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研究最前線
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謎だらけの“糖鎖”に迫る女性研究者 |
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原酒
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“何でも固定化法”が医療を変える
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“何でも固定化法”とは
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医学と工学の融合、それが伊藤ナノ医工学研究室のキーワードだ。
「最近では新しい融合領域をつくろうという動きが大学などでも盛んですが、たいていが医学と工学の融合です」と伊藤嘉浩主任研究員も指摘するように、医工融合は時代の大きな流れだ。しかし、伊藤主任研究員にとって、医工融合はすでに30年ほど前から始まっていた。 「大学4年生で入った研究室が、まさに医工が融合したところだったのです。私の最初の研究テーマは人工血管の開発。1980年代、人工心臓の開発が日本でも盛んだったのですが、普通のプラスチックを使うと、そこに触れた血液がすぐに固まってしまい、人工心臓が止まってしまいます。そこで、血液が触れても固まらない材料づくりをしていました」 伊藤主任研究員の専門は高分子化学だ。そして、医療の現場で使われることを強く意識して研究を進めてきた。「やるならば役に立つものをつくらないと駄目だと思うのです」と、きっぱり言う。「今は診断と治療、その二つの柱でやっています」。いずれも(財)神奈川科学技術アカデミーとの共同研究である。まずは、診断に関する研究を紹介しよう。 「少量の試料で、多数の項目を迅速に検査できる」というのが、診断について伊藤主任研究員が掲げている目標だ。「そのための一つの方法として、私たちはプロテインチップをつくっています」 遺伝子の発現を調べることで病気を診断するDNAチップは、医療現場で使われはじめようとしている。DNAチップとは、基板の上に小さな領域ごとにさまざまなDNAを貼り付けたもの。これに試料を垂らす。試料中に基板上のDNAと対をなすDNAがあると、結合して蛍光を発する。蛍光を発しているスポットと蛍光の強さを読み取ることで、病気に関するどの遺伝子が発現しているか、さらにその量が分かる。 DNAの代わりにタンパク質を基板に貼り付けたものが、プロテインチップだ。タンパク質は特定のタンパク質と結合し、機能を発揮する。特定のタンパク質同士が結合するという性質を使えば、DNAチップと同じ仕組みで、試料中にどのタンパク質がどのくらいあるかを調べることができる。病気によってタンパク質の種類や量が変わることがあるので、プロテインチップは診断に役立つと期待されている。 しかし、プロテインチップの実用化は難しいともいわれてきた。「DNAを構成するのはわずか4種類の塩基で、その構造は単純ですから、どのDNAも同じ方法で基板に固定することができます。一方、タンパク質はDNAと違って構造が複雑で多様なため、一つの方法では固定することができなかったのです」 その問題を、伊藤主任研究員は見事、克服した。光に反応する物質をつくり、基板に貼り付けたいタンパク質と混ぜる。それを基板に載せて光を当てると、ラジカル架橋反応という反応を起こし、タンパク質が基板に固定されるという方法だ。「この方法の優れている点は、タンパク質だけでなく、有機化合物であれば何でも固定できること。だから、“何でも固定化法”と名付けました(図1)」 ![]() |
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一度に20種類のアレルギーを判定
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“何でも固定化法”で作製したプロテインチップの一つが、アレルギー診断チップである(図2)。基板にアレルギーの原因となるさまざまな抗原を固定しておき、試料の血液を垂らす。血液の量は0.2ml、5滴ほどでいい。その血液の中に、基板上の抗原に対する抗体があれば、結合して蛍光を発する。研究室で開発した自動判定装置(記事冒頭の写真)を使えば、何に対するアレルギーがあるかを40分ほどで簡単に診断できる。「現在はまだ1枚のチップ上に10〜20種類の抗原しか載せていませんが、何種類でも増やせます。血液は少量のままで、たくさんの種類のアレルギーを一度に調べることができるというのが利点です」
