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研究最前線
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SPOT NEWS
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記念史料室から
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原酒
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高温超伝導から電子複雑系科学へ
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19年前、高温超伝導物質の発見が本当であることを確かめ、世界の超伝導フィーバーのきっかけをつくったその人が、高木主任研究員である。
超伝導とは、物質の電気抵抗がある温度(転移温度)以下で急にゼロになる現象である。1911年、水銀が4K(−269℃)で超伝導になることが発見されて以来、高価な液体ヘリウムなどで極低温に冷却しなくても利用できる、転移温度がより高い物質が探し続けられてきた。しかし70年後の1980年代になっても、超伝導は電気を通しやすい金属や合金でのみ観測され、転移温度の最高は23K(−250℃)という極低温のままだった。 1986年、IBMチューリッヒ研究所のJ. G. Bednorz(ベドノルツ)博士とK. A. M 「私自身も酸化物の超伝導を研究していたのですが、最初はBednorz博士たちの実験結果については半信半疑でした。電気を通しにくい酸化物が30Kという高温で超伝導を示すというのは、当時としては常識外れ、にわかに信じろという方が無理です。しかし実際に自分でその物質をつくり、極低温から少しずつ温度を上げながら最新の装置で計測してみると、当時の最高記録23Kを超えてもまだ超伝導状態が続いています。“これは本物だ。やっぱり自然はすごい!”と感動しました。研究をしていてあんなに興奮したことは、いまだかつてありません」 高温超伝導物質の発見がいかに画期的だったかは、Bednorz博士とM ![]() |
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高温超伝導は従来の理論では説明できない
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金属では、原子から一部の電子が離れてプラスの電気を帯びたイオンが整然と並んで結晶格子をつくっている。その格子の間を原子から離れた電子が自由に動き回っている。そこに電圧をかけると電子が一方向へ動きだして電気が流れる。ただし、ばらばらに動き回っているマイナスの電子が動くとき、プラスの電気を帯びた結晶格子の振動や不純物に邪魔される。これが電気抵抗である。
金属に起きる超伝導のメカニズムは、1957年にJ. Bardeen(バーディーン)、L. N. Cooper(クーパー)、J. R. Schrieffer(シュリーファー)の3博士が理論的に矛盾なく説明して、1972年のノーベル物理学賞を受賞した。その理論は、3博士の名前の頭文字をとって「BCS(ビーシーエス)理論」と呼ばれる。BCS理論によると、金属をある温度以下にすると、ばらばらに動き回っていた電子が結び付いてペア(クーパー対)を組む。すると電子全体が一つの波のようにまとまって動く量子力学的な振る舞いを見せ、不純物などに邪魔されずに電気が流れるようになる。これが超伝導だ。 電気的に反発し合うはずの電子同士が、どのような力で結び付いてペアを組むのか? マイナスの電子が動くとプラスの結晶格子が引き付けられて振動し、プラスの電気が強い場所ができる。そこに別の電子が引き付けられる。こうして電子のペアができるとBCS理論は説明する。「ただし、このような電子による格子の振動で弱く結び付けられた電子ペアができるのは、極低温に限られます。BCS理論は、転移温度はせいぜい30Kくらいが上限だと予想していました。あまり格子と電子の結び付きが強いと結晶そのものが不安定になってしまうからです」 ところが1986年以降、30Kをはるかに超える銅酸化物の高温超伝導物質が次々に発見され、現在の最高記録は160K(−113℃)にまで達している。電子と格子の相互作用に基づくBCS理論では、高温超伝導のメカニズムは説明できないのだ。 高温超伝導でも、電子がペアをつくっていることは、すでに実験で明らかになっている。30Kを超える高温で、どのような力で電子が結び付いてペアができるのか、それが高温超伝導の最大の謎だ。 