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研究最前線
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SPOT NEWS
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記念史料室から
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原酒
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黙って座ればピタリと当たる
糖鎖DNAマイクロアレイ
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糖鎖の多様性
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研究チーム名にもなっている「糖鎖」とは何か。小堤チームリーダーは、こう説明する。「糖鎖とは、グルコースやマンノース、ガラクトースなどの単糖が鎖状に連なったものです。単糖は、主に細胞のエネルギー源として使われています。一方、糖鎖の働きは、単糖とはまったく違う。生物は、糖鎖を驚くほどいろいろなところで、巧みに利用しているのです」。糖鎖発現制御研究チームでは、生命活動に不可欠な糖鎖に注目することで、生命の仕組みに迫ろうとしているのだ。
では、糖鎖はどのような働きをしているのか。「タンパク質がつくられるときにも糖鎖は不可欠」と小堤チームリーダーは言う。多くのタンパク質は細胞の粗面小胞体で、DNAの塩基配列の情報をもとにアミノ酸が鎖状に連なってつくられる。このとき、タンパク質に糖鎖が結合する。タンパク質は、糖鎖の助けを借りて折り畳まれることで完成し、初めて機能を発揮することができるのだ。糖鎖がなければ、多くのタンパク質は正しく折り畳まれず機能しない。 また、糖鎖の多くは、細胞膜に存在するタンパク質や脂質と結合して、糖タンパク質や糖脂質として存在している。生物は、細胞膜から突き出た糖鎖を情報伝達に利用しているのだ。しかし、単糖が連なっただけの糖鎖で、なぜ複雑な情報伝達が可能になるのだろうか。 「ヒトの単糖は十数種類しかありません。しかし単糖は、共有結合のつながり方によっていろいろな構造になります。しかも糖鎖は、長いものでは数百個もの単糖が連なっています。さらに、単糖はそれぞれ共有結合の“手”を三つ以上持っていますから、糖鎖はY字形や十字形に分岐することもある。しかも、アセチル基や硫酸基がいろいろな場所に付きます。考えるとうんざりしてくるほど糖鎖の種類は多様で、無限大といってもいいほどです。タンパク質が、多様な糖鎖を特異的に認識して結合することで、複雑な情報伝達を可能にしているのです」 |
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糖鎖関連DNAマイクロアレイを開発
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小堤チームリーダーは、「著しい多様性ゆえに、糖鎖の解析は非常に骨が折れる」と指摘する。「糖鎖発現制御研究チームは、複雑な糖鎖の発現機構や機能を明らかにするためのDNAマイクロアレイをつくることを目指して設立されたのです」
DNAマイクロアレイとは、小さな基板上にたくさんの種類のDNAを規則正しく並べたものである。調べたい細胞から抽出したmRNAに蛍光ラベルを付けて基板上のDNAと反応させることで、蛍光の色と強さからどの遺伝子がどのくらい発現しているかを知ることができる。研究チームが開発している糖鎖関連DNAマイクロアレイは、これまでのDNAマイクロアレイと、どう違うのだろうか。 「アレイ自体は基本的には変わりません」と小堤チームリーダーは答える。「しかし、複雑な遺伝子支配の糖鎖を対象にしているため、マイクロアレイのデータから直接遺伝子支配のメカニズムが分かる解析法を開発するのが中心課題です。うまくいけば糖鎖以外の分野にも応用可能になります」 糖鎖を構成している単糖の配列は、タンパク質のアミノ酸配列のように遺伝子の情報から直接つくられるわけではない。遺伝子の情報から糖転移酵素というタンパク質がつくられ、その糖転移酵素の働きによる複雑な過程を通じて糖鎖が生合成されるのである。 「単糖1個について1個の糖転移酵素が働いていますから、単糖が10個連なっていれば、それぞれの糖転移酵素をつくり出す10個の遺伝子が関係していることになります。分解酵素も単糖ごとにそれぞれ違い、糖鎖の発現や機能を知ろうとしたら、その背景にあるものすごくたくさんの遺伝子を調べなければならないのです(図1)。私たちが目指したのは、糖鎖関連遺伝子に特化した、かゆいところに手が届くようなDNAマイクロアレイです」 糖鎖発現制御研究チームでは、DNAマイクロアレイを開発・バージョンアップする際には、糖鎖の研究をしている国内の20〜30ヶ所の研究室や海外の数ヶ所の研究室にメールを送る。DNAマイクロアレイに載せてほしい遺伝子のリクエストを聞くためだ。 研究チームでは、国内外の研究室からの依頼を受け、このDNAマイクロアレイを用いて共同で解析を行っている。糖関連遺伝子に特化したDNAマイクロアレイを開発し解析をしている研究室は、糖鎖発現制御研究チームのほかに、アメリカに1ヶ所あるだけだ。「糖鎖に関連する遺伝子の発現を調べたければ、私たちのところで解析するのが一番手っ取り早く、確実でしょう」と小堤チームリーダーは胸を張る。 ![]() |