アレルギーの抗原は約400種類が知られている。そのうち一般的な100種類を一度に判定できるチップの開発が目標だ。このアレルギー診断チップは、企業との共同研究で開発されたもので、現在、臨床用に販売するための準備を進めている。また、意外なところからも問い合わせが来ているという。「動物病院です。最近ではペットのアレルギーも深刻なんですね。今、動物向けの展開も考えています」 リウマチなどの自己免疫疾患では、自分自身を攻撃してしまうさまざまな自己抗体がつくられる。そのような自己抗体を診断するチップも可能だ。どのような自己抗体がつくられているかが分かれば、治療効果を上げたり、予防にも役立つ。 さらに伊藤主任研究員は、「せき診断チップや下痢診断チップがあったらいいと思いませんか」と言う。「せきや便にどのような病原体やウイルスが含まれているかが分かれば、早く最適な治療ができますよね。非常に珍しいウイルスで下痢を起こすことがありますが、今までは可能性のあるウイルスについて1種類ずつ順番に調べていくしかありませんでした。それが一度にできたらいいでしょう」 文字通り“何でも”基板に固定することができるので、用途は無限に広がる。 ![]() |
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幹細胞を再生医療へつなぐ
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もう一つの柱、治療についても成果が出ている。冒頭で紹介したように、伊藤主任研究員は大学時代、人工血管の開発をしていた。「当時は、血管に限らずさまざまな臓器を人工的な材料だけでつくろうとしていましたが、やはり限界がありました」と振り返る。「十数年前からは、細胞など生体材料と人工的な材料を融合させたものでつくろうと、研究の方向が変わってきました。その成功例の代表が人工皮膚です。さらに、ヒトの体にはいろいろな細胞に分化できる幹細胞があることが分かってきました。これによって、幹細胞を使って再生医療が実現できるのではないかという考えが出てきたのです」
ヒトの体を構成する細胞は、肝臓の細胞など特別なものを除いて、特定の機能を持つ細胞への分化が終わっていると考えられていた。ところが、赤血球や白血球、血小板などさまざまな血液細胞に分化できる造血幹細胞や、さまざまな神経細胞に分化できる神経幹細胞などがあることが分かってきたのだ。これらは「体性幹細胞」と呼ばれる。また、受精卵が個体へと育つ途中の胚から細胞を取り出し、すべての細胞に分化する能力を持つ幹細胞をつくり出すこともできるようになった。これは、体性幹細胞に対して「ES細胞(胚性幹細胞)」と呼ばれる。 「そういう流れの中で、数少ない幹細胞を工学的な手法で培養して増やし、再生医療につなげるための研究を本格的に始めました」 伊藤主任研究員は、細胞培養の手法開発を以前から手掛けていた。普通、細胞を培養するためには、細胞の成長を促進するサイトカインというタンパク質を溶液中に加える。しかし、伊藤主任研究員の手法は、サイトカインをシャーレの底に固定し、その上で細胞を培養するというものだ。「サイトカインを溶液中に加えただけだと、細胞が取り込んですぐに消費してしまいます。一方、固定しておくと細胞には取り込まれないので、成長促進効果が長期間持続するんです。それを発見したときは、やった!と思いましたね。でも、なかなか認めてもらえませんでした。今では他の研究者もこの培養方法を使いますが、そうなるまでに5〜6年はかかりました」 しかし、この培養方法には一つ問題があった。サイトカインにはさまざまな種類があり、シャーレに固定する方法も種類に合わせて変えなければならない。その試行錯誤の中から “何でも固定化法”が生まれた。「“何でも固定化法”は、実は細胞を培養する研究の副産物なんですよ」と伊藤主任研究員。「サイトカインを固定すれば細胞を効率的に培養できることは分かりましたが、それが再生医療に使えるようになるには、まだまだ時間がかかります。でも、“何でも固定化法”は診断にならすぐに使えるのではないかと考えて、プロテインチップの開発を始めたのです。やっぱり役に立つものをつくりたい、という思いが染み付いているんですね」 |
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ヒト細胞を使い幹細胞の培養に成功
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さて、話を幹細胞の培養に戻そう。体性幹細胞やES細胞は適切に培養すれば、さまざまな細胞に分化する能力を持ったまま無限に増やすことができる。しかし、ヒトの幹細胞だけではうまく培養できず、マウスの細胞も一緒に入れる方法が一般的だ。伊藤主任研究員はこう指摘する。「違う生物の細胞を使っている限り、未知の病原体への感染の危険もあり、ヒトの医療には使えません。やはりヒトの細胞を使って培養できるようにしなければ……」
