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ヒャクニチソウの分化転換
ヒャクニチソウの分化転換
ヒャクニチソウの葉から単離した光合成細胞(左)は、単細胞のまま道管細胞(右)に分化転換する。(Fukuda, Nature Rev. Mol. Cell Biol., 379, 381, 2004)
「植物の体づくりの謎に挑む」より


大脳皮質の構造と働き方を探る

Kathleen S. ROCKLAND 
脳科学総合研究センター 脳皮質機能構造研究チーム チームリーダー

一戸紀孝 
脳科学総合研究センター 脳皮質機能構造研究チーム 研究員



脳はどのような構造を持ち、どのような原理に基づいて働いているのか。ヒトの脳では、1000億個もの神経細胞が結び付いて回路構造をつくり、電気信号をやりとりして機能を発揮している。認知や思考など高度な機能をつかさどる大脳皮質は特に構造が複雑で、どんな神経細胞が、いかに“配線”されているのか、よく分かっていない。また大脳皮質の各領域が果たしている機能についても、多くの謎が残されている。脳皮質機能構造研究チームでは、神経細胞を可視化する技術を駆使して回路構造を明らかにし、機能的な意味を探っている。2002年、研究チームは大脳皮質の表層部にハニカム(ハチの巣)構造があることを発見した。この発見により、大脳皮質の未知の働き方が明らかにされようとしている。

キャサリン S. ロックランドチームリーダー
一戸紀孝研究員

ハニカム構造の発見
サルの側頭葉と呼ばれる領域の大脳皮質を薄い切片にし、パルブアルブミンというカルシウムに結合するタンパク質を染色して顕微鏡で構造を調べていたときだった。「最初にキャシーが “ここに何かある!”と言いだしたのです」と一戸紀孝(いちのへ のりたか)研究員は振り返る。“キャシー”とは脳皮質機能構造研究チームを率いるKathleen S. Rockland(キャサリン S ロックランド)チームリーダーの愛称だ。
 その後、一戸研究員らがいろいろな染色法を試してみると、確かに大脳皮質の表層部にハニカム形の構造が、はっきりと見えてきた。
 この構造はサルの大脳皮質のかなり広い領域で見られた。またネズミやラット、ヒトでも見つかった。「このハニカム構造は種を超えて存在するので、大脳皮質の働きにとって大事な構造なのだと思います」と一戸研究員は言う。
 そもそも神経細胞は、電気信号を発する細胞である。核のある細胞体で電気信号が発生すると、軸索と呼ばれる1本の長い突起を伝わり、途中で何本かに枝分かれして、他の神経細胞に信号を伝える。細胞体からは樹状突起と呼ばれるたくさんの突起が出ていて、他の神経細胞からの信号を受け取る。
 大脳の表層を覆う大脳皮質は、2.5mmほどの厚さがあり、機能や形の似た神経細胞が層状に集まって6層構造をつくっている(図1)。大脳皮質の最表層である層には、枝分かれした軸索や樹状突起が広がっており、その下の層には小型の神経細胞が集まっている。
 Rocklandチームリーダーらが発見したハニカム構造は、層と層の境界で見られる。図2はその境界領域を垂直方向に切って、染色した画像である。緑に染まっているのが脳の深層から昇ってくる樹状突起であり、たくさん集まって束をつくっている様子が分かる。赤はパルブアルブミンであり、浅い層からの別な樹状突起の束の存在を示す。それぞれの樹状突起の束は、異なる情報の取り入れ口だと推定される。この境界層を水平方向に切って別の染色法で見た画像が図3である。図2の緑の部分が白、赤の部分が茶に対応しており、ハチの巣に似た構造が分かる。このハニカム構造は、従来の常識を覆す新しいタイプの「コラム」だと考えられている。

図1 大脳皮質の6層構造 & 図2 ハニカム構造(垂直断面)
図3 ハニカム構造(水平断面)

