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厄介者のクラゲから有用物質を発見!
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有用物質「ムチン」の発見
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丑田研究ユニットリーダーは、なぜクラゲに目を付けたのか?丑田研究ユニットリーダー率いる環境ソフトマテリアル研究ユニットは、高分子や生体分子などの“やわらかいもの”(ソフトマター)を研究して、特に環境面で社会に貢献することを目指している。「私は、約10年前から糖類の一種であるヒアルロン酸を使った研究をしてきました。ヒアルロン酸は化粧品などの成分として、最近、とても有名になりましたね。また、廃プラスチック処理の研究もしています。廃棄物問題に関心があり、発電所の取水口にクラゲが詰まり、その処分に困っていることを知っていました。さらに、ある人からクラゲにはタンパク質が意外に少ないと聞き、では糖類が多いのだろうと考えたのが、クラゲに注目したきっかけです。最初はヒアルロン酸を抽出してみようと思っていたのですが……」 丑田研究ユニットリーダーは、もともとは基礎物理化学の研究者。「成分を取り出す生化学の技術には詳しくなかったので、入門書を買ってきて、それを参考に実験しました。大学4年生レベルの簡単な抽出方法です。すると、たくさんの沈殿物が得られました。そこで、堂前 直(なおし)チームリーダー(理研先端技術開発支援センター バイオ解析チーム)に解析を頼みました。友人の専門家に気軽に協力を頼むという、理研の中ではよくあるパターンです。“もっと精製してから持ってきてよ”と言われましたが、快く解析してくれました」 こうして2004年12月、抽出物のアミノ酸配列を明らかにし、その正体が、抗菌・保湿作用などを持つ「ムチン」と総称される糖タンパク質群の一種であることを突き止めた(図1)。 その後も、丑田研究ユニットリーダーの人脈が研究を加速させた。「私は、京都大学の故・波多野博行教授の研究室の出身です。波多野先生はアミノ酸分析計の発明者として世界的に有名です。直接、指導を受けたのは助教授の志田忠正先生でしたが、当時助手には、NMR(核磁気共鳴)法によるタンパク質構造解析のパイオニアである赤坂一之先生(現・近畿大学教授)がおられました。だから私の知り合いには、アミノ酸分析やNMR構造解析のエキスパートがたくさんいます。彼らのアドバイスを受けながら、このムチンの解析を続け、構造解析をほぼ完了させました」
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「あの化け物、何とかならんか」
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さらに研究を進めるためには、たくさんのクラゲが必要だった。「そこで、大学時代に波多野研究室で毎年海水浴へ行っていたころから付き合いのある京丹後市(京都府)の知人に、地元の三津(みつ)漁業生産組合を紹介してもらいました。2005年5月のことです。そのとき、漁労長に“あの化け物、何とかならんか”と言われたのです」“化け物”とは、世界最大級の巨大クラゲ、エチゼンクラゲのことだ(図2)。それまで丑田研究ユニットリーダーらは、主にミズクラゲを使って研究していた。その傘の直径はせいぜい10〜20cm。一方、エチゼンクラゲの傘は直径1m以上、重さは100kgを超える。この巨大クラゲが近年、日本海で大発生し、漁業に大きな被害をもたらし大問題となっている(図3)。この巨大クラゲにも、ムチンが含まれているのだろうか? 「2005年8月に新規ムチンに関する特許を出願しましたが、その直後から、その年のエチゼンクラゲの大発生が始まりました。すでに共同研究を始めていた京都市の信和化工(株)にムチンの抽出を依頼し、最終的には理研で分析しました。すると驚いたことに、ミズクラゲとまったく同じアミノ酸配列のムチンが、エチゼンクラゲにも含まれていました。さらに、日本近海にいるさまざまなクラゲを調べたところ、そのほとんどから同じアミノ酸配列のムチンが見つかったのです」 丑田研究ユニットリーダーは、このころから事業化を考え始めた。「クラゲは回収されても、ほとんど利用価値のない廃棄物となっています。その廃棄の過程と並行してムチンを抽出し、製造・販売できれば、クラゲの被害に苦しんでいる地元の人たちへ利益を還元することができます。私はこの新しいムチンを、地域振興に役立ち、新たな“国生み”につながるようにとの願いを込めて、『古事記』にならい“クニウムチン”と名付けました」 現在、動物性のムチンは、家畜の胃液からつくったものなどが販売されているが、一部の食品添加物や化粧品の成分として使われているくらいで用途があまり広くない。しかも、最近のBSE(牛海綿状脳症)問題の影響で、安全性の高い動物性ムチンの開発が待ち望まれていた。 丑田研究ユニットリーダーは現在、クニウムチンの製法やビジネスモデルを検討し、ベンチャー企業の立ち上げ準備を進めている。その事業が成功するかどうかの最大のポイントは、このクニウムチンの用途をいかに広げ、付加価値をいかに高めるかだ。
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医療への応用
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そもそもムチンには、非常に多くの種類がある。動物の胃液や唾液(だえき)などの消化液や、鼻や目の粘膜に含まれており、人体でも約12種類が確認されている。動物だけではなく、植物のオクラやヤマイモのねばねば物質の主成分もムチンだ。
