疫不全など、さまざまな病気の仕組みの解明や治療法の開発、そして再生医療の実現のための重要な鍵を握っている。 ![]() |
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DNAメチル化が複製される仕組みを解明
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古関GDたちは今、ポリコーム群の働きを探るために、ポリコーム群に結合するタンパク質を探し、その働きを調べている。そのうちの一つ、Np95が、大きな謎を解く鍵となった。それは、遺伝子発現を強く抑制するDNAのメチル化に関係するタンパク質だ。細胞の種類ごとに、DNAの特定の場所がメチル化されている。では、細胞が分裂するとき、どのようにしてDNAのメチル化のパターンが受け継がれるのか。それが大きな謎だった。
細胞が分裂するとき、DNAの二重らせんの鎖がほどかれ、それぞれの鎖を鋳型にして、DNAが複製されていく。このとき、鋳型となる鎖は、あるパターンでDNAがメチル化されているが、複製されたばかりの鎖はまったくメチル化されていない。Np95が、鋳型となる鎖でメチル化されている場所を見つけ出し、複製された鎖の対応した部分をメチル化へ誘導することでDNAのメチル化のパターンが受け継がれることを、古関GD たちは2007年に解明した(図4)。 「ただし、読み出し可能な抑制で働くポリコーム群と、強い抑制を担うDNAのメチル化に関係するNp95が、なぜ結合するのか、その理由はまだ分かっていません。私たちは、強い抑制と読み出し可能な抑制がどのように使い分けられているのかに関心を持って、研究を進めています」 ![]() |
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ポリコーム群とRNAの相互作用
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さらに古関GD たちは、遺伝子発現を抑制するポリコーム群が、遺伝子発現のときに働くタンパク質とも結合することを見いだした。ポリコーム群がRNAの切断(スプライシング)を行う酵素と結合することを発見したのだ。
遺伝子が発現するとき、DNAの情報はRNAに読み取られ、スプライシングという過程で不要な部分が切り取られて、そのRNAの情報をもとにタンパク質がつくられる。さらに、理研ゲノム科学総合研究センターの林良英プロジェクトディレクターたちは、タンパク質をつくる情報を持たないRNAがたくさん存在することを発見、それらが遺伝子の発現をコントロールしていることを明らかにしつつある。 「ポリコーム群とRNAが相互作用して、未知のメカニズムによって、遺伝子の発現を制御しているのかもしれません」 |
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全体像の解明へ向けて
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「近年、私たちのライバルは爆発的に増えています。ただし、解明すべき謎もまだたくさん残されています。現在は、細胞が遺伝子を読み取るメカニズムの一端が分かり始めたにすぎません。きっと想像されている何倍もの仕組みがあるのでしょう。ヒストン修飾では、メチル化ばかりに注目が集まっていますが、ユビキチン化やリン酸化など、ほかの修飾にも光を当てる必要があります。メカニズムの全体像を解明していくために、今はとても重要な時期だと思います」
そして、古関GDは、次のように決意を語る。「少なくともポリコーム群が関係するメカニズムの解明は、私たちが責任を持って進めていかなければいけないと考えています」 細胞は遺伝子をどのように読み取るのか。その研究が、生命科学や医学の未来を大きく左右しようとしている。■
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宇宙誕生100万分の1秒後の謎を解く
理研BNL研究センター |
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陽子を操る“シベリアのヘビ”
