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研究最前線

細胞核を知り、生命現象を読み解く


細胞内1分子イメージングの拓く新しい世界

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細胞核を知り、生命現象を読み解く


今本尚子 
IMAMOTO Naoko 
中央研究所 今本細胞核機能研究室 主任研究員



今本尚子 IMAMOTO Naoko遺伝情報が書かれたDNAは、細胞核の中に複雑に折り畳まれている。真核生物の細胞において、核はすべての生命現象の中枢である。今本尚子主任研究員が目指すのは、核の全体機能の解明だ。そのための一つのアプローチが、核の表面にある核膜孔(かくまくこう)を通した分子のやりとり、核―細胞質間分子輸送である。最近では、核膜孔が核の構造やその形成にかかわっていること、分子を運ぶ運搬体が分子輸送以外の機能を持つことなどが明らかになってきた。

コメント01

核―細胞質間分子輸送とは
 「細胞核は、すごく面白いんですよ」。今本尚子主任研究員は、そう話し始めた。「例えばヒトには筋肉や神経、心臓など、さまざまな種類の細胞があり、それぞれに核があります。核の中には、遺伝情報が書かれたDNAが複雑に折り畳まれて入っています。核の中からDNAを取り出すと、どの種類の細胞のDNAも同じです。でも、細胞は種類によって形も機能も違っていますよね。これは、核にはそれぞれ個性があり、中に入っているDNAの働きに違いが生じるからです。では、個性を持った核はどのようにつくられるのか? その疑問が、私の研究の根底にあります」
 「細胞核の表面を見たことがありますか?」。今本主任研究員はそう言って、電子顕微鏡写真を示した(図1左)。「ポツポツと白いところが見えるでしょう。核の表面には“核膜孔”という孔(あな)が開いているのです。核は遺伝子機能発現の場、核を取り囲む細胞質はタンパク質合成の場で、核膜によって隔てられています。でも、この二つの場は完全に隔離されているのではなく、核膜孔を通ってタンパク質などさまざまな分子が出たり入ったりしているのです。核と細胞質の間の分子のやりとりを“核―細胞質間分子輸送”と呼んでいます」
 核膜孔は直径100nmほどで、1個の核に3000個くらいある。核膜孔をつくっているのは、約30種類のタンパク質からなるサブユニットが8個対称に並んだリング状の複合体だ(図1右)。外からの刺激を細胞が受けると、タンパク質などの情報を伝える分子が、この核膜孔を通って細胞質から核に運ばれてくる。すると核の中でDNAの遺伝情報がRNAに転写され、mRNAが核膜孔を通って細胞質に運び出され、タンパク質がつくられる。それらのタンパク質が働くことで、細胞は分化したり増殖したりして環境変化に対応する。「核と細胞質の間に常に情報交換があって初めて、細胞は外界の変化に柔軟に対応して生きていくことができます。核―細胞質間分子輸送は、遺伝子機能の制御の一端を担う重要なプロセスです」
 核はヒトを含む真核生物の細胞の最も大きな特徴であり、核についての研究は盛んだ。しかし、今本主任研究員は、こう指摘する。「確かに、シグナル伝達、DNAからmRNAへの転写、DNA複製や修復など、核で起きるさまざまな現象の研究が進んでいます。でも、研究は一つの現象に閉じがちです。シグナル伝達だけ、転写だけ、複製だけを研究しても、核のすべてを理解することはできません。それらをつなぐ現象の研究が必要なのです。その一つが、核―細胞質間分子輸送です」

