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No. 238 April 2001

研究最前線
タンパク質を五感で捉えるスーパーシミュレーション
SPOT NEWS
分子の鎖でナノワイヤー配線
マウスcDNAアノテーション情報の公開
ヒトゲノムのドラフトシーケンス解析結果を公表
特 集
発生・再生科学の推進 一発生・再生科学総合研究センター一
記念史料室から
理化学研究所発祥の地 駒込 一理研の歴史を今に伝える43号館一
TOPICS
発生・再生科学総合研究センター 新チームリーダー紹介
第8回名古屋市・理化学研究所ジョイント講演会を開催
「理事長ファンド」による研究成果を発表
「理研スピン物理CC-J」開設式を開催
「テクニカルショウヨコハマ2001」に理研が出展
原酒
小田 稔先生を偲ぶ
Photo

研究最前線

タンパク質を五感で捉える
スーパーシミュレーション

1999年4月に設置された情報基盤研究部は、計算科学技術推進室、イメージ情報技術開発室、情報環境室の3部門で構成されており、同じ年の末に和光本所に完成した情報基盤棟の真っ白な建屋にその拠点を置く。
戎崎俊一・情報基盤研究部長(計算科学技術推進室長兼務、主任研究員)は、「他にもいくつか基盤研究部ができていますが、いずれもファシリティをもっている所です。結局、ファシリティ機能と研究機能とが統合的に運営されていかないと、サービスの質の低下を引き起こすので、このような仕組みになりました」話す。
戎崎部長が率いる計算科学技術推進室では、重力や分子間力などの中心力の計算を専用に行うスーパーコンピュータを開発し、膨大な質点数のシミュレーションを行ってきた。この手法で銀河の生成理論に一大インパクトを与えた戎崎部長たちは、今度はタンパク質の三次元構造と機能の解明に迫っている。


世界最速のコンピュータ

戎崎基盤研究部長昨年11月、戎崎部長たちの開発した分子動力学シミュレーション専用計算機(MDM:Molecular Dynamics Machine、写真1)が世界最速の認定を受け、ゴードン・ベル賞の「ピーク・パフォーマンス賞」を受賞した。この賞は特定の実用計算を行い、その計算方法や計算時間を論文にまとめたものを、米国の電気電子技術者協会(IEEE:Institute of Electrical and Electronics Engineers)のスーパーコンピュータ学会に設置された委員会が審議し、認定する仕組みとなっている。
 「私たちは、2000万個の原子からなる食塩に熱が加えられ溶けていく状況をシミュレーションしました。その実行速度(パフォーマンス)は1.34テラフロップス(Tflops)で、同様の成果をあげた東京大学の計算機とのダブル受賞でした」
写真1:MDMの全体像 MDMは、その名の通りタンパク質などの生体高分子のダイナミクスをシミュレーションするマシンで、2種のシステムで構成されている(写真2)。ひとつは「WINE-2(写真3)」とよばれ、もうひとつは「MDGRAPE-2(写真4)」とよばれている。両者とも扱うのは膨大な数の原子の間に働く静電力と分子間力だが、その計算原理が異なっている。
 タンパク質のシミュレーションでは、同じ構造が上下左右前後に繰り返される周期的境界条件のもとで計算を行うことが多い。静電力は本当は無限遠からの寄与まで考慮しなければならないが、このときフーリエ変換を使えば計算量が少なくなり高速化がはかれる。これを担当しているのがWINE-2だ。
 「端的にいえば、タンパク質を構成するある原子に遠くから働く力をWINE-2で、近傍で働く力をMDGRAPE-2で計算しています」
写真2:MDMの構成 WINE-2はすでに昨年完成しており、単独での設計速度は50Tflops。MDGRAPE-2は、専用LSIの装着個数をさらに増加させたものを組み上げている最中で、最終的には1枚当たり16個のLSIを装着したボード96枚で構成され、その設計速度は25Tflopsとなる。両システムを組み合わせるとその設計速度は75Tflopsで、先の食塩の溶融過程シミュレーションなら受賞時の10倍以上の実行速度で行うことができるそうだ。
 「本当は100Tflopsを狙ったのですが、予算の都合上あきらめました」
 WINE-2チップ(写真5)の設計およびMDGRAPE-2チップ(写真6)の基本設計は戎崎部長たちが行い、そのLSI化をそれぞれLSIロジック、IBM大和基礎研究所が担当した。
 「WINE-2のチップが1個2万円で2688個使っています。MDGRAPE-2のほうは1個5万円で、1536個使います」
 戎崎部長たちはMDMを製作・販売するベンチャー「有限会社高速計算機研究所」を設立している。販売価格は64ギガフロップス(Gflops)のボードが200万円と設定されており、すでに慶應義塾大学への納入が決まっている(写真7)。その他にも、内外の大学や製薬会社からの引き合いが多数あるそうだ。