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RBRCの歴史は、1990年代の初頭にさかのぼる。理研の延與(えんよ)秀人 主任研究員(仁科加速器研究センター 延與放射線研究室)たちが、米国・ブルックヘブン研究所(BNL)で建設中のRHICを改造する計画を提案したのだ。「BNLでは、金の原子核同士を衝突させて、クォーク・グルーオンプラズマと呼ばれる高温の物質状態をつくり出す衝突型加速器を建設していました。私たちの提案は、その加速器の一部を改造して“偏極陽子ビーム”をつくる能力を加えようというものでした」そして1997年、BNL内にRBRCが開設され、ノーベル物理学賞受賞者のT. D. Lee(リー)博士を初代センター長に迎えた。 原子核は陽子と中性子からなり、それらは地球の自転に似たスピンという性質を持つ。偏極陽子ビームは、陽子のスピンの向きがそろったビームである。「通常、陽子のスピンの向きはばらばらなので、すべての向きをそろえるためには“裏技”が必要でした」。RBRC実験グループのグループリーダーを兼務する延與主任研究員は、こう説明する。その裏技とは、“サイベリアン・スネーク(シベリアのヘビ)”呼ばれる、陽子のスピンの向きを操る特殊な磁石(図)。理研がBNLと共同で開発したその磁石により、RHICは世界で唯一の偏極陽子加速器となった。 陽子はクォークとグルーオンで構成されている。現在、RBRCでは偏極陽子ビームを使って、クォークやグルーオンの性質を詳しく観察する実験が進められている(コラム参照)。 |
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誕生直後の宇宙は液体のような状態
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RBRCのもう一つの柱は、理論研究だ。理論物理学グループを率いるLarry McLerran(ラリー マクレラン)グループリーダーは、「理論面での目的は、主に3つに絞られます」と説明する。1番目は、陽子と中性子、それぞれの構造の理解。2番目は、クォークに働く“強い相互作用”と“弱い相互作用”の理解。そして3番目は、クォークとグルーオンがばらばらになったクォーク・グルーオンプラズマという超高温状態の特性を調べることである。その温度は1兆度以上。誕生してから100万分の1秒後の宇宙は、そのような極限状態だったと考えられている。 RHICの並外れた能力により、これらの理論が正しいかどうかを実験的に試すことができるようになった。「重陽子と金、金と金、銅と金、銅と銅……、いろいろな組み合わせを衝突させることが可能です」と語るRBRCのNicholas Samios(ニコラス サミオス)センター長は、さらにこう続ける。「クォーク・グルーオンプラズマは、希薄で相互作用の弱い気体のようなものと考えられていました。ところが私たちは、それがむしろ液体に近いことを発見しました。これは大発見でした」 |
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RBRCを成功に導いたシステム
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RBRCでは、BNL側がオフィスや実験スペース、テクニカルスタッフを提供し、理研側が20〜25名の若い研究者を特別研究員として採用して、BNLをはじめとする世界各国からの研究者たちとともに研究を進めている。特別研究員には5年間のフェローシップが与えられ、その間、彼らはRHICを使って研究する機会を得る。そしてRBRCは、熱意あふれる若い頭脳を絶えず迎え入れられるという仕組みになっている。この仕組みはうまく機能しており、これまでの特別研究員全員が世界各国の主要大学の終身ポストに就く実績を挙げている。「これまでの論文の発表数は並外れています。また、理研の経営陣がRBRCの運営方針をよく理解し、自由にやらせてくれることは素晴らしいです」とSamiosセンター長は言う。 また、McLerranグループリーダーはこう語る。「日本の研究者は、思い付いたアイデアが物理学的に優れていると分かれば、すぐに具体的な研究に取り掛かります。また、RBRCには形式ばった上下関係はほとんどありません。世界中からトップクラスの科学者たちが訪れ、仕事が終わればRBRCの若手研究者と飲みに出掛け、徹底して語り合っています」 これまでの大きな実績に比べ、チームの規模はそれほど大きくない。Samiosセンター長は、「今は理論が15人、実験が8人、これがちょうどよい規模。しっかりした仕事を成し遂げられる大きさで、しかも互いに気軽に話し合えるまとまりがあります」と語る。 そして、次のように付け加えた。「この分野は変化が激しく、トップの座を維持するためには、最前線の問題について絶えず考える若者が必要です。私たちはそこに力を注いできたからこそ、トップの座を維持できているのです」 ■ |
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RNA医薬品開発へ大きく前進
ダンベル型RNAがRNA干渉効果を長期安定に |
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――RNA干渉とは何ですか。
