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No. 249 March 2002

研究最前線
進む植物バイオテクノロジー
 ―安全な農薬から環境浄化まで―
糖鎖とアルツハイマー病の原因酵素を結ぶもの
SPOT NEWS
DNA1分子の動きを世界で初めてピコメートル精度でキャッチ
 ―SPring-8で得られる放射光を用いた新しいX線計測―
偏極陽子ビームの加速・衝突に世界で初めて成功
 ―世界初の偏極衝突型加速器の誕生―
記念史料室から
アルマイト発見ものがたり
 ―失敗は成功の母―
TOPICS
平成14年度一般公開のお知らせ
お花見・構内開放
「科学論説懇談会」メンバーとの懇談会を開催
原酒
ノーベル賞をとった女性達
上)シタロン脱水酵素の構造図
C末領域がふたをした内部に、カルプロパミドが取りこまれている。
右側の図はC末領域を外したところ。

「進む植物バイオテクノロジー―安全な農薬から環境浄化まで―」から

(下)BACE1の作用としては、従来、ベーターアミロイドの産生しか 知られていなかった。 新たにシアル酸転移酵素の切断を 行っていることが発見された。
「糖鎖とアルツハイマー病の原因酵素を結ぶもの」から
シタロン脱水酵素の構造図
BACE1の作用としては、従来、ベーターアミロイドの産生しか知られていなかった。 新たにシアル酸転移酵素の切断を行っていることが発見された。

研究最前線

進む植物バイオテクノロジー

安全な農薬から環境浄化まで
微生物制御研究室 主任研究員 山口 勇

病原菌を殺さず病原性だけを発揮させないようにする「非殺菌性」の農薬、病原毒素を無害化する遺伝子を導入した植物、そして、環境中の有害な物質を分解する植物と微生物の共生系の開発など、山口 勇主任研究員が率いる微生物制御研究室では、さまざまな植物バイオテクノロジーの技術研究が進められている。まだまだ本質的な社会的認知度の低い遺伝子改変技術ではあるが、そこには20年先、100年先を見据えた研究姿勢があった。


活性中心に「ふた」をする
酵素と阻害剤


 山口主任研究員 「非殺菌性植物病害防除剤」とは、病原菌そのものを殺すのではなく、その病原菌の感染過程を阻害するはたらきを持つ農薬のこと。病原菌の生育そのものは阻害しないので、遺伝子の多様性を損なわず、結果としてこれまでの農薬よりも環境にインパクトを与えないというものである。
 わたしたちが主食にしている米を作るイネには、イネいもち病という重大な病害がある。イネいもち病の中でも、とくに穂いもち病にかかると、秋になっても稲穂に実が入らず、収穫は激減する。この病気の防除に用いられているもののひとつが、カルプロパミドという新しい非殺菌性の農薬である。
 イネいもち病を引き起こす糸状菌は、自分で合成したメラニンを利用してイネの細胞内に侵入する。それを阻害するためには、メラニンの合成を抑えればよい。カルプロパミドは、メラニン合成系ではたらくシタロン脱水酵素(STD)を阻害するのだが、微生物制御研究室ではこの阻害剤の効果が非常に強力なことに注目し、その仕組みを解明する研究が進められた。同研究室で解析に携わる本山高幸研究員によると、この阻害剤の秘密は独特の構造にあるという。
 「酵素の中に深いくぼみがあり、ここに阻害剤がすっぽりとはまっているんです。そうするとSTDとカルプロパミドの相互作用の種類が非常に増え、そのためいっそう強力な阻害が起こる。結局、この薬剤が強力にはたらくのは、STDの持つ独特な構造にあることがわかりました(図1)」

図1:シタロン脱水酵素に取り込まれたカルプロパミドの電子密度(A)と酵素―阻害剤の相互作用の模式図(C)。分子中の相互作用がきわめて多い。

 特異的な構造を持つ酵素をたまたま選んだことによって、強力な阻害剤ができたというわけだ。
図2:シタロン脱水酵素の構造図。C末領域がふたをした内部に、カルプロパミドが取りこまれている。(B)はC末領域を外したところ。  構造を示す図(図2)を見ると、酵素に入り込んだ阻害剤は外から見えない。フレキシブルなC末領域がふたになって、阻害剤が分子中にすっぽりはまってしまうのである。阻害剤や基質がはまりこむためには、それらの結合過程において何らかの構造変化が起こらなければならない。逆に、構造変化が起こりやすいことが、メラニンの合成にも阻害にも必要なのである。
 「今後、さまざまなタンパク構造が決まってくるポストゲノムの流れのなかで、他にもこうした領域が見つかってくるかもしれません。逆にいえば、こうした構造を持つ酵素があれば、非常に強力な阻害剤のターゲットになりうるということです」
 じつは、カルプロパミドに先立つこと20年以上前に、糸状菌のメラニン合成系ではたらくもうひとつの酵素、ヒドロキシナフタレン還元酵素(HNR)をターゲットとした、非殺菌性の農薬がいくつか開発されている。このHNRでも同様にフレキシブルな「ふた」が重要なはたらきをしていることがわかってきた(図3)。