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糖鎖研究の複雑さと期待
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研究チームでは、DNAマイクロアレイの解析結果をもとに、糖鎖の発現機構や機能の詳細な解析も行っている。小堤チームリーダーは、免疫に関連する糖鎖に興味を持ち、研究を進めたいと考えている。しかし、「糖鎖の研究は骨が折れる」と繰り返す。
その理由はいくつかある。DNAの塩基配列を解析するにはDNAをPCR法で増幅したり、タンパク質であれば大腸菌に遺伝子を導入して大量につくることができる。しかし、糖鎖はこのような方法でつくることが難しい。糖鎖をつくるには多くの遺伝子が必要で、そのすべてを大腸菌に導入することはできないからだ。生体組織や培養細胞から取ることが多く、解析に使える量は非常に少ない。「タンパク質の構造解析も難しいといわれますが、それは3次元の構造解析です。糖鎖の場合は、単糖がどのように配列しているかという2次元の構造解析ですら完全に自動化できる状況ではありません。3次元構造となると、これからです」 糖鎖の3次元構造が分かるようになると、創薬にも大きく貢献する。病気の多くはタンパク質の異常によって起きる。タンパク質は糖鎖に結合して機能を発揮するものが多いため、糖鎖の3次元構造が分かれば、タンパク質の特定の機能を効果的に強めたり弱めたりできる薬をデザインすることが可能になると期待されている。 小堤チームリーダーの狙いは、もう一つある。「糖に関係する合成や代謝の異常が原因になっている疾患は、たくさんあります。例えば、単糖20個から成る糖鎖の場合、それぞれの転移反応を行う20個の遺伝子がみんな同じように寄与しているわけではないでしょう。きっと糖鎖の機能を決めている鍵となる遺伝子があるはずです。それが分かれば、鍵となっている遺伝子や対応する単糖の働きを調整することで、糖鎖の機能を制御して、治療に応用することもできるようになるでしょう。DNAマイクロアレイを使って、ぜひ、このあたりを攻めたいと思っています」
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冬虫夏草とスフィンゴ脂質
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「私たちの研究チーム設立の目的は、もう一つあります」。そう言って、小堤チームリーダーは茶色い物体を見せてくれた(記事冒頭写真)。「セミの幼虫から生えたキノコです。冬虫夏草と呼ばれ、漢方薬の三珍に数えられているものです」小堤チームリーダーは1994年、京都大学の藤多哲朗教授(当時)とともに、冬虫夏草菌の一種であるIsaria sinclairii(イサリア シンクライリ)菌から、免疫を抑制する作用を持つISP-1という物質の機能を明らかにした。ISP-1は、それまで知られていた免疫抑制剤とは作用機構が違っていたために注目を集め、現在も臨床への応用が進められている。これが、小堤チームリーダーと冬虫夏草の出会いだが、それだけでは終わらなかった。 「ISP-1の構造を見たとき、どこかで見た構造だなと思ったのです。それが、糖脂質の脂質部分であるスフィンゴ脂質の構成成分の一つであるスフィンゴシンだったのです(図2)」 小堤チームリーダーは、ISP-1にスフィンゴ脂質の合成を抑制する働きがあるのではないかと考え、研究を進めた。「予想通りでした。ISP-1は、スフィンゴ脂質の生合成の第一段階を担っているセリンパルミトイルトランスフェラーゼという酵素の働きを阻害することが分かったのです。細胞にISP-1を入れるとスフィンゴ脂質が減少し、細胞はアポトーシスによって死んでしまいます」 スフィンゴ脂質とは細胞膜を構成する脂質の一種で、糖鎖と結合して細胞の情報伝達にとても重要な役割を果たしていることが分かり、最近注目されている。しかし、その機能はまだ十分に理解されていない。研究チームでは、ISP-1を使いスフィンゴ脂質の合成を抑制すると何が起きるかを調べ、スフィンゴ脂質の機能を解明しようとしている。 すでに注目すべき結果も出ている。「ISP-1を入れても生きている細胞が見つかったのです。調べてみると、グリセロリン脂質にリン酸基を付ける遺伝子の発現が高くなっていました。グリセロリン脂質は、膜脂質の中でもメジャーな脂質です。スフィンゴ脂質が減少している中で生命を維持するためには、グリセロリン脂質にリン酸基を添加する必要があるらしい。そこにスフィンゴ脂質の機能につながる鍵があるのではないかと、研究を進めているところです」。ISP-1に耐性を持つ遺伝子は、酵母で9個見つかっており、順次解析をしている。 スフィンゴ脂質は、細胞質の分裂にもかかわっていることが分かってきた。スフィンゴ脂質の構成成分の一つであるサイコシンが細胞に蓄積すると、核は正常に分裂するが細胞質は分裂できず、多核細胞となる(表紙上段)。「サイコシンは、スフィンゴシンにガラクトースという単糖が1個付いただけです。それだけで、細胞質分裂を阻害するという作用が出てきてしまう。これは、かなり驚きでしたね」と小堤チームリーダーは語る。「スフィンゴ脂質にしても糖鎖にしても、それが原因でいろいろな異常が起きることは分かってきた。でも、その機構となると、まだブラックボックスなのです。糖鎖、そして糖脂質や糖タンパクの研究は、まだまだ開拓の余地があります。だから面白い」 小堤チームリーダーいわく、「キャッチフレーズは、マイクロアレイ一発で糖鎖の遺伝子支配が分かる」。糖鎖発現制御研究チームが開発した糖鎖関連DNAマイクロアレイは、糖鎖研究を強力に推し進め、新しい世界を開拓するに違いない。■
