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原酒
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光をナノの世界で利用する
河田 聡 中央研究所 河田ナノフォトニクス研究室 主任研究員 |
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光でナノの世界を見る
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光でナノの世界は見えない――それが常識だった。1ナノメートル(nm)は10億分の1m、原子数個分の大きさ。一方、私たちの目に見える光(可視光)は、波長が約400〜700nmの電磁波である。その波長の半分以下の世界は、原理的に光では見ることができないと考えられてきたのだ。
電磁波は周波数(1秒間に波が振動する回数)が低い方から、電波、赤外線、可視光、紫外線、X線、ガンマ線と名付けられている。周波数が高い電磁波ほど、波長は短い。このため、ナノの世界を見るにはX線などが用いられている。 より小さな世界を見るために、電磁波の波長を短くしようとすれば、周波数を高くするしかないと長らく考えられてきた。しかし、その常識を覆す方法があると河田主任研究員は言う。「一つは、光の速度を遅くする方法です。1秒間に波が振動する回数を変えずに、光の速度を遅くできれば、波長は短くなります」 しかし、光の速度を遅くすることはできるのだろうか。「光の速度は、秒速約30万km。ただしこれは真空中の速度です。水の中では約77%、ガラスの中では約66%になります」 ほかにも、ある状況をつくると、光の速度を遅くすることができる。例えば金属に光の波長よりも小さな穴を開け、そこに光を当てると、穴からわずかに光が漏れ出る。その光は速度が遅く、波長が短くなる。この光は金属表面のごく近くにだけ存在するため、「近接場光」と呼ばれる。 1972年、英国でこの原理を使って、波長30mmの電波で0.5mmの構造を観察することに成功した。1985年には、光ファイバーの先端を金属で覆った直径約100nmの穴から漏れ出る近接場光で像を見る方法が提案された。しかし、小さな穴から漏れ出る近接場光はとても暗い。より波長の短い近接場光を得るには穴をさらに小さくする必要があり、近接場光はどんどん暗くなってしまう。 「もっと明るい近接場光を得る方法はないのだろうか。1992年、何カ月もそのことを考え続け、毎日、大学でも議論していました。そしてある朝、大学へ向かう車の中で、突然、良いアイデアがひらめいたのです」 そのアイデアとは、金属の微小粒子あるいは鋭く尖った金属の針の先端にレーザーの強い光を当てるという方法である。すると針の下に強い近接場光が発生する。現在、世界で研究されている近接場光顕微鏡の約7割が、金属の針を使うタイプである。河田主任研究員が発明した方法が世界標準となっているのだ。 |
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ナノの世界の色を見る
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電子顕微鏡などナノの世界を観察できる装置があるのに、なぜ光でナノの世界を見る必要があるのだろう。「電子顕微鏡で見えるのは、“白黒の世界”。光を使えば“色の世界”を見ることができるからです」と河田主任研究員は答える。
電子顕微鏡は、試料を透過した電子線の強さを濃淡として画像化する。電子顕微鏡によるカラー画像は、後から色を付けたものだ。光の顕微鏡では色の世界を見ることができる。しかし、光の顕微鏡で細胞をそのまま見ても透明である。そこで、さまざまな色素や蛍光物質を使って、細胞の構造やそこで働くタンパク質などの働き方を調べる技術が開発され、この技術こそが、医学や生命科学の進展を支えている。 河田主任研究員らは、特殊なピコ(1兆分の1)秒のレーザーを用いて色素で染めずに生きた細胞の“色”を見て、その構造や働き方を調べることができる顕微鏡を開発し、すでに実用化してベンチャー企業を立ち上げている。色素を使わずに透明な細胞の色が見えるとは、どういうことだろう。 「細胞の中の小器官やタンパク質を形づくる分子は振動しています。その振動している分子に光を当てると、当てた光とはわずかに波長(色)が違う光(ラマン散乱光)が出ます。分子の振動で波長がずれるためです。その色の違いは人間の目には分かりませんが、最先端の光学技術を使うと識別できます。分子の種類によって振動の仕方が違うので、色が異なる。色の違いで分子の種類を見分けられるのです」 最近、河田ナノフォトニクス研究室では、DNAにある4種類の塩基をラマン散乱光の色の違いで識別することに成功した。この方法はナノ材料を評価・分析するための強力な手段ともなる。例えば炭素がナノサイズのチューブ状になったカーボンナノチューブの太さ(直径)の違いを色で見分けることができる(図1)。チューブの太さが違うと、炭素の分子構造の振動数が異なるからだ。 「現在、私たちは光の波長の50分の1、10nmの解像度を達成しました。しかし、これはまだ夢の途中。私が研究者として働けるうちに、さらに50分の1、約0.3nmの解像度を実現したいのです」 水素原子の直径が約0.1nm。約0.3nmの解像度があれば、ナノの世界の色を見て、どのような原子・分子が並んでいるかを識別できる。 ![]() |
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ギネスに載ったミクロの牛