高温超伝導を引き起こす銅酸化物にも、原子から離れて移動できる電子は存在している。しかし電子が隣の原子へ移動しようとすると、電子が動ける軌道が狭いため、もともとそこにあった電子と接近し過ぎて電気的な力ではじかれてしまう。「電子が反発し合って、自分の縄張りで立ち止まっているような状態です」。だからそこに電圧をかけても電気は流れない。この状態を「モット絶縁体」と呼ぶ。 しかし、そこに電子を抜き取った場所(ホール)をつくっていくと、電子同士は強く絡み合いながら、徐々に移動できるようになる。このような電子集団を、「強相関電子系」と呼ぶ。「強相関電子系では電子の集団は、ねばねばした液体のような状態になっています。高温超伝導は、このねばねばした電子集団に現れる現象の一種です。モット絶縁体から電子を抜いていくと、超伝導物質になるのです。さらに電子を抜いていくと、電子がさらさらと自由に動ける通常の金属の状態になります(図2)。このため、電子の絡み合いが高温超伝導を生み出していると、多くの研究者が考えています」 ![]() |
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高温超伝導の鍵を握る電子結晶を発見
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高温超伝導のメカニズムを解くには、すでに電子ペアができてしまった超伝導状態よりも、超伝導になる寸前に現れる「擬ギャップ相」と呼ばれる謎の状態に重要な鍵が秘められていると、世界中の高温超伝導の研究者は考えている。超伝導発現の準備段階で電子が何らかの秩序を示すのではないかと考えられ、さまざまな方法で擬ギャップの観測が行われてきた。しかし、電子状態を高解像度で直接観測することができず、「電子の隠れた秩序」は正体不明のままだった。
高木主任研究員と花栗哲郎先任研究員らは、米国のコーネル大学と共同で、走査トンネル顕微鏡(STM)により擬ギャップの電子状態の直接観測を目指した。STMの探針から試料表面へトンネル電流を流し、その流れやすさや、試料表面が放つ微弱な光を分光して電子状態を調べる。ただし、この方法で精度よく観測するには、試料の表面が原子スケールで平坦であることが必要だ。高温超伝導物質では1種類くらいしか適したものが知られていなかった。しかもその物質では、ホールの数を調節して擬ギャップ状態にすることができなかった。そこで高木主任研究員らは、オキシクロライドと呼ばれる表面を平坦にできる高温超伝導物質を探し出し、京都大学のチームと共同で擬ギャップ状態の単結晶をつくることに成功した。「オキシクロライドはあまり知られていない高温超伝導物質です。私は材料開発と物性研究の両方を進めてきたので、その計測方法に最も適した物質を選び、つくり出すことができます。現在でも、擬ギャップのオキシクロライドをつくれるのは、世界でも私たちだけです」 2004年、こうして高木主任研究員らは、ついに世界で初めて擬ギャップでの電子状態を直接観測することに成功し、「隠れた電子秩序」の正体を突き止めた。原子がつくる結晶格子の位置とは無関係に、電子密度の濃い山が並んで独自に結晶のような秩序をつくっていることを発見したのだ(図3・表紙)。「この電子結晶の溶けた状態が高温超伝導になるわけですが、結晶状態は電子が1個1個別々に規則的に並んでいるという人と、電子はこの状態ですでにペアをつくっているのだが自由に動けずに結晶として固まっているという人がいます。あるいはホールがペアになっていて、そのホールのペアが動けるようになると超伝導になるのだという説もあります。しかしどの説が正しいのかはまだ分かりません」 この電子結晶がどのようにしてできているのかを知るには、理研播磨研究所にあるSPring-8のような放射光施設を使って、物質内部の様子を詳しく観測する必要がある。「世界中の放射光グループから共同研究の誘いがありました。しかし、その観測は容易ではありません。この先に進むのはとても大変そうですが、物性物理学者のロマンである高温超伝導のメカニズム解明を、ぜひ私たちの手で成し遂げたいと思います」
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電子複雑系科学で新材料を生み出す
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ねばねばした液体のような状態の電子集団は、銅酸化物に限らず、遷移金属の酸化物や伝導性の有機物でも広く見られる。「金属の中をさらさらと自由に流れる電子に比べて、ねばねばした電子集団は互いに強く絡み合っているので、その振る舞いは複雑です。しかし複雑な分、面白い機能がたくさんありそうです。ちょっとした刺激にも敏感に反応して、電子が動きだしたり、結晶のように固まったりして、物質の性質ががらりと変わるのです。その一例が高温超伝導です」。わずかな刺激で物性が大きく変わる物質は、高性能のセンサーやメモリなどナノテクノロジーの材料として有望だ。