図3:イネいもち病菌のメラニン合成系ではたらく2つの酵素。


病気にかかりにくい遺伝子

さらに微生物制御研究室では、農薬を使わなくても病害を防除する遺伝子の開発も進められている。
 『理研ニュース』1997年2月号(No.188)で、イネいもち病を起こす糸状菌のタンパク質合成を阻害する抗生物質として開発されたブラストサイジンSを、イネのような単子葉植物だけでなく、タバコやトマトなどの双子葉植物にも利用できるようにするための耐性遺伝子が研究されていることを紹介したが、その後、さらに研究は進み、現在では殺菌剤を使わずに、いかに病害を制御するかという段階に入っている。
 その一例が、タバコ野火病菌である。その病原となっているタブトキシンという毒素を不活性化してしまう遺伝子(耐性遺伝子)をタバコに入れてやれば、タバコ野火病にかかりにくくなるはずである。
 では、その耐性遺伝子はどこにあるのか。じつは、タバコ野火病菌そのものが、自分が作るタブトキシンへの自己耐性のためにttrという遺伝子を持っていたのである。このttrをタバコに導入すれば、農薬を使わなくても、タバコがタバコ野火病に対して耐性を持つようになる。
 現在、ブルガリアで圃場(ほじょう)試験が行われており、この技術は実用化段階にあるという。
図4:赤かび病菌が作る2つの毒素。トリコテセン(上)とゼアラレノン(下)。  「さらに、役者が赤かび病菌とコムギに変わった場合も、同じような関係が成り立ちます」と同研究室の木村 真研究員は説明する。
 赤かび病菌はトリコテセンという毒素を作り、植物に侵入し病気を起こす。それを武器にして、この毒素はあらゆる種類の生物のタンパク合成システムを阻害してしまうので、当然、これを作る菌自身にも障害が起こるはずである。
 「ところがこの菌は、それを防御するシステムを持っていることがわかりました」
 微生物制御研究室では、この遺伝子、Tri101をクローニングすることに成功し、それをいま、コムギに導入しようとしている段階である。それが成功すれば、病原菌が使う武器となる毒素を無力化できるため、減農薬のコムギの栽培が期待できる。
 ちなみにムギ類赤かび病は、日本ではあまり知られていないが、コムギが重要な農産物である北米や欧州などでは、いったん発生してしまうとコントロールが非常に難しい病気として恐れられている。コムギを枯死させてしまう場合はもちろん大被害だが、もし中途半端に感染してしまった場合でも、この毒素が蓄積された穀粒を人間や家畜が食べてしまうと、タンパク合成阻害剤が動物の細胞にも悪影響を及ぼして免疫力が落ちるため、出血性敗血症などの生理障害が起きることが問題となっている。
 さらにこのかびは、トリコテセンのほかにゼアラレノンという毒素も合成する。これは一種の内分泌撹乱物質(環境ホルモン)としてはたらく物質で、これもまた人間が食べる穀粒の部分に蓄積され、問題が起こっている(図4)。


レメディエーション
―土壌という環境の浄化


左から:木村研究員、山口主任研究員、本山研究員 最先端の植物テクノロジーを開発する微生物制御研究室だが、今年度いっぱいで研究室は閉じることになっているという。
 「しかし、われわれの活動の一部は、昨年4月に理研横浜研究所内に発足した植物科学研究センター(PSC)の環境植物研究グループで続けることになっています」
 山口主任研究員らもPSCに移籍し、研究を続ける。そこではテーマのひとつとして、植物と微生物の複合系を利用した「レメディエーション」が進められているのだという。
 「植物の生育する土壌の活性は、そこにどんな生物が生息しているかによって決まります」と山口主任研究員。土の中にある種の微生物がいることによって団粒が柔らかくなり、ミミズをはじめさまざまな生物によって有機物が供給される。
 「ところが、これまでわれわれは、食料の安定供給のために作った農業用資材があまりにも有効であったために、化学資材を使いすぎてしまったのです」
 そのため、例えばある病気を防ぐためにまいた薬剤が、病原菌に効く部分だけでなく、土の中などむしろ関係ないところに存在して、ミミズや微生物に影響を与える。こうした土壌中の残留物質を、まず取り除かなくてはならない。これがレメディエーションの一例である。
 「最近使われている農薬には、ほとんど残留性はありません。冒頭で触れたカルプロパミド、植物側の抵抗性を誘導するプラントアクティベーターと呼ばれる薬剤など非殺菌性のものを含めて、すべて残留性はなく、環境に対する影響はそうないと考えていいと思っています」
 問題は過去に使われていたDDTやBHC、さらにPCB、重金属などがいまだに環境中に残留している場合である。こうした物質で汚染された環境を浄化するために、微生物を利用することが考えられているわけである。
 こうした「バイオレメディエーション」としては、現在、汚染土壌の中の微生物を活性化させる方法が実用化されている。土壌に栄養を補助的に与えることなどで、汚染土壌にもともと存在する微生物を活性化させて、汚染物質を分解させる方法である。
 「これは、有効な場合もありますが、ほとんどの特定の物質を分解するのに有効な微生物を新たな環境に連れてきても、元々いた微生物との生存競争に負けて土壌中に保持されず、そのうちいなくなってしまいます。したがって、微生物を新たな汚染環境に取り込むようなバイオレメディエーションはなかなか実用化されていません」
 これを何とか実用化することはできないか。山口主任研究員らは、バイオレメディエーションにおいて、植物が主役になったほうが環境浄化機能が効率よくいくのではないか、という考えを軸に技術を模索しているのである。
 例えば、マメ科植物の根には根粒菌が共生し、互いに利益を供与し合っている。このような形でマメ科以外の植物にも親和性のある微生物が存在すれば、そこに特定の化学物質を分解したり、重金属を吸着する遺伝子を入れることができる。これなら土着の微生物より活性の高いものを選択的に導入できるため、さらに効率よく分解できる系ができることが期待されるという。
 「植物の根の付近に親和性を持つ微生物(根圏微生物)というのが、植物の根の周りではかなり安定しています。そういう微生物でしたら、いろいろな植物に親和性を持ったものがいるので、さまざまな土壌環境中で安定に保持させることができるはずです」と本山研究員は説明する。
 植物の根の周りに存在し、植物から栄養をもらって生きる根圏微生物。植物との結びつきはマメ科の根粒菌ほど強くないが、その代わり、宿主を選ばないので応用が可能なのだ。目下、この系の有効性を検証する実験が行われているところである。
 ここで扱われているのは、ペンタクロロフェノールという有機塩素系の物質で、かつて除草剤や殺菌剤として使われ、難分解性であるため、残留が問題となった物質である。ペンタクロロフェノールを分解する遺伝子の1つをトマトの根圏に生育できる菌に導入したところ、実験下ではある程度効率よく分解が進むことがわかった。
 この技術が確立すれば、汚染土壌でよく生育するような植物を選び、その根圏微生物を使って土壌を浄化した後、晴れて作物を植えることが可能になる。
 「将来は、PCBやダイオキシンなども視野に入れて研究を進めたいと思っています」