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河田主任研究員は、レーザーを用いて体長8μm(0.008mm)のミクロの牛をつくることに成功した(図2)。光は見るだけでなく、物を加工することもできるのだ。「これまで研究成果が『Nature』などの国内外の雑誌に掲載されても、私の家族はあまり関心を示しませんでした。ところが、このミクロの牛が、“レーザーによる世界最小の彫刻作品”として2004年のギネスブックに載ったことで、やっと私は尊敬されるようになりました(笑)」この牛の材料は、紫外線で固まるアクリル系の樹脂である。コンピュータに入力された輪郭のデータに合わせて、100フェムト(10兆分の1)秒という極短時間の近赤外レーザーを、焦点を少しずつずらしながら照射して輪郭を固めていく。最後に固まっていない周囲の樹脂を洗い流すと、3次元の牛が現れる。 この牛の細部の大きさは50nm。可視光よりも波長の長い800nmの近赤外線を使って、50nmの細かさでなぜ加工できるのか。また、どうして紫外線で固まる樹脂が近赤外線で固まるのだろうか。 光は粒子としての性質がある。その光の粒を光子(フォトン)という。通常、光を当てると物質は光子を1つ吸収する。しかし極めて強い光、つまり光子の数が多い光を当てると2つの光子が同時に吸収されるようになる。このとき赤外線の光子2個分のエネルギーは、紫外線の光子1個分のエネルギーのレベルに達し、樹脂を固めることができる。 「これが、周波数を変えないで波長を短くするもう一つの方法です。光の掛け算をするのです。波はコサイン関数で表すことができるため、コサインを2つ掛け算すると波長が短くなります」
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3次元の光メモリ
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光を用いて3次元的に情報を書いたり、読み出したりすることもできる。「2000年、米国のクリントン前大統領が、角砂糖1個分の大きさのメモリに連邦議会図書館の情報をすべて入れられるようにしようと言いだしました。本当に、具体的にそれを実現するための研究は誰も行っていません。私たちは情報を3次元的に書き込んだ角砂糖大の光メモリを実際につくってみました(図3)」CD(コンパクトディスク)やDVD(デジタル多用途ディスク)など、今の光メモリの欠点は、ディスクの表面にしか情報を書いていないことだ、と河田主任研究員は指摘する。「次世代DVDと呼ばれるブルーレイ・ディクスやHD-DVDも、青色レーザーなど波長の短い光で情報を表面に細かく書き込もうとしています。しかし、この方法は限界に達しています。どんどん情報を細かく書き込んでいくと、ほこりの方が大きくなり、ノイズで情報を読み出せなくなります。2次元の表面に細かく情報を書くのではなく、3次元的に多層に情報を書き込むべきなんです」 3次元的に情報を書き込む技術を発展させれば、角砂糖大に1テラバイト(1000ギガバイト)の記憶容量を持つ光メモリを実現できると河田主任研究員は言う。これは現在のDVD(4.7ギガバイト)の200枚分以上、次世代DVDと比べても数十枚分の記憶容量となる。 「この3次元の光メモリは、企業が本気になって実用化に取り組めば、5年以内に商品化できるはずです」と河田主任研究員は自信を見せる。 |
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がん細胞を攻撃するナノマシン
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「ギネスに載ったミクロの牛を1個つくるのに最初は3時間、今でも約13分かかります。最近、私たちの研究室では1000個の光スポットを特殊なレンズでつくり、ミクロの牛を1000頭同時につくることに成功しました」河田ナノフォトニクス研究室では、この1000頭同時につくる技術を応用して、たくさんの金属のアンテナを周期的に並べたナノスケールの構造をつくった。そして、そこに光を当てるとレーザーが発生することを、2004年11月に論文発表した(図4)。 この技術を発展させて、赤血球サイズのナノマシンをつくれば、SF映画『ミクロの決死圏』の世界を現実のものにできる。ちなみにミクロの牛1匹の大きさは、赤血球の大きさだ。「映画のように医師をミクロサイズに縮小して血管の中に送り込むことはできませんが、赤血球サイズのナノマシンをつくれば、心臓から肺、脳まで、体内のどんなところでも行けます。赤血球の大きさが血管の最小サイズなんです。指先から挿入されたナノマシンが血管を通って患部にたどり着き、そこで体外から光を受けてレーザーを出し、がん細胞を攻撃することができるはずです」 どのようにして体外からナノマシンに光を当てるのか。「近赤外線を当てるんです。可視光はすぐに吸収されますが、近赤外線は体の中に入っていけます」。河田主任研究員らは、体外から近赤外線を当てて充電する電池交換が不要な心臓のペースメーカーをすでに試作している。現在のペースメーカーは、電池交換のため数年ごとに外科手術が必要だ。 「光は生体に優しく、体内でナノマシンを動かすエネルギーとしても使えます。特にナノの世界では、大きなエネルギーは要りませんから、熱や光のエネルギーだけで十分にナノマシンは動きます」 |
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プラズモニクスを切り開く
