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ロボットに知性をもたらすセンサーをつくる
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人VSロボット、聴覚で対決!
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2005年9月23日、バイオ・ミメティックコントロール研究センター(BMC)の一般公開日。上下に3個ずつ、計6個のスピーカーの一つから“ザァッ”という音がランダムに出る。音を出したスピーカーを、どのくらいの確率で正確に当てられるか、中島弘道 研究員らが開発したロボットと一般公開に訪れた人が競い合った。果たして勝負の行方は……。
「複雑な数学の計算よりも、声を掛けられた相手に振り向く、このような人が何げなく行っていることこそが、今のロボットには難しいのです」と向井チームリーダーは語る。音源の位置を突き止めることを「音源定位」という。現在、ロボットに音源定位の能力を持たせるための主流の方法は、マイクをたくさん並べる「マイクロフォンアレイ」である。それぞれのマイクに入る音の違いを利用して、音源の方向が分かる。 しかし中島研究員が開発しているのは、2本のマイクだけを使う音源定位ロボットだ。音源だと思う方向にカメラを向け、実際の音源方向との誤差を確かめることを繰り返し学習していく。「たくさんマイクがあった方が、当然、音源定位には有利です。しかし不思議なことに、どの動物も耳は二つです。情報処理や学習のしやすさなど、耳が二つであることに何らかのメリットがあるはず。それが何かを知りたいのです」と中島研究員は語る。 では、2本のマイクだけでどのようにして音源方向を突き止めるのか。左右方向は、音の大きさ(音圧)や、左右のマイクへ音が到達する時間差などで音源定位ができる。例えば左方向で音が鳴ると、右よりも左のマイクに、より大きな音が早く伝わる。難しいのは上下方向の音源定位だ。中島研究員らは、そのためにマイクの周囲に“外耳”(反射板)を付けた(記事冒頭写真、左)。すると音源からの音は、マイクへと直接向かう波と“外耳”に反射した波が干渉を起こし、その音をマイクが拾う。干渉によってできた音には、波が打ち消し合って強度が弱くなった“くぼみ”が何ヶ所かにできる(図1 B)。音源の上下方向によってくぼみのパターンが変化するので、そこから音源の上下方向を推定するのだ。 さて、一般公開での勝負の結果を発表しよう。勝利を収めたのは、ロボットだった。ただし、このとき用いた音源は、あらゆる波長を一定の強度で含み、くぼみがない「白色雑音」と呼ばれる音だ(図1 A)。「白色雑音」だと干渉でできたくぼみを見つけやすく、ロボットが最も得意とする音で勝負したのだ。しかし一般的には、音源自体にくぼみがある。「私たちのロボットは、4〜5ヶ所のくぼみを組み合わせて分析しているので、“音源自体にあるくぼみ”と“干渉でできたくぼみ”を、ある程度区別することができます」と中島研究員はシステムの特長を語る。 しかし、一般公開でロボットの音源定位の精度が悪くなる場面があった。観客が増えてきて、雑音が増えたときだ。人は、例えばパーティーのような雑音の多い環境でも、話し相手の声だけを聞き分けられる。このように雑音の中から必要な音だけを分離することが、ロボットの今後の課題の一つだ。 中島研究員らは、聴覚情報とカメラがとらえた視覚情報を統合して判断させる独創的な実験を計画している。私たちは、音が鳴った方向と見たものの様子がほぼ一致している場合、その場所で音が鳴ったと判断する。腹話術で人形が話しているように錯覚するのもそのためだ。しかし話し手と人形の距離が遠い場合には、人が話しているのだと明らかに気付く。人は、聴覚情報と視覚情報を一致させる合理的なちょうどよい距離を、学習で習得する。中島研究員は「ロボットにも“ちょうどよい距離”を学習させたいと考えています」と語る。ロボットも腹話術を“楽しむ”日が来るだろう。 ![]() |
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においをかぎ分けるロボットをつくる
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「五感のうち、生物や人に比べてロボットが最も劣っているのが嗅覚(きゅうかく)です。ガスの種類が分かっていれば濃度に換算できますが、種類が未知の場合、種類も濃度も分からず、何らかのガスが存在することしか分かりません。お酒を温めたときに、台所のガス漏れ報知器が反応してしまう場合があるのがこの例です」と向井チームリーダーは指摘する。「最も耐久性が高いといわれている、ガス漏れ報知器などに使われている半導体ガスセンサーを使って、ガスの種類と濃度を識別する研究を行っています」と語るのは、加藤 陽(よう) 研究員だ。半導体ガスセンサーは、高温に加熱した半導体表面でガスの吸着や燃焼(酸化反応)が起き、電気抵抗が変化する大きさから、ガスの濃度を検知する。ただし、従来の半導体ガスセンサーでは、ガスの種類の識別はできなかった。