MDMがもたらす新タンパク工学

写真3:WINE-2ボード戎崎部長たちがMDMを使って取り組もうとしているのは、タンパク質の三次元構造の解明だ。
 人間を始めさまざまな生物のゲノムが近年盛んに解析されており、遺伝子の正体が明らかになってきている。つまりタンパク質を構成するアミノ酸の一次配列情報が、どんどん蓄積されているのである。しかしアミノ酸の空間的な配列、三次元構造を突き止めないと、タンパク質の構造と働きの関係を明らかにすることはできない。
 現在、NMR(核磁気共鳴装置)や放射光などを使ってタンパク質の構造を明らかにし、その分類をはかろうという計画が各国で進められているが、その最先端に位置するのが理研横浜研究所のゲノム科学総合研究センター(GSC)だ。
写真4:MDGRAPE-2ボード 「GSCのタンパク質構造解析データとMDMとを組み合わせると、網羅的にタンパク質の構造を予想することが可能となり、この分野に大きな衝撃を与えることになるでしょう」
 GSCに今年度発足したインフォマティクス基盤施設ゲノム解析用コンピュータ研究開発チーム(小長谷明彦チームリーダー)のもとには、MDMの開発に携わった複数のメンバーが馳せ参じている。ゲノム解析と関連する高速コンピュータの開発の一環として、MDMを利用したタンパク質構造予測や分子間相互作用パラメーターの計算を行おうとしている。
 またMDMは、既存のタンパク質の構造解析だけでなく、新たなタンパク質の設計にも利用することもできる。
写真5:WINE-2チップ 例えば、あるタンパク質のある部分のアミノ酸を変えて、より機能の高いタンパク質にする、あるいは常温ではない環境でも働くようにするといった時にその力を発揮するのだ。
 「MDMを使えばアミノ酸の取り替え効果を網羅的に調べることができます。そのデータの中で有望そうな取り替えについては実験で確かめるというプロセスを確立すれば、医薬品の開発は効率化するでしょう」
 このようにタンパク質工学の画期的なツールであるMDMは、現在10万個の粒子の系、つまり最も大きいタンパク質をリアルタイム(ビデオレート)で変化させることができる。
 「タンパク質の存在を三次元的に目の当たりにするだけでなく、これにバーチャルな手を入れて、触ったり、つまんだり、引っ張ったりすることができ、さらにそれに対するタンパク質の応答をリアルタイムで掌に感じることのできるシステムを、次には開発したいと思っています」
写真6:MDGRAPE-2チップ このシステムはそう遠くない時期に実現されるだろうと戎崎部長は言う。
 「タンパク質のような複雑な構造を人間が理解するためには、五感すべてでその存在を感じとることのできる世界を作り出す必要があるでしょう。その手段がMDMだと思っています」


より速く より正確に より広く

すでに戎崎部長は「次世代マシン」の実現も近い将来の目標として捉えている。
 「設計速度がペタフロップス(Pflops)までは、現在の技術の延長線上で行けると思っています。その実現を左右するのは予算の問題だけでしょうね」
写真7:64GflopsのMDGRAPE-2ボード 価格は200万円 ペタフロップスの速さになると100万個の粒子の系をリアルタイムで扱えるようになる。
 「生体の中でのタンパク質は常に水に囲まれた状態で働いています。それゆえ構造と機能の追究には、周りに水分子のついたタンパク質のシミュレーションが不可欠です。10万個の原子からなるタンパク質に水分子をつけると、100万個程度の粒子系になります」
 つまりペタフロップスが実現されれば、あらゆる種類のタンパク質の生体中での振る舞いを三次元的に作り出すことができるようになる。
 「この速さになれば、細胞膜に埋め込まれて細胞への物質の出し入れをコントロールしている膜タンパクの働きや構造も、シミュレーションできるようになるかもしれません」
 例えばウィルスが細胞内に入る時は膜タンパクと結合するので、このようなシミュレーションはウィルス感染症の治療や予防に画期的な道を開くかもしれない。
 「じつは今、大変興味をもっているのが、MDMを使った岩石のシミュレーションです。岩石も水との相互作用で性質が大きく変わることが最近明らかになっています。わずかな水が岩石中に入っただけで、非常に柔らかくなるとともに融点が下がります。これがプレートテクトニクスに重大な影響を与えます」
 今は、まず岩石の構成要素を質点としたモデルを作ろうとしている。タンパク質を構成する原子(質点)は炭素が中心だが、岩石ではケイ素となる。
 「モデルではまず岩石の物性を表現せねばならないので、これに関していろいろとアプローチしています」
 モデルにどのように水を入れていくかの設定も難しい。
 「水はイオン化して水酸基と陽子に分かれているようです。そしてこの陽子が岩石の欠陥に沿って化学反応を起こしながら進んでいるようです。イオン化や化学反応はMDMでは取り扱えませんが、うまい方法を見つければ岩石内の水との相互作用をシミュレーションできるのではないかと考えています」
 岩石シミュレーションには難題が待ち受けているようだ。しかし戎崎部長は、「私たちにとって一番大切なのは私たちの生命です。私たちの生命と暮らしを成り立たせているのは大地、地球です。我々を作る炭素と地球を作るケイ素とが、周期律表で上下の関係になっている事実は非常に興味深いことです。生命と地球という両方の系をMDMで追って行けば、思いもかけない真実があらわになるのではないかと、密かに期待しています」と語り、その好奇心は未知の自然を前に、ひるむことがない。

テラフロップス:計算機の数値計算速度を示す単位 ギガ=109、テラ=1012、ペタ=1015



文責:広報室
監修:情報基盤研究部 基盤研究部長 戎崎俊一
取材・構成:由利伸子

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SPOT NEWS

分子の鎖でナノワイヤー配線
ナノテクノロジー電子素子実現に新技術
(2001年2月5日、文部科学省においてプレスリリース)