図1 細胞核の電子顕微鏡写真と核膜孔複合体のモデル

世界初の運搬体インポーチンβを発見
 ヒトの細胞でつくられるタンパク質は約10万種類といわれている。その中には、クロマチンなどの核の構造をつくるものやDNAの転写や複製をつかさどる因子など、核の中で働くタンパク質もある。それらの核タンパク質も、例外なく細胞質でつくられる。そして、核タンパク質だけが細胞質から核の中に運び込まれて働くことが、以前から知られていた。「たくさんあるタンパク質の中で、どうして核タンパク質だけが核の中に運ばれるのか。核―細胞質間分子輸送の研究は、この素朴な疑問から始まりました」
 核―細胞質間分子輸送の研究は、日本発だ。1978年、大阪大学の岡田善雄教授と故 内田 驍(つよし)教授が細胞融合の研究の中で、核タンパク質だけが核に移行することを実験で証明したことから始まる。しかし、そのメカニズムは分からないままだった。「私が核―細胞質間分子輸送の研究を始めたのは、それから4年後のことです。核タンパク質だけに目印が付いているのではないかと、多くの人が考えていました。その目印が見つかったのが1985年。アミノ酸が数個並んだものから大きなものまでいくつか種類があり、まとめて核局在化シグナル(NLS:Nuclear Localization Signal)と呼んでいます」
 そのシグナルを認識して結合する分子が見つかれば、核タンパク質だけが核の中に運ばれるメカニズムをうまく説明できる。また、核膜孔複合体を構成しているタンパク質の多くはアミノ酸の配列が繰り返しているFGリピートという構造を持っていることが分かり、核タンパク質を運ぶ運搬体は、このFGリピートと結合することで核膜孔を通過すると考えられるようになっていた。そして、激しい国際競争の中、四つのグループが独立に、最初の運搬体の発見に貢献した。その一人が、大阪大学医学部の助手をしていた今本主任研究員であった。
 「がんウイルスSV40のT抗原は、細胞質でいくつかのタンパク質と結合して核に運ばれます。それらの中で輸送に不可欠だったのが、インポーチンαとインポーチンβでした。インポーチンαがSV40のT抗原の核局在化シグナルを認識して結合するのですが、FGリピートとは結合しません。調べてみると、インポーチンβはインポーチンαにもFGリピートにも結合する。つまり、インポーチンβこそが運搬体で、インポーチンαを介してSV40のT抗原を選択的に核に運び込んでいたのです」(図2左)。最初の運搬体の発見は1995年。核局在化シグナルの発見から10年がたっていた。
 その後、インポーチンαのように運搬体を助けるアダプター分子が次々と見つかり、インポーチンβはアダプター分子を使い分けることで、いろいろな核タンパク質を核に運び込んでいることが分かってきた。また、核から細胞質に運ばれる分子は核外輸送シグナル(NES:Nuclear Export Signal)を持つことが分かり、それを認識して輸送する運搬体も見つかりエクスポーチンと名付けられている(図2右)。
 ヒトゲノムが解読されて遺伝子レベルでの解析も進み、運搬体が次々と見つかっている。それらはインポーチンβファミリーと呼ばれ、ヒトでは22種類が知られている。「インポーチンβの発見がこんなに広がるとは思いませんでした。しかし……」と今本主任研究員は続ける。「核の中で働くタンパク質は数千種類を優に超えますが、それがどの運搬体によって運ばれるのかほとんど分かっていません。インポーチンβファミリー以外の輸送経路もあります。輸送経路の多様性の理解が、今後のキーワードでしょう。細胞の種類によって重要な輸送経路が違っているかもしれません。それが分かれば、輸送経路を制御することで核の機能を変え、例えば細胞の種類まで変えることができるかもしれない。これは、生命科学にとっても大きなブレークスルーです」

図2 インポーチンβファミリーによる核―細胞質間分子輸送

核膜孔が核の構造、機能とつながる
 「分子の通り道である核膜孔について知ることも重要」と今本主任研究員は指摘する。「核膜孔の構造も分かっていないところがあります。分子によって通ることができる核膜孔が決まっているのかどうかも分かっていません。ましてや、分子の核膜孔通過はブラックボックスです」
 そうした中、今本主任研究員が免疫・アレルギー科学総合研究センターの徳永万喜洋ユニットリーダー(本号「細胞内1分子イメージングの拓く新しい世界」参照)と共同で行った研究は、分子の核膜孔通過に関する新しい知見をもたらした。「分子が核膜孔を通過する様子を1分子レベルで見ました。分子が核膜孔とどのように結合しているか、その強さ、いくつ結合できるのか、などを正確に知ることができました。これは世界初。1分子イメージング顕微鏡はものすごい威力を発揮しました。これをもとに、核膜孔通過のモデルを考えているところです」
 また最近では、核膜孔の研究が思わぬ展開を見せている。「核膜の顕微鏡写真を見ていて、あれっと思ったのです」と今本主任研究員。「核膜孔がまったく存在していないところがあることに気付きました。それが、核表面の40%を占めている。ちょっとした遊び心で、そうなる確率を計算してみました。すると1079分の1という結果が出た。これは偶然では起こり得ない確率です。核膜孔の分布が不均一になるメカニズムがあるはずだと確信し、調べてみることにしたのです」
 今本主任研究員のグループが注目したのが、細胞周期だ。核膜は分裂期直前に崩壊し、DNAが複製されて分裂が終わると再び形成される。核膜孔も核膜崩壊と同時に崩壊し、核膜の形成と同時に形成されることは分かっているが、分布についての詳しい研究はなかった。「細胞周期と核膜孔の分布を調べてみると、細胞分裂を終えたばかりのDNA合成準備期(G1期)は不均一ですが、細胞周期が進んでDNA合成期(S期)になると均一になってくるのです(表紙、核膜孔を緑色で蛍光標識)。なぜ不均一から均一になるのか、そのメカニズムを調べ始めたところ面白いことが分かってきました」
 核膜は内膜と外膜の2層からなり、内膜の内側にはタンパク質の層がある。内膜のタンパク質の分布を調べた結果、核膜孔がないところにはエマリン、ラミンA、ラミンCなどが、核膜孔があるところにはラミンBがそれぞれ濃縮されていたのだ。「その論文はちょうど印刷中なのですが、核膜孔は内膜の構造と関連していると考えています。内膜のタンパク質の層は、DNAがタンパク質などと結合したクロマチンにつながっていますから、クロマチンの構造、さらには遺伝子機能にもかかわっている可能性があります。また、核膜孔が均一になり始めるDNA合成準備期の終わりには細胞周期の重要なチェックポイントがあり、細胞分裂をするかしないかを決めています。核膜孔の分布の変化は、細胞運命の決定の際に見られる細胞核の構造変化を反映しているのかもしれません。これから詳しく探っていきます」


