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アルツハイマー病の
根本的な治療薬をつくる 岩田修永 |
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老年人口の半数が痴呆症になる?
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アルツハイマー病の症状は、記憶力の低下や無気力、うつ状態などに始まる。やがて会話や日常動作に支障を来すようになり、徘徊(はいかい)、不潔行為などが現れ、家族の顔さえ分からなくなる。そして末期には無言・無欲の寝たきり状態となる。アルツハイマー病は、患者本人の尊厳を傷付け、家族へ計り知れない悲しみや負担を強いる、進行性の痴呆症である。
現在、アルツハイマー病の患者数は日本で140万人、北米(米国・カナダ)で450万人と推計されている。今後、平均寿命が延び、高齢化社会が進展するにつれて、患者数が急増することが確実視される。例えば北米では、2025年に65歳以上の約6割がアルツハイマー病をはじめとする痴呆患者になるとの予測もある。「アルツハイマー病は脳の老化に伴って誰もがかかり得る病気であり、平均寿命が長い社会ほど、発症率が高くなるからです」と岩田副チームリーダーは説明する。アルツハイマー病の根本的な治療法の確立は、現代社会の緊急かつ最重要課題である。 |
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脳内で何が起きているのか
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アルツハイマー病患者の脳では、記憶に重要な役割を果たす海馬や、言語や認知、思考など人間らしい高次機能を担う大脳皮質の神経細胞が失われている。
現在、アルツハイマー病は次のように進行すると考えられている(図1)。まずAβが神経細胞外に放出されて蓄積し、凝集・沈着して「老人斑」と呼ばれる異常構造物をつくる。 老人斑の出現の後、神経細胞の内部に「神経原線維変化」と呼ばれる、糸くずまたは糸玉のような形の物質がたまる。神経原線維変化は、タウと呼ばれるタンパク質が、正常な細胞骨格には見られないPHF(paired helical filament)という特異な線維束を形成して、できたものだ。タウの本来の役割は、微小管に結合して形を安定化させることである。微小管は細胞の構造を保つ骨格であり、物質の通り道でもある。しかし、タウが神経原線維変化をつくるようになると、微小管の形が不安定化し、神経細胞の機能不全や細胞死が起きる。やがて多くの神経細胞が失われ、脳が萎縮(いしゅく)して痴呆が発症する。
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Aβ蓄積が発症の引き金?
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アルツハイマー病の研究は、長い間、病理学的な観察にとどまり、発症メカニズムの解明は進展しなかった。現在でも、老人斑と神経原線維変化の関係など、一連の現象の因果関係はよく分かっていない。
「アルツハイマー病は、脳の老化に伴い数十年かけてゆっくりと進行する現象なので、因果関係を調べにくいのです。しかし、一連の現象がAβ蓄積から始まること、 Aβの異常蓄積はアルツハイマー病だけに見られることなどから、Aβ蓄積が発症の引き金だと考えられるようになりました」 Aβはアミノ酸が40個あるいは42個連なったペプチドである。正常な状態では、Aβはつくられた後、すぐに分解されるので蓄積しない。ところがアルツハイマー病の脳では、Aβ40に比べ凝集しやすいAβ42が蓄積していって、老人斑の主成分となる。このAβの蓄積が発症の引き金だと考える「Aβ仮説」を裏付ける重要な発見が、1990年代半ばにあった。 アルツハイマー病には、発病のリスクが高い家系がある。その家族性アルツハイマー病の原因として、アミロイド前駆体タンパク質(APP)や、プレセニリン1、プレセニリン2の遺伝子変異が次々と発見された。そのいずれもがAβ42の産生量を高めることが分かったのだ。「この発見がブレークスルーとなり、多くの研究者が Aβ産生系に注目し、解明が進みました」 APPは細胞膜を貫通している膜タンパク質である。このAPPを、まずβセクレターゼという酵素が細胞の外側で切り、さらにγセクレターゼという酵素が細胞膜内部で切断して、Aβを切り出す。プレセニリン1と2はγセクレターゼの構成要素である。これらAPP、プレセニリン1、プレセニリン2という3種類の遺伝子のうち、1種類の変異でも両親のどちらか一方から受け継ぐだけで、Aβ42の産生量が高まり、40歳くらいまでにアルツハイマー病を発症してしまう。 Aβの恒常的な量は、産生速度と分解速度のバランスで決まる。家族性アルツハイマー病では産生速度が増加するため、分解しきれなくなってAβが蓄積され、老人斑をつくる。例えば、プレセニリン1の変異遺伝子を組み込んだマウスのAβ42蓄積量は、野生型と比べて1.5倍上昇するという実験データが報告されている。「Aβ蓄積量が極端に増えるわけではなく、産生と分解の微妙なバランスが崩れて1.5倍上昇するだけで、発症の引き金になるのです」 |
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Aβの分解酵素を突き止めた
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アルツハイマー病患者全体の中で家族性の割合は約1%であり、残りの約99%は遺伝性のない孤発性アルツハイマー病である。しかもその患者の脳内では、Aβ産生量の明確な上昇は見られない。
