![]() |
![]() |
![]() |
|
|
ナノ粒子のサイズごとの特性を探り、 新たなナノ構造体を作る 中央研究所 ナノ物質工学研究室 1nm(ナノメートル)は10億分の1mで、原子数個分の大きさである。ナノスケールの物質は、あるサイズ以下になったときにだけ特異的な機能を示す可能性が、理論的に予想されている。「そこがナノテクノロジーの面白いところです」と武内一夫主任研究員は語る。しかしこれまで、ナノ粒子をサイズごとに選別する技術がなかったため、サイズごとの特性を実験で確かめることができなかった。中央研究所ナノ物質工学研究室では、DMA(Differential Mobility Analyzer:微分型電気移動度測定装置)を使って、1nmから数百nmの粒子をサイズごとに選別する技術を開発した。その過程で、世界で初めてC60が1nmを示す標準粒子として使えることを実証した。研究室ではDMAを用いて、ナノ粒子のサイズごとの特性を探り、新しい機能を持つナノ構造体を作り出そうとしている。 ● 低圧型DMAの開発 ●
DMAは2重の筒型電極からなる(図2)。外側と内側の筒の間に“シースガス”と呼ばれる上から下への安定したガスの流れを作る。そこに試料となる帯電させたナノ粒子を入れて、筒の間に電圧をかけると、静電気力が働き、ナノ粒子はシースガスで下方に流されながら、内側の筒に引き寄せられていく。このとき、小さな粒子ほど速く、上方で内側の筒に到着することになる。内側の筒にスリットを開けておけば、特定のサイズの粒子だけがスリットを通る。かける電圧の大きさにより、取り出す粒子のサイズを変えることができる。スリットから出た粒子は電流計に導かれ、粒子の密度が求められる。 DMA開発の中心メンバーである薛光洙(ソル クァンスー)研究員は、DMAの原理を次のように例える。「川を渡ろうとするいろいろなサイズの船があるとします。それぞれの船には同じ馬力のモーターを搭載します。対岸に渡るときに、大きい船はより遅いスピードでしか渡れません。すると川の流れに流されて下流の岸に到着します。軽い船は速く、上流の岸に到着します。対岸の1ヶ所に出口を設ければ、常に一定の大きさの船が出口を通ります。船がナノ粒子、モーターが静電気力、川の流れがシースガス、対岸が内側の筒、出口がスリットというわけです」 研究室で開発したDMAは、大気圧の数百分の1という極めて低い圧力で稼働させることができる。大気圧に近いと、浮遊するナノ粒子同士はすぐにくっつき合う。低圧で稼働するDMAだからこそ、ナノ粒子をバラバラな状態で、大きさごとに精度よく選別することが、初めて可能になったのである。さらに選別した粒子を堆積したり、加工する際にも、低圧の環境が必要となる。 低圧の場でDMAを稼働させるには、わずかな圧力差でも、シースガスをよどみなく流れるようにしなければならない。ガスの流れに乱れがあると、正確な計測はできないのだ。「DMAの設計では、トライ・アンド・エラーでいろいろな形状を試して、いちばんよく動作する形にしていきました」と薛研究員。 「DMAの完成は、技師1人の力でも、1人の研究員の画期的なアイデアによるものでもありません。あちらを立てれば、こちらが立たず、といった一種のトレード・オフの中で、装置製作技術と計測理論から知識や経験を持ち寄って、さまざまな条件を総合的に最適化し、唯一可能な設計を探り当てたのです」と武内主任研究員は開発過程を振り返る。 ● ● ●
|
||
|
||
[ 目次へ ] |
|
生命の神秘を解き明かすカルシウム振動 発生、記憶、老化…… 生命現象は細胞の内側から制御されている 脳科学総合研究センター 発生・分化研究グループ 発生神経生物研究チーム カルシウム(Ca)は、骨格を作るだけでなく、細胞内での情報伝達を担うセカンドメッセンジャー※1として働く、生物に欠かすことのできない物質である。最近、細胞内の小胞体から放出されるカルシウムイオン(Ca2+)は、ゆっくりとしたリズムの濃度変化「カルシウム振動」を生み出すことが分かってきた。御子柴克彦チームリーダー(東京大学医科学研究所教授を併任)は、Ca2+振動が受精や細胞分裂、背と腹の決定、さらには記憶学習まで制御していることを、世界に先駆けて次々と解明してきた。「内側から外を見るとまったく違う世界が見えてくる」と語る御子柴チームリーダーは、Ca2+振動という新しい切り口から、生命の神秘を解き明かそうとしている。 ● ● 背と腹を決めるメカニズム ●