そこで伊藤主任研究員は、ヒトの羊膜の上皮細胞をシャーレの底に固定し、その上でサルのES細胞を培養してみた(表紙)。「日本ではヒトのES細胞を研究に使うには制限があるため、サルのES細胞を使っていますが、同じ霊長類なのでほぼ同じだと考えていいでしょう。結果は、ヒトの羊膜の上皮細胞でもES細胞を半年以上、未分化のまま培養して数を増やすことができました」。これは再生医療の実現への大きな一歩だ。研究室では、臍帯血から取り出した造血幹細胞のヒト細胞による培養にも成功している。 しかし、伊藤主任研究員はその先を考えている。「羊膜の上皮細胞に含まれる何らかのタンパク質が、幹細胞の培養を可能にしたはずなんです。それが何なのかを調べ始めています。将来はヒトの細胞も使わずに、タンパク質だけをシャーレの底に固定し、その上で幹細胞を培養したいと思っています」 “何でも固定化法”を軸としたプロテインチップや幹細胞の培養を中心に紹介したが、これまでに伊藤主任研究員が研究開発した技術は多岐にわたり、ここではすべてを紹介し切れない。特に面白いものをもう一つ紹介しよう。 「生分解性の高分子はいくつかあり、体内で分解されるまでの時間がそれぞれ違います。1cm角ほどのチップに複数の穴を開けて薬を入れ、それぞれ分解速度の違う高分子の膜で覆います。すると、一度飲むだけで、あとは時間になると順番に膜が溶け、順次作用するようにプログラムできます。12時間おきに3日間とか、1週間おきに1ヶ月とか、自由自在です」。飲み忘れのない薬とは便利だ。 「生体材料と人工的な材料を組み合わせて役に立つものをつくりたい」。このスタンスのもと、これからも伊藤ナノ医工学研究室からは新しい技術が次々と生まれてくることだろう。■
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世代を超えて“アトムの脳”を目指す
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世界中の研究者が協力して、脳をつくる
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「子どものころ、『鉄腕アトム』をいつも読んでいました。物語によると、アトムの誕生日は2003年4月7日。もうすぐ4歳になるはずです※。しかし、現実には人間のような心を持つロボットは実現していません。それは、なぜか。結局、脳が分かっていないからです」
こう語る臼井支朗チームリーダーは、現在の脳科学の問題点を次のように指摘する。「一人一人の研究者は脳のごく一部分の研究しかできません。例えば私は視覚系の研究を行ってきましたが、聴覚系など他分野の研究動向をフォローすることは難しいのです。各分野の研究は今、ものすごい勢いで進んでいるのですが、それぞれの研究者が所属する学会、論文を投稿する雑誌、用語も違います。一人の研究者が脳全体を解明するのは不可能なんです」 ヒトの脳は1000億個もの神経細胞が複雑なネットワークをつくり外界と相互作用するシステムとして機能している。脳に関する知識を統合して、脳全体のシステムを理解するにはどうすればよいのだろう。「本当に人間の脳を理解したいなら、ニューロインフォマティクスという方法しかないと思うんです」と臼井チームリーダーは言う。ニューロインフォマティクスは、インターネットやコンピュータ・シミュレーションなどの情報技術・情報科学を駆使して、世界中の脳に関する知識を共有・統合し、脳のシステムを理解する方法である。「私は、ニューロインフォマティクスを“IT時代の脳科学”と呼んでいます」 ニューロインフォマティクスは今、国際的な取り組みとして動き始めた。2005年、ニューロインフォマティクス国際協力機構(INCF)が発足。日本におけるニューロインフォマティクスの推進とINCFの窓口役を担う神経情報基盤センター(甘利俊一センター長)が理研脳科学総合研究センター(BSI)内に設立され、臼井チームリーダーが副センター長に就任した。神経情報基盤センターでは、INCFの日本拠点“INCF日本ノード”の立ち上げ準備を進め、2006年2月に発足させた。 「ニューロインフォマティクスで重要なのは、脳に関するさまざまな知識を集約し、その本質を数理モデルとして記述することです。数学は科学の共通言語だからです。そして、数理モデルに基づくシミュレーションにより脳の働きを再現しながら、そのシステムを理解するのです。ニューロインフォマティクスの究極の目標は、コンピュータの中に脳全体を再現すること。つまり、世界中の研究者が協力して“アトムの脳”をつくる取り組みが今、始まったのです」
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オールジャパンの体制で推進