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河田主任研究員は、大阪大学大学院工学研究科の教授を務めるとともに、2001年に設立された阪大フロンティア研究機構の機構長を務めた(〜2004年3月)。同機構は分野や産学の垣根を越えて、新しい学問と新産業を興すことを目指している。日本と世界のナノテクを先導する河田主任研究員が2002年に理研中央研究所に立ち上げたのが、河田ナノフォトニクス研究室である。
「理研での最初の2年間、“論文など書かなくていい。発表もしなくていい。じっくり研究しよう。画期的なことを発見しても、しばらくは死んだふりをしろ”と研究員たちに発表禁止令を出しました。論文執筆や特許申請で走り回っていたら、研究者としてちっとも楽しくない。論文は数ではなく、中身が重要です。しっかりと充電してから結果を出そうと研究員たちへ伝えました。すると2年間たって、みんなきっちりと結果を出し始めました」 河田主任研究員は、理研でやりたいことが2つあると言う。「一つは私のライフワークであるフォトンを使ってナノスケールの科学研究を進めること。もう一つは、プラズモニクスという新しい分野を切り開くことです」 金属に光を当てると、金属の中の電子が集団的に振動する。金属の構造がナノスケールになると、電子の振動できる空間が制限されて、大きなスケールとは異なる振る舞いを示す。その電子の集団的な振る舞いを研究するのがプラズモニクスである。実は、金属の鋭い針に光が当たると近接場光が発生したり、金属の周期的なナノスケールの構造に光を当てるとレーザーを放つのも、プラズモニクスに基づく現象である。 「金属の周期的なナノスケールの構造に光を当てると、金属中の電子と光が相互作用して光が通常と反対方向に曲がるなど、普通の世界では見られない、さまざまな現象が起きる可能性が議論されています。ただし、今までそれを確かめるための技術がありませんでした。ナノテクや光の技術が集積されて、今ようやくプラズモニクスの可能性を実験的に探求することが可能になってきました。それを理研でやりたい。プラズモニクスは光をナノの世界で利用するまったく新しい材料を社会に提供できるはずです」 河田主任研究員は、「20世紀はエジソンの時代でした」と語る。つまり電子(エレクトロン)を用いる技術が20世紀の科学技術と社会を支えてきた。「しかし、時代は間違いなくエレクトロンからフォトンへ動いています」と河田主任研究員は断言する。例えば電話も銅線から光ファイバーや電波を使う携帯電話へ、テレビも電子線を使うブラウン管から液晶へ替わりつつある。 「光は生体に優しく、しかもブラウン管のような真空を必要とせず利用しやすいからです。しかし、波長の長い光はナノの世界では利用できませんでした。ナノの世界で利用できるようになれば、エレクトロンからフォトンへの流れがさらに本格化します。理研にも光を研究している仲間がたくさんいます。彼らと一緒に、新しい光とナノの科学を、世界の理研で開拓していきたいと考えています」■ |
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体の形づくりのルールを
ニワトリの胚に聞く
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Le Douarin博士との出会い
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高橋淑子チームリーダーは1988年に日本で学位取得後、フランスの国立科学センター(CNRS)発生生物学研究所で、ニワトリ胚による研究を始めた。この研究所の所長を務め、高橋チームリーダーを指導したのが、神経冠細胞の研究などで知られる発生生物学の世界的権威、Nicole Le Douarin(ニコル ル ドワラン)博士である(図1)。「彼女はとても厳しい人でした。どれだけ怖かったことか。少しでも気を抜いていると、みんな木っ端微塵にしかられた。その中で何とか生き残ろうと必死でした」と高橋チームリーダーは当時を振り返る。「しかし学問的には彼女はとても豊かで広い視野を持っています。彼女を納得させる研究ができれば世界に通用すると思って、何とか面白いことを見つけては、彼女のところへ持っていきました。でも“どこが面白いの?”と、ことごとく突き返された。あるとき彼女にこう言われたのを、今でも強烈に覚えています。“Yoshiko、人のまねは駄目。あなたにしかできないことをやりなさい”」 |
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境界ができる仕組みを解明
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ES細胞とは、初期の胚から取り出した何にでも分化できる万能細胞である。現在、ES細胞を特定の細胞に分化させて培養し、医療に応用する再生医学の研究が盛んに行われている。「応用医学的にはES細胞を用いることの将来性は大きいと思います。しかしシャーレの中で細胞を分化させる研究は、私にとってはすでに過去のこと。私はその次へ行きたい。私たち基礎科学の研究者は、常に新しい概念に挑戦することが求められているのです」。こう語る高橋チームリーダーが現在取り組んでいるのが、体の中で起こる三次元での形づくりという問題である。 「ただ単に細胞が増殖や分化しただけでは“細胞の団子”ができるだけです。あるパターンに沿って、しかるべき場所でしかるべき形を持って細胞が分化することにより、初めて機能する体ができるのです」 形づくりにおいて、高橋チームリーダーが注目したテーマの一つが、組織と組織を分ける境界が、どのようにしてできるのかという問題だ。「境界のでき方というのは教科書にも載っていないテーマですが、形づくりの本質的な問題です。そもそも境界がないと、どんな形も存在しませんよね。