大脳皮質の未知の働き方を探る
図4 視覚系の情報処理の流れ コラムとは、大脳皮質を垂直に通る柱状の機能単位のことである。領域によって大きさに違いがあるが、直径は約0.5mm。
 視覚を例にとると、目から入った情報は、脳の奥にある視床で中継され、後頭部にある第一次視覚野(V1)に送られる。ここでは、視覚情報から形や色、動きに関する基本的な情報が抽出される。例えば、V1には、ある傾きの線にだけ反応する神経細胞が集まってコラムをつくっている。その隣のコラムには少し違う傾きに反応する神経細胞が集まっている。
 V1で処理された情報は、V1の前方にある第二次視覚野(V2)でより立体的な視覚認知が行われ、さらに前方の視覚野へと情報が送られていく(図4)。こうして奥行きや距離、色、運動、位置関係などを把握するためのより高次の情報処理が行われ、どこに、何があるのかが認知される。
 コラムは感覚をつかさどる一次体性感覚野や、運動をつかさどる一次運動野などでも発見されている。コラムは大脳皮質のかなり普遍的な構造であり、その解明は大脳皮質の構造と機能を知る上で重要な鍵になると考えられている。
 ただし、直径0.5mmほどのコラムには約10万個もの神経細胞があり、その詳細な構造や機能はまだよく分かっていない。コラムの構造は、脳の各機能領域で違いがあるのか。それぞれのコラムはどのような情報を扱っているのか。コラム同士はどのように配線されているのか。コラムの中はさらに小さな機能単位に分かれているのか。――コラムには解明すべき課題が多いのだ。
 コラムは大脳皮質の6層を貫いているかどうかも大きな問題だ。「例えば、視床からの情報はV1の層へ入ってきます。その情報を処理してV2の層へ送ります。低次の情報処理領域から情報を受け取り、情報を処理して、さらに高次の領域へと送り出すことが大脳皮質の各領域の基本的な働き方の原理です。コラムは層が中心的な役割を持つと考えられてきました」とRocklandチームリーダーは説明する。
 しかし、層のハニカム構造は、層には達していない。しかもハニカム構造の大きさは直径0.08mmから0.1mmほどと小さい。層を中心としたコラムとは別に、小さなコラム構造が層から遠い層の境界にあったのだ。これはこれまでのコラムの常識を覆す、意外な発見だった。
 しかし、Rocklandチームリーダーにとっては意外ではなかった。V2からの情報がV1の層へ入ることを、1979年に発見したのが、Rocklandチームリーダーなのだ。大脳皮質では低次から高次へと情報が処理されていくだけでなく、高次から低次へと情報が流れていることを見いだしたのだ。
 「その人が人生経験や学習で得た記憶や予期・予測など、内部から生み出される情報と、外部から入ってきた情報を照合させながら大脳皮質は働いていると、最近では考えられ始めました。ハニカム構造は、その情報の照合で重要な役割を果たしているのかもしれません」とRocklandチームリーダーは語る。
 層へは、脳の奥にある扁桃体からも情報が入力されている。ここは進化的には古い領域で、本能的な快・不快などの感情をつかさどる。ハニカム構造は、大脳皮質における本能的な感情情報の取り入れ口にもなっているのかもしれない。
 研究チームではハニカム構造を詳しく調べることで、大脳皮質の未知の働き方が解明できると期待している。「現在、ハニカム構造をつくる樹状突起がどの神経細胞のものなのか、ハニカム構造はどのような機能を果たしているのかを探っています」と一戸研究員は語る。層の境界でハニカム構造が発見されると同時に、世界の研究グループも層の機能に注目し始めた。「このハニカム構造をはじめとする層の重要性の発見は、脳科学の教科書を書き換えるものだと思います」とRocklandチームリーダーは言う。


神経細胞を可視化する
図5 神経細胞軸索の可視化 脳皮質機能構造研究チームの強みは、さまざまな染色法などを駆使して、神経細胞同士のつながり方を詳しく調べる技術を持っていることだ。特に、1本の軸索を可視化する高度な技術がある。従来の技術では、軸索の終末しか染色できなかったが、現在では軸索の始まりから終末まで詳細にたどることに成功している(図5)。
 最近ではウイルスを用いて、神経細胞に標識物質(トレーサー)の遺伝子を組み込む技術の開発も進めている。例えば、ある特定のタンパク質の遺伝子領域にトレーサーの遺伝子を組み込むと、特定のタンパク質をつくる神経細胞だけを可視化して、軸索がどこにつながっているのかを調べることができる。
 研究チームでは、このような技術を発展させ、神経細胞を種類ごとに分けて可視化して、各領域の回路構造を詳しく調べ、その機能原理を探ろうとしている。さらに大脳皮質の各領域がどのように配線され、相互作用しながら働いているのかを調べている。


視覚認知の構造を探る
研究チームでは、脳の奥にある海馬と、側頭葉にある下側頭葉皮質前部という領域の神経細胞のつながり方にも注目している。海馬は記憶に重要な役割を果たしている場所である。また下側頭葉皮質前部は、見た物が何であるかを認知する視覚処理の最終領域である。この領域は、脳皮質機能構造研究チームが属する認知脳科学研究グループが、世界的に研究をリードしている。
 同研究グループを率いる田中啓治グループディレクターは、下側頭葉皮質前部では具体的な物体像全体ほど複雑でない“中程度に複雑”な図形特徴に反応する神経細胞が集まって、 コラムをつくっていることを発見した。同研究グループの脳統合機能研究チーム(谷藤 学チームリーダー)では、それらのコラムがどのように組み合わさって物体像全体の認知が行われるのかを、脳表面の明るさの変化をとらえる光計測法などで調べている。脳皮質機能構造研究チームでは同研究チームと協力して、下側頭葉皮質前部の各コラムが軸索でどのように結合されているのかを探っている。
 「第一次視覚野のコラムでは、似たような傾きの線に反応するコラム同士が結合していることが知られています。下側頭葉皮質前部でも、例えば顔に関係するものなど、似たもの同士のコラムがたくさんの軸索で強く結合していると予想していました。しかし、脳統合機能研究チームの谷川 久研究員の研究結果によると、そう単純ではなさそうです(図6)。下側頭葉皮質前部のような高次の領域では、コラム同士のつながり方はもっと複雑なようです」とRocklandチームリーダーは言う。
 脳統合機能研究チームが光計測法でとらえているのは、情報を送り出す層の活動を反映したものである。下側頭葉皮質前部の回路のつながり方は、情報の取り入れ口であるハニカム構造からも分析した方が分かりやすいかもしれないと、Rocklandチームリーダーは考えている。

