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体づくりを制御する
細胞たちのコミュニケーション 佐々木 洋 |
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私たちの体づくりは、たった1個の受精卵から始まる。 受精卵は卵割を繰り返して細胞の数が増えるが、 発生のごく初期の段階では、円筒形の細胞の塊にすぎない。 その後、その塊がダイナミックに変化して、私たちの 複雑な体が形づくられていく。 体づくりのメカニズムはどうなっているのか。 佐々木洋チームリーダーは、細胞の分化・増殖・移動を制御している “シグナルセンター”と呼ばれる細胞集団に注目して、そのメカニズムを 探ろうとしている。また最近、細胞と細胞との接触によるシグナルも 発生に大きくかかわっていることが明らかになった。 体づくりをめぐる最新の研究を紹介しよう。 |
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体づくりの司令塔、シグナルセンター
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「高校の生物の授業で、シュペーマンのオーガナイザー発見の話を聞きました。その話が面白くて、発生の研究をしたいと思ったのです」と佐々木洋チームリーダー(TL)。「その話を聞かなかったら、今ここにいないかもしれませんね」両生類の受精卵は卵割を繰り返し、原腸胚(はい)になると原口と呼ばれる切れ目ができて、表面の細胞が胚の内側に入り込んでいく。これは原腸陥入と呼ばれ、体づくりにおける最初の大イベントだ。イモリの原腸胚から原口の背側の部分(原口背唇(げんこうはいしん))を切り出し、別のイモリの胚に移植する実験を行ったのが、ドイツのハンス・シュペーマンである。1924年のことだ。実験の結果、一つの胚から二つの体を持つイモリが形成された。これは、原口背唇には周りの細胞を体をつくる組織へと分化させる誘導機能があることを示している。シュペーマンは、原口背唇をオーガナイザー(形成体)と名付けた。 「1個の受精卵が卵割を繰り返し、単純な形から複雑な形へとダイナミックに変わり、次第に体ができていきます。体づくりのメカニズムを知りたい。それを目指して研究をしています」。佐々木TLが研究に用いているのは、主にマウスだ。ここで、マウスの体づくりを追ってみよう(記事冒頭の図)。卵子と精子の出会い、受精がそのスタートだ。1日目、1回目の卵割によって2細胞になる。2日目には4細胞、8細胞と卵割が進み、桑実(そうじつ)胚を経て、3日目には胚盤胞となる。4日目、子宮に着床。ここから本格的な体づくりが始まるのだが、「5日目の胚には、頭や足など体の構造は見えません。円筒形をした細胞の塊です」と佐々木TLは言う。6日目に原腸胚となり、原腸陥入によって外胚葉、中胚葉、内胚葉ができて、体の前後を決める軸と体節が現れる。そして7〜10日目くらいまでに、頭、胴、足、尾の順に体の構造がつくられていく。その後、15日目にかけて器官が形成される。さらに成長を続け、受精から20日目、いよいよ誕生だ。 円筒形の細胞の塊から、どのようにして複雑な体の構造ができるのか。そのメカニズムを解き明かすために佐々木TLが注目しているのが、受精後5〜10日目の初期胚で出現する“シグナルセンター”だ。「発生の過程では、細胞の分化や増殖、移動などが起きます。それは無秩序に起きるのではなく、時間的・空間的に制御されています。全体の調和を取っているのが、シグナルセンターと呼ばれる細胞集団です」。シグナルセンターは、さまざまな分子を分泌して周りの細胞に働き掛け、分化・増殖・移動を誘導する。 シュペーマンが発見したオーガナイザーは、代表的なシグナルセンターだ。マウスでは、受精後6.5日目にオーガナイザーが形成され、その指令で頭部が形づくられる(図1)。7.5日目にオーガナイザーはノードというシグナルセンターに形を変え、胴部の形成を誘導する。8.5日目になると、ノードは脊索(せきさく)というシグナルセンターになり、脊索の最後端が尾の形成を誘導する。 「シグナルセンターがどのように形成・維持され、どのように周りの細胞の挙動を制御しているのか。それが分かれば、体づくりのメカニズムを理解できるのではないか。これまでに面白い発見がいくつもあるのですが、今回は最新の二つの研究を中心に紹介しましょう」 ![]() |
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情報伝達経路の使い分けを制御
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胚誘導研究チームでは、シグナルセンターがどのように周りの細胞の挙動を制御しているのかを知るため、“シグナルセンターで発現している遺伝子をたくさん見つける”という戦略を取っている。そうして見つけた遺伝子の中で特に注目したのがCthrc1だ(図1)。「Cthrc1はノードと脊索で特異的に発現していること、また分泌性のタンパク質をつくることから、周りの細胞に何らかの働き掛けをしていると考え、解析を進めていったのです」と佐々木TL。「その結果、Cthrc1は、Wnt(ウィント)という分子による細胞の外から内への情報伝達経路(Wnt経路)で重要な働きをしていることが分かりました」
Wnt経路は、細胞の増殖や形態形成など発生において重要な働きを担っていること、また“古典的Wnt経路”と“Wnt/PCP経路”の2種類があることが、すでに知られている。PCP(planer cell polarity:平面内細胞極性)とは、細胞が平面の軸に沿って決まった方向性を持って並ぶことである。古典的Wnt経路は遺伝子の発現を制御することで増殖や分化にかかわり、Wnt/PCP経路は細胞骨格を制御して細胞の形態を変えることは知られているが、Wntという一つの情報伝達分子がどのように二つの経路を使い分けるのかは、よく分かっていなかった。 佐々木TLは山元進司研究員とともに、Cthrc1遺伝子を欠損させたさまざまなノックアウトマウスをつくり、どのような異常が起きるかを調べていった。そしてついに、Cthrc1が平面内細胞極性にかかわっている証拠をつかんだ。内耳(ないじ)の蝸牛管(かぎゅうかん)にはコルチ器という音を感じる器官があり、有毛細胞が同じ方向を向いて4列に並んでいる。ところが、Cthrc1が働かないようにした、あるノックアウトマウスでは、有毛細胞がばらばらな方向を向くことが分かったのだ。「これは平面内細胞極性に異常がある、つまりCthrc1がWnt/PCP経路にかかわっていることを示しています。Cthrc1は、Wnt/PCP経路にかかわる三つの分子(Wnt、Frizzled、Ror2)をつなぐように結合することで安定化させ、その経路の活性化を促進していることも分かってきました。Cthrc1は、Wnt/PCP経路を選択的に活性化することで、二つのWnt経路の使い分けを可能にしているのです」。Wnt経路の使い分けについて、細胞外で関与する分子が見つかったのはCthrc1が世界で初めてで、大きな注目を集めている。 しかし、胚誘導研究チームはあえて、Cthrc1についての研究にいったん区切りをつけた。それは、もっと興味深い現象が見つかったからだ。