当研究所と科学技術振興事業団は、導電性の分子の鎖を“ナノワイヤー”として用いて、任意の点から別の任意の点まで自由に配線できる技術を世界で初めて開発した。理研・表面界面工学研究室の青野正和主任研究員と大川祐司研究員らによる研究成果。新世代のデバイスとして、分子を用いる「分子ナノエレクトロニクスデバイス」は、現在の半導体デバイスに代わる技術のひとつとして期待されており、今回の新しいナノテクノロジー技術は、その実現につながる大きな一歩となる。


分子鎖による世界初のナノワイヤー配線シリコン半導体素子は、超微小化と高集積化の一途をたどり、コンピュータの能力を目覚ましく向上させてきた。シリコン半導体素子では、シリコンに微量の不純物を混ぜてn型やp型の半導体としているが、超微小化が進むことによって、1つの素子に含まれる不純物原子の数が極端に減少するため、もはや原理的に半導体として動作することができない。また、光リソグラフィーを用いた微細加工技術も、紫外光へと短波長化を進めることで微細化の限界に挑戦しているが、数10nm程度が限界とされている。このような状況の中で、ナノメートル程度の寸法でも動作可能な新しい概念の素子の開発が世界的に精力的に進められている。新素子実現の1つの大きなキーテクノロジーは、ナノメートル程度の極微小な幅をもち、電気をよく通す “ナノワイヤー” を任意の位置に任意の長さで作り込む技術の開発である。
 今回、開発に成功した技術は、有機分子膜の分子に走査トンネル顕微鏡(STM)の探針によって電圧パルスを加え、連鎖重合反応を起こさせることでナノワイヤー配線を作成するもの。すなわち、適切な分子(具体的にはジアセチレン化合物分子)が秩序正しく並んだ平坦な膜を作製し、その上の1点にSTMの探針を用いて適切な電圧パルスを加えることで、そこから連鎖重合反応がスタートして分子の鎖(ポリジアセチレン化合物)が自発的に成長していく。その成長の経路上に前もって分子の乱れをSTMの探針によって作っておくと、分子の鎖の成長をそこで止められる。連鎖重合反応によって作られる分子の鎖は、構造が完全で分子の連結に乱れがなく、かつ安定。また実用化の観点からみるとき、連鎖重合反応は最初の刺激を除いてゼロの消費エネルギーで進行し、かつ短い時間で終わるという魅力的な利点をもっている。
 図は、ジアセチレン化合物分子が秩序正しく配列した膜をSTMによって観察した像である。像の中央に見られる黒い点は、STMの探針によってあらかじめ作られた構造欠陥(直径約6ナノメートルの穴)。[1]の点Aに探針を置いて刺激としての電圧パルスを加えたところ、そこを起点として連鎖重合反応が進行し、穴の位置までナノワイヤーが形成された([2])。同様に、[2]の点Bに刺激を加えたところ、[3]に見られるように2本目のナノワイヤーが形成され、さらに[3]の点Cに刺激を加えたところ、[4]のように3本目のナノワイヤーが形成された。このことにより、分子ナノワイヤーを用いた単電子トランジスターの実現に大きく近づいた。
 今回開発した新技術は、分子デバイスを始めとする次世代ナノデバイス作成の基本技術になることが期待され、21世紀のキーテクノロジーといわれるナノテクノロジーに多大の波及効果を及ぼすことが期待される。また、一次元導電体の物性研究や連鎖化学反応のナノ化学研究など、基礎科学としてのナノサイエンスの発展にも大きく貢献することにもなるだろう。
 本研究成果は、英国の科学雑誌『nature』2月8日号に掲載された。

分子ナノエレクトロニクスデバイス: 1個、または数個の分子(有機分子)をメモリーセル、スイッチ、論理ゲート、基本プロセッサーとして用いることによって、今日のシリコン半導体に 基礎をおくコンピュータ素子を凌駕することを目指した新しいナノスケールのデバイス



文責:広報室
監修:表面界面工学研究室
主任研究員 青野正和

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SPOT NEWS

マウスcDNAアノテーション情報の公開
約12,400種のマウス新規遺伝子を発見
(2001年2月6日、文部科学省においてプレスリリース)

当研究所は、機能アノテーション(機能注釈)情報を付与したマウスの完全長cDNA情報を公開した。ゲノム科学総合研究センター(GSC)の林崎良英プロジェクトディレクター(遺伝子構造・機能研究グループ)は、世界に先駆けて「マウス遺伝子エンサイクロペディア計画」としてマウス完全長cDNA(約21,000クローン)の解析を実施。さらに「マウスcDNA機能アノテーション会議(Functional Annotation of Mouse〔FANTOM〕meeting)」を開き、遺伝子の機能注釈のルールや方法を決め、それらを用いて世界標準となる機能注釈付けを行った。本研究成果として、約12,400種のマウス新規遺伝子を発見、中でも約8,200種は哺乳類においてまったく新しい遺伝子であることがわかった。なお、当研究所は本年5月をめどに、機能アノテーションを付与した完全長cDNAクローンを国内外の希望者が利用できる体制を整えていく。