では、時々刻々と変化する胚を相手にして、どうやって境界のでき方を研究するのか。私は体節の分節化という現象に注目しました」 体節は骨格や筋肉のもとになる組織である。背骨は、第1頸椎、第2頸椎というように、いくつかの骨に分かれているが、もとはひと続きの体節が一つずつ切れて、分節してできたものだ。ニワトリの胚では、体節が頭の方から順番に、一定の間隔で90分ごとに切れていく(図2)。 「どんどん変化し、意のままにならない胚を相手にするには、洗練された実験プロジェクトを組むことが必要です。発生の過程で1回だけ起きる現象では、実験で条件をさまざまに操作しても、起きた現象が必然か偶然か分かりません。繰り返し起きる体節の分節は、境界のでき方を知る上で優れた実験系です」 高橋チームリーダーのフランス時代の研究仲間が、ある遺伝子が発現のオン・オフを12回繰り返すと、体節の分節が始まることをすでに突き止めていた。 「しかしそのオン・オフの次に、実際に体節を切るものは何か、それが分かりませんでした。私たちの研究室の研究員が2年間、来る日も来る日も胚を相手に実験を繰り返し、ようやく分節するすぐ後ろの細胞が重要だということを突き止めました」 高橋チームリーダーらは、その細胞が本当に体節を切る能力があるのかどうかを調べるために、ほかの場所に移植した。すると本来は分節しないところに切れ目ができた。「この細胞がすぐ前方にいる分節する細胞へ、“あっちへ行け”という指令を出して、切れ目ができるのです。私たちは、この切れ目を入れる細胞を“セグメンター”と名付けました」 さらに高橋チームリーダーらは、どのような分子メカニズムで分節が起きるのかを調べるため、分節のときに働いている遺伝子を調べた。するとL-fringeという遺伝子が発現するオン・オフの境界が、セグメンターの場所と一致した。 次に、この遺伝子が本当に分節を引き起こすのかを調べるために、「エレクトロポレーション法」という技術を用いた。これは電圧をかけて細胞に遺伝子を導入し、強制的に発現させる方法である。高橋チームリーダーらは、従来、扱いやすいバクテリアや培養細胞などに使われていたこの方法を、世界で初めて生きた胚の体節に用いた。この方法で、分節がまだ始まっていない細胞でL-fringeを強制的に発現させたのだ。そしてL-fringeが発現した細胞を、別の胚の分節が起きていない体節に移植した。こうしてL-fringeが発現するオン・オフの境界を人工的につくると、その境界で確かに分節が起きた(図3)。L-fringeの働きはNotchという遺伝子の発現を調節していることが知られているので、Notchを用いて同様の操作を行ったところ、やはり分節を引き起こす能力があった。このように、まったく独自の実験系を用いることで、セグメンターの機能がL-fringeやNotchで調節されていることを証明したのだ。 高橋チームリーダーは、形づくりには個体の各組織・器官に共通するルールがあるはずだと考えている。「体節の分節で働いている遺伝子のいくつかは、例えば前脳と中脳など脳の各領域を分ける境界づくりでも働いているはずです。私は一つの組織の研究から個体全体を見渡したいと思っています」 さらに、高橋チームリーダーの視点は、生物進化へと及ぶ。「現在は、ニワトリ胚の発生における細胞と細胞、組織と組織のコミュニケーションに注目していますが、やがて種を超えた発生の共通ルールが見えてくるはずです。例えばニワトリやマウス、ヒトの発生過程はとてもよく似ています。しかし違いがある。なぜ違いが生まれるのか。これは生物進化を考える上での大問題です。なぜ違うかを知るには、何が共通かをまず知る必要があります。発生の共通ルールを探りたい。そのルールを知ることで、初めて見えてくるものがあると思うのです」 |
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細胞が形を変える仕組みを解明
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2004年に高橋チームリーダーらが発表した研究成果は、がん転移のメカニズムの解明につながる成果として、新聞各紙がこぞって大きく取り上げた。がんの多くは、消化管や呼吸器の粘膜など、シート状に規則正しく並んだ細胞にできる。そのような細胞を「上皮細胞」という。がんが怖いのは、がん化した上皮細胞が不定形の細胞(「間充織(かんじゅうしき)細胞」)となってシートから脱落し、さらには血流に乗ってほかの場所に次々と転移していくことだ。 このような細胞の形の変化は、発生段階の体づくりでも極めて重要である。細胞が上皮細胞になったり、間充織細胞になってしかるべき場所に移動しながら、体の形づくりが進行するのだ。 細胞の形の変化は、どのような仕組みで起きるのか。細胞は細胞骨格と呼ばれる繊維で内側から支えられている。培養細胞を用いた実験では、細胞の形が変わるときに、Rhoファミリーと呼ばれる遺伝子群が指令を出して、繊維状に並んだ細胞骨格をつくるアクチンというタンパク質をコントロールすることが知られていた。 「ただし、実際の体の中で起きる細胞の形の変化とRhoファミリーとの関係は、何一つ分かっていませんでした。細胞生物学者の99%は、シャーレの中で細胞を培養しています。その培養細胞の実験から新たな遺伝子が次々と発見されています。一方、発生生物学者は実際の体の中の細胞を相手にしています。現在、両者の研究はあまりつながりがありません。昨年発表した私たちの研究成果は、両者を関連付けるものでした」 この研究も体節の分節を対象に行われた。体節の細胞は、分節する前は間充織細胞だけから成るが、分節した場所では一部が上皮細胞となって、間充織細胞を包み込む(図4)。体節は上皮細胞と間充織細胞の2種類だけから成るのだ。