「私たちは、孤発性アルツハイマー病では分解系の機能が低下して、Aβ蓄積が起きるのだろうと考えました」。多くの研究者がAβの産生系に注目して研究を進める中、神経蛋白制御研究チームはAβ分解系にいち早く注目して、1997年後半から研究をスタートさせた。 「当時はまだ、脳内のAβ分解系について、ほとんど何も分かっていない状況でした」。まず研究チームでは、脳内でAβを分解する酵素を突き止める実験を行った。Aβがそのアミノ酸配列のどこで切断・分解されるかを知るために、Aβ42の42個のアミノ酸配列の9カ所に放射性同位体で目印を付けて、マウスの脳内に注入して調べた。こうしてAβ42はアミノ酸配列の端からではなく、内部で切断されていることが分かった。内部でペプチドを切断するタンパク質分解酵素は、「中性エンドペプチターゼ」と呼ばれるタイプだと推定できる。その中から「ネプリライシン」と呼ばれる膜タンパク質を突き止めた(Nature Medicine 6, 143-150, 2000)。 「最終的にはネプリライシンの遺伝子を欠損させたノックアウトマウスでAβ42の蓄積量を測りました。すると野生型に比べ2倍の上昇を示しました。ネプリライシンの分解機能の低下によっても、蓄積量の上昇が起き得ることを証明したのです。しかも産生を高めるプレセニリン1の変異では蓄積量は1.5倍でしたので、それ以上の上昇です。これは、Aβの分解ではネプリライシン以外の酵素はあまり働いていないことを示しています」(Science 292, 1550-1552, 2001) さらに研究チームでは、このネプリライシンは、アルツハイマー病が発症する海馬などの主要な神経回路で働いていることを確認し、2002年に研究成果を発表した。脳内でAβを分解する主要な酵素を世界で初めて突き止めたのである。
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遺伝子治療実験に成功
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「Aβの蓄積はほとんどの人で40歳くらいから始まり、老化とともに加速し、最終的には孤発性アルツハイマー病の発症レベルにまで達してしまいます」
現在、Aβの蓄積を抑えるために、Aβの産生を抑えたり、抗Aβ抗体を注入して蓄積したAβを除去する「Aβワクチン療法」(メカニズムは議論されている)など、いくつかの方法が研究されている(図2)。例えば、APPの変異遺伝子を組み込んだマウスにAβワクチン療法を行うと、Aβ量や老人斑が減少して、行動異常が改善したと報告されている。この結果はAβ仮説を裏付け、Aβ蓄積の抑制がアルツハイマー病の予防や治療に有効であることを示している。 「Aβの生理的な役割は分かっていませんが、βセクレターゼとγセクレターゼによってAβが切り出された後のAPPの切れ端は、神経細胞を保護する作用があり、またAPPからAβを切り出すγセクレターゼはAPP以外の物質にも働き、重要な役割を果たしています。Aβの産生を完全に抑えてしまうと、大きな副作用が出る心配があります。問題は老化とともにネプリライシンの機能が低下し、Aβ分解が滞って蓄積することです。私たちは、Aβを速やかに消去することが、理にかなった方法だと考えています」 実際に、老化とともにネプリライシンの機能が低下し、Aβ蓄積が起きるのだろうか。マウスの海馬を調べると、老齢マウスでは若いマウスに比べてネプリライシンの発現量が低下している。またヒトの孤発性アルツハイマー病患者を見ると、Aβが蓄積している海馬や側頭葉の部位で、ネプリライシンの発現量が50%ほど低下していると報告されている。つくられたネプリライシンも、老化に伴う酸化作用で不活性化されている。 研究チームは、ネプリライシンの遺伝子を脳に導入してたくさんつくらせ、Aβの蓄積を抑える遺伝子治療実験を行った。まず、遺伝子の運び屋となるアデノ随伴(ずいはん)ウイルスにネプリライシン遺伝子を組み込み、このウイルスをマウスの海馬の神経細胞に一度だけ感染させた。するとネプリライシンが海馬の広い範囲で発現すること、この発現量の増加は少なくとも6カ月以上持続することを確認した。 ネプリライシン遺伝子が導入された神経細胞では、核がある細胞体でネプリライシンがたくさんつくられ、APPなどとともに分泌小胞の膜に埋め込まれて長い突起(軸索)を伝わり、次の神経細胞とのつなぎ目であるシナプス終末まで運ばれると考えられる。 シナプスは神経細胞同士が情報を受け渡す重要な場所である。APPから切り出されたAβは、すぐにネプリライシンで分解される。しかし、分解しきれなかったAβはシナプス終末から放出されて、神経細胞の外側のシナプスの近くに蓄積すると考えられる。「従って、ネプリライシンの発現量が低下すると、シナプスの近くで局所的にAβが蓄積するのです。その蓄積したAβがシナプスに何らかの悪影響を与えて、機能を低下させると考えられています。実際に、Aβ量が上がるとシナプスの密度が下がると報告されています。“アルツハイマー病の神経細胞の機能障害は、シナプス機能の損傷から始まる”と考える研究者もいます」 では、ネプリライシンの遺伝子治療により、実際にAβ蓄積は抑制できるのか。それを確かめるために、ネプリライシンの遺伝子が欠損したノックアウトマウスにネプリライシン遺伝子を導入した。すると、野生型マウスに比べて2倍だったAβ42の蓄積量が、野生型のレベルにまで回復した。APPの変異遺伝子を組み込んだアルツハイマー病モデルマウスにも試みた。このマウスは脳内にAβを蓄積して老人斑ができてしまうマウスだが、遺伝子治療によって蓄積量が下がり、海馬周辺のAβ沈着が抑制された(図3)。研究チームはこれらの成果を2004年に発表した(J. Neurosci. 24, 991-998, 2004)。 「この治療法では、必要な部位でだけネプリライシンを発現させてAβ蓄積を効果的に抑えることができます。またマウスに行動異常などの副作用も認められません。ヒトへの有効性・安全性を確認し、倫理上の問題などを解決できれば、臨床応用も可能であると考えられます。特に、発症リスクの高い家族性アルツハイマー病の家系の方々には、この治療法を用いる価値があると思います。手術は大掛かりなものではなく、頭蓋(ずがい)骨に小さな穴を開けて遺伝子導入します」
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根本的な治療薬はできるか?