分子輸送を高次の生命現象につなげる
 「インポーチンというと、核と細胞質間の分子輸送しかイメージされない人が多いのですが、最近では、輸送因子が核―細胞質間分子輸送とは関係のないところで機能していることも分かってきています」と今本主任研究員は言う。例えば、インポーチンαとβを取り除くと、細胞分裂の速度が遅くなり、分裂時に染色体の配列や紡錘体の形がおかしくなることから、細胞分裂にも関与しているらしい。
 「核―細胞質間分子輸送を研究しているのは、運ばれた分子が核の機能を制御し、最終的にはさまざまな生命現象をつかさどっているからです。私たちは、核―細胞質間分子輸送の研究を、発生、分化、老化、細胞死、疾病など高次の生命現象につなげるのだ、という意識で研究をしています。細胞がうまく生きる仕組みを垣間見ることができれば、と思っています」









関連情報:


今本尚子『核と細胞質間の分子流通メカニズム』第6章「細胞核の分子生物学―クロマチン・染色体・核構造」朝倉書店(2005)


今本尚子「核膜孔複合体:分子構築と機能」『蛋白質 核酸 酵素』2006年11月号増刊『細胞核の世界』







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細胞内1分子イメージングの拓く新しい世界


徳永万喜洋 
TOKUNAGA Makio 
免疫・アレルギー科学総合研究センター
免疫1分子イメージング研究ユニット
ユニットリーダー



徳永万喜洋 TOKUNAGA Makio生きた細胞の中で1分子を観る――それを可能にしたのが、免疫・アレルギー科学総合研究センター(RCAI)免疫1分子イメージング研究ユニットを率いる徳永万喜洋(まきお)ユニットリーダーである。生命現象を理解するには細胞が生きている状態で分子1個1個を直接観ることが不可欠であり、1分子イメージングは今、生命科学研究で最も注目されている技術だ。世界一の性能を誇る細胞内1分子イメージング顕微鏡を開発した徳永ユニットリーダーに、1分子イメージングの始まりと現在、そして未来を聞いた。

コメント02

しみ出す光で分子1個を観る
 実験室の奥にある6畳ほどの部屋。ここに世界中の生命科学者が注目する顕微鏡システムがある。「この顕微鏡システムを使うと、生きた細胞の中で、どの分子がどこでどのように動くか、ほかの分子とどのように相互作用するかを、リアルタイムで直接観ることができます」と徳永万喜洋ユニットリーダーは言う。そこには、光学顕微鏡、レーザー光発振器、制御用コンピュータ、モニターなどが並ぶ。「多くが手づくりで、さまざまな工夫があらゆるところに施されています。ほかでは撮れない画像を撮ることができる、細胞内1分子イメージング顕微鏡です」
 生命現象を理解するためには、生きた細胞で分子1個1個を観る1分子イメージングが不可欠だ。その技術の開発を目指し、1990年代から世界中で競争が繰り広げられてきた。細胞で働いている分子を取り出し、水溶液中でその分子1個1個を観ることが最初の目標だった。そして1995年、徳永ユニットリーダーが参加していた新技術振興事業団(現 科学技術振興機構)の「柳田生体運動子プロジェクト」(総括責任者:柳田敏雄 大阪大学大学院教授)と、慶応大学の木下一彦教授(現 早稲田大学教授)の研究グループが、それぞれ独自に、世界で初めて水溶液中での1分子イメージングに成功した。
 1分子イメージングでは、調べたい分子に蛍光色素を付け、レーザー光を当てて励起させ、蛍光を光学顕微鏡で観察する。分子1個を観るためのポイントは三つ。背景光を減らすこと、カメラの高感度化、明るい蛍光色素を使うことだ。「一番難しかったのが、背景光を減らすことでした」と徳永ユニットリーダーは言う。普通は、試料を載せたガラス板に対して直角にレーザー光を当てる。しかし、それではレーザー光が試料の奥まで届いてしまうために、多くの蛍光色素が励起されて全体が明るくなり、1分子が発する蛍光を分離できない。「そこで私たちは、“全反射照明”という新しい方法にチャレンジしました(図1左)。試料を載せたガラスに斜めからレーザー光を当てると、レーザー光は全反射します。このとき、近接場光(エバネッセント光)という光が試料の表面に薄くしみ出すのです。近接場光が届くのは試料の表面から100〜200nmくらいまでなので、背景は暗く、1分子が発する蛍光を鮮明にとらえることができます」
 なぜ日本が一番になれたのだろうか。「生物物理の創始者である大沢文夫先生(名古屋大学・大阪大学名誉教授)が、1980年ころから1分子の研究の重要性を指摘していたのです。だから、日本では先行して研究が進んでいた。今も1分子研究は、日本が世界をリードしています」