図6 下側頭葉皮質前部の神経細胞の軸索のつながり方


新たなSystematicsを生み出す
脳皮質機能構造研究チームの英名は“Laboratory for Cortical Organization and Systematics”である。「“Systematics(体系)”は、次の一節から取りました」とRocklandチームリーダーは言う。
 “新しいSystematicsはまだ現れていない。それが誕生するには、ここ20〜30年の間に私たちに投げ掛けられた新しい事実とアイデアを消化し、関連付け、統合しなければならない”――これは1940年に英国の生物学者J. S. Huxley(ハクスリー)が進化論について語った言葉だが、現在の脳科学にも当てはまると、Rocklandチームリーダーは考えている。「近年の技術の進展により、次々と細かい事実が分かってきています。その中から脳の構造と機能に関する原理を明らかにし、新たなSystematicsを生み出したいのです。ただし原理をあまりに早く求めると、重要なことを見落としてしまうおそれがあります」
 さらにRocklandチームリーダーは続ける。「以前は、大脳皮質はどの領域でも基本的な構造は同じだろうと推測されていました。従って1つの領域の構造を詳しく調べて原理を明らかにすれば、他の領域はその原理を応用して理解できるだろうと考えていたのです。しかし10年ほど前から、大脳皮質の各領域の違いが注目され始めました」
 生物種による違いにも注目すべきだと、Rocklandチームリーダーは指摘する。「例えばネズミとサル、そしてヒトの大脳皮質が同じ原理で動いているのかどうかも大きな謎です。大まかな構造を見ても、かなり種によって違いがあります。例えば、クジラやイルカの大脳皮質は層がすごく厚い。今、いろいろな種の遺伝情報の解読が進んでいるので、遺伝情報と大脳皮質の構造と機能の関連性を探っていくことも、今後、とても重要だと思います」
 ヒトは大脳皮質が最も発達した種である。脳皮質機能構造研究チームによる大脳皮質の働き方を体系的に探る研究は、 “人間とは何か”を私たちが考える上で、新たな視点を与えてくれるだろう。
 2000年、脳科学総合研究センター(BSI)に研究チームが立ち上げられてから、来年2月で満5年になる。最後にRocklandチームリーダーはこう言葉を結んだ。「BSIでは若い研究者がリーダーとして次々と採用され活躍していることや、基礎研究が尊重されていることが特に素晴らしいと思います。BSIでの研究という新しい冒険に参加し、その進展に立ち会えるのは大変光栄なことです」


監修 
脳科学総合研究センター
脳皮質機能構造研究チーム
チームリーダー Kathleen S. Rockland
研究員 一戸紀孝

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植物の体づくりの謎に挑む
培養細胞と網羅的な遺伝子解析からのアプローチ

福田裕穂 
植物科学研究センター
形態形成研究グループ グループディレクター




葉にある光合成をする細胞が、細胞分裂もせずに1個の細胞のまま、水の通り道をつくる道管の細胞に換わっていく。植物では、そんな不思議なことが起きる。だからこそ植物は、分化を終えた1個の細胞から体全体を再生することも可能なのだ。植物科学研究センター(PSC)形態形成研究グループでは、ヒャクニチソウとタバコの培養細胞を使った研究に網羅的な遺伝子解析を組み合わせることで、形態形成や分化など植物の体づくりのメカニズムを明らかにすることを目指している。これらの研究は、人類の生存に不可欠なバイオマス(生物を原料とする有機性資源)の量を増やしたり性質を変えたり、また有用な物質を植物に生産させたりといった、さまざまな技術への応用が期待されている。

福田裕穂グループディレクター
培養細胞から体づくりに迫る
ヒャクニチソウという植物をご存知だろうか。夏にピンクや黄色など、色とりどりの花を咲かせるキク科の一年草である。「植物の体がどのようにしてできるのかを知りたい」と福田裕穂(ひろお)グループディレクターは言う。そのために形態形成研究グループが使っているのが、このヒャクニチソウだ。
 植物の体づくりの仕組みを解析するには、突然変異体から迫る方法がある。変異の原因になっている遺伝子を突き止め、その遺伝子の働きを探ることで、体づくりの仕組みを解き明かしていく。しかし、植物の体はたくさんの細胞が複雑に絡み合ってできていて、1個の遺伝子の異常がさまざまな影響を及ぼすので、原因と結果を結び付けることが難しい。
 そこで、形態形成研究グループではヒャクニチソウの培養細胞を使う。培養細胞の利点を、福田グループディレクターはこう説明する。「ばらばらにした細胞を使うことで、遺伝子を働かせたり、働きを止めたりといった処理が容易にできます。さらに、処理をしたときに細胞がどのような物質をつくり、どのように形を変えていくのか、その過程を連続して観測することができる。細胞レベルで明らかになったことを基に全体の体づくりを考えることで、原因と結果がシンプルにつながるのです」
 しかし、なぜヒャクニチソウなのか。「理由は単純なんです」と福田グループディレクター。ヒャクニチソウは、葉を乳鉢に入れて乳棒で軽くすりつぶすだけで、細胞が1個1個ばらばらになる。こんなことができるのはヒャクニチソウとアスパラガスくらいで、ほかの植物は細胞がつぶれてしまうのだという。


ヒャクニチソウの分化転移
図1 ヒャクニチソウの分化転換 現在、ヒャクニチソウの培養細胞を使った研究は世界中で盛んだが、福田グループディレクターこそが、そのパイオニアである。福田グループディレクターは大学院生だった1980年、ヒャクニチソウの葉から取り出した光合成細胞を、植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンを含む培地で培養すると、3日ほどで根から吸い上げた水や養分の通り道をつくる道管の細胞に換わっていくことを発見した(図1)。その間に細胞分裂することなく、1個の光合成細胞がそのまま道管細胞へと形を変えるのだ。
 分化を終えてある機能を持つようになった細胞が、別の機能を持つ細胞に換わることを「分化転換」と呼ぶ。植物は、分化を終えた細胞1個からでも体全体が再生する「全能性」を有する。動物で全能性を持つのは、プラナリアなどごく一部に限られている。植物特有の全能性を支えている分化転換のメカニズム解明は、植物の体づくりを知る上で欠かすことができない。
 光合成細胞が道管細胞になると、道管細胞に特有ならせん状の模様が出てくるため、顕微鏡で観察していれば分化転換が起きたことが分かる。しかし顕微鏡の観察では、途中で何が起きているのか分からない。発見から20数年、光合成細胞から道管細胞への分化転換の過程はブラックボックスのままであった。
 「光合成細胞が道管細胞に換わっていくときには、さまざまな遺伝子が次から次へと発現しているはずです。分化転換の過程で何が起きているのかを遺伝子レベルで明らかにしたい。しかも2万〜4万個と予測されているヒャクニチソウの遺伝子を網羅的に見たい。しかし、こういうアプローチは大学では難しい。だから私たちは4年前、植物科学研究センター(PSC)の設立時に研究グループを立ち上げたのです」と、福田グループディレクターは振り返る。