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脳の解読装置をつくる
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脳波から知りたい情報だけを引き出す
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脳は電気信号を発する神経細胞が100億個以上集まって巨大なネットワークをつくっている。その一つ一つの神経細胞が発する電気信号はとても弱いので、脳を傷つけずに外側から計測することはできない。しかし約1000個以上の神経細胞が同時に活動して電気信号が発生すると、脳の外側で電位の変化として計測できる。それが脳波だ。
脳波には、呼吸や歩行をコントロールする活動や、見たり聞いたりしたものを認識する活動など、脳のあらゆる活動に伴う成分が複雑に混じり合い、さらに心臓の拍動(はくどう)やまばたきなどに伴うノイズも混じっている。 ポーランド出身のAndrzej Cichocki(アンジェイ チホツキ)チームリーダーは、信号処理の専門家として10年前に来日し、脳波を解読する研究チームを理研で立ち上げた。さまざまな成分が混じった信号の中から、知りたい情報だけを引き出す「ICA(Independent Component Analysis:独立成分分析)」の研究において、Cichockiチームリーダーは、脳科学総合研究センターの甘利俊一センター長と並び、世界的に著名な研究者である。ICAは高度な数学的手法を用いた解析方法で、例えば複数の画像が重なったものから、元の画像を分離することができる(図1)。Cichockiチームリーダー率いる脳信号処理研究チームでは、このICAという独自技術を用いて、脳波からどのような情報を引き出し、解読しようとしているのだろうか。 ![]() |
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脳波からアルツハイマー病の兆候を発見する
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2004年、脳信号処理研究チームは、脳波からアルツハイマー病の兆候を高い確率で発見できる可能性を示し、大きな反響を呼んだ。アルツハイマー病は神経細胞の細胞死により脳が萎縮(いしゅく)し、人格が破壊されていく進行性の認知症(痴呆(ちほう)症)である。アルツハイマー病は加齢とともに発症率が増加するので、高齢化社会の進展により患者数が急増することが確実視されているが、根本的な治療法はまだない。ただし、病気の進行を遅らせる薬が開発されつつあるので、できるだけ早い段階でアルツハイマー病の兆候を発見することが重要である。
「通常の診断で発見できる症状が表れる前の段階で、アルツハイマー病を早期発見することは非常に難しい課題です。この課題に対して私たちはまったく新しい手法を提案し、開発を続けています。症状が表れる数年前に、アルツハイマー病に伴う脳波のパターンや特徴を検出することができる一連の信号処理手法です。この手法は中・高齢者を対象にしたアルツハイマー病の定期集団検診の可能性を拓くものです」とCichockiチームリーダーは語る。 現在、PET(陽電子放射断層撮影装置)やMRI(核磁気共鳴画像診断装置)などによりアルツハイマー病を診断する方法が開発されつつあるが、その診断にはかなりのコストがかかる。 一方、Cichockiチームリーダーらが開発を進めている手法は、一般の病院で既に使われている標準的な脳波計を用いた測定データを解析するため、格段に安価な診断法となる。またPETによる計測では微量の放射性同位元素でラベルした化合物の投与が、MRIによる計測では強力な磁場が必要だが、脳波の計測ではそのような必要がなく、簡便で安全性が高い。開発に成功すれば、アルツハイマー病の定期集団検診の手法として一気に普及するだろう。 アルツハイマー病の症状は、記憶力の低下や無気力、うつ状態などに始まるが、そうした具体的な初期症状が表れる何年か前から、海馬と呼ばれる脳の奥にある領域で神経細胞の細胞死が始まると考えられている。神経細胞が死ぬと電気信号を出さなくなる。それを反映して脳波の周波数や振幅の時間変動パターンが変化するはずだ。それを目印に、アルツハイマー病の兆候を発見するのだ。 脳波から知りたい情報だけを引き出すには、まずノイズを取り除く必要がある。その後、ICAを使って、それぞれ独立した成分に分離する。さらに、分離した成分が脳のどこで発生したものかを画像として示すことができる(表紙下段)。