「ここが重要なんです」と高橋チームリーダーは強調する。「発生は極めて複雑な現象です。その中でいかに単純な構造で解析しやすい現象を見つけ、そしてそれをオリジナルな実験系として用いるかが研究者に託されているのです」 高橋チームリーダーらは、細胞の形を識別するために、GFPという蛍光物質をつくる遺伝子を、エレクトロポレーション法で体節へ導入した。するとGFPは間充織細胞と上皮細胞の両方にランダムに取り込まれた(図5)。 「そこで、Rhoファミリーの遺伝子群の働き方を活性化させたり、抑えたりしました。その結果、Cdc42という遺伝子の働きを抑えると、すべて上皮細胞になりました(図6)」。Cdc42の働き方が、細胞の形を左右しているのだ。 では、なぜ分節したところでは、Cdc42の働きが抑えられるのか。高橋チームリーダーは、体節の外側にある外胚葉という組織からの分泌因子が、体節に切れ目ができることにより分節した細胞に染み込みやすくなり、Cdc42の不活性化を引き起こす、という仮説を立てている。
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細胞の移動の謎に挑む
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「現在、私が興味を持っているのは、細胞の移動です」
発生の過程では、細胞が移動し、しかるべき場所で止まり、その場所にもともといた別の細胞と結び付いて組織をつくる。あるいは、ばらばらな細胞がレンガのように積み重なって管をつくったりする。シート状の細胞も大きな動きを見せる。例えば私たちの脳は、シート状の細胞が丸まって管をつくり、その管が膨らんだり、複雑に折り畳まれたりしてできる。 「細胞がダイナミックに動くからこそ、私たちのこの美しくかつ複雑な体が形づくられるのです。実に面白いと思いませんか?」 培養細胞を用いた実験や、遺伝子工学的にある遺伝子の働きを抑えるノックアウト法などにより、細胞の移動や体の形づくりに重要な働きをしている遺伝子が次々に見つかっている。 「しかし、この細胞の移動という問題一つとっても、実際の体の中で遺伝子がいつ、どこで働いて、何が起きているのかが分かっていません。それを調べることが、今の生命科学に最も欠けている点です。生きた体の中を直接調べることができる研究者があまりいないからです。私はその問題を最も意識している研究者の一人だと自負しています」 高橋チームリーダーは、どのようにして細胞移動のルールを解明しようとしているのだろうか。 「私たちの体では、細胞の移動ルートがあらかじめ決められています。特に体節の中では、将来、末梢神経をつくる神経冠細胞と呼ばれる細胞の移動ルートがはっきりとしています。体節細胞と移動する神経冠細胞がコミュニケーションして、方向を変えたり、止まる場所を決めたりしています。移動する細胞が止まる場所では、体節の細胞が“止まれ”のシグナルを出しているはずです。細胞移動のルールを知るために、私たちは移動する細胞と体節の細胞のコミュニケーションを調べています」
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胚の声を聞く
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高橋チームリーダーは、女性研究者としての立場からこう語る。「学生のころ、学科全体に女性が私一人だけという時もありました。日本は完全な男社会でした。しかし日本でも、今ようやく女性が活躍できる社会体制が整いつつあります。ところが、肝心の女性に期待したほど元気がない。優秀な女性はたくさんいますが、いつの間にか研究の現場から姿を消してしまいます。いろいろな生き方があると思いますが、もっと女性に伸び伸びと研究をエンジョイしてほしいのです」
「私は研究室の学生にものすごく厳しいのではないかと思います。私と議論した学生が、よくそこの椅子(いす)で泣いています。元気を出してほしいのはもちろんですが、論理力をしっかり養ってほしいですね。美しい胚の声を聞くには、“なんとなく”では駄目です。きちんとした論理性が必要です」 高橋チームリーダーは、さらにこう続ける。「プロとして研究を続けることは、もちろん楽しいことばかりではありません。それはどんな職業でも同じでしょう。プロとして高いモチベーション(やる気)を保つには、常に新しく面白いことを見つけ続ける以外にない。そのために、私は胚の声を聞く。私には細胞の“気持ち”が分かるんです。私の研究室の人たちには、私と同じように胚に語り掛け、胚の声を聞いてほしいのです」 高橋チームリーダーは、今でもLe Douarin博士の写真を見ると背筋がピンと伸びるという。「研究者として、教育者として、まだ私は彼女を超えられない。もっと面白いことを見つけ、学生たちを勇気づけ続けようと思っています。私にとって彼女は常に挑戦し続ける存在なのです」■ |
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21世紀の物質科学・生命科学を拓く
X線自由電子レーザー計画SCSS 新竹 積 主任研究員に聞く |
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X線自由電子レーザーで何が可能になるのか
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――現在、SPring-8で生み出しているX線と、SCSS計画で目指すX線自由電子レーザー(XFEL)は、どのように違うのですか。