遺伝子組み換え技術の
必要性


これまで、同研究室で進められている微生物や植物に対する遺伝子操作を利用した研究を見てきたわけだが、その安全性についてはどのように考えられているのだろうか。1960年代から理研に在籍する山口主任研究員は、理研で開発されてきた農薬の歴史とともに歩んできたといえる。その移り変わりを見据えたうえで、次のように語った。
 「現在の世界人口の増加率を考えれば、20年先には遺伝子改変技術が食糧の安定供給のためには不可欠の技術になるでしょう。もちろん、一般にいわれているように、100年経たなければ安全性はわからない。でも、現段階で安全性は確定できないにしても、いずれ必要になったときに技術を活かせるよう、将来を見越して研究を進めておく必要はあると思います」
 大きな視野を持って遺伝子のミクロな世界を見つめる。植物バイオテクノロジーの先駆者たちの研究姿勢の根幹には、単なる技術開発にとどまらず、社会に貢献する科学技術を追求するという研究理念が、しっかりと据えられている。



監修:微生物制御研究室
 主任研究員 山口 勇
取材・構成:小野蓉子

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研究最前線

糖鎖とアルツハイマー病の
原因酵素を結ぶもの


フロンティア研究システム 生体超分子システム研究グループ
糖鎖機能研究チーム チームリーダー 橋本康弘

橋本チームリーダー 細胞表面の脂質二重膜には、いろいろな種類の糖分子がつながった樹状の「糖鎖」がニョキニョキと細胞の外へ向けて生えている(図1)。あるものは脂質二重膜から直接に、あるものは脂質二重膜に埋め込まれたタンパク質の表面から出ている。糖鎖のはたらきの全体像はまだ不明だが、その特徴的な構造によって、どんな細胞が存在しているのかを周囲の細胞に伝える、情報分子としての役割を担っているのは確かなようだ。このような糖鎖の種類と量を調節している酵素と、アルツハイマー病の原因酵素が同じものであることを、理研フロンティア研究システムの生体超分子システム研究グループ・糖鎖機能研究チームの橋本康弘チームリーダーたちは突き止めた。

図1:糖鎖は細胞膜表面に存在する。多様な糖鎖のそれぞれが細胞接着など特有の機能を担っている。シアル酸はしばしば糖鎖の末端に存在する単糖である。(サイエンティフィクアメリカより転載)


糖鎖の発現を
調節するもの


糖鎖研究はここ2、3年、大きな注目を集めている。糖鎖で最もよく知られているのはABO式血液型だろう。これは赤血球表面の糖鎖の違いによる分類である。また、白血球が炎症部位に集まるのも、白血球表面の糖鎖と血管内皮表面のタンパク質の結合によって仲介されることが、最近の研究で明らかになっている。じつに、体内のタンパク質の90%以上は糖鎖をつけており、タンパク質の機能を糖鎖抜きで語ることはできない。
 糖鎖を作るのは「糖転移酵素」という酵素でさまざまな種類があり、一種の酵素は一種の糖結合反応に対応する。糖鎖はDNAに直接コードされているわけではなく、糖転移酵素タンパクが遺伝情報に書き込まれている。糖転移酵素はおおよそ300種類存在すると推定されているが、これは全遺伝子の約1%を占めている。
 「生体は、膨大な遺伝子とエネルギーを使って酵素を合成し、糖鎖を作っているわけです」
図2:糖鎖はゴルジ装置の内腔で合成される。赤で示されたシアル酸残基は、シアル酸転移酵素の作用で糖鎖末端に付加される。  現在100種以上の糖転移酵素がクローニングされているが、その半数以上が日本人研究者によるものだそうだ。
 さて、糖鎖が作られるのは細胞内のゴルジ装置である。ゴルジ装置は偏平な袋の集合体で、平らな皿を積み重ねたような形をしている。袋の内側に種々の糖転移酵素が入っている(図2)。
 タンパク質や脂質は、ゴルジ装置の重なった袋を通過する間に糖転移酵素群により、いろいろな糖が1分子ずつ順次つけ加えられ、樹状の糖鎖を形成し、「糖タンパク」や「糖脂質」となる。そしてゴルジ装置から細胞表面に送られ、脂質二重膜の一部となる。
 橋本チームリーダーと同チームの北爪しのぶ研究員が着目したのは、シアル酸という糖をつけるシアル酸転移酵素だ。
 「シアル酸はたいていの場合、糖鎖の末端についており、糖鎖を認識するタンパク質にとって非常に重要な認識部位になっています」
 シアル酸転移酵素がゴルジ装置の袋の中にたくさんあれば、シアル酸付加反応が進んで、シアル酸のついた糖鎖が多数作られる。一方、シアル酸転移酵素が少なくなれば、シアル酸の付加も減る。このようなシアル酸の代謝に橋本チームリーダーたちは興味を持った。
図3:シアル酸転移酵素はゴルジ装置内で、タンパク質分解酵素により切断され細胞外へ分泌される。この分解酵素の本体は長らく不明であった。  シアル酸転移酵素はうちわのような形をしていて、うちわの柄の根元部分がゴルジ装置の袋の内壁に埋まったような形で存在する膜タンパクだ。そして何らかの分解酵素のはたらきで、うちわの柄の部分が途中で切断されると、切断片は細胞の外に出ることが確かめられている(図3)。
 「シアル酸転移酵素の切断と分泌はかなり活発に行われ、これによりシアル酸の発現がコントロールされています。しかし、どんなタンパク質分解酵素が切断しているのかは不明でした」
 その謎を解くきっかけになったのが、共同研究を行っている理研脳科学総合研究センター(BSI)神経蛋白制御研究チームの西道隆臣チームリーダーの指摘だ。西道チームリーダーは、アルツハイマー病など神経変性疾患におけるタンパク質の代謝研究を行っている。