2005年4月、高木磁性研究室が中心となり、「電子複雑系科学研究推進グループ」を立ち上げた。「従来の無機物・有機物という分野の垣根を越えて、酸化物や有機物の研究グループとチームを組み、ねばねばした電子集団の複雑な振る舞いを探究し、新材料を生み出そうというプロジェクトです。例えば、超伝導体や熱電変換材料、電場をかけると磁性が変わる物質、磁場で結晶構造や誘電率、色が変わる物質など、従来にない機能を発揮する新材料を理研ブランドとして発信したいと考えています」 高木主任研究員の研究室から、世界中が騒然となる実験結果が再び報告されることだろう。■
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スギ花粉症の根治的治療薬を開発する
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スギ花粉症のメカニズムと治療の現状
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スギ花粉症の根治的な治療薬はいつできるのか? 誰もが知りたいことを、まず聞いてみた。「臨床試験などの審査がスムーズに進んだ最短の場合で5年」。それがアレルギー戦略研究ユニットを率いる石井保之ユニットリーダーの答えだ。一般的に医薬品の開発には10年かかるといわれることからすると、非常に早い。「花粉症の患者さんは年々増加し、根治的な治療薬の開発はまさに緊急の課題です。できるだけ短期間で、確実にゴールにたどり着かなければなりません」
まず、スギ花粉症の発症メカニズムを見てみよう(図1上)。スギ花粉の中には、アレルギーを引き起こすアレルゲン(抗原)がある。アレルゲンが体内に入ってくると、樹状細胞などの抗原提示細胞が取り込んで分解し、2型ヘルパーT細胞(Th2)にアレルゲンの情報を伝える。するとTh2が増加してインターロイキン4(IL-4)を出し、アレルゲンに特異的な抗体である免疫グロブリンE(IgE)を作るようB細胞に命令する。IgE抗体はアレルギーの原因物質で、マスト細胞の表面に結合する。IgE抗体がアレルゲンを捕らえると、マスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどが放出され、くしゃみ、鼻水や鼻づまりなどのアレルギー症状を引き起こす。 「スギ花粉症の治療薬としては現在、ヒスタミンやロイコトリエンなどの働きを抑えるものが使われています。それらによってアレルギー症状は何とか緩和できます。しかし、毎年スギ花粉が飛散する時期になると同じ症状を繰り返し、どんどん悪くなってしまうこともあります」。石井ユニットリーダーのこの言葉に、大きくうなずいた人もいるだろう。抗ヒスタミン薬などはアレルギー症状を抑える対症療法であり、体質が改善されるわけではないのだ。 実は現在、スギ花粉症の根治的な治療法が1つだけある。減感作(げんかんさ)療法だ。スギ花粉エキスを2〜3年にわたって低濃度から少量ずつ投与し、抵抗性を高めてアレルギー症状が出にくくするというものである。約60%の患者さんに有効性が認められたという報告もあるが、石井ユニットリーダーはこう指摘する。「減感作療法は、治療期間が長い上に、どういうメカニズムで治っているかまだ分かっていません。しかもアレルゲンをそのまま投与するので、全身の激しいアレルギー症状を引き起こす危険もあります」 石井ユニットリーダーらが目指すのは、効果が高く、安全で簡易、そして作用メカニズムが明らかな根本的な治療薬の開発である。「作用メカニズムが明らかな治療薬は、認可も早い。私たちには、無駄にできる時間はないのです。そして、発症メカニズムのできるだけ上流で、確実に止めることも重要です」 ![]() |
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自然免疫系を活性化する
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スギ花粉症の治療薬開発の戦略は、大きく2つに分けることができる。第一の戦略が、自然免疫系の活性化である。自然免疫とは、ウイルスやバクテリアに感染すると最初に応答するシステムである。生体内に侵入してきたウイルスやバクテリアを樹状細胞が取り込むと、1型ヘルパーT細胞(Th1)が増え、Th2を抑制することが知られている。一方、スギ花粉のアレルゲンを樹状細胞が取り込むとTh2が増え、IL-4を放出してアレルギー発症へと進んでいく。Th1を増やしてTh2を抑制することができれば、アレルギーの発症を抑えることができるのではないか。石井ユニットリーダーの狙いは、そこだ。
