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光の常識を覆した研究者 |
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原酒
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新しい分子をつくり、創薬や生物学に貢献する
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二つのインパクト
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「大学の薬学部に入り、最初は生物に興味があったのですが、マウスを使った実験が苦手で……(笑)。それに当時、生命現象はブラックボックス、生物学は暗記する学問というイメージでした。それに比べて、化学は反応が起きる仕組みをきちんと理解できます。次第に化学が面白いと思うようになりました」
有機合成化学へ進んだ袖岡幹子主任研究員は修士課程を修了したころ、二つの印象的な出来事に出会った。それが今の研究につながっている。 「一つは、合成した分子が自分の手にごく微量付いただけで充血して真っ赤になったことです。合成した分子に私自身の体が敏感に反応したことに、強いインパクトを受けました。なぜ、微量でこれだけの影響を被るのか、その仕組みを知りたいと思いました。しかし当時は、生命現象を化学的に調べる手段が少なく、そのような研究にすぐには進めませんでした」
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左手と右手をつくり分ける
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もう一つは、異性体をつくり分ける実験での出来事だった。異性体とは、原子の種類や数が同じでも、原子の立体的なつながり方や配置が違う分子だ。「化学的・物理的な性質が非常に似ていても、体に対する影響がまったく違う異性体があります。あるとき、一方が微量で効果を示すのに、もう一方は100分の1くらいの効果しか示さない異性体をつくり分ける必要に迫られました。そこで、遷移金属の一つであるクロム(Cr)を含む触媒を使ってみると、一方だけがとても効率よく合成できました。その威力に強い印象を受けたのです」
それ以来、袖岡主任研究員は異性体を効率的につくり分ける化学反応の開発を続けている。現在は、主にパラジウム(Pd)を含む触媒を開発して、光学異性体(鏡像異性体)をつくり分ける研究を行っている。右手と左手は鏡に映すと同じ形になるが、実像を重ね合わせることはできない。このような関係にある分子が光学異性体である。光学異性体の働きの違いは、1960年代に鎮静剤・睡眠薬として使われたサリドマイドの悲劇が有名だ。サリドマイドの右手系の分子には薬効があるが、左手系には胎児に奇形をもたらす副作用があったのだ。光学異性体をつくり分ける技術は、創薬などで極めて重要だ。「理研の野依良治理事長は、炭素と水素の結合の部分で光学異性体をつくり分ける触媒を開発してノーベル化学賞を受賞されました。私たちは、炭素と炭素、炭素と窒素、炭素とフッ素の結合の部分で光学異性体をつくり分ける研究をしています」 袖岡有機合成化学研究室では、光学異性体を最高99対1以上の割合でつくり分けることができるパラジウム触媒の開発に成功した(図1)。
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ケミカルバイオロジー
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袖岡有機合成化学研究室のもう一つの研究テーマは、新しい分子をつくり、それを利用して生命現象の未知のメカニズムを探ることだ。
「ある種の分子が体の中に入ると、特定のタンパク質と結合することで、生理反応が引き起こされます。しかし私は大学を卒業してしばらくの間、相手のタンパク質の形が分からないまま、分子をつくる研究をしていました。いずれは、相手の形を見て、ぴったりと結合する分子をデザインしたり、分子が引き起こす生命現象を化学的に調べる研究をしてみたいとずっと思っていました」 1990年代初め、転機が訪れた。「米国のハーバード大学の化学科に留学する機会があり、そこでタンパク質の立体構造を化学的に解析する研究に携わりました。私たちがつくる分子は、分子量が小さな低分子です。一方、タンパク質は分子量が大きな高分子。かなり違うものというイメージを持っていました。しかし留学先の研究室で、低分子の分析手法がタンパク質のような高分子でも使えること、またタンパク質の立体構造を調べる技術も進展していることを知りました」 袖岡主任研究員が在籍した研究室の上の階に、S. L. Schreiber(シュレイバー)教授の研究室があった。ちょうどそのころ、Schreiber教授は化学の視点から生命現象を解き明かす「ケミカルバイオロジー」を提唱した。「1990年代に入ったころから化学の視点で生命を研究するための技術基盤が整い始めたのです。私も少しずつケミカルバイオロジーを研究し始め、2004年に理研の主任研究員になってから、その研究を本格的に展開するようになりました。理研の素晴らしいところは、まわりに生物学者などあらゆる分野の研究者がいて、何か分からないことがあるとすぐに聞きに行ったり、逆に相談を受けたりと、異分野間の垣根が低く交流が活発なことです。化学と生物学を融合させたケミカルバイオロジーの研究を行うには最適な場所です」
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細胞死を止める分子をつくる
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現在、袖岡主任研究員たちが進めているケミカルバイオロジーの研究をいくつか紹介しよう。
