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膜輸送研究の新展開
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メラニン色素の輸送メカニズムを解明
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「メラニン輸送、仕組み解明。白髪予防など応用期待」、「メラニン色素の運搬仲介役解明。美白維持、白髪抑制に効果!?」といった見出しが、2004年11月15日の新聞各紙を飾った。
福田独立主幹研究ユニットの福田独立主幹研究員と黒田垂歩(たるほ)基礎科学特別研究員による研究成果が大きく報じられたのだ。「こんなに反響があるとは思いませんでしたね。記事を見た化粧品メーカーからの問い合わせがとても多くて、驚きました」と語る福田独立主幹研究員のもとには、現在も共同研究や講演の問い合わせが数多く寄せられている。 メラニン色素とは、皮膚や毛髪を黒くしている色素である。有害な紫外線から細胞を守っている一方で、日焼けやしみ、そばかすの原因にもなる。メラニン色素は、皮膚の内側や毛髪の付け根にあるメラノサイトという特別な細胞だけでつくられる(図1)。メラノサイトの核周辺でつくられたメラニン色素はメラノソームに貯蔵され、微小管とアクチン線維に沿って細胞膜へと運ばれていく。そして、隣接するケラチノサイトという皮膚の細胞や毛髪の毛母細胞にメラニン色素が受け渡されて、初めて皮膚や毛髪が黒くなる。顕微鏡を使えば容易に観察できるので、メラノソームがメラノサイトの中を動くことは古くから知られていたが、そのメカニズムはこれまで分かっていなかった。福田独立主幹研究員らは、メラニン色素の輸送メカニズムを分子レベルで解明したのである。 世界中から注目されている福田独立主幹研究員だが、「色素の分野で私のことを知っている人はまずいません。急に出てきた人、という印象を持たれていることでしょう」と笑う。「私の研究のバックグラウンドは、神経伝達物質の放出なんですよ」。福田独立主幹研究員は、理研脳科学総合研究センターで神経伝達物質の放出メカニズムの研究を行っていた。神経伝達物質の放出とメラニン色素の輸送が、どのようにつながったのだろうか。 ![]() |
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神経伝達物質からメラニン色素へ
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私たちの体は60兆個もの細胞でできている。それぞれの細胞の中には、膜で包まれた多様な小器官がある。核やゴルジ体、小胞体などだ。これらを「オルガネラ」と呼び、メラニン色素を合成・貯蔵するメラノソームもその一つである。オルガネラの間では、物が膜に包まれて運ばれ、情報交換が行われている。これを「膜輸送」と呼ぶ。膜輸送の中でも、細胞膜の外に物を運ぶ場合は「分泌」という。神経伝達物質の放出も分泌の一つだ。
「細胞の中には多様なオルガネラがあり、それぞれが膜輸送を行っています。膜輸送を秩序正しく行い、情報交換が正しく行われることは、生命にとってとても重要です」と福田独立主幹研究員は語る。「膜輸送が秩序立って行われるためには、交通整理人が重要。私は、神経伝達物質の放出を制御している重要なタンパク質であるシナプトタグミンに焦点を当て、研究を続けてきました。そして神経系以外でも膜輸送を制御しているタンパク質があるのではないかと考え、シナプトタグミンに構造が類似しているタンパク質を探していたのです。その結果、Slp(スリップ)(Synaptotagmin-like protein)とSlpに類似したSlac(スラック)2(Slp homologue lacking C2 domains)のファミリーを発見しました。この発見が、メラニン色素の輸送の研究につながったのです」。ヒトではSlpファミリーは5種類、Slac2ファミリーは3種類見つかっている。 しかし発見当初、研究がどう進んでいくかはまったく見えていなかったという。「Slpはシナプトタグミンに似ているだけで、機能は何も分かっていませんでしたから。SlpとSlac2がRab(ラブ)27Aというタンパク質と結合することが分かって、一気に研究が加速したのです」 福田独立主幹研究員はまず、SlpとSlac2がどのタンパク質と結合するか調べた。どちらも低分子量Gタンパク質と結合しそうな領域を持っている。そこで注目したのが、Rab(ラブ)という低分子量Gタンパク質だ。