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脳はリズムで経験を記憶する 脳科学総合研究センター “昨日、この道の途中で友人に会い、その後、交差点を右に曲がったところでケーキを買った”。私たちは自分が経験したこのような1回限りの出来事を、それが起きた順番で覚えることができる。数学の公式や英単語を1回で覚えるのは難しいのに、自分が経験した1回限りの出来事を何年たっても忘れないことがある。脳はどのようなメカニズムで自分が経験した出来事を記憶するのだろうか。「私が注目しているのは、脳のリズムです」と語る山口陽子チームリーダーは、特定の脳波に合わせて神経細胞が協調して働き、経験が記憶されるという理論モデルを、世界に先駆けて提唱した。創発知能ダイナミクス研究チームでは、さらにこの理論モデルを発展させ、脳がリズムによって知能を生み出すメカニズムを解明しようとしている。 ●
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ヒトの知能メカニズムに迫る ● 「私たちの理論モデルにより、認知地図の形成メカニズムも解明できるようになりました。そもそも認知地図は、1930年代に米国の心理学者E. Tolman(トルマン)が提唱した概念です」。例えば、動物が餌を探す場合、においがしたというような直接的な刺激によって受動的に行動するだけでなく、さまざまな経験に基づく認知地図をもとに、自分の行く道を主体的に決めて餌を探し回るのだという考えである。「英国のO'Keefeらによる認知地図仮説には、実はこのような背景があるのです。生き物の主体性や知能を支える仕組みとして、認知地図は重要な機能を持つと考えられます。しかしこれまでの海馬の研究は、主体性や知能を探る研究として、必ずしも順調に進展してきたわけではありません。私たちの理論モデルは、主体性や知能を神経回路の仕組みから解明していくための重要なステップになります。人間を含めた生き物の知能を神経システムの原理から探る研究は、これからが本番です」 山口チームリーダーらは、海馬の理論モデルを発展させて、ヒトの知能メカニズムを解明しようとしている。ただし、海馬は大脳の内側に位置するので、ヒトの海馬のシータ波を直接計測することはできない。ヒトの脳波は普通、頭皮の上に電極を付けて測られる。 ヒトのシータ波の研究では、1970年代に大阪府立大学の石原務博士が、知能テストを行うと前頭葉の中心部に特徴的なシータ波が出るという実験データを発表した。これは「Fm(エフエム)シータ波」と呼ばれている。その後、1980年代後半から、脳波に伴う磁場の変化を、脳を傷つけずに測れるMEG(メグ)(脳磁計測法)などによる実験が行われ始め、研究が進展してきた。2000年には大阪府立大学のグループが、前部帯状回がFmシータ波の発信源の一つだと推定した。前部帯状回も海馬と同じ大脳の内側に位置する領域である(図6)。帯状回は、集中や注意、行動の動機付け(モチベーション)などに関係していると考えられている。例えばたくさんの課題があるとき、今までやっていた課題を違う課題に切り替える際に、前部帯状回が働く様子がサルの実験などで計測されている。 「知能は、一定のルールを実行することより、むしろルールが分からない状況で、自分にとってふさわしいルールを選んだり、発見したりするときに必要です。つまり、今までやっていた課題を続けることに疑問を持ったり、新たな可能性を模索したりする作業です。こうした観点から、前部帯状回は知能を研究する上で、大変興味深い領域です」 前部帯状回と海馬はシータ波によって協調して働いているのかもしれないと、山口チームリーダーは考えている。ラットの海馬の実験データを解析したところ、時系列の情報を反映した場所細胞の活動とは別に、CA3から新たに付け加わる活動が見つかった。 「この活動を“第2の成分”として切り分けて私たちは考えています。この成分は現れるときと現れないときがあります。第2の成分がどのような役割を担っているのかはまだ分かりませんが、モチベーションに関係している可能性が指摘されています」 何を記憶するか、何を思い出すかを、海馬自身は決められない。状況に応じたモチベーションを海馬に伝えて、記憶させたり、思い出させたりする必要がある。こうしたモチベーションにかかわる前部帯状回と、認識や記憶を担う海馬が、シータ波に合わせて情報をやりとりするときに第2の成分が現れるのではないかと期待して、山口チームリーダーらは研究を進めている。 「さらに私たちはリズムに注目して人間の脳活動の測定を進めています。理論モデルと、人間を対象とした実験との協力体制が、ますます重要になると考えています」 ● |