「分離した成分の中に、海馬で神経細胞が死に始めたことを示す脳波のパターンが3〜4個ほど見つかるはずです」とCichockiチームリーダーは語る。ただし、分離された成分は極めて微弱である。従来はそのような微弱な成分は、脳波を200〜300回も計測し、加算平均という手法で検出する以外に方法がなかった。しかしそれでは検査に長時間かかり、集団検診に応用できない。研究チームでは、ICAを用いて1回の脳波計測で微弱な信号を検出することを目指している。 アルツハイマー病の兆候を示す目印となる脳波パターンを見つけるには、数年後にアルツハイマー病を発症した人と正常の人の脳波を比べて、統計的に違いを探し出す。しかし、誰が数年後にアルツハイマー病を発症するかは、事前には分からない。多くの中・高齢者の脳波を定期的に計測するとともに、症状が表れたかどうかを追跡調査する必要がある。研究チームでは医療機関の協力を得て、それぞれ100名ほどのデータを集めて比較し、アルツハイマー病の症状が数年後に表れた人だけに見られる脳波パターンを発見した(図2)。このパターンを目印にすると、数年後にアルツハイマー病になる人を約92%の確率で発見できる。 「見つかった脳波のパターンが、本当にアルツハイマー病による神経細胞の細胞死を反映したものなのかを確かめるとともに、世界各地から採取された大量のデータの解析とコンピュータシミュレーションにより、この診断法の有効性を確認することが今後の課題です」 この方法は、アルツハイマー病だけでなく、パーキンソン病など脳のさまざまな病気にも有効なはずだ。また病状がどの段階かを診断したり、投薬の効果を調べることもできるだろう。「私たちと同じように脳波でアルツハイマー病など脳の病気を診断しようという研究グループが、世界に2〜3ヶ所ありますが、ICAという独自の方法を持つ私たちが世界をリードしていると思います」とCichockiチームリーダーは自信を見せる。 さらにICAを用いたこの方法は、脳波だけでなく、例えば心臓の拍動に伴う心電図など、体のあらゆるところから発生している生体信号を計測して診断に応用することができる、とCichockiチームリーダーは考えている。「例えば、妊婦の生体信号を計測して胎児の心電図の成分だけを分離し、わずかな異常を見つけることもできるでしょう」
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脳波でコンピュータを操る
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脳の信号によりコンピュータを直接操作するBCI(Brain Computer Interface)の研究が、近年盛んに行われている。例えばサルの脳の運動野に電極を埋め込み、神経細胞が発する電気信号をとらえてコンピュータのカーソルを動かしたり、ロボットアームを操る実験の成功例が報告されている。筋力が衰える病気の人や、脊髄(せきずい)が傷つき体の自由が奪われた人にとって、BCIは生活上の重要な手段となり得る。米国ではBCIを目的とした電極の埋め込み手術を5〜10年後に医療行為として実用化しようという動きがある。
一方、脳信号処理研究チームでは、手術することなく、脳波でBCIを行うことに挑んでいる。脳波でコンピュータのカーソルを上下左右に動かし、クリックすることさえできれば、さまざまなコンピュータ操作が可能となり、障害を持つ人のQOL(Quality of Life:生活の質)は大きく向上する。 現在、研究チームでは計測した脳波のデータをコンピュータに取り込んでICAを駆使して解析し、カーソルを約70%の確率で左右の望む方向へ動かすことに成功している。実用化への課題は、その確率を高めるとともに、リアルタイムで操作できるようにすることだ。つまり、「カーソルよ、右へ行け」と1回考えただけで、素早く、確実にカーソルが右へ動くようにすることである。将来は、ロボットアームを3次元で動かすことを目指している。 |
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脳波で心理状態や思考過程に迫る
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脳を傷つけずにその活動を高い空間分解能で調べることができるPETやMRIの登場により、脳科学が大きく進展している。しかし、神経細胞の活動に伴う血流量や代謝量の変化をとらえるPETやMRIは、原理的に時間分解能があまり高くない。何か外部から刺激を与えて脳が活動しても、それをリアルタイムで計測できないのだ。しかも装置の中に脳を固定して測定しなければならない。