Rabには活性化型と不活性型があり、活性化型にはタンパク質(エフェクター分子)が結合し、膜輸送において重要な役割を担っていることが知られている。ヒトには約60種類のRabがあり、それぞれ結合するタンパク質が異なり、それぞれ固有の膜輸送をつかさどっている。 「SlpとSlac2が、60種類のどのRabに結合するかは分かりません。だったら、全部試してしまおう。そう思ったのです。体育会系ですねと言われるのですが、1個1個コツコツやっていけば結果的には早く終わるものです」 その結果、Rab27Aに結合することが分かった。2001年末のことだ。「Rab27Aの遺伝子は、Griscelli(グリセリ)症候群の原因遺伝子であることが2000年に明らかにされています。Rabの中で遺伝性疾患との関連が分かったのは27Aが初めてだったこともあり、とても注目されていたタンパク質だったのです」 Griscelli症候群とは、肌や毛髪の色素が減少するために白くなる色素異常や免疫疾患、神経疾患などを起こす遺伝性の疾患である。世界で50例ほどしか報告されていない。 「Rab27Aの下流で、どのタンパク質がどのように働いているかを詳しく調べることで、皮膚や毛髪を黒くするメカニズムが分かります。その結果が、Griscelli症候群の治療だけでなく、美白や白髪防止にもつながったら面白いですよね。そう考え、2002年の独立主幹研究員制度に応募し、独立主幹研究員としてユニットを編成して、Griscelli症候群の病態解明を目指した研究を始めました」 |
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2種類のエフェクター分子による連携
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福田独立主幹研究ユニットでは、Rab27AとSlpファミリーのSlp2-a、Slac2ファミリーのSlac2-aがメラノソーム上に存在し、メラニン色素の輸送に関与していることをまず明らかにした(表紙上段)。そして2004年、冒頭で紹介したように、メラニン色素の輸送メカニズムを分子レベルで解明することに成功した(図2)。
「Rab27Aは“宅配便の荷札”だと思っていただければいいでしょう」と福田独立主幹研究員は説明する。「メラノソームという“荷物”に“荷札”のRab27Aが付いている。さらに、モータータンパク質の一つであり“トラック”の役割をするミオシンVaと、“運転手”のSlac2-aが結合しています。メラノソームに3種のタンパク質が結合し、アクチン線維という“道路”を走っていくのです。細胞膜の近くまでくると、“宅配人”であるSlp2-aに“荷物”が渡される。そして“宅配人”は、“荷物”を細胞膜に届けるのです」 これまで、1種類のRabに対してエフェクター分子が複数見つかることもあったが、どのように使い分けているのかはまったく分かっていなかった。福田独立主幹研究員らは、1種類のRab27Aが2種類のエフェクター分子Slac2-a、Slp2-aを連続的に使っていることを、世界で初めて明らかにしたのだ。 この成果は、美白や白髪の予防などにも応用が期待されている。「現在の美白剤は、メラニン色素の合成を抑えるものがほとんどです。今回の成果は、メラニン色素の輸送が、美白の新しいターゲットとして使える可能性を示したといえるでしょう。化粧品メーカーとの共同研究の話も出ています」 だが、メラニン色素の輸送のメカニズム解明には、まだ課題が残されている。「メラノソームが微小管の上をどのように運ばれるのか、ケラチノサイトや毛母細胞にメラニン色素がどのように受け渡されるのか、そこを明らかにしなければなりません。私は、27A以外のRabが働いている可能性も十分あると考えています」 福田独立主幹研究員は「Rab27A、Slp、Slac2は今、世界的にとてもホットなテーマです」と言う。「これらが、疾患やメラニン色素の輸送だけでなく、内分泌系のホルモン、外分泌系のアミラーゼ、免疫系の顆粒の分泌制御にもかかわっていることが私たちの研究から分かり、世界中の研究者が注目しているのです。これから一段と競争が激しくなっていくでしょう」 では、福田独立主幹研究ユニットは、どのような戦略で研究を進めようとしているのだろうか。「多くの研究者がRab27Aの機能に注目しているのに対して、私たちはエフェクター分子から見ていこうというスタンスを取っています。私たちは、60種類のRabについてエフェクター分子を網羅的に探索できるシステムを構築しつつあります。まだ詳しくはお話しできませんが、このシステムができたら膜輸送の研究が一変しますよ」
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高等生物ゆえの膜輸送に迫りたい