ヒャクニチソウのESTライブラリー
福田グループディレクターが率いる形態形成研究グループは、2つの研究チームから成る。ヒャクニチソウの培養細胞を使った分化転換のメカニズム解明は、形態制御研究チーム(出村拓チームリーダー)が中心に進めている。
 植物の研究材料としてよく使われるシロイヌナズナは2000年に全ゲノムの解読が終了し、遺伝子の数は約2万6000個と分かっている。一方、ヒャクニチソウはゲノム解析が進んでいない。そこで形態制御研究チームはまず、ヒャクニチソウのEST(Expressed Sequence Tag; 発現配列タグ)ライブラリーの作成から着手した。
 ゲノム上の遺伝子領域のDNAは、mRNA(メッセンジャーRNA)に転写され、その情報が翻訳されてタンパク質がつくられる。mRNAを取り出して人工的にDNAにコピーしたものがcDNAである。タンパク質をつくるすべての情報を含んだものが完全長cDNA、その断片がESTである。
 完全長cDNAではなく、なぜESTライブラリーなのか。その理由を福田グループディレクターは、「基本的には、完全長cDNAの方が使い勝手がいい。完全長cDNAはそれからタンパク質をつくり、機能を調べることもできますが、ESTではできません。でも、ESTはどの遺伝子が発現しているのかを調べる道具として使えるのです」と説明する。「完全長cDNAライブラリー作成は、ESTライブラリーと比べて膨大な時間とお金がかかります。私たちは、ヒャクニチソウの分化転換の過程で、いつ、どの遺伝子が働いているのかを知りたい。それには断片で十分。完全性よりもスピードが重要だと判断したのです」
 現在、ヒャクニチソウのESTライブラリーは約2万種類に達した。この世界最大のESTライブラリーは、「均一化ライブラリー」という独自に開発した技術でつくられている。この技術を使うと、発現量の少ない遺伝子のmRNAも効率的に取り出すことができる。


道管細胞への分化転換を制御する
マスター遺伝子を発見
形態制御研究チームでは、ヒャクニチソウの約1万種類のESTをガラス基板上に高密度に貼り付けたマイクロアレイを開発し、光合成細胞から道管細胞への分化転換の過程で、いつ、どのような遺伝子が発現しているのかを調べている。その結果、分化転換の段階ごとに発現する遺伝子群が変動していることが明らかになった(図2)。
 「それぞれの遺伝子群には、その発現を制御する鍵となる遺伝子があるはずです。そのような“マスター遺伝子”を必死に探しました」と福田グループディレクターは語る。「そして最近、ようやく道管細胞への分化転換を制御するマスター遺伝子を1個見つけることができました。その遺伝子を入れると、いろいろな種類の細胞が道管細胞に換わってしまうのです(図3)」
 ヒャクニチソウで興味深い遺伝子が見つかると、すぐにほかの生物で塩基配列が似ている遺伝子がないかを探す。生物種を超えたゲノムのデータベースが整備され、そのようなことが簡単にできるようになってきた。そして、ヒャクニチソウで見つかったマスター遺伝子と塩基配列がよく似た遺伝子が、シロイヌナズナに複数あることが分かった。そのうちの1個の遺伝子をシロイヌナズナの細胞に入れたところ、道管細胞への分化転換が起きた。道管細胞への分化を制御するマスター遺伝子は、種を超えて共通しているらしい。
 ブラックボックスの中が20数年を経てようやく見えてきた。福田グループディレクターは、「私たちが以前からやっていた培養細胞を使った研究と、理研でしかできない網羅的な遺伝子解析が組み合わさって初めて、新しい発見ができたのです」と言う。今後は、このマスター遺伝子の機能を詳しく解析するとともに、ほかのマスター遺伝子も探していく予定だ。
 道管は、根から吸収した水分や養分の通り道である。光合成でつくられた養分の通り道は師管である。道管がある木部と師管がある師部、そして間の形成層を合わせて「維管束」という。維管束は情報や物質を体の隅々まで送るとても重要な組織であり、樹木では維管束が体の大部分を占める。植物の体づくりを知る上で重要なのは、道管を含めた維管束全体であると、福田グループディレクターは考えている。「現在は、まず手始めに道管細胞への分化転換について研究していますが、最終的には維管束がつくられるメカニズムを遺伝子レベルで明らかにしていくつもりです」

図2 ヒャクニチソウの分化転換における遺伝子発現プロファイル
図3 道管細胞分化転換マスター遺伝子の導入

バイオマスへの応用
「石油はやがて枯渇しますから、バイオマスを使わなければ人類は21世紀を生き延びることができません」と福田グループディレクターは指摘する。「バイオマスをいかにうまく使うか。それが人類の最重要課題です。私たちの研究は、その解決に役立つと確信しています」
 バイオマスとは、食料や資材、燃料など生物を原料とする有機性資源をいう。地上のバイオマスの大部分は樹木であり、樹木の大部分を維管束が占める。道管細胞など維管束細胞への分化転換メカニズムの解明は、維管束の成長を早くしたり、量を増やしたり、性質を変えたりすることを可能にすると期待されている。
 形態制御研究チームでは応用を見据え、ポプラを用いた研究も始めた。ポプラは研究によく使われる樹木で、シロイヌナズナ、イネに次いで、2005年初頭に全ゲノムが解読される予定だ。ヒャクニチソウで発見したマスター遺伝子と類似の遺伝子をポプラで探して導入し、実際に道管細胞の成長が促進されるかどうかを調べている。福田グループディレクターは、実用化はすぐそこまで来ている、という感触を得ている。