なぜ、識別ができないのか。例えば、ガス分子Aが1個来たときと、ガス分子Bが2個来たときで、電気抵抗の変化の大きさが一致する可能性があり、AかBかを識別できないのだ。現在、ガスを識別する方法の主流は、ガスの種類と電気抵抗の変化量との関係が異なるセンサーを多種類つくって並べることである。しかし多種類のセンサーをつくること自体に限界があり、現在は、せいぜい10種類くらいのセンサーしかつくれない。 一方、加藤研究員らは、センサーの状態を能動的に変化させる「アクティブ・センシング」という考え方を採り入れ、半導体表面を熱する温度を周期的に変化させることで、ガスの種類と濃度を識別しようとしている。ガスの種類と濃度によって、温度変化に対する電気抵抗値の時間的変化が異なるので、識別が可能になるのだ(図2)。「Aが80℃、Bが100℃で燃える分子だったら、その燃え方の違いで識別できるという原理です。現在のところ、一つのセンサーだけで8種類のガスの識別ができることを実験で確かめました。半導体表面を熱する温度変化の周期や、温度変化の上限・下限の範囲を変えることにより、さらに多くの種類を識別することが可能だと思います」 こう語る加藤研究員らは、このガスセンサーを災害救助ロボットに搭載する研究を進めている。例えば、災害現場でガス漏れを検知することが期待される。しかし、それには、ロボットが動き回ったり、現場で強い風が吹いていたりと、時々刻々変化する環境の中で、リアルタイムでガスをとらえる必要がある。加藤研究員らは、約1mm角の半導体表面をヒーターによって1秒間に80〜320℃の範囲で変化させることにより、リアルタイムでガスを検出するシステムをつくり上げた。記事冒頭の写真で加藤研究員(中央)が手にしているのが、このセンサーを取り付けたロボットである。三角形の各頂点にセンサーが付いていて、ガスの濃度の濃い方へと移動していく。 ![]() |
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2006年、「RI-MAN」誕生へ
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生物の優れた機能を模倣する「バイオ・ミメティック」の研究に取り組むBMC。その総力を結集したロボットを、環境適応ロボットシステム研究チームの羅 志偉(ら しい)チームリーダーが中心になって、間もなく完成させようとしている。その名は「RI-MAN(リー・マン)」。「私たちは、人と直接接触できる、例えば介護にも役立つようなロボットを目指しています。RI-MANの当面の目標は、体重10kgくらいの幼児を抱きかかえることです。これは世界初の試みだと思います」と向井チームリーダーは語る。
抱きかかえるときに欠かせないのが、触覚センサーだ。私たちは、触覚で力がどこにかかっているのかを感じながら、腕をコントロールして抱きかかえる。ロボットが抱きかかえる場合にも、触覚センサーの情報をフィードバックさせながらロボットのアームの動きをコントロールする必要がある。 そもそも触覚センサーがなければ、人を強く抱きしめ過ぎて危害を加えてしまうおそれがある。しかし、既存のロボットの触覚センサーは、“たたかれた”、“なでられた”ということが分かる程度であり、フィードバックを行うだけの精度が足りなかった。なぜ、ロボットの触覚センサーの開発は遅れているのか。「工場という変化のない環境の中で、決められた動作を正確に行う従来のロボットには、そもそも触覚センサーは必要なかったからです。触覚センサーでロボットを覆い、その情報をもとに力学的な仕事をさせようという発想自体が今までなかったのです」 こう語る向井チームリーダーは、接触の位置や強度を精度よく検出でき、ロボットの全身を覆うことができる曲面状の触覚センサーを開発するために、人の皮膚の構造に学ぶことにした。人の皮膚には、やや硬い表皮の下に軟らかい真皮があり、皮膚組織が複雑な形状を持つことによって、力が触覚の受容器に集中し、精度よく検出できる構造になっている。向井チームリーダーらは、硬さの異なる弾性体や硬い突起物を組み合わせることにより、高精度の半導体圧力センサーに力が集中する構造をつくり上げた(図3)。 しかし、全身を覆う多数の半導体圧力センサーで得た情報をRI-MANの脳となる中枢のコンピュータにケーブルでつなごうとすると、全身がケーブルだらけになってしまう。そこで、1枚のシート(センサー8個×8個)ごとに1個の小型コンピュータを設け、そこで情報を選別・圧縮して、中枢のコンピュータへ送るシステムをつくった。例えば、ロボットの手足が何かにぶつかったときには、その個所を担当する小型コンピュータが、手足を引っ込めるように運動指令を出す。