一方、脳波は脳を固定せずに電極を付けた帽子をかぶるだけで計測できるので、さまざまな課題を行う実験ができる。また脳波は神経細胞の電気信号に伴う電位の変化なので、1000分の1秒以下の時間分解能で脳活動をとらえられる。ただし従来、脳波から知りたい成分だけを分離し、その成分がどの領域から発生したものか高い空間分解能で突き止めることが難しかったため、脳波から解析して得られる情報には限りがあった。 ICAを駆使して脳波を解析すれば、これまで計測できなかった脳活動をとらえ、脳科学の発展に貢献できるはずだ。例えば、従来は脳波を解析しても、気持ちが良いか悪いかくらいしか判別できなかった。研究チームでは、悲しい・怖い・うれしい・驚く・いらいらする・じれったい、などの細かい心理状態を、ICAを駆使して脳波で計測する研究を進めている。脳波で心理状態を細かく計測できれば、自然科学の研究テーマになりにくかった心理学的な研究を推進できるだけでなく、例えば自動車のドライバーの心理状態を計測して危険な場合は自動的に止まるようにしたり、広告のインパクトを計測したりすることもできるだろう。 脳の情報処理過程を、脳波によって調べる研究にも取り組んでいる。脳は視覚や聴覚など異なる情報を統合して判断したり、大切な情報だけに注目して情報処理を行うことができる。そのメカニズムは脳科学における最大の謎の一つだ。研究チームでは、異なる情報処理に伴う脳波の各成分がどのように変化するかを高い時間分解能で調べて、この謎を解明しようとしている。「仕組みを解明して理論モデルをつくり、ロボットに応用したいと考えています」とCichockiチームリーダーは夢を語る。 脳信号処理研究チームが開発している脳の解読装置は、脳科学や医学、ロボット工学などあらゆる分野に大きなインパクトを与えることだろう。■
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カーボンナノチューブで
人工原子を実現 ナノエレクトロニクスの新素材としての 2005年5月10日、文部科学省においてプレスリリース |
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――カーボンナノチューブ(CNT)について教えていただけますか。
石橋:CNTは直径1ナノメートル(1nm=10億分の1m)程度の筒状の構造で、炭素でできています。筒の巻き方で半導体になったり金属になったりします。ナノサイズの加工は、半導体微細加工技術では実現が不可能なため、CNTは真のナノデバイス用材料として期待しています。 |
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――人工原子とはどのようなものですか。
石橋:原子は原子核の周りを電子が回っているというイメージがありますが、これを一般化すると、原子核がつくる引力ポテンシャルに電子が束縛されたものと考えることができます。そう考えると、CNTのような1次元のポテンシャルの中に電子を閉じ込めた構造も人工原子と考えることができます。半導体人工原子は2次元的な放物線型ポテンシャルに閉じ込められた人工原子ということができますが、CNT人工原子の方がずっと小さいので、より自然の原子に性質が似ています。人工原子では、原子の性質や構造を、電圧などにより外部から制御できることが大きな特徴です。 |
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――ゼーマン分裂について説明していただけますか。
石橋:古典的なイメージですが、電子を丸い粒子のように考えると、電子は自転をしています。自転の方向には上向き(右回り)と下向き(左回り)があり、この自転をスピンと呼びます。スピンというのは小さな磁石のようなものなので、磁場の方向を向こうとします。通常、電子スピンのエネルギーは左右どちら向きに回転していても等しい(スピン縮退)のですが、磁場の中に入ると磁場と同じ向きのスピンの方が、磁場と反対向きのスピンよりエネルギーが低くなります。このように磁場の中で2つの異なったエネルギー準位を持つことを“ゼーマン分裂”といいます。量子ビットはエネルギーの異なる2つの準位(2準位系)のことで、磁場により準位が2つに分かれる(ゼーマン分裂)スピン状態は、まさに量子ビットそのものとなります。 |
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――CNT人工原子の作製方法について教えていただけますか。
石橋:今回は、1本のCNTの両端に300ナノメートルほど距離を置いて金属電極を形成しました。そうすると、電極間のCNTが1つの人工原子のように振る舞います。CNTに最先端の半導体微細加工技術を施してつくったものです。 |
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――今後目指しているものを教えてください。石橋:今回の研究で、1個の電子スピンを人工原子の中に実現できました。これは、まさにスピン型の量子ビットで、次の目標はビットを操作することです(図)。また、スピン型量子コンピュータに必要なコヒーレンスがどのくらい維持できるのかも調べたいと思います。そのほか、超低消費電力が期待できる単電子デバイスの室温動作に向けたデバイスプロセス開発も行っていきたいと考えています。■ |
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プレスリリースは下記URLを参照ください。 http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2005/050510/index.html ※本成果は、米国の学術雑誌『Physical Review Letters』のウェブサイト上にオンライン出版されるとともに(5月11日)、5月13日号に掲載され、毎日新聞(5/11)など多数の新聞に取り上げられた。 |