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Rabは、酵母からほ乳類まですべての真核生物にあるが、数が違う。ヒトは約60種類だが、出芽酵母は11種類しかない。その理由を福田独立主幹研究員はこう説明する。「ヒトは、多細胞であるがゆえに特殊な膜輸送が必要なのでしょう。11番目以前の酵母からヒトまで保存されているRabは、細胞が生きていくために最低限必要な膜輸送に関与すると考えられます。12番以降、特に後半は細胞同士がコミュニケーションを取ったり、高等生物として生きていくために重要な機能をつかさどっていると考えられます。私たちも、まだあまり手が付けられていない12番以降のRabを詳しく調べていく準備を進めています。きっと、膜輸送について新しい世界が見えてくることでしょう」
そして、その先の展望をこう語った。「受精や発生でも、膜輸送は重要な役割を果たしています。膜輸送という観点から生命現象にアプローチする新しい分野を切り拓いていけたら面白いですね」 ■
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ゲノムの常識を覆す“RNA大陸”を発見!
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完全長cDNAで欧米に挑む
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1995年、林
まず、cDNAとは何かを説明しよう。そもそも遺伝情報はDNAにあるアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)という4種類の塩基の並び方で書かれている(図1)。DNAは2本の鎖が、AはTと、GはCとに相補的に結び付き、二重らせん構造をつくっている。そのDNAの一部分に、タンパク質をつくる情報が書かれた遺伝子がある。遺伝子が発現するときには、DNAの二重らせんがほどけて、一方の鎖の塩基配列と相補的なRNAがつくられ、情報が読み取られる(転写)。その後RNAの一部が切り取られて(スプライシング)、エクソンと呼ばれる部分がつながってmRNAがつくられる。そのmRNAの情報に基づきタンパク質がつくられる(翻訳)。cDNAとは、mRNAの情報を、化学的に安定で大腸菌のような宿主内で複製増幅できる扱いやすいDNAに人工的に写し取ったものである。 「米国が中心となって解読を始めたヒトゲノムは約30億塩基対から成りますが、実際に情報として読み取られるのは、2%ほどに過ぎないと考えられていました。しかもゲノムの塩基配列を解読しただけでは、どの領域がRNAに読み取られ、それがどのような順番でつなげられて成熟したmRNAになるのかは、分かりません。それを知るにはcDNAを取って調べるしかないのです」 ただし1995年当時、mRNAの端から端までの全長を、cDNAに写し取る技術は確立されていなかった。情報が途中で切れてしまったcDNAの断片しかつくることができなかったのだ。そこで林 「目指したのは“マウスゲノム百科事典”です」。それは、マウスのあらゆる完全長cDNAを取得してその塩基配列を解読し、さらにその機能を解析して注釈を付けたデータベースである。なぜヒトではなく、マウスなのか。「完全長cDNAを取るには、mRNAが必要です。あらゆるmRNAを集めるには、受精卵に始まる各発生段階のさまざまな組織の細胞からmRNAを集める必要があります。それにはヒトでは制約があるので、マウスがよいと考えたのです」。ヒトにある遺伝子や病気のほとんどはマウスにも存在する。マウスの完全長cDNAのデータベースは、生命科学や医学の重要な研究基盤となるのだ。 ![]() |
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マウスゲノム百科事典
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林
「塩基配列を解読する技術は日進月歩ですが、完全長cDNAの技術はいまだに日本の生命科学の強みになっています」。例えば、日本では2002年から理研が中心となって重要なタンパク質の構造と機能を大量に調べる「タンパク3000プロジェクト」が進められ、タンパク質の研究で世界をリードしているが、これはタンパク質を合成できる完全長cDNAの技術とデータの蓄積があって初めて可能になった。 さらに林
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ゲノムネットワークの解明