熱いものを触ったとき、とっさに手を引っ込めるような人の反射運動では、脳からではなく脊髄から運動指令が出るのと同じ仕組みだ。 この触覚センサーを実験用のロボットのアームに巻き、人を抱きかかえるための研究を環境適応ロボットシステム研究チームと共同で進めている(表紙上段、2枚の黒いシートが触覚センサー)。RI-MANには、生物型感覚統合センサー研究チームが開発した音源定位システムやガスセンサーも取り付けられ、音声認識の能力もある。RI-MANに“その子を抱きかかえて”と声で命令すると、音源定位によって命令した人の方に振り向き、子供に近づいて触覚センサーを駆使して抱きかかえる。将来は、ガスセンサーでおむつが濡れていることを知ることもできるだろう。RI-MANは人と共存できる知性を持ったロボット実現への大きなステップとなるに違いない。■ ![]()
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タンパク質の構造変化をとらえ機能解明へ
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多重重ね合わせ法で構造変化を見る
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「タンパク質結晶構造解析の新しい方法論を開発したかった」、2001年に研究チームを立ち上げたときの想いを、国島チームリーダーはそう語る。「ヒトをはじめいろいろな生物でゲノムの塩基配列が分かりました。でも、そこからはアミノ酸の配列しか分からない。体の中で機能するのは、連なったアミノ酸が折り畳まれたタンパク質です。タンパク質の機能を知るには、その構造を明らかにしなければならない。タンパク質の構造を網羅的・体系的に解析することでゲノムに書かれたすべての情報を明らかにし、その成果を創薬などに役立てようという研究が、構造ゲノム科学です。私は、構造ゲノム科学の方法論を確立するために、ここに来ました」
多量体タンパク質構造解析研究チームでは現在、文部科学省が主導する「タンパク3000プロジェクト」の一環として、大型放射光施設SPring-8を用いてX線によるタンパク質の結晶構造解析を行っている。日本の大学・研究機関が参加して2002年からの5年をかけて3000個のタンパク質の構造と機能を解明しようという計画で、理研は中核機関として2500個の解析を担当する。 研究チームのターゲットは、多量体タンパク質だ。タンパク質は、数珠のように連なったアミノ酸(ポリペプチド鎖)が折り畳まれたものだが、1個のポリペプチド鎖だけで機能するタンパク質は珍しい。ポリペプチド鎖が何個か集まって機能するものが多く、それらを多量体タンパク質、それぞれのポリペプチド鎖をサブユニットという。「なぜ集まることで機能するのか。昔から重要な研究テーマでしたが、いまだにはっきり分かっていない。私たちは、たくさんの多量体タンパク質の構造を解析することで、多量体化と機能との関係を体系的に明らかにしようとしているのです」 タンパク質は、ほかのタンパク質などの生体分子と結合することで機能を発揮する。結合する生体分子をリガンド、結合する場所を活性部位と呼ぶ。タンパク質ごとに、リガンドは異なる。「タンパク質とリガンドは、鍵穴と鍵の関係によく例えられますが、実際はもっと複雑です。ほとんどのタンパク質は、リガンドと結合することで構造が変化し、その結果、機能を発揮します。鍵と鍵穴の形だけでなく、構造変化をとらえないと機能は分からないのです」 しかし、多くの場合、構造変化は微小で複雑なため、従来の方法では判別できない。微小な構造変化をとらえて機能との関連を知ることは、構造ゲノム科学の大きな課題となっていた。そうした中、研究チームはアシルコエンザイムAチオエステラーゼPaaI(ピーエイエイアイ)という多量体タンパク質の微小な構造変化をとらえ、機能との関連を明らかにすることに成功した。 PaaIタンパク質は四つのサブユニットから成る4量体で、生分解性プラスチックの分解などにかかわっている酵素である。研究チームはまず、4ヶ所ある活性部位のうちリガンドはいずれか2ヶ所にしか結合しないことを明らかにした(図1)。複数ある活性部位のうち半数しか使わないこの現象は「半サイト活性」と呼ばれ、35年以上前に、理論上は存在が予測されていた。しかし、一般の酵素でその現象をとらえたのは、今回が初めてだ。 さらに国島チームリーダーらは、半サイト活性のメカニズムと役割を調べるため、詳しい解析を進めていった。「あまりにも難しいので、やめようと思ったこともあります」と振り返る。「あきらめずに続けて、行き着いたのが多重重ね合わせ法でした。その結果、リガンドが2個結合するとサブユニットがわずかに回転して残った2ヶ所の活性部位の構造を変化させ、それ以上リガンドが結合できなくなることを突き止めました」 多重重ね合わせ法では、リガンドが結合していないタンパク質と、リガンドが結合したタンパク質の結晶構造とを重ね合わせて比較する。