新竹:SPring-8では約10億個の電子が束になってリングの中を回っています。電子は磁場の力で軌道を曲げられるときに光を出します。それを「放射光」といいます。電子のスピードを速くすると、放射光の波長が短くなります。SPring-8では幅広い波長域の放射光を発生させることができますが、特に真空紫外線からX線の波長域の放射光は世界最高輝度を誇ります。 そのSPring-8のX線より10万倍も強いX線をSCSSでつくることができるのです。放射光は電子の1個1個から出ますが、SPring-8では10億個の電子の位置がばらばらで、それぞれの光の波の山と谷が重なると、打ち消し合って光が弱くなってしまいます。電子の位置を光の波長の間隔ごとにそろえれば、山と山、谷と谷が重なって極めて強い光となるのです(図1)。これをコヒーレント光と呼びます。レーザーはこのような状態の光です。SCSSは電子を加速し、その電子の位置をそろえてXFELを生み出すための装置です。 ――XFELで、どのようなことが可能になるのですか。 新竹:“タンパク質を結晶化せずに立体構造を知る”それがSCSSで私たちが目指す究極の課題です。タンパク質は立体的な形(構造)を持つことで、さまざまな機能を発揮します。タンパク質の機能を知るには、原子スケールの解像度で構造を調べることが重要なのです。それにはX線を用いる必要があります。しかし普通のX線をタンパク質に当てると、ほんの一部のX線が原子に当たって散乱するだけで、ほとんどが通り抜けてしまいます。そこで現在は、タンパク質分子がたくさん規則的に並んだ結晶をつくり、そこにX線を当てています。1つ1つのタンパク質分子の散乱光は弱いのですが、たくさん並んだタンパク質分子からの散乱光を集め、そのデータをコンピュータで変換して立体構造を決定しているのです。SPring-8ではこのような方法でタンパク質の立体構造を次々と調べて、大きな成果を挙げています。しかし結晶化できるタンパク質は全体の2〜3割。残りの7〜8割のタンパク質は結晶をつくれないため、この方法では構造を調べることができません。 そこで、タンパク質分子を並べる代わりに、当てるX線の波長をそろえて極めて強くすれば、強い散乱光が得られます。SPring-8のX線よりも10万倍強いSCSSのXFELならば、結晶をつくらなくても1個のタンパク質分子から立体構造を調べることが可能となるでしょう。さらに、この方法を使えば、生きた細胞の内部を原子スケールで詳細に観察することもできると期待されています。 SCSSで発生するXFELをカメラのフラッシュのように使い、数十フェムト秒という極短時間の現象を原子スケールの解像度で見ることもできます。フェムトとは1000兆分の1を表します。現在でも可視光によるフェムト秒レーザーが実現していますが、原子スケールの解像度はありません。XFELを使えば、化学反応を引き起こす電子の瞬時の動きや、材料などをつくるときの結晶の成長過程を、詳細にとらえることができます。XFELの登場により化学や材料科学が大きく発展し、画期的な機能を持つ新材料ができるはずです。
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X線自由電子レーザーとは
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――XFELをどのようにして生み出すのですか。新竹:現在実用化されている最も波長の短いレーザーは、コンピュータのCPU(中央演算処理装置)の回路を書き込むために使われているエキシマーレーザーで、その波長は157〜248nm(1nmは10億分の1m)です。一方、私たちがSCSSで最終的に目指している波長は0.1nm。1000倍も波長を短くしなければならない。波長0.1nmのX線レーザーは未開の領域なのです。 そこで、私たちは「自由電子レーザー(FEL)」という方法を用います。N極S極を交互に並べた2層の磁石の間に電子を走らせると、磁力により電子が蛇行して強い放射光が発生します(図2)。この装置を「アンジュレータ」と呼びます。全長1mほどのアンジュレータの両端に鏡を置き、光が往復するたびに電子ビームを入射すると相互作用によって電子の位置が光の波長の間隔ごとにそろい、100回程度の繰り返しでレーザーが発生します。これが自由電子レーザーです。現在、この方法で電波から紫外線までの波長域のレーザーを生み出すことができます。しかし波長が短くなると鏡の反射率が低下し、80nm以下ではゼロ近くになってしまいます。従って、波長0.1nmのXFELの実現において、この鏡を使う方法は絶望的なのです。 ――鏡を使わない方法があるのですか。 新竹:1990年代の前半に、米国とドイツの研究者が、「全長1mのアンジュレータの中を100回往復させてレーザーが発生するならば、アンジュレータの全長を100mにすれば、波長の短いXFELを生み出せるはずだ」と言いだしました。これなら光を往復させる鏡は要らないというわけです。これを自己増幅型自由電子レーザー(SASE-FEL)といいます。しかし光と電子を一緒に走らせ相互作用させるためには、100mのアンジュレータを真っすぐにつくる必要があります。求められる精度は、100mにわたり誤差が約10μm(0.01mm)以内。ちなみに髪の毛の太さが約50μmです。アンジュレータをその精度で真っすぐに100m並べるのは、とても無理だとあきらめていたのです。 しかしその後、各国が開発を進めている次世代大型線型加速器「リニアコライダー」という高エネルギー物理学のプロジェクトで、ナノサイズを扱う技術が発展しました。実は私も以前、米国に招かれ、そのプロジェクトでナノサイズの計測技術の開発に携わりました。そしてようやく、XFELを実現するための技術的な目処(めど)が付いてきたのです。XFEL実現の一番乗りを目指し、ドイツと米国、そして私たちが激しい開発競争を繰り広げているところです。 |