「バクテリアやウイルスに由来するCpGODNというDNA断片が、樹状細胞を介してTh1を増やす働きを持っていることが分かっています。阪口雅弘チームリーダー(ワクチンデザイン研究チーム)と共同で、CpGODNを使った治療薬の開発に取り組んでいます」 単にCpGODNを投与したのでは、すべてのTh2が抑制されてしまい、思わぬところで悪影響が出る可能性がある。そこで、阪口チームリーダーが発見したスギ花粉のアレルゲンの主要タンパク質であるCry j1とCry j2を、CpGODNに結合させて投与する(図2)。すると、スギ花粉に特異的なTh2だけを抑制することができる。マウスにCpGODN-Cry j1/j2結合体を投与した結果、Th1が増加し、IgE抗体の産生が抑えられることが確認されている。 「CpGODN-Cry j1/j2結合体は、作用としてはワクチンのイメージに近いですね」と石井ユニットリーダー。ワクチンは、弱毒化したウイルスや細菌を投与することで感染を防ぐ。しかし、アレルギーワクチンは従来のワクチンとは大きく異なる。「従来のワクチンが発症前に投与するのに対し、アレルギーワクチンは発症後に投与します。予防的であり、かつ治療的である。そして、ウイルスや細菌ではなく、化学的に合成された物質で安全性が保証されたものを投与するという点も大きく違います」 アレルギー戦略研究ユニットでは、2004年度から動物実験を開始している。その後、国立病院機構相模原病院、千葉大学などの医療機関と共同で、人を対象とする臨床試験を行う。順調に進んで最も早いケースでは、5年後には医薬品として認可される可能性がある。
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NKT細胞の免疫制御機構を利用する
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世界初となるスギ花粉症の根治的治療薬の実現に大きな期待がかかるが、石井ユニットリーダーは自然免疫系を活性化する方法には問題点があると指摘する。「Th1の増加は一時的で、再びアレルギーを発症してしまう可能性があります。二度とアレルギーを発症しない体質を獲得するにはどうしたらいいか。そのための第二の戦略が、免疫制御機構の利用です」
最大のターゲットは、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)だ。NKT細胞は、谷口克RCAIセンター長が発見した、免疫を制御する働きを持つリンパ球である。NKT細胞はさまざまな働きを持ち、免疫寛容誘導性樹状細胞にも働き掛けていることが分かってきた(図1下)。免疫寛容とは、アレルゲンに対して免疫反応がまったく起きなくなる現象だ。「NKT細胞を人為的に活性化することができれば、免疫寛容を誘導して、アレルギーを起こさない体質を獲得できる可能性が出てきます」と、石井ユニットリーダーは展望する。 では、どのようにしてNKT細胞を活性化するのか。「NKT細胞を特異的に活性化するα-ガラクシルセラミド(α-GalCer)を、リポソームという人工的に作った脂質のカプセルの中に入れて投与することを考えています」 研究ユニットでは、リポソームに封入したα-GalCerを投与すると、樹状細胞に効率的に取り込まれ、CD-1dという分子と結合して細胞の表面に運ばれることを確認している(表紙下段、赤はα-GalCer、黄色はCD-1dと結合したα-GalCer)。NKT細胞は、樹状細胞の表面に出ているα-GalCerと結合すると、活性化する。マウスにリポソームα-GalCerを投与した結果、IgE抗体の産生が抑制されることも明らかになっている(図3)。これは、NKT細胞を介して免疫寛容が誘導された結果だと考えられる。 「NKT細胞は、IgE抗体を産生するB細胞だけを選択的に細胞死に導くことも明らかになっています(図1下)。NKT細胞は多彩な働きを持つ。それをうまく制御できれば、アレルギーの根治的治療にとって非常に有利な、そして強力な戦略となります」 今後は、スギ花粉のアレルゲンに対してだけ免疫寛容を誘導できるCry j1/j2を封入したリポソームα-GalCerを作り、治療薬につなげるための研究を進めていく計画だ。 ![]() |
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短期間でゴールにたどり着くために