その際、構造変化を、サブユニット全体の動きを示す「剛体変化」と、サブユニット内の局所的な動きを示す「局所変化」という二つの成分に分解し、重ね合わせを複数回行うことで、角度にしてわずか2度という微小な構造変化をとらえることが初めて可能になった。 「半サイト活性は一見無駄に思えますが、その無駄が実は重要だったのです」。PaaIタンパク質のリガンドであるアシルコエンザイムAは、リガンド分子としては比較的大きい。大きなリガンドに対して、PaaIは構造変化を利用して包み込むように結合する。その結果、活性部位は4ヶ所のうち2ヶ所しか使えなくなってしまうが、そのデメリットよりも、大きなリガンドと効果的に結合するメリットの方がPaaIにとっては重要なのだ。さらに、残った活性部位に別の小さなタンパク質が結合することで、PaaIの機能の調節も可能だ。これらのメリットは、半サイト活性を示す多量体タンパク質に一般的に当てはまる可能性がある。 PaaIの類似タンパク質として、ヒトのIII型チオエステラーゼが知られている。エイズを引き起こすHIVに感染すると活性化されるタンパク質で、結晶構造はまだ決定されていないが、半サイト活性によって活性が調節されている可能性もある。活性化のメカニズムが分かれば、エイズ治療薬の開発につながると期待されている。 ![]() |
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多量体化と構造安定性の関係
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「多量体と機能の関係でもう一つ面白いことが分かってきました」と国島チームリーダーは言う。研究チームでは、高度好熱菌のThermus thermophilus(サーマス サーモフィルス)HB8由来の2デオキシリボース5リン酸アルドラーゼという4量体のタンパク質の結晶構造を決定した(図2左)。このタンパク質は、大腸菌と超好熱古細菌で結晶構造が決定されている。同じタンパク質でも生物種によって構造が異なるため、比較することも重要である。サブユニット同士の接触面積を調べたところ、生息温度が高いほど接触面積が増えていることが分かった(図2右)。
しかし、別のタンパク質では逆の結果が出た。高度好熱菌由来の2量体の酵素であるデヒドロキネートシンターゼの構造を常温に生息している生物由来のものと比べても、接触面積は変わらないのだ。調べてみると、この酵素は接触面の一部を活性部位として使っていることが分かった。 「接触面が活性部位になっているなど機能に関係している場合には、接触面積は変わらない。一方、接触面が機能に関係ない場合には、接触面積を大きくすることで熱に対する安定性を獲得しているのではないかと考えられます。解析例を増やしていけば、統一的なことが分かるでしょう」 その結果は、技術開発にフィードバックできる。X線構造解析には溶液から良質の単結晶をつくる必要があるが、質の良い結晶ができないタンパク質もある。結晶は、タンパク質の分子同士がくっついて規則正しく並んでできている。これは、多量体と同じ状態だ。多量体の接触面の構造と安定性との関係が分かれば、人為的に接触面を改変することで質の高い結晶をつくることができるのではないかと、国島チームリーダーは考えている。
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100倍の効率化を目指す技術開発
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研究チームでは、これまでに60個を超えるタンパク質の結晶構造を決定している。2004年度には、7人の研究者で38個を決定した。「私が大学院に入って構造解析を始めたのは1989年ですが、5年間で私が決定した結晶構造は1個だけです。それが普通でした。現在、私たちは年間一人当たり5個以上決定していることになります」と国島チームリーダーは胸を張る。「構造ゲノム科学は欧米でも盛んですが、私たちの研究室に限らずタンパク3000プロジェクトでは、数的にも質的にも世界のレベルをはるかに超えた成果が出ています」
