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No. 262 April 2003

(上)HETE-2衛星
「ガンマ線バーストの正体に迫る」から
(下)スフィンゴミエリンの細胞膜での動態
「脂質から細胞の機能メカニズムを解明する」から
(上)HETE-2衛星
(下)スフィンゴミエリンの細胞膜での動態



研究最前線

ガンマ線バーストの正体に迫る

中央研究所
宇宙放射線研究室
主任研究員 牧島一夫

宇宙の1点から突然、強烈なガンマ線※1がやってきて、数秒から数分で消えてしまう。これが、正体不明の天体現象ガンマ線バーストである。「私たちは、HETE(ヘティ)-2でガンマ線バーストの正体に迫ろうとしています」と宇宙放射線研究室を率いる牧島一夫主任研究員は語る。HETE-2(High Energy Transient Explorer:高エネルギートランジェント天体探査衛星・第2号機)は、理研が米仏との国際協力で開発し、2000年に打ち上げ、運用している衛星である。「これまで、ガンマ線バーストの発生から位置情報の配信まで数時間かかっていました。HETE-2は、それを最短10秒で行う。発生直後の様子を観測できるようになり、大きな成果を生み出しています」。正体不明の天体現象に挑むHETE-2の活躍を紹介しよう。


正体不明の天体現象

牧島主任研究員
1967年7月2日、核実験を監視していた米国の衛星VELA(ベラ)は、突然強いガンマ線をとらえた。当時は米ソの冷戦時代であり、緊張が走ったに違いない。ところが、ガンマ線は地上ではなく、宇宙から来ていた。
 「これが、初めて観測されたガンマ線バーストです」と、牧島主任研究員は解説する。その後も何度か同じ現象が観測されたが、いつ、どこからやってくるか分からず、数秒、長くても2〜3分で消えてしまう。「ガンマ線は透過力が強い上に突発的なので、位置を決めるのは難しい。たとえ位置が分かって望遠鏡を向けても、天体らしいものは何も見えません。そのため“正体不明の天体現象”といわれるようになったのです」



100億光年のかなたからの光

ガンマ線バースト観測の先駆けとなったのが、1987年に打ち上げられた宇宙科学研究所のX線天文衛星「ぎんが」である。「ぎんが」は日本初の本格的なガンマ線バースト検出器を搭載。多くのガンマ線バーストをとらえ、X線での観測が重要であることを初めて示した。
 1990年になると、米国の衛星Compton(コンプトン)ガンマ線天文台が打ち上げられ、研究が大きく進展する。約3000個のガンマ線バーストを観測し、位置を決定した結果、全天で一様に発生していることが明らかになったのだ。しかし、地球の近くで起きているのか、遠方の宇宙で起きているのかが分からない。
 その答えを出したのが、1997年にイタリアとオランダが共同で打ち上げたX線天文衛星BeppoSAX(ベッポサックス)である。「BeppoSAXはガンマ線バーストを観測し、位置を正確に決定しました。その位置情報に基づいてX線や可視光で観測すると、だんだん暗くなっていく天体が見えたのです。そこは非常に遠方の銀河でした。ガンマ線バーストは、数十億から100億光年もかなたにある銀河での現象だという、驚くべき結果になったのです」
 しかし、ガンマ線バーストの正体が分かったわけではない。「どんな天体が、どういうメカニズムで起こす現象なのか。その正体を解明するには、ガンマ線バーストに対応する天体を詳しく観測しなければなりません」と牧島主任研究員は指摘する。
 その後もガンマ線バーストの対応天体がいくつか発見されたが、いずれも20等級以下と非常に暗く、大型望遠鏡でないと観測できない。対応天体が観測できない「暗黒バースト」も半数以上あった。
 「対応天体は、時間とともに減光していきます。発生直後ならば、もっと明るいはずです。明るければ発見しやすく、詳細な観測も可能です。そのためには、ガンマ線バーストの位置をより早く、正確に決定し、位置情報をリアルタイムで配信できる体制を作らなければいけない。それが、研究者たちの一致した意見でした」と語るのは、玉川徹研究員である。「実はBeppoSAXよりも前に、そういうコンセプトで作られた衛星がありました。それがHETEです」


10秒で位置情報を配信

HETEは、日米仏の国際共同で開発され、1996年11月に打ち上げられた。しかし、ロケットからの衛星分離に失敗。HETE-2は、その2号機で、2000年10月9日、NASA(米国航空宇宙局)のペガサスロケットによって打ち上げられた(表紙)。NASAは予算削減の真っただ中にあり、2号機実現までの道のりは平坦ではなかった。しかし、ガンマ線バーストの研究が非常に重要なテーマであることは明らかで、松岡勝 前宇宙放射線研究室主任研究員を中心とする当時の理研HETEチームの情熱、そして小田稔元理事長の尽力もあり、再挑戦が認められたのである。
 HETE-2は3つの機能を備えている。第1に、全天の10分の1という広い視野での監視。ガンマ線バーストは、全天で1日に1個程度起きるので、HETE-2は半月に1個、年に20個ほど観測できる計算だ。
 第2は、発生位置を衛星上で自動決定すること。位置決定まで約10秒、誤差は10分角(満月の視直径の3分の1)である。精密な位置決定を可能にしたのは、宇宙放射線研究室と米国のロスアラモス国立研究所が共同で開発した広視野X線装置だ(図1)。
 第3は、即時に地上に位置を通報すること(図2)。HETE-2は、赤道上空の高度600kmの軌道を103分で1周している。HETE-2が軌道上のどこでガンマ線バーストをとらえても、位置情報を即時に送れるように、赤道上に3カ所の主地上局と14カ所の副地上局を設けている。理研は、シンガポールの主/副地上局と、パラオとマウイの副地上局を運営している。受信局で受けた位置情報は、米国MITの管制センターに集められた後、ガンマ線バースト連携ネットワーク(GCN、http://gcn.gsfc.nasa.gov/)などの登録者にインターネットを通じて配信される。
 ガンマ線バーストが発生してから、位置情報が配信されるまで、最短では10秒だ。
 HETE-2の運用は、宇宙放射線研究室を中心に、打ち上げ当時に奨励研究員であった白崎裕治 国立天文台科学研究員(現共同研究員)らが行っている。また、副主任研究員であった河合誠之 東京工業大学教授(現客員主管研究員)、先任研究員であった吉田篤正 青山学院大学助教授(現客員研究員)の指導のもと、東京工業大学や青山学院大学の学生たちも大きく貢献している。