ムチンはアミノ酸が並んだタンパク質部分と、糖分子が鎖のようにつながった糖鎖部分からなる。例えば粘液に含まれるムチンは、細菌やウイルスに吸着してその活動を抑える作用や、粘液に取り込んで洗い流してしまう界面活性剤としての作用がある。このとき、ムチンの糖鎖が細菌やウイルスの表面にあるタンパク質を認識して吸着するともいわれている。 人体で見つかっているムチンは、アミノ酸配列は明らかになっているが、糖分子がどのようにつながって糖鎖ができているかは分かっていない。タンパク質に比べて複雑な糖鎖の構造を調べることは、技術的に難しいからだ。タンパク質と糖鎖の構造が完全に明らかになったムチンは、いまだに存在しない。 「ただしクニウムチンは、タンパク質のアミノ酸配列とともに、糖鎖の構造の9割以上を明らかにすることができました(図4)。これはクニウムチンの構造がとても単純だからです」 クニウムチンのタンパク質は、8個のアミノ酸配列の単純な繰り返しからなり、特別な形ではない。「しかも、人体の胃や気道にあるムチン(MUC5AC)も8個のアミノ酸配列の繰り返し構造からなり、そのうち4個のアミノ酸がクニウムチンと共通で、構造が酷似しています(図4)。クニウムチンを人体に用いても、異物を排除する免疫が働いて拒絶反応を起こしたり、アレルギーの原因となったりする可能性は低いと考えられます」 クニウムチンの応用として、まず考えられるのは、人工胃液や人工唾液、点眼液だと丑田研究ユニットリーダーは言う。「お年寄りで唾液が出ないで困っている人がたくさんいます。ある大学の歯学部の先生と相談しながら、クニウムチンを人工唾液として使えないか検討しています。もともとムチンは特別な強い生理作用があるわけではありません。人体のムチンとある程度似たものをつくれば、人工唾液などとして使えるでしょう」 さらに丑田研究ユニットリーダーは、患者の多い別の疾患の治療にクニウムチンを応用する研究も進めている。「それについては、残念ながらまだ公表できる段階にありません」。近い将来、クニウムチンの応用研究の成果が発表されることだろう。
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新しいムチンをデザインする
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クニウムチンは糖鎖の構造がシンプルで、しかも、さまざまなクラゲからアミノ酸配列や糖鎖の構造が均質なクニウムチンを得ることができる。「そこがクニウムチンの最大の長所です。クニウムチンは立体的な分子構造もほぼ明らかにできたので、化学研究の対象として扱うことができます。“ムチン化学”という新しい研究分野を立ち上げることができるのです。私たちはクニウムチンを原料にして、新しいムチンをデザインすることを目指しています」
現在、ムチンを人工合成しようという研究が行われているが、まだ難しい。遺伝子の情報によってつくられるタンパク質部分は遺伝子工学などの技術を使ってつくり出せるが、糖鎖の合成がうまくできない。「ただし、糖分子を別の種類に置き換える糖転移酵素は複数見つかっています。それらを使ってクニウムチンの糖鎖をつくり替え、新しい機能を持つムチンを生み出すことに挑戦したいと思います。例えば、粘液に含まれるムチンの細菌やウイルスに吸着する能力はそれほど高くありませんが、糖鎖をつくり替え吸着能力を増強させれば、医薬品として使えるかもしれません」 クニウムチンの発見は、2007年6月、米国の化学会と薬学会が共同出版している『Journal of Natural Products』誌に論文発表された。米国化学会では、これを注目論文として選び出し、プレスリリースを行った。環境問題に関心の高い欧米でも大きな話題を呼び、米国の『New York Times』や英国の『Daily Telegraph』といった一般向けの新聞にも取り上げられている。Jellyfish explosion(クラゲ爆発)と呼ばれる大発生は、世界中の海で起きているからだ。 「米国化学会のプレスリリースでは、最初に新しいムチンをデザインできるかもしれないと書かれており、私が科学的に最も重要だと考えているポイントを的確にまとめています。米国の研究者たちも、新しいムチンをデザインする研究を始めることでしょう。私たちも負けるわけにはいきません。やはり理研内のさまざまな研究者の協力を仰ぎながら、クニウムチンの糖鎖を変換する研究をすでに始めています」
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基礎科学の研究者は広く深く
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「理研の大きな長所は、さまざまな分野の一流の研究者が身近にいて、異分野で友人関係を築くことができる点です」と語る丑田研究ユニットリーダー。「基礎科学の研究者は、自分の専門分野に閉じこもっていてはいけない。分からないことは、すぐにその分野の専門家に聞いて自分でどんどん勉強することが基本だと思います。私のような欲張りは少数派かもしれませんが……」と続ける。
「基礎科学は、物事の本質を知ることが最終目的です。それには、いろいろなことを広く深く理解する必要があります。例えばクニウムチンの研究でも、もともと専門外だったNMRのデータや糖鎖合成のことを最終的に自分できちんと理解できないと駄目です。私たち基礎科学の研究者の役割は、実用化される技術のもととなる指導原理を導き出すこと。それには、さまざまな分野の人と交流しながら、物事を広く深く理解することが不可欠なのです」■
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メタボローム研究で人に役立つ植物を
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メタボローム研究のパイオニア
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最近よく耳にする“メタボリックシンドローム”とは、「代謝異常症候群」という意味。では、研究グループ名の“メタボローム”とはどういう意味だろうか。「1990年代の終わりくらいから出てきた新しい言葉で、細胞内のすべての代謝物セットのことです」と斉藤和季グループディレクターは説明する。すべての遺伝情報を“ゲノム”、DNAから転写されたすべての物質を“トランスクリプトーム”、すべてのタンパク質を“プロテオーム”と呼ぶ。そして、酵素などのタンパク質によって体内でつくり出されるすべての代謝物が“メタボローム”である。それらを合わせて「オーム科学」と呼んでいる。オームとは「全体」を意味するラテン語だ。