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石井ユニットリーダーは、大学では高度好熱菌の研究をしていた。そのころから「人の役に立つ仕事がしたい」と思っていたそうだ。そして10年ほど前、IgE抗体の発見者であり、現在はRCAIの特別顧問を務める石坂公成(きみしげ)先生の研究室で免疫抑制の研究と出会い、「自分が求めていたのはこれだ」と感じたという。「生体内の免疫抑制機構を明らかにして、免疫を自在に制御したい。それが私の最終目標です。それは、アレルギーだけでなく、臓器移植において免疫による拒絶反応を抑えるなど、さまざまな疾患の治療につながります」
「石坂先生からはいろいろなことを学びましたね」と石井ユニットリーダーは振り返る。「石坂先生は“Way of thinking”、“考えて研究をしろ”とよく言います。あらかじめゴールを設定し、そこにたどり着くための戦略を決めておく。そうすれば、出てきた研究成果を見て、捨てるべきか続けるべきかの判断ができる。ゴールも戦略もなければ、無駄な研究を重ねることになってしまいます。アメリカの第一線で長い間研究してきた石坂先生ならではの、重みがある言葉です。アレルギー戦略を進める上でも、“Way of thinking”はベストな方法ですね」■
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人工的なアミノ酸で
未知のタンパク質を探索する 技術の開発 2005年2月18日、文部科学省においてプレスリリース |
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――まず、アミノ酸について教えていただけますか。
横山:人間の身体を構成する成分のうち、水分の次に多いのが全体の20%を占めているタンパク質です。このタンパク質はわずか20種類のアミノ酸からできています。地球上のあらゆる生物は、DNAの持つ遺伝情報に基づいて、細胞内でアミノ酸からタンパク質を合成します。DNAの塩基配列は、「遺伝暗号表」に従って20種類のアミノ酸の配列に翻訳され、それが折り畳まれてタンパク質ができます。アミノ酸の組み合わせは約10万通りあり、その組み合わせにより脳・内臓・骨・神経伝達物質やホルモン・血液といった私たちヒトの身体はつくられています。ヒトの身体のほとんどすべてが、複雑に絡み合ったアミノ酸からできていることになります。 |
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――人工的なアミノ酸とはどういうものですか。
横山:私たちは、動物細胞の持つ遺伝暗号を改変して、人工的なアミノ酸をタンパク質の任意の部位に導入する手法を開発してきました。この手法を利用すると、自然界には存在しない21種類以上のアミノ酸から成る“望みの性質を持たせたタンパク質”をつくることが可能となります。人工的なアミノ酸には、例えば光架橋機能を持つものや蛍光を発するものなどがあり、さまざまな新しい機能を持ったタンパク質をつくり出すことができるわけです。 |
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――今回開発した手法について説明していただけますか。
横山:人工的なアミノ酸を人工的なtRNAに結合させる専用の酵素を利用しています(図1)。この酵素を用いて、光架橋機能を持つ人工的なアミノ酸である「パラベンゾイルフェニルアラニン」を、ハムスターの細胞内でがん関連タンパク質「Grb2」に組み込みました。その結果、狙った標的である上皮成長因子受容体との相互作用が確認され、さらに特定の波長の光を照射すると、Grb2と受容体が共有結合して架橋タンパク質が形成されました(図2)。相互作用の瞬間をとらえることに成功したわけです。 |
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――今後期待することは。
横山:この技術を用いると、従来難しかったタンパク質同士の弱い相互作用も調べることができます。そのため、相互作用することが知られていなかった未知のタンパク質を探し出すのが飛躍的に容易になると考えられます。今後は、糖尿病や遺伝病なども対象に、疾患解明や創薬研究へ早期に実用化される可能性が高いものと考えています。 ■ |
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プレスリリースは下記URLを参照ください。 http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2005/050218/index.html ※本成果は、米国の科学雑誌『Nature Methods』のオンライン版(2月18日)において発表され、日経産業新聞(2/18)など多数の新聞に取り上げられた。 |