アルツハイマー病の原因酵素
「BACE1」


図4:アルツハイマー病の原因物質であるベーターアミロイド(Ab)は、アミロイド前駆体タンパク質からBACE1(bセクレターゼ)およびgセクレターゼによって切り出されて生じる。 アルツハイマー病患者の脳には、アミロイド斑とよばれる茶褐色の老人斑がびっしりでき、神経細胞の中に繊維状のものが大量に溜まる神経原繊維変化が生じる。やがて神経細胞がごっそり抜け落ち、脳が萎縮する。
 「アミロイド斑の沈着と神経原繊維変化のどちらがアルツハイマーの原因なのかという論争が歴史的にあるのですが、アミロイド斑のほうが先行して起こる病変だといわれています」と橋本チームリーダー。
 アミロイド斑の元は、βアミロイド(Aβ)というアミノ酸が40個から42個つながったポリぺプチドで、これが溜まるとアミロイド斑が形成される。βアミロイドはアミロイド前駆体タンパクという約700個のアミノ酸からなるタンパク質の一部が、2種のタンパク質分解酵素によって切り出されて生じる(図4)。
 2種のタンパク質分解酵素は、βセクレターゼ(BACE1)とγセクレターゼとよばれるものである。アミロイド前駆体タンパクもシアル酸転移酵素と同じように、23残基ほどが細胞膜に埋まっている膜タンパクだ。まずBACE1が膜に埋まってない部位を切断し、次いでγセクレターゼが膜に埋まっている部位を切ってβアミロイドが切り出される。
 γセクレターゼはβアミロイドを切り出すだけでなく、神経細胞の分化にとって非常に大事な分子を切断することが明らかになっている。一方、βセクレターゼ、つまりBACE1のほうは、他にどんな機能があるのかは不明であった。
 「BACE1の遺伝子の欠如したノックアウトマウスを作ってみても、表現型は一見正常で問題がありません」
 そこで、アルツハイマー病の治療薬として、BACE1の抑制剤を作ろうという研究が製薬会社などで進められている。


BACE1はシアル酸転移酵素を
切るか


話をアルツハイマー病から糖鎖に戻そう。橋本チームリーダーたちは、シアル酸転移酵素はその分解酵素によって、N末端から40番目のアミノ酸(リジン残基)と41番目のアミノ酸(グルタミン酸残基)の間を切断されること、切断部位付近のアミノ酸を遺伝子工学的に置き換えると切断効率が著しく低下することなどを突き止めた。
 これをセミナーで聞いた西道チームリーダーは、それがBACE1による切断の特徴によく似ていると指摘したのだ。そこでBACE1と、シアル酸転移酵素を分解する酵素との関連性を探る一連の実験が行われた。
 「可能性は五分五分だと思っていました。切断の特徴が似ている点や、BACE1もゴルジ装置に存在するというのはポジティブな情報でした。一方、同じ膜タンパクでもアミロイド前駆体はI型で、シアル酸転移酵素はII型というのはネガティブな側面でした」
 とにかく、実験をやってみようということで、まずシアル酸転移酵素の遺伝子とBACE1の遺伝子とを培養細胞に入れて、そのゴルジ装置の中で同時に発現させるシステムを作った。
 すると確かに、シアル酸転移酵素が切断を受け、細胞外でたくさん検出された。一方、シアル酸転移酵素の遺伝子だけを入れた培養細胞のシステムでは、そのようなものはほとんど検出されなかった。
 また、試験管内で精製されたシアル酸転移酵素とBACE1を作用させると、シアル酸転移酵素が切断されることも確かめられた。
 「これでシアル酸転移酵素の分解酵素が、BACE1であることが確実になりました」
 βアミロイドを作るという病的作用しか知られていなかったBACE1の、本来の生理的な作用が明らかになったのだ(図5)。

図5:BACE1の作用は、従来、ベーターアミロイドの産生しか知られていなかった。新たにシアル酸転移酵素の切断を行っていることが発見された。

 「逆にいえば、アルツハイマー病の治療薬としてBACE1の抑制剤を開発するにあたり、どのような副作用に注意しなければならないかが示されたわけです」
 BACE1の抑制は、免疫システムへ影響を及ぼすと考えられる。抗体を作るB細胞にとっては、糖鎖にシアル酸が適当量存在していることが重要であることが以前からわかっていた。事実、BACE1をノックアウトしたマウスでは、成長には異常がないが、血液中の抗体量が正常マウスとは違うことが報告されていた。
 「ノックアウトマウスは病原菌のいないような環境で大事に育てられるので、抗体産生に異常があっても、問題なく生き延びられたとも考えられます」
 橋本チームリーダーたちは、米国との共同研究でこの点を確かめようとしている。また、BACE1はシアル酸転移酵素だけでなく、他の糖転移酵素も切断し、いろいろな糖の付加量をコントロールしている可能性がある。
 「どういう糖転移酵素をBACE1が切るのか、さらに調べているところです」
 調べるといっても、1つの糖転移酵素に対していろいろな種類の実験をして初めて確認できるので、なかなか時間のかかる作業だ。しかし、そのうえで新しい研究領域を開きたいと橋本チームリーダーは考えている。
 「BACE1が糖転移酵素の特別なカッターだということが明らかになった暁には、これを高発現する細胞や動物を作りたいと思っています。一群の糖鎖がごっそり抜け落ちた細胞、そういう細胞からなるモデル動物が作れるはずです。その時、生物現象はどうなるか、こんな新しい糖鎖生物学を開きたいと思っています」