タバコ培養細胞BY-2株を
物質生産の工場に
形態形成研究グループのもう1チーム、形態構築研究チーム(松岡健チームリーダー)では、タバコの培養細胞BY-2株を使った研究を進めている。タバコ培養細胞BY-2株は、1960年代に日本専売公社(現・日本たばこ産業株式会社)が開発したもので、増殖速度が速く、1週間に60〜100倍に増殖する。現在世界で最も多用されている植物の培養細胞である。
 形態構築研究チームではヒャクニチソウで培った技術を基に、タバコ培養細胞BY-2株から得られた約2万種類のESTライブラリーを作成している。またESTを用いたマイクロアレイを開発し、タバコ培養細胞BY-2株が増殖する過程で、いつ、どの遺伝子が発現しているかを解析している。このような遺伝子とその発現に関する網羅的、総合的な情報を公開することによって、タバコ培養細胞BY-2株の研究材料としての価値は大きく向上し、それによって研究もレベルアップする。「ヒャクニチソウの培養細胞、そしてタバコ培養細胞BY-2株を使った研究では、私たちが間違いなく世界トップ」。福田グループディレクターは断言する。
 植物の体づくりの中でも形態構築研究チームが注目しているのは、細胞壁である。細胞壁の成分は、主に細胞内のゴルジ体と小胞体で合成される。それらが細胞壁をつくる場所までどのように運ばれてくるのか、その過程でどのような酵素が働くのか、まったく分かっていない。タバコ培養細胞BY-2株を使い、細胞壁づくりのメカニズムを遺伝子レベルで明らかにしようとしているのだ。
 福田グループディレクターは、その先にひとつの構想を描いている。「タバコ培養細胞BY-2株を物質生産の工場として使えないかと考えているのです。この細胞は成長がとても早い上に、遺伝子の導入が容易です。つくりたい物質とその合成酵素の遺伝子を導入すれば、その物質を細胞の中で大量生産できるでしょう」


出口の見える研究を
「私は、生物の基本的なメカニズムを見つけるのが好きなんです。まだ誰も知らない新しい細胞の生きざま、植物の生きざまを見つけ、そのメカニズムを解明したい」。もちろん福田グループディレクターには戦略がある。「モデル植物として有名なシロイヌナズナではなく、ヒャクニチソウやタバコBY-2株というユニークな培養細胞から出発し、細胞レベルで知見を得ているというのが私たちの利点です。もちろん必要ならばシロイヌナズナに戻る。ヒャクニチソウとタバコBY-2株、そしてシロイヌナズナで明らかになったことをキャッチボールのようにやりとりすることで、また新しいことが分かってくるものです」
 そして、福田グループディレクターは最後にこう語った。「植物科学は出口、つまり応用が見えないと、よく言われます。残念ですが、私もそう思います。ベーシックなサイエンスももちろん重要ですが、出口を見据えた研究を組み合わせていかないと、社会に認めてもらえません。私たちは、将来の応用を強く意識して研究に取り組んでいかなければならないし(図4)、それがPSCの役割でもあるのです」

図4 形態形成研究グループにおける研究・解析と将来の応用


監修 
植物科学研究センター 
形態形成研究グループ
グループディレクター 福田裕穂

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SPOT NEWS
世界最高速のLSIの開発に成功

世界初のペタフロップス級計算機の実現に道筋

2004年8月20日、文部科学省においてプレスリリース



当研究所は、1LSI当たりの演算性能としては世界最高の230ギガフロップスのLSI「MDGRAPE-3チップ」の開発に成功した。理研では世界初のペタフロップス級計算機「MDGRAPE-3」の開発を目指して研究を進めているが、「MDGRAPE-3チップ」はその心臓部となる。「MDGRAPE-3」は、物質を構成する原子個々の動きをコンピュータ上で再現する分子動力学専用計算機で、そのため汎用計算機と比べ演算速度は格段に速くなる。専用・汎用を問わず科学技術計算用高性能計算機の開発は、米国が今後の重点課題に高性能計算機による計算科学を挙げるなど各国がしのぎを削っている。本研究グループによる専用計算機技術は、今後の国際競争上重要な鍵になると期待される。この研究成果について、泰地真弘人(たいじ まこと)チームリーダー(ゲノム科学総合研究センター ゲノム解析用コンピュータ研究開発チーム)に聞いた。