図1 対物レンズ型全反射照明と薄層斜光照明による1分子イメージング

固定観念を超える
 徳永ユニットリーダーは柳田プロジェクト終了後、国立遺伝学研究所に移り、全反射照明の技術をもとに細胞表面の1分子イメージングが可能な顕微鏡の開発に成功し、次の目標を、いよいよ細胞内の1分子イメージングに定めた。「表面だけでは不十分。細胞内部で1分子を観ることは、生命現象を理解するために絶対必要です」。では、その方法は? 「“薄層斜光照明”といって、レーザー光を当てる角度を全反射照明から少しずらし、さらに照射領域を薄くして、細胞の中の狭い場所にのみ光が当たるようにすればいいだけ。簡単です」と笑って答える(図1)。だが、その方法は回折現象のため理論的にできないといわれていた。「理論的に難しいことは知っていました。でも、やってみることが大事。私がそれを学んだのは、今年7月に亡くなられた江橋節郎(えばしせつろう)先生(東京大学名誉教授)からです」
 江橋博士は、細胞内におけるカルシウムイオンの役割を最初に発見するなど、ノーベル賞級の発見をしている。「江橋研究室で学んだのは大学院最初の2ヶ月だけでしたが、その後の私の研究人生を変えました。江橋先生は“頭だけで考えたことはしばしば間違える。首から下を動かして実験をしろ”と言っていました。人がやらないこと、難しいといわれていることに挑戦するチャレンジ精神が大事だということも、教わりました。理論的にできないとか、権威のある人がやめろと言ったとか、そういうことは関係ない。自分で考えて必要だと思ったら、やってみることが大事。“必ずできる”と思ってやれば、できるんです」。その言葉の通り、徳永ユニットリーダーは困難といわれていた細胞内1分子イメージング顕微鏡を完成させた。
 そして2004年、RCAIで免疫1分子イメージング研究ユニットを立ち上げた。しかし、「私は免疫の専門家ではありません」と徳永ユニットリーダーは言う。ではなぜRCAIに? 「免疫応答は、免疫細胞1個あるいは細胞と細胞の相互作用で働いているので、1分子イメージングの対象にとても向いています。1分子イメージングを最大限に利用し、オリジナルな研究、新しい発見ができると思ったのです。まず、以前に開発した細胞内1分子イメージング顕微鏡のすべてのパーツを可能な限り改良し、免疫細胞用に特化した顕微鏡を開発しました」
 3種類以上の分子を識別できる複数色のリアルタイム同時観察や、各装置のパソコン制御によるシステム化で操作性の向上も図った。そのほかにも多くの工夫がある中で、「オートフォーカスを可能にする技術を開発したことは画期的」と徳永ユニットリーダーは言う。顕微鏡で観ているのはサブマイクロメートルの世界だ。わずかな温度変化でも試料の位置が変わり、焦点がずれてしまう。そこで、ガイド用のレーザー光で試料の表面位置を常にモニターし、自動で焦点を合わせる技術を開発した。「このオートフォーカス装置は顕微鏡の標準装備になるはず。今後の必須技術です」


免疫応答の開始点を観た
 細胞内1分子イメージング顕微鏡による最近の成果を一つ紹介しよう。T細胞の研究を行っているRCAI免疫シグナル研究グループ(斉藤隆グループリーダー)との共同研究だ。T細胞は異物から生体を守る免疫システムを制御するリンパ球で、T細胞が過剰に活性化されるとアレルギー疾患や自己免疫疾患を引き起こす。T細胞の活性化メカニズムの解明は、免疫研究の重要なターゲットだ。
 T細胞は、体内に入ってきた異物の情報を表面に掲げている抗原提示細胞を見つけ、接着する。これまでの研究から、T細胞と抗原提示細胞の接着面の中央には、抗原を認識するT細胞抗原受容体が集まり、その周りを接着分子が取り巻いていることが分かっている。ここで抗原が認識されることで免疫応答が開始され、T細胞が活性化されていると考えられていた。T細胞抗原受容体が集まった場所は、神経細胞が情報のやりとりをする場にちなんで「免疫シナプス」と呼ばれている。しかし、細胞内1分子イメージング顕微鏡が映し出したのは、従来の説を覆す現象だった。
 「ガラス上に抗原提示細胞を模した人工の脂質二重膜をつくり、その上にT細胞を落として細胞内1分子イメージング顕微鏡で観察しました。すると、接着直後から接着面に小さい点がポツポツと現れ、それが中心部に向かって動いていくのです。あまりにもダイナミックなので、驚きました」
 現れた点は、100個ほどのT細胞抗原受容体と細胞内伝達分子のかたまりで、「マイクロクラスター」と名付けられた。詳しく調べると、抗原の認識や細胞の活性化はマイクロクラスターで行われていることが分かった。免疫シナプスが形成された後も、マイクロクラスターはつくられ続け、細胞の活性化が持続することも分かった。つまり、これまで抗原を認識し活性化させる場だと考えられていた免疫シナプスは、反応が終わったものが集まった場所で、マイクロクラスターこそが免疫応答の始まりであり、免疫応答の維持もつかさどっていたのだ(図2)。
 この研究には競争相手が少なくとも2ヶ所あった。「同時期に論文を出したのですが、ほかは落ちています。画質が悪いことと、反応の最初から追えなかったことが、落ちた理由のようです。私たちは、十川(そがわ)久美子研究員が試行錯誤を繰り返し完成させた技術によって、反応を始めた瞬間から可視化できています。画像もずっと鮮明です。試料を工夫した免疫シグナル研究グループの横須賀忠研究員らと、顕微鏡を開発し画像を撮る私たち、みんなの努力によって、今回の発見がありました」