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発生における細胞間の接触シグナル
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細胞を培養する際、細胞の密度が低いときには勢いよく増殖するが、密度が高く互いに接触するようになると増殖が止まることが知られている。“細胞同士が接触している”というシグナルが増殖を止めるのだ。これを「接触阻止」と呼ぶ。生体内で接触阻止に異常が起きると、細胞が過剰増殖となり腫瘍(しゅよう)が形成される。「細胞と細胞との接触シグナルは、体づくりにも何らかの役割を果たしているのではないか。私たちは、そう考えました」
佐々木TLが注目している遺伝子は、Tead(テッド)とYap(ヤップ)だ。「Teadとの付き合いは長いですよ」と笑う。もともと佐々木TLは、シグナルセンターがどのように形成されるのかを明らかにするため、ノードと脊索で特異的に働いている遺伝子を調べていた。そして1993年、その形成に重要な働きをしている遺伝子を発見。「Foxa2(HNF3β)です。これがないとノードも脊索もできず、体が正しくつくられません。Foxa2の“エンハンサー”という特殊な配列を持つ領域に結合し、その発現量を増加させる働きをしているのが、Teadだったのです」。Yapは、Teadに結合してその働きを強めることも明らかになっている。 実は、TeadとYapが細胞間の接触シグナルにかかわっているという発見は、偶然もたらされた。Yapの発現量やその分布を調べていた大田光徳(みつのり)研究員が、細胞密度によって発現分布がダイナミックに変化することを見つけたのだ。Yapは、細胞密度が低いと核に蓄積するが、細胞密度が高くなると核に存在しなくなる。「Teadの分布は細胞密度によって変わることはありません。つまり、細胞密度が低いときは核にたくさんあるYapがTeadの働きを強め、細胞密度が高いときはYapが核にないのでTeadの働きは弱まる。細胞間の接触シグナルがYapを介してTeadの転写活性を制御しているのではないか。そんなシナリオが見えてきました」 そのころ、別のグループがショウジョウバエを用いて、Hippo(ヒッポ)という分子を介する情報伝達経路の研究を進めていた。Hippo経路は、細胞間の接触シグナルを受け取り、細胞増殖を抑制し、組織や器官の大きさを決める重要な働きをしている。調べていくと、TeadとYapは、Hippo経路で働いていることが明らかになった。佐々木TLが予想したシナリオは正しかったのだ。 「Hippo経路に異常があると細胞ががん化するので、細胞増殖の制御という点ばかりに注目が集まっています。しかし、私たちが発生での働きを調べたところ、Teadが欠損すると胚盤胞期に外側の栄養外胚葉が形成されないなど、Hippo経路は分化の制御に大きくかかわっていることが分かってきました(図2)。Hippo経路をマウスの発生とのかかわりで調べているのは、私たちだけです」 発生で細胞の挙動を制御しているのはシグナルセンターだけではない、ということになる。「シグナルセンターから分泌される分子だけでは、正常な発生はできません。分泌される分子の濃度にはゆらぎが出るため、同じ挙動をするはずの隣り合った細胞で異なった挙動をしてしまうことがあります。そのまま発生が進むと、異常が起きてしまう。そこで、隣り合った細胞同士が直接コミュニケーションを取って、シグナルセンターから分泌されるシグナルのゆらぎを補正し、互いの挙動を合わせるというシステムが働いているのではないかと考えています」 今後、細胞間の接触シグナルと制御の関係を明らかにするため、正常な細胞と変異を起こした細胞が混ざっているモザイク・ノックアウトマウスをつくり、その挙動を詳しく見ていく計画だ。「難しい技術ですが、ほかの人が見たことのない状態を観察できることでしょう。シグナルセンターから分泌されるシグナルと、細胞接着によるシグナルの両方について分かって初めて、体づくりのメカニズムを理解できるのだと思います」 ![]() |
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研究者コミュニケーション
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佐々木TLは、マウスを用いて研究をする理由を、こう語る。「究極的には、ヒトがどう発生するのかを知りたいのです。体づくりの研究はショウジョウバエやカエルで進み、基本的な原理がだいぶ分かってきました。しかし、ヒトでは受精卵が子宮に着床してから体づくりが始まる。ここがハエやカエルとは大きく違う点です。ヒトの発生を知るには、ヒトと同じように子宮に着床して発生するマウスを使って理解を深めていく必要があります」
しかし、研究する上で“着床”が大きな障害となっていることも事実だ。子宮の中は見ることができない。「私たちが開発した技術を使うと、着床後の胚を取り出し1日ほど観察することができます。しかし、本当は発生の始まりから終わりまでを、ライブで見たい。子宮の中をそのまま見ることができる技術が欲しいですね」 佐々木TLが理研発生・再生科学総合研究センター(CDB)に来て6年。「CDBには、発生にかかわる多様な分野の専門家が集まっています。相談に行くと、こちらが考えてもいなかったことを的確にアドバイスしてくれます。遠回りせずに、思ったことがすぐにできる、とても良い環境です」。細胞がコミュニケーションを取りながら体づくりを進めていくように、CDBでは研究者間のコミュニケーションによって体づくりの理解が進んでいく。■
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糖尿病の強力な関連遺伝子を発見!