図1:HETE-2の観測装置
図2:HETE-2の情報伝達


発生直後の振る舞いが見えた

HETE-2が初めて即時位置通報を出したのは、2002年8月12日に発生したガンマ線バースト(GRB020812※2)である。発生から即時位置通報の配信まで約9分であった。翌日の8月13日(GRB020813)には約4分、10月4日(GRB021004)には48秒、12月11日(GRB021211)には22秒で即時位置通報が出された。
 位置通報を受け取った観測者は、その方向に望遠鏡を向け、対応天体を探す。一方、地上での詳細な解析によって精度を高めた位置情報も配信する。GRB021004では、発生から9分後、15等級の対応天体が観測された(図3、図4)。分光観測から、約108億光年の距離にある銀河であることが分かった。

図3:GRB021004の位置通報
図4:GRB021004の可視光対応天体

 HETE-2が即時位置通報を行った4回のガンマ線バーストのうち、3つで対応天体が見つかっている。即時位置通報が、いかに重要であるかが証明されたことになる。
 対応天体が見つかると、明るさがどのように変化するか、追跡観測が行われる。「10月4日に発生したガンマ線バーストでは、米国で対応天体が発見された後、日本、オーストラリア、インド、イスラエル、ヨーロッパと、夜を迎えた国々で順々に観測され、対応天体がだんだん暗くなっていく様子がとらえられました」と語るのは鳥居研一基礎科学特別研究員だ。鳥居研究員自身も、GRB021004の発生から約200秒後に埼玉県和光市にある理研の研究本館(6階建て)屋上で観測を行った。「口径20cmの望遠鏡で観測しました。いま画像を詳細に解析しているところですが、対応天体が写っている可能性があります」。東京近郊で、しかも小型望遠鏡で、100億光年のかなたにある天体が見えるのだ。ガンマ線バーストがいかに強烈な現象かを実感できる。
 すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡など、大型望遠鏡との連携も重要だ。暗くなった対応天体を追跡観測したり、分光観測など詳細な観測を行う。X線や電波、赤外線などさまざまな波長でも観測されている。
 「BeppoSAXの場合、観測データを1時間半ごとに受信し、地上で位置を決定していました。発生から位置情報の配信まで数時間かかる。その間の対応天体の振る舞いは、まったく分かりません。即時位置通報によって、発生から数十秒後の様子が見えるというのは、非常に大きな進展です」と玉川研究員はHETE-2の成果を解説する。
 対応天体の明るさの変化を示した光度曲線が図5である。GRB021004は、減光する途中でいったん明るくなっている。このような振る舞いを詳しく調べることにより、ガンマ線バーストの発生メカニズムに迫る大きな手掛かりが得られると考えられている。
 GRB021211は、発生から65秒後に対応天体が発見された。発見時は14.5等級だったが、2時間後には21等級まで急激に減光している。今までであれば、暗黒バーストとされていただろう。「減光のスピードは、ガンマ線バーストの周りにある物質の種類や量によって決まると考えられます。発生直後の対応天体を観測することで、ガンマ線バーストの周りの環境まで、分かるようになってきたのです」と玉川研究員は語る。
 研究室では、より早く対応天体を観測するために、口径30cmの小型望遠鏡を使ったロボット望遠鏡システムを開発している。即時位置通報を受けると自動的にその方向に望遠鏡を向け、観測を開始する。ガンマ線バースト発生の直後から観測が可能になる。岡山県の美星(びせい)天文台、宮崎大学などに設置、運用を始めている(図6)。鳥居基礎科学特別研究員は「理研が対応天体を最初に決定するという手柄も立てたいですね」と意欲を見せる。
図5:ガンマ線バースト対応天体の光度曲線

HETE-2運用チーム。前列左から2番目が玉川研究員、前列右端が鳥居基礎科学特別研究員。 図6:美星天文台に設置されたロボット望遠鏡RIBOTS


超巨大星の爆発か

「ガンマ線バーストの正体については、候補が絞り込まれてきましたが、まだ結論は出ていません」と玉川研究員は語る。ガンマ線バーストには、バーストの継続時間が2秒より短いタイプと、それよりも長いタイプがある。「長いバーストは、数十億から100億光年かなたの銀河で起きた、超巨大星の爆発に伴う現象ではないかと考えられています。しかし、星の大きさや爆発のメカニズムなどは、まだ研究途上です」
 超新星爆発の瞬間にニッケルやコバルトなどが作られるが、すぐに崩壊する。これらの元素が放つ、その元素に特有の光(輝線)を観測できれば、超新星爆発に伴う現象であることが明確になる。
 2003年秋には、玉川研究員もかかわっている米国のガンマ線バースト観測衛星Swift(スウィフト)が打ち上げられる。Swiftがガンマ線バーストをとらえると、宇宙科学研究所のX線天文衛星Astro(アストロ)-E2(2005年打ち上げ予定)にも位置情報が通報され、連携して観測する。超新星爆発によって高速で飛び出し、地球に向かって飛んでくる元素が放つ輝線は、波長が短い方にずれる。Astro-E2が搭載する世界最高性能のX線分光器は、その波長のずれまで観測できるかもしれない。
 もう1つの鍵がニュートリノだ。ガンマ線バーストは、ニュートリノも放射することが予言されている。もしガンマ線バーストからのニュートリノが検出されれば、2002年のノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊東京大学名誉教授が切り拓いたニュートリノ天文学の次のハイライトとなるだろう。
 一方、バーストの継続時間が2秒以下のタイプは、中性子星同士の衝突ではないかと考えられている。しかし、継続時間が短いために、位置解析が難しく、対応天体が観測された例はまだない。
 「対応天体が見つかった例は、まだ30個ほどです。観測例を増やして共通点を見つけていくことが、結局はガンマ線バーストの正体を解明するための近道だと思います」と玉川研究員は語る。