図1 MDGRAPE-3チップ――分子動力学シミュレーションとは何ですか。
泰地:物質を構成する原子個々の動きをコンピュータ上で再現するものです。具体的には、原子間に働く電磁気力や分子間力などの力を計算し、ニュートンの運動方程式を解いていきます。物質を構成する無数の原子の間に働く力を一つ一つ計算しなくてはならないので、コンピュータの負担はとても大きくなります。これまでは、実用レベルで物質の様子をシミュレーションするのには大変な時間がかかり、大規模なスーパーコンピュータが必要でした。
図2 シタロン脱水酵素の動きのリアルタイムシミュレーションの様子――今回開発したLSIはどのようなものでしょうか。
泰地:次世代の分子動力学専用計算機「MDGRAPE-3」の心臓部に当たるもので、最先端の半導体技術で製造されています。1つのLSI当たりの性能としては、世界最高の230ギガフロップス(コンピュータの処理速度を表す単位)となり、米国インテル社のPentium 4(演算処理を行う半導体チップ=マイクロプロセッサ)の30倍以上の高速性能と、100分の1となる低消費電力を実現しています。このLSIを搭載したパソコン用のボードを試作して性能を評価したところ、予定以上の性能を発揮し、中規模のタンパク質の動きのリアルタイムシミュレーションなどを行えるようになりました。
――高性能を実現した鍵は何でしょうか。
泰地:メモリから1回読み込んだデータをもとに、並列的に多くの計算をさせるブロードキャストメモリアーキテクチャという手法を使うことで、1個のLSIで660回もの計算を同時にできるようになったことです。この手法を使うと、半導体製造技術の進歩を生かして飛躍的に性能を向上させることができるため、通常の計算機に比べ100倍以上のコスト性能比を実現することができました。
――今後期待できることは。
泰地:ペタフロップス級の「MDGRAPE-3」が完成すれば、医薬品のタンパク質への結合のしやすさを精度よく見積もることができ、将来的には薬効が高く低コストの薬を、より短時間で開発することができるようになります。また、タンパク質の動作の原理解明にもつながるものと考えられますし、ナノマシンの開発にも貢献できるものと期待できます。





プレスリリースは下記URLを参照ください。
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2004/040820/index.html
本研究は、文部科学省の委託研究「タンパク3000プロジェクト」の一環として、理研構造プロテオミクス研究推進本部(推進本部長・小川智也、研究代表者・横山茂之)のもとで開発を進めていたものである。本成果は、米国カリフォルニア州スタンフォード大学で開催された国際会議『Hot Chips 16』(8月22〜24日、本発表は24日)において発表され、毎日新聞(8/21)など多数の新聞に取り上げられた。


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SPOT NEWS
ストレンジ・トライバリオン
(超高密度ストレンジ核)の発見

2004年8月24日、文部科学省においてプレスリリース



当研究所をはじめとする研究グループ1は、負電荷のK中間子とヘリウム原子核との反応で発生する陽子を観測することで、ストレンジ・トライバリオン(超高密度ストレンジ核)を発見することに成功した。現在知られている最高密度の物質は原子核で、これは陽子や中性子が湯川秀樹博士の予言したπ中間子で結び付けられたものである。その密度は原子核の種類によらず一定不変と考えられていた。研究グループは、中間子と呼ばれる素粒子を原子核内に埋め込むことによって、原子核の構成要素が強く引き寄せられ、通常の原子核より約10倍高密度の原子核状態を形成することを確認した。本研究成果は、「原子核の密度は一定不変」という常識を覆し、質量の起源などの解明に貢献するものと期待される。この研究成果について、岩崎雅彦主任研究員(中央研究所 岩崎先端中間子研究室)に聞いた。

ヘリウム原子核の密度――ストレンジ・トライバリオンとはどんなものですか?
岩崎:これまで知られた粒子分類(素粒子・原子核など)の枠組みには必ずしも則さない、これまで知られていなかったまったく新しい準安定な状態で、その発見された状態を表すための造語です。また、中間子がストレンジ・クォークという通常の原子核には存在しないクォークを持ち込み、通常の原子核を超える高密度を形成したと考えられることから、「超高密度ストレンジ核」という表現もしています。
――準安定とはどのような状態でしょうか? 「超高密度ストレンジ核」を蓄積できるのですか?
岩崎:このようなエネルギー位置に存在する状態としては、非常に安定だといえますが、今回の実験ではおよそ10−23秒より長生きであることが分かっただけです。ですから、もしかするともっと長生きなのかもしれませんが、日常の時間のスケールとは比べられないほど短時間で壊れると考えられます。非常に短寿命だと推測されるので、蓄積は考えられません。集めて実験ができたら、非常に詳細なことが分かると期待されますが、残念ながら現実的ではありません。
――中間子はどのような素粒子なのでしょうか?
岩崎:中間子はクォーク・反クォーク対でできた素粒子で、核力(陽子と中性子を合成させて原子核を構成する力のこと)を媒介すると考えられており、π中間子、K中間子など多数あります。K中間子にはK、K、K00の4種類があり、中間子は、このうちのKまたはK0中間子のことを示します。
――中間子が原子核を高密度にする点について詳しく教えてください。
岩崎:原子核は、湯川秀樹博士が理論的に存在を予言したπ中間子によって陽子や中性子が結び付けられたものです。この原子核は、天体現象を除くと、現在知られている最高密度の物質です。本研究に先立つ研究で、核子(陽子と中性子のこと)と中間子が極めて強く引き合うことが示されました。分かりやすく考えると、中間子が“触媒”となって、原子核の構成要素である陽子や中性子が引き寄せられ、超高密度の状態がつくり出されると考えられます。他のグループの理論計算の結果、通常の原子核をはるかに超えた超高密度状態が形成されると予言され、私たちの研究グループが、今回それを実験的に証明することに成功しました。
――中間子をたくさん入れるとどうなるのでしょうか?
岩崎:素晴らしい質問です! ぜひとも実現したい研究です。どのような実験方法がよいかは、これから考えなければなりませんが、実現の可能性は高いと思っています。研究の進展によっては、高密度の天体の性質や質量の起源の解明に大きく貢献できるのではないかと考えています。そうした意味でも、今回の研究成果は、「超高密度核物理学」への道を拓くものといえます。




プレスリリースは下記URLを参照ください。
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2004/040824/index.html
本研究の成果は、オランダの科学雑誌『Physics Letters B』9月16日号に発表され、毎日新聞(8/25)などに取り上げられた。