前田士郎 |
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「糖尿病のなりやすさに関連する遺伝子を探す研究が 世界中で20年余りにわたり行われてきましたが、そのほとんどは 失敗に終わったといわれてきました。 しかし、状況がこの2年で一変しました」 こう語る前田士郎チームリーダーたちは今年、日本人を含む 東アジア人の糖尿病発症に強くかかわる遺伝子を発見した。 今、糖尿病の克服を目指した研究が急速に進展している。 |
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40歳以上の3人に1人は糖尿病に
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厚生労働省による2006年の調査によると、日本の糖尿病患者数は820万人、その予備軍は1050万人に上り、40歳以上の4人に1人が糖尿病あるいは予備軍であるという結果が示された。この割合は高齢化社会の到来とともに急増しており、最新の調査結果では3人に1人の割合に迫る勢いだ。世界的にも糖尿病患者数は急増している。2005年に2億3000万人だった患者数が、2025年には3億8000万人と約1.6倍になると予測されている。糖尿病の克服は人類共通の課題だ。糖尿病は、血液中のブドウ糖の量(血糖値)が増える病気である。食べ物の中の糖分は消化されてブドウ糖となり、血液に乗って全身の細胞に送られる。このとき、膵臓(すいぞう)のβ細胞から分泌されたインスリンというホルモンが働き、細胞内にブドウ糖を送り込む。細胞はブドウ糖をエネルギー源として使う。インスリンの分泌量が減ったり効き方が悪くなったりすると、ブドウ糖が細胞内に取り込まれなくなり、血液中にたまっていく。こうして血糖値が高くなったままの状態が続くのが糖尿病だ。 ブドウ糖が細胞に取り込まれなくなると、細胞のエネルギー源が不足して、全身がだるくなったり、やせてしまったりする。また血糖値が高い状態が続くと、細い血管にダメージを与え、末梢神経や網膜、腎臓の病気を併発する場合が多い。日本では毎年1万人以上が、糖尿病による腎臓病(糖尿病性腎症)が原因で人工透析が必要な状態になっている。糖尿病性腎症は人工透析が必要になる原因の第1位となっている。 糖尿病にはいくつかの種類がある。ここでは、糖尿病患者の8〜9割以上を占める、主に成人で発症する2型糖尿病の研究について紹介しよう。 |
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長く続いた“悪夢の時代”
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太ったり年を取ったりすると、糖尿病になりやすくなる。内臓脂肪がたまると、その脂肪細胞からインスリンの効きを悪くするホルモンが出ることも知られている。
「ただし、太ったり年を取ったりしても、糖尿病になる人とならない人がいます。その違いは遺伝的な要因によることが約30年前から考えられており、糖尿病のなりやすさに関連する遺伝子を探す研究が世界中で行われるようになりました。しかし、つい最近までどこもうまくいきませんでした」。前田士郎チームリーダー(TL)は、これまでの研究状況をそう振り返る。 糖尿病は、一つの遺伝子に変異があるとほぼ100%発症する単一遺伝病ではない。「糖尿病になるかどうかは、肥満や加齢といった環境因子が6〜7割、遺伝要因が3〜4割だと考えられています」 糖尿病になりやすい複数の関連遺伝子を持ち、それに環境因子が加わることで、糖尿病が発症すると考えられている。関連遺伝子をたくさん持っていても、発症するとは限らないのだ。糖尿病のような生活習慣が発症に大きくかかわる生活習慣病の関連遺伝子は、単一遺伝病の原因遺伝子よりも見つけにくい。 「これまで、さまざまな遺伝子が糖尿病の関連遺伝子ではないかと発表されました。しかし、ほかの研究者が追試してみると検証できない。ほかの分野の研究者からは、糖尿病のような生活習慣病の関連遺伝子などそもそも存在せず、そんな研究は邪道であるともいわれることがありました。また同じ分野の研究者でも、2型糖尿病の関連遺伝子研究はまさにナイトメアー(悪夢)であり手を出さない方がいい、との声が上がるほどでした。そういう悪夢のような暗黒の時代がずっと続いてきたのです」 |
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ゲノムワイド関連解析
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「ところが」と前田TLは続ける。「この2年で研究状況が一変しました。糖尿病の関連遺伝子が次々と見つかり、検証されたのです」。いったい何が起きたのか。糖尿病の関連遺伝子を探すためには、糖尿病患者とそうでない人の集団で、遺伝情報のどこに違いがあるかを統計的に比較する必要がある。そもそも遺伝情報はDNAにある4種類の塩基、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の並び方(塩基配列)で書かれている。ヒトの全遺伝情報(ヒトゲノム)は約30億の塩基配列からなる。2003年、ヒトゲノム計画によりその塩基配列がすべて解読され、99.9%の塩基配列は誰もが同じだが、残りの0.1%は個人ごとに違っていることが分かった。このような塩基配列の個人差を「多型(たけい)」と呼ぶ。多型にはいろいろなタイプがあるが、最も多いのが1塩基だけが違っている「SNP(スニップ)(Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)」だ(図1)。ヒトゲノムには、約1000万ヶ所のSNPがあると推定されている。 「その中のごく一部の多型が、病気のなりやすさや、薬の効き方、薬の副作用の現れ方に影響を及ぼしていると考えられます。しかし10年ほど前までは、1ヶ所のSNPを数百人分調べるのに1ヶ月もかかっていました」 糖尿病の関連遺伝子を調べる研究がこれまでうまくいかなかったのは、調べる多型の数も集団の人数も少な過ぎたからだ。糖尿病の関連遺伝子を見つけるには、糖尿病患者とそうでない人、それぞれ数千人の集団を対象に、ゲノム全域にわたって多型を比較する「ゲノムワイド関連解析」を行う必要がある。「それが2年ほど前に、やっと可能になったのです」 |
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研究者人生を変えた1時間
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前田TLは理研に来る前の約15年間、内科医として臨床の現場に携わるとともに、糖尿病や糖尿病性腎症にかかわる遺伝子を突き止める研究を進めてきた。