図2 マイクロクラスターの形成

分子からシステムへ
 1分子イメージングの今後のキーワードは、定量化、たくさんの種類の分子を同時に観るためのマルチカラー化、3次元化だという。
 「今、コンピュータ上で生命現象を再現しようというシステムバイオロジーが注目されています。実験から得られた情報をもとにコンピュータ上で再現し、その結果を実験にフィードバックし、またコンピュータ上で再現するというプロセスがなければ、生命現象の理解は進まないでしょう。しかし、生命現象をコンピュータが扱える数値として定量化する際、実際の細胞の状況を反映することが大きな難点となっています。そこで、1分子イメージングなんです」と、徳永ユニットリーダーは言う。1分子イメージングならば、分子1個の蛍光の強度が分かるので、分子が何個集まっているか、反応には何個の分子が必要なのか、相互作用の強さなどを数値として定量化することができる。「1分子イメージングとシステムバイオロジーの融合は、21世紀の生命科学の重要な柱になるでしょう」
 徳永ユニットリーダーの夢は? 「細胞表面で起きた反応が細胞の中に、さらに核の中にどのように伝わり、核の中で何が起きるのか観たいですね。そして、システムとして明らかにしたいんです」
 徳永ユニットリーダーは、今本尚子主任研究員(中央研究所今本細胞核機能研究室、本号「細胞核を知り、生命現象を読み解く」参照)と共同で、細胞質と核の間の分子輸送を1分子イメージングで観る研究も行っている(図1右)。「分子が核膜孔を通過する様子を観たところ、通説よりも通過速度が遅いという結果が出ました。反論が根強いですが、分子数、反応時間、結合強度などを定量化し、その数値をもとにコンピュータで再現した結果、ほかの現象も矛盾なく説明でき、私たちが正しいことが証明できていると思います。これは、規模は小さいですが、1分子イメージングとシステムバイオロジーの融合のモデルケースでもあります。3種類以上の分子を、自由に場所を変えて同時に1分子観察するのもいいですね。そんなことができるのかって? できると思えばできるんです」









関連情報:


「必ず出来る」『生物物理』2006年10月号


「表面のみを高画質に観察できる全反射蛍光顕微鏡法」『バイオイメージングでここまで理解(わか)る』楠見他編、羊土社(2002)







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産学連携で自動車の製造工程を革新する

富士重工業と“ELIDホーニング工法”を共同開発



砥石(といし)の切れ味が鈍くならないようにする“目立て”を電気分解で行いながら研削を行うELID(エリッド)(Electrolytic In-process Dressing:電解インプロセスドレッシング)研削法。理研の大森 整(ひとし) 主任研究員(大森素形材工学研究室)が発明したこの独創的な工法は、シリコンやセラミックス、ガラスなど硬くて加工が難しい材料でも高精度・高効率で研削することができ、半導体基板やレンズなどの電子・光部品や金型などさまざまな製造工程にすでに使用されている。大森素形材工学研究室は、これまで多くの手間とコストがかかっていた自動車エンジンのシリンダー内径部分を仕上げる工程にELIDを使用し、高効率・高精度の加工を実現する“ELIDホーニング工法”を富士重工業(株)と共同開発して、2006年5月にプレス発表した。産学連携による開発過程を、富士重工業(株)群馬製作所 生産技術研究部の丸山次郎部長、同部素形材技術開発グループの山元康立(やすたか)担当、島野正興(まさおき)主査に聞いた。


人との出会いが技術革新をもたらす
左から富士重工業鰍フ島野正興主査、丸山次郎部長、山元康立担当。 ――大森主任研究員との出会いは?
丸山:2002年末、群馬大学主催のセミナーで、大森主任研究員の講演を聞いたのが最初の出会いです。その話はとても分かりやすく、機会があればELIDを使ってみたいと思いました。当時、社内で新しいエンジンの開発が進んでいて、その量産化にはエンジンの出力や燃費などの性能を左右する、ピストンの往復運動を支えるシリンダー内径部分を仕上げる“ホーニング工程”がネックになると思っていました。ホーニングは、棒状の砥石を複数取り付けた円筒形の工具(ホーニングツール)を回転させてシリンダー内径を磨く工程です。エンジン製造の中核となるこの工程は、熟練の技術と多くの手間やコストを必要とします。しかも、軽量化や高性能化を目指した新しいエンジンは、材質が硬く加工が難しいのでホーニングに今まで以上に手間やコストがかかってしまうのです。それを何とかしなければとずっと考えていて、あるとき「ELIDを使えるはずだ!」とひらめきました。セミナーから2ヶ月くらいたったころです。長年、エンジンの製造に携わってきた技術者として「必ずうまくいく」と直観的に思いました。早速、大森主任研究員に連絡を取り、いろいろな話し合いをした後、理研と正式に契約を結び、2003年6月から10月まで山元担当を大森素形材工学研究室に派遣しました。彼を選んだ理由は、私の知る限り、設計やものづくりのスピードが社内でナンバーワンだったからです。
山元:研究室では、林 偉民(リン ウェイミン)研究員から研修を受けました。いろいろな相談にとても的確に答えてくださる方で、どんどん具体的な話を進めていくことができました。
――理研ではどのような実験をしたのですか。
山元:研究室にホーニングができるELIDの小さな設備があり、そこで私たちが求めているような加工ができるかどうかを確認する実験を始めました。すると、ホーニングツールにトラブルが発生しました。
丸山:実はその翌年、ELIDの普及を図るELID研究会で、あるメーカーの人から、「以前ELIDでホーニングをやろうとしたが、ホーニングツールにトラブルが発生し断念した」と聞きました。それまで、なぜもっと早く他社がELIDによるホーニングを実用化しなかったのか不思議でしたが、「なんだ、そんな簡単なことであきらめてしまったのか」と思いました(笑)。実はそのときすでに、私たちはホーニングツールに改善を加えることで、トラブルの解決のめどが付いていたんです。