阿部:DNAの遺伝子情報(塩基配列)をコピーするものをRNAといいます。塩基配列をコピーしたRNAをメッセンジャーRNA(mRNA)と呼び、その情報をもとに私たちの体を構成するさまざまなタンパク質がつくられます。RNA干渉とは、RNAが2本連なった二本鎖RNAを細胞内に加えると、その片方のRNAと同じ塩基配列を持つ細胞内のmRNAだけが分解される現象です。mRNAが分解されるので、タンパク質がつくられなくなるのです。いわば“遺伝子を沈黙させる”現象ですね。RNA干渉を発見した米国人研究者二人は、2006年度ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。 |
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――RNA干渉はどのようなことに役立つのですか。
阿部:遺伝子の発現を抑制できるので、これまで治療が困難だった遺伝子疾患、がん、感染症などさまざまな疾患に有効な医薬品開発技術として期待されています。現在では、日米欧でRNA干渉技術を利用した「RNA医薬」の開発競争が展開されています。しかし、RNA干渉関連の特許技術の多くは、すでに欧米が取得しています。そのため、日本では独自のRNA干渉技術を緊急に開発する必要がありました。 |
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――RNA医薬の開発の状況を教えてください。
阿部:現在、創薬に向けて開発・利用されているRNA干渉技術は2種類あります。天然の二本鎖RNAを用いる方法と、化学合成した非天然のRNA分子を含む二本鎖RNAを用いる方法です。しかし、どちらにも問題がありました。前者は生体内で極めて不安定であるため、患部の細胞に到達するころには分解されてしまい、RNA干渉効果が持続しません。後者は安定性は高まるものの、肝心のRNA干渉効果が低下し、非天然のRNAが生体に与える毒性も未知のままでした。 |
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――その問題を解決する方法を見つけたわけですね。
阿部:私たちは毒性を持たない天然のRNA分子を用いて、生体内で安定化させる方法を模索しました。研究を進める中で、天然のRNA分子を簡単な化学合成によってダンベル型構造にすることで、毒性を持たず、しかもRNA干渉効果が長持ちするようになることを発見したのです。サイズは約10nmで、筋力トレーニングで用いるダンベルのような形をしています。ダンベル型RNAには血液中の分解酵素が認識するRNA末端部分がないため、病巣の患部細胞に到達するまで生体内で分解されません。しかし、患部細胞に到達すると細胞内のダイサーと呼ばれる酵素でダンベル型のループ部分が除去され、二本鎖RNAとなってRNA干渉効果を発揮するのです(図)。 |
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――今後、どのようなことが期待されますか。
阿部:二本鎖RNA分子の両端を結び、ダンベル構造をつくるだけでRNA分子を生体内で安定化させることができました。この発見は今後、RNA医薬品を分子設計する上でとても有用な指針になると考えています。とても楽しみですね。■ |
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※研究成果は、米国化学会誌『Journal of the American Chemical Society』オンライン版(11月15日)に掲載され、フジサンケイ ビジネスアイ(11/16)に取り上げられた。 |
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花粉形成の司令塔遺伝子を発見
花粉をつくれない作物、 |
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――花粉形成のメカニズムについて教えてください。
伊藤:まず、葯(やく)(雄しべ)の中で花粉母細胞が、減数分裂を繰り返します。分裂した細胞は将来の花粉となる小胞子となり、さらに発生が進むと特殊な構造をした外壁ができます。この花粉壁は分解されにくく、植物の種類によって異なる独特な模様を持ちます。その特徴から、近年、古代のベニバナ花粉が見つかるなど話題となりました。シロイヌナズナでは、小胞子が2回細胞分裂して、一つの花粉管細胞と二つの精細胞を持った成熟花粉となって受粉、発芽に備えます。 |
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――花粉形成に重要な遺伝子をどのように発見したのですか。