「滋賀医科大学にいた1999年のことです。教授の呼び掛けで内科のスタッフ10人ほどが集められ、ある人の講演を聴くことになりました。それが、現在、理研ゲノム医科学研究センター(CGM)を率いている中村祐輔センター長でした。恥ずかしながらそのときまで、理研も中村センター長の名前も知りませんでした」 当時、中村センター長は、ゲノム全域にわたってSNPを調べ生活習慣病の関連遺伝子を探し出す研究を世界に先駆けて実現するため、CGMの前身である理研遺伝子多型研究センター(SRC)を2000年4月に設立する準備を進めていた。「中村センター長の講演は1時間くらいだったと思います。1ヶ所のSNPを調べるのに1ヶ月もかかっていた時代に、ゲノム全域にわたるSNPを調べて関連遺伝子を探すという構想に、とにかく圧倒されました。私はその講演を聴いて、大学を辞めてSRCのプロジェクトに参加することを決断しました。妻には“どうして?”と責められましたが……(笑)」 |
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国際ハップマッププロジェクト
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SRCが設立された2000年当時、SNPを調べて生活習慣病の関連遺伝子を探し出すことはできないという意見も多かった。そんな中、SRCでは2002年に、SNPを用いて心筋梗塞(こうそく)の関連遺伝子を発見。これは、ゲノム全域を調べて生活習慣病の関連遺伝子を突き止めた、世界初の研究例となった。さらにSRCから関節リウマチなど生活習慣病の関連遺伝子の発見が相次いだ。
SRCのこれらの成果は世界を動かした。「国際ハップマッププロジェクト」が2003年から国際協力でスタートしたのだ。現在、ヒトゲノムの中に約600万ヶ所のSNPが見つかっている。しかしゲノム全域を調べる方法では、数千人の集団の600万ヶ所にも及ぶSNPをすべて比較して関連遺伝子を見つけるには、時間もコストもかかり過ぎる。 実は、もっと効率的な方法がある。ゲノム上で近い場所にある複数のSNPは、ひとまとまりで子どもに遺伝する。そのため、例えば、あるSNPがGならば近傍にあるSNPの中には必ずC、Tならば必ずTになるものが存在する(図2)。このような関係がある程度保たれていれば、代表となるSNP(タグSNP)だけを調べれば、ほぼすべてのSNPの情報が分かる。そしてゲノム全域のタグSNPを調べれば、ゲノム全域にわたるSNPの情報をほぼすべて知ることができるのだ。 これらSNP情報の整備が国際ハップマッププロジェクトで行われ、2005年10月に完成した。そして50万〜60万のタグSNPを調べれば、ゲノム全域のほぼすべてのSNPを知ることができると現在は考えられている。 この国際ハップマッププロジェクトにCGMの研究グループは大きな貢献を果たした。「ただし、ハップマップの情報を使って糖尿病の関連遺伝子探しで先行したのは、欧米の研究グループです。欧米人を対象にした大規模な研究がいち早く始まり、現在までに十数個の関連遺伝子が報告されています」。日本でも2003年から、文部科学省による「個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(オーダーメイド医療実現化プロジェクト)」が始まった。47疾患30万症例のサンプルが集められ、CGMがそのすべての疾患のSNP解析を行っている。 前田TLたちはそのデータを用いてゲノムワイド関連解析を行い、KCNQ1という遺伝子が糖尿病と強く関連していることを発見した。「日本人の糖尿病患者の約20%がこの遺伝子の影響を受けていると推定されます(図3)。日本人の糖尿病で、これほど強い関連遺伝子は発見されていませんでした。この発見は数千人の集団を調べた成果です。しかし、それでもまだKCNQ1が糖尿病の関連遺伝子であることは確信できませんでした」 前田TLたちは、シンガポールとデンマークの研究グループと共同研究を行い、それぞれの国の人たちでもKCNQ1が糖尿病と関連していることを突き止めた。その関連性は、シンガポール人と日本人は同じように強いが、デンマーク人ではそれほど強くなかった。「人種によって遺伝要因が異なり、糖尿病を発症する仕組みも違っていると考えられます。KCNQ1は日本人を含む東アジア人の糖尿病に特に強くかかわる遺伝子です。ただし、その段階でもまだ、KCNQ1が糖尿病の関連遺伝子であることをすべての人が信用してくれるのか不安でした。そこに本当に神様のお導きとしか考えられないのですが、偶然にも、私たちと同時期にKCNQ1を糖尿病の関連遺伝子として独自に発見した別の研究グループがありました。厚生労働省のミレニアムプロジェクトの糖尿病チームです。これでやっと、みんなが信用してくれると確信しました」
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オーダーメイド医療を目指して
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「関連遺伝子を見つけることが私たちのゴールではありません。関連遺伝子と糖尿病のかかわり方のメカニズムを探り、新しい治療薬を開発する。そして、この関連遺伝子を持っている人にはこの治療薬、別の関連遺伝子を持っている人には別の治療薬というように、個人の遺伝情報に応じた最適の治療法・投薬を行うオーダーメイド医療を実現する。それが私たちの究極の目標です」
現在までに見つかった十数個の糖尿病関連遺伝子の機能はほぼ分かっている。しかし、それらがどのように糖尿病に関係しているかは解明されていない。例えば、KCNQ1は細胞膜にあるカリウムの通路(カリウムチャネル)の遺伝子であり、心臓の筋肉細胞で重要な役割を果たしていることが知られている。しかし糖尿病とのかかわりは、今までまったく知られていなかった。 「KCNQ1は、膵臓のβ細胞でインスリンの分泌量の調節にかかわっていると私たちは予想しています(記事冒頭の図)。それをこれから確かめていきたいと思います」 関連遺伝子と糖尿病とのかかわり方のメカニズムが解明できたとしても、そのメカニズムに基づく新しい治療薬を開発するには、かなりの時間が必要だ。「しかし、それぞれの関連遺伝子のメカニズム解明が進めば、患者さんの遺伝情報を調べて、どのような病因で糖尿病が発症するのかがより明確に分かるようになります。そうすれば、既存の治療法や薬を患者さんの病因に応じて最適な形で選択することができます。また関連遺伝子を複数持つ人に生活習慣の改善を強く勧めることもできます。そのようなオーダーメイド医療を5年以内に実現できるように、研究を進めていきたいと思います」 近い将来、生活習慣病の関連遺伝子の研究により、臨床の現場が一変し始めるだろう。■
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関連情報
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特願2008-069220「II型糖尿病の検査方法」
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スギ花粉症の予防・治療用ワクチン
臨床応用へ向け橋渡し研究スタート |