一つ目は「ネクローシス(壊死(えし))」という細胞死に関する研究だ。発生の途中などで不要になった細胞が自殺するように死んでいく細胞死を「アポトーシス」と呼ぶのに対し、ネクローシスは細胞が強い傷害を受けたときに起きる受動的な細胞死だ。 「10年以上前、生物学のある先生から、BM Ⅰという分子によりネクローシスが抑制されることを偶然発見した話を聞きました。それがこの研究の始まりです」。BM Ⅰは、タンパク質にリン酸をくっつけるタンパク質リン酸化酵素(プロテインキナーゼ)の働きを阻害する物質として開発されたものだ。「しかし、BM Ⅰがネクローシスを抑制するのは、タンパク質リン酸化酵素の阻害効果とはおそらく関係ないと考えました。それはBM Ⅰの仲間のBM Ⅴはタンパク質リン酸化酵素を阻害しないのに、弱いながらもネクローシスの抑制効果があったからです。そこで、タンパク質リン酸化酵素を阻害せずに、ネクローシスだけを強く抑制する分子をつくろうと思いました」 袖岡主任研究員たちは、BM Ⅰを改変して、ネクローシスだけを強く抑制する分子「IM-54」(IM誘導体)をつくることに成功した(図2)。 「脳や心臓の血管が一度詰まった後で、再び血液が流れるようになると、活性酸素によって脳や心臓の細胞が損傷して、ネクローシスが起きます。実験でマウスの心臓の血管を縛った後、再び開くと心機能不全で10分ほどで死んでしまいます。ところがIM誘導体を投与しておくと、マウスは死ななくなります」 心臓移植ではドナーの体から心臓を取り出し患者のところへ運ぶ間に虚血状態になり、やはり心臓の細胞がダメージを受ける。「この場合にも、IM誘導体を心臓の保存液に入れておくとダメージが少なくなります。現在は、なぜIM誘導体がネクローシスを抑制するのか、その仕組みを調べています」 袖岡主任研究員たちは、IM誘導体がミトコンドリアに集まるタンパク質に結合することを突き止め(図3)、さらに、そのうちのどのタンパク質がネクローシスと関係しているかを探っている。アポトーシスに比べてネクローシスの研究は遅れているが、ネクローシスだけを抑制するIM-54のような分子を手掛かりに、ネクローシスで重要な働きをするタンパク質や、そのシステムを解明していくことができると期待されている。
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| 標的タンパク質だけに結合する分子 |
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| 重要なタンパク質に狙いを定めて、それに結合する分子をつくり、そのタンパク質の働きを詳しく調べる研究も行っている。PP2Bというタンパク質は脱リン酸化酵素の一種で、免疫系の情報伝達で重要な役割をしていることが知られている。「PP2Bは立体構造もすでに解析されています。しかし、立体構造が分かっているだけでは、それに結合する分子をつくることは難しいのです。私たちは、PP2Bと立体構造がよく似た別の種類の脱リン酸化酵素に結合して阻害する天然物に注目しました。それは昆虫のハンミョウの一種が持つ毒の成分です。その分子を改変して、PP2Bだけに結合して、PP2Bの働きを阻害する分子をつくりました」 このような分子は免疫抑制剤として応用が期待できるだけでなく、PP2Bの役割や免疫系の情報伝達の仕組みを探る強力な手段となる。 これまで、タンパク質をつくる情報が書かれた遺伝子の働きを抑えたり過剰に発現させたりして、遺伝子やタンパク質の機能を調べる研究が行われてきた。例えば、特定の遺伝子を働かなくしたノックアウトマウスが生物学の重要な研究手法となっている。しかし、ある遺伝子をノックアウトすると、発生の途中で死んでしまい実験に使えない場合がある。あるいは、ある遺伝子を働かなくしたことにより、それを補うようにほかの遺伝子がたくさん発現する場合もある。従って、ある遺伝子をノックアウトして、マウスに何らかの現象が起きたとしても、その現象とノックアウトした遺伝子が直接関係しているかどうかは、すぐに結論付けることはできないのだ。 一方、特定のタンパク質の働きだけを抑える分子を使えば、ある時期の特定の細胞に存在するタンパク質の機能を抑えることで、その機能をより直接的に調べることができる。 また、酵素などのタンパク質には活性化した状態と不活性の状態があり、それぞれ立体構造が異なる。活性化した状態の酵素だけに結合する分子をつくり、その分子に放射性同位体の目印を付ければ、PET(陽電子放射断層撮影装置)によって体の中で活性化した酵素が、どこでどのように働いているかを見ることができる。このように、体の中でタンパク質などの生体分子が働いている様子を画像化することは分子イメージングと呼ばれ、これからの医療や生物学にとって重要な手段である。その分子イメージングの進展にも、特定のタンパク質だけに結合する分子の開発は不可欠だ。
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ケミカルバイオロジーの中核、理研
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理研中央研究所では、長田裕之主任研究員(長田抗生物質研究室)が中心となり、ケミカルバイオロジー研究推進グループが活動している。「理研は日本におけるケミカルバイオロジーの中核的な研究機関です。その中で、理研では米国とは違う戦略で研究を進めています」
ケミカルバイオロジーを提唱した米国のSchreiber教授たちは、簡単に合成できる分子をたくさんつくって、その中から有用な分子を見つけるという戦略で研究を進めている。それには多くの資金と人材が必要だ。 「一方、長田主任研究員たちは天然物のライブラリーを充実させて、そこから有用な分子を効率的につくり出していく戦略です。私たちの研究室もそれに協力しています」 例えば、長田主任研究員たちは天然物から脱リン酸化酵素を阻害するRK-682という分子を見つけた。さらにこの分子は、がん細胞が転移するときに働くヘパラナーゼという酵素の働きを阻害することも見いだした。「私たちは、この天然物の分子の形を変えることで、脱リン酸化酵素だけを阻害する分子や、逆にヘパラナーゼだけを阻害する分子をつくることに成功しました(図4)」 袖岡主任研究員は「生命現象のブラックボックスの扉を開く鍵となる分子をつくっていきたい」と今後の展望を語る。「自分たちでつくった分子を生物学の研究者たちと一緒に利用することで、この分子がなければあの生命現象の仕組みは解けなかった、そう言われるような研究ができたらいいですね」 化学者たちが、生物学を新たなステージへと進展させようとしている。■