伊藤:私たちは花粉成熟過程の分子メカニズムを解明する研究を進めていました。そして2002年、花粉母細胞が減数分裂後の過程で異常を引き起こし、花粉をつくることができない雄性不稔(ゆうせいふねん)の突然変異体ms1から、その原因となるMS1遺伝子を単離することに成功したのです。その後、この遺伝子をさまざまに改良して、花粉をつくらないメカニズムを詳しく分析することにしました。 |
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――どのような実験を行ったのですか。
伊藤:MS1遺伝子がつくり出すMS1タンパク質が、花粉形成にかかわる遺伝子の転写を制御することを示す実験を行いました。もし、MS1タンパク質が転写活性化因子として機能するならば、MS1遺伝子と転写抑制ペプチドを合わせた遺伝子を野生型シロイヌナズナに導入すると、ms1突然変異体と似た表現型を示すはずです。実際に花粉壁の形成が阻害されるなど、予想通りms1突然変異体と似た形質を示しました(図)。このことから、MS1タンパク質は、花粉形成過程で働くさまざまな関連遺伝子の発現を調整する司令塔の役割を担う「転写制御因子」であることがはっきりしました。 ![]() |
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――花粉をつくらないシロイヌナズナをつくることに成功したわけですね。
伊藤:そうです。MS1遺伝子を改変し、導入することで、花粉をつくらないシロイヌナズナをつくることができます(図)。この技術は、作物栽培や観賞用の花卉(かき)植物などに応用することもできます。例えば、花粉がないと種子をつくることができなくなる反面、花持ちが良くなるなどの利点があるのです。今後、品種改良にも威力を発揮するでしょう。 |
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――ほかにも応用できますか。
伊藤:ある作物では花粉の発達中、低温・高温などの環境ストレスに敏感になります。例えば、イネの穂ばらみ期障害性冷害が北海道や東北地方で発生しますが、これは低温感受性が高まるためで、成熟花粉が十分にできず穂がまばらとなります。この遺伝子を手掛かりに花粉発達機構を明らかにすることで、そうした環境変化に強い作物の開発にもつながると考えています。■ |
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※本研究成果は米国の科学雑誌『The Plant Cell』(11月号)に掲載されたほか、日経産業新聞・日刊工業新聞(11/27)などに掲載された。 |
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重力レンズから宇宙の謎に迫る研究者
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![]() 「小学生のころは毎月、東京・渋谷にあった五島プラネタリウムに通っていました」と語る稲田研究員。そのころから、夢は宇宙の研究者。中学生になり、科学雑誌で一般相対性理論に出会う。「数式など難しいことは分かりませんが、ワクワクしました」。早稲田大学に進み、念願の一般相対性理論を学んだ。しかし、大学院は東京大学へ。選んだのは、観測的宇宙論の研究室。理論から観測へ、戸惑いはなかったのだろうか。「宇宙を観測すると、次々と新しい発見があるんです。楽しくて、とても興奮します。理論に対する想いは、あっという間にどこかに行ってしまいました」 |
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現在の研究テーマは、重力レンズ現象だ。「スローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)というプロジェクトが観測した数十万個もの天体の中から、重力レンズ現象を探しています」。どうやって? 「SDSSの解像度は高くないので、重力レンズ現象があっても実際には複数の像は見えません。でも、重力レンズ現象があると、天体が丸ではなく、少しゆがんで見える。来る日も来る日も画像を見て、ゆがんでいるものを探したんです。5万個以上は見たかなあ。さすがに視力が落ちました(笑)」