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日本人の約15%が罹患しているといわれ、 患者数が毎年増え続けているスギ花粉症。 しかし、スギ花粉症の治療は対症療法が中心のため、 毎年春になると、鼻づまりやくしゃみ、目のかゆみに 悩まされる人も多いだろう。根治療法の開発が切望される中、 理研では2008年6月からスギ花粉症の 予防・治療用ワクチンの臨床応用に向けた トランスレーショナルリサーチを開始した。 スギ花粉症ワクチンを開発した 免疫・アレルギー科学総合研究センター(RCAI)の 石井保之チームリーダーに、 ワクチンの研究開発の現状と展望を聞いた。 |
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基礎研究と臨床試験の間をつなぐ
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──スギ花粉症の予防・治療が可能になる、と期待してよいのでしょうか。石井:ようやく一歩踏み出した、というところです。RCAIのワクチンデザイン研究チームではスギ花粉症のワクチンの研究を2001年から進め、マウスなどの動物実験で、その効果と安全性を確認しています。ワクチンが免疫反応を抑制して花粉症を予防・治療するメカニズムの解明も進んだことから、臨床応用に向けたトランスレーショナルリサーチ(TR)、橋渡し研究を2008年6月に開始しました。これが、理研で臨床応用を目指したTRの第1号となります。 ──トランスレーショナルリサーチとは。 石井:基礎研究と臨床試験の間をつなぐ研究のことで、TR非臨床研究とTR臨床研究の2段階に分けられています(図1)。TR非臨床研究では、ヒトへの投与基準を満たすスギ花粉症ワクチンをつくり、動物での毒性試験などを行います。それをクリアするとTR臨床研究に進み、患者さんを対象に試験を行います。そこで安全性と薬効が確認された後、臨床試験を受けて承認審査へと進みます。 ![]() |
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ワクチンの安全性と効果を確認
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──スギ花粉症の治療の現状は。石井:スギ花粉が体内に入ってくると、免疫にかかわる細胞が連携して働き、スギ花粉に対するIgE(アイジーイー)(免疫グロブリンE)という抗体が大量につくられます。IgE抗体とスギ花粉が結合するとヒスタミンなどの化学物質が放出され、鼻水、くしゃみ、目のかゆみなどの症状が出ます。これがスギ花粉症で、現在は症状を緩和させる対症療法が中心です。 唯一の根本治療は減感作(げんかんさ)療法で、スギ花粉から抽出したエキスを皮下に注射したり、舌の下に垂らして投与します。投与する抗原の量を徐々に増やしていくことで、スギ花粉に対して免疫反応が起きない「免疫寛容」という状態にするものです。しかし、1〜5年にわたって頻繁に投与しなければいけないうえに、効果が出ない患者さんもいます。抗原を投与するので、アナフィラキシーショックという急激な強いアレルギー反応が起きる危険もあります。何よりも、この治療法の作用メカニズムが分かっていないという大きな問題があるのです。 ──開発したスギ花粉症ワクチンはどのようなものですか。 石井:2種類のスギ花粉抗原を人工的につなぎ合わせ、ポリエチレングリコール(PEG)という分子を付けたものです。この人工抗原を投与すると、免疫寛容の状態になります。私たちが開発した人工抗原は天然のスギ花粉抗原とは形が違うため、IgE抗体と結合できません。それは、スギ花粉症の患者さん100名の血清を使った実験で確認しています。IgE抗体と結合しないということは、アナフィラキシーショックを誘発する危険性が極めて低く、安全であることを意味します。 ──予防用と治療用、2種類のワクチンがあるのですか。 石井:まずは人工抗原を投与する予防用ワクチンの研究を先行させます。症状がない時期に投与しておけば、スギ花粉が飛散する季節になっても症状がひどくならずに済みます。ワクチンは液体で、舌の下に垂らします。 治療用ワクチンは、細胞膜の構成成分であるリポソームという物質でつくったカプセルの中に人工抗原を入れます(図2)。リポソームにはα-GalCer(ギャルサー)という物質を組み込んでおきます。それがナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)を活性化させ、IgE抗体の産生が減ります。その結果、花粉症の症状を引き起こすヒスタミンなどの放出量が減るのです。人工抗原だけの予防用ワクチンよりも免疫反応の抑制作用が強いので、症状が出ているときでも効果があります。 |
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患者さんを対象としたTR臨床研究も実施
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──どのような体制でTRを進めるのですか。
石井:私たち研究者だけでは限界があります。そこで、株式会社レグイミューンという理研ベンチャーを立ち上げました。抗体の製造・管理などは同社で行います。また、理研には医療施設がないので、患者さんを対象とするTR臨床研究はできません。そこで、スギ花粉症の治療で実績のある大学病院や相模原病院などで構成するアレルギー臨床ネットワークに協力していただき、TR臨床研究を進めます。進捗状況は随時、理研横浜研究所のトランスレーショナルリサーチ調査・評価委員会に報告し、審査が行われます。 ──私たちがこのワクチンを使えるようになるのは、いつごろですか。 石井:TR非臨床研究が2〜3年、TR臨床研究が4年ほどかかります。新薬の臨床試験を経て、認可されるのは10年後くらいでしょうか。 ──臨床応用を目指す上で問題はありますか。 石井:TR臨床研究まで順調に進んでも、臨床試験に入るには製薬会社の協力が必須です。しかし、製薬企業の反応がいまひとつなんです。スギ花粉症のマーケットは主に日本に限られること、命にかかわる重篤な疾患ではないことなどが、その理由でしょう。しかし、花粉症の患者さんは国内で2000万人にも達し、その6〜7割がスギ花粉症です。今も確実に増えています。花粉症で作業能力が落ちることによって、年間1兆円を超える経済損失があるとの試算もあります。また、アレルギー関連の医療費は、年間約2000億円にも上ります。ほとんどが対症療法なので、患者数が増えれば、その額は膨れ上がる一方です。ワクチンで予防・治療ができれば、経済損失を軽減させることができ、医療費も大幅に減ります。 私たちが開発した人工抗原のつくり方は、ほかのアレルギー疾患や免疫疾患のワクチンに応用できます。決して小さなマーケットではないんです。私は、それを声を大にして言いたい。早い時期から製薬会社が加わってくれれば、認可までの期間が一段と縮まります。 ──石井チームリーダーにとってのゴールは。 石井:安全性、薬効を確認し、製薬会社に渡せるものをつくり上げることです。以前、製薬会社の研究所にいたときからアレルギーを根本的に治したいと考えていましたが、ここまでできるとは正直思っていませんでした。でも、まだ1合目を越えたくらい。トランスレーショナルリサーチのスタートをきっかけに、一気に頂上まで駆け登りたいと思います■ |