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体の形の進化を解き明かす 神戸研究所 ヤツメウナギ※とカメ。これが、発生・再生科学総合研究センター形態進化研究チームの主な研究対象だ。倉谷滋チームリーダーは、「進化とは、基本的な形態パターンはある程度残した上で、新しい形態パターンを積み重ねていくものです。でも時には、基本的な形態パターンを変えてしまうほど過激な変化が起きることがあります。その代表的な例が、脊椎動物の顎(あご)とカメの甲羅です」と語る。形態進化研究チームでは、脊椎動物の顎とカメの甲羅が生物の歴史の中でどのように形成されたのかを明らかにし、要因となった遺伝子を突き止めようとしている。生物は、いかに体の形を変えて進化してきたのか。比較形態学、進化発生学、分子発生学、実験発生学など多角的なアプローチによって、形態進化の謎に挑む。 ● ● ● ●
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固体素子を用いて 2ビットの量子絡み合いを初めて実現 量子コンピュータの実現に向けて大きく前進 (2003年2月20日、文部科学省においてプレスリリース) 当研究所とNECは、固体素子で構成される量子コンピュータの基本素子2個を結合した実験で“量子絡み合い”状態を世界で初めて実現し、量子コンピュータの実現に向け大きく前進した。蔡 兆申(ツァイ ヅァオシェン)NEC基礎研究所主席研究員/理研フロンティア研究システムチームリーダー(巨視的量子コヒーレンス研究チーム)らの研究グループによる成果。量子コンピュータの実現には、量子重ね合わせ状態と並んで、“量子絡み合い”状態と呼ばれる複雑な量子状態の生成が不可欠であり、2量子ビットを用いた量子絡み合い状態は、これまで固体素子では実現されていなかった。研究グループでは、量子ビット2個を微小なコンデンサーでつないだ固体素子回路を作り、量子絡み合いを出現させる方法を考案。量子ビット間の量子絡み合い状態の生成に初めて成功した。量子重ね合わせと、量子絡み合いの両方の状態が固体素子で実現できたことにより、今後は、これらの量子ビットを集積した論理演算回路の開発に取り組み、量子コンピュータの実現を目指していく。 ● ● ● ● |
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フォトニック結晶を 立体的に組み上げる技術を確立 光通信の情報処理速度を飛躍的に高める新材料
当研究所は、物質・材料研究機構および横浜国立大学と共同で、次世代光通信技術の材料として欠かせないフォトニック(光)結晶を短時間で立体的に組み上げる手法を確立した。理研中央研究所半導体工学研究室※の青木画奈(かんな)基礎科学特別研究員(現・東京大学産学官連携研究員)を中心とした研究グループによる成果。研究グループでは、平面的な部品を作り、それをプラモデルのように立体的に組み上げることによって、光通信の制御部品などに使われるフォトニック結晶の構造を築く方法を考案した。現在、情報は光ファイバーなどで送信されていても、パソコンや携帯電話内で電子に変換されて情報処理されている。今回確立された技術を用いることによって、光のまま情報処理できる素子の製作が可能となり、情報処理能力が100倍近く向上することが期待される。 ● ● ● ● ※:半導体工学研究室 2003年3月末に改廃。 |