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筋肉組織の構築に細胞ストレスが
必要なことを発見 生物はストレスを体づくりに役立てる 2005年5月23日、文部科学省においてプレスリリース |
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――「細胞ストレス→カスパーゼ※→アポトーシス」という作用の過程で、なぜ筋芽細胞の分化(筋肉づくり)が起きるのでしょうか。
森島:細胞ストレスが生じると、細胞内でさまざまなシグナル伝達系が働きます。それによって遺伝子発現パターンやタンパク質合成パターン、分解パターンが変化します。その変化が一方でアポトーシスを起こさせ、他方では筋肉づくりを促進する方向に働くのだと思います(図)。ただし、ストレスによるシグナルだけではおそらく筋肉はできず、小胞体ストレス由来のシグナルのほかに、筋肉づくりに必要なシグナルが重層的に働いていると考えられます。 ![]() |
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――カスパーゼとアポトーシスの関係を教えてください。
森島:カスパーゼがアポトーシスの実行役であることはすでに分かっています。カスパーゼの活性化がある閾値(いきち)を超えると、後戻りができなくなります。たくさんの筋芽細胞の中で小胞体ストレスが生じてカスパーゼが働き始めますが、大半は閾値を超えず細胞は踏みとどまり、筋肉になります。
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――筋芽細胞が分化する過程を細胞ストレスがコントロールしていると考えてよいのでしょうか。
森島:その通りです。ストレスがコントロールする(正確にいえば、重要な働きをしている)というと、逆説的な感じがするところに意外性があって面白いと考えています。これが分かったのは、筋分化に付随するアポトーシスが起こる仕組みを探ったおかげです。筋分化に細胞死が伴うことは50年以上も前から知られていたにもかかわらず、その仕組みはほとんど分からず、あまり注目もされてこなかったようです。 |
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――今回の成果は、筋肉をつくり過ぎないように、カスパーゼが働いているという自然界のストーリーの中で、カスパーゼを検出して、細胞ストレスの働きを確認したところにあるのでしょうか。
森島:その問いの前半は「カスパーゼが働いて一部の細胞が死ぬ意義は何か」という質問に関連すると思います。その意義は筋肉をつくり過ぎないためなのかもしれませんが、わざわざストレスがきっかけになっていることからすると、ストレスに耐える細胞だけを選んでいるようにも見えます。後半についてはその通りで、カスパーゼ12が活性化していることは、その原因となっている小胞体ストレスが生じていることを示しています。 |
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――今後期待することは何でしょうか。
森島:小胞体ストレスをコントロールすることで筋分化を制御する道が開ける可能性が出てきました。高齢者や入院中の患者さんにとっては、良好な筋組織をつくることが高いQOL(Quality of Life:生活の質)の維持に必要です。胚発生時の筋分化と成体の筋分化には共通点があるので、筋肉づくり一般への応用を期待しています。また、「善玉」ストレスが筋肉以外の組織づくりで活躍しているかどうかも探っていきたいと考えています。■ |
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プレスリリースは下記URLを参照ください。 http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2005/050523/index.html ※本成果は、米国の学術雑誌『Journal of Cell Biology』(5月23日号)に掲載され、朝日新聞(5/27)など多数の新聞に取り上げられた。 |
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和田 水と山形の紅花 |
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和田 水は、明治39年(1906年)に東京市神田(現・千代田区神田)で生まれた。「水」という変わった名前は、自由民権運動の論客だった父親が、「和田という田の水が枯れないように」と願って名付けられたといわれている。13歳で父の郷里の徳島に移り住んだ和田は、地元の徳島女子高等師範学校から東京女子高等師範学校へ移り、その後、理研の研究員を兼ね、紅花の色素の構造決定に取り組むこととなる。