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林
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“RNA大陸”の衝撃
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さて、ここからがゲノムの常識を覆した今回の研究成果である。2002年に公開した約6万個の完全長cDNAのデータベースから、タンパク質をつくらないRNA(Non-coding RNA:ncRNA)がたくさん見つかった。「従来、ncRNAは100個くらいしか知られていませんでした。それをはるかに超える大量のncRNAが見つかったのです。いわば“RNA大陸”といえると思います。この発見から私たちの研究は急進展を見せました」。今回発表したデータでは、ncRNAは2万3000個以上あって、これは収集されたRNA全体の53%を占めるが、研究の進展によりその割合がさらに増える傾向にある。「私の推測ですが、私たちがまだ収集していないRNAをすべて含めると、ゲノムから読み取られるRNAは100万種類ほど、そのうちタンパク質をつくるものは10分の1から8分の1程度で、大部分がncRNAなのかもしれません」。それではncRNAは細胞の中で何をしているのか。
2002年、米国の科学雑誌『Science』は、その年のトップニュースにRNA干渉(RNA interference:RNAi)の発見を選んだ。RNA干渉とは、特定の遺伝子の機能だけを阻害できる画期的な技術である。阻害したい遺伝子がつくるmRNAと相補的な塩基配列を含む二重鎖RNAを細胞に注入すると、目的のmRNAに結合して、特定のタンパク質の合成だけを阻害できるのだ。 「RNA干渉は人が発明した技術ですが、自然はすでに同じメカニズムを生体の中で利用していたのです」。完全長cDNAデータベースから見つかったncRNAの中に、タンパク質をつくるRNAと相補的な配列を持つncRNAがたくさん見つかったのだ。「従来、私たちが注目していたタンパク質の情報が書かれたDNAの鎖とペアを組む、反対側の鎖も読み取られていたのです」。そこからできたRNAがどのように働くかは未知であるが、RNA干渉と同じ仕組みでタンパク質の合成を阻害するという機構も考えられる。現在ではRNA干渉以外にも、ncRNAが核にあるDNAに作用して、核で働くタンパク質を通じて発現を抑えたり、促進したり、あるいはDNAの一部を切り取ってゲノムを組み換えてしまう働きを持つことが解明された。ncRNAのかなりのものが、このような働きを持つ「機能性RNA」らしい。 さらにゲノムの常識を覆す事実が判明した。ゲノムのうち、RNAに読み取られている部分は約2%と予想されていたが、実際には約70%が読まれていることが分かった。「ゲノムの大部分はジャンク(がらくた)だといわれてきましたが、そうではなかったのです」 ゲノムは、さまざまな読まれ方をしていることも分かった。遺伝子領域の途中などさまざまな個所から読み始められ、多様なスプライシングのされ方で切り取られ、たくさんの種類のmRNAがつくられていたのだ。従来、遠く離れた別々の2個の遺伝子だと考えられていた領域を横断して読んだRNAも発見された。 「こうなると、遺伝子の数はいくつかという問題は、あまり意味がなくなってきます。例えばハエの遺伝子は約1万数千個、ヒトのは約2万2000個とあまり違いません。ではなぜヒトは高度な機能を持つのか。ゲノムがさまざまな読み方をされて、一つの遺伝子領域からたくさんの種類のタンパク質がつくられ、さらにRNAが中心になってDNAの働き方を高度に制御しているからだと考えられます。複雑な高等生物の体をつくり、高度な機能を発揮させるには、DNAの働き方を極めて精密にコントロールする必要があるのです」 発見されたばかりの“RNA大陸”は未開の大陸である。今後、RNAの機能をさらに解明するとともに、ゲノムネットワークの中でのRNAの働きを解明していく必要がある。それは病気の克服に非常に重要である。病気の原因遺伝子と相補的な配列を持つncRNAがたくさん見つかっているからだ。例えば、そのようなncRNAがきちんと働いて原因遺伝子によるタンパク質の合成を阻害しているからこそ、細胞が正常な状態を保っている場合もあるだろう。実際に、ncRNAの変異が病気の原因となっている例も発見され始めた。 「受精卵に始まる発生から、誕生、成長、老化に至る一生の各段階の全細胞において、ゲノムがどのように読まれてRNAがつくられ、それがDNAやタンパク質とどのような機能ネットワークをつくっているのか。それを時間を追って調べる“動的システムバイオロジー”の研究プロジェクトを、いずれ始める必要があります(表紙下段:研究グループが開発した、遺伝子の発現を見る3Dビューアー。発現しているステージ、組織、遺伝子座位、発現量の四つのパラメーターを一度に見ることができる)。ただし、それには膨大なデータ量を扱えるスーパーコンピュータが不可欠です」。林 |