※1:研究グループ
独立行政法人理化学研究所、国立大学法人東京大学、国立大学法人東京工業大学、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構、ソウル大学、カーネギーメロン大学


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TOPICS
2004年理化学研究所科学講演会を開催


当研究所の研究活動を広く一般の方々に紹介する「2004年理化学研究所科学講演会」を10月20日、経団連ホール(東京都千代田区)で開催しました。今年は、「分子から始まる新しい科学」をテーマに、茅幸二 理研中央研究所所長の開会あいさつに続いて、野依良治理事長をはじめ化学分野で活躍する4人の研究者が講演しました。当日は台風の影響による悪天候にもかかわらず、研究機関および企業関係の方々を含め約500名が来場し、盛況のうちに幕を下ろしました。



光触媒が活躍する
藤嶋 昭
東京大学名誉教授/神奈川科学技術アカデミー理事長

藤嶋 昭 東京大学名誉教授/神奈川科学技術アカデミー理事長 空気や水を浄化し、ウイルスも病原菌もやっつける、汚れない、曇らない、この夢のような技術に光触媒が活躍しています。水の中の酸化チタンに光を当てると、水が分解され酸素と水素が発生したことが、新しい光触媒の発見の始まりでした。今や光触媒は日本発のオリジナル技術として世界中で使われるようになってきました。特に最近では建物を汚れから守るという応用など、応用の可能性はますます拡大しています。





化学反応を探る 分子線とレーザーによる反応のスナップショット
鈴木俊法 理化学研究所 中央研究所 鈴木化学反応研究室 主任研究員

鈴木俊法 理化学研究所 中央研究所 鈴木化学反応研究室 主任研究員 分子は極めて小さいため、分子の形や反応を直接目にした人はいません。しかし、もし反応を見ることができたなら、化学反応がどのように起こるのかを徹底的に解明することができるでしょう。私たちは分子を真空中で衝突させ、反応を起こし、1兆分の1秒以下のレーザーの閃光(せんこう)を使ってその瞬間の電子運動を観測し、化学反応の基本的メカニズムを研究しています。





人の中の分子を見る
鈴木正昭
岐阜大学大学院医学研究科 教授

鈴木正昭 岐阜大学大学院医学研究科 教授 体内における筋収縮・弛緩(しかん)作用で知られているプロスタグランジンは、脳内でも「睡眠」、「痛み」、「発熱」などに深くかかわっていることが分かってきました。化学の力で編み出した「高機能性分子」と、その分子の機能を生かす新しい「研究方法論」をもとに、脳内のプロスタグランジン受容体の画像化に挑戦し、成功しました。ヒトの脳を傷つけずに研究できる「ヒト生体内の分子科学」の推進は、今後ますます重要になるでしょう。





力量ある化学合成にむけて
野依良治
理化学研究所 理事長

野依良治 理化学研究所 理事長 化学は自然を観察し理解するだけでなく、制御された分子変換を通して価値を創造する科学です。もろもろの有用物質は化学合成に大きく依存しますが、現在の化学合成はまだまだ力量不足です。特に大量供給を求められる物質については経済性のみならず、省資源、省エネルギー、さらに環境調和型の洗練された化学変換プロセスの開拓が焦眉(しょうび)の急です。Green Chemistryの視点に基づく技術なくして、21世紀に化学産業はもとより持続的な文明社会はあり得ません。





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新理事に土肥義治氏が就任

10月15日、土肥義治氏が理事に就任しました。当研究所の発展に尽力してきた小川智也氏は10月14日をもって理事を退任、理研横浜研究所の所長としては引き続き在任します。

土肥 義治 (どい よしはる)



土肥 義治 (どい よしはる)
1947年2月24日、富山県生まれ。1971年3月、東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。同大学助手、助教授を経て、1992年7月理研主任研究員、2001年4月より東京工業大学大学院総合理工学研究科教授。57歳。この間にBioEnvironmental Polymer Society Award、高分子学会賞、財団法人服部報公会・報公賞などを受賞。


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新チームリーダー等の紹介

新しく就任したチームリーダー等を紹介します。
1. 生年月日 2. 出生地 3. 最終学歴 4. 主な職歴 5. 研究テーマ 6. 信条 7. 趣味

フロンティア研究システム
小野 謙二 (おの けんじ)
ものつくり情報技術統合化研究プログラム
製品機能シミュレーションチーム チームリーダー

小野 謙二 (おの けんじ)
1. 1966年2月5日 2. 大分県 3. 熊本大学大学院自然科学研究科生産科学専攻博士課程 4. 日産自動車(株)総合研究所車両交通研究所、東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻インテリジェントモデリングラボラトリー担当 5. ボクセル流体シミュレーションの研究、製品設計に役立つ情報可視化システムの研究 6. 晴耕雨読 7. 自転車ヒルクライム、ダイビング、料理
特別研究室
阿部 岳 (あべ たかし)
阿部特別研究室
特別招聘研究員

阿部 岳 (あべ たかし)
1. 1943年1月24日 2. 東京都 3. 東京大学大学院医学系研究科博士課程 4. 米国NIH 5. 生物毒、スズメバチなどの生理活性物質、アミノ酸混合物の機能性 6. 努力 7. 美酒美食、良書精読
播磨研究所
山本 雅貴 (やまもと まさき)
研究技術開発室 室長
山本 雅貴 (やまもと まさき)
1. 1963年9月5日 2. 兵庫県 3. 大阪大学大学院理学研究科博士課程 4. 理研播磨研究所石川X線干渉光学研究室 5. 放射光ビームラインを利用したタンパク質結晶構造解析およびその手法開発 6. やればできる 7. 散歩、食事
横浜研究所
坂本 健作 (さかもと けんさく)
ゲノム科学総合研究センター
タンパク質構造・機能研究グループ
タンパク質合成技術高度化チーム チームリーダー