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数理モデルに基づくシミュレーションを行えば、その結果を実験データと突き合わせて、その数理モデルが妥当かどうかを検証することができる。さらにシミュレーションによって未知の細胞の存在を予測することもできる。「ニューロインフォマティクスに関するプロジェクトの成果の一つとして、シミュレーションで“衝突回避細胞”の存在が予測されました。例えば、カツオドリが魚を捕まえようと水中に飛び込むとき、水面に“衝突”するタイミングを予測して、その直前に“衝突回避信号”を出す細胞があるはずだ、と予測したんです。その細胞の活動をきっかけに翼を畳んで、カツオドリは水中に飛び込みます。こうした細胞の存在が、ニホンザルを使った実験で実証されました。このようにシミュレーションと実験を繰り返しながら、脳のシステムを解明していくことができます」 シミュレーションはまた、薬の副作用を予測することにも利用できる。「不整脈の治療薬の治験で、視野に残像が残るという副作用が報告されました。それは、視細胞で働くある種のイオンチャネルに薬が作用するためであることを、私たちはシミュレーションで突き止め、これを実験で実証しました。シミュレーションで副作用が予測できれば、創薬のコストを大きく削減できるはずです」 しかし、このようなシミュレーションをほかの研究者が利用して、研究をさらに発展させていくことは、これまでほとんど不可能だったと臼井チームリーダーは指摘する。「シミュレーション・プログラムが公開されてこなかったからです。論文に書かれている情報だけでは、ほかの研究者がプログラムをつくり、追試することは難しいのです。しかも、研究者が引退すると、その研究者がつくったプログラムが散逸してしまうという問題もありました」 臼井チームリーダーたちは、視覚系のニューロインフォマティクスの研究基盤となるデータベース“Visiome(ビジオーム)プラットフォーム”を構築し、インターネット上で公開した(図1)。「数理モデルとシミュレーション・プログラムをベースに、論文や実験データ、参考文献などを一括してインターネット上で公開する。それが私たちの戦略です。そうすれば、世界中の研究者が自分のパソコンにさまざまなプログラムをダウンロードして活用できるようになります。追試して数理モデルの欠点や問題点を指摘したり、ほかのプログラムと統合し、さらに研究を発展させることができるのです。最新の知識がこのようなデータベースに集約され、インターネットを介して世界中の研究者が共有する。さらにそれらの知識を統合して発展させる。そういう仕組みをつくりたいんです」 臼井チームリーダーたちは、Visiomeの基本仕様や機能を継承した基盤プラットフォーム “XooNIps(ズーニプス)”を開発・公開した(http://xoonips.sourceforge.jp/)。「各分野の専門家にXooNIpsを利用したデータベースの構築と運用をお願いしています(図2)。データベースはその分野の最先端の研究者がつくらないと、使い物になりません。ですから、メンバーは日本の脳科学を代表する人たちです。INCF日本ノードでは、日本の得意な分野を中心にオールジャパン体制でニューロインフォマティクスに取り組み始めたのです」 XooNIpsは、INCFのほかの参加国も利用を検討している。さらに脳科学以外の分野でも反響を呼んでいる。「今、大学の図書館の人たちが研究成果を保存する仕組み(機関リポジトリ)づくりに取り組んでいて、慶応義塾大学ではXooNIpsを利用したデータベースを立ち上げました。現在、さらにほかの大学でも利用が検討されています。これは私たちが予想もしなかった展開ですね」 ニューロインフォマティクスの方法論は、脳科学だけでなく、細分化された現代の学問の成果を保存・共有・統合化することにも貢献するだろう。 ![]() |
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脳の最大の謎を解く
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「同じ発音でも、話し手の口の動き方が変わると異なる音に聞こえるという現象があります。音の認識に視覚が影響するのです。今まで私たち視覚系の研究者がこのような現象を研究するには、聴覚系のことを一から勉強して、自分たちでモデルをつくる必要がありました。それはあまり現実的ではありません。プラットフォームが整備されれば、例えば聴覚系のモデルをダウンロードし、それを自分たちがつくった視覚系のモデルと統合して、視覚と聴覚の相互作用をシミュレーションすることができるでしょう」
このような研究により脳の最大の謎の一つである“統合問題”に迫れるだろう。例えば、色と形は脳の別々の部位で情報処理が行われる。それらがどのように結合され、例えば赤い丸や青い四角が認識できるのか、それが大きな謎なのだ。 「今、脳科学ではDNAやタンパク質などの分子レベルや神経細胞レベルの解明が急速に進んでいます。さらに色や形の識別など、個々の情報処理についても、ある程度分かってきました。最も分からないのは、脳の別々の部位で処理された情報がどのように統合され認識されるか、ということなのです」 |