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重イオンビームで新しい植物をつくる
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理研生まれの花たち
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阿部知子 副チームリーダーの名刺には、ダリアやペチュニアやバーベナなど花の写真があしらわれている。「私たちが重イオンビームを照射してつくった新品種なんですよ」と阿部副チームリーダー。“ワールド”と名付けられた真っ赤なダリアは、“美榛(みはる)”というピンクの品種からつくられたものだ(図1)。花弁の数も60から80に増え、大輪になった。広島市農林業振興センターと共同で開発し、2001年秋に試験販売を開始。重イオンビームを照射してつくられた新品種の市販は、“ワールド”が世界初だ。
これまでにつくった中で阿部副チームリーダーが一番好きな花は、ペチュニアのサフィニアローズ(図2)。元の花色は紫だが、照射によって鮮やかなピンクになった。バーベナは、種子を付けなくなり(不稔(ふねん)性)たくさんの花を長く楽しめる、“花手毬カーペット咲きコーラルピンク、サクラ、こんもり咲きもも”の3種がある。ペチュニアとバーベナはサントリーフラワーズ(株)から販売されている。「ホームセンターの広告に、サフィニアローズが載っていたんです。写真付きで。“本当に売っているんだ”と感激しました」。それらは海外でも人気が高いという。
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日本独自の技術
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花卉(かき)産業を含む農業では、優れた性質を持った新品種をつくる“育種”が盛んだ。育種の方法には、目的とする性質を持つ品種同士を掛け合わせる“交配”、自然の中から変わった品種を探す“探索”、ほかに“遺伝子組換え”、“突然変異の誘発”などがある。
突然変異の誘発は、化学変異剤やX線・ガンマ線などで遺伝子を傷付け、生じた突然変異体から目的の性質を持った品種を選び出す。放射線を用いた方法は、自然界で普通に起きている、宇宙から地球に降り注ぐ宇宙線などによる突然変異と同じ原理だ。この方法でつくられた品種は、世界中で2200種を超えている。そして、突然変異を誘発する新しい画期的な方法として注目されているのが、重イオンビームである。 「これは日本独自の技術なんです」と阿部副チームリーダー。重イオンビームとは、原子から電子をはぎ取った原子核だけを加速器で光速(≒30万km/秒)の半分くらいまで加速したもの。大型加速器が建設された1970年代に誕生し、原子核物理以外の応用分野でも利用されている。例えば、理研は放射線医学総合研究所と共同で、重イオンビームによるがん治療の研究を進めてきた。がん細胞に重イオンビームを照射し、遺伝子を傷付けて死滅させる。それをヒントに生まれたのが重イオンビーム育種だ。 がん治療用の加速器が放射線医学総合研究所に建設されることになり、理研での試験が終わる少し前のこと。サクラの下で、阿部副チームリーダーは仲間たちと花見を楽しんでいた。その中に現在、仁科加速器研究センター長を務める矢野安重氏もいた。「阿部さん、今度ビームラインが空くんだけど、生物でいい実験ないかな」「植物なんてどう? 細胞が死なない程度に遺伝子を傷付ければ、いろいろな突然変異が起きるから新しい植物ができるよ」「面白そうだな」。そんな会話から重イオンビームによる育種は始まった。 重イオンビームによって突然変異を起こす基礎研究は行われていたが、育種に使おうという本格的な試みは、日本どころか世界でも初めてだった。阿部副チームリーダーは「理研だからできたんですよ」とも言う。「多くの加速器は、原子核物理の実験のためだけに使われています。でも、日本初の加速器を理研につくった仁科芳雄先生は、“加速器を原子核物理以外の分野にも役立てなさい”とおっしゃったそうです。その伝統が今も生きているのです」。理研の加速器の年間稼働時間のうち20〜30%は原子核物理以外の分野が使っている。生物照射チームの実験時間は、全体の約3%だ。
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数秒の照射で高い変異率、多様な変異
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照射量が少なく、変異率が高く、変異のバリエーションが多い。これが、阿部副チームリーダーが挙げる重イオンビームの利点である。「重イオンビームは粒子1個のエネルギーが、X線やガンマ線に比べて数十から1000倍も大きいので、1個でも遺伝子に大きなダメージを与えることができます。しかも、重イオンビームが通過するときにDNAの二本鎖を1ヶ所だけ切断するので、一つの遺伝子が欠損した突然変異体が、高い確率で生じます」このような突然変異体は、育種には最適だ。病気に強い新品種をつくろうと交配したら、耐病性は高くなったが、味が落ちてしまうことがある。その場合、味のよい品種との交配を何度も繰り返して味を戻していく必要があった。それには5〜10年もかかる。X線やガンマ線の場合も、1粒子の与えるダメージが小さいので効果が現れるためには多数の粒子が必要となり、その結果、複数の遺伝子を傷付けやすくなる。そのため複数の性質が変わりやすいという、交配と同じような問題を抱えていた。「重イオンビームの場合、一つの性質だけ変わることが多いのです。有用な性質はそのままに、目的とする性質だけが変わった突然変異体を選別すれば、そのまま新品種にすることができます。育種年限が2〜3年と大幅に短縮できるんです」 生物照射チームでは、仁科加速器研究センターの理研リングサイクロトロンで加速した重イオンビームを使っている。