マウス新規遺伝子の分類マウスは、遺伝子が約4万〜10万種あると予測されており、“ヒトの遺伝子とほとんど同じであること”、“ヒトでは取れないライフサイクルすべてのステージの遺伝子が取れること”、“実験的にも扱いやすいこと”などから、ヒトのモデル動物とされている。マウス遺伝子(完全長cDNA)のすべてを取り出し、その塩基配列情報などを体系的に整理した辞書となる「マウス遺伝子エンサイクロペディア」の作成は、ヒト遺伝子の機能解明の促進など、医学・生物学といったさまざまな分野での貢献が期待されている。GSC遺伝子構造・機能研究グループでは、これまで、約127,000クローンのマウス完全長cDNAの末端塩基配列データをホームページ(http://genome.gsc.riken.go.jp/)上で公開してきた。
 近年、医薬品開発に直結するポストゲノム研究の主要な研究課題として、遺伝子から合成されるタンパク質(生体反応を担う主役)に関する研究が重要視されており、激しい国際競争が展開されつつある。本研究の対象である完全長cDNA(遺伝子の本体)は、このタンパク質を合成するための設計情報をすべて有し、タンパク質そのものを合成することができることから、ポストゲノム研究における非常に重要な「基盤ツール」となる。
 今回、約21,000クローンもの完全長cDNAについて、全塩基配列情報の解読に加え、それらが既知の遺伝子なのか、新規の遺伝子なのか、既知の遺伝子とはどのような類似性を有するのか、どのような機能をもつと予想されるかなどの機能関連情報の注釈付けを行った。このような膨大な量の完全長cDNAについて、単なる塩基配列情報だけでなく、機能情報をも付加することは、「基盤ツール」としての価値を飛躍的に高めるとともに、今後のポストゲノム研究の効率的推進に大きく貢献するものと期待されている。
 本研究で解析した21,076のマウス完全長cDNAクローンには、選択的スプライシングなどによる重複を除いた結果、約15,200種の遺伝子が含まれていることがわかった。このうち、約2,800種の遺伝子はマウス既知遺伝子だったが、残りの約12,400種の遺伝子はマウス新規遺伝子であった。さらに、約12,400種のマウス新規遺伝子の中には、哺乳類において全く新しい遺伝子が約8,200種見つかった。これらの中には、発生の段階で遺伝子の転写調節を行なっていると考えられる新規遺伝子や、がんの増殖や抑制に関連すると思われる新規遺伝子も存在している。
 本研究成果は、英国の科学雑誌『nature』2月8日号に掲載されるとともに、ホームページ(http://www.gsc.riken.go.jp/e/FANTOM/)などでも公開されている。

選択的スプライシング: 1つの遺伝子から複数の種類のmRNAが合成される現象のこと(cDNAは、mRNAを鋳型にして作られたDNAであるので、1つの遺伝子から複数の種類のcDNAが生じることがある)



文責:広報室
監修:ゲノム科学総合研究センター
遺伝子構造・機能研究グループ
プロジェクトディレクター 林崎良英
研究業務部長 斉藤茂和

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SPOT NEWS

ヒトゲノムのドラフトシーケンス
解析結果を公表

(2001年2月12日、アルカディア市ヶ谷にてプレスリリース)

日、米、英、仏、独、中の6カ国20研究センターから構成される「国際ヒトゲノムシーケンス決定コンソーシアム」は、ヒトゲノムドラフトシーケンスの解析を終え、その成果をまとめた。当研究所は、ゲノム科学総合研究センター(GSC)のゲノム構造情報研究グループ(榊 佳之プロジェクトディレクター)が中心となり、ヒトゲノムのシーケンス決定に大きく貢献、約203Mbのデータを取得し、100Mb以上のデータ解析を行った6研究機関のひとつに数えられた。国際チームは、ヒトゲノム全体の約90%をカバーする27億2,500万塩基の配列を決定。解析の結果、ヒト遺伝子の総数は約31,000種と推定され、そのうち動物固有のものが約5割、そのうちの約半分が脊椎動物に固有の遺伝子であることなどが明らかになった。ヒトゲノムの全体像が判明したことにより、今後、生活習慣病の遺伝子の同定や、ヒトの発生・分化に関する詳細なメカニズムの解析が加速度的に進行すると期待される。ヒトゲノムシーケンスの完全解読は、2003年春までには終了する予定。