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創薬・診断に革命をもたらす分子イメージング
渡辺恭良チームリーダーに聞く |
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生命科学の成果を医療につなげる
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――今なぜ分子イメージング研究が必要なのですか。
渡辺:ゲノム科学やタンパク質研究の進展により、病気に関係する遺伝子やタンパク質がたくさん見つかってきました。しかし、それらが実際のヒトの体の中でどのように働いているのか、実はよく分かっていません。これまでは、例えば体から遺伝子やタンパク質を取り出して、培養細胞の中でその機能を調べる研究が行われています。しかし培養細胞と体の中では環境や発現量が懸け離れています。生命科学の研究成果を診断や創薬へ結び付けるには、遺伝子やタンパク質などの生体分子、あるいはその働きを制御する薬の分子が、ヒトの体の中でどのように働いているのかを画像化して定量化する分子イメージングの研究が不可欠なのです。 |
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がんの早期発見、最適治療を可能に
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――どのようにして体の中の様子を見るのですか。
渡辺:PET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影装置)が分子イメージングの重要な手段の一つです。PETは、ターゲットとなる細胞や分子の位置、変化などを追跡するために微量の放射性同位体を付けた物質(トレーサー)を投与し、そのトレーサーから放出される陽電子が周囲の電子と衝突して発生する光(ガンマ線)をとらえる装置です。例えば、PETがん検診では、グルコースに放射性同位体を付けたFDG(フルオロデオキシグルコース)と呼ばれるトレーサーが用いられています。増殖を続けるがん細胞は、エネルギーとしてグルコースをたくさん取り込むので、その様子をとらえてがん細胞を見つけるのです。従来のX線CTによるがん検診では、2000人中1人にがんが見つかるかどうかという精度でしたが、最新のPETがん検診では、2000人中10人程度にがんが発見されています。それだけ初期のがんを発見できる精度が高いのです。 ――分子イメージングの研究によって、今後、がん検診はどのように変わりますか。 渡辺:FDGの問題点は、第一に、発見したがん細胞の種類や悪性の度合いが分からないこと、第二に、化学療法などで腫瘍(しゅよう)が小さくなっても炎症が起きたところにグルコースが取り込まれるので画像を見ても治療効果がよく分からないこと、などです。ある種のがん細胞だけが発現する遺伝子やタンパク質に結合するトレーサーを開発すれば、がん細胞のより早期の発見、がんの種類や悪性の度合いの判定、さらに早期の治療効果も分かります。現在は何ヶ月もしないと治療効果が分からない場合がありますが、効果がないとすぐに分かれば、最適の治療法へ切り替えていくことができます。もちろん分子イメージングはがん以外の病気の診断にも有効です。 |
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創薬の効率を飛躍的に向上させる
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――創薬はどのように変わるのでしょうか。