2005年から始まった植物科学研究センター(PSC)第2期の最大のキーワードが、この「メタボローム」だ。しかし、メタボロームがなぜ、これからの植物科学で重要なのだろうか。 植物は光合成によってデンプンやセルロースといった糖類、アミノ酸、脂質、そしてフラボノイドやアルカロイドといった二次代謝物など、さまざまな代謝物をつくっている。それを私たちは、食糧、工業・エネルギーの原料、医薬品、健康機能食品などに利用している。また、動くことができない植物は、外敵や環境の変化に対してさまざまな代謝物をつくり出すことで対抗している。植物がいろいろな用途で利用されるのはその多様な代謝物ゆえであり、それは植物の生存戦略を支える物質である。「植物を理解し、それを利用しようとしたら、代謝を理解することが非常に重要になるのです」 そして、斉藤グループディレクターは続ける。「メタボロームを前面に出したプロジェクトは、私たちが日本で一番早かったと思いますよ」。斉藤グループディレクターがPSCに来る前、2000年に採択された科学技術振興機構のCREST(戦略的創造研究推進事業)「ポストゲノム科学を基盤とする植物同化代謝機能のダイナミクス解明」だ。その応募に当たり、メタボロームについて徹底的に調べた。「例えば、インターネットの検索サイトでメタボロームや、その研究を意味するメタボロミクスなど、関連するキーワードを入れてみたりもしました。でも、ヒットするのはわずか数件。当時はまだ、そんな状況でした。私たちは、世界的にもメタボローム研究のパイオニアの一人です」 ではなぜ、いち早くメタボロームに注目したのか。「私の専門はもともと薬学で、植物中の硫黄を含んだ代謝物や、フラボノイドやアルカロイドなど薬用効果のある代謝物の研究をしていました。しかし、それぞれ研究テーマとして独立していました。それらを一緒に考えることができないか、そうすれば植物をもっとよく理解できるのではないか、という自分への問い掛けからです」 そして、2000年末にモデル実験植物であるシロイヌナズナの全ゲノム配列が解読されたことも大きい。「ゲノム配列が明らかになる前は、遺伝子も代謝物もいったいいくつあるのか分かりませんでした。それが、ゲノム配列が明らかになったことで、遺伝子は有限で限定された世界になった。ということは、メタボロームも有限で限定された世界のはずで、全体を見ることができるに違いないと考えたのです」
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がん予防成分を含む野菜へ期待
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メタボローム研究によって何が分かり、何が可能になるのか。メタボローム基盤研究グループの最近の成果をいくつか紹介しよう。
まずは、2007年4月にプレスリリースされた「がん予防成分をアブラナ科野菜につくらせる新規遺伝子を発見」。ブロッコリーやダイコン、ワサビ、カラシナなどのアブラナ科の植物はかんだり、すりおろすと、辛みを感じる。この辛み成分はグルコシノレートという代謝物が変化したもので、そのうちスルフォラファンは発がん物質を解毒する酵素の働きを高める機能を持つことが知られている。研究グループでは、アブラナ科のシロイヌナズナを用いて、PMG1という遺伝子がグルコシノレートの生産を制御していることを明らかにした。 この成果は、トランスクリプトームとメタボロームの共発現解析という手法によって得られた。シロイヌナズナの全遺伝子の発現と全代謝物の生産量の関連を詳しく解析し、まず、グルコシノレートとその代謝物はどれも同じように変化していることが分かった。そこで既知のグルコシノレート生合成遺伝子と同じパターンで発現が変化をする遺伝子を探すことで、PMG1にたどり着いた(図1)。これは、斉藤グループディレクターたちが確立した手法だ。2004年、この手法を使い、シロイヌナズナで硫黄の代謝や応答にかかわる遺伝子を突き止めた。その成果は米国科学アカデミー紀要『PNAS』に掲載され、トランスクリプトームとメタボロームを統合することで未知の遺伝子の機能を突き止めた最初の例として注目を集めた。そのインパクトは大きく、英国の科学雑誌『Nature Biotechnology』によって植物バイオ分野で2005年に最も多く引用された論文に選ばれたほどだ。 シロイヌナズナの遺伝子は2万7000個と推定されているが、機能が分かっている遺伝子は1割ほどだ。トランスクリプトームとメタボロームの共発現解析は、未知の遺伝子の機能を明らかにする手法として期待されている。遺伝子の機能が分かれば、応用も視野に入ってくる。「PMG1の発現量を増やし、スルフォラファンのもととなるグルコシノレートを大量につくり出すことができれば、がんの予防効果の高い作物が実現する可能性があります。すでに共同研究をしている企業が、野菜に応用できないかと研究を始めています」 「植物のフラボノイドの構造を決定する酵素を発見」は、2007年2月にプレスリリースされた。フラボノイドは、抗がん作用、高血圧の改善、コレステロール値の低下、抗アレルギー作用、抗菌作用などがあるとして、注目されている代謝物だ。フラボノイドが安定に存在して蓄積されるためには、その骨格に糖が付かなければならない。研究グループでは、シロイヌナズナを用いた共発現解析から、骨格の7位という場所に糖を付ける配糖化酵素UGT89C1を発見した。この酵素がないと糖が付かず、構造の違うフラボノイドがつくられる。構造が違えば機能も変わる。高い機能を持ったフラボノイドをつくり出せる可能性を示す大きな成果だ。 このように次々と大きな成果を出せるのはなぜか。「CRESTでの5年間が大きかったですね。その間にいろいろな経験を積んで、たくさんのことを学びました。そして、そこで一緒に学んだ人たちがメタボローム基盤研究グループでも活躍しているのです」