では、日本の弱点は? 国島チームリーダーは少し考えて「今のところありません」ときっぱり答えた。「でも、手を抜くとすぐに追い抜かれます。現在のリードをいかに将来につなげるかが重要です」 日本がトップを維持するために必要なものは、やはり技術開発だという。「解析しやすいタンパク質から手を付けているので、難しいものばかり残っています。今後は、いかに結晶の質を向上させるかが鍵になってきます。そして今最も力を入れているのが、経験の浅い人でも始めから終わりまで正しい手順で自動的に解析できるシステムをつくること。構造解析は、今まで熟練した研究者しかできませんでした。それでは効率は上がりません。私たちは各段階を効率化して、現在のシステムの10倍、人が解析を行う場合に比べて100倍の効率化実現を目指しています(図3)」 「究極の目標ですが」と、国島チームリーダーは語ってくれた。「Thermus thermophilus HB8という高度好熱菌は約2200種類のタンパク質を持っています。その構造と機能をすべて明らかにして、コンピュータの中で一つの細胞の全生命現象をシミュレーションしたいですね」。これは放射光科学総合研究センターのストラクチュローム研究グループが推進する「高度好熱菌 丸ごと1匹プロジェクト(http://www.thermus.org/)」と呼ばれる計画で、多量体タンパク質構造解析研究チームも参画している。現在、約半数のタンパク質の生産に成功し、約2割の結晶構造が決定したところだ。 「さらに進めて、ヒトの全タンパク質の構造と機能を明らかにして全生命現象のシミュレーションができたら、創薬の方法も大きく変わるでしょう。これが『システムバイオロジー』です。新しい研究分野として注目されていますが、頭打ちの状況です。必要な情報が足りないからです。システムバイオロジーには、構造ゲノム科学によって明らかにされる情報が不可欠、そのために構造ゲノム科学の研究および技術開発をどんどん進めていくことが、私たちの使命です」■ ![]() |
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企業主体の技術移転を図る知的財産戦略センター
丸山瑛一センター長に聞く |
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技術移転における逆転の発想
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――まず、CIPSの特徴について教えてください。
丸山:事務部門の知的財産戦略グループと、研究系実働部門のプログラムが一緒になって知的財産戦略を練り、実行していることが特徴です(図1)。その中でも、2004年にスタートした「産業界との融合的連携研究プログラム」が大きな特色です。 ――「産業界との融合的連携研究プログラム」とは? 丸山:従来の技術移転は、大学や公的研究機関が主体となり、“私たちにはこういう良い研究成果があるので、これをもとに製品化しませんか”と企業に参加を求める形でした。そうではなく、逆に企業が主体となり、“こういう製品をつくりたいので、この研究成果を移転してください”と大学や公的研究機関に協力を求める、それが本来の技術移転の在り方だと思います。このように発想を逆転させた新しい仕組みが、「産業界との融合的連携研究プログラム」です。具体的には、まず企業側がこの制度に参加を希望する理研の研究者を登録したデータベースなどを参考に、研究テーマを提案します。理研側の窓口となるCIPSのプログラム・マネージャーは、その提案にふさわしい理研の研究者を紹介します。そして企業と理研の研究者が協力してテーマ提案書を作成します。採用された研究テーマについては、チームリーダーは企業から出し、理研の研究者は副チームリーダーや研究員として参加してチームを組みます。このチームが技術移転の「バトンゾーン」です。2004年度に7チーム、2005年度に3チームを立ち上げました(図2)。 ――実際にスタートしてみて、いかがですか。 丸山:2004年10月にスタートした二つの研究チームが、研究成果のプレス発表を昨年末に行いました※1。早くも予想以上の成果が出て、びっくりしています。私は連携企業をすべて訪問しましたが、どの企業にも“今まで自社になかった技術分野を急速に立ち上げることができて、とてもありがたい”と評価していただきました。また、企業が本気になって将来の主力製品の一翼を担えるものを生み出そうとしている熱意も伝わってきました。それは、企業がチームに送り込んできた人材にも表れています。主任研究員や部長クラスのとても優秀な人たちが、チームに参加しています。この人たちは、ここで新製品開発の実績を挙げるとともに、理研や大学の研究者との人脈を広げることもできます。各企業は幹部候補生を育てる貴重な機会としても、期待しています。
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企業の力で“死の谷”を越える
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――理研の研究者の反応はどうですか。