監修:フロンティア研究システム
 生体超分子システム研究グループ
 糖鎖機能研究チーム
 チームリーダー 橋本康弘
取材・構成:由利伸子

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SPOT NEWS

DNA1分子の動きを世界で初めて
ピコメートル精度でキャッチ

SPring-8で得られる放射光を用いた新しいX線計測
(2001年12月10日、文部科学省においてプレスリリース)

当研究所は、(財)高輝度光科学研究センター(JASRI)と共同で、SPring-8の理研ビームラインBL44B2を用いて、世界で初めてDNA1分子のブラウン運動を原子の100分の1の精度、つまりピコメートル(1兆分の1)精度で実時間計測することに成功した。理研播磨研究所生体物理化学研究室の足立伸一先任研究員、JASRI放射光研究所の佐々木裕次副主幹研究員らによる研究成果。本成果により、生体分子最小単位である1分子、特に1分子内部の生きた姿を超高精度でとらえることが初めて可能となり、生体分子の多様な機能解析が促進されることが期待される。  


最先端の生命科学の世界では、生命の多くの謎を解明するため、ゲノム解析だけではなく、生体内で実際に活動しているタンパク質分子の機能解析も進められている。タンパク質分子の機能している姿を正確にとらえるためには、分子の動いている生の姿を原子よりも細かい精度で計測する必要がある。1分子が関わる非常に大きな動きを計測することはすでに可視光を用いた研究で実現している。しかしながら、より精度良く、細かい動きをとらえる計測法の実現は、不可能と考えられていた。この難問を解決するため研究グループでは、強力なX線(放射光)を用いた新たな計測法の開発に取り組んだ。


X線には“もの”を透過する特徴があるが、非常に小さいものを感度良く見るという点では、この特徴が裏目に出てしまう。そこで研究グループでは、DNA1分子に非常に結晶性の良いナノ結晶(直径15ナノメートル)1個を反射鏡代わりに標識し、そこにSPring-8から得られる強力なX線(放射光)を照射して得られるX線回折斑点を解析することで、DNA1分子の動きをピコメートル精度で実時間計測できるX線1分子計測法 (Diffracted X-ray Tracking:DXT)を開発した。本計測法は、まさにX線計測学にとってブレイクスルーともいえる重要な発見である。


今回、DXT法を用いて計測したのは、長さ約6ナノメートルの人工的に作成したDNA1分子。DNAのらせんの一方を石英の基板に固定し、もう一方にナノ結晶を修飾し、全体を水溶液に沈めてから結晶体にX線(放射光)を当てて、回折の様子を調べた。するとDNA分子がブラウン運動するのに伴って結晶体も揺れ動き、ビームの回析角度が最大で6度変わる様子をとらえた(図)。この値からDNA分子単位の動きをピコメートル単位の精度で割り出すことができる。今回の計測では、人工のDNA分子を用いて実験したが、天然のタンパク質やDNAの動きなども同様な方法で計測することができ、実際に細胞内で活動している生体分子の動きをとらえることも視野にいれている。


ゲノム解析が一段落したことで、生命現象の主役であるタンパク質分子の機能解析にスポットが当てられるようになってきた。生命現象を理解し、制御するためには、タンパク質分子の動きの解明や、その機能を明らかにすることが重要である。これまでは、1015分子程度の平均的な構造情報から構造変化を類推していた。しかしながらタンパク質分子の構造変化を詳細に解析するためには、多分子からの平均情報ではなく、最小単位である1分子の厳密な構造変化計測が求められている。したがって高い測定精度を誇るDXTは、今後、タンパク質分子の機能解析を進める上でなくてはならない方法となると考えられる。


本研究は、SPring-8の性能を最大限に発揮させ、放射光利用を発展させることを目的に、先端的利用技術・先導的利用研究に資する研究開発を推進する高度利用技術研究開発(COEプロジェクト)のテーマとして行われ、米国の科学雑誌『Physical Review Letters(12月10日号)』に発表された。

DNA1分子の動き

ビームラインBL44B2 BL44B2は、理研が独自の研究を進めるために建設したビームライン4本のうちの1本。
このビームラインの特徴は、広いエネルギー領域のX線を同時に利用する(白色特性)ことができる点にある。X線1分子計測法は、この白色特性を利用することで、生体分子に修飾されたナノ結晶からの回折斑点をどの方位からも反射することができるようになった。それによって回折斑点の動的追跡ができ、実時間1分子計測が可能となった。



監修:生体物理化学研究室
 先任研究員 足立伸一

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SPOT NEWS

偏極陽子ビームの加速・衝突に
世界で初めて成功

世界初の偏極衝突型加速器の誕生
(2001年12月17日、文部科学省においてプレスリリース)

当研究所は、米国・ブルックヘブン国立研究所(BNL)と共同で建設を進めてきたスピン偏極制御装置を「RHIC(相対論的重イオン衝突型加速器)」に組み込み、スピンの向きをそろえた(偏極した)陽子を高エネルギーで正面衝突させることに世界で初めて成功した。本研究成果は、理研放射線研究室が中心となって計画を立案し、BNL Collider Accelerater Department(衝突型加速器研究部門)および理研BNL研究センターを核とする国際共同研究チームによって達成された。本実験を推進することで陽子スピンの担い手が明らかになるばかりでなく、偏極したクォークやグルーオンを用いた対称性の研究が大きく進展する可能性を秘めている。