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メタボローム研究の難しさと課題
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「PSCでの私たちの最終目標は、植物がつくり出す多様な代謝物をできる限り明らかにして、代謝物と遺伝子を対応付け、どのようにつくられているかを理解すること」と斉藤グループディレクターは言う。「その代謝物をつくりたいときには、この遺伝子を操作すればいいんですよ、と言えるようになることを目指しています」
しかし、メタボローム研究は、ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームのどの研究と比べても後れを取っている。「メタボロームは、とにかく桁違いに難しいんですよ」と斉藤グループディレクター。DNAはRNAに転写され、RNAの配列がアミノ酸に翻訳される。そのアミノ酸が連なってタンパク質がつくられる。このように、ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオームの間には情報の連続性があって、互いに推測することができる。ところがメタボロームは、酵素タンパク質によってつくり出された物質だ。「プロテオームからメタボロームは推測できません。その間には大きなギャップがあるのです」 さらに、ゲノムとトランスクリプトームは核酸だけが、プロテオームはタンパク質だけが解析の対象だが、メタボロームの対象には脂質や糖、二次代謝物など、さまざまな種類がある。動物と比べて植物の代謝物は特に多く、植物界全体で20万種類、シロイヌナズナだけで約5000種と考えられている。ちなみに、ヒトは2500種といわれる。 PSCでは、この難解なメタボローム研究の最終目標を達成するため、三つの戦略を取っている。第一の戦略が、メタボローム解析のために複数の分析機器を駆使すること。それらを組み合わせることで、多様な代謝物を網羅的に特定していく。質量分析計と、気化できる物質の場合はガスクロマトグラフィ、可溶性物質の場合は液体クロマトグラフィ、イオン化できる物質の場合はキャピラリー電気泳動とを組み合わせるといった具合だ(図2)。NMR(核磁気共鳴装置)も代謝物を特定できる重要な手段だ。しかし、「メタボローム研究の技術はまだまだ」と斉藤グループディレクターは言う。「トランスクリプトーム研究での技術と比べると、完成度は20%にもいかない。技術的な革新が必要です」 第一の戦略でさらに重要なのが、代謝物の時間的な変化をとらえることと空間的な分解能だ。今私たちが見ているのは、ある一瞬をとらえた代謝のスナップショットでしかない。また、組織ごとつぶして分析しているため、1個の細胞で起きている代謝の変化を見ることができない。「1個の細胞でダイナミックな変化も分析できる技術の実現が理想です」 第二の戦略は、バイオインフォマティクス。メタボローム研究では大量のデータが出てくるため、実験科学者だけでは対処できない。研究グループでは、バイオインフォマティクスの専門家と強力なコンビネーションを組んでいる。 第三の戦略は、ゲノム科学との統合。理研では、シロイヌナズナの特定の遺伝子を破壊した変異体や過剰発現体、特定のタンパク質をつくる情報をすべて持った完全長cDNAなど研究資源がそろっている。それらを有効に使うことで、代謝物と遺伝子を結び付けていくことができる。
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人類に恩恵をもたらす植物を
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メタボローム研究はどのように進み、私たちに何をもたらすのだろうか(図3)。現在は、シロイヌナズナやイネなどのモデル実験植物で代謝を理解しようとするメタボローム研究の第一段階といえる。第二段階は作物、薬用植物、パルプなど工業原料となる植物への応用。そして第三段階はシステムの理解に基づく代謝エンジニアリング。
「細胞活動には、たくさんの遺伝子やタンパク質、代謝物が関係しています。それぞれがシステムとしてどう振る舞っているのかを明らかにすることが、これから重要になってくるでしょう。メタボローム研究は、その先駆けになると思います」と斉藤グループディレクターは指摘する。「現代科学の成功は、徹底的な要素還元主義によるものです。物理は素粒子、化学は原子分子、生物学では遺伝子などの構成要素にまで還元して考えるのが基本で、そこから大きな発展がありました。しかし、ポストゲノム時代になって要素還元論だけでは不十分なことが分かってきました。要素還元主義を乗り越え、1個1個の要素を理解した上で各要素がつくり出すシステムを考えることによって、生命の理解につながると思います」 そして、斉藤グループディレクターはこんな目標を持っている。「植物科学が人類に恩恵をもたらすようにしたいですね。食糧や医薬、健康機能食品はもちろんですが、環境やエネルギー問題の解決にも植物科学が寄与して、広い意味で人類の健康に貢献したいと思います」■ ![]()
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JEM-EUSOが超高エネルギー宇宙線の
正体を突き止める |
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超高エネルギー宇宙線を宇宙からとらえる
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――JEM-EUSOとは何を観測する望遠鏡ですか。