丸山:この研究成果は特許になるはずだ、と企業の研究者からアドバイスを受け、実際に特許出願した例があります。理研の研究者も実際の社会や生産現場のニーズを知り、研究の新しいシーズ(種子)を採り入れることができます。 現在、いわゆる大学発ベンチャーが日本全体で1000社を超えましたが、経営状態は苦しいところが多いようです。それは大学や公的研究機関の研究者が社長や役員となり、マーケティングなどもしなければいけないからです。研究や教育が本分の研究者にそのような不得手なことをさせるのは、大きな損失です。私は企業の出身ですが、製品化の過程で“死の谷”と呼ばれる数々の困難に遭遇することは、企業においては日常茶飯事です。企業では、開発リーダーを変えたり、予算や計画の練り直しといったマネージメントをダイナミックに行います。しかし、そのような巧みなマネージメントは、大学発ベンチャーには難しいと思います。そこで「産業界との融合的連携研究プログラム」では、“死の谷を乗り越え製品化することは企業に任せます。技術的協力は理研の研究者が責任を持って行います”という仕組みにしたのです。その過程でCIPSのプログラム・マネージャーが別の理研の研究者の紹介や、チームメンバーの交代、予算や計画の変更にも柔軟に対応していきます。 この仕組みは大学発ベンチャーを支援し、活用する仕組みとしても有効です。理研にも、18社の「理研ベンチャー※2」が活動していて、現在ではCIPSが支援しています。その社長を務めるある研究者は“会社を軌道に乗せるのに本当に苦労した。もしこの仕組みをもっと早く利用できていたなら、無駄な努力をしなくてよかった”としみじみ語っていました。すでに3研究チームに理研ベンチャーの研究者が参加し、連携企業の協力を得て実績を積み、経営基盤を強化しようとしています。 ――今後も毎年研究チームを増やしていくのですか。 丸山:各チームの研究期間は、最長5年です。25研究チームくらいまで増やして、毎年5研究チームが入れ替わる規模にしたいと考えています。分野としては、もう少し理研のバイオ系センターの研究者にも参加してもらいたいですね。私は3年以内に半数の研究チームが製品化に成功すると期待しています。それが達成できれば、皆さん驚くはずです。ただし製品化の効率ばかりを求めると、すぐに製品化できるテーマを選ぶことになってしまいます。理研の技術を生かす挑戦的なテーマを選び、革新的な製品分野の開拓を目指していきたいと思います。 |
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よみがえる理研文化
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――CIPS全体の今後の展望は?
丸山:「ものつくり情報技術統合化研究プログラム」は、企業からも高い関心を持たれている独自のシミュレーション技術を開発しています。しかし、わが社で実用化しましょうと手を挙げるところが、まだありません。今年4月には実用化を目指すチームを立ち上げ、「産業界との融合的連携研究プログラム」の活用も検討していきたいと思います。 特別研究室プログラムは、企業などから受け入れる研究資金で運営されています。今後、資金の受け入れ方やリーダーの選び方などを再検討し、積極的にこの制度を活用していきたいと思います。 昨年11月には、理研の今後の研究計画や未公開特許を個別面談形式で企業に紹介する「技術移転懇話会」を初めて開催しました。今後も、方法を工夫しながら、理研を産業界へアピールする機会を積極的に設けていきたいと考えています。 戦前の理研は、大変優れた基礎研究を行う一方で、ベンチャーの草分けである「理研産業団」を生み出し産業界へ貢献しました。しかし戦後に、その特色が失われてしまったように思います。CIPSの取り組みによって、理研の研究者の意識が変わり、再び理研の文化がよみがえることを期待しています。まず、理研が産学官連携による技術移転の成功例を示すことによって、それが日本型の新しい技術移転の仕組みとして広がることが、私の夢です。■ |
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※1:2005年12月2日プレスリリース「ナノ加工精度を向上させるナノコーティング材料を開発」 (http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2005/051202/index.html) 2005年12月26日プレスリリース「フラーレンで光触媒コート材料の耐久性が2倍に向上」 (http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2005/051226/index.html) |
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熱を加えると縮む新物質を発見
熱変形「ゼロ」の精密光学部品や 2005年12月13日、文部科学省においてプレスリリース |
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――何が開発のきっかけになったのですか。