MAXIでブラックホールの合体を見る

「ブラックホールがいつ、どこで生まれ、どのように進化し、銀河の中心にある巨大ブラックホールになるのか。ブラックホールを統一的に理解できるような、巨大ブラックホール形成のシナリオを完成させたいのです」と牧島主任研究員は大きな目的を語る。最近の観測から、太陽質量の10倍程度のブラックホールが次々と合体しながら銀河中心に落ち込み、太陽質量の10億倍もある巨大ブラックホールが形成される、というシナリオが見えてきた。
 研究室では宇宙開発事業団と共同で、国際宇宙ステーションに搭載されるMAXI(マキシ)(Monitor of All-sky X-ray Image:全天X線監視装置)を開発している。MAXIによって、ブラックホールが合体する様子がとらえられる可能性がある。「ガンマ線バーストが超新星爆発や中性子星の衝突であれば、あとにはブラックホールができます。巨大ブラックホール形成のシナリオの中に、ガンマ線バーストもうまく組み込むことができるのではないかと考えています」
 ガンマ線バーストの発見からすでに35年以上たつ。多くの研究者がその正体を追いかけてきたが、まだ追い詰めきれてはいない。「ガンマ線バーストの研究は、HETE-2によって本当の意味でようやくスタートしたところなのです」と牧島主任研究員は語る。HETE-2の運用は2004年半ばまでの予定だ。その間に十数回はガンマ線バーストをとらえるだろう。ガンマ線バーストがどんな正体を現してくるのか、楽しみである。




※1:ガンマ線
電波や可視光、X線と同じ電磁波の一種。
波長が0.01Å(10-12m)より短く、数100keVより高いエネルギーを持つ。大気によって吸収されるため、地上では観測できない。



※2:GRB020812
ガンマ線バーストの識別は、Gamma-Ray Burstの略語であるGRBの後ろに、発生した西暦の下2桁、月と日をそれぞれ2桁で並べて表示する。同日に複数発生した場合は、小文字アルファベットを付加する。






監修:中央研究所 宇宙放射線研究室
主任研究員 牧島一夫
研究員 玉川 徹
基礎科学特別研究員 鳥居研一

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研究最前線

脂質から細胞の機能メカニズムを解明する

フロンティア研究システム 生体超分子システム研究グループ
スフィンゴ脂質機能研究チーム
チームリーダー 小林俊秀

私たちの体を作る物質で、水、タンパク質の次に多いのが脂質である。脂質には、エネルギー源となる脂肪や、細胞膜などの生体膜の主成分であるリン脂質が含まれる。このリン脂質をはじめ脂質は数千種類にも上るが、人工的に膜を再現するなら、たった1種類の脂質でも可能である。では生体膜にはなぜ数千種類もの脂質が必要なのか? 「生体膜ではさまざまな種類の脂質が集まって、それぞれドメイン(領域)を作り、細胞の機能に重要な役割を果たしていることが分かってきました。しかし今まで脂質ドメインを直接見る方法がありませんでした」と語る小林俊秀チームリーダーらは、細胞膜においてスフィンゴ脂質が作る脂質ドメインである「脂質ラフト」を直接とらえることに初めて成功した。スフィンゴ脂質機能研究チームでは、生体膜を作る脂質の組成や動態を調べることにより、細胞のさまざまな機能メカニズムを解明しようとしている。


細胞膜は液晶状態

小林チームリーダー
「細胞膜ができた時が生命が誕生した時だと言っても言い過ぎではないと思います」と小林チームリーダーは語る。自分と自分以外を分ける境界があること、すなわち細胞膜で囲まれていて内側と外側が仕切られていることが、少なくとも生命にとって必要な条件であるといえる。
 では、なぜ細胞膜は内側と外側を仕切ることができるのか? 細胞膜の主成分はリン脂質である。リン脂質など膜を作る脂質分子には、水になじむ親水性の頭部と水を避ける疎水性の尾部があって、2つの脂質分子が疎水性の尾部で向き合い、親水性の頭部を細胞の内側と外側に向ける形で二重膜を作る。このように親水性の層の間に疎水性の層を挟み込んだ脂質二重膜構造により、細胞膜は内側と外側を仕切ることができるのだ(図1)。
 しかし脂質二重膜は、細胞に必要な物や情報を取り入れたり、不要なものを外に出したりすることができない。物の輸送や情報伝達は、脂質二重膜に埋め込まれたタンパク質がつかさどっている。
 「1972年、米国のS. J. Singer(シンガー)とG. L. Nicolson(ニコルソン)が“流動モザイクモデル”を提唱して細胞膜の理解に大きな進歩をもたらしました。それまで細胞膜は固体で、動きがない静的なものだろうと考えられていたのですが、ここで初めて細胞膜はダイナミックであるという概念が提示されたのです」
 流動モザイクモデルは、脂質二重膜が固体(結晶)と液体の中間状態である液晶になっていて、そこに浮いているタンパク質が動き回ることができるという概念である(図2)。

