No. 198 December 1997 理化学研究所
研究最前線
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原酒
| 完成した「理研―RALミュオン施設」のレイアウト図 ポート1でミュオン核融合実験を、ポート2でミュエスアール物性研究を、ポート3でミュオン基礎物性実験などが行われている |
マイナス256度でミュオン核融合を起こす
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ミュオン(μ粒