渡辺:現在、約1万1000種類の薬候補分子をテストして、やっと一つの薬を商品化しています。一つの薬の開発には約10〜15年という長い年月と、260億〜360億円という膨大なコストがかかっています。私たちは分子イメージングの研究により、テストする候補分子を早期に数百に絞り、開発期間を7〜10年と短縮することを目指しています。 現在は、テストの最終段階であるヒトの臨床試験になって初めて副作用や薬効の問題が見つかるケースも多いのです。それは、臨床試験に至るまで、ヒトとは条件が異なる小動物でほとんどのテストを行っているからです。小動物はヒトよりも代謝がとても速いので、薬を投与してもすぐに分解されて副作用が表れない場合があります。 もし、テストの早い段階で、薬候補分子に放射性同位体を付けてヒトの体の中でその働き方を調べることができれば、創薬の効率を飛躍的に向上できます。例えば病気の原因となる標的タンパク質に結合してその働きを抑える薬をつくる場合、投与した薬が標的タンパク質に到達して、きちんと結合しなければいけません。しかし薬の多くが腎臓や肝臓へたまって副作用を起こす場合があります。分子イメージングによって薬の行き先を追跡できれば、腎臓や肝臓へ行かず確実に標的タンパク質に到達して結合する分子を選んだり、分子構造を実証的に変えていくことが、はるかに容易になります。また、どのくらいの量の薬が標的タンパク質に結合すれば症状を改善できるか、といったことも調べることができます。分子イメージングにより、副作用が小さく、少量で薬効が高い薬を効率的に探索していくことと個別治療が可能になるのです。 |
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オールジャパンの研究体制
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――日本の分子イメージング研究の現状は。渡辺:現在、新薬の70%が外国製であり、さらに欧米では分子イメージングの研究に政府や企業が大規模な予算をつけ、巨大製薬企業も盛んに独自路線で研究しています。日本は立ち後れている状況です。 ――日本は遅れを取り戻せますか。 渡辺:優れたトレーサーをつくるには、化学の力が必要です(図2)。日本の化学は世界トップの実力があります。また生命科学・医学でも素晴らしい研究がたくさん行われています。装置を開発する技術力も高い。ところが、それらの力を統合してシステムを築き上げていくことが、うまくいっていません。そこで、理研に「分子イメージング研究プログラム」を立ち上げ、ここを拠点にさまざまな研究分野を融合して、多くの企業や大学と共同研究を行うオールジャパンの研究体制を築くとともに、臓器間の分子のやりとりなど、全身にわたる分子の動きを追跡できる人材の育成を進めることにしたのです。 ――どのような技術開発を行うのですか。 渡辺:実は現在、調べたい重要な分子の1%もイメージングができていません。またPETでは複数の分子を同時にイメージングすることもできません。トレーサーからは同じエネルギーのガンマ線が発生するので、分子を区別できないのです。体の中では、さまざまな分子がくっついたり離れたりしながら機能を発揮し、生命現象を実現しています。生命科学者なら誰でも、すべての分子が動いている様子を見てみたい。それを見ることができれば、生命現象や病気のメカニズムを深く理解し、優れた薬もつくれます。私たちはPET以外の方法論も融合した次世代の「複数分子同時イメージング」も目標の一つに掲げています。これは、ほかのどの国も掲げていない、日本独自の技術です。 |
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不登校・引きこもりの治療にも貢献
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――渡辺チームリーダーは、慢性疲労の研究をされてきましたね。
渡辺:慢性疲労症候群は、診断基準を満たす人が国民の0.3%、似た症状の人を含めると3%にも上ります。不登校児や引きこもりの子供の70%は小児型の慢性疲労症候群です。夜寝る時間が遅く、十分な睡眠が取れないまま朝学校へ行くことで慢性的な時差ぼけ状態が続き、慢性疲労になってしまいます。疲労や意欲に関係する生体分子が分かってきましたので、分子イメージングでメカニズムを探り、創薬や治療法の一刻も早い確立を目指したいと思います。■ |
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イネの収量を決定する
重要遺伝子を同定 「第2の緑の革命」につながる世界初の成果 2005年6月24日、文部科学省および名古屋大学においてプレスリリース |
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――今回の研究で得られた「コシヒカリ」について説明してください。