現在、日本で重イオンビーム育種を行っているのは、理研と原子力研究開発機構高崎研究所と若狭湾エネルギーセンターの3ヶ所だ。理研の加速器が最も性能が高く、炭素、窒素、ネオン、アルゴン、鉄などの原子核が使え、突然変異のバリエーションも大きくなる。しかも加速器のエネルギーが高いので、重イオンが加速器から打ち出されて停止するまでの距離“飛程(ひてい)”が長い。「細胞の中で重イオンが止まってしまうとダメージが大き過ぎるので、通過させ均一に照射したい。理研の加速器は、それが可能です」 照射する試料は、乾燥した種子、吸水させた種子、培養細胞、穂木(ほぎ)と呼ばれる枝など、さまざまだ(図3)。それらを育て、目的とする性質を持った突然変異体を選別する。重イオンビームは特定の遺伝子の狙い撃ちができない。しかし、短時間・低線量の照射で済むので生存率は高く、10%を超える高い確率で突然変異が発生する。しかも、一度に大量の試料を照射できるので、“数打てば当たる”というわけだ。
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新色サクラ“仁科蔵王”
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栽培植物の新品種をつくったら、農林水産省に種苗登録することが義務付けられている。生物照射チームでは多くの新品種をつくり出してきたが、いずれも共同研究先の企業や農業試験場が種苗登録を行ってきた。だが、この10月、理研の長い歴史で初の種苗登録が行われた。
「黄色っぽいサクラです。緑色が濃い品種に重イオンビームを照射してつくったもので、野依良治理事長に“仁科蔵王(ざおう)”と命名していただきました(図4)」。“仁科”は理研加速器の父、“蔵王”は共同研究者が山形の育種家であることに由来する。「苗木を頂けるので、どこに植えようかと考えているんです。特につぼみのとき、黄色がきれいですよ」。仁科蔵王は人気を呼ぶことだろう。 また、生物照射チームは、毎年4月に行われる和光研究所の一般公開で、重イオンビームを照射したアサガオの種子を配っている。「江戸時代の書物には変わったアサガオの絵が描かれていますが、現存しないものがあります。皆さんに手伝ってもらって、“変化(へんか)アサガオ”を探しています」 重イオンビームを照射した種をまき、花が咲いたら種を採り、それを翌年まいてもらう。通常、重イオンビームで生じる突然変異は劣性なので、2代目以降に色や形などが変わったアサガオが出る可能性がある。「私たちがつくっている『あさがお倶楽部』のホームページ(http://www.rarf.riken.go.jp/asagao/)には、花弁に切り込みがあるものなど、投稿写真が届きます。変化アサガオならば、種子を送ってもらい、遺伝子の変化などを詳しく調べます。例えば、黄色いアサガオは世界中どこを探してもありません。黄色い花が咲いたらうれしいですね」。“世界に一つだけの花”を見つけるのは、あなたかもしれない。
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世界初 耐塩性のイネ
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重イオンビーム育種の対象は、花だけではない。最近では、“日本晴”というイネに重イオンビームを照射することで、耐塩性のイネをつくることに成功した(図5)。一般の品種を塩害水田で栽培すると、枯れたり、米ができても精米すると欠けたり白濁してしまう。しかし、新品種は正常に生育し、米の状態も普通の水田のものと変わらない。「実際に食べましたが、味も劣らず、おいしかったですよ。ほかの穀物でも同じことができるかもしれません」。塩害により農業に適さない土地が増えていることから、食糧問題の解決にも役立つと期待されている。
市場に出るにはまだ時間がかかるが、背が低くて倒れにくいソバ、枝にとげがなく収穫が楽なミカン、実が黄色く苦みがないピーマンなども生まれている。「ピーマンは不思議なんですよ」と阿部副チームリーダー。「劣性の変異が現れるのは2代目以降のはず。これはメンデルの法則で決まっています。でも、そのピーマンは1代目で劣性の変異が出てしまったんです。理由は分かりません。これから調べます」。重イオンビームによって突然変異体が現れるメカニズムは、まだ分からないことも多い。メカニズムを明らかにし、より効果的な突然変異の誘発方法を確立することも、生物照射チームに課せられた役割だ。 ![]() |
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食糧問題の解決にも貢献
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生物照射チームと共同研究を行っているところは、120以上もある。農業試験場や大学、企業などさまざまだ。2001年には、日本育種学会グループ研究会に「サイクロトロンミュータジェネシス研究会」が発足した。2年ごとに研究会を開催し(次回は2008年1月24日、25日に理研シンポジウムとして行う)、基礎的な研究や実用化例の紹介などを通してユーザー間の交流を図るとともに、『品種改良ユーザー会報告書』を出している。また、南アフリカとヒエやソルガム、タイとラン、オーストラリアとコムギやオオムギの共同研究が進むなど、海外とのネットワークも広がりつつある。しかし、重イオンビーム育種が盛んなのは日本だけ。ようやく、中国が始めたところだ。「もう少し広がってくれることを期待したいですね」