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人工筋肉を用いた
ソフトロボットの研究開発 全身が柔らかい新しいロボットにつながる 2005年3月3日、文部科学省においてプレスリリース |
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――人工筋肉を研究することになった経緯を教えてください。
向井:近年、私たちの生活空間にロボットが入り込みつつあり、従来のロボットには必要とされなかった安全性や柔らかさが新たに求められるようになりました。BMCではセンサー、制御、アクチュエータを含めて統合的な研究をしています。そのアクチュエータとしては、ほとんどのロボットで電磁モーターが使われています。しかし、電磁モーターでは筋肉のような柔らかさが出せません。また、出力重量比、電気ノイズ、サイズなどの問題もあります。この問題を解決するため、柔軟なアクチュエータである人工筋肉(IPMCアクチュエータ)を研究しています。 ![]() |
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――IPMCアクチュエータとはどんなものですか。
向井:イオン導電性高分子(高分子電解質ゲル)の両面に電極を接合したもので、電極間に電圧をかけると屈曲します。1991年に工業技術院大阪工業試験所(現・産業技術総合研究所)で発明されました。電圧をかけると陽イオンが移動し、それに伴い水分子も移動するので、マイナス極の面が膨張、プラス極の面が収縮し、屈曲します。特徴は、柔軟、軽量、動作時無音、安定、長寿命、低い電圧(2V程度)で動作、高速応答(数十Hz)などです。反面、力が弱いという課題があります。また、これはメリットでありデメリットでもあるのですが、動作には水が必要で、逆にいえば水中でシールドなしで使用できます。
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――工夫した点を教えてください。
向井:アクチュエータの表面を分割する技術と、それを応用して全身が柔軟なロボットをつくったという点です。領域分割についてのアイデアは今までもあったかもしれませんが、確立された方法がなかったので独自の加工法を開発しました。精密な加工が必要とされる場合にはレーザーを使い、精度を必要としない場合には機械的に行います。レーザーを使うと最小線幅50μm、深さ20μmといった精度で加工できます。重要なことは、この加工法を用いて1枚のアクチュエータからロボットをつくったという点です。 |
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――IPMCアクチュエータの課題は何でしょうか。
向井:力が弱いという欠点を克服するため、アクチュエータを何枚も重ねるとか、電極にカーボンナノチューブを使うなどの試みがされていますが、まだあまりうまくいっていません。空気中で使用するためにもいろいろなアイデアがありますが、決定的な方法は見つかっていません。今後も大いに研究が必要な部分ですね。 |
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――今後期待することは。
向井:今回の技術では、制御用コンピュータは外部にあり、ケーブルが接続されています。最終的には制御用の超小型コンピュータをアクチュエータに搭載し、バッテリーを搭載するか無線で電力を供給して、ケーブルなしで動く独立したロボットにしたいですね。構造が単純なため、小型化も可能と考えています。将来は、血管のように傷つけてはいけない管の中を移動して仕事ができるロボットの開発につなげられたらと考えています。■ |
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プレスリリースは下記URLを参照ください。 http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2005/050303/index.html ※本成果は、国際学会「SPIE」(3月6〜10日・米国サンディエゴ)において発表され、毎日新聞(3/4)など多数の新聞に取り上げられた。また、AP通信テレビ部門のニュースとなり、世界配信された。 |
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アルマイト製録音盤を新たに発見 アルマイトの開発秘話 |