図1:リン脂質と脂質二重膜の構造 図2:流動モザイクモデル


液晶に浮かぶ“いかだ”
脂質ラフト

細胞膜に限らず、核や小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリアなどの細胞小器官を包む膜など、あらゆる生体膜は脂質二重膜からなる。今までの研究によって、生体膜を形成する脂質の種類は数千にも上ることが分かっている。生体膜の脂質組成は生物によって異なり、同じ生物でも臓器ごとに違う。さらには同じ臓器でも細胞の種類ごとに異なり、同じ細胞でも細胞小器官ごとに違いがある。
 「ところが、たった1種類の脂質でも液晶状態の脂質二重膜を人工的に再現することができます。では、なぜ生体膜には数千種類もの脂質が必要なのか? その答えの1つが、1988年にドイツのK. Simons(シモンズ)らが提唱した脂質ラフトです」
 Simonsらは、リン脂質の一種であるスフィンゴ脂質が、コレステロールとともに集まって細胞膜上でドメインを形成すると考えた。そしてこの脂質ドメインを「脂質ラフト」と名付けた(図3)。スフィンゴ脂質は100年以上前に脳で発見されたが、機能がよく分からないことからギリシャ神話に出てくる謎かけの怪物“スフィンクス”にちなんで「スフィンゴ」と命名された。
 「スフィンゴ脂質は互いに結合しやすいという性質があります(図4)。さらにコレステロールとも物性の相性が良く、スフィンゴ脂質があるところにコレステロールが寄っていきます。コレステロールが“のり”の役目をして、脂質ラフトの形成を促進すると考えられます。ラフトとは“いかだ”のことです。性質の似たタンパク質が集まって、脂質のいかだに乗っているというイメージです」
 脂質ラフトは生成・移動・消滅をダイナミックに繰り返していて、物の輸送や情報伝達に重要な役割を果たしていると考えられている。
 「物の輸送や情報伝達には、たくさんのタンパク質がかかわります。例えば、ある特定の情報伝達に関連するタンパク質が、細胞膜上にばらばらに散らばっているよりも、集まっていた方が効率的に情報を細胞内に伝えられます。関連するタンパク質が集まるための場所を提供しているのが、脂質ラフトだと考えられます」
 ある情報が来たときに、特定の脂質ラフトが大きくなるなど、劇的な変化が起きる。するとその情報伝達に関連するタンパク質が集まってきて、伝達効率が高まる。そのような脂質ラフトの機能も提唱されている。
 脂質ラフトのように、生体膜においてさまざまな種類の脂質がそれぞれドメインを作り、各器官の機能に重要な役割を果たしているらしい。だからこそ、生体膜には、数千もの種類の脂質が必要なのだと推測できる。

図3:脂質ラフトの予想される構造 図4:スフィンゴ脂質とグリセロ脂質の構造


脂質プローブの開発に成功

これまで細胞膜における物の輸送や情報伝達は、タンパク質が主役となって行われていると考えられてきた。「私はタンパク質を乗せている脂質ラフトの方がむしろ主役だと考えて研究を進めています」
 しかし、脂質ラフトの概念が提唱されて15年たつが、これまでは主として脂質ラフトに乗っていると考えられるタンパク質しか観察することができなかった。
 「脂質はタンパク質に比べて分子量が小さいことなどから、調べるのが難しいのです。脂質ラフトの構造も、これまでは直接見ることができず、いわば状況証拠から推定するしかありませんでした。脂質ラフトの大きさも100nm(1万分の1mm)以下だと推定されていますがよく分かっていません。“そもそも脂質ラフトという構造が存在するのか?”という根本的な疑問にも決着がついていないのです。脂質の研究はタンパク質に比べて本当に遅れていて、ある種類の脂質がどこにあるのか、例えばスフィンゴ脂質がゴルジ体や小胞体にもあるのか?―そういう簡単な疑問にもなかなか答えられません」
 このような状況の中、1999年にスタートしたフロンティア研究システムのスフィンゴ脂質機能研究チームは、脂質を直接見るためのプローブ(観測したい物質に結合させる目印)の開発に力を注いできた。中でも研究チームが注目しているのは、シマミミズが分泌するライセニンという毒素タンパク質である。このタンパク質はスフィンゴミエリンにだけ特異的に結合する。スフィンゴミエリンは代表的なスフィンゴ脂質であり、脂質ラフトには欠かせない要素だと考えられている。研究チームは、ライセニンに蛍光物質を付けることにより、脂質ラフトを直接見るためのプローブを初めて開発した。
 図5はこのプローブを使って見た細胞膜のスフィンゴミエリンである。生体から取り出した皮膚の細胞がシャーレに接着するときの様子をとらえている。緑色がスフィンゴミエリン、赤色が細胞膜を裏から支えている細胞骨格アクチンである。黄色は両者が相互作用している部分である。
 「細胞膜がくねくねと波打つラフリングと呼ばれる現象が見られます。そのくねくねしているところに、スフィンゴミエリンが集中して脂質ラフトを作っています」
 この細胞接着の例のように、脂質ラフトは物や情報の輸送・伝達ばかりでなく、細胞のさまざまな機能に重要な役割を果たしていると考えられる。研究室では、ライセニンの変異体から毒素がないプローブを開発することにも成功した。現在、このプローブによって、生きた細胞での脂質ラフトの分布や動態を探っている。
 「高次な生命機能、例えば受精や発生のときの脂質ラフトの様子も調べ始めています。細胞分裂のときには脂質ラフトが不均一な分布を示すことが最近分かってきました。スフィンゴ脂質はもともと脳に大量にある脂質として発見されました。いずれは脳の情報伝達における脂質ラフトの動態も調べてみたいですね」
 ライセニンの例のように、いくつかの毒素は脂質ラフトに結合することにより機能を果たす。いくつかのウイルス感染にも脂質ラフトが関係しているらしい。
 「脂質ラフトは細胞が必要な物や情報を効率よく外から取り入れるための場所を提供しているのですが、ある種の細菌やウイルスはその仕組みを利用して、脂質ラフトを標的にして細胞内に感染することが分かってきました。実際に脂質ラフトに注目してエイズウイルスの感染を研究している人もいます」