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SCSSを築く独自技術と匠の技
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――SCSSはどのような装置なのですか。
新竹:電子を出す「電子銃」、その電子を加速し電子ビームをつくる「線型加速器」、その電子ビームからXFELを生み出す「アンジュレータ」の3つから成る全長約1kmの装置です(図3)。SCSSの全長は、ドイツや米国の計画の数分の1となります。SCSSのCはCompactの頭文字。コンパクトになる分、製造コストも抑えることができます。 ――なぜ、コンパクトにできるのですか。 新竹:アンジュレータや線型加速器に独自の技術を採用するからです。アンジュレータでは、北村英男主任研究員(北村X線超放射研究室)のアイデアで、1個の磁石の幅を15mmと従来の3分の1にしました。これでアンジュレータの全長を3分の1にして、運転に必要なエネルギーも省力化できます。ただし磁石の幅を短くした分、上下の磁石を近づけないと、電子を蛇行させる磁力線は描けません。ところが従来、上下の磁石の間には電子を走らせるための真空パイプを通しているので、磁石を近づけられなかった。その問題を解決するために、北村主任研究員はパイプを外して磁石ごと真空容器に入れるという、従来の常識を覆す方法を考案しました。それが「真空封止型アンジュレータ」です。北村主任研究員は、ガスが発生する粉末焼結磁石を窒化チタンでコーティングするなど、さまざまな工夫を重ねて真空封止型の技術を築き上げました。 線型加速器には、私が高エネルギー加速器研究機構(KEK)にいたときに「リニアコライダー」のプロジェクトでKEKの松本 浩助教授とともに開発した、Cバンドの技術を採用します。 ――Cバンドとは何ですか。 新竹:マイクロ波という電波の周波数帯の名前です。加速器では電子をマイクロ波によって加速するのですが、普通の加速器は2.8GHzのSバンドを使っています。私は5.7GHzのCバンドを使う技術を開発しました。周波数を2倍にすると、加速の効率が2倍になり、加速器の全長を半分に短くできます。ただし周波数を高くした分、電子を走らせる加速管にいっそう高い加工精度が求められます。加速管は銅を丸くくり抜いてつくるのですが、それには職人の技が必要です。また加速管に汚れがあると放電してしまうので、極めてクリーンな状態で加工し、据え付けないといけない。それには細かいノウハウの積み重ねが必要です。製造を担当する工場とは20年来の付き合いです。材料の銅も世界最高品質のものを使います。ある日本メーカーがつくる銅の電気伝導度は、世界標準値の105%です。それだけ純度が高いのです。日本はすごい国だと思いますね。 ――電子銃も新しい技術を開発しているそうですね。 新竹:アンジュレータを短くする分、電子銃から出る電子が平行でないといけません。私は大学院のときにランタンボライト(LaB6)のイオン源を開発した経験から、電子の発生源(熱カソード)に直径3mmのセリウムボライト(CeB6)の単結晶を使ってみることにしました。ただし普通の加速器の電子銃は900℃くらいで加熱しますが、CeB6は1450℃という超高温に加熱する必要があります。加熱に必要な電気エネルギーは約10倍になり、普通のヒーターではフィラメントが焼き切れてしまう。そこで、シリコンを超高温に加熱して単結晶をつくるときに使われるヒーターを採用しました。半導体製造工場を見学したときに、そのヒーターの技術を見つけたのです。この電子銃から出る電子の平行性(エミッタンス)は世界記録を達成しました。 ――10μmの精度で装置を真っすぐに並べるための工夫は? 新竹:ポイントの一つは装置を支える台です。台の高さは1mあり、熱膨張率が問題です。気温が1度変化すると、鉄では20μm上下してしまいます。そこでコージライトという特別のセラミックを使用しています。これは熱膨張率が鉄の20分の1。もともと送電線用の碍子(がいし)(絶縁体)に用いられていたものです。 ――加速器には、さまざまな技術が必要なのですね。 新竹:その通りです。新しい加速器をつくるには、あらゆる技術を総合的に見直す必要があります。私はこの20年間、新しい技術を求めて北海道から九州まで、日本中津々浦々をまわり、生産の現場を見てきました。例えば液晶の売り上げが伸びていると聞けば、その製造ラインをすぐに見に行く。そこで下請けの工場を教えてもらい、また見学に行く。お金が集中しているところには、新しい技術があるものです。 日本の生産現場は素晴らしいですね。優れた職人の技がたくさんあります。職人の人たちがいるからこそ、日本という国が成り立っていることを実感します。先ほどの加速管でもセラミックでも、職人の技が必要です。加速器もほとんどが職人さんたちの匠(たくみ)の技によって支えられているのです。 ![]() |
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二番手では意味がない
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――最後に欧米の動向とSCSSの今後の計画を教えてください。