発生初期、腹になる運命の細胞にリチウムを入れると、もう1つの脊髄(2次軸)ができることが知られていた。しかし、なぜ異常が起きるのか分からなかった。御子柴チームリーダーは、リチウムがイノシトールリン酸系の酵素の働きを阻害するらしいことに注目した。そこで、アフリカツメガエルのIP3受容体の機能を阻害する抗体を作り、4細胞期の腹になる運命の細胞に注入した。すると、細胞の運命が変化して背が形成された(図3)。「Ca2+振動が腹側化のシグナルとして働くという論文を1997年に『Science』に発表しました。しかし当時は、Ca2+の標的分子が分かっていませんでした」 御子柴チームリーダーらが研究を進めた結果、背腹軸を決定する情報伝達のメカニズムが明らかになってきた。「Ca2+の標的分子は、リンパ球を活性化する転写調節因子※3 NF-AT(Nuclear Factor of Activated T-cell)でした。なんと、免疫系の分子が腹側化のシグナルに関わっていたのです」 NF-ATの働きを阻害すると、腹が背になって2次軸が形成される。さらに、IP3受容体の機能を阻害して2次軸が形成された個体に、正常なNF-ATを過剰に働かせると、2次軸が消滅することも分かった。また、NF-ATは背側化シグナルとして働くグリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ-3β(GSK-3β)※4と相互作用していた(図4)。GSK-3βは、脳の老化に伴って起きるアルツハイマー病の原因の1つと考えられている。 「発生と老化は、1つの現象の裏腹であると私は考えています。今回明らかになった分子や情報伝達のメカニズム(図5)が、老化でも当てはまる可能性があります」と御子柴チームリーダーは語る。研究成果は、『nature』(2002年5月16日号)に掲載され、5月16日に文部科学省においてプレスリリースされた。 ● ● ●
|
||
|
||
[ 目次へ ] |
|
新魔法数(マジックナンバー)が 出現する原因を解明 中性子過剰核の理解を加速させる新理論 (2002年4月4日、文部科学省においてプレスリリース) 当研究所は、原子核が安定に存在する新魔法数(マジックナンバー)「16」が出現する原因を世界で初めて解明した。理研中央研究所RIビーム科学研究室の谷畑勇夫主任研究員らによる成果。研究グループでは2000年5月、中性子過剰核では新しい魔法数が出現することを発見している。今回、この魔法数に関連した原子核23Oの反応を理研の重イオン加速器施設を用いて詳しく調べたところ、魔法数「16」が出現する原因となる中性子軌道の変化を特定することに成功した。本研究成果は、新魔法数という物理学上の新たな知見に対する理解を深めるものである。さらに現在建設が進められている「RI(不安定元素)ビームファクトリー」が稼働することによって、より重い元素合成に関与したマジックナンバーの研究を行うことができるようになる。 ● ● ● ● |
|
|
|
[ 目次へ ] |
|
植物の成長を促進させる新しい因子を 世界で初めて発見 食糧増産に向けた新しい植物成長制御技術の開発 (2002年4月16日、文部科学省においてプレスリリース) 当研究所は、植物の成長促進などに関わる植物ステロイドホルモン「ブラシノステロイド」の情報を、核内に伝える働きをする新規タンパク質を世界で初めて発見した。理研中央研究所植物機能研究室の吉田茂男主任研究員、浅見忠男副主任研究員、中野雄司研究員らによる成果。研究グループは、理研で開発したブラシノステロイドの生合成阻害剤を活用し、阻害剤処理をしても健全に伸長するシロイヌナズナの変異体を見つけた。この変異体では、ホルモンの情報を細胞質から核内へ移行して伝達するタンパク質に変異が起き、常に核内に存在し続けることで、ブラシノステロイドによる効果を持続させていることが分かった。同じ変異を農作物にも応用することによって、高価なホルモンを使用することなく、成長促進、収穫量の増加、環境ストレス耐性などを農作物に持たせることが可能になると期待される。 ● ● ● ●
|
|
|
|
[ 目次へ ] |
|