研究成果を公表する榊プロジェクトディレクター(左から3人目)ヒトの遺伝設計図であるヒトゲノムの全解読は、人類科学の最も輝かしい成果のひとつとして歴史に残るものである。このヒトゲノムの全解読を目指す“ヒトゲノム計画”は国際協調のもと、1991年より進められてきた。そして、国際チームは、昨年6月26日にヒトゲノムのドラフトシーケンス完了を宣言、2月15日、その研究内容が英国の科学雑誌『nature』から公表された。
 国際チームは、ヒトゲノムDNAを大きく断片化し、それをクローン化した後各々の断片をショットガン法で配列決定する階層的ショットガン法という戦略を採用。ヒト血液または、精子由来DNAから作製された11種のBAC、PACヒトゲノムDNAライブラリーに由来する29,298クローンを用いて、ヒトゲノム全体の約90%をカバーする27億2,500万塩基の配列を決定した。そのうち約30%は完成データであり、残りの部分についても、その9割は99.99%の信頼性をもっている。
 配列決定したデータをもとに、遺伝子の予測や繰り返し配列の分布など、ヒトゲノム全体の特色を明らかにした。その結果、ヒトゲノムの45〜50%は直接生体機能に関与しないと思われる分散型繰り返し配列や、単純な繰り返し配列が占め、残りの領域にさまざまな遺伝子が存在することが分かった。ヒトのタンパク質をコードする遺伝子の総数は、約31,000種と推定される。これは、ハエや線虫の総遺伝子数の2倍程度でしかない。さらに、それらの機能を推定したところ、物質代謝や転写・翻訳、シグナル伝達に関わるものが比較的多く、また動物固有のものが約5割、そのうちの約半分が脊椎動物に固有のタイプの遺伝子であると推定された。また、配列解析から140万以上のSNP(1塩基多型)も発見された。
 なお、解析・注釈付けに当たっては、GSC遺伝子構造・機能研究グループ(林崎良英プロジェクトディレクター)が生産した約21,000種の完全長マウスcDNAの情報が大きく貢献しており、遺伝子予測、データの精度解析の重要なレファレンスデータとして活用された。さらに、ドラフトシーケンスデータは、人類共通の財産として公開され、わが国では、GSCと東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターが共同で、世界に先駆けてヒトゲノムの配列情報をゲノム研究に利用しやすい形でデーターベース化(HGREP: Human Genome Reconstruction Project)し、ホームページ上で公開(http://hgrep.ims.u-tokyo.ac.jp)している。

BAC/PAC: ヒトDNAなどを大腸菌でクローン化する時に用いるベクターの一種。BACはバクテリアの人工染色体、PACはP1人工染色体の略。数十万塩基の長さのDNAをクローン化できるのが特色である。



文責:広報室
監修:ゲノム科学総合研究センター
ゲノム構造情報研究グループ
プロジェクトディレクター 榊 佳之

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特集

発生・再生科学の推進
発生・再生科学総合研究センター

写真1:平成13年3月に竣工したBuilding B(提供:大阪建設工業新聞社)当研究所は、発生・再生科学の体系的基礎研究に取り組むため、平成12年4月に「発生・再生科学総合研究センター(CDB:Center for Developmental Biology)」を立ち上げました。センター長には、竹市雅俊京都大学教授が就任。21世紀における発生生物学の新たな展開を目指した基礎研究を推進するとともに、細胞治療・組織再生など医学的応用を促進するための基礎的・モデル的研究を推進し、得られる成果を広く応用分野に向けて発信することを目指しています。


生物の発生・再生領域の研究開発は、近年の幹細胞研究の急速な進展により、世界的なトレンドとして、研究が目覚ましい勢いで展開しつつあります。写真2:完成予想図これらは、幹細胞を用いた拒絶反応のない細胞移植技術に代表されるように、移植・再生医療の発展に対して、巨大な潜在的可能性をもつものと考えられています。理研では、これらの状況に鑑み、世界に先駆けて発生生物学を主要テーマとして掲げ、さらに理学、医学的発生学を統合して推進するという研究所を設立しました。


CDBでは、今後の発生・再生研究が取り組むべき3つの領域、(1)発生のしくみの領域 (2)再生のしくみの領域 (3)医療への応用の領域―を設定。これらの研究を推進するために、すでに7研究グループが発足しています。さらに今春には、臨床応用に結びつく分野や、発生・再生にかかわるバイオインフォマティクス分野などにも視野を広げ、研究体制の拡充を図り、発生・再生科学の総合的な研究活動を展開しています。組織図その一環として、新たに若手研究者中心にチームリーダーを選考し、13チームを発足させました。また、神戸先端医療センター、東京大学医科学研究所、京都大学再生医科学研究所などの研究機関と連携を図りながら研究を推進していきます。


研究拠点は、兵庫県神戸市港島南町(ポートアイランド)内の神戸先端医療センターの隣接地に整備されます。同地は、神戸市による健康・福祉・医療関連産業の振興を図る「神戸医療産業都市構想」に基づき整備が進められています。研究施設としては、本年3月にBuilding Bが竣工し、この4月からは、細胞運命研究チーム、体軸形成研究チーム、細胞移動研究チーム、神経回路発生研究チーム、変異マウス開発チームの5チームが移転します。さらに平成14年3月には、Building Aが完成する予定です。また、平成12年度の補正予算で発生・再生北研究棟〔仮称〕の建設(平成14年冬に竣工予定)が決まりました。



文責:広報室
監修:筑波研究所 研究推進部

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記念史料室から

理化学研究所発祥の地 駒込
理研の歴史を今に伝える43号館

東京市本郷区駒込上富士前町(現・文京区本駒込)。市電が近くを走っていたこの街に理化学研究所はあった。この地は現在、再開発の波にのまれ近代的なビル群に変貌(へんぼう)。大河内正敏(第3代所長、主任研究員)の還暦祝いに建てられた43号館と、理研発祥地を示す案内板などが当時の面影を伝えている。駒込時代の建物群は最盛期、四十数棟にも及んでいた。特に1号館は、独国のカイザー・ウィルヘルム研究所(現・マックスプランク研究所)を模した、煉瓦(れんが)造りの強固な建物として異彩を放っていた。今はその門構えだけが、理研から分離・独立した科研製薬(株)によって保存されている(敬称略)。