竹中:マンガン窒化物は「逆ペロフスカイト」というシンプルな構造をしています(図1左)。磁気的性質が変わる磁気転移温度(室温付近)で、この物質が不連続に縮むことを文献で見つけたことが直接のきっかけです(図1右)。室温付近で不連続的な「縮み」を連続的なものにできれば、従来にない画期的な「負膨張材料」が開発できると考えました。負膨張材料を正の熱膨張を持つ材料と組み合わせれば、膨張率を自在に、例えばゼロに、できます。デバイスの高精度化が進んだ今の時代に欠かせない材料になると思いました。 ![]() |
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――この研究で特に苦労した点は。
竹中:理研赴任(2003年4月)に際し、高木英典主任研究員から「任期のない定年制の職だから、じっくり腰を据えて研究しろ。はやりの物質はやるな」と言われていたこともあり、研究者人口の極端に多い酸化物はやめようと思いました。もっとも、高木主任は「酸化物をやめろ」とまでは言いませんでしたが。「有望な物質群は?」と探している中で、遷移金属窒化物に興味を持ちました。ただ、窒化物に目標を定めたものの試行錯誤の連続でした。この「マンガン窒化物」に行き着いたのは、2004年の初めです。 |
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――どのようにして新物質を発見したのですか。
竹中:マンガン窒化物は、Xの位置に亜鉛やガリウムなどがあるとき、不連続な縮みを引き起こします(図1)。そこで、Xの元素をさまざまな別の元素に置き換えて、熱膨張を調べました。するとゲルマニウムで置き換えたとき、この不連続的に起きた「縮み」が、100℃程度まで連続的に生じることが分かりました。最初の成功例である銅とゲルマニウムの組み合わせ(図2)を見つけたのは、取り組んでから3ヶ月目のことでした。 ![]() |
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――今後の展開は。
竹中:「熱膨張ゼロ」、「熱変形をしない」という機能を必要とする素材や部品がたくさんあります。例えば、超精密加工の分野では、工作機械や機具類の熱膨張が加工精度を低下させる要因として問題となっています。このほか“熱膨張率を、ある特定の値にしたい”という要求はさまざまな分野で存在します。熱膨張のコントロールに、負膨張材料は不可欠です。今回発見したマンガン窒化物は、機械的な欠陥やひずみが入りにくく機能が安定している上に、膨張率を広い範囲で自由に変えることができるなどの特徴があり、応用範囲が広いと考えられます。■ |
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プレスリリースは下記URLを参照ください。 http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2005/051213/index.html ※本成果は、米国の学術雑誌『Applied Physics Letters』(12月26日号)に掲載され、毎日新聞(12/14)など多数の新聞に取り上げられた。 |
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理研の物理研究をアピール
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当研究所は、1937年に仁科芳雄博士(1890〜1951年)がわが国初となるサイクロトロンを建造して以来、原子核物理をはじめ重イオン科学研究を推進し、2004年には新元素(113番)を発見するという輝かしい研究成果を挙げました。昨年は、アインシュタインが特殊相対性理論などの三つの革命的な論文を発表した1905年から100年を経たことを記念した「世界物理年」であると同時に、日独の友好をさらに深めることを目指した「日本におけるドイツ年」でもありました。 そこで、理研とドイツ重イオン科学研究所(GSI)は12月17日、「新元素発見の100年」と題した公開シンポジウムを日本科学未来館で開催しました。理研からは新元素発見に貢献した森田浩介 先任研究員(GARIS開発チーム)、矢野安重 プログラムディレクター(重イオン加速器科学研究プログラム)が講演し、約200名の熱心な来場者がありました。 また、特別展「仁科芳雄と原子物理学のあけぼの」(主催:国立科学博物館、(財)仁科記念財団、理研)が11月12日〜12月18日に国立科学博物館で開催され、仁科博士ゆかりの品や資料が公開されました。理研からは“仁科型宇宙線観測用電離箱二号機”や“長崎の爆心地の瓦”などが展示され、多くの来場者の関心を引きました。 さらに、2005年度「仁科記念賞」を113番元素発見の功績により森田先任研究員が受賞しました。同賞は仁科記念財団が、仁科博士の功績を記念して原子物理学とその応用に関し、独創的で極めて優秀な研究成果を収めた個人あるいはグループに授与するものです。 昨年は物理学において世界をリードしてきた理研をアピールした年となりました。