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昭和6年(1931年)に理研の真島研究室に採用された和田は、黒田チカ(1884〜1968)の助手となった。真島利行(りこう)(1874〜1962)は漆の研究で知られ、東北帝国大学に女子の入学を認めた教育者の一人で、黒田を天然色素の研究に導いた人である。和田は昭和5年(1930年)、カーサミン(紅(べに)の色素)の生合成の研究で、保井コノ(1880〜1971、植物学者)、黒田に続き女性で3番目の理学博士となった。この真島と黒田の二人の計らいは、研究を志す和田に大きな影響を与えた。
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理研に入所して10年が過ぎたころ、黒田を介して東京帝国大学の服部静夫教授を頼り、その植物学研究室に移ることになった。しかし女人禁制であった当時の帝国大学で、和田の身分は学生でも助手でもなかったため、決して居心地のいいものではなかった。
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文部省の資源科学研究所に移った和田は、研究所の敷地内に住んでいたが、このころ近所からアザミに似た黄色い草花をもらった。この花こそ、恩師である黒田が色素の構造決定に成功した山形県の花、紅花であった。この花は数多い小さい筒状の小花(しょうか)の集まりで、つぼみから満開まで黄色、満開を過ぎると赤い細胞が現れ、だいだい色から濃い赤になって枯れる。紅花はこの一連の反応を行い、紅の色素、カーサミンを合成しているのである。黒田のもとで学んだ色素構造の基礎や生合成機構の研究などを蓄積させた和田の研究成果は、花弁処理法から色素の工業的抽出分離法に及び、合わせて5件の特許を取得し、大手化粧品メーカーの手で商品化されることになった。紅花の研究に生涯をかけた和田は毎年、花が咲くのももどかしく、山形へ通っていた。
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2005年6月1日、山形県鶴岡市にある慶應義塾大学先端生命科学研究所と理研植物科学研究センター(PSC)が、「メタボローム」研究に関する基本合意書を締結した。わが国全体の生体内代謝研究の基盤形成に向け協力することを目的としたものである。和田が毎年、山形へ通って得た成果がこのような形で受け継がれ、発展しようとしている。 ■
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新理事に坂田東一氏が就任
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7月16日、坂田東一氏が理事に就任しました。当研究所の発展に尽力された小中元秀氏は、7月14日をもって理事を退任しました。 |
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新監事に橋本孝伸氏が就任
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7月1日、橋本孝伸氏が監事に就任しました。当研究所の発展に尽力された林 剛 氏は、6月23日をもって監事を退任しました。 |
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感染症研究ネットワーク支援センターを新設、
永井美之氏がセンター長に |
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理研は、文部科学省の「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」を支援することを目的に、横浜研究所に7月1日、「感染症研究ネットワーク支援センター」(Center of Research Network for Infectious Diseases:CRNID)を発足させました。 「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」は、SARS、鳥インフルエンザをはじめ多様な感染症研究のための人材を育成し、また効率的かつ効果的な研究を実現するため、拠点となる大学などの研究機関を中心に国内の研究体制を整備し、海外にも研究拠点を設けて、医学・獣医学などの連携による総合的な研究を推進するものです。支援センターはこのプログラムの推進のため、国内外の研究動向の調査、シンポジウムの開催、人材育成、国内外の研究機関との連携および協力に関する業務などを行います。支援センター長には、富山県衛生研究所長の永井美之氏が就任しました。 |
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役員の報酬等および職員の給与の水準を公表
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当研究所は、役員の報酬等および職員の給与の水準をホームページ上で公表しました。詳細は下記URLをご参照ください。 http://www.riken.jp/r-world/disclosure/info/pdf/kyuyosuijyun.pdf |
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日焼けは身体に悪い?