煉瓦造りの壮麗な1号館理化学研究所は1917年(大正6年)3月20日に創立したが、建物はまだなく、研究者が所属する各帝国大学で研究が行われていた。研究所の建設地は、当時の東京市の最北部に位置する本郷区と小石川区にまたがる約1万2千坪があてられた。この地は、精神病院の東京府立巣鴨病院跡地であり、東京府より当時の金額で約41万円(大正6年契約時)で払い下げられた。隣接する土地には三菱財閥を率いる岩崎家の牧場などがあり、乳牛が二、三十頭放牧され、草を食む姿が見られた(同地約3千坪は後に岩崎家より寄附される)。


理研産業団が大河内正敏の還暦を祝して建設した43号館研究所の立地は決まったものの、建物の建設は遅々として進まなかった。ようやく1918年(大正7年)11月、後に理研を象徴する建物で、化学部に所属する池田菊苗(化学部長、主任研究員)らの研究拠点となる1号館の建設が始まった。当初、1号館の建設には約85万円(設備費含)の予算が組まれていたが、建材および工賃の高騰などで約130万円まで跳ね上がった。当時(大正8年)の米一俵(60キロ)あたりの生産者価格は約10円。現在は約1万6千円であるから、約200億円もの巨額な資金が投入されたことになる。


1号館は1921年(大正10年)12月に竣工。1号館設計には、化学部の田丸節郎(主任研究員)があたり、近代的な研究環境を実現するためカイザー・ウィルヘルム研究所を視察している。その調査結果を反映し、1号館の実験室には空調設備が完備された。さらに、各室には水や蒸留水、圧搾空気などが引き込まれ、コックをひねればすぐに利用できた。電源は、交直流の各種電圧はもちろん、周波数も変更できるほどの充実ぶりだ。建物も堅牢で、関東大震災においてもびくともしなかった。今でこそ当たり前の研究環境かもしれないが、当時は日本のどこを見回してもこれほど立派な研究施設はなかった。


理化学研究所建物配置図[昭和16年3月]一方、物理部の建物は、化学部が予算を先取りして優美な1号館を建てたため資金的に恵まれず、実験設備に重点をおいた実用的な建物となってしまった。長岡半太郎(物理部長、主任研究員)は、少ない予算でも研究に適した環境を実現するのに腐心。1922年(大正11年)11月、ようやく鉄筋2階建ての3号館が竣工する。しかしこのことが、物理部と化学部の間に禍根を残し、両部の対立の遠因となり、理研存続を左右する大騒動に発展してしまう。


その後も理研の発展とともに建物は増築され、1941年(昭和16年)3月末には35棟を数え、なかには合成酒の製造工場といったプラントまであった。創立以来、同年までに費やされた建設費の総額は、敷地費を合わせて約920万円に達している。現在、当時の建物で残っているのは、大河内正敏の還暦を祝って理研産業団が寄贈した大河内記念館(43号館、現・理研駒込分所)、仁科芳雄(第4代所長、主任研究員)の執務室があった37号館(現・アイソトープ協会)など数棟のみである。


荘厳で優美な建物であった1号館は、バブル景気時代の荒波にもまれ消え去ってしまった。しかし、記念史料室には1号館などの貴重な詳細図面が残されている。この図面をもとに、近代遺産にも匹敵する1号館の雄姿を復活させることも夢ではないのだ。



執筆・文責:嶋田庸嗣(広報室)