戎崎:地球には電気を帯びた陽子などの粒子がたくさん降り注いでいます。それが宇宙線です。宇宙線はエネルギーの高いものほど数が少なく、4×1019電子ボルト(eV)以上の宇宙線は急に少なくなると考えられていました。ところが、1990年代になると、1020eVを超える超高エネルギー宇宙線が観測され始めたのです。1020eVとは、1ccの水にその粒子が1個入っただけで温度を16℃上げるほどのエネルギーです。東京大学宇宙線研究所の山梨県にあるAGASA(アガサ)(明野(あけの)広域空気シャワー観測装置)は、13年間の観測で11個の超高エネルギー宇宙線を観測しています。たった11個と思うかもしれませんが、これはとても驚くべき現象なのです。 ――それはなぜですか? 戎崎:宇宙は、宇宙背景放射と呼ばれるビッグバンの残光で満たされています。宇宙のどこかで超高エネルギー宇宙線が発生しても、1.5億光年ほど宇宙空間を飛んでいるうちにその残光と衝突してエネルギーを失い、4×1019eV以下になってしまうと考えられているのです。宇宙線のエネルギーには上限があると言いだしたのは、米国のGreisen(グライセン)と旧ソ連のZatsepin(ザツェッピン)、Kuz'min(クズミン)で、3人の名前の頭文字を取って「GZK限界」と呼ばれています。 1020eVを超える宇宙線が見つかったということは、1.5億光年以内に超高エネルギー宇宙線を発生する天体が存在する可能性があります。それは未知の天体かもしれません。だとしたら、天文学として大きな問題です。もっと問題なのは、1.5億光年以内に起源となる天体がなかった場合です。GZK限界はアインシュタインの特殊相対性理論に基づいて求められたもの。計算の根拠になっている特殊相対性理論が超高エネルギー領域では“ほころんでいる”という、現代物理学を根底から揺るがす大問題に発展してしまう可能性があるのです。 謎の超高エネルギー宇宙線を観測し、その起源を突き止めようと計画されたのが、日本を中心に、米国、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、ロシア、韓国、メキシコが参加するJEM-EUSOです。国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」(JEM)に取り付けられます(図1)。超高エネルギー宇宙線が大気中の酸素や窒素などの原子核と衝突すると、蛍光紫外線を発します。口径2.5mの広角レンズ望遠鏡を地球に向け、その紫外線をとらえて数マイクロ秒ごとに撮影し、エネルギーの大きさと、どの方向から飛んできたかを調べます。 ――なぜ宇宙から観測するのですか。 戎崎:超高エネルギー宇宙線は非常に少ないので、観測範囲を大きくした方がいいですよね。AGASAは100km2の範囲に検出器を並べていました。でも、13年間で11個では、そこから起源や性質について結論を出すには少な過ぎます。そこで、東大宇宙線研究所は米国のユタ大学と共同で、ユタ州に760km2のTelescope Array(テレスコープアレイ)を建設中です。また、アルゼンチンでは1万km2のAuger(オージェ)が2005年から観測を始めています。しかし、地上でやる限り、Augerが大きさの限界だと考えられています。 ISSから観測すれば、日本列島全体ほどの非常に大きな面積を一度にカバーできます。JEM-EUSOの観測範囲はAGASAの1000倍。1年間で1000個の超高エネルギー宇宙線を観測する予定です。
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未知の天体か? 相対性理論のほころびか?
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――どのようにして正体を突き止めるのですか。
戎崎:可視光や赤外線などの電磁波は真っすぐに飛んでくるので、来た方向を探せば起源天体が見つかります。しかし、宇宙線は銀河内にある磁場で曲げられてしまうため、来た方向に起源天体があるとは限らない。これが宇宙線を使った天文学の進歩を妨げている大きな理由でした。しかし、エネルギーが非常に高い宇宙線は磁場の影響をあまり受けず、ほぼ真っすぐに飛んでくるので、起源が分かるのです。 1000個観測して到来方向をプロットすると、数十個の点が集まった領域が出てくるでしょう。その方向に超高エネルギー宇宙線を発生している天体があると考えられます。ガンマ線バースト、活動的銀河核、パルサー、電波銀河、超新星残骸などが候補に挙げられていますが、それらの天体が発生できるエネルギーは、多めに見積もっても1020eVぎりぎりです。それらの中の特異な種属、もしくは未知の天体が真犯人のはず。JEM-EUSOは、その真犯人の場所を間違いなく指し示すことができます。 でも、その方向に天体が何もなかったら……。そのときは、相対性理論が超高エネルギー領域ではほころんでいることまで含めて、現代物理学を根本から考え直さねばならなくなります。これは大問題です。 ――観測するのは超高エネルギー宇宙線だけですか。 戎崎:大気と衝突して紫外線を出すものならば、何でも観測することができます。超高エネルギー宇宙線と同様につくられるはずのニュートリノも観測できます。ニュートリノは光子と相互作用しないのでGZK限界がないため、宇宙誕生の瞬間までさかのぼることができるかもしれません。 雷や夜天光、流星も観測します。雷や夜天光が、どこで、どのくらいの頻度で起きているかが初めて明らかになるでしょう。地球温暖化が進むと雷の頻度が高くなるといわれるので、気候変動の指標にもなります。流星の正体は、小惑星や彗星のかけらなどです。流星の発光を詳しく調べることで、もとの天体についての情報を知ることができます。 |
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日本の技術力がJEM-EUSOを支える