坂本 健作 (さかもと けんさく)
1. 1964年7月28日 2. 大阪府 3. 東京大学大学院理学系研究科修士課程 4. 3に同じ 5. 人工遺伝暗号技術のプロテオミクスへの応用 6. わからないことは人に聞く 7. 音楽鑑賞

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カロリンスカ研究所と包括的協力協定を締結


当研究所と欧州最大級の医科大学、スウェーデン・カロリンスカ研究所(ウォールバーグ・ヘンリクソン理事長)は10月18日、両研究所で行われている生医学研究分野についての研究協力を包括的に進めることに合意し、包括的協力協定を締結しました。昨年10月の独立行政法人化後、海外研究機関との包括的協力協定を結ぶのは初めてで、今後とも、海外の代表的な研究機関との研究協力・連携を強めていく予定です。協定内容は研究者交流、情報交換、共同プロジェクトの実施などです。成果発表は原則共同とし、成果および知的所有権の取り扱いは特定協定により規定します。協定期間は5年で、延長可能としています。同研究所とは、ゲノム科学分野で理研横浜研究所 ゲノム科学総合研究センターがすでに協力関係にあり、脳科学分野で理研和光研究所 脳科学総合研究センターが研究者交流の話を進めています。今回、包括協定を締結することによって、両研究所間の協力関係をさらに強化・拡大し、生医学分野に関する研究をいっそう発展させることで、世界的な寄与ができると期待しています。


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原酒
水晶玉


飯高敏晃
IITAKA Toshiaki
中央研究所 戎崎計算宇宙物理研究室 先任研究員


秋の日の昼下り、郊外にある某研究所の某研究室。食事から戻った男はパソコンの電源を入れ画面に顔を寄せた。男は四十過ぎなのに独り者である。一瞬後、画面に分子たちの姿が現れる。男は結晶をカーソルでつまんでグルグル回転させ、愛おしそうに眺める。量子力学の基本原理と高性能計算機を駆使して、いまだ見ぬ結晶たちの性質を探り出そうと、男は夢中なのだった。

「燃える氷:メタンハイドレート」のタイトルが、結晶のわきに現れる。水分子がつくるカゴの中にメタンガス(天然ガス)分子が閉じ込められている。深海底に石油石炭の約2倍の埋蔵量がある有望な新エネルギー資源だという。しかし男の関心は別なところにある。従来のメタンハイドレート(MH-)を高圧力で圧縮すると、MH-およびMH-という新しい結晶に変化することが数年前に発見されたのだ。これは土星の衛星タイタンの大気の謎を解く鍵かもしれない。当時、男はMH-について論文を発表した。今はさらに圧縮するとどうなるかという問題に没頭している。封筒から一枚の図を取り出した。実験家のHさんが送ってくれたX線回折像だ。結晶のレントゲン写真である。ただし回折像は逆空間なので実空間に戻す必要がある。ここが一筋縄ではいかない。仮説を試すよう計算機に指示した。

次のファイルを開く。「ポストペロブスカイト」のタイトルが現れる。数カ月前、実験家のKさんが、最先端放射光施設SPring-8を使って発見した新鉱物である。地球の核とマントルの間にある正体不明の薄い層(D層)をつくっている鉱物かもしれない。男は地震波が新鉱物を伝わる速さを計算し、地震波観測と比較した。結果はよく符合した。D層の正体は、この新鉱物に違いない。これは素晴らしい。さっそく論文にしなければと思った。

先ほどの計算結果が出た。どうやら結晶はなかなか姿を現そうとしないようだ。「こっちは、駄目か」。男はため息をつき、しばし宇宙の過去と未来に思いをはせる。この結晶たちが地球と生命の歴史を舞台裏で動かしてきたのだ。何億年か前、地球深部のD層付近で高温のマントル上昇流が発生し、地殻に到達すると深海底にあるメタンハイドレートを融解させメタンガスを大量放出させる。メタンガスは二酸化炭素の約20倍の温暖化効果があり、気候を激変させ95%の生物種を絶滅させたという。結晶たちは太陽系外のどこかの惑星でも活躍しているに違いない。自慢の計算プログラムをもってすれば、太陽系外惑星に生命が生まれる様子をシミュレートできるはずだ……。

そのとき、画面の隅でメタン分子がぶるぶるっと震えて、男めがけて次々と跳び出した。男はあわやのところで避けた。すると今度はポストペロブスカイトの画面からダイヤモンド形の八面体構造が跳び出して、あっという間に巨大化して男を押しつぶした。うっ、苦しい。助けてくれ!

背後で女性の声がした。「大丈夫ですか」。秘書のHさんが言った。「お先に失礼します」。いつの間にか夢を見ていたらしい。秋の午後は短い。外はもう暗い。男は水晶玉をのぞき込んでいた占い師のように、画面から顔を上げパソコンの電源を切る。結晶たちがすうっと消えていく。そういえば実物の結晶たちを見たことがなかったっけ、一度見にいかねば、と男は思った。定時退出を促す構内放送が流れる中、男は家路についた。

筆者(左から3番目)。International Workshop 
メMolecular Simulation Studies in Material and Biological Sciencesモ、
2004年9月、JINR (Dubna,Russia) にて。

男がのぞいていた水晶玉はこちらからダウンロードできます。
 http://www.iitaka.org/



理研ニュース 

12
No.282
December 2004

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発行日
平成16年12月6日
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