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“ニューロルネサンス”へ向けて
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「自分が面白いと思うことに熱中してやってきました」と振り返る臼井チームリーダー。1992年には、毛利 衛(まもる) 宇宙飛行士がスペースシャトルで行った、コイを使った宇宙実験にも参加した。宇宙酔いを引き起こす視覚−前庭系の仕組みを探る実験である。臼井チームリーダーは、視覚系の研究の面白さを次のように語る。「ものが見えるというのは、すごく不思議なことです。こんな不思議なことはない。例えば、目でとらえているのは2次元の像。左右の網膜で2枚の映像を撮っているにすぎません。そこから3次元の世界を再現するには情報が足りないんです。だから、脳はいろいろな仮定をして情報を補い、3次元の世界を計算してつくり出しているんです。色が見えるのも、とても不思議。物理的には色なんてありません。脳がある波長の光を色として知覚しているだけです。つまり、見えているのは、脳が勝手につくり上げたイメージなのです」
さらにニューロインフォマティクスへの想いをこう続ける。「私たちの世代で、さまざまな脳機能の数理モデルをつくる。次の世代の人たちがそれらを統合する。そのような時間スケールでニューロインフォマティクスの取り組みを考えています。ニューロインフォマティクスは、世代を超えて100年以上にわたって建設が続けられ、いつ完成するか分からないガウディの“サグラダ・ファミリア”のような取り組み、人類のロマンだと思うのです」 それでは、ニューロインフォマティクスの究極の目標である“アトムの脳”はいつごろ完成できるのか。「私は永遠に完成しないと思っています。ですからニューロインフォマティクスは、永遠に続く人類の大ロマンなんです」 その大ロマンは私たちに何をもたらすのか。「科学も哲学も宗教も、脳が生み出したものです。脳科学の進展により、それらが融合され、かけがえのない地球で人類が平和に楽しく生きていく知恵を見いだす。そんな“ニューロルネサンス”の時代が来ることを、私は期待しています」 ■
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――アレルギーはなぜ発症するのですか。
谷口:花粉症、ぜんそくなどのアレルギー患者は、この20年間で先進国を中心に急増し、日本ではいまや30%が罹患(りかん)しているといわれます。アレルギーはBリンパ球が「免疫グロブリンE(IgE)」という抗体を産生することにより発症することを、RCAIの特別顧問、石坂公成・照子夫妻が1966年に発見しました。IgEが体内に入った異物を認識し、それを引き金にして発症するといってもよいわけです。急増している原因は、“衛生環境が向上し、幼少時に感染性病原体に感染する機会が減ったため”という「衛生仮説」が提唱されていました。 |
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――アレルギーとBCGはどんな関係があるのですか。
谷口:BCGワクチンを接種し、ツベルクリン反応が陽転した子どもにおいては、ぜんそくなどのアレルギー発症の割合が低くなることが報告され、アレルギーの治療に役立つのではないかと期待されていました。ところが、“結核菌を弱毒化したワクチンであるBCGの細菌成分がアレルギーを制御する”という衛生仮説を証明するメカニズムがはっきりせず、“BCGがなぜアレルギーに効果的なのか”という具体的な仕組みは分かりませんでした。 |
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――実験はどのようにして行ったのですか。
谷口:マウスにBCGを接種すると、免疫をコントロールすると考えられている「ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)」が25%以上増加し、血清中のIgE濃度が低下することが分かりました。次に、NKT細胞とIgEの関係を調べるため、遺伝的にNKT細胞を欠損させたマウスにBCGを接種したところ、今度はIgEの濃度は低下しませんでした。このことから、BCGによるアレルギーの抑制反応にはNKT細胞が重要な役割を果たしていることが分かりました。 |
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――そのメカニズムは。