また、「重イオンビームは生命科学の研究にもっと使ってほしい」と阿部副チームリーダー。重イオンビームを照射して突然変異体をつくり、どの遺伝子が傷付いたかを調べることで、その遺伝子の機能を知ることができる。 今後の課題は、変異率の向上だ。「2006年12月に完成した超伝導リングサイクロトロンを使うと、飛程を伸ばしたり、もっと重い原子核を加速できます。今まで以上の効果を期待しています」。遺伝子を1個丸ごと欠失させる技術のニーズも高い。重イオンビームをうまく制御すれば、それも可能になるかもしれない。 生物照射チームは今年、「高強度重イオン加速器による高効率突然変異育種技術の開発」が評価され文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)を受賞。これまでにも数々の賞を受賞してきた。重イオンビーム育種に、大きな期待が集まっている証拠だ。その中心にいる阿部副チームリーダーは、こんな夢を抱いている。「私は農学部の出身で、加速器のことはまったく分かりませんでした。でも使ってみると、加速器は生物学の手法で今までできなかったことを可能にする、すごい道具だったんです。“日本ブランド”の新品種をつくったり、ゲノム科学の進展や環境・食糧問題の解決に貢献したいと思います」 ■
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「タンパク3000プロジェクト」から
生命システムの解明へ |
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構造プロテオミクスの提唱
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――1995年、お二人はそれぞれ独立に、タンパク質全体を対象に構造と機能を調べる「構造プロテオミクス」の必要性を、世界に先駆けて提唱されました。どのような狙いがあったのですか。
横山:私は国立がんセンターで研究していたことがあるのですが、病院では毎日のように、がんで患者さんが亡くなられます。自分にできることは何かと考えた結果、がんに関係するシグナル伝達の研究に取り組みました。細胞外のシグナル伝達物質を細胞膜にある受容体タンパク質がとらえると、そのシグナルを細胞内にある多様なタンパク質が次々と伝達して核の中に伝え、遺伝子が発現して特定のタンパク質が合成されます(図1)。その伝達経路のタンパク質の働きがおかしくなると、細胞ががん化する場合があります。 タンパク質は構造を持つことで機能を発揮します。例えばシグナル伝達の過程では、鍵が鍵穴にはまるようにタンパク質AがBに結合し、Bの構造が変わってCに働き掛ける、といったことが起きています。そのようなタンパク質の構造が分からなければ、シグナル伝達のネットワークの仕組みを本当に理解できたことにはなりません。しかし当時は、1個のタンパク質の構造を調べるにも多くの時間がかかってしまい、ネットワークを調べる研究がなかなか進展しませんでした。まず、タンパク質の全体像を調べることが必要だと痛感したのです。 ――どのような戦略で調べようと考えたのですか。 横山:タンパク質は、基本構造の組み合わせでできていることが分かってきました。その基本構造をすべて明らかにできれば、タンパク質の全体像が見えてくるはずだと考えたのです。同じころ、基本構造に分けずにタンパク質の全体像をとらえようとしている研究者がいました。それが倉光先生です。 倉光:私は理学部の出身ですが、もともと医学に興味があり、大学病院に10年ほど勤務していました。病気で亡くなる方には何らかの共通するパターンがあるようだが、それをどのように解明していけばいいか分からない、と臨床の先生と話していました。その後、私は理学部に戻り、そこで医学に役立ち生命科学としても重要な研究をしたいと思いました。そして1995年、タンパク質工学会で長期展望に立った新しい研究を提案するセッションがあり、「高度好熱菌丸ごと一匹プロジェクト」を発表しました。 横山:そのセッションを開いたのが私でした。倉光先生の提案を聞き、出発点は違うが同じことを考えておられると思いました。 ――「高度好熱菌丸ごと一匹プロジェクト」とは? 倉光:あらゆる生物は、共通の祖先から進化したと考えられています。進化的に古いThermus thermophilus(サーマス サーモフィルス) HB8という高度好熱菌は、生命として必要最小限のタンパク質を持っています。進化の過程で遺伝子の塩基配列はさまざまに変化しても、あらゆる生命に不可欠なタンパク質の構造と機能には共通性がある。高度好熱菌のすべてのタンパク質の構造を調べ、細胞内で起きているあらゆる生命現象の仕組みを理解する。そうすれば、ヒトを含むすべての生物に共通するタンパク質の構造、そして生命に不可欠な基本的な仕組みが分かるだろうと考えました。この考えはなかなか理解が得られなかったのですが、横山先生だけはすぐに理解してくださった。うれしかったですね。生命現象の仕組みを解明するために、まずタンパク質全体の構造を知ることがどれだけ大事かを、二人とも理解していたので、意気投合したのだと思います。 横山:あのときが、出発点でしたね。 ![]() |
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なぜ「タンパク3000プロジェクト」か
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横山:その後、1997年に世界最高性能の大型放射光施設SPring-8の運用が開始され、理研播磨研究所で倉光先生の「高度好熱菌丸ごと一匹プロジェクト」が始まりました。高度好熱菌のタンパク質は結晶をつくりやすいものが多く、SPring-8によるX線結晶構造解析に向いているのです。一方、ヒトやマウスのタンパク質の基本構造は分子量が小さいので、結晶をつくらずにNMR(核磁気共鳴)装置で構造解析を行うことができます。私は1998年に設立されたゲノム科学総合研究センターに研究グループを立ち上げ、40台からなる世界最大規模のNMR施設をSPring-8とともに活用し、構造プロテオミクスの研究を本格的に開始しました。