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現在、研究チームでは、より簡便に利用でき、安全性が高いアルツハイマー病の根本的な治療薬の開発を進めている。
「2003年、培養した神経細胞に緑茶の抽出液を振り掛けるとネプリライシンが活性化した、と他の研究チームが発表しました。実際に脳内で効果があるかどうかは不明ですが、神経細胞のネプリライシン発現量を調節する何らかの仕組みがあることを示しています」。これまでも培養細胞の実験で、例えば白血球の一種である好中球にモルヒネというペプチドを振り掛けると、ネプリライシンの活性が高まることが知られている。好中球がその細胞膜の受容体でモルヒネを受け止めると、ネプリライシンの活性化が起きる。 「神経細胞でも、受容体に結合してネプリライシンを活性化させるペプチドがあると考えられます。そのペプチドは、ネプリライシンによって分解される物質(基質)かもしれません。老化に伴いそのペプチド量が低下すると、ネプリライシンによる分解を避けるために、ネプリライシンの活性を低下させると推定しています」 現在、研究チームではアルツハイマー病患者の脳内で量が低下していて、しかもネプリライシンによって分解される、さまざまなペプチドを調べている。 「あるペプチドを、培養した神経細胞に振り掛けると、ネプリライシンの活性が2倍ほど上昇することが分かりました。副作用を最小限にするために、アルツハイマー病の病理が現れる部位の神経細胞の受容体だけに結合し、ネプリライシンを活性化または発現を高める薬の開発を、私たちは目指しています」 老化に伴い、あるペプチドの量が低下する。すると、それがネプリライシンの活性を弱め、Aβ蓄積を招き、さらに蓄積したAβが神経細胞の機能を妨げ、さらにネプリライシン活性を弱める……といった老化の悪循環のネットワークに、スイッチが入ってしまうのかもしれない。 「私たちが開発する薬は、老化への悪循環を断ち切り、逆に神経細胞を活性化させて記憶力を増強できるかもしれません」 脳内のタンパク質やペプチドの量を決定しているネットワークのメカニズムを解明して、脳の老化そのものを制御することで、アルツハイマー病など老化に伴う神経変性疾患を防ぐ。これが神経蛋白制御研究チームの基本戦略なのだ。最後に、根本的な治療薬はいつごろできるのか、岩田副チームリーダーに質問した。 「Aβ分解系の研究で、私たちが世界のトップを走っていることは間違いありません。ドイツのAlois Alzheimer(アロイス アルツハイマー)がアルツハイマー病の最初の報告を誌上に発表したのが1907年。その100年目に当たる2007年までには、治療薬の開発にめどを付けたいですね」 ■ |
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免疫を担うB細胞の
運命決定メカニズムを追う 黒崎知博 |
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B細胞は抗体で異物を攻撃する
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生物には、外から侵入してきた細菌やウイルスなどの異物から体を守る免疫システムが備わっている。免疫システムをつかさどる中心的な細胞は、B細胞とT細胞である。「私たちが研究しているB細胞は、悪さをする細菌やウイルスを捕らえることから“警官”に例えられることがあります」と黒崎知博グループディレクターは語る。
B細胞は、骨髄で造血幹細胞から分化して、脾(ひ)臓で成熟する(図1)。成熟したB細胞の表面には「抗原受容体」があり、外界から侵入してきた細菌やウイルスなどの「抗原」と結合することで免疫システムが動き出す。抗原と結合したB細胞は、T細胞が出すサイトカインによって増殖・成熟し、「抗体(免疫グロブリン:Ig)」を放出する。抗原受容体の細胞膜に埋め込まれている部分を除けば、抗体と抗原受容体の構造は同じだ。抗体が結合した抗原は、マクロファージによって認識され、分解される。 「B細胞が正常に働かないと抗体がつくれず、細菌やウイルスに感染しやすくなります。一方、B細胞が過剰に働くと、花粉症などのアレルギーを引き起こします。B細胞は、生体防御においてとても大事な細胞なのです」。さらに黒崎グループディレクターは、こう指摘する。「私たちの体を構成する細胞の中で、B細胞は非常に特異な細胞でもあります」 私たちの体は60兆個もの細胞から成る。その細胞の一つ一つには遺伝子があり、基本的にすべての細胞の遺伝子は同一で、一生変わらない。「遺伝子の変異はがんの原因にもなり、普通、細胞にとっては危険なことです。しかし、B細胞とT細胞の表面にある抗原受容体だけは、遺伝子が積極的に変わるのです」 ![]() |
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抗原受容体の遺伝子は
ランダムに変化する |
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外から侵入してくる抗原は多種多様だ。「あらゆる抗原に対抗するためには、さまざまな種類の抗原受容体を準備しておかなければなりません。そのために、B細胞は分化の過程で抗原受容体の遺伝子をランダムに変えているのです。これが“Ig遺伝子の再構成”と呼ばれるB細胞に特徴的な現象です」しかし、遺伝子がランダムに変わることが別な問題を生む、と黒崎グループディレクターは指摘する。自己を攻撃してしまう悪い変わり方をする場合もあるというのだ。全身性エリテマトーデス(SEL)などの自己免疫疾患を引き起こす危険性がある。 「しかし、リスクを冒してでも変わらなければ、新たな抗原の侵入に備えることができません。ランダムに変わった上で、その変化が個体にとって有用かどうかを判定し、フィードバックできればよいのです」 実際、未熟B細胞が成熟する過程では、自己を攻撃するB細胞は排除される「ネガティブ・セレクション(負の選択)」というシステムが働いている(図2)。骨髄でつくられた未熟B細胞のうち、成熟B細胞となって働くのはわずか10%である。 |