谷口:NKT細胞がどのようにアレルギー反応を抑制するのかを調べるため、サイトカインの一つで近年発見された「インターロイキン21(IL-21)」に着目しました。IL-21はマウスやヒトでIgEの産生を抑制することが知られています。実際にBCGをマウスに接種した結果、NKT細胞からIL-21がつくられることが分かりました。その後、IgEを産生するBリンパ球に、活性化したNKT細胞を加える実験を行いました。その結果、Bリンパ球の細胞死が誘導され、IgEの産生が90%以上も減少しました。ところが、IL-21に対する抗体でIL-21の働きを抑えると、IgE産生は低下しませんでした。このことから、BCGによって活性化したNKT細胞がIL-21を介してIgEの産生を減少させることを突き止めました(図)。また、このメカニズムがヒトでも同じように働いていることも明らかにしました。 ![]() |
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――新しいアレルギー治療法の開発につながりますね。
谷口:ボランティアに協力いただいた実験では、BCGを注射してもIL-21をつくらず、このメカニズムが働かないケースもあり、遺伝的な背景など衛生仮説以外の要因があることも分かってきました。この研究をベースにすれば、BCGや細菌の成分などを使った新しいアレルギー治療法の開発につながっていくと思います。私たちはいっそう安全で効果的なアレルギー治療法の開発を目指しています。■ |
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※本成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Experimental Medicine』(12月25日号)に掲載され、朝日新聞(12/19)、毎日新聞(12/19)などに取り上げられた。 |
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世界唯一の超伝導リングサイクロトロン完成
「RIビームファクトリー」の心臓部でファーストビーム |
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――サイクロトロンとはどんな加速器ですか。
後藤:米国のE. O. ローレンスが考案したもので、磁場と高周波電場をうまく組み合わせることによってイオン(荷電粒子)を渦巻状に運動させながら高いエネルギーまで加速する装置です。リングサイクロトロンはできるだけ高いエネルギーが得られるように工夫されたものです。 |
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――なぜリングサイクロトロンを3基、新設したのですか。
後藤:自然界で最も重いウランまでの元素のイオンを大強度で、そして目標である光の70%まで加速するためには、リングサイクロトロンで段階的にエネルギーを上げていく「多段加速方式」がどうしても必要でした。そのため、これまですでに稼働している線形加速器(RILAC)と理研リングサイクロトロン(RRC)からなる加速システムの後段に、固定加速周波数型リングサイクロトロン(fRC)、中間段リングサイクロトロン(IRC)、超伝導リングサイクロトロン(SRC)の3基のリングサイクロトロンを新設したわけです。なお、今回のアルミニウムイオンのファーストビームには(アルミニウムが比較的軽いため)fRCは使いませんでした。 |
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――ファーストビームはどのようにして得たのですか。
後藤:RILACで光速の8%まで加速、さらにRRCで光速の30%まで、IRCで光速の45%まで、最後に世界最高性能を持つSRCで光速の70%、エネルギーにして核子当たり345MeVまで加速し、そのビームを取り出しました(図1)。 ![]() |
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――SRCの性能について教えてください。後藤:ビーム偏向能力は、史上最強の8テスラメートル(Tm)です。これは、SRCの6台の超伝導セクター電磁石全体を純鉄で覆い漏洩(ろうえい)磁場を遮蔽(しゃへい)するという新しいアイデアを採用して実現しました。総重量は8300トン。4000リットルの液体ヘリウムを使い、超伝導状態を保つようにしています。SRCの建設には先例がないことに加え、技術的な難しさ、構造の複雑さなどのため、設計から完成まで12年かかりました。 |
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――今後の予定は。
後藤:ファーストビームに引き続き、近々、ウランを加速する予定です。私たちの目標は、水素からウランまでの全元素を加速して種々のRIビーム(約4000種が可能)を発生させ、新たな原子核モデルの構築や、元素の起源の解明はもちろん、RIビームファクトリー(RIBF)としてRI技術による新産業の創出に貢献することです。そうして、世界で最も魅力ある加速器科学の研究拠点となることを目指しています。■ |