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アルマイトの開発は、主任研究員であった鯨井恒太郎、瀬藤象二(しょうじ)、宮田聡らのグループの研究成果である。開発の中心となった宮田は1924年(大正13年)に東京帝国大学を卒業して、鯨井研究室でアルミニウムの陽極酸化を研究していた。陽極酸化とはアルミニウムをシュウ酸溶液につけて表面を酸化被膜で覆うものだが、そのままでは被膜の中に染み込んでいたシュウ酸が乾燥とともに表面に結晶として出てきて白い粉となる。これを防ぐために、電解後、温湯で煮出す処理をする。この煮出しの作業中の不注意が、アルマイト発明につながった。
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理研の記念史料室にその失敗の記録が残っている。「数枚の定規を重なり合わせたまま、お湯の中で煮てしまった。その結果、取り出したときに部分的に変色したところができた。この失敗を取り戻すために再び電解したところ、いくら電流を流しても変色した部分の色が消えなかった。この部分を詳細に調べた結果、多孔性を失って電解液が染み込まない状態となっていることがわかった。これは前々からわれわれが欲求して満たし得なかった多孔性の滅失ということが偶然にも達成されていた」と実験ノートは語る。この失敗が、アルミニウムの酸化被膜の持つ欠点を一気に解決する手掛かりとなった。「多孔性を百発百中、滅失させるためにはどうすればよいか。この問題を解決するために、新たに活発な研究を展開した結果、わざとシュウ酸を染み込ませた状態で、4から5気圧の水蒸気を作用させれば、その目的を的確に達成することを見いだした」のである。
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宮田自身はこの思いもかけなかった発見を、『アルミニウム年鑑・マグネシウム総覧』(金物時代社発行、昭和14年)の応用加工編で次のように書いている。「ある日、筆者は驚異な事実を目撃した。それを子細に調べると、ますます不思議である。この事実から推理して、アルミニウム酸化被膜の多孔性は、高圧水蒸気に曝(さら)すとなくなるのではないかと直感的暗示を受けた。電気絶縁物である酸化被膜は電気を通じてつくるため、酸化被膜には電気を通じる孔が開く。孔があれば被膜が厚くても防食効果はなくなる」。この多孔性の問題が解決への糸口となり、宮田は熱機関を専門としていた親友の山田嘉久を訪問、そこのボイラーを使って確かめる実験を行った。「天はわれわれに幸して、直感の事実であることの確証を得て凱歌(がいか)を上げることができた」。実験は見事成功し、その成果は国内外で高く評価された。
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第3代所長・大河内正敏は、1928年(昭和3年)、静岡にアルミニウム陽極酸化被膜工場(図2)のパイロットプラントをつくる一方、アルミニウム関連企業に特許実施権を与えてアルマイトの普及促進を図った。1934年(昭和9年)には、初のアルマイト専業企業として「理研アルマイト工業(株)」を設立し、その需要増に備えた。そして、宮田は着色、写真、エッチング、印刷、点溶接などの応用研究に成功し、アルマイトの飛躍的な発展に寄与した。実際に機械工具、容器、装飾品、建築物など広範な分野に、時代の寵児(ちょうじ)としてアルマイトが多大な利便を与えることになった。
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今回見つかったアルマイト録音盤の音声は、別の記録媒体(CD)に記録され、当時収められた音を再生している。■
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第18回「独立行政法人理化学研究所と産業界との交流会」が開催される
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「理化学研究所と親しむ会」が主催する「独立行政法人理化学研究所と産業界との交流会」が、2月16日、ホテルオークラで開催されました。「理化学研究所と親しむ会」は、理研と産業界の密接な交流を通じて理研の研究成果と産業界のニーズとを結び付けることを目的とし、毎年、講演会や懇親会などを開催しています。18回目の今回は、小口(おぐち)邦彦 理研と親しむ会会長の開会の辞、野依良治理事長のあいさつに続き、茅幸二所長(和光研究所、中央研究所)が「和光研究所 中央研究所の目指すもの」、川瀬晃道(こうどう)ユニットリーダー(川瀬独立主幹研究ユニット)が「明日の技術−テラヘルツ光」、森田先任研究員(中央研究所 加速器基盤研究部)が「新発見の113番元素」と題して、それぞれ講演しました。その後の懇親会では、中山成彬(なりあき) 文部科学大臣らが出席し、お祝いの言葉が述べられました。会場には理研の最新の研究成果や理研ベンチャーを紹介する34の展示コーナーが設けられ、各コーナーでは熱心な質疑が交わされていました。参加者は約360名。 |