図5:スフィンゴミエリンの細胞膜での動態



コレステロールの動態をとらえる

図6:新しいコレステロールプローブで追跡したニーマンピック病細胞でのコレステロールの細胞内への蓄積
「私たちの研究室ではスフィンゴミエリンとともに、脂質ラフトの形成・維持に重要な役割を果たしているコレステロールの動態を調べることにも力を入れています」
 コレステロールも脂質の一種である。コレステロールを調べるための従来の試薬は毒性が強く細胞が死んでしまうため、生きた細胞内でのコレステロールの動態はよく分かっていない。
 研究室では、生きた細胞内でのコレステロールの動態をとらえることにも成功し始めている。コレステロールは、血管壁にたまって動脈硬化の原因となることでも有名である。コレステロールが細胞内にたまる病気もある(図6)。
 「なぜコレステロールが細胞内にたまると病気になるのかもよく分かっていません。いわゆる“悪玉コレステロール”LDLが細胞内にコレステロールをためていくのですが、それを細胞内から取り除くのが“善玉コレステロール”HDLです。コレステロールがたまる仕組みは分かってきていますが、HDLがコレステロールを取り除く仕組みはよく分かっていません。HDLは脂質ラフトを標的にして細胞に結合し、コレステロールを取り除くという説があります。脂質ラフトとHDLの関係も調べていこうと思います」


脂質ドメインの全体像を知る

「細胞の外から来た物質や情報は、まず細胞膜の外側から内側に伝わっていきますが、脂質ラフトの裏側、つまり細胞膜の内側にどのような脂質があるのか、実はまだほとんど分かっていません。従来の方法では、細胞を壊して膜を取り出して組成を調べています。これでは表と裏の組成は分かりません。私たちは細胞膜を裏返す性質を持つ毒素を利用して、細胞膜の裏側に脂質がどのように分布しているかをとらえ始めています(図7)」
 細胞膜だけでなく、細胞小器官の生体膜にも脂質ドメインがあり、異なる細胞小器官の脂質ドメイン同士の相互作用や、脂質ドメインとタンパク質の相互作用が、細胞の機能に重要な役割を果たしていると考えられ始めている。
 「現在、脂質ドメインに関する論文が数多く書かれています。しかし脂質ドメインは概念だけが先行し過ぎている傾向があります。まず代表的な脂質ドメインである脂質ラフトについて、脂質を直接見て詳しく調べる必要があります」と小林チームリーダーは指摘する。
 脂質ラフトを作るスフィンゴ脂質には多くの種類があり、その数や並び方、結合の仕方もさまざまであることが、研究チームが開発したプローブで明らかになりつつある。
 「このような脂質ラフトの違いによって、集まるタンパク質がどのように変わるのかも調べていこうと思います。脂質ラフトをはじめとする生体膜における脂質ドメインの組成や動態の全体像が分かって初めて、受精・発生や免疫機構、脳の情報処理など生命の高次機能における脂質の働きや、脂質がかかわる病気のメカニズムなど、いろいろな問題に答えられることでしょう」
 さらには、脂質組成が分かれば、細胞膜が外からの物や情報をとらえる機能を、ナノテクノロジーを駆使して人工的に実現するセンサーが開発できるだろうと、小林チームリーダーは言う。小林チームリーダーは、工学部で化学を専攻し、大学院で生物学と脂質の研究に取り組み始め、博士号取得後、ドイツのSimonsの下で研究を行うという経歴を持つ。
 「現在、脳や免疫の研究者の多くが脂質ドメインに興味を持っていますが、脂質は水に溶けず扱いにくいので嫌う研究者も多いのです。しかし脂質は分子量が小さく、化学分野の者にも、分かりやすい物質だったのです」
 スフィンゴ脂質機能研究チームが開発した脂質プローブは、遺伝子やタンパク質の研究だけからでは解明が難しい生体のメカニズムを明らかにし、そのメカニズムから学んだ新たな技術の開発にも貢献していくことだろう。

図7:膜を裏返す毒素による細胞膜内側の脂質の細胞表面への露出





監修:フロンティア研究システム
生体超分子システム研究グループ
スフィンゴ脂質機能研究チーム
チームリーダー 小林俊秀

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SPOT NEWS

細胞のカルシウム振動を引き起こす
IP3受容体の3次元結晶構造を解明

(2002年11月18日、文部科学省においてプレスリリース)

当研究所と科学技術振興事業団は、生命現象に必須で、細胞内カルシウム振動を引き起こす原因分子であるイノシトール三リン酸(IP3)受容体のIP3結合部位の結晶化に成功し、その立体構造を世界で初めて解明した。理研脳科学総合研究センター(BSI)発生神経生物研究チームの御子柴克彦チームリーダー、BSI分子神経形成研究チームの古市貞一チームリーダー、東京大学医学研究所の道川貴章助手およびトロント大学(カナダ)の伊倉光彦教授らの研究グループによる成果。IP3受容体は、細胞内にあるカルシウムの袋から、カルシウムを放出する際に“栓”の役割をする重要なチャネル分子。研究グループでは、大型放射光施設SPring-8を用いた3次元X線結晶解析によって得られたIP3結合部位の立体構造から、IP3を認識する分子機構を明らかにした。IP3は、細胞内のあらゆる機能を調節する重要分子であり、IP3の認識メカニズムの解明により、細胞機能を調節する薬の開発につながるものと期待される。


IP3受容体のIP3結合部位の3次元構造 カルシウムイオン(Ca2+)は、生体内において、筋肉の収縮やホルモン分泌、神経伝達物質の放出など生命現象に深くかかわっている。金属イオンであるCa2+は有害で、大量に存在すると細胞が死んでしまう。よってCa2+の濃度は常にコントロールされており、細胞内では10-7M(モル濃度)※1、細胞外では10-3Mを維持している。毒であるCa2+は、細胞膜にあるポンプで細胞外にくみ出され、細胞内のCa2+濃度は低く保たれている。細胞膜にあるチャネルが刺激を受け取って開くと、濃度勾配に従って細胞外から細胞内にCa2+が受動的に流れ込む。一方、ホルモンや神経伝達物質が細胞膜に作用すると、ホスホリパーゼCを活性化してPIP2(ホスファチジルイノシトール二リン酸)を水解してイノシトール三リン酸(IP3)が作られる。そのIP3を受け取り、Ca2+の放出に変えるのが、IP3受容体である。