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※本成果は朝日新聞(12/29)、読売新聞(12/29)、毎日新聞(12/29)などに取り上げられた。 |
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謎だらけの“糖鎖”に迫る女性研究者
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小学生のころは男の子を追いかけ回すほど活発だった北爪研究員。「野口英世の伝記を読んで、お医者さんになりたいと思っていました」と、当時を振り返る。中学ではバレーボール部に入り、部長も務めたが「背が低かったので向いてない……」、自分に何ができるのか悩みつつ、高校では生物部に入った。「伊豆の海に行って、磯採集したものをみそ汁に入れて食べたり、イナゴを採集して佃煮にしたり……、生物部っていうよりも、野外活動の部でした(笑)」。
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1986年、東京大学入学。「4年生のときに、井上康男先生の糖鎖の研究室に入りました。自分の研究スタイルは、井上先生の生体物質化学をベースにした研究姿勢の影響を受けています」。分子生物学が主流の時代に糖鎖を選んだ理由は? 「みんながやっていないことをやりたかったからですね」。糖鎖とは? 「細胞表面は糖鎖で覆われています(図)。細胞にとっての表情というか顔みたいな部分。例えば、がんになるとその細胞はがん細胞の表情をする。要するに、がんに特異的な糖鎖を細胞の表面に出すんです」。糖鎖の働きは? 「タンパク質の機能を補ったり、がんの転移、免疫の応答、細胞接着など幅広い働きをしています」
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博士課程修了後、米国に渡りニューヨーク州立大学、イリノイ州立大学を経て、1997年、理研に研究の場を移した。渡米中に結婚し、現在は5歳と8歳の男の子の母親でもある。子育てと研究の両立について尋ねると「理研は子育てしながら研究するには最適な場所。私の場合、上司のサポートやテクニカルスタッフの方の存在も大きかったですね。今は託児所もあります。理研には女性が働きやすい研究環境があります。もっとたくさんの女性に来てほしいですね」
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理研では、糖鎖の中でも一番端に付く糖、“シアル酸”(図)に注目して研究を進めてきた。シアル酸とは? 「負電荷を持っているので、糖鎖の中でもほかの分子によって認識されやすい目印となるところです」。糖鎖にシアル酸を付加する“シアル酸転移酵素”について調べていたところ、理研脳科学総合研究センターの西道隆臣チームリーダーとの話をきっかけに、アルツハイマー病の原因物質“βアミロイド(Aβ)”の生産にかかわる酵素“BACE1”がシアル酸転移酵素を切断することを発見。そして近々、新しい成果について発表があるそうだ。
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最後に糖鎖の研究は面白いか? と尋ねたところ、「糖鎖の機能は糖鎖ごとに違いがあり、どうやってアプローチしていくか……、ワクワクするんです。今後は、シアル酸を含めた糖鎖の機能を中心に研究したいですね」と意気込みを聞かせてくれた。北爪研究員が謎だらけの“糖鎖”を攻略する姿を追い続けたい。■
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伊吹文部科学大臣、和光研究所を視察
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伊吹文明(ぶんめい) 文部科学大臣が1月15日、理研和光研究所を視察しました。伊吹大臣は野依良治理事長の案内で、超精密加工技術のELID研削システム、スーパーコンピュータ、脳科学研究、RIビームファクトリー(RIBF)を視察。RIBFでは12月28日に“超伝導リングサイクロトロン”を使い重イオンビームの取り出しに成功したことについて説明を受け、熱心に耳を傾けていました(写真)。視察後、最初に「認識を改めました」と語り、「基礎研究だけでなく、実際に役立つ研究もずいぶんやっているし、国際的な研究者もいて驚いた」と語りました。 |
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分子イメージング研究プログラムの研究拠点が神戸に集結