――構造プロテオミクスの研究が、国際プロジェクトとして進められるようになった経緯は? 横山:私たちは基本構造を1500種類くらいと大まかに分類していました。一方、米国では、タンパク質の構造をコンピュータで予測するには約1万種類に細かく分けた基本構造の解明が必要だと推定し、それを国際協力で進めようと言いだしたのです。1999〜2000年ごろのことです。2001年には、国際プロジェクトを推進するために国際構造ゲノム科学機構(ISGO)が設立されました。米国が本格的にタンパク質の構造解析を始めることになり、日本も全体の3分の1の貢献、3000種類くらいの解析を目指すべきだという意見が出されました。3000という数字はとても大きな数です。しかし当時、ヒトゲノムの解析で日本は後れを取っており、全体の3分の1の貢献くらいを目指さなければ、タンパク質の研究でも決定的な後れを取る。多少異論があっても進めるべきだと、多くの人が考えるようになりました。こうして2002年度から「タンパク3000プロジェクト」が国家プロジェクトとして始まり、理研で2500種類、全国の大学や研究機関で500種類の基本構造の解析を、5年間で進めることになったのです。 |
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試験管の中で生命現象を再現する
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――2007年3月のプロジェクト終了までに、目標の3000種類を超える基本構造の解析が行われました。「タンパク3000プロジェクト」にはどのような意義があったとお考えですか。
横山:実際に重要なタンパク質の構造と機能を数多く解析しました(図2)。その過程でたくさんのタンパク質の構造を一気に解析する技術基盤を築いたことも、大きな意義だと思います。その中には、これまでつくれなかったタンパク質も合成できる無細胞タンパク質合成システムや、タンパク質の自動結晶化・観察ロボットシステムなど、たくさんの技術があります。 倉光:生命現象を実現しているタンパク質という分子の構造解析が一気に進んだことにより、化学や物理、あるいは数学の研究者たちが、生命現象を研究対象にしやすくなりました。これから、新しい生命科学が始まると思います。 ――横山プロジェクトディレクターが今年4月に立ち上げた「タンパク質基盤研究グループ」では、どのような研究を行うのですか。 横山:遺伝情報に基づきアミノ酸が配列して、それが折り畳まれてタンパク質となり、たくさんのタンパク質が集まり、生命となります。なぜ、タンパク質のような分子が集まると生命ができるのか。タンパク質の構造が一気に解明できるようになった今、その根源的な謎に迫る研究を、いよいよ始めることができると思います。 ――どのような戦略でその謎に迫るのですか。 横山:時計を部品ごとにばらばらにして、それを再び組み立てて動かすことで、時計が動いている仕組みを理解することができます。生命の仕組みを調べる場合にも、分子レベルから再構成してみることが有効です。いわば「再構成の分子生物学」です。「タンパク3000プロジェクト」は、生命現象をタンパク質という部品ごとにばらばらにして、その構造や機能を調べました。これからは、それらを試験管の中で再構成して、生命現象を再現したいと思います。さらに、実際に生きている細胞の中でタンパク質などの生体分子が働いている様子を観察する技術を開発して試験管の中に再現した現象と比較する研究や、タンパク質の構造をもとにその働きを抑える化合物を開発して試験管内と細胞内のシステムの挙動がどのように変わるかを比較する研究を計画しています。 ――どのような生命現象を再現するのですか。 横山:目標の一つは、ヒトのタンパク質合成システムの再現です。すでに数十種類のタンパク質がかかわる大腸菌のシステムを再現する研究が行われていますが、ヒトの場合には数百種類くらいのタンパク質が関係する大変複雑なシステムです。その再現は大変チャレンジングですが、生命現象の根幹をなすタンパク質合成システムの解明は、医学や創薬にも役立ちます。 ![]() |
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生命システムの全体像に迫る
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――倉光グループディレクターは、「放射光システム生物学研究グループ」をスタートさせました。どのような研究ですか。
倉光:高度好熱菌には約2200種類のタンパク質がありますが、そのうち約21%の構造解析が完了しました。その構造が分かったタンパク質や精製したタンパク質をもとに、DNAを修復するシステム、転写翻訳システム、酸化ストレスからの防御システムなどの仕組みを研究しています。高度好熱菌には、ほかにも200種類くらいのシステムがあります。私たちはまず先ほどの3種類のシステムを解明して、このようなやり方で研究を進めれば生命の基本システムが分かるということを示したいと思います。ただし、高度好熱菌のタンパク質の3割の機能はまだ解明されていません。その中でも約500種類が、さまざまな生物に共通する特に重要なタンパク質だと考えられます。ぜひこの500個の構造と機能を解析するプロジェクトも提案したいですね。 ――「タンパク3000プロジェクト」の後、生命科学はどのように変わっていくのでしょうか。 横山:いろいろな分野の研究者が情報を交換し合い、手分けをして生命のさまざまなシステムの仕組みを解明していく、本当の意味でのビッグサイエンスが必要だと思います。さらにそれらをつなげて生命システムの全体像を理解していく、そういう方向へ進んでいくべきだと思います。今後、「タンパク3000プロジェクト」で築いた技術や新しい研究グループで開発する技術をさまざまな分野の研究者に利用してもらい、そのようなビッグサイエンスへの流れをつくることも、私たちの役割だと思っています。■
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――深紫外線について教えてください。
平山:私たちの目で見える光(可視光)の波長は、400〜780nm(1nm=10億分の1m)。虹は、太陽の可視光部分が紫、青、緑、黄、橙(だいだい)、赤などの波長ごとに屈折する現象です。可視光より短い波長の光を紫外線と呼び、350〜400nmを近紫外線、200〜350nmを深紫外線と呼んでいます。 |
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――深紫外線はどんなことに役立つのですか。