産と学の技術・ノウハウを組み合わせる
図 ELIDを導入したホーニング設備――理研での実験を終えた後、どのように開発を進めたのですか。
丸山:社内の試作部門で、開発中の新しいエンジンの加工ができるかどうかを実験しました。最初の実験はうまくいったのですが、その後、なかなか加工効率を向上させることができませんでした。
――その問題をどのように解決したのですか。
山元:当初、理研で開発した砥石や研削液を使っていました。それを思いきって変えてみたんです。すると効率が一気に向上しました。
丸山:私たちは長年、ホーニングのノウハウを積み重ねてきました。その中で砥石や研削液も、この工程でベストのものを選択してきたわけです。そのノウハウと、理研のELIDという革新的な技術を組み合わせることで、一気に実用レベルの加工効率や精度に近づけることができたのです。
山元:理研での研修を終えた後も、林研究員に状況を報告しながら的確なアドバイスをいただきました。理研で開発した砥石や研削液を変えてみるという、少し話しにくいようなことでも、率直に相談しながら開発を進めることができました。
――その後、工場の生産設備にELIDを導入したのですね。
丸山:自動車エンジンのトラブルは人の命にかかわります。ですからエンジンの製造では、実績のある従来の工法を大切にします。ELIDは既存の設備に電気分解のための電極を取り付けるだけで導入できます。それもELIDの大きな魅力でした。現場への導入は島野主査が主に担当しました。
――ご苦労された点は?
島野:ELIDについては、関連部門や現場の理解も早かったですね。ELIDの原理がシンプルで、私たちのホーニング技術との適合性も良かったからだと思います。革新的な技術の導入は、現場に大きなストレスを与えることが多いのですが、ELIDは現場に少しずつ慣れてもらいながら導入できました。
――実際にELIDを導入した効果は?
島野:普通、加工効率と精度を同時に向上させることは難しいのですが、ELIDの導入によって従来70〜80秒かかった工程を約40秒に短縮するとともに、加工精度は従来の上限レベルを維持しつつ、バラツキを半減できました。
――今回の「ELIDホーニング工法」の開発の意義をどうとらえていますか。
丸山:近代に自動車工業が興り、ホーニング工法も少しずつ進歩してきたのですが、今回、手間やコストがかかるというこの工法の宿命的な課題を、大森主任研究員と直接話をしてから約3年という短期間で、一気に改善できました。エンジンのまさに心臓部の工法を革新できたことは、技術者冥利(みょうり)に尽きます。今後、このELIDホーニング工法が全世界の自動車会社に採用されることを期待しています。
――今回のご経験から、産学連携がうまくいくには何が重要だと思いますか。
丸山:目標を具体的に定めて見失わないようにすることです。また、学の側にあまり過大な期待を寄せて頼り過ぎるとうまくいかないと思います。産と学が互いの立場や技術をよく理解した上で、何でも率直に相談できる関係が大事ですね。今回は、大森主任研究員、そして林研究員という良いパートナーに巡り会えたことがとても幸運でした。



 ELIDで広がるものづくりの新世界



大森 整
中央研究所 大森素形材工学研究室
主任研究員
 技術は人を介して伝えられます。今回、技術移転がうまくいったのは、ELIDのコンセプトや装置に搭載するノウハウを、林 偉民 研究員が適切に伝達できたこと、そして企業側も意欲的な人を派遣されたことが大きかったと思います。「新しい技術を使いこなすのは難しいだろう」などと先入観を持って研究室に来ても、うまくいきません。今回のように「必ずできるはずだ」と思って取り組むと、実現できるものです。
 ELIDは、すでにさまざまな製造現場で使用されています。特に、硬くて加工が難しい材料を高効率・高精度で研削するにはELIDしかないという評価を得ています。私たちはELIDを発展させ、加工と計測を同時に行いナノの精度でより複雑な形状のものをつくり出す工法の開発を進めています。最近、ELIDで加工面に特定の元素を注入して、材料をさびにくくしたり、強度を高めたり、生体になじみやすい性質に改質できることも分かってきました。今まで思ってもみなかったものをつくり出せる可能性がさらに広がっているのです。このような新しい工法は、画期的な製品や計測・分析装置などを生み出して産業界やサイエンスにブレークスルーをもたらし、産業構造や社会構造さえも革新する力を秘めています。





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TOPICS
天皇皇后両陛下、理研をご訪問

10月3日、天皇皇后両陛下が理研和光研究所を訪問され、野依良治理事長の先導のもと、3時間余りにわたり、加速器科学と脳科学研究の最先端を視察されました。
昼食後には、理研で活躍する海外からの研究者、女性研究者、若手研究者と懇談されました。


写真1 ご到着時の両陛下

10月3日、天皇皇后両陛下は10時30分、理研にご到着(写真1)。野依良治理事長はじめ、結城章夫 文部科学事務次官、野木 実 和光市長および関係者一同が事務棟正面玄関でお出迎えしました。天皇陛下のご訪問は皇太子殿下の時代を含め3度目となり、1992年3月以来14年ぶりとなります。皇后陛下のご訪問は初めてのことです。

ご到着後まず、事務棟1階ロビーで野依理事長がパネルを用いて理研の歴史と国際社会に開かれている理研の現状、世界を代表する科学者たちからの評価などについて、ご説明しました。次に、茅 幸二 中央研究所長が中央研究所の多様な研究についてご説明し、その一例として緑川克美 主任研究員(緑川レーザー物理工学研究室)らが進めている光科学の最先端研究をご紹介しました。そして、玉尾皓平 フロンティア研究システム長が“新しい研究領域の芽を育てる”役割を担うフロンティア研究システムの概要をご説明し、その研究の一例として国武豊喜グループディレクター(時空間機能材料研究グループ)らの大面積で厚さがナノメートルの丈夫な薄膜をご紹介しました。