IP3受容体は、御子柴チームリーダーらの研究によって、細胞小器官である小胞体の表面にあることが分かり、小胞体がCa2+の貯蔵袋であることが明らかになった。小胞体からCa2+が放出されると、Ca2+がゆっくりとした頻度で波のように伝わっていき、Ca2+の濃度変化を起こす。これをカルシウム振動と呼び、ホルモン分泌や神経伝達物質の放出、筋収縮、細胞分裂、遺伝子発現、受精、背腹軸の決定(腹側化因子として)など、多くの細胞機能にかかわっている。ホルモンや神経伝達物質などの細胞外刺激物質の多くは、細胞内セカンドメッセンジャー※2であるIP3の産生を引き起こすことが分かっており、IP3は、IP3受容体に結合することで小胞体膜の“栓”を開く。この機構を制御するには、結合部位の構造を分子レベルで解明する必要がある。


研究グループでは、IP3とIP3受容体との結合部位を結晶化し、X線結晶構造解析により3次元構造を明らかにした。解析の結果から、IP3受容体ではIP3がサンドイッチのように2つの分断された配列により認識されることが分かった(図)。IP3受容体上には、このように特異的にIP3と結合する部位があり、この部分だけを人為的に作製するとIP3吸収体(IP3スポンジ)として働くことが分かっている。IP3スポンジは、情報伝達のために細胞が本来生成しているIP3の細胞内濃度を変化させ、Ca2+濃度変化に伴う生理現象をコントロールできる可能性を秘めており、結合部位の構造決定は、細胞機能の調整薬など創薬の分野において大きなインパクトを与えるものである。また、結合部位を認識する新しい天然のリガンド(IP3と同じ作用をする物質)のスクリーニングや、IP3を可視化するIP3インディケーターの作製により、生命現象に必須なカルシウム振動の全ぼうが明らかになるものと期待される。


本研究成果は、科学技術振興事業団の国際共同研究事業「カルシウム振動プロジェクト(研究代表者:御子柴克彦)」の一環として得られたものであり、成果の詳細は英国の科学雑誌『nature』(12月12日号)に掲載された。




※1:M(モル濃度)
1リットル中に含まれる溶質の濃度をモル(mol)数で表したもの。
1molの物質には約6.02×1023個の粒子が含まれる。



※2:セカンドメッセンジャー
細胞内の受容体にシグナル物質(1次メッセンジャー)が結合することで、細胞内で新たに作り出されたり、細胞内に放出されたりして、情報を伝達する物質。






監修:脳科学総合研究センター
発生神経生物研究チーム
チームリーダー 御子柴克彦

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SPOT NEWS


遺伝子の機能解析を飛躍的に進める
世界最大規模の遺伝子情報を公開
遺伝子として認知されていなかった部分が転写されていることを実証
(2002年12月5日、文部科学省においてプレスリリース)

当研究所は、マウスの完全長cDNA※1 60,770クローンの塩基配列および機能アノテーション(機能注釈)情報を公開した。これは、現在までに人類が取得している遺伝子の約9割に当たり、1つの生物種のトランスクリプトーム※2データとしては世界最大、最高品質のもの。さらに、遺伝子としては認知されていなかった部分が、実際には遺伝子として転写されていることを初めて科学的に実証した。理研横浜研究所ゲノム科学総合研究センター遺伝子構造・機能研究グループ(林良英プロジェクトディレクター)およびFANTOMコンソーシアム※3によって成し遂げられた研究成果。遺伝子を予測し、実在を証明するには、ゲノム配列だけでなくトランスクリプトームによる裏付けが必要不可欠であり、最終的な生物機能活性を有するタンパク質を得るためには、完全長cDNAの解析なしでは得られない。本研究成果であるマウスのトランスクリプトームと、マウスの全ゲノムシーケンスとが併せて解析されることにより、遺伝子の機能研究、タンパク質の構造解析研究、がん遺伝子の研究および新しい薬の開発を劇的に進展させるものと期待される。


完全長cDNA(遺伝子本体)は、タンパク質を合成するための設計情報をすべて有し、タンパク質そのものを合成することができることから、ポストゲノム研究における非常に重要な「基盤ツール」となる。研究グループでは今回、約6万クローンもの完全長cDNAについて、“それらの配列はどのような性質の遺伝子なのか”、“どのようなタンパク質をコードしているのか”などの機能情報の注釈付け(機能アノテーション)を行った(FANTOM2クローンセット)。cDNAに対する機能アノテーションを行うためには、コンピュータによる解析と、それを専門家により確認するための支援システムが不可欠。研究グループではNTTソフトウエアの協力のもと、解析システムを独自に開発して解析に取り組み、以下の研究成果を得た。

1
マウスのゲノム配列との比較から、FANTOM2クローンセット中には約33,000種類の遺伝子が含まれていた。このFANTOM2クローンセットは現在、公共データベースに登録されたマウスの全遺伝子の90%をカバーしている。
2
FANTOM2クローンセットに含まれる約33,000種類の遺伝子のうち、約16,000種類は、今回新たに発見された遺伝子。また、FANTOM2クローンセット中には、ゲノム上において互いに逆向きに転写されている遺伝子ペアが約2,000あることが分かった。
3
マウスゲノムとトランスクリプトームを一体で解析することにより、ゲノム解析だけでは遺伝子としては認知されていない部分が、実際には遺伝子として転写されていることを世界で初めて科学的に実証した。
4
確認された全遺伝子のうち、約40%において1つの遺伝子から複数のmRNAが合成される「選択的スプライシング」が行われ、そのうちの約80%が、異なる構造を持つタンパク質をコードすることが分かった。
5
遺伝子の中にはタンパク質をコードする「coding RNA」のみならず、多数の「non-coding RNA(タンパク質情報をコードしていないRNA)」があることが分かった。このことは、タンパク質と同じく、non-coding RNAも病気の発症などにかかわっていると考えられ、非常に重要な発見である。