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B細胞の運命を決定する
抗原受容体からのシグナル伝達 |
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「B細胞では、分化、増殖、選別による細胞死という現象が非常にダイナミックに起きている。私にとっては、B細胞ほど面白いシステムはありませんね」と黒崎グループディレクターは語る。「しかし実は、B細胞の運命が決定されるメカニズムについては、まだよく分かっていないのです。ですが、未熟B細胞の抗原受容体をなくすと、成熟B細胞の数が激減することが知られています。このことから、抗原受容体からのシグナル伝達が、B細胞の運命決定に非常に重要であることが分かります」
抗原受容体の胴体部分は細胞膜に埋め込まれている。細胞の外に出ている頭の部分に抗原が結合すると、細胞の中に入っているしっぽの部分が、シグナルを細胞内に伝える。いくつものシグナル伝達分子群から成る細胞内シグナル伝達ネットワークを経て、分化するか、増殖するか、あるいは細胞死か、運命が決定されると考えられている。 黒崎グループディレクターは、B細胞の抗原受容体のシグナル伝達にかかわる分子群とその機能を明らかにすることで、B細胞の運命が決定されるメカニズムを解明しようとしている。 |
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アダプター分子BLNKとBCAP
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「私たちが興味を持っているのは、B細胞内に存在するホスフォリパーゼC-γ2(PLC-γ2)という分子です。この分子を欠損させると、B細胞は分化も増殖もしません。PLC-γ2がB細胞の分化や増殖にかかわるシグナル伝達の重要な位置にいることは間違いないでしょう」PLC-γ2は、抗原受容体に抗原が結合すると活性化される。これまでに、抗原受容体からのシグナルはまずタンパク質をリン酸化するSykに伝わることは明らかになっていたが、SykとPLC-γ2との間にどのような分子が介在しているのか分かっていなかった。 「私たちは、BLNKとBCAPという分子がPLC-γ2を活性化していることを明らかにしました。どちらも“アダプター分子”と呼ばれるものです。B細胞だけで働くアダプター分子の発見は、世界で初めてです」 酵素の活性があるエフェクター分子は、酵素活性を直接的に測定するなど、生化学的な実験方法で働きを知ることができる。「アダプター分子は酵素活性を持たないため、生化学的な方法では働きを調べることができません。遺伝子を1つずつ破壊(ノックアウト)して、機能がどのように変化するかを調べる遺伝学的な方法しかないのです」 一見、単純な方法だが、抗原受容体の細胞内シグナル伝達にかかわると考えられる遺伝子の数は膨大だ。しかも、そのほとんどは、ノックアウトしても成熟B細胞の分化や増殖に何の変化も現れない。 「私たちの非常に強い味方となったのが、DT40と呼んでいるニワトリ由来のB細胞です」と黒崎グループディレクターは解説する。DT40細胞は、とても容易に特定の遺伝子をノックアウトすることができる。1個の遺伝子をノックアウトするのに、マウスでは早くても1年かかるが、DT40細胞ではわずか1カ月だ。実験スペースもとらないため、マウスのおよそ100倍のスピードでノックアウトできる。DT40細胞のノックアウトで機能に変化が出た遺伝子についてだけ、ノックアウトマウスを作製して詳細を調べることで、時間やコストも削減できる。 「私たちが現時点で特に注目しているのがBCAPです。BCAPをノックアウトしたマウスでは、未熟B細胞が成熟B細胞へ正常に分化できず、細胞死を起こしやすいことが分かっています」 BCAPノックアウトマウスのB細胞では、c-Relという転写因子の発現が非常に低いことが分かった。転写因子とは、DNAの転写を開始したり調節する重要なタンパク質である。c-Relは、B細胞の増殖・生存に欠かすことができない遺伝子群の転写にかかわっている。BCAPノックアウトマウスのB細胞が細胞死を起こしやすいことは、c-Relの発現が低いことで説明できる。しかも、BCAPノックアウトマウスのB細胞にc-Relを導入すると、B細胞の分化を正常化できることも確認された。ようやくB細胞の運命決定にかかわる抗原受容体のシグナル伝達ネットワークの一端が見えてきた(図3)。 分化制御研究グループでは今後、抗原受容体とPLC-γ2の間のシグナル伝達分子をさらに詳しく調べていく計画だという。BCAPをノックアウトすると、PLC-γ2の活性は10から7に落ちることが分かっている。もう一つのアダプター分子であるBLNKをノックアウトすると、PLC-γ2の活性は10から3になる。「PLC-γ2の活性が0か10か、つまりオン・オフではなく、3だったり7だったりする状態が、B細胞の運命決定に関係しているのではないかと考えています。だからこそ、抗原受容体とPLC-γ2の間のシグナル伝達をしっかり理解することが大事なのです」