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次世代高性能タイヤ用合成ゴムの 開発に成功 ゴムの構造を自由にデザインできる新触媒 (2003年3月18日、文部科学省においてプレスリリース) 当研究所は、希土類金属の有機金属錯体による新触媒を用いて、タイヤなどのゴム原料となる究極の合成ゴムの開発に成功した。理研中央研究所高分子化学研究室の会田昭二郎協力研究員、および同研究所有機金属化学研究室、有限会社OMケムテックによる成果。研究グループでは、精密な重合挙動の制御が期待される「シングルサイト触媒」※1、特にその特異的な性質により高次元での構造規制が期待される「メタロセン型希土類金属錯体」※2に注目し、錯体化学的アプローチによる新規重合触媒の開発を行った。その結果、ポリブタジエンゴムやポリイソプレンゴムを生成する系において、触媒をデザインすることにより幾何構造を自由にコントロールすることに成功した。特にシス構造の制御率がほぼ100%、かつ分子量を任意に設定できるという理想的な触媒である「ガドリニウムメタロセン触媒」の発見により、これまでにない高度な性質の合成ゴムの実現が期待されている。現在、実用化に向けた研究が理研ベンチャーの一つ、(有)OMケムテックにより進められている。 ● ● ● ● |
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「世界脳週間2003」、和光本所で
講演会等を開催 |
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遠山文科大臣 大型放射光施設
SPring-8を視察 |
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新チームリーダー紹介
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“社会”と“科学”とのつながり |
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● インタープリターの活躍の場の一つに広報活動がある。企業広報とは違い、基礎研究に対する広報活動の主眼は、科学の重要性を説き、いかに国民の生活に福音をもたらすかを伝えることにある。そのことは、ひいては息の長い基礎科学研究、莫大(ばくだい)な予算を必要とするビッグプロジェクト推進に向けた、国民の合意というハードルを低くすることにつながる。中でも研究成果などを報道するプレス発表(記者会見)の役割は大きい。研究者は発表文を作成する際、正確に科学的な事実を伝えようとする。しかし国民の声を代弁する記者は、“この研究が今後何に役立つのか”など社会的なインパクトを要求する。報道官はその間に立ち、発表文を一般の人にも理解しやすいように書き直す。つまりインタープリート(通訳)することが求められる。さらに記者は、プレス発表をもとに論点を整理し、端的な表現を使い記事化していく。 ● 科学と社会の間に立つインタープリターに求められる素養とは何であろうか。一番大事なのは、“不思議”を“不思議”と感じられる感覚、つまり“科学するこころ”ではないか。このことは、もとより研究者を目指すものにも必要な素養であり、実際のところインタープリターと研究者とは表裏一体なのかもしれない。一方、報道すべき事柄を理解した上で、あくまでも客観的に、その価値を判断できる感性も備わっていなくてはならない。米国では科学ジャーナリストを養成するフェローシップ制度もあり、研究者ではなく、インタープリターを目指す科学者も多いという。そして、科学的素養、社会的感覚を併せ持ったインタープリターが科学啓発、政策提言を行うケースも少なくない。また、科学ニュースをアウトプットする媒体(科学雑誌・番組)も多い。残念ながら日本では、優れた科学雑誌が休刊に追い込まれ、科学にふれる機会が減ってしまった。 ● 日本学術会議は2002年11月、日本科学技術ジャーナリスト会議と共催でシンポジウム「科学と社会―いま科学者とジャーナリストが問われている―」を開催した。その中で、“わが国は、欧米諸国に比べ、正確な科学知識の普及が最も遅れている”との指摘があった。さらに、科学と社会とを橋渡しする人材養成の必要性も論じられ、インタープリター活躍への期待も大きい。理研は10月から独立行政法人化される予定である。研究所としてのビジョンを定め、その存在意義(基礎科学の重要性)や科学的成果を社会にきちんと説明できる体制の整備こそが、さらなる飛躍につながるのではないか。 広報室(現・文部科学省 ライフサイエンス課 生命倫理・安全対策室)●嶋田庸嗣 |
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