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新チームリーダー等の紹介
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小学生を対象に「冬休み理科体験学習」を開催
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当研究所は、和光まちづくりNPOセンターと共同で12月22日、小学4〜6年生を対象に「冬休み理科体験学習」を和光キャンパスで開催しました。参加した小学生31名は、電子顕微鏡や光学顕微鏡を使って卵の殻やチョウの鱗粉(りんぷん)などを観察。また、簡単につくれるダチョウ型の二足歩行ロボットを組み立て、理科実験を楽しんでいました。この理科体験学習は、青少年の科学に対する関心を高めることを目的として、今回初めて開催したものです。 |
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理研赤ちゃん研究員
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私たちの研究チームでは、言語の「韻律」と呼ばれる抑揚やリズムなどの特性を、子供がどうやって獲得していくのかを研究しています。近隣の赤ちゃんに「赤ちゃん研究員」として研究室に来てもらって、二つの音の弁別ができるかどうか、二つの音のうちどちらが好きかなどを調べる実験の被験者として協力してもらっています。昨年の2月から募集を始めた生後1ヶ月から5歳くらいを対象とした赤ちゃん・ちびっこ研究員の登録は、いまや1000人に近づく勢いです。理研にお勤めの方の赤ちゃんもたくさん協力してくださっているので、読者の中にもすでに参加してくださったご家族がいるかもしれません。理研の実験室に外から子供を連れてきて研究するというのは前代未聞のことだそうで、研究室のセットアップには気を使いました。まず研究室をつくる場所は、周りに危ない薬品やメス、注射器などを扱っている研究室のないところを探しました。どんなに気を付けているつもりでも、ちょっと目を離したすきに子供が、どこかの研究室に迷い込んでしまうことがあるかもしれないからです。子供は病院の雰囲気が苦手なので、長い廊下を通ったり途中で白衣を着た人とすれ違ったりすることのないところということで、和光キャンパスの情報基盤棟に決まりました。待合室の床には転んでも痛くないコルクを敷き、防音室と待合室の床を同じ高さにしてバリアフリー設計にしたりしました。待合室や廊下にはかわいい絵やポスターを張って明るく楽しい雰囲気にすると同時に、床や壁、家具は汚れても掃除がしやすいものを選んで、子供が何かをこぼしたり、ベタベタした手で触ったりしても気にしなくてもいいようにしました。 赤ちゃん研究員の募集も最初は大変でした。和光市近辺は都心から便利な場所で、近くに団地やマンションも多く、子育て中の若い夫婦が多いところです。赤ちゃんを連れて研究室に来てもらうのには、都心過ぎても田舎過ぎても不便なのでちょうど良い場所なのですが、理研は物理や化学の研究をしているところというイメージがあり、近所のお母さんたちが気楽に来てくれるかどうか不安もありました。でも和光市役所の協力を得ることができ、赤ちゃん研究員募集の案内を広報に出したり、保健センターで行われる乳児の定期健診のときに募集の案内を配らせてもらえることになり、だんだんと登録者も増えてきました。朝霞市の広報は反響が大きく、案内が出るとその日から、しばらくひっきりなしに電話がかかってきました。練馬区や板橋区は、住民以外からの案内は広報に載せてくれないのですが、つてを頼って区内の病院の産婦人科の先生を紹介してもらい、産科と婦人科の待合室にポスターを張らせてもらうようなこともしています。口コミも有効で、一度来てくれたお母さんが別の実験にまた来てくれたり、お友達や近所のお母さんを紹介してくれるケースもたくさんあります。 最近では、週に30人ぐらいの赤ちゃんをテストするようになりましたが、良いデータを取るのには赤ちゃんに気持ちよく実験に参加してもらうことが一番大事だということがよく分かってきました。スタッフもいろいろ工夫して赤ちゃんに気持ちよく研究に参加してもらえるように努力しています。「また声をかけてください」と言ってくださるお母さんたちの言葉が一番うれしいというのが、直接赤ちゃんやお母さんと接しているスタッフの感想です。今後も頑張って、「理研赤ちゃん研究員」を増やしていきたいと思います。身近に赤ちゃんのいる方、一度参加してみませんか? ■ ※赤ちゃん・ちびっこ研究員の募集については下記URLを参照ください。 http://www.brain.riken.jp/labs/langdev/index.html |
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