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――望遠鏡の特徴は?戎崎:ロケットで打ち上げるので、軽量化を意識しました。そこで、鏡ではなくフレネル加工を施したアクリル製のレンズを使います(図2)。両面に浅い溝を彫るフレネル加工によってレンズを薄くして軽量化し、併せて高い分解能、広視野が実現できます。直径1.5mの中心部分とペタルと呼ばれる周辺の扇形の部分に分けて2.5mのレンズにする予定です。 焦点面は2.2mと最大にして、2.62cm角の光電子増倍管を6000個並べます。これほどたくさんの光電子増倍管を並べるのは前代未聞です。しかも通常の光電子増倍管は表面の45%ほどしか感度がありませんが、性能を最大限に上げるため、浜松ホトニクス(株)と共同で85%の領域で感度があるものを開発しました。 ――これからのスケジュールは? 戎崎:2007年5月にJEMを利用するミッションの第一次選考を通りました。来年の本審査を通れば、2013年、日本の宇宙ステーション補給機HTVに搭載され、H-IIBロケットで打ち上げられる予定です。 ――JEM-EUSOに何を期待しますか。 戎崎:もちろん新天体発見です。今まで予想もしなかった新しい天体の発見。きっとそうなるでしょう。 ■
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分子一つと電極との接合状態を制御
有機単一分子素子実現への第一歩 |
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――有機単一分子素子とは何ですか。
金:コンピュータの心臓部は、演算処理をするマイクロプロセッサーやメモリーで構成され、現在それらはシリコンを基盤とした半導体素子でできています。ところが、シリコンを基盤とした素子は、情報を大量・高速に処理するために高密度化や高集積化が進み、さらに細密化する技術は限界に近づいています。その限界を破るための有力な手段として注目されているのが、有機分子一つ一つを1ビットの素子として利用する「有機単一分子素子」です。有機単一分子素子は、有機分子の多彩な性質からなるさまざまな機能を活用することができ、情報処理能力が向上するだけではなく、小型化や軽量化、さらには大幅な省エネルギー化が期待されています。 |
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――今回の成果のポイントを教えてください。
金:有機単一分子素子を実現するためには、電極の原子に接合した有機分子の電気伝導特性を原子スケールで理解し、制御することが重要です。分子−電極間の接合には、水素化された硫黄を末端に持つ「チオール分子」が一般的に用いられてきましたが、より優れた電気伝導特性を有する分子−電極接合系の探索と構築が切望されていました。そこで私たちは、「イソシアニド(CN)末端基」を電極との接合部に使用しました。その結果、有機化合物の単一分子で化学反応を利用した接合状態の可逆制御に成功したのです。 |
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――どのように実験したのですか。
金:メチルイソシアニド(CH3NC;MeNC)を、電極である白金(Pt)の結晶表面に接合しました。通常、メチルイソシアニドは白金に一本足で直立した形で結合します(図1左)。この状態で水素ガスを混入すると、白金の触媒作用による化学反応で、メチルイソシアニドに水素原子が1個入り込み、メチルアミノカーバイン(HCH3NC;MeHNC)に変化し、二本足で白金と結合する状態となり、電気伝導特性も変わります(図1右)。次に、走査型トンネル顕微鏡(STM)を使って二本足のメチルアミノカーバインの化学結合を切断すると、元の一本足の結合状態に戻ります(図1・図2)。この二つの状態を化学反応によって可逆的に制御できることを世界で初めて実証し、有機分子を使った1ビット素子の可能性を示したわけです。 |
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――単一分子デバイス実現の見通しはどうですか。
金:今回の結果から、単一分子スイッチや単一分子トランジスタなどの開発の可能性が大きく広がりました。有機分子を活用する単一分子素子への道の重要な一歩を踏み出したと思います。■ |
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※本成果は米国の科学雑誌『SCIENCE』(6月29日号)に掲載され、日刊工業新聞(6/29)、化学工業日報(7/2)などに取り上げられた。 |
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将棋から思考を探る研究者
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子どものころ、「田んぼでドジョウを捕まえて遊んでいました。父親が山形大学で生物を教えていて、その関係でザリガニなども家にたくさんいたんですよ。自然が好きでしたね。アマチュア無線の免許も取りました」。中学時代は?「バスケットボールをやり始め、今でもやっています。それと将棋を始めたのもそのころ、初段を取ったんですよ」。高校に進学し、進路を決めた理由をこう語る。「半導体とかコンピュータの研究にあこがれ、東北大学工学部に入りました」
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大学に進学後、「人が簡単にできることがコンピュータにはすごく難しいので、人を対象とした研究をしたいと思うようになりました」。博士課程を修了後、2001年に助手になった。「研究を進める中で、“脳はどうやって感覚をつくり出しているのか?”に興味を持ち始めたんです」。そして、ある冊子が中谷研究員の心を動かした。「たまたま読んだ『理研BSIニュース』(2000年12月号)に、伊藤正男先生(BSI特別顧問)と立花隆さんの対談がありました。そこに“BSIでは若手に自由を与えてどんどん研究してもらう”とあり、“理研で働きたい!”と思ったんです。その記事が人生を変えましたね」。中谷研究員は2001年12月、BSIのCees van Leeuwen(ケース ファン レーベン)チームリーダーに一通のメールを送った。「研究員の募集はなかったんですが、“面接をするので1月に”と返信が来たんです!」