万物を構成する素粒子は、すべてスピンという地球の自転に似た性質を持っており、これが素粒子間の反応や素粒子の崩壊を支配している。一方、陽子は3個のクォークと、それを結びつける“のり”の役割を果たす3個のグルーオンから構成されている。今まで陽子のスピンは、クォークのスピンの足し合わせで説明できると考えられていた。しかし、最近の研究成果によると、3個のクォークのスピンを足しても陽子全体のスピンには足りないことがわかった。これを物理学者は、“陽子スピンの謎”と呼ぶ。この謎解きのためには、偏極した陽子同士を正面衝突させ、クォークやグルーオンが持つスピンを明らかにする必要がある。


偏極させた陽子ビームは加速させると、“磁場やビーム軌道の理想値からのずれ”、“ビームの位置・運動量の位相空間における広がり”などが原因で偏極している割合が減少する。このためRHICでは、ビームがリングを一周するごとにスピンの向きを強制的に2回反転させる。この反転のために導入されたのが、理研放射線研究室などで開発した「サイベリアン・スネーク」と呼ばれる特殊な双極電磁石群である。また、スピンの向きを任意の方向に変え、衝突させることができる「スピン・ローテーター」も開発。さらに、偏極が保たれているかどうかを知るため、炭素標的との弾性散乱を用いた偏極度計も独自に考案した。


衝突実験ではまず、偏極イオン源でスピンの向きがそろった陽子を作りだす。さらに“線形加速器”、“ブースター加速器”、“AGS加速器”を経て24ギガ電子ボルト(GeV)まで加速され、その後、RHICの加速リングに導かれる。偏極した陽子はRHICを構成する2本のリングの中を逆向きに周回しながら、それぞれ最大250GeVまで加速。この時の陽子の速度は光速の99.999%に達する。加速が終わった陽子はそのまま一定速度で加速リングの中を周回し、6ヵ所にある衝突点で正面衝突をして反応を起こす。偏極した陽子の衝突を観測するため、理研を中心とした共同研究チームは、「PHENIX」(フェニックス)と呼ばれる検出装置を用いて、衝突後のさまざまな粒子を測定。得られたデータは、理研・和光本所内に建設されたデータ解析システム(CCJ)で解析される。


陽子スピンの謎を解く最大の可能性は、“グルーオンがスピンを担っている(偏極している)”ことである。PHENIXを用いるとグルーオン同士の散乱や、グルーオンとクォークの散乱を選び出すことができるため、グルーオンの偏極度を直接測定することができる。もしグルーオンとクォークスピンの足し合わせで陽子のスピンが説明できれば、その時点で陽子スピンの謎は解決されることになる。また、それでも説明できない場合は、クォークやグルーオンの軌道角運動量も陽子のスピンを担っていると考えられる。また、クォークやグルーオンの偏極度を調べることで、未知の相互作用を探索できる可能性を秘めている。


製作途中のサイベリアン・スネーク このような研究が最終的に目指すものは、われわれの世界を作っている陽子、中性子、さらにはそれが集まってできる原子核に働いている力である「強い相互作用」を理解することである。今回の実験で陽子のスピン構造が明らかになることで、「強い相互作用」の統一的理解に向けて大きなステップが踏まれ、物質がどのように形成されているかを解く、大きな手がかりをつかむことになる。

サイベリアン・スネーク中での加速粒子の軌道


対称性の研究 物理学の理論は当初、自然法則の対称性を 仮定して構築されるが、ほとんどの場合 その対称性が破れていることがわかる。 鏡の中と外の世界が異なっているという 「パリティの破れ」、宇宙初期に物質と 反物質の違いを生み出した「CP対称性の破れ」などが その好例である。そこで理論は、対称性の破れを 説明することで、より高度な段階へと進む。



監修:放射線研究室
 主任研究員 延與秀人

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記念史料室から

アルマイト発見ものがたり
失敗は成功の母

記念史料室には、大河内正敏(第3代所長)の肉声が収められた鈍く銀色に光るアルマイト録音盤など多くのアルマイト製品が保存されている。今では当たり前に使用されているアルミニウムの表面加工処理技術 “アルマイト”。その発見が理研によってもたらされ、理研の研究者が“アルマイト”の名付け親(登録商標)ということを知る人は少ない。鯨井恒太郎(つねたろう)(主任研究員)から瀬藤象二(せとうしょうじ)(同)、宮田 聡(あきら)(同)と続くアルマイト発見前夜からの歴史を、記念史料室に残されている史料や証言などからひもときたい(敬称略)。


写真1:発見のきっかけとなった三角定規と当時のアルマイト製品 アルミニウムの表面加工処理技術として活躍する陽極酸化被膜、通称“アルマイト”。腐食しやすいアルミニウムの表面を覆い、軽量なアルミニウムの特徴をいかしながら、酸にも、アルカリにも強い金属に変えることができ、現在、多くの工業製品などに活用されている。特に軽量化を必要とする航空産業や宇宙産業などにおいては、アルマイト処理したベアリングなどは、なくてはならない存在になっている。さらにアルマイト技術は、伝統工芸へと昇華し、アルマイト漆器として一つのジャンルを切り拓く。失敗の中から偶然に発見されたアルマイト。その発見は、1920年代のことだった。


1917年(大正6年)に創立された理研には、多くの新進気鋭の研究者が集まっていた。その中の一人、鯨井恒太郎が主宰する研究室に、東北帝国大学農科大学出身の植木 栄がいた。この時代、すでにシュウ酸水溶液でアルミニウムを陽極電解処理することで被膜ができることは知られており、植木はこの反応を用いた耐熱性電気絶縁物などの実用化を目指していた。一方、鯨井は別の特徴に着眼、被膜の持つ高い防蝕(ぼうしょく)性を応用することこそが広汎な用途につながると考えた。1924年(大正13年)、植木のもとに東京帝国大学工学部を卒業した宮田 聡が助手として加わり、二人は研究に没頭することになる。植木は、後に鯨井研究室を引き継ぐことになる瀬藤象二とともに、効果的な、新しいアルミニウム陽極酸化法(交流重量法)を見だしていた。そして、アルマイトの発見は偶然にやってくる。