新竹:いずれも目指す波長は0.1nmです。ドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)で進めているTESLA計画は、全長20mのプロトタイプ(原型)の装置をすでに完成させ、光を出しています。さらに2005年中に6nmのレーザーを出すことを目指しています。しかし、波長0.1nmのXFELを発生させる最終的な施設は、規模もコストもSCSSよりも数倍大きい。このためヨーロッパ全体(EU)の計画にして予算を確保しようと、EU各国を取りまとめているところです。 一方、私たちは、まずSCSSの第1期計画としてSPring-8の敷地内に全長約40mの装置を2005年に完成させ、波長60nmのレーザーを発生させたいと考えています。その後、日本全体の計画として予算が認められれば、全長1kmに拡張し、波長0.1nmのXFELの実現を目指します。伏兵は米国のスタンフォード線型加速器センター(SLAC)のLCLS計画です。これは1967年につくられた3kmの線型加速器を活用して、そこにアンジュレータをつなげる改造計画です。今年から改造を始め、2008年の9月には波長0.1nmのXFELを実現する計画です。 ――国際競争に勝ち抜く自信はありますか。 新竹:日米欧の中で、技術力は日本が最も優れていると思います。また発生するコヒーレントなX線レーザー光を取り扱うには高度な技術が必要ですが、石川哲也主任研究員(石川X線干渉光学研究室)のもとでその技術開発が精力的に行われ、世界に先んじて目処が付きつつあります。後は、予算次第だと思います。その予算が認められれば勝算はあります。科学研究の分野でも、いつも日本は出だしが遅く2番手になり、世界への貢献に遅れを取ってしまいます。XFELを使った研究をいち早く行えば、すべてが世界初の研究成果になります。フロンティアを拓く研究では、二番手では意味がないのです。■ |
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「第12回名古屋市・理化学研究所ジョイント講演会」が開催される
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クリスマスレクチャー「理化学研究所を楽しもう」が開催される
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「高峰譲吉 生誕150年記念展」が開催される
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新ユニットリーダーの紹介
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筑波バイオリソースセンター
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そもそも最初はセンターの名前になっている「バイオリソース」すら、何のことかよく分かってはいなかった。直訳すれば「生物資源」だが、これでは意味が広過ぎる。わがバイオリソースセンターが対象としているのは、バイオ研究で実験材料として用いられるリソースだ。そうしたリソースを集め、保存し、研究者への提供を行う。これがBRCの最も重要な使命である。 バイオ研究における実験材料の重要性は、誰もが認めるところであろう。何を実験材料として用いるか、どれだけ信頼性の高い実験材料を用いるかが、時として研究の成否を決めることさえある。にもかかわらず実験材料の確保・維持は、これまで研究者のボランティア的な活動や、外国からの材料提供に依存することが多かった。それがようやく、こうした研究活動の基盤となるものの整備にも目が向けられるようになってきた。そしてそれが理研においては、BRCの設立という形で現実化したのである。 こうした流れは、私個人のレベルでも実感がある。BRC着任前には日本DNAデータバンク(DDBJ)の事業に携わっており、研究の基盤整備をする立場、研究をする立場の2つの顔を持つようになって、かれこれ8年余りになる。最初のころはどちらの顔で接するかで研究者というものの態度がずいぶん違うなあと感じることがよくあったが、最近ではそのようなことはほとんどない。業績評価についていえば、かつては事業への貢献度は考慮の対象外であったが、BRCではバイオリソース事業への貢献度が業績評価の主要な部分を占める。こうした変化は研究基盤整備の重要性を認識している人が増えたことを反映しているのだといえよう。 しかしなぜ今、研究基盤整備にとって追い風が吹くようになったのだろう。当然いくつもの要因が考えられるのだが、ゲノムプロジェクトというのが結構大きな要因なのではないだろうか。 ゲノムの全塩基配列を解読する、という目的からも推測できるように、ゲノムプロジェクトはとにかく大量のデータを生産する。まずはゲノムの塩基配列データ。そしてそこから予測される遺伝子のアミノ酸配列データ、タンパク質の立体構造データ、等々。こうしたデータをデータベース化していた所では、DDBJもそうだったが、それまでのボランティア的かつ家内制手工業的な運営体制を改革せざるを得なかったほどである。さらに近ごろはゲノムデータから予測される遺伝子のノックアウト変異株など、実験材料まで生産し始めた。もはやこれは追い風などという生易しいものではなく、津波とでもいった方がよい代物だ。一刻も早く研究基盤整備をし、来るべき津波に備えなくてはならないのである。 思えば米国NIHのGenBankで初めてゲノムデータが登録・公開されたのが1995年。DDBJの事業に携わるようになったのが1996年。その年にはDDBJでもラン藻、大腸菌でゲノムデータの登録・公開が行われた。そして今はBRCで、来るべきバイオリソースの津波を待つ身である。まるで津波を何とかするために渡り歩いてでも来たかのようだ。実際には波の流れのままにここまで来ただけなのだが。 ■
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