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念願がかない、2002年4月、BSIへ。「視覚による知覚の研究は、具体的なモノを見せて脳内の活動を調べるのが主流です。脳には形に反応する細胞があり、その細胞が反応するとモノを知覚するといわれています。でも、僕は形、つまり目から入ってきた情報に解釈を加えることで、知覚できるようになると考えています」。そこで、“知覚交替”に関連した脳活動の解析を開始。知覚交替とは、だまし絵(多義図形)を一定時間見ていると自発的にその見え方が変化することだ。「図形の見え方が変化するということは、図形に対する意味付けが変化することなので、知覚に関連する脳活動を調べるのに適した課題です。“ネッカーキューブ”というだまし絵を使って実験した結果、図形の見え方が変わるときに前頭部と頭頂部の脳波活動が同期していることが分かりました(図)」
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BSIの任期は5年。昨年が任期終了の年だった。「次の仕事を探していたら、BSIにたまたま将棋プロジェクトができたんです。将棋のプロは、次に指す手が直感的に分かるんです。これなら、“見て分かる”ということは直感的な思考の結果である、という僕の仮説を検証できる……。そして今年の4月から将棋プロジェクトに参加しました。思考はまだ学問として確立されていませんが、手始めとして将棋の直感的思考を研究しています」
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尊敬する人は?「2003年に亡くなったBSIの松本元先生。先生の本にすごく影響を受けました。脳科学の専門的な話から、一般的なところにまで話を膨らませられる。そういったところを僕もできたらと思います」。休みの日には趣味で和太鼓を習っているという中谷研究員。いつの日か脳科学に新たな分野が拓かれるかもしれない。■
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新理事に倉持隆雄氏
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7月6日、倉持隆雄氏が理事に就任しました。当研究所の発展に尽力された坂田東一氏は7月5日をもって退任しました。 |
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第1回「RIKEN Fellow」を利根川 進氏に
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当研究所は、自然科学分野において世界的に傑出した実績および見識を有すると同時に、研究所の発展にとって掛けがえのない科学者に対して敬意を表するため、「RIKEN Fellow」制度を創設しました。第1回「RIKEN Fellow」が利根川進 理研-MIT脳科学研究センター長(1987年ノーベル生理学・医学賞を受賞)に授与されることになり、7月6日、和光キャンパスで、その授与式および記念講演会が開催されました。利根川センター長は、“Yesterday, Today and Tomorrow”と題して自身の研究と研究者人生について講演し、若手研究者をはじめ大勢の職員が聴講しました。RIKEN Fellowは、必要に応じて理研の活性化に資する助言を行います。 ![]() |
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「“科学”を日常の眼で見る〜生命誌を例に〜」を開催
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研究不正に対する意識啓発を目的とした「研究不正防止のための講演会」を6月29日、和光キャンパスで開催しました。講師にJT生命誌研究館の中村桂子館長を迎え、「“科学”を日常の眼で見る〜生命誌を例に〜」というテーマでお話しいただきました(写真)。「生命誌」の提唱者である中村館長は、科学の歴史の中での“現在”を考えることにより、時にはじっくり考える時間を持つことの大切さと、「なぜと問い自分で考える」ことの大切さを述べ、それがやがては研究不正防止につながるのではないか、と強調しました。講演後、参加者との間で多くの質疑が交わされ、好評のうちに終了しました。また、講演の模様は各事業所へはテレビ会議システムを使って、和光キャンパスの一部へはインターネットを使って配信され、理研全体で約370名が聴講しました。 |
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新ユニットリーダーの紹介
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「オルガテクノ2007“有機テクノロジー展/国際会議”」に出展
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7月18〜20日、「オルガテクノ2007“有機テクノロジー展/国際会議”」が東京ビッグサイトで開催されました。オルガテクノは、「電子」「医療」「自動車」を軸にした有機系高分子の新しい利用技術を展望する展示会・国際会議です。理研からは、中央研究所、フロンティア研究システム、知的財産戦略センター、放射光科学総合研究センターから合計6研究室が、理研ベンチャーからは2社が出展し、最新の研究成果などを紹介しました。2日目に発表された「オルガテクノ大賞2007」では、知的財産戦略センターの次世代移動体通信研究チームが「新技術部門賞」を、理研ベンチャーの(株)メガオプトが「ベンチャー部門賞」を受賞。また、各分科会に分かれての技術セミナーや白川英樹博士(2000年、ノーベル化学賞受賞)の特別講演「導電性高分子研究の35年」が行われるなど、大変有意義なものとなりました。 ![]() |
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高校生が科学を体験合宿!