FANTOM2クローンの機能アノテーションによる分類 本研究で得られたクローンセット、塩基配列、機能アノテーション情報は、MGSC(Mouse Genome Sequencing Consortium)により配列決定されたマウス全ゲノムドラフト配列とともに、ヒト、マウスをはじめとするさまざまな生物についての基礎研究および医学、創薬などへの応用研究のための世界共通のプラットフォームとなるもの。FANTOM2クローンセットの塩基配列と機能アノテーション情報は、理研内のホームページ(http://fantom2.gsc.riken.go.jp/)およびDDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp/)より公開している。また、マウス完全長cDNA60,770クローンからなるFANTOM2クローンセットについては、「世界標準」として分譲を希望する国内外の研究者に頒布していく。本研究成果の詳細は、英国の科学雑誌『nature』(12月5日号)に掲載された。




※1:完全長cDNA
cDNAとは、ゲノムDNAの中から不要な配列を除き、タンパク質をコードする配列のみに整理された遺伝情報物質であるmRNA(メッセンジャーRNA)を鋳型にして作られたDNAのこと。



※2:トランスクリプトーム
生物のゲノムから転写された遺伝子全体を指す用語。



※3:FANTOMコンソーシアム
理研ゲノム科学総合研究センター遺伝子構造・機能研究グループの主導により結成された、マウス遺伝子の機能解析を行う組織。






監修:ゲノム科学総合研究センター
遺伝子構造・機能研究グループ
プロジェクトディレクター 林良英

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TOPICS



平成15年度予算について



当研究所の本年度予算の概況についてお知らせします。本年度予算の大きな柱は、「特殊法人等整理合理化計画」を踏まえ、事業の見直し・重点化を図った上で、10月の独立行政法人への移行に向けて、新たな研究開発体制を整備していくことにあります。具体的には、全所的な観点から経営を強化するため、理事長裁量権を強め、理事長主導による機動的な試験研究を実施するとともに、研究戦略を検討するための委員会を設置します。さらに、優秀な任期制研究員に対して終身雇用への機会を与える「テニュア研究員制度」を国内の研究機関に先駆けて導入し、研究者のキャリアパスの多様化を図ります。
 一方、従来から当研究所で推進している知的財産の権利化および実用化にかかわる体制を強化します。また、中央研究所の研究テーマを充実させるとともに、ライフサイエンス分野においては脳科学総合研究センターに「脳を育む」領域を新設するなど、引き続き重点的に研究を推進します。また原子力関係では、RIビームファクトリー計画を着実に進めるため、予算の見直し・重点化を図ります。

平成15年度予算






平成15年度の組織改編について




当研究所の本年度の組織改編についてお知らせします。まず、監査体制の強化を図るため監査室を新設します。また、人事部および施設部は、企画業務と管理業務とを明確にするため、それぞれ「人事企画課」と「人事管理課」、「施設企画課」と「施設業務課」に改組します。定員は、独立行政法人の業務管理体制の整備などに見合った組織の強化を図るため39名増員し、692名(役員を含む)となります。





「第16回 理化学研究所と企業の懇親会」が開かれる




写真01
写真02
「理化学研究所と親しむ会」主催による当研究所と企業との懇親会が2月12日、ホテルオークラで開催されました。「理化学研究所と親しむ会」は、当研究所と産業界の密接な交流を維持するとともに、当研究所で得られた研究成果と産業界のニーズとを結び付け、新産業の創成に資することを目的としており、毎年、講演会や懇親会を開いています。
 16回目に当たる今回は、当研究所から谷畑勇夫主任研究員(中央研究所RIビーム科学研究室)および谷口克(まさる)センター長(横浜研究所 免疫・アレルギー科学総合研究センター)が講演。谷畑主任研究員は、「核反応で私たちはつくられた―短寿命の原子核と元素合成―」と題して、RIビームを用いた原子核研究の意義を紹介しました。また谷口センター長は、「免疫の戦略―分子からシステムへ―」をテーマに、免疫研究の重要性を説きました。
 講演会後に行われた懇親会では、渡海紀三朗文部科学副大臣、有馬朗人参議院議員らが出席し、お祝いの言葉を述べました。会場の一角には、理研の研究成果や理研ベンチャーを紹介する26の展示コーナーが設けられ、研究者と熱心に質疑応答する参加者の姿が多く見られました。なお当日は402名の参加者がありました。





レスキューIDCがグッドデザイン賞を受賞



写真03震災などで瓦礫(がれき)に埋もれた被災者を救出する際に活躍する「被災者探索レスキュー用データキャリア(レスキューIDC)」が2002年度のグッドデザイン賞(新領域デザイン部門)を受賞しました。レスキューIDCは、分散適応ロボティクス研究ユニット(淺間一ユニットリーダー)らが開発したもので、内部にCPU、メモリー、無線通信ユニットなどを備えた小型情報格納/処理装置です。スピーカーやマイクロフォンも搭載しており、震災などの災害時に、瓦礫に埋もれた被災者に対する音声による呼びかけや、被災者側からの応答反応の録音機能を持っています。
 実際には、このレスキューIDCを火災報知器など建物内のあらゆる場所に設置し、装置は災害時に被災者とともに埋没するようにします。その後、小型の飛行船を飛ばし、電波でレスキューIDCを起動させ、自律的に音声再生による被災者に対する呼びかけと被災者の助けを求める音声の録音を開始。その後、再び飛行船で被災地を探索し、蓄積された被災者からの音声データを吸い上げ、レスキューIDCの位置情報と合わせ、被災者の救出活動に役立てます。本研究は、大都市大震災軽減化特別プロジェクトの一環として行われています。
 「グッドデザイン賞」は、(財)日本産業デザイン振興会が主催する「グッドデザイン賞事業」としてスタートしたわが国で唯一の総合的なデザイン評価制度で、“良いデザインであるか”、“優れたデザインであるか”、“未来を拓くデザインであるか”などを評価基準としています。また、形の美しさだけでなく、“品質の良さ”、“使いやすさ”、“商品としてのバランスの良さ”が認められたものに授与されます。2002年度は、990点(463社)が受賞しました。