地道な努力を重ね、重力レンズ現象の候補を選び出すプログラムを構築し、候補天体をハワイのマウナケア山頂にあるハワイ大学の望遠鏡などで観測して確かめた。2003年、銀河団による重力レンズ現象を世界で初めて発見。「私は、重力レンズ現象を発見した初めての日本人なんですよ」 2007年には、重力レンズ現象が起きている確率を調べ、宇宙の膨張速度が加速していること、そして、それは暗黒エネルギーが原因であることを明らかにした。この成果は9月26日にプレスリリースされ、新聞各紙に取り上げられた。「初めての子どもが10月1日に生まれたんです。すると、その日に両親から“新聞におまえの研究が出ているぞ”と連絡が。取り寄せてみると……記事は小さく私の名前もない。数日前に掲載された別の新聞の記事は大きく、名前も出ていたので、ちょっと残念(笑)。でも、いい記念ですね」 |
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年に数回、マウナケア山頂へ通う稲田研究員。「標高は4200m。毎回、軽い高山病になり、吐き気や頭痛と闘いながら観測しています。でも、新発見の興奮を一度味わってしまったら、やめられません」。山頂で見る星空は、きれいなことだろう。「それが、期待したほどではないんです。空気が薄いので脳の働きが鈍くなっているからだとか。中腹にある宿泊施設から見る星空の方が、はるかにきれいです」
研究する上で心掛けていることは? 「数字だけでなく、実際にモノを見るようにしています」。そして「机の上をきれいにしておくこと。観測に行くと、来たときよりきれいにして帰ります。汚いところに幸運は舞い込んできませんからね」 |
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「しばらくは重力レンズにこだわって研究を続けたい」という稲田研究員。重力レンズの魅力とは? 「ダイナミックで美しいこと。実際には存在しない天体が見える。面白い!」。これまでに解析したSDSSのデータは40%ほどだ。今は全データ踏破を目指し、日々奮闘している。最後に「ちょっと不思議な結果が出ているんですよ」と教えてくれた。次の成果が楽しみだ。 ■
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岸田科学技術政策担当大臣、和光研究所を視察
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岸田文雄 科学技術政策担当大臣が12月3日、理研和光研究所を視察しました。岸田大臣は、野依良治 理事長より理研の概要説明を受けた後、理研で活躍する外国人研究者数名と外国人研究者の研究環境、生活環境について率直な意見交換を行いました。その後、世界唯一の「超伝導リングサイクロトロン」、脳の活動を磁気で測定する「fMRI」を見学。さらに緑川レーザー物理工学研究室では、世界で一番強力なX線を発生させる実験装置の説明を受けました。視察を終えた岸田大臣は、“さまざまな研究施設が同じ敷地内にあり、同時進行で世界最高水準の研究を行っていることが理研の偉大なところ”と感想を述べられました。 |
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「最先端科学を学ぼう! 教員研修会 in RIKEN」を開催
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12月26日、「最先端科学を学ぼう! 教員研修会 in RIKEN」(主催:埼玉県立総合教育センター)が理研和光研究所で、首都圏の中学・高校の理数系教員約90名を迎えて開催されました。この研修会は、子どもたちの“理科離れ”が深刻化する中、理研の最先端の研究に教員が直接触れることで、参加者一人ひとりの資質の向上を図り、今後の理科教育に生かしてもらうことを目的として開催されたものです。野依良治 理事長のあいさつの後、仁科加速器研究センターの森田浩介 准主任研究員が「新元素の探索」をテーマに講演し、参加した教員から“森田先生の研究に対する情熱に感動した”という感想が多く寄せられました。研究室訪問では六つのコースに分かれ、最先端の研究施設をそれぞれ見学しました。また、野依理事長と教員7名が教育の現状やあるべき姿などについて懇談し、実り多い研修会となりました。 |
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「理研サイエンスセミナー」を開催
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理研の研究者と芥川賞作家・平野啓一郎氏が対談する「理研サイエンスセミナー〜平野啓一郎が読み解く科学のものがたり〜」(3回シリーズ)が、六本木アカデミーヒルズで開催されました。第1回「やっぱり誰かを愛したい 〜言葉と愛に隠された秘密〜」(2007年11月30日)は脳科学総合研究センターの岡ノ谷(おかのや)一夫チームリーダーが「愛」をテーマに、第2回「1000年でも2000年でも生きたい 〜体内時計がにぎる鍵〜」(2008年1月20日)は発生・再生科学総合研究センターの上田泰己(ひろき)チームリーダーが「体内時計」をテーマに、ファシリテーターを務めた中村征樹 大阪大学准教授の進行のもと、平野氏と対談しました。両日とも満員となる100名以上の参加があり、熱心に質疑応答が交わされ、大盛況でした。 第3回は3月21日に「自己」をテーマに免疫・アレルギー科学総合研究センターの谷口克(まさる)センター長を迎えて開催します。 |