「サマー・サイエンスキャンプ2007」 |
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「サマー・サイエンスキャンプ2007」(主催:科学技術振興機構)が7月25日から3日間、和光研究所で開催されました。10倍を超える応募者の中から選ばれた全国各地の高校生10人が、牧島宇宙放射線研究室の「光とX線で宇宙を見よう」、袖岡(そでおか)有機合成化学研究室の「細胞死をコントロールする“薬”を作ってみよう!」、鈴木化学反応研究室の「レーザーと画像で観る化学反応の世界」の3コースに分かれて、研究者から直接、指導を受けました。参加した高校生は、実験と講義を通して最先端の科学を勉強し、最終日の体験発表会では、「将来への展望が開けた」「参加する前よりも科学が好きになった」などの感想が聞かれ、指導に当たった研究者に感謝の気持ちを表していました。 また、2日目の夕方に行われた懇親会には野依良治理事長も出席し、高校生に向けて励ましのメッセージを送りました。野依理事長とノーベル賞のメダルを囲んでの写真撮影なども行われ(写真)、高校生にとってまたとない充実した3日間となりました。 ![]() |
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CDB−連携大学院
「集中レクチャー・プログラム」を開催 |
7月25日から2日間、発生・再生科学総合研究センター(CDB)で「集中レクチャー・プログラム」が開催されました。このプログラムは、CDBと連携大学院協定を結んでいる関西圏の大学の大学院生および一般から参加を募り、発生・再生と幹細胞に関する最先端の研究を、レクチャーと実習で紹介するものです。4回目となった今年は約160名が参加し、ES細胞をめぐる研究の状況やカメの甲羅の発生と進化など、CDBならではの幅広い話題について、活発な質疑応答が交わされました。また、実験生物や幹細胞をテーマにした展示、マウス胚(はい)のマイクロマニピュレーションの実習、研究室の見学など、研究現場に直接触れるさまざまなプログラムが実施されたほか、研究者との交流会では研究内容や研究環境についての議論が夜遅くまで交わされました。参加者からは、「最先端の研究内容の分かりやすい解説を聞いて感銘を受けた」「大学の研究室以外の研究室の雰囲気を知ることができてよかった」などの感想が寄せられました。 |
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プレス発表までの道、あれこれ
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私は理研バイオリソースセンター(BRC)に来る前は、「植物の環境ストレスへの応答の仕組み」について研究を行ってきました。環境ストレスとは、植物に何らかの生育不良を及ぼす環境要因で、例えば干ばつや栄養欠乏などがあります。BRCでは、環境ストレス研究におけるシロイヌナズナの利用価値向上に取り組むことになりました。“数あるストレスの中で、何を取り上げればいいのか?” そればかりを考える日々がしばらく続き、あるとき参加した研究集会で酸性土壌の問題について知りました。家庭菜園でも畑に石灰などをまいて、土のpHを中性にして植物の成長を回復させていますが、世界的には耕作地の4割もが酸性化して作物の収量が減っているようです。どうして植物の成長は酸性土壌で阻害されるのでしょう。専門家の間では土の中に存在する金属や栄養素がイオン化、あるいは不溶化して成長に悪影響を与えているといわれており、特にアルミニウムイオン(Al3+)による障害についてはたくさんの論文が出ています。“それでは、酸性自体は成長に悪影響を与えないのだろうか?” この疑問に答えるために、シロイヌナズナを使おうと考えました。そこで、酸耐性にかかわるシロイヌナズナの変異体の取得を目指しました。まず、変異体をスクリーニング(選別)するために必要な寒天培地の作製を試みましたが、何度やってもpHを下げると寒天が固まりません……。 ある技術員の方と話をしたときに、“料理でも酸によって寒天が固まらないことはよく知られている”と教えていただきました。これを聞いて“無理かな”とも思いましたが、あきらめ切れずに3ヶ月間試行錯誤を繰り返した結果、ついに寒天培地が固まる条件を発見しました。pHを安定させるのにさらに3ヶ月間、合わせて半年がかりで完成した寒天培地を用いてスクリーニングを開始。ところが酸耐性が増加した変異体を取得しようと思いスクリーニングしたものの、高い耐性を示す株を取得できませんでした。そこで、逆に酸に対して弱くなった株を取得しようとスクリーニングしたところ、ようやく一つの変異体を取得し、解析した結果、原因となる遺伝子「STOP1」を決めることができました。続いて変異体の生理学的な特徴を明らかにするために共同研究先を探したところ、岐阜大学の小山博之教授らの協力を得ることができ、そして、STOP1遺伝子は酸耐性とアルミニウム耐性の両方に働く鍵遺伝子であることが分かりました。今後、STOP1遺伝子を各種植物に組み込むことにより、酸耐性が増すような作物をつくり出せるかもしれません。 データがそろってくると論文を早く投稿したくなるのですが、“特許も出しておいた方がいい”と思い、知的財産戦略センターにお願いして素早く特許を申請しました。その後、投稿した論文は受理されました。そして“論文公開前にプレス発表をしたい”と考えていたのですが、インターネットでの公開が普及したことから、受理された論文が公開されるまでの期間は幾日もありません。慌ただしい状況ながら、筑波研究推進部と広報室の協力を得て、論文公開に合わせ2007年5月29日にプレス発表※し、新聞などでも紹介されました。 構想を立ててから5年もの間、紆余曲折(うよきょくせつ)がありましたが、多くの方々の助力を得て世界に向けて成果を発表することができました。最後になりますが、この場をお借りして、共同研究者ならびに本件にかかわっていただいた皆さまにお礼を申し上げます。 ■ ※プレスリリースは下記URLを参照ください。 http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2007/070529/index.html |
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