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TOPICS



発生・再生科学総合研究センター
新チームリーダー紹介



新しく就任したチームリーダーを紹介します。
1.生年月日 2.出生地 3.最終学歴 4.主な職歴 5.研究テーマ 6.信条 7.趣味

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多能性幹細胞研究チーム
丹羽 仁史
(にわひとし)
1.1964年6月17日 2.大阪府 3.奈良県立医科大学、熊本大学大学院 4.熊本大学、エジンバラ大学、大阪大学 5.ES細胞の未分化状態維持機構 6.成せば成る 7.相撲、写真
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ゲノム・リプログラミング研究チーム
若山 照彦
(わかやまてるひこ)
1.1967年4月1日 2.神奈川県 3.東京大学大学院農学系研究科獣医学専攻 4.学術振興会特別研究員、ハワイ大学助教授、ロックフェラー大学助教授、Advanced Cell Technology研究員 5.体細胞クローン動物を用いたゲノムリプログラミングの解明 6.考える前に実行 7.乗馬
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哺乳類エビジェネティクス研究チーム
岡野 正樹
(おかのまさき)
1.1967年3月28日 2.兵庫県 3.京都大学大学院農学研究科 4.ハーバード大学インストラクター 5.哺乳類染色体DNAメチル化の調節機構とその機能 6.急がず休まず、あせらずくさらず 7.読書
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細胞運命研究チーム
澤 斉
(さわひとし)
1.1962年9月8日 2.大阪府 3.京都大学理学部 4.マサチューセッツ工科大学、大阪大学医学部など 5.線虫を用いた非対称細胞分裂の研究 6.originality 7.旅行、テニス
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体軸形成研究チーム
日比 正彦
(ひびまさひこ)
1.1963年4月16日 2.広島県 3.大阪大学医学部大学院 4.カリフォルニア大学サンディエゴ校ポストドクトラルフェロー、大阪大学医学部助手、大阪大学大学院医学系研究科助教授 5.脊椎動物体軸形成機構の解析 6.正しいと信じることを合理的かつ迅速に行う 7.映画鑑賞、卓球
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パターン形成研究チーム
高橋 淑子
(たかはしよしこ)
1.1960年6月30日 2.広島県 3.京都大学理学研究科 4.フランス、アメリカでポスドク、奈良先端科学技術大学院大学助教授 5.脊椎動物の分節とパターン形成 6.他人のまねをしない 7.大阪フィルハーモニー管弦楽団専属合唱団員
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細胞移動研究チーム
西脇 清二
(にしわききよじ)
1.1956年12月11日 2.大阪府 3.大阪大学大学院工学研究科 4.NEC 5.線虫の形態形成 6.つき 7.熱帯魚
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神経回路発生研究チーム
浜 千尋
(はまちひろ)
1.1957年9月27日 2.長野県 3.東京大学大学院理学系研究科 4.カリフォルニア大学サンフランシスコ校博士研究員、国立精神神経センター神経研究所室長 5.神経回路の発生と可塑性 6.脳を刺激して新しいことを生むこと 7.芸術鑑賞と庭づくり
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形態進化研究チーム
倉谷 滋
(くらたにしげる)
1.1958年9月30日 2.大阪府 3.京都大学大学院理学研究科 4.琉球大・医、熊本大・医、岡山大・理 5.脊椎動物形態の進化と発生 6.没頭 7.昆虫、魚、映画
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発生ゲノミクス研究チーム
杉本 亜砂子
(すぎもとあさこ)
1.1965年3月1日 2.東京都 3.東京大学大学院理学系研究科 4.ウィスコンシン大ポスドク、東京大学大学院理学系研究科助手 5.線虫ゲノム機能解析 6.自然体 7.クラシック・ジャズ鑑賞
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位置情報研究チーム
近藤 滋
(こんどうしげる)
1.1959年9月3日 2.東京都 3.京都大学大学院医学研究科 4.学術振興会奨励研究員、バーゼル大学(スイス)博士研究員、京都大学医学部講師(生化学)、徳島大学総合科学部教授 5.発生の位置情報形成としてのTuring Reaction 6.生物種や個別の現象にとらわれず、共通の原理に注目したい。どんなに複雑に見えても、基本原理はシンプルなはず 7.釣り、ダイビング、熱帯魚飼育
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細胞形態形成研究チーム
米村 重信
(よねむらしげのぶ)
1.1960年9月16日 2.兵庫県 3.東京大学大学院理学系研究科 4.ジョンズホプキンス大学ポスドク、岡崎国立生理学研究所助手、京都大学大学院医学研究科講師 5.細胞の形態形成の意味や分子機構を探る 6.突飛 7.走ることかな





第8回名古屋市・理化学研究所ジョイント講演会を開催



Photo当研究所と名古屋市で共催する「第8回名古屋市・理化学研究所ジョイント講演会」を2月6日、名古屋市工業研究所(名古屋市熱田区)で開催しました。
 この講演会は、当研究所と名古屋地域の研究者、産業界との交流と連携の輪を広げることを目的として毎年開催し、8回目となる今回は、中垣俊之フロンティア研究員(局所時空間機能研究チーム)による「迷路を解くアメーバ―細胞生物が持つ高度な情報処理能力のメカニズム―」、河本 満フロンティア研究員(生体ミメティックセンサー研究チーム)による「実環境における混合信号の分離法」の講演が行われ、約90人の来聴者がありました。





「理事長ファンド」による研究成果を発表



Photo平成11年度に採択された「理事長ファンド」(奨励研究費)の研究成果報告会が2月13日、和光本所で開かれました。発表会はポスターセッション形式で行われ、1年間の研究で得られた32の成果が発表されました。
 理事長ファンドは、新たな発想に基づく最先端の萌芽的研究課題や、緊急に対応・推進する必要のあるテーマに対して分配される研究費です。申請額に応じて3つのカテゴリーに分かれ、春と秋の2回募集されます。平成12年度は審査の結果、カテゴリー2000が5件(募集総数12件)カテゴリーIが11件(同33件)、カテゴリーIIが14件(同56件)選ばれました。
 このうち、カテゴリーIIは研究部門の職員だけでなく、ポスドクを対象とした基礎科学特別研究員にも応募資格が与えられています。





「理研スピン物理CC-J」開設式を開催



Photo放射線研究室は2月13日、「理研スピン物理CC-J(Computing Center in Japan)」の開設式を和光本所・仁科記念ホールで開きました。
 同研究室は、平成7年度より米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)と協同して、BNLの相対論的重イオン衝突装置(RHIC)を用いた、スピン物理研究プロジェクトを進めています。理研スピン物理CC-Jは、スピン物理プログラムによるRHIC実験のデータの解析と、シミュレーションを目的とする計算機施設です。平成11年度より整備を始め、昨年の夏から試験運用を開始しました。RHICでは、すでに金イオン同士による最初の衝突実験に成功しており、本年春より本格的な実験が開始されます。
 今回、本格的な運用を開始するにあたり、施設の完成を記念して開設式を行いました。開設式では、小林俊一理事長をはじめ関係者らが理研スピン物理CC-Jの意義などを講演し、同施設の門出を祝いました。