脊椎動物の顎が発生・進化する メカニズムを世界で初めて発見 (2002年5月17日、文部科学省においてプレスリリース) 当研究所は、脊椎(せきつい)動物の進化における顎(あご)の獲得において、ある同じ遺伝子が、胚の発生時に、それまでとは異なる場所に働きかけて顎を形成させるようになったことを世界で初めて明らかにした。理研神戸研究所発生・再生科学総合研究センター形態進化研究チームの倉谷 滋チームリーダーらによる成果。研究チームでは、顎の構造を決定する遺伝子をヤツメウナギから単離し、その幼生の口(上唇と下唇)の発生が、顎を持つ脊椎動物の上顎と下顎の発生と同じ機構になっていることを突き止めた。さらに発生パターンの分析から、それらは別の細胞群によって構成されており、同じ遺伝子が別の場所に働きかけて、顎という新しい構造を作り上げていることも分かってきた。本研究成果は、それまで働いていた遺伝子が場所を変えて、新しい構造を作る働きをするという「異所性:ヘテロトピー」による新規形態の進化の証拠を示したものである。 ● ● ● ● ● |
|
|
|
[ 目次へ ] |
|
シンポジウム「理研におけるナノサイエンスの展開」を開催
|
||
|
||
|
[ 目次へ ] |
||
|
発生・再生科学総合研究センター、新チームリーダー紹介
|
||||||||||||||||||
[ 目次へ ] |
||||||||||||||||||
![]() 私がアメリカで学んだこと |
||||||
|
NMRの機器設備などは日本の方が良かったのだが、アメリカでは研究においては「人」がいちばん大きな研究環境であり、ファクターであることを、ディスカッションなどを通して学んだ。実験結果が悪ければ悪いとして素直に受け止め、どう対処すればよいのか、ひとりひとりの化学者同士のディスカッションとして行われた。これはまだ、博士号をとっていなかった私に対しても変わらなかった。アメリカでは、博士号をとっていない人は原料合成や機器測定だけの下働きだという噂を信じて渡米した私にとって、自分が一人前の科学者として、とても大切に扱われたことは大変な驚きであった。そのディスカッションは2、3時間続くことも珍しくなく、分からないことがあれば先生自ら図書館で調べてくるというものであった。しかしながら、その姿勢はどこかユーモラスで悠然としていた。セミナーでもポスドクからの質問に、いろいろな知識を交えながら答える様子は圧巻であった。理研でも仁科芳雄博士が持ち帰られた、自由で活発なディスカッションを大切にする「コペンハーゲン精神」があったと聞いている。 日本の先生には「せっかく世界の一流のモノが集まるニューヨークへ行くのだから化学なんてどうでもいい。美術にしろ、スポーツにしろ、一流のものを見てきなさい」と乱暴な激励を受けて旅立ち、いろいろなものを見たり聞いたりしたものの、やはり専門分野の一流のものに触れたことが、いちばん「一流」というものを理解できたような気がする。そうそうたる教授陣からは、世界の先駆者であろう、あり続けようと努力する姿勢を通じて、明日の科学を自分たちの手で創り出そうとする気概を教えていただいた。また、ひとりの研究者を育てることの大切さや大変さも教えていただいた。 しかしながら、いかにすごい先生方でも「天才」ではなく、あまり自分たちと変わらない人間ではありながら、ほんの少しの努力を怠らず、ほんの少し自由であろうとすることの積み重ねの結果であることも教えていただいた。 中田英寿選手や野茂英雄投手が素晴らしいのは、世界に羽ばたいたパイオニアとして、プレーで人を魅了する一流のものを示し続けることができるだけではなく、ワールドカップ開催中に外国人向けに情報提供の場を兼ねたインターネットカフェを開いたり、過去の自分のチームやアメリカ独立リーグのオーナーとなって、自分が育ってきた環境に恩返しができるように努力することにもあると思う。 アメリカ時代の恩師が3月末に日本化学会の招待により、ご高齢にもかかわらず日本へ8年ぶりに来られた。日本にいるOBたちは同窓会と称して温泉へと1泊2日のセミナー旅行を企画した。みんな偉い先生方になっているにもかかわらず、以前のボスの前で研究発表をするときは、ポスドク時代に戻ったかのような表情であった。 アメリカで私が体験した素晴らしい「環境」を、私もいつの日かどこかで実現できるようにしたいと願っている。 細胞制御化学研究室 研究員●眞鍋史乃 |
||||||
[ 目次へ ] |
|
||||||||||
|
[ 目次へ ] |
||||||||||