写真2 加速器の模型を前に 仁科加速器センターでは、矢野安重センター長が「理研サイクロトロンの歴史」を、阿部知子 副チームリーダー(生物照射チーム)が「重イオンビームによるイネや花の品種改良法の発明と実施例」を、森田浩介 准主任研究員(森田超重元素研究室)が「新元素113番の発見」を、それぞれパネルを使ってご説明しました。地下1階に移動された後、矢野センター長が世界初の「超伝導リングサイクロトロン」についてご説明し(写真2)、この大型加速器を間近でご覧いただきました。

写真3 顕微鏡で脳神経細胞をご覧に 脳科学総合研究センターでは、甘利俊一センター長、伊藤正男 特別顧問がお出迎えし、甘利センター長がセンターの概要をご説明しました。地下1階実験室では田中啓治グループディレクター(認知脳科学研究グループ)が「脳の活動領域を研究する装置fMRIの実験」について、西道隆臣チームリーダー(神経蛋白制御研究チーム)が「アルツハイマー病の原因と予防および治療」についてご説明しました。その後、3階へ移動し、Kathleen(キャサリーン)S. ROCKLAND(ロックランド)チームリーダー(脳皮質機能構造研究チーム)が顕微鏡を使いながら「大脳皮質の構造解析」について(写真3)、宮脇敦史グループディレクター(先端技術開発グループ)が「神経細胞を光らせる技術」について、その応用例として岡本仁グループディレクター(神経分化修復機構研究グループ)が「ゼブラフィッシュの神経回路の形成の研究」について、ご説明しました。脳研究のご視察の終わりに、野依理事長は「今日は、ご覧いただけませんでしたが、脳センターでは躁うつ病など心の問題も、脳との関係で研究を始めています」と申し添えました。

両陛下は納得されるまで何度も質問されるなど、予定の時間を超えて熱心に視察されました。両陛下にご説明した研究員らは「両陛下から極めて専門的なご質問を頂いた」と感想を語りました。

視察を終えられ、関係者らと昼食を共にされた後、主に海外からの研究者、女性研究者、若手研究者らと和やかな雰囲気の中で懇談され、研究の面白さ、楽しさ、苦労、将来の夢などについて研究者の話に耳を傾けられ、励ましのお言葉を述べられました。午後1時半過ぎ、両陛下は3時間余りのご訪問を終え、多くの所員がお見送りする中、理研をおたちになりました。




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放射光科学総合研究センター 新センター長に石川哲也氏

10月1日、放射光科学総合研究センターのセンター長に、石川X線干渉光学研究室の主任研究員を務める石川哲也氏が就任しました。長年、当研究所の発展に尽力された飯塚哲太郎氏は9月30日をもって退任しました。

石川 哲也 (いしかわ てつや)



石川 哲也 (いしかわ てつや)
1954年1月12日、静岡県生まれ。1977年3月、東京大学工学部卒。工学博士。東京大学工学部物理工学科 助教授、高エネルギー物理学研究所 助教授(併任)などを経て、1996年4月、理研マイクロ波物理研究室 主任研究員(常勤)、その後、石川X線干渉光学研究室に改組。2005年1月より理研播磨研究所 量子材料研究グループ 量子ナノ材料研究チーム チームリーダーを、2005年10月より理研放射光科学総合研究センター 副センター長を併任。


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のじぎく兵庫国体、SPring-8で採火式


のじぎく兵庫国体、SPring-8で採火式 9月16日、河本三郎 文部科学副大臣(当時)、壽榮松(すえまつ)宏仁 理研播磨研究所長らが参列する中、「未来に向かう科学の火」として、大型放射光施設SPring-8で「のじぎく兵庫国体」の採火式が行われました。「科学の火」は、SPring-8の高輝度放射光X線を、銅コイルを巻いた「ろうそく」の芯(しん)に照射して採られました。兵庫国体のマスコット「はばたん」がスイッチを入れると放射光が照射され、ろうそくに着火しました。ろうそくの灯火は炬火(きょか)リレー走者の手に渡り、雨にも耐え、無事に播磨科学公園都市を一周しました。のじぎく兵庫国体は9月30日〜10月10日の間、兵庫県各地で競技会が行われました。


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「次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2006」を開催


「次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2006」を開催 文部科学省は、今年度より「最先端・高性能スーパーコンピュータ(次世代スーパーコンピュータ)開発利用」プロジェクトを発足させ、10ペタフロップス(1秒間に1京[=1016]回の演算)級という世界最高速の処理能力を持つスーパーコンピュータの開発を、国家プロジェクトとして本格的にスタートさせました。その開発実施本部が設置された理研は、次世代スーパーコンピュータの開発を中核的に推進しています。そこで今回、研究や開発に携わるさまざまな分野の関係者を集め、次世代スーパーコンピュータの利用によって可能となる科学技術のブレークスルーについて議論する「次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2006」を9月19〜20日、都内で開催しました。当日は、基調講演などに続き、生命科学、工学、ナノテクノロジー、環境・防災、利用環境、物理学・天文学の各分野を代表する研究者をパネリストとしてパネルディスカッションが行われ、最先端研究の動向を報告すると同時に、次世代スーパーコンピュータ導入がもたらす研究発展への期待を議論しました。来場者数、410人。今回のシンポジウムの報告は下記URLに掲載されています。
http://www.nsc.riken.jp/symposium2006-report.html