鯨井研究室に“ひょん”な依頼が舞い込んだ。アルミニウムで定規などを作ると、そのままでは金属が擦れて黒くなり、角が丸くなってしまう。そこで、摩擦に強くするためシュウ酸で被膜を付ける注文があった。ある時、多数の三角定規に被膜をかけ、劇薬のシュウ酸を洗い流すため湯に浸(つ)けて煮出したところ偶然、面と面と重なり合い、密着したところだけが黄色く変色してしまった。宮田は「失敗した」と思い、再び電解処理して変色部分を除去しようとした。しかし、変色部分は剥(は)がれない。それどころか、酸にもアルカリにもビクともしないのだ。


アルミニウムに電解処理で被膜を作ると、必ず無数の通電孔ができてしまう。この孔をふさげば、より高い耐蝕(たいしょく)性が得られることはすでに知られていた。宮田は、先の変色部分を子細に調べ、通電孔が綺麗(きれい)にふさがれていることに気付いた。この結果をもとに研究を進めた結果、シュウ酸がしみこんだ状態で高圧の水蒸気を作用(蒸気処理)させれば良いとの結論を得る。大河内正敏はすぐさま特許の取得を指示。さらに1929年(昭和4年)5月、日本で開かれていた万国工業会議の席上で研究成果が発表され、大いに注目される。しかし、残念なことにシュウ酸によるアルミニウムの被膜処理に先鞭(せんべん)をつけた植木は、すでに他界していた。


写真2:宮田聡[1900−1984] 宮田は、耐蝕性の高い酸化被膜を「アルマイト」と命名した。アルマイトの語源は、“エボナイトのように丈夫なアルミ”という意味で、“Aluminium”と“Ebonite”から生まれた和製英語“ALUMITE”である。丈夫なアルマイトはまたたく間に普及し、アルマイトのレコード盤も生まれた。さらに、アルマイト被膜の多孔質に着目し、漆器の素地として活用、アルマイト漆器は、当時の日本の貴重な外貨獲得源となる。アルマイト漆器の素地研究のため、東京芸術大学から理研の研究生となった寺井直次(なおじ)(人間国宝、故人)は、独自の卵殻技法によりアルマイト漆器を芸術までに高めた。寺井が描いた蒔絵(まきえ)は、新東京国際空港(成田空港)の貴賓室に飾られている。


“失敗は成功の母”という格言のように、偶然の中から重要な発見がもたらされることは少なくない。アルマイトのように、偶然の中からの大発見が生まれるためには、研究者の豊かな発想を大事にした研究環境を整えることが重要な要素なのかもしれない。



執筆・文責:嶋田庸嗣(広報室)

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TOPICS



平成14年度一般公開のお知らせ



科学技術週間<2002年4月15日(月)〜21日(日)標語「科学でひらく新世紀 地球のために みんなのために」>の行事として当研究所では下記の日程で一般公開を行います。
 理研の最先端の科学研究に親しんでいただくため、研究室・施設の公開をはじめ、講演会、各種のイベントを行います。多数の方のご来場をお待ちしております。
(入場無料、15:30までにご来場下さい)

和光本所 場所:埼玉県和光市広沢
日時:4月20日(土)10:00〜16:00
問合せ先:広報室 TEL:048-467-9954(一般公開専用)
筑波研究所 場所:茨城県つくば市高野台
日時:4月17日(水)10:00〜16:00
   4月20日(土)13:00〜16:00
問合せ先:筑波研究所 研究推進部 庶務課
       TEL:0298-36-9111
播磨
大型放射光施設
[SPring-8]
場所:兵庫県佐用郡三日月町光都
日時:4月27日(土)10:00〜16:00
問合せ先:播磨研究所 研究推進部 庶務課
       TEL:0791-58-0808
横浜研究所 場所:神奈川県横浜市鶴見区末広町
日時:7月20日(土)【海の日】10:00〜16:00
問合せ先:横浜研究所 研究推進部 企画課
       TEL:045-503-9117
フォトダイナミクス
研究センター
場所:宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉
日時:4月17日(水)10:00〜16:00
問合せ先:フォトダイナミクス研究センター 研究推進室
       TEL:022-228-2111






お花見・構内開放



桜の開花時期に合わせて、和光本所の構内の一部を開放します。皆様に美しい桜を楽しんでいただきたいと思います。

 日  時:4月6日(土)10:00〜15:00
(雨天中止、飲食持ち込み可)
 問合せ先:総務部総務課
TEL:048-462-1111

当日は、桜のフォトコンテストを行います。
お車でのご来場はご遠慮下さい。
例年になく桜の開花時期が早まっていることもあり、ご期待にそえないことがございますのでご了承ください。






「科学論説懇談会」メンバーとの
懇談会を開催



新聞・テレビの論説委員や解説委員で構成される「科学論説懇談会」メンバーと理事長らとの懇談会が2001年12月11日、和光本所で行われました。懇談会には13名が参加。理研からは、小林俊一理事長をはじめ小川智也副理事長、伊藤正男脳科学総合研究センター(BSI)所長らが出席しました。
 まず始めに、小林理事長と小川副理事長が理研の概要と和光地区の施設整備状況について説明。それを踏まえさらに、矢野安重基盤研究部長(加速器基盤研究部)がRIビームファクトリー計画について、青野正和主任研究員(表面界面工学研究室)が理研のナノテクノロジー研究について、新しく整備された研究現場を案内しながら説明しました。
 その後の懇談会では、伊藤BSI所長が設立4年目を迎えたBSIの成果と研究戦略について紹介した後、小林理事長が理研の現状と将来構想について説明。近年における理研の急速な研究展開と、行政改革で研究開発型特殊法人のあり方が問われている状況を踏まえ、理事長から「中核的総合研究所としての役割を果たす」など4つの基本的な将来に対する考えが示されました。
 今回の懇談会は、科学技術関連のマスコミを代表する科学論説懇談会メンバーの理研の動向に対する関心の高さが感じられるとともに、将来の理研のあるべき姿について意見交換を行うことができ、大変有意義なものとなりました。
理研の将来像について説明する小林理事長
理研の将来像について説明する小林理事長