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神経細胞から免疫細胞へ
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「実は、私は最初から免疫細胞の研究をしていたわけではないのです」。黒崎グループディレクターが大学院時代、京都大学の沼 正作教授のもとで研究していたのは、神経細胞のチャンネルだったという。「水道の蛇口をひねると水が出ます。細胞表面にもそのような仕組みが用意されています。蛇口に相当するチャンネルによってイオンが細胞に入ったり出たりすることで、細胞の機能が正常に保たれているのです。この重要な働きを持つチャンネルの分子構造を明らかにする研究をしていました」
神経細胞は、刺激を与えると電気信号が伝わる。これは、電荷を帯びたイオンがチャンネルを通って細胞に出入りするためである。チャンネルの研究は、その挙動が電気信号として計測できる神経や筋肉などの興奮細胞で進んできた。 「私が大学院生だった1980年代、免疫細胞などの非興奮細胞にもチャンネルはあると考えられてはいましたが、まだ手付かずの状態でした。そこで私は、非興奮細胞のチャンネルについて明らかにしたいと考えるようになったのです。それは非常に重要な働きをしているに違いないという確信がありました」 そして1988年、黒崎グループディレクターは、免疫学の権威である米国ロックフェラー大学のJeffrey V. Ravetch(ジェフリー V. ラベッチ)教授のもとに留学する。「Ravetch先生が発見したマクロファージ上に発現している分子がチャンネルの働きを持つかもしれないという論文を読み、よし、これだと思ったのです」。これが、黒崎グループディレクターと免疫細胞との出会いだ。 「沼先生とRavetch先生に出会えたことは、幸せとしか言いようがないですね」と黒崎グループディレクターは振り返る。沼教授からは研究の厳しさや緻密さ、Ravetch教授からは発想の重要性や情熱を学んだという。それは、現在の黒崎グループディレクターの研究姿勢にも現れている。「自分が面白いと思えることを見つけられるか。そして、人を納得させることができる緻密な実験と理論構築を行えるか。サイエンスはそれが勝負なのです」 |
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B細胞のチャンネルに迫る
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Ravetch教授が発見した分子は受容体であり、チャンネル活性は内包していないことが後に分かる。しかし、免疫細胞でもチャンネルが分化や増殖などに重要な働きをしているに違いないと、黒崎グループディレクターは今も考えている。
抗原受容体からのシグナル伝達には、細胞外からのカルシウム流入が深くかかわっており、カルシウムの流入をつかさどっているのは、チャンネルにほかならないからだ。「シグナル伝達を調べる中でPLC-γ2に注目しているのは、その伝達ネットワークの先にチャンネルがあるからなのです。最終的には、B細胞のチャンネルを見つけ、その分子構造を明らかにしたいですね」 B細胞のチャンネルについては、京都大学の森 泰生(やすお)教授との共同研究で進めている。「これではないかというチャンネルの候補は見つかっています。それはTrpC3と呼ばれる分子です。非常に面白いことに、今まで知られていないメカニズムで機能しているらしいのです」 普通チャンネルには、細胞の外側に大きな構造があり、外からの刺激を受けて開く。「私たちが狙っているチャンネルは、内側に向かって大きな構造があるのです。どうやら、細胞内からの刺激によって開くらしい。これまで分かっているチャンネルとは、根本的に違います」。チャンネルには、いろいろな制御の仕方があるのではないかと、黒崎グループディレクターは考えている。「いくつものチャンネルが、非常に精巧に制御されることで、細胞の機能が保たれているのでしょう」 黒崎グループディレクターは、現在の状況をこう語った。「B細胞のチャンネルの姿が、ようやく霞の向こうに少しずつ見えだしたという状況です。今、非常にエキサイトしています」 |
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新しい免疫治療薬の開発へ
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「免疫の基礎研究の先には、いろいろなことが待ち受けていると思います」と黒崎グループディレクターは語る。免疫メカニズムが解明できれば、シグナル伝達にかかわる分子を直接のターゲットとした自己免疫疾患やアレルギーの新しい治療薬の開発も期待できる。B細胞のチャンネルの分子構造が解明されれば、それも薬の重要なターゲット候補となるだろう。「特に大きな貢献が期待されるのが、臓器移植です。移植の手術自体はそれほど高度な医療技術を必要とするものではありません。移植を難しくしているのは、他人の臓器を異物として排除しようとする免疫による拒絶反応です。免疫メカニズムを制御して拒絶反応を抑えることも可能になるでしょう」