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宮島龍興 元理事長 逝去
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当研究所の元理事長で、名誉相談役の宮島龍興(たつおき)氏が2007年11月26日、逝去されました。宮島元理事長は東京大学理学部を卒業後、朝永(ともなが)振一郎博士のもとで素粒子・原子核物理を研究。東京教育大学(現・筑波大学)教授・学長、原子力委員会委員、筑波大学学長を歴任。1980年4月から1988年4月まで当研究所の理事長として理研の発展のために尽力されました。理事長退任後は名誉相談役に就任、(財)コンピュータ教育開発センター理事長、日本教育工学振興会会長を務められました。謹んでご冥福をお祈りします。 |
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瀬戸内、室津、ピザ窯、そしてXFEL
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私が理研に着任したのは2002年春のこと。目的はXFEL(X線自由電子レーザー)の技術開発。が、まだ計画さえなかった。播磨研究所は、ご存知SPring-8の敷地にあって、西播磨の僻地(へきち)である。職員は、近隣の姫路、相生(あいおい)、龍野(たつの)か、山の上の「光都(こうと)」に住む場合が多い。が、私は瀬戸内沿いに住むことにした。私にとって瀬戸内は、木下恵介監督の映画「二十四の瞳」の小豆島(しょうどしま)と、篠田正浩監督の映画「瀬戸内少年野球団」に出てくる家々の密集した港町、そしてテーマ曲「イン・ザ・ムード」の軽快なリズム♪ そう、瀬戸内は私にとってあこがれの地。ひょっとして毎日魚釣りでもできそうな気がして、港町「室津(むろつ)」を選んだ。「室津に住んでいます」と言うと、「えー!室津〜!?」と驚かれるくらいの僻地。私は毎日、海の僻地から山の僻地に通勤。信号のあまりない30kmの道を、ぴたり40分で快適に通えるわけだし、海あり山ありの別荘暮らしを味わえる。室津は自然の良港、瀬戸内の鯛や舌平目、地物のたこ、そして夏の味覚、鱧(はも)の有数の水揚げ港となっている。しばしば村の方からお魚を頂きありがたい。しかし生活は不便至極。近くにコンビニもない。いいレストランもない。あるとき、家族で東京のことが懐かしく、「イタリアン食べたいねー、ピザ食べたいねー」という声に「よーし、なけりゃーおれがピザ窯つくったるー!」と宣言した。室津に住んでから3年目の夏のことだった。私は、30代半ばにローマに留学し、ピザ窯をよく眺めていたので、記憶を頼りに設計図を描き、さっそく耐火れんがを100個近く買ってきた。 一方、山の上のSPring-8では、XFELに使う熱電子銃を開発中で、高温のヒーターに苦労していた。ピザ窯も高温断熱が重要で、不思議に電子銃とピザ窯が同じ問題に見えてきた。ピザ窯の熱源は炭火、つまり燃えるカーボン、電子銃にはグラファイトのヒーター、これもカーボン。違いは、大気中か真空か、できるのがピザかX線レーザーか。共通点は、出来上がりを待っている人がたくさんいること。よーし、頑張るぞ。 秋になって、ついにピザ窯が完成した。さっそく家内がイタリア産のセモリナ粉で焼いてみると、素晴らしい出来ではないか。庭で育てたハーブ、瀬戸内の魚介、いろいろ乗せてみるのは、ピザ生地に絵を描いているような気分。これはいける! というので、職場の仲間はもちろん海外からのお客さまのもてなしに大活躍。 さて、実験室ではスタッフの苦労の末、炭を使ったヒーターの電子銃ができた。おー! ピザ窯で苦労した甲斐(かい)があった。さらにその勢いで試験加速器を建設。2006年にはレーザー発振に成功。今は大きな予算がついて、XFELの建設に取り組んでいるところ。 播磨は理研の本拠地、和光キャンパスから見ると遠い存在かもしれない。どうやって暮らすの、と心配もされよう。しかし、田舎の暮らしに慣れれば素晴らしい天地。XFEL建設も順調、あと数年もすれば新しい光が見られよう。「イン・ザ・ムード」のテーマに乗って、30kmの道を愛車MR-Sで通う毎日。今日も海がきれいだ! ■ ![]() |
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