平山:例えばダイオキシンなど分解が難しい公害物質の処理には、酸化チタンなどの光触媒に270〜320nmの波長の深紫外線を当てる紫外線照射システムが注目されています。バクテリアなどの殺菌では、殺菌効果が高い250〜270nm付近の深紫外線が活用されています。ほかにも高密度光記録の光源、照明やブレーキランプなど広い分野で応用が期待されています。しかし、深紫外線の領域では十分に明るい光源はなく、現在使われている紫外線レーザーやガスランプなどは、大型で寿命も短い上に高価でした。LEDは小型で長寿命、さらには省エネルギーなので、実用可能な深紫外線を発するLEDの開発が望まれていたのです。 |
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――これまでの技術では駄目だったのですか。
平山:LEDは発光する半導体素子です。深紫外線を発光する半導体の材料は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)が最適とされています。しかしこれまで開発されたものは、出力が0.02μW(1μW=百万分の1W)と非常に小さく、かろうじて光を出す程度で実用化には程遠かったのです。 |
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――高出力の深紫外LEDの開発に成功したポイントは。
平山:発光が弱かったのは、LEDの下地層(バッファー層)となる窒化アルミニウム(AlN)の高品質な結晶ができなかったためです。そこで私たちは、AlNの高品質化に取り組みました。アルミニウム材料ガスとアンモニアガスを使ってサファイア基板上にAlN層を結晶成長させる「アンモニアパルス供給多層成長法」を開発することによって、バッファー層の表面の凸凹を原子一層程度まで平たんにし、結晶の原子の位置のずれを大幅に減らすことに成功したのです(図左)。それにより、発光層における発光効率が従来の50倍にも達しました。 ![]() |
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――開発したLEDの性能について教えてください。
平山:今回実現した最短波長・高輝度LEDは、波長227.5nmで出力は0.15mWでした。これは従来報告されていたAlN深紫外LEDに比べ約1万倍の出力です。さらに、殺菌効果が高い波長域では、253nmで1mW、261nmで1.65mW、273nmで3.3mWを記録しました。室温での連続動作実験ではいずれも1mW以上でした(図右)。この出力は青、赤、白色のイルミネーション用として市販されているLEDと同程度で、そのまま殺菌灯として利用できます。今後、さまざまな改良を加えることにより、広い分野で応用されると思います。■ |
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※本研究成果は米国で開催された「第7回窒化物半導体国際会議」(9/16〜21)などで発表したほか、東京新聞(9/5)、日経産業新聞(9/5)、朝日新聞(9/21)などに掲載された。 |
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光の常識を覆した研究者
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「小学生のころ絵画教室に通っていて、卒業文集に“将来は画家になりたい”と書いたはずです。研究者になるとは思っていませんでしたね」。中学生になり、テニス部に入部。「部活動が忙しく、絵画教室に通えなくなって……、 画家になる夢は自然と消えていきました」。高校は普通科を選択。「高校を選ぶ段階では将来のビジョンはなかったですね。ただ、文系に比べると理系の科目の方が好きでした。特に古典は全然駄目。これはボクには合わんと(笑)」
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1987年、大阪大学工学部へ。「4年生になったときは就職しようと思っていたんです」。大学院へ進んだきっかけは?「今の研究室の河田聡 主任研究員が卒業論文の指導教官でした。光計測の研究室で、そのころから研究が面白いなぁと思い始めたんです。光ってきれいでしょ? だから、今の研究でも色の付いた光が好きなんですよ」。大学院に進み、光学顕微鏡の開発に取り組んだ。「光学顕微鏡は光の技術が集約されています。その後、光を使って“観る”技術を、光を使って“加工”する技術に応用しようと思い始めました」
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大阪大学の助手を経て2003年、理研へ。「学生時代から3次元光メモリの開発を進めていて、すでに実用化に近いところまで来ています。同時に新しいテーマを探していたときに出会ったのが“メタマテリアル”。私が持っていた技術が使える分野で、しかも基礎研究で奥の深そうなテーマだったので、その研究を始めました」。そして2006年4月、メタマテリアルを使い、光が100%透過する素子の考案に世界で初めて成功した。「光の屈折率は物質ごとに決まっています。空気は1.003、ガラスは約1.5、ダイヤモンドは2.417。空気とガラスの境界面では屈折率が違うので、光は反射します。屈折率が同じでない限り、必ず反射してしまうんです」。屈折率とは?「物質が持つ比誘電率と比透磁率という二つの物理量の掛け算で決まります。ところが、物質は光が持つ磁気の性質に反応しないので、どの物質でも比透磁率は1。言い方を換えると、屈折率は比誘電率だけで決まる。これは教科書に書いてあります」。今回の成果は、教科書に書いてある常識を覆したことになるのだ。「ポイントは、メタマテリアルを使って物質の比透磁率を1から変化させたこと。物質内に内径80nmの金属リングを3次元に規則的に配置すると、リングが磁場をつくり出して光の磁場に反応するようになるんです(図)」