そのためにも、黒崎グループディレクターは、基礎研究で明らかになった情報を製薬企業に提供することで連携を図っていきたいと考えている。「アカデミックな研究者と製薬企業の研究者が、もう少し近い土俵で話すことができれば、免疫の基礎研究は、わりとすぐに応用に結び付くと思っています」 アレルギーなど免疫システムの異常を原因とする疾患の患者数は増加し、大きな社会問題となっている。分化制御研究グループの研究成果は、その解決に大きく貢献するに違いない。 ■ |
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イオンビーム照射で人工硬膜の
生体適合性が大幅に向上 脳外科手術後の髄液漏を防ぎ、 2004年1月30日、文部科学省においてプレスリリース |
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――ePTFEとはどんな材料ですか。
鈴木:PTFEは“テフロン”という名前でよく知られています。ただし、テフロンはデュポン社の商標名であり、ポリフッ化エチレン(またはpolytetrafluoroethylene(ポリテトラフルオロエチレン))が正式な名前です。エンジニアリングプラスチック製品として使われており、焦げ付かないフライパンの加工や、スキーウェアや登山用具などで知られる防水性素材“ゴアテックス”も、これらの材料を活用しています。今回、医療に用いた材料は、PTFEを急速に引き伸ばし(expand)、無数の亀裂を生じさせたもので、ePTFEと呼びます。引き伸ばした結果、柔らかい材料となります。また、PTFEの優れた性質を引き継ぎ生体組織との親和性に優れ、異物反応が少なく、毒性・発がん性の心配がないなどの特長があります。生体内では劣化、変質することもありません。 ![]() |
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――イオンビーム照射技術とは、どのようなものですか。
鈴木:固体基板表層に添加したい粒子を高真空(10−4 Pa)中でイオン化し、数十kVから数MVに加速し、導入する方法で、イオン注入法ともいいます。イオン源で作られ、加速されたイオンビームは質量分離されて選別されるため、イオンの純度が極めて高く、また加速エネルギー、照射量などを精度よく制御できるため、再現性、均一性に優れた加工が可能です。また照射材料の構造変化に対するイオンビーム照射効果が解析しやすい利点があります。こうした特徴を活用した高機能医療用高分子材料の開発を目指した研究は、20年前から、理研を中心とする研究グループで始まりました。
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――今回の成果で苦労したのはどのような点でしょうか?
鈴木:高分子材料にイオンビーム照射することで細胞接着性が向上することは、15年前にわれわれの研究グループが見いだした現象でした。当時、イオン注入による医療用高分子の改質に関する研究は皆無であったため、研究初期のころの学会では、発表後、結果についての質問は何もなく、「イオン注入って何ですか」という程度でした。こうした状況の中、慈恵会医科大学脳外科(神尾正己講師)、東京女子医科大学脳外科(氏家 弘講師)との共同研究で人工硬膜などへの応用を開始し、動物実験で有用性を確認するまでさらに5年を費やしました。本研究は医工連携という体制を整えなければ成し得ないことですが、この点では神尾先生、氏家先生という非常に優秀な脳外科医との出会いがあり、確立することができました。この点はとても恵まれていました。 |
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――今後どういうことを目指していますか。
鈴木:手術を控える患者さんにとって、また外科医に対しても、手術をより効率的にかつ安全に行うことを助けるデバイスの安定供給は急務です。今回の材料は髄液漏を防止する効果が高く、感染予防に非常に有効なものです。厚生労働省の認可を速やかに申請し、産業界との連携で、これらの材料の医療現場への安定供給を目指しています。またこの材料は人工硬膜以外にも動脈瘤治療用材料としても有用で、脳動脈瘤破裂防止などの有効性を動物実験で確認中です。■ |
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プレスリリースは下記URLを参照ください。 http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2004/040130/index.html ※本成果は、毎日新聞(1/31)などに取り上げられています。 |
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大脳の形成をつかさどる
神経回路網の働きを同定 2004年3月12日、文部科学省においてプレスリリース |
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――臨界期とはどのようなものですか?
ヘンシュ:大人が外国語を習得するのは難しいのですが、小さな子供はそれほど苦もなく習得することができます。それは若い脳では、経験に応じて神経回路の組み換えや再構成を行う能力(可塑性)が高いためと考えられています。神経回路が経験により集中的につくられる時期を「臨界期」と呼びます。「子供の頭は柔軟」というのは、臨界期にさまざまな経験に応じて神経回路がつくられていくためだと思われます。 |
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――臨界期における神経回路の組み換えはどのように起きるのでしょうか?