「テクニカルショウヨコハマ2001」に理研が出展



Photo当研究所は、2月8日から10日までパシフィコ横浜で開かれた「テクニカルショウヨコハマ2001」(主催:神奈川県など)に出展し、理研全体及び横浜研究所、ゲノム科学関連の研究の紹介をしました。地元に新しくできた研究所として興味を持つ来場者が多く、熱心に質問する姿が見られました。
 このイベントは、地域産業経済の振興と発展をテーマに、神奈川県内の民間企業・大学等165社23グループが参加し、3日間で約30,000人(主催者発表)の来場者がありました。




原酒
小田 稔先生を偲ぶ

天皇陛下を迎え入れる小田元理事長[1992年3月]小田 稔先生が理事長として理研に来られたのは1988年4月半ばのことである。原子核研究所の大先輩として旧知であったためか、何度か理事長室に呼ばれて理研のあれこれをお話しした。あるとき先生を「金曜酒場」にお誘いしたらたいへん気に入られ、金曜日の午後になると理事長室にお呼びがかかったことを覚えている。やがて先生が多くの職員とお酒を楽しみながら話をしている姿をお見かけするようになった。先生はここの雰囲気をたいへん好まれ、理事長をお辞めになるとき、同じく退任される佐田登志夫副理事長とご一緒に「金曜酒場」を借り切って、職員を招待する盛大なパーティを催された。
 夏になると先生はサイクロトロンのプールで泳ぎを楽しみ、また、広いキャンパスでジョギングされることも多かった。ジョギングでは所内大会に出場し、年齢別ランキングで1位になり、賞をもらったと喜んでおられた記憶がある。先生が着任された年の末にはサイクロトロン研究室恒例の「餅つき会」に出席され、組合運動で所側と鋭く対立していたTさんと談笑しておられた姿を思い出す。先生はよく「主任研究員がやらなければならないことは、室員に対する指導よりも、室員が良い仕事をしたとき、それを評価できる目を養っておくこと、そしてそれを誉めてやることである」と言われていた。小田先生はそのお人柄で、理研に新しい研究所の雰囲気を醸し出していかれたのである。
理事長室で研究者らと談笑[1993年4月] 理研は小田理事長時代に大きく変貌した。先生がお得意の漫画を使ってよく紹介されていた理研の特長がある。そのひとつは、理研はアメーバのように内の部分が流動し協力しながら突出し、新しい分野を作っていくというものである。もうひとつが、物理、化学、基礎工学、生物・医科学の諸分野が重なり合い、しかもそれぞれが純粋基礎科学(BB:Basic-Basic science)、基礎(B:Basic science)、応用(A:Applied science)、産業応用(IT:Industrial Technology)まで拡がっているという立体構造である。また、スモールサイエンスとビッグサイエンスが見事に調和した研究所であること。この先生の考えが共通の認識になり、やがて理研は第一級の研究所としての評価を取り戻していった。重要な点は、先生の熱心な働きかけで実現した脳研究は別として、先生は、自らが先頭に立って号令をかけることよりは、内部から出てくるアメーバの動きを重視されたことだと思っている。ラザフォードアップルトン研究所(英国)のミューオン研究施設やマサチューセッツ工科大学(米国)などとの協力によるHETE(高エネルギートランジェント天体探査衛星)はそのようにして実現した。先生は理事長を辞められた後も「研究所を良くするには理研のようにすればいいと、よそでよく言っているのですよ」と語っておられた。
文化勲章受賞祝賀会[1993年11月] 先生はまた、お酒をこよなく愛しておられた。SPring-8プロジェクトがスタートして、駒込に原研・理研の共同チームができたとき、両者の融合を図るため、毎月一回鍋を囲んで交流する会が催されるようになった。小田先生は都合のつくときはよく出席されて、共同チーム、ユーザーなど多くの人々との話を楽しまれていた。先生の酒席は談論風発で、同席者に楽しいひとときを与えてくれる。昨年夏に私たちが赤穂市で国際会議を開催したとき、ケンブリッジ大学のSir J.M.Thomas教授とブルックヘブンのM.Blume教授、小田先生を招いて夕食を共にする機会をつくった。お互いに初対面であったが、やがて若い頃に出会った20世紀物理のパイオニア達の講義や討論ぶりが話題の中心になり、たいへん盛り上がった会になった。後でSir Thomas、M.Blumeのお二人とも「たいへん楽しい会だった、小田教授はすばらしい人だ」と喜んでいた。
 先生ご夫妻がSPring-8に来られたとき、近くの焼鳥屋に夕食をお誘いしたことがある。たまたまこの店の若い主人が鹿児島県内之浦町出身で、先生がよく滞在した宿屋の近くに家があることがわかり、先生所望の鹿児島焼酎を飲みながら話が盛り上がった。「私のニックネームは看板教授というのですよ。これは内之浦で毎晩“先生もうソロソロカンバンですよ”と言われるまで粘っていたのでついた名前だが」は先生の思い出話である。
 先生のお人柄を偲びながら、ご冥福をお祈りいたします。

元サイクロトロン研究室主任研究員、元理化学研究所理事
(現・財団法人高輝度光科学研究センター 副理事長)●上坪宏道


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