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尊敬する人は?「リチャード・ファインマン(1965年ノーベル物理学賞受賞)のお父さん(笑)。ファインマンが書いた教科書には具体的な例が書いてあって、とても分かりやすくて何度も読み返しました。それはお父さんの影響だったらしいんです。あの偉大なファインマンを育てたすごい人だと思いましたね」。将来の夢は?「“自然のメカニズムを解明した!”みたいな研究をやってみたいですね。その瞬間、世界中探してもその事実は自分しか知らないでしょ?」。最後に「光を止めることもできるかもしれない」と、面白そうな話を聞かせてくれた。また光の常識が覆される日が来るだろう。■
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新監事に桝田太三郎氏
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10月1日、桝田太三郎氏が監事に就任しました。当研究所の発展に尽力された加藤武雄氏は、9月30日をもって退任されました。 |
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ゲノム科学総合研究センター 10周年記念講演会を開催
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1998年に設立された理研ゲノム科学総合研究センター(GSC)は、今年で10周年を迎えました。設立以来、世界のゲノム科学をリードしてきたGSCは、ゲノム、遺伝子、タンパク質の構造と機能を分子レベルから個体レベルまで体系的に研究しています。 9月26日、10周年を記念して講演会「GSCの10年とゲノム科学の“新たなる挑戦”」が、経団連会館(千代田区)で開催されました。和田昭允(あきよし)GSC特別顧問(初代センター所長)、榊 佳之GSCセンター長が今までの活動を振り返るとともに、各研究グループなどを代表して6名の研究者が研究成果と今後の展望について講演しました。また、堀田凱樹(よしき)氏(大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構長)、瀬名秀明氏(作家、東北大学機械系特任教授)による記念講演が行われました。当日は約400名の来場者があり、GSCの10周年とその将来を祝いました。 ![]() |
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新研究ユニットリーダーの紹介
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神戸と理研と私
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「神戸研究所は各支所の中で一番人気」、という話を耳にした。私も神戸に移り住んではや5年になるが、確かにその住環境は恵まれている。思い立てばいつでも行ける海と山。「京都や奈良は日帰り圏内」と言うと、関東の友人は必ずうらやむ。神戸研究所から程近い三ノ宮には、小さいが個性的な店が点在し、日々の食事や晩酌の店にも事欠かない。東京のように何でもあるわけではないが、私もこの素晴らしき地方都市を満喫している。関西弁もそろそろネイティブレベルだ(ただし、関西人は関東人のエセ関西弁にことのほか敏感なので注意を要する)。だが、問題がないわけではない。神戸の都市部は六甲山系と瀬戸内海に挟まれた、まさに「猫の額」だ。そのため土地絡みはお金がかかる。賃貸マンションの契約には50万円に上る保証金を払わされ(違法じゃないかと思うほどだが)、月2万円以上の駐車場も珍しくない。それでも駐車場は驚くほど狭い。だから神戸の人は車庫入れがうまい。かく言う私は、狭すぎると言って横の塀を削ってもらったことがある。これらの土地問題も、神戸の人気を反映してのことかもしれない。 話は変わるが、先日人事の方に、「新卒の採用面接をすると広報が一番人気」と聞いた。なるほど私は「神戸で広報」という最も人気のあるポジションにいるのか、と少し思い上がってみる。しかし彼らは研究所の広報にどのようなイメージを抱き、何をしたいと思っているのだろう。華やかなCMや芸能人を使ったイベントではないだろうが、非常に気になるところだ。 そもそも、私たちは何のために広報をしているのか――。海外の学会展示での苦い経験が思い出される。センターの研究内容や規模、予算についてはよく質問されるのだが、来場者の一人が、「何のために展示してるの?」と聞いてきたのだ。ほかの出展者の多くは企業であり、明確な商品と、それを売るという明確な目的を持っている。それ故、彼の質問は自然だったのかもしれない。しかし予期せぬ質問に一瞬面食らった私は、「認知度向上と海外人材確保のため」と答えた。確かにそれは正しかったと思うが、それを口にしたとき、何だか空虚な感じがした。自分の言葉に熱がなかったのだ。自分が何のためにそこにいるのか、あまり意識していなかった。理研の広報にはさまざまな目的があり、日々多種多様な業務がある。研究者向けに情報発信もすれば、中高生向けにグッズもつくり、時にはVIP対応にもかかわる。いつも違う仕事ができて実は楽しいのだが、ややもすると目的を見失いがちだ。何かをしようとして、それを実行することに忙しくなると、そもそもの目的を忘れている、ということが多々ある。 あらためてなぜこの世界に入ったのかを考えれば、社会と科学をつなぎたい、という思いに尽きる。科学は本当に面白い。世の中どのように動いているのかを少しでも理解したときの充足感は何物にも代え難い。それをより多くの人に体験してほしいし、そのような人が増えれば世の中もっと良くなる、というのは思い上がりか。科学技術が文明の可能性を広げ、価値観の多様化をもたらしているのなら、私たち一人ひとりが自分の視点を確立することも必要だろう。基礎研究機関の社会貢献は産業応用だけでなく、知のフィードバックこそが重要とも思う。この思いを忘れず、願わくは、日々の仕事にも目的を問うていきたい。と、難しげなことを言いつつ、関西に住んでいるからには取りあえず、科学と漫才の融合を試してみたいものだ。 ■ |
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