ヘンシュ:神経細胞の情報の伝え方は2種類あります。一つは“相手の神経細胞を興奮させる興奮性神経伝達”、もう一つは“相手の神経細胞を抑える抑制性神経伝達”です。従来、興奮性細胞が強く結合し、刺激し合うことで神経回路網が形成されると考えられていました。しかし、私たちは、興奮性細胞だけではなく抑制性細胞の働きにも注目し、興奮と抑制のバランスが正常に発達して初めて臨界期における神経回路の変化が可能になることを明らかにしました※1。 |
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――具体的な成果の内容を教えてください。
ヘンシュ:今回は、臨界期における抑制性細胞の働きを詳細に解明しました。遺伝子操作により抑制性の神経伝達をつかさどるGABAA受容体への働きを一つ一つ取り除いたマウスにジアゼパム※2を投与し、視覚刺激に対する神経回路網の組み換えが早まって起きるか調べました。その結果、GABAA受容体のα1サブユニットの機能を取り除いたマウスだけにおいて、臨界期を引き起こせませんでした。一方、他のマウスでは通常のマウスに比べて10日早く神経回路の組み換えが起こりました。すなわち、このGABAAα1サブユニットが臨界期の引き金となると考えられます。 さらに、異なる作用を持つベンゾジアゼピンを、正常な光環境で育った発育中のネコの大脳皮質に直接投与し、投与しない動物と投与したネコの「コラム」と呼ばれる大脳の基本構造の違いを比較しました。その結果、眼優位性コラムと呼ばれる構造が、DMCM※3を投与したネコでは正常ネコと比較して縮小し、ジアゼパムを投与したマウスでは正常のマウスと比較して3割近く広がっていました(図)。薬剤によって臨界期における抑制性細胞の働きを制御し、脳の構造を人工的に調節することに成功したのです。 ![]() |
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――大人の頭も「柔らかく」なるのでしょうか? |
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※本研究の成果は、米国の科学雑誌『Science』3月12日号に同時に2件発表され、日本経済新聞(4/5)などにも取り上げられています。 |
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種子を眠りから目覚めさせる
遺伝子を同定 コムギの耐穂発芽品種の作出に期待 2004年3月26日、文部科学省においてプレスリリース |
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――小麦の穂発芽は、どのような問題ですか。
南原:小麦はパンや菓子以外に、うどん、みそ、麩(ふ)といった製品にも用いられています。日本全体では、1年間に約634万トンもの小麦が消費されていますが、国内で生産される小麦の量はその10%にもなりません。大半は、外国産の安価な小麦に頼っていますが、高価な国産小麦が安価な輸入小麦よりも、実は品質面でも劣っているというのが現状です。なぜなら、日本では梅雨時と収穫期が重なり、品質を維持できないという難しい問題を抱えているからです。収穫期の天候によっては収穫前に穂上で種子が発芽する「穂発芽」現象が起き、種子品種の劣化が生じるのです。国産小麦の品質が輸入小麦より劣る大きな理由が、この穂発芽にあります。特に1995年に北海道で43%の小麦が規格外となったのをはじめ、雨の多い日本では毎年のように各地で穂発芽があり、その被害は全体の1〜2割に達します。この被害はオーストラリアのような乾燥地帯でも現れ、5年に1度の割合で、1〜2割が穂発芽となります。 |
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――穂発芽の問題はイネでもあるようですね。
南原:イネゲノム(イネの全遺伝情報)の全塩基配列解読の「終了宣言」が、小泉首相によって2002年12月18日に行われました。主要穀物では世界初の快挙で、画期的なことです。このゲノム解読の快挙で、農業はどう変わるかということが農業関係者にとって最大の関心事となっています。穂発芽を調節する遺伝子は複数あると考えられています。イネの穂発芽や登熟にかかわる遺伝子を解明することで、イネ以外の穀類にも育種の革命が起こることが期待されており、この分野ではすでにいくつか遺伝子の単離・機能解明が進んでいます。 |
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――今回の成果で苦労したことは?
南原:近年解読されたイネのゲノム情報との比較などから、休眠を解除する候補遺伝子としてP450に絞り込みました。シロイヌナズナのゲノムには272個のP450遺伝子がコードされており、これらは構造上の類似性から45のサブファミリーに分類されています。今回、1つのサブファミリー(CYP707A)に絞り込み、このサブファミリーを構成する4つの不活性化酵素遺伝子の中から、“休眠解除の鍵”遺伝子CYP707A2を確認することができました。実験よりも、ゲノム情報をコンピュータで解析するデスク上の作業の方が大変だったといえます。 ![]() |
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――今後どういうことを目指していますか。 |
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――プレス発表を経験してみて、どうでしたか。 |
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プレスリリースは下記URLを参照ください。 http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2004/040326/index.html ※本成果は、産経新聞(4/5)などに取り上げられています。 |
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東京大学と連携協力協定を調印
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当研究所と国立大学法人 東京大学は4月9日、東京ガーデンパレス(文京区)で「包括的な連携・協力の推進に関する基本協定」の調印式を行いました。この協定のもとで、理研情報基盤センター 姫野龍太郎センター長と、東大大学院工学系研究科 松本洋一郎教授および同大学大学院医学系研究科 永井良三教授らによる、医学と工学の連携などの研究協力が行われます。理研の持つ科学技術研究能力、最先端研究設備および国際的かつ柔軟な研究運営体制(または制度)などと、東大の持つ優れた教育機能および総合的な学術研究能力などを相互に有効活用することにより、新しい研究領域・研究分野の開拓や、その推進を担い得る人材の育成を目指します。 |