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受賞のお知らせ(2004年9月〜11月)
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DRI:中央研究所、CDB:発生・再生科学総合研究センター、BSI:脳科学総合研究センター、SRC:遺伝子多型研究センター、PSC:植物科学研究センター、RCAI:免疫・アレルギー科学総合研究センター、FRS:フロンティア研究システム、GSC:ゲノム科学総合研究センター ※受賞者の所属は受賞当時のものです。 |
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のど元過ぎれば熱さ忘れて
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昨年暮れに、研究成果「大脳のネットワークを再構成する分子を同定」を記者発表させていただく機会に恵まれました。その分子とは、血液凝固・線溶系で知られるプラスミノーゲンアクチベーター(tPA)というタンパク分解酵素です。数年前に「歯茎から血が出るのはプラスミンが……」というテレビコマーシャルがあったのをご存じですか? そこで悪役にされていたプラスミンは、tPAが基質を分解してできた産物です。tPAは血栓を溶かす生体内分子でもあり、その産物であるプラスミンにも納豆キナーゼのように血液をさらさらにする働きがあります。今回、幼児期の環境に応じて脳内で形の変化が起こり、そこにはtPAが必要であることが分かりました。面白いのは、この現象は視覚情報を処理する大脳では、わがグループ名である「臨界期」にしか起こらなかったことです。機能の変化(可塑性)が盛んなこの時期に、細胞の興奮と抑制のバランスが崩れてtPA活性が低下すると、機能ばかりか形の変化も起こらない。すなわち、環境に応じた脳(感覚系)の正常な発達にもtPAが大切だということが分かりました。 話は変わりますが、この研究成果発表に至るまでにドキドキ、ワクワクしたことを少し披露します。われわれ研究者は見いだした成果を迅速に、かつ正確に報告する義務があります。そこで、学会報告や論文発表をするわけですが、いつ、どの雑誌にどこまでの成果を投稿するかを決めるのが肝心です。恥ずかしながら、今回の成果の一部は、最初皆さまご存じの『Nature』に投稿しました。その1週間後に「何も驚かないよ」というコメントとともに、投稿論文は戻ってきました。最初のドキドキは、幸か不幸かたった1週間で終わったわけです。それから、追加実験をしながら『Neuron』に再投稿。そして、同時に北米の学会にも登録しました。学会発表までに論文が受理されるかな、とまたドキドキです。今度のドキドキは期間が長く、ボス(Takao K. Henschグループディレクター)と顔を合わせると「論文まだ戻ってきませんね〜」が合言葉になりました。 実は、私が神経可塑性の研究を始めてから早くも10年以上が過ぎていますが、開始当初、誰も注目していないユニークな分子に注目したいなと思いました。私は左利きであることや、女子高で理数系の授業を数人で受けた後、男子が多い大学へ進学したことなどの経験がものをいい、number oneよりonly oneが好きなのです。tPAの脳内での機能を研究している人は今もわずかなのですが、神経可塑性の特に形の変化については現在“ホットな研究”の一つであり、毎週インパクトのある論文が国際的な学術誌に掲載されます。そこで、新刊を開くたびにドキドキ感は倍増です。幸い投稿論文は順調に受理され、その直後にサンディエゴで開催された学会ではワクワクしながら、のどが枯れるまでポスターの前で結果を、隠さず披露することができました。このたった数時間の楽しい時間を過ごすことで、苦しかった数カ月のデータ解析の日々を忘れる気持ちにもなれました。 かつて友人から「人生って苦しいものだと思う? それとも楽しい?」というメールをもらったことがあります。目の前にある山を「苦しい」と思いながら必死で乗り越えると、きれいな景色、おいしい湧き水、そして魅力的だけれども険しい山がまた見えてくる。そしてチャレンジしたくなる。私はのど元過ぎれば熱さ忘れるタイプなのですが、皆さまはいかがでしょうか? ■
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