平成15年度一般公開のお知らせ



科学技術週間<2003年4月14日(月)〜20日(日) 標語「ふしぎがいっぱい ゆめいっぱい みんなかがくで あそぼうよ」>の行事として、当研究所では下記の日程で一般公開を行います。
 理研の最先端の科学研究に親しんでいただくため、研究室・施設の公開をはじめ、講演会、各種のイベントを行います。多数の方のご来場をお待ちしております。
(入場無料、15:30までにご来場ください)
和光本所
場所:埼玉県和光市広沢
日時:4月19日(土)10:00〜16:00
問い合せ先:広報室 TEL:048-467-9954(一般公開専用)
筑波研究所
場所:茨城県つくば市高野台
日時:4月16日(水)10:00〜16:00
   4月19日(土)13:00〜16:00
問い合せ先:筑波研究所 研究推進部 総務課 TEL:029-836-9111
播磨研究所/大型放射光施設 [SPring-8]
場所:兵庫県佐用郡三日月町光都
日時:4月26日(土)10:00〜16:00
問い合せ先:播磨研究所 研究推進部 総務課 TEL:0791-58-0808
横浜研究所
場所:神奈川県横浜市鶴見区末広町
日時:6月14日(土)10:00〜16:00 ※6月の開催となります
問い合せ先:横浜研究所 研究推進部 企画課 TEL:045-503-9117
神戸研究所
場所:兵庫県神戸市中央区港島南町
日時:5月31日(土)10:00〜16:00 ※5月の開催となります
問い合せ先:神戸研究所 研究推進部 総務課 TEL:078-306-0111
フォトダイナミクス研究センター
場所:宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉
日時:4月16日(水)10:00〜16:00
問い合せ先:フォトダイナミクス研究センター 研究推進室 TEL:022-228-2111






原酒なぜ、研究所なのですか?
Why a research institute?


理研脳科学総合研究センター(BSI)で働き始めて2年と少し経過した。この間、私は大学院でビジネスについて学んできた。しかし、私が初めて出会う人とBSIについて話をすると、次のような内容になる。
Aさん:それで、どこで働いているのですか?
筆者:理化学研究所の脳科学総合研究センターです。
Aさん:脳?(一瞬、戸惑ったような顔をして頭を指さしながら聞き返す)
筆者:ええ。国がサポートして脳科学の基礎研究をしています。
Aさん:そうですか、あなたは研究者ですね!(「わかった!」という顔をする)
筆者:いいえ、実は脳科学研究推進部というところで働いています。
Aさん:そうですか……。(再び戸惑いながら話題を変えようとする)


筆者近影
こうしたことは驚くべきことではないと思っている。私が出会う人々の多くは「リアル」な利益を得るための、「リアル」な商品を生産する民間企業で働いている。結局のところ、国がサポートする基礎研究には、利益を追求する民間企業(ビジネス)と共通している何かがあるのだろうか。率直に言えば、科学者もAさんと同じ戸惑いを感じることがあるはずである。もし私に人の心が読めるとしたら、Aさんの気持ちを「なぜあなたが公共の研究機関で働くのですか?」と感じたり、科学者の気持ちを「あなたは私たちがやっていることを理解できますか?」と感じたりするのではないだろうか。はっきりではないが、サイエンスのバックグラウンドを持たない人間が研究所に与えるインパクトや利益に関して、懐疑的な見方があるため、会話がこうした内容になるのかもしれない。しかし、ビジネスとサイエンスは同じ考え方を共有できるのではないだろうか。基礎科学が多くの、そしてさまざまな組織上・運営上の問題を抱えるようになった現在、サイエンスとビジネスが共通の理解を得ることで、研究所だけでなく、時には研究そのものにも大きなインパクトを与えるような問題解決策を導くことができるかもしれないと私は信じている。


シナジーを導く3つのコア・アイデア ビジネスとサイエンスの新しい対話を始めるために、すべての組織は3つのコア・アイデアの上に成り立っていることを、われわれは理解する必要があると思う。その3つのアイデアとは、1)潜在的な利益を引き出すことができる、2)そうした利益を引き出すための最良の方法を追求することができる、3)必要性をレベル分けすることができる、ということである。言い換えれば、すべての組織は、「何をするのか(production / 生産性)」、「どのようにすべきか(strategy / 戦略性)」、「何が重要なのか(vision / ビジョン)」をはっきりと理解しなければならない。確かに、組織、つまり組織の中で働くすべての人々は、これらのコア・アイデアのもとで機能している。しかし、各人が組織の成功(ビジョン)につながっていると感じ、各人がそのために最適な解決策を追求するために挑戦し(戦略性)、彼らがなすべきことと全体の構想をどのように合わせていくかを正確に理解した(生産性)ときこそ、組織(研究所)のシナジー(synergy / 共働)が可能になるのだと思う。


どの組織の中にもシナジーへの可能性が存在する。ビジネスとサイエンスの間により良い橋を架けるための新しい対話が可能であることに気付けば、私たちが思っている以上に、科学における新時代のシナジーを導く可能性が広がるのかもしれない。


脳科学研究推進部●Samuel Frentzel - Beyme(サミュエル フレンツェル-バイム)


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理研ニュース

4 No.262:April 2003
発行日
平成15年4月5日
編集発行
理化学研究所 広報室
〒351-0198
埼玉県和光市広沢2番1号
phone: 048-467-8349[ダイヤルイン]
fax: 048-462-4715
Email: koho@postman.riken.go.jp
http://www.riken.go.jp
デザイン
株式会社デザインコンビビア
制作協力
有限会社フォトンクリエイト