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横浜研究所「免疫・アレルギー科学総合研究施設」完成式典
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2001年7月に発足した免疫・アレルギー科学総合研究センター(RCAI)の研究施設、「免疫・アレルギー科学総合研究施設(通称:北研究棟、7階建)」は昨年9月に完成し、今年4月より本格的な研究が開始されることになりました。この完成を祝し、4月16日に完成式典(完成式、記念講演会、施設見学)を実施しました。記念講演会では谷口 克RCAIセンター長をはじめ、石坂公成RCAI特別顧問と岸本忠三氏(総合科学技術会議議員)が講演。完成式典では国会議員、横浜市長や文部科学審議官から祝辞をいただきました。今回の完成式典には、「ハクション議連」(正式名称:自民党花粉症等アレルギー症対策議員連盟)などの国会議員をはじめ、地方自治体、文部科学省などから約150名が参加しました。 |
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第5回理研アドバイザリー・カウンシル開催
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6月6日から9日までの予定で「第5回理研アドバイザリー・カウンシル(RAC)」を開催します。RACは1993年、理研が自らの判断で開始した自主的評価制度であり、理研の研究活動、研究管理などの基本的事項について審議され、理事長に対して助言が行われます。今回のRACでは、前回のRACの助言に基づいて理研が講じた方策や、野依良治理事長が示した研究所経営上のイニシアティブ(野依イニシアティブ)とその具体化のための方策などを中心に、評価・助言が行われる予定です。RACの委員は国内外の世界的科学者で構成され、議長は前回と同じく、ヘンリー・G・フリーセン教授(ゲノム・カナダ議長、マニトバ大学名誉教授)にお願いする予定です。 |
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新主任研究員等の紹介
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プロテオームスタンダード
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いろいろなものを小分けにして、凍結乾燥する。こんなことを始めて重宝に使っていると、逆に“こんなものを売っていたらよいのに”と思うようになった。酵素、標準タンパク質、緩衝液など、何でも1回使う分に小分けしてPCRプレートに入れて売り出す。こんな特許が取れないかと考えたこともあった。 私はバイオ解析チームという、主に生物系のラボに構造解析というツールで研究支援を行っているセクションにいる。いわゆるプロテオミクスの手法の開発や応用を行っている、と言うと分かりやすいのだろうか?方法の開発や装置のセットアップにはそれを検定するペプチドのスタンダードが要る。しかし良い市販品はなく、以前から自分でタンパク質を酵素で消化したペプチド(アミノ酸が幾つかつながったもの)の混合物を作って、いろいろなものを検定してきた。だが、液体で凍らせておくと濃度変化が生じたり、凍結融解で容器に吸着したり不溶化したりと、いつも同じものが手に入るとは限らない。量の分かっている合成ペプチドを混ぜることもできるが、数本の単純なピークしか出ないのでは分離の特性が検定できない。こんな調子だったので、改善する前とその後ではどのくらい良くなったのか、実は結構いいかげんにしか分かっていなかったのかもしれない。たまたま、非常に溶けにくいタンパク質を構造解析したいと検討を重ね、このためのタンパク質を消化する方法の検討をしていたときだった。この消化法と凍結乾燥を組み合わせて、絶対的なスタンダードを作ろうと思い立った。これまでのものは、ペプチドの切れ残りの断片が経時的に切れたり吸着したりするので、断片の量が変化して高い再現性が得られなかった。しかし、標準のタンパク質を徹底的に消化することで、これらの問題を解決した。また、凍結乾燥は、長期間保存しておいても質・量ともに変化せず、また再溶解しやすい。量がはっきりしていて、いつも同じ量の溶媒に溶かして使いきりにする。これによりいつも同じ濃度の非常に複雑なペプチド混合物が入手できる。まさにスタンダードとして使うにふさわしいものができるはずである。試しに少し作って使ってみると、やはりとても重宝する。装置メーカーから研修生として来てもらっている方にも使ってもらったところ、“こういうのは○○から売られているが再現性が悪く、ときに詰まったりする。理研でこういうのを売ってくれたら買いますよ”との返事。多くの人に使ってもらうために、このスタンダードを“理研ブランド”で売ろう。当然のように話は大きくなっていった。 スタンダードを扱いたいという会社が現れ、岩木正哉先端技術開発支援センター長へ話をして、実際の開発をスタート。それから理研とKYAテクノロジーズという企業でノウハウ実施契約が結ばれて、私たちの開発したスタンダードが売り出されるまで、幾多の苦労もあったが、多くの方々のご協力のたまもので、意外にも早く高い壁を乗り越えることができた。理研が独立行政法人化したことと、産業連携に重きを置いた野依良治理事長の年頭のあいさつがなければ、決して乗り越えることのできない壁だったと思う。さらに、理研を変えたいと思う人が、実は多かったからだと思う。蛇足だが、このスタンダード、いつも使っているシステムで当チーム中山 洋研究員に分析してもらった結果、マスコットという標準的なプログラムでデータベース検索すると1800という驚異的なスコア(通常の試料では100も出ないことが多い)がすぐに出た。完全に酵素消化されていて、それぞれのペプチドが定量的に入っているからであろう。果たして、このスタンダードがただのお騒がせだったのか、理研の実用化の一つに数えられることになるのか、楽しみである。最後に、いろいろ手伝いをしてもらった当チームの中山研究員と西村友枝さんに感謝。■
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