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理研フロンティア研究システムのもとで、「分子イメージング研究プログラム」の研究拠点がポートアイランド(神戸市)に開所し、研究を開始しました。1月18日に行われた開所式で、野依良治理事長は「最先端の研究を結集し、分子イメージング技術を高度化して創薬候補物質探索の研究を行っていく、世界の分子イメージング研究を牽引していくものでありたい」と決意を述べました。渡辺恭良プログラムディレクターからは、研究プログラムの紹介があり、参加者は熱心に聞き入っていました。また、「分子イメージング研究シンポジウム2007−創薬プロセスの革新−」を1月18〜19日に神戸国際会議場で(独)放射線医学総合研究所と共催しました。両日とも500名ほどの参加者で会場が満席になり、この研究に対する関心の高さがうかがえました。 |
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平成19年度一般公開のお知らせ
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科学技術週間〈2007年4月16日(月)〜22日(日)“科学こそ 世界をつなぐ 共通語”〉の行事として、当研究所では下記の日程で一般公開を行います。 理研の最先端の科学研究に親しんでいただくため、研究室・施設の公開をはじめ、講演会、各種のイベントを行います。多数の方のご来場をお待ちしております。(入場無料)
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岩木正哉 主任研究員 逝去
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理研和光研究所先端技術開発支援センター 前センター長の岩木正哉(まさや) 主任研究員は、かねてより病気療養中のところ、1月30日、逝去されました。59歳。 岩木主任研究員は、イオンビームを用いた各種材料の表層改質技術の確立において世界をリードし、人工硬膜や人工血管の開発に従事するとともに、理研の技術部門の高度化に大きく貢献されました。また、産業界における技術指導など多方面にも積極的に力を注がれました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。 |
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我在西藏做宇宙線的研究(チベットで宇宙線の研究をしています)
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さて、羊八井には国際宇宙線観測所という施設があります。東京大学の宇宙線研究所を中心とするグループが、1990年ごろに日中共同の宇宙線観測実験をスタートさせたのがその始まりです。“宇宙線”とは宇宙の至る所からやって来る高いエネルギーの粒子(90%以上が陽子)のことで、その発見から1世紀近くになります。しかし、宇宙線がいったいどこでどうやってつくられているのか、今でも大きな謎なのです。 その昔、理研に在籍していた仁科芳雄博士も仁科型電離箱と呼ばれる装置を製作し、この謎に挑んでおり、その解明はわが牧島宇宙放射線研究室の悲願(?)なのです。それ故現在、X線天文衛星、光学望遠鏡、南極の氷、そして羊八井の宇宙線観測装置などのさまざまな手段を駆使して、皆頑張っています。 羊八井での理研の宇宙線観測実験は、理研の板橋分所にあった装置(写真2)を移設して1998年10月にスタートしました。その装置で、太陽での大爆発(太陽フレア)と同期して地球にやって来る中性子や陽子を捕らえます。実際に2005年1月20日に起きた大きな太陽フレアで、非常に高エネルギーの中性子や陽子がこの装置で観測され、太陽での加速メカニズムの解明に大きな貢献をしています。 先ほど「スタートしました」なんてさらっと書きましたが、富士山より高いところでの作業なので、そのしんどさたるや、二日酔いでずっと働かされている感じでしょうか(たいしてしんどくないとの声も聞こえてきそうですが)。実は建設当時、私は名古屋大学の学生で、理研の装置のすぐ隣で別の装置をせっせとつくっていたので、そのしんどさはよく分かっています。さらに、私は1998年からほぼ毎年、羊八井に赴いており、2006年で10回目になりました。10回も行くとさすがに慣れたもので、1週間くらいシャワーを浴びなくてもまったく気にならなくなります。もともと羊八井は非常に乾燥しているので、汗は気にならないのですが、実は。最後には結局、血中酸素濃度が低くなったり臭くなったりと、羊八井での生活は大変ですが、謎ばかりの宇宙線のことをもっと知りたいのです。そうでなければ、趣味では絶対に登らない山に、こう何度も行かないっしょ! ■ |
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