榊原:イネは茎が細いため、実る米粒が増えると倒れやすくなります。この欠点を補うため、実る米粒を増やすと同時に、背丈を低くする必要があります。今回、コシヒカリに「ハバタキ」というインディカ種を5回掛け合わせる交配を行い、収穫量や背丈を決める遺伝子だけをハバタキの遺伝子に置き換えることに成功しました。遺伝子を置き換えたコシヒカリを栽培したところ、普通のコシヒカリに比べ収量が約20%増加し、背丈が約18%低いものとなりました。 ![]() |
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――「遺伝子組み換え」と「交配」の違いについて教えてください。
榊原:ある生物のDNAから特定の遺伝子を人工的に分離し、別の生物のDNAに結合させて有用な生物をつくり出すのが「遺伝子組み換え」です。自然界では起こらないような異種生物間の遺伝子組み換えもできます。一方、「交配」は受精や受粉によって生体内で自然に起こる遺伝子組み換えを利用して、優れた品種を得るこれまでも取られてきた方法です。遺伝子組み換え植物は、自然界で存在しないものがつくり出される懸念から、法律で野外での栽培が規制されています。 |
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――交配したコシヒカリの“味”はどうですか。
榊原:コシヒカリそのものと思いました。数値として確認したわけではないので、まったく同じ味とは言い切れません。ただ、収量と背丈以外はコシヒカリの特徴がそのまま残っています。イネは長年の人の手による育種過程の中で、耐病性や環境耐性などにかかわる遺伝子を失ってしまっている可能性があります。今回と同じ手法で、野生のイネの遺伝子を交配で導入すれば、乾燥や病気、塩害に強い、味も本物とまったく同じ「スーパーコシヒカリ」をつくることも可能となります。 |
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――ハバタキにコシヒカリを交配させることは考えなかったのでしょうか。
榊原:そのアイデアも考えましたが、私は日本人なのでコシヒカリにこだわりました。従来種は、1株で取れる米粒はご飯茶碗1杯分にもなりません。それに対して今回のものでは1株で約2500粒、ご飯茶碗大盛り1杯分のコシヒカリを収穫できます。 |
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――今後期待することは何ですか。
榊原:3大穀物のイネ・トウモロコシ・ムギで人類の食糧エネルギーの50%を供給しています。トウモロコシやムギはイネと遺伝子配列が近いことから、今回の手法はこれらにも応用できると考えられます。2050年には世界人口は89億人に達すると予測され、人口増加による食糧不足が懸念されています。今回の成果を応用・発展させて収量増加を図り、世界的な食糧不足を解消できればと思います。■ |
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新チームリーダー等の紹介
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「技術移転懇話会(RIKEN Techno Conference 2005)」開催のお知らせ
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理研知的財産戦略センターは11月に企業の技術開発部長などの技術導入責任者や経営者を対象として、「技術移転懇話会」を開催します。本懇話会は理研の研究者自らが最新の研究成果や今後の研究計画を紹介し、企業への技術移転促進として共同研究や特許ライセンスの促進を図り、産業界との交流をいっそう広めることを目的としています。今回の技術移転懇話会は一般的な講演会ではなく、事前登録された企業と直接、発明者・研究者が面談して最新の特許技術、研究成果、今後の研究計画について説明する「商談」形式で行います。理研の研究成果、特許技術、理研との連携に関心のある企業関係者の参加をお待ちしております。 |
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「里庄セミナー」が開催される
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第14回理化学研究所里庄セミナー(主催:理化学研究所、科学振興仁科財団)が8月20日、仁科芳雄博士の生誕地である岡山県里庄町の仁科会館で開かれました。同セミナーは、青少年の科学に対する関心を高めるとともに、仁科博士の故郷である岡山県内の企業や研究機関との交流を図ることを目的に、1992年から毎年行われています。今年は、理研フロンティア研究システムの森田浩介先任研究員(GARIS開発チーム)が「新元素(113番元素)の合成」と題して講演。また「仁科芳雄博士の足跡をたどる旅」と題して、里庄中学校3年の生徒9名が、仁科博士のゆかりの地である理化学研究所、コペンハーゲン大学(デンマーク)、ケンブリッジ大学(英国)などを訪問した研修の報告をしました。高校生からお年寄りまで約160名が訪れ、盛況のうちに幕を閉じました。 |