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脊椎(せきつい)動物では、たった一つの受精卵が分裂を繰り返し、個体発生の早期の段階である胚(はい)として細胞の数を増やしながら多様な組織を形成し、その後、高度な機能を持つそれぞれの器官・臓器へ、そして一個体である胎児へと発生していく。この発生過程で、ほ乳類の場合には、胚と胎児の生育環境は母体の栄養状態や発熱による温度変化などさまざまな外的影響を受けるにもかかわらず、脳をはじめ主要な器官・臓器の大きさや形は、個体によらず一定に制御されている。しかし、その制御の分子メカニズムは、これまで不明だった。理研発生・再生科学総合研究センターの細胞分化・器官発生研究グループは、アフリカツメガエルを用いて、タンパク質「ONT1」が初期胚の脳を一定な大きさにする制御因子であることを明らかにした。この成果について、笹井芳樹グループディレクターに聞いた。 |
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どんな環境でも臓器は一定の大きさになるのですか。
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笹井:アフリカツメガエルの脳の発生は、脊索(せきさく)(背骨の一部)に分化するシュペーマン形成体から分泌される「Chordin(コーディン)」というタンパク質が制御していることが分かっています。この形成体を手術で小さくしたり、移植により2倍の大きさにしてコーディンの量を変えても、なぜか最終的な脳を含む中枢神経組織の大きさに変化はなく一定です。その仕組みは、大きな謎のままでした。
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今回、謎解きに成功したのですね。
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笹井:アフリカツメガエルの初期胚にある「ONT1」というタンパク質が、コーディンの量を自動的に調整し、神経誘導の活性を常に一定に保つためのフィードバック制御の役目を果たしていることが分かりました(図)。臓器が一定の大きさになるという生命の基本現象を、分子レベルで明らかにできました。
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──
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ONT1とコーディンという二つのタンパク質が主役だったのですか。
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笹井:そうですね。ほかに脇役として「コーディン分解酵素」というコーディンを分解する酵素があります。ONT1はコーディン分解酵素とコーディンの両者に反応し、両者を調節するタンパク質として働いていました。つまり、ONT1が存在すると、コーディン分解酵素によってコーディンの分解が促進され、分解の効率が上がるのです。コーディンの量が増加する場合には、ONT1の量が増加して余計なコーディンを分解します。逆にコーディンの量が減少すると、ONT1の量も減って、その結果コーディンの分解も減り、コーディンの量は元に戻ります。
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ONT1の機能の分かりやすい例は。
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笹井:ONT1の作用は、驚くほど強力でした。ONT1が正常に機能している胚の中にコーディンを注入しても、神経組織の量の増加はわずかでしたが、アンチセンスRNA法という特殊な方法でONT1が機能しないようにした胚の中に同量のコーディンを注入すると、胚の大半が神経組織、特に脳に変わってしまったのです。
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今回の成果の意義は。
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笹井:再生医療を語るとき、ES細胞、iPS細胞という材料がよく注目されます。高度な再生医療では、これらの多能性を持った細胞を、必要とする特定の細胞へ分化誘導するだけでなく、目的によってはその細胞をさらに組織・器官へと誘導することも必要になってきます。正しいサイズと機能の臓器を試験管内で発生させるには、その制御機構を理解することが不可欠です。今回のコーディンやONT1の制御機構は、組織の大きさを一定にする制御機構の一例で、今後の高度な再生医療の発展にも大きな意義を持つと思います。■
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● 本研究成果は、米国の科学雑誌『Cell』(9月5日)に掲載されたほか、朝日新聞・日本経済新聞(9月5日)など多くの新聞に掲載された。
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ヒトをはじめとする生物は、エネルギー源である血中のグルコースの量が過剰になると細胞内にグリコーゲンや中性脂肪の脂肪滴として貯蔵し、激しい運動や空腹の際に貯蔵脂質を分解・放出してエネルギーとして消費する。生物は、体内に貯蔵しているエネルギー状態を感知し、エネルギーの貯蔵と消費とのバランスを保ちながら、常にエネルギーが枯渇しないようにする仕組みを持っていると考えられてきた。しかし、その実体は謎のままだった。今回、理研脳科学総合研究センター 平林研究ユニットは、東京大学と共同で、膜タンパク質受容体の一つである「BOSS」が、細胞外のグルコース濃度変化の情報を細胞内に伝える「エネルギー(栄養)センサー」として働くことをショウジョウバエで発見した。この成果について、平林義雄ユニットリーダーに聞いた。 |
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グルコースの役割を教えてください。
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平林:グルコースは別名、ブドウ糖と呼ばれ、代表的な単糖の一つです。その多くは血中に含まれ、生物にとって重要なエネルギー源となっています。グルコースの枯渇は、脳の神経細胞を死に導きます。また、血糖値の異常は糖尿病の原因となるほか、肥満などを含むメタボリックシンドロームの発症にもつながります。最近、グルコースが体内のエネルギー状態を伝えるシグナル分子としても機能することが分かってきました。