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最近、真っ黒に日焼けした子供にあまりお目にかからなくなったような気がする。少なくとも自分が小学生のころ、日焼けは健康のバロメーターであり、夏休みが終わると同級生は皆真っ黒になって教室に戻ってきたものである。自分が田舎育ちで、遊びといえば友達と外で遊ぶのが当たり前だったのに比べて、今の子供たちにはTVゲームやカードゲームなど、室内でも結構楽しく遊べるネタがいくらでもあるようだ。こういう遊びのスタイルの変化は確かに一つの要因ではあろうが、当時と今で明らかに違っていることがある。それは「紫外線は身体に悪い」という意識が世の中に広く浸透してきたことだ。紫外線をカットする新商品は次から次へと出てくるし、気象庁も今年5月から紫外線予報なるものを出し始めた。保育園に通っている息子も、天気の良い日に園庭で遊ぶときには、後ろに垂れが付いた消防士みたいな帽子をかぶらされている。聞けば、首筋が日に焼けないように、との配慮なのだそうだ。紫外線がなぜ有害なのか? それは、皮膚の細胞の遺伝子=DNAが傷つけられるからである。DNAの傷は突然変異のもとであり、それがたまるとがんの発生にもつながる。だが、私たちが思いっきり日の光を浴びてもそう簡単に皮膚がんになるものではない。それは、紫外線によってできたDNAの傷を元通りに治す、修復機構が働いているからである。しかし、色素性乾皮症(xeroderma pigmentosum、略してXPと呼ばれる)という遺伝病の患者さんは、不幸にもこの修復機構に生まれつき異常があるため、普通に日なたを歩くだけでも皮膚がんを起こしてしまう。1990年に理研に入所して以来、私はこの修復機構の解明を中心テーマとして研究を行っている。 ゲノムDNAの修復は、よく線路の修理に例えられる。延々と続く線路に起きたわずかな異状を見逃さず、修理要員を呼んでくる点検作業員の仕事は大変だが、事故を防ぐためにはとても大事である。私たちの研究室で10年ほど前に見つけたXPCというタンパク質は、まさにこの点検作業員の役目を果たしている。つまり、DNAの傷をXPCが見つけて結合すると、それを目掛けていろいろなタンパク質が集まってきて修復を始めるのである。最近私たちは、この点検作業員が傷を見つけやすいようにサポートするシステムが存在することを明らかにし、プレス発表※もさせていただいた。さらに研究を進めて、何とかしてこの修復機構そのものをパワーアップすることができれば、紫外線による皮膚がんの脅威を減らすことにつながる。私たちの研究の一つの目標がここにある。 日焼けして肌の色が黒くなるのは、紫外線を皮膚の奥まで通さないようにするための防御反応であって、それ自体は決して悪いことではない。体内でビタミンDを活性化するのに紫外線が必要なことはよく知られているし、ただ遮ってしまえばいいというものでもないだろう。だが、オゾン層の破壊が進んで地表に降ってくる紫外線が増えれば、私たちが本来持っている修復能力では皮膚がんを防ぎきれなくなるかもしれない。子供たちが安心して外遊びするのに自分たちの研究が役に立つのか、そんなことはこの研究分野に足を踏み入れたときには正直あまり意識していなかった。地球環境がこれ以上悪化しないことを願いつつも、ついそんなことを考えさせられてしまう昨今である。 ■ ※プレスリリースは下記URLを参照ください。 http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2005/050506/index.html |
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