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播磨研究所、住所変更のお知らせ
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理研播磨研究所の住所が10月1日より、下記の通り変更になります。 〒679-5148 兵庫県佐用郡佐用町光都1丁目1番1号 |
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Pタンパク質にまつわる逸話
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3年前(2002年)の春、私は基礎科学特別研究員の最終年を迎えていた。主要な研究課題の一つであるPタンパク質の立体構造解析は、X線の回折実験に使える結晶を2年がかりで得たところであった。しかし、結晶化の再現性が低いという欠点があった。同条件で調製したはずの試料が、結晶になる場合とならない場合がある。さらに悪いことに、結晶化の可否が判明するのは、試料調製から1ヶ月以上も後である。その調子では任期中に構造解析を完了できない公算が大きかった。しかし、すでに2年もの時間を割き、出現率が低いとはいえ「使える」結晶は得ていたので、意地でも自分がこの構造を解いてやるという気持ちになっていた。 1年後の2003年4月、幸運にも日本学術振興会の特別研究員※に採用された私は、引き続きそれまでの実験を継続できることになった。5月、米国C大学のD. K. 教授らによる「植物の病原誘導性の一酸化窒素(NO)合成酵素はPタンパク質の変異型」という論文が『Cell』に掲載された。『Cell』といえば、生命科学分野では『Nature』、『Science』と並ぶ影響力の大きい雑誌である。自分が構造を決定すればNO合成酵素についても何か分かるかもしれない! しかし、浮かれてばかりもいられなかった。大学のプレス発表のWebページによると、彼らはすでに学内のB. C. 助教授とともに立体構造を決定する作業を行っているという。B. C. 氏といえば、『Science』の3報をはじめ一流誌にいくつも論文を発表している結晶学者である。急がないと先を越されてしまう! さらに1年後の2004年4月、まったく新しい結晶化条件を見つけ再現性よく結晶を出すことに成功した私は、SPring-8で回折実験を開始した。5月、D. K. 氏らが前年の論文の続報を『米科学アカデミー紀要(PNAS)』に発表した。幸いにも立体構造の論文ではなく、私は安堵した。結晶の量産ができれば、構造決定は容易であった。6月、水銀修飾を施した結晶から決定的な回折データが得られ、Pタンパク質の分子構造モデルの構築に成功した。8月、播磨研究所で開かれた研究会(写真)で、初めてPタンパク質の立体構造を発表することができた。 同年11月、私は論文の仕上げに入っていた。Pタンパク質の立体構造を解明したことにより、ヒトの高グリシン血症の発症機構はうまく説明できた。しかし、NO合成酵素については妥当な説明ができなかった。そんなとき、『Science』に衝撃的な記事が掲載された。タイトルは、「NO-Making Enzyme No More」。D. K. 氏らが見つけたNO合成酵素は存在せず、『Cell』と『PNAS』の論文が取り下げられたという内容であった。取り下げ理由は実験結果を再現できないためというが、両方の論文の筆頭著者だけが取り下げに同意していないという。この騒動の詳細についてはよく分からないが、私としてはただ拍子抜けであった。私は、自分の論文からNO合成酵素に言及した一文を削除し、論文を投稿した。2005年3月、Pタンパク質の最初の立体構造として『EMBO Journal』に発表することができた。結局、2年目の意地を通すのに、さらに3年もかけてしまったが、独り相撲を取ったおかげで少しは早く仕事を終えられたのかもしれない。 ■ ![]() ※基礎科学特別研究員と同様、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念できる制度。 |
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