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「次世代計算科学研究開発プログラム」を発足


当研究所は10月1日、和光研究所に「次世代計算科学研究開発プログラム」を発足させました。この研究開発プログラムは理研が研究開発の主体となっている「次世代スーパーコンピュータ」の性能を最大限に発揮できるソフトウェアを開発することを目的としています。また、生命体現象の深い理解と新たな発見を目指すと同時に、医薬品や医療機器、診断や手術手法の開発を目指します。「分子スケール研究開発チーム」、「細胞スケール研究開発チーム」、「臓器全身スケール研究開発チーム」の3チームでは、基礎方程式に基づく解析的アプローチにより、「データ解析融合研究開発チーム」では、大量の実験データから未知の法則に迫るアプローチにより、異なるスケールの研究と実験データを統合的かつ有機的に結び付け、生命体で起こる種々の現象を理解し、医療に貢献するためのソフトウェアを開発します。
 プログラムディレクターには茅幸二 和光研究所長、副プログラムディレクターには姫野龍太郎 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部開発グループディレクターが就任しました。


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原酒
『RIKEN RESEARCH』かく回りき


岡田小枝子
OKADA Saeko
広報室 契約事務職員


左から中西麻紀 係員、筆者、矢野倉実 広報室長 皆さん、広報室が『RIKEN RESEARCH』という英文広報誌を発行し始めたことをご存じですか。メインディッシュは理研研究者の論文に関する短い解説記事。加えて、研究者のインタビュー記事や所内イベントニュースなどもあり、コンテンツは充実している。冊子は英語版のみだが、ホームページ(HP)では日本語版もつくっている。不幸にもまだご存じない方は、理研HPの画面左下にクールなデザインのバナーがあるので、そちらをクリックしていただくか、「http://www. rikenresearch.riken.jp」と入力していただきたい。ご覧の通り、大変スマートなたたずまいの『RIKEN RESEARCH』であるが、今回、その裏で展開している製作物語の一部を、「原酒」の場を借りて披露させていただくことになった。

自転車操業の『RIKEN RESEARCH』であるが、強いて言えば、情報検索で上がってきた理研研究者の論文リストの到着する月曜日が始まりの日だ。プレスリリースされた論文や自己推薦された論文などの情報も取りまとめ、水曜日、リクエストを発注先へ送ると、編集者が適切なライターを決め、原稿作成が開始される。論文情報を速やかに発信しようという目的から、解説文作成の期間は正味たったの10日間。そのため、論文著者の先生方にはたびたび理不尽なお願いをすることもあり、この場を借りて重ね重ねおわび申し上げます。そしてご理解を。

解説文作成チームは、メルボルン在住の美しきオーストラリア人編集者を中心とする国際部隊だ。10人のライターは、メルボルン、ニューヨークやロンドンに点在する。オーストラリアは日本と時差がなく、同じ時間帯に仕事が進められ、大変都合が良い。翌週の金曜日、「解説文ができた」とのメールをオーストラリアから受け取ると、私と矢野倉 実 広報室長で目を通す。解説文は、専門外の研究者にも読んでもらえるよう、研究背景などを冒頭で分かりやすく説明してもらうスタイルにした。そのため、論文自体の要約はかなり短く、やや物足りない気がすることもあるが、私など、この解説文のおかげで量子力学の研究を初めて少し理解できた気になった。時にはこちらで修正を加え、3日程度でOKの返信をすると、次の金曜日にはHPにアップされ、登録者にメールでお知らせが配信される。つまりHPは週刊誌である。原稿の数は、今のところ英文だけで1週間に2〜3本、それに和訳原稿も加えると、1週間に6本、月に24本程度の原稿を回転させていることになる。英文の確認はもとより、自然な日本語文を目指す和訳文章の確認も気が抜けない。やせる思いで仕事をしている(ただし「思い」だけ)。

そのほか、月に1回、研究者インタビューの段取りをし、所内のイベントなどの短いニュース記事や特別記事を自分でも書く。月刊誌の発行もあるので、コンテンツ選定の根回しをし、ゲラの校正もする。そうそう、請求書の確認もしなければ。7月に立ち上がったHPも、日本人の技術者と協議しながらまだまだ改善していく。これまで半年間は、立ち上げに付き物の問題が少なからずあり、靄(もや)の中から飛び出てくる刺客と戦うように感じていた日々もあったが、秋の訪れとともにようやく落ち着いてきたように思う。広報室の方々には、もろもろのお手伝いやお心配りをいただき、大変感謝している。論文著者である研究者、推進部、所長・センター長の皆さんから頂戴するご助言・ご助力も大変ありがたい。なにより、素晴らしい職人技をもつスタッフとこの製作物をつくり上げていく仕事は、学ぶところが多いし、大いにやりがいを感じている。

「岡田さん、解説文をアップしたわ。良い週末を!」と、今日もオーストラリアからメールが届いた。『RIKEN RESEARCH』の新しい1週間がまた始まる。





理研ニュース 

11
No.305
November 2006

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発行日
平成18年11月6日
編集発行
独立行政法人
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