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エネルギーセンサーとは何ですか。
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平林:エネルギー源が枯渇するということは、生物にとって死を意味します。そのため、生物はエネルギーの恒常性を維持する何らかの仕組みを持ち、エネルギーを供給するときには、貯蔵エネルギーが枯渇しないようにバランスを保っているはずです。そのバランスを保つ仕組みのポイントとなるのがエネルギーセンサーです。しかし、エネルギーセンサーの働きをする細胞膜の受容体は、酵母でしか見つかっていませんでした。今回、私たちはショウジョウバエを使って、多細胞生物で初めてエネルギーセンサーとして働く「BOSS受容体」を発見しました。
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BOSS受容体はどんなタンパク質ですか。
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平林:受容体とは、細胞外の物理的、化学的な刺激を受け取り、細胞内に伝えるタンパク質です。受容体はその役割により分類されており、ホルモンや神経伝達物質などのシグナル物質(リガンド)を細胞膜上で受け取り、細胞内に伝達する機能を持つものをGPCRといいます。多様なリガンドに対応するため、GPCRの種類は700〜800近くあります。そのうち、リガンドや生理的役割がいまだ不明なGPCRが100以上もあります。今回、そのGPCRの中にエネルギーセンサーの役割を果たしているものがあると予測し、BOSS受容体を突き止めました。
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BOSS受容体の機能を教えてください。
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平林:BOSS受容体を培養細胞の中で発現させ、グルコース濃度との関係を調べました。その結果、BOSS受容体はグルコースの濃度変化に反応して、リガンドを細胞内へ伝えるために、細胞膜表面から細胞内へ取り込まれました(図)。また、BOSS受容体をつくるboss遺伝子を欠損させたショウジョウバエを調べたところ、絶食環境に置くと短時間で個体死に至ることが分かりました。詳細に解析したところ、BOSS受容体が欠損するとエネルギーの消費バランスを維持できず、脂肪体に貯蔵していた脂質を急激に消費し続けてしまうことが原因でした。
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今回の成果は肥満や糖尿病の治療に役立つのでしょうか。
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平林:大いに期待できます。boss遺伝子は、線虫からヒトまで広く存在しており、動物一般に共通する、生存に必須な機能を持つと予想できます。ヒトのBOSS受容体を同定し、その機能メカニズムを解明できれば、私たちが抱える肥満や糖尿病などの代謝疾患の理解が進み、新たな治療法の提案につながるでしょう。■
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● 本研究成果は、科学技術振興機構(JST) 戦略的創造研究推進事業 チーム型研究「CREST(クレスト)」により行われたものです。
● 米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences』に9月22日の週にオンライン掲載された。 |
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細胞にストレスを加えると発現するタンパク質「Mincle(ミンクル)」が、自己組織の損傷を感知し、炎症を引き起こす受容体であることを、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター 免疫シグナル研究グループの斉藤隆グループディレクター、山崎晶 上級研究員らが発見した。
体の細胞は寿命などで常に一定の割合で死に、死んだ細胞は白血球の一種、マクロファージ(食細胞)に速やかに取り込まれ処理される。しかし、感染や腫瘍(しゅよう)、梗塞(こうそく)などにより一度に大量の細胞が死ぬと、通常の処理システムでは対応できず、マクロファージがサイトカインという物質を放出して、白血球の仲間である好中球を寄せ集めて炎症を引き起こす。この炎症を引き起こす詳細なメカニズムは謎だった。 今回、研究グループは、ストレスにより強く発現するMincleに着目し、Mincleがタンパク質「FcRγ(ガンマ)」と会合し、それを介してマクロファージを活性化することを発見した。さらに、死細胞から放出されるタンパク質「SAP130」とMincleとが直接反応することにより、マクロファージを活性化して、炎症反応が始まることも突き止めた。Mincleの働きを止める抗体をあらかじめマウスに投与しておくと、大量の細胞が死んでも炎症は起きなかった。 こうしたMincleの起こす反応は、体の組織が大きなダメージを受けた後の修復にも寄与する可能性がある一方、リウマチなどではMincleによる炎症が過剰になって正常組織を破壊することも考えられ、そのメカニズム全体の解明は、再生医療や自己免疫疾患治療への応用につながると期待される。■ |
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● 『Nature Immunology』(9月7日)掲載。
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鉄との合金に重要なレアメタルであるクロム、マンガンが、超新星爆発で生成されている証拠を、理研基幹研究所 牧島宇宙放射線研究室の玉川徹 専任研究員らの研究グループが突き止めた。137億年前、ビッグバンにより誕生したとされる宇宙には、水素とヘリウムだけしか存在せず、金属などの重い元素は星の内部や、その一生の最後となる超新星爆発で生み出されたとする説を裏付ける証拠となった。研究グループは、カシオペア座で1572年に発見された「ティコの超新星」の残骸(ざんがい)(写真)を、日本のX線天文衛星「すざく」で精密に観測したところ、電離した鉄の強いシグナルに混じってクロムとマンガンが発する微弱なX線をとらえた。また、残骸中に存在する電離したケイ素、硫黄、アルゴン、鉄から発せられるX線を詳細に観測して、中心部に鉄が集まり、その周りに硫黄やケイ素などの軽い元素が、重さの順に層を構成する形で分布していることを世界で初めて明らかにした。この観測結果は、爆発時に生成した元素は混じり合うという最新のシミュレーションの予測とは異なるものだった。■ |
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免疫学入門Webサイト「体をまもるしくみ」オープン!