理研で行われているナノテクノロジー研究を紹介する青野主任研究員(左端)
理研で行われているナノテクノロジー研究を
紹介する青野主任研究員(左端)




原酒
ノーベル賞をとった女性達

Photo 自宅の本棚にぼろぼろになった一冊の本がある。物心ついた時から、何度も何度も繰り返して読んだ、「キューリー夫人伝」である。この本の影響で私が研究者になったことはほぼ間違いない。
 マリー・スクロドフスカは、ポーランドで生まれたが、当時のポーランドでは大学への女性の入学が禁止されていたため、フランスへ留学した。言葉もままならない異国の地でマリーは物理学と数学の修士号を首席と2番で獲得した。その後、教師になるために祖国へ帰ろうとした直前、ピエール・キュリーと運命的な出会いをして結婚した。二人はパートナーとして研究を始め、微量の新元素、ポロニウムとラジウムを発見し、ノーベル物理学賞を受賞した。しかし、ソルボンヌ大学の教授職を手に入れたピエールが事故死した。彼の遺志を受け継いだマリーは、その後フランスで最初の女性教授になり、師匠であったピエールのノートの隅々に書き込まれてあった実験を全て遂行し、ピエールの死の5年後に単独で今度はノーベル化学賞を受賞した。
 幼い頃の私にとってキュリー夫人はあこがれの存在だった。貧しかったマリーは、外国で学ぶ資金を工面するため、6年間、家庭教師として働き、8年間のブランクの後、ソルボンヌ大学に入学した。凍りつくほどに寒い屋根裏部屋で、パンを齧(かじ)りながら、全身全霊を注いで勉強に打ち込むマリーの姿を思い浮かべる度に私は、自然現象を勉強することは野山を探索したり、野いちご、ぐみの実やサクランボを摘んだり、月や星の奏でるハーモニーを眺めるのと同じようにわくわくして楽しいこと、好奇心をかき立てる魅力的なことだということに感動した。また、みすぼらしい倉庫の中で、60トンの鉱石から4年間の激しい労働の末、単離に成功したラジウムが放つ青白い光を、まるでわが子をあやすように愛情のこもった眼差しで見つめるピエールとマリーの姿に、どこまでも純粋に自然法則を探求し続ける心、そして研究に対する愛、情熱、信念を学んだ。また、マリーは、愛する科学を通じて社会に貢献したいという夢をラジウムによるガン療法の発見で叶えただけでなく、第一次大戦中、X線技師を養成。自ら戦地ヘ赴き、X線検診車による活動を組織し、百万人以上の負傷兵の治療に尽力することで成し遂げたのである。
 ノーベル賞設立から100年が経ち、自然科学の分野では延べ478人が受賞の栄冠に輝いているが、この羨望の的のトロフィーは、女性に対してわずか10人しか与えられていない。2度受賞したキュリー夫人の他に、物理学賞のメイヤー、化学賞のマリーの長女イレーヌ・ジョリオ・キューリーとホジキン、そして生理学医学賞の6人、コリ、ヤーロウ、マクリントック、モンタルチーニ、エリオン、フォルハルトである。
 彼女達は、仕事上の差別待遇に加え、人種的、宗教的な差別、貧困、戦争、肉体的ハンディキャップ、病気などにも苦しんだ。しかし、彼女たちは男性達との競争に参加できるだけの条件と実力を自ら創り、表舞台に登場したと言える。すなわち、彼女たちは、自らの“初め”の夢を“終わり”まで貫き通した人と言える。その代表に細胞遺伝学者であるマクリントックが挙げられる。1990年に米国のコールド・スプリング・ハーバー研究所を訪ねた私は彼女が昼寝をするために愛用している揺り椅子を見つけた。それは、共同研究者も伴侶も持たず、たった一人で班入りトウモロコシの遺伝学を研究した彼女の人生を象徴するかのように、広い芝生の中に一つだけポツンと置かれてあった。彼女は、1951年に、画期的な発見「動く遺伝子」説を発表したが、悲劇的なことに、当時の遺伝学者の誰もその内容を理解できなかった。それ以後、彼女の研究は、論文を投稿しても拒否され、学会から完全に無視され、追放され、抹殺された。地位も、名声も、友人達も失った。その後の分子遺伝学の発展の中で、30年後の1983年に彼女の発見に対して、ノーベル生理学医学賞が贈られた。
 紙一重の前進のためにしのぎを削り、そのために必死の努力を重ねる。人生の分岐点にあって前進か後退か……それは、本当に紙一重の差だと思う。でも、その紙一重の差で、勝つ人、負ける人、堕落する人、本物と偽物がわかれる。それは結局、自分の生命が磨かれているかどうかで決まってしまう。女性ノーベル賞受賞者10人は自身に問いかけ続けたに違いない。真の人生とはどういきることなのか。自分がこの世に生まれてきたのは何のためなのか。結局、「徹して自分自身に生き抜く人にかなうものはいない」ということを彼女達は私に教えてくれた。

分子ウイルス学研究ユニット
ユニットリーダー●間(あいだ) 陽子


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