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理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(RCAI)は、一般の方や科学に興味のある中高生を対象にした免疫学入門Webサイト「体をまもるしくみ」をオープンしました。 免疫細胞をキャラクターに見立てたナビゲーターの“まさるくん”が、「免疫ってなに?」「どうして自分を攻撃しないの?」「花粉症って治せるの?」など、免疫の基礎からRCAIで行っている最先端の研究までを楽しく紹介します。 ほのぼのとしたキャラクターたちが音楽に合わせてストーリーを展開します。また、どなたでも簡単に操作できますので、年齢を問わず楽しめます。ぜひ、ご覧ください。
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新研究室主宰者の紹介
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新しく就任した研究室主宰者を紹介します。 1:生年月日、2:出生地、3:最終学歴、4:主な職歴、5:研究テーマ、6:信条、7:趣味 |
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基幹研究所 柚木計算物性物理研究室 准主任研究員 柚木清司(ゆのき せいじ) |
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1:
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1969年2月15日
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2:
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岡山県
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3:
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名古屋大学大学院工学研究科博士課程
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4:
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オークリッジ国立研究所(米国)、テネシー大学
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5:
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計算固体物性理論
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6:
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Life is too short to be little.
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7:
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スポーツ
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次世代計算科学研究開発プログラム 脳神経系研究開発チーム チームリーダー 石井 信(いしい しん) |
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1:
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1962年7月20日
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2:
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福岡県
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3:
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東京大学大学院工学系研究科修士課程
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4:
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京都大学
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5:
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システム神経生物学、スーパーコンピュータを用いた全脳レベルシミュレーション
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7:
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スキー、スノーボード
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分子イメージング科学研究センター 創薬合成化学研究ユニット ユニットリーダー 主任研究員 土居久志(どい ひさし) |
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1:
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1971年3月17日
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2:
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大阪府
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3:
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名古屋大学大学院理学研究科博士課程
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4:
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ウプサラ大学、岐阜大学、理化学研究所
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5:
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生物活性有機化合物のPETプローブ化
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6:
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恩師の哲学の継承
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7:
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阪神タイガース
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イメージング基盤ユニット ユニットリーダー 高橋和弘(たかはし かずひろ) |
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1:
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1958年3月11日
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2:
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秋田県
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3:
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東北大学大学院薬学研究科修士課程
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4:
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秋田県立脳血管研究センター、放射線医学総合研究所
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5:
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PET用プローブの製造と動物における評価および臨床応用
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6:
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人事を尽くして天命を待つ
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7:
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ドライブ
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タケノコ掘りとトウモロコシ狩り、 そして夏祭りで感謝状 筑波研と地元住民との交流 佃 文博 TSUKUDA Fumihiro |
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今年の夏、理研筑波研究所は、地元の高野台(こうやだい)自治会から感謝状を頂きました。筑波研は1984年の立ち上げ当時から地元住民の方々から煙たがられていたので、どんな形であれ地元の方から感謝状を頂くのは私たちにとって初めてであり、また、ありがたいことでした。 筑波研は、つくば市高野台にありますが、この地にP4と呼ばれる組換えDNA実験棟が完成したのは1984年3月。残念なことに、理研が高野台に来ることは地元の方からは歓迎されず、P4の建設には強い反対運動がありました。それ以来、理研と地元の方々とは対峙(たいじ)する関係にあり、理研の中で地元から歓迎されない唯一の事業所でした。そこで、私たちは2001年、筑波研究所にバイオリソースセンター(BRC)が立ち上がってから、BRCの事業内容を地元の方々に分かりやすく説明し、私たちの業務を理解してもらうよう取り組んできました。そして時がたつにつれて、その対峙関係も次第に解消されてきたのです。 筑波研を理解してもらう活動を行ってきましたが、一方で筑波研で働く職員が地元のことをどれだけ知っているか? と問えば、あまり芳しくはありません。そこで私たちは昨年、「食文化に貢献する筑波研」を旗揚げし、タケノコ掘り、トウモロコシ狩り、北条米を食する会などを行うことにしました。タケノコ掘りとトウモロコシ狩りは、下横場地区の方々の協力を得て行うことができ、地元の産物を食することで、地元の方々との交流を深めることができました。 高野台の自治会は毎年夏、筑波研の隣にある高野台公園で夏祭りを行います。筑波研が高野台地区にあることから、夏祭りに協力し、理研やBRCの事業のことをもっと地元の方々に理解してもらうことはできないだろうかと考え、昨年から総務課の2人がビールやジュースの売り子として参加しています。今年は、阿部岳(たかし) 元特別招聘研究員が開発した「VAAM(ヴァーム)」を提供して理研をPRしました。このような協力をした結果、今年9月、高野台の自治会長さんから感謝状を頂いたのです。 昨年の夏祭りのお手伝いをしたときに、高野台自治会と筑波研でソフトボールの親善試合の話が持ち上がり、9月に近くのグラウンドを借りて、まだ残暑厳しい日差しの中、汗をかいてソフトボールを楽しみ、友好を深めました。 また、高野台の公園に花壇をつくる活動を行っているボランティアグループがあり、そのグループから筑波研に、みんなが楽しめる花を提供してほしいとの要望がありました。理研の花といえば、阿部知子 チームリーダー(仁科加速器研究センター 生物照射チーム)が開発した重イオンビームによって品種改良した花があります。そこで、バーベナの新品種「コーラルピンク」などを提供し、新設した花壇に植えてもらうことにしました。この花の提供・植栽は今年で2年目になりますが、夏過ぎまで花が咲き続け、長期にわたって楽しむことができるので、とても喜ばれています。 このように徐々にではありますが、地元の方々の筑波研へのわだかまりはなくなり、良好な関係が築かれつつあります。今後も地元に愛され、感謝される筑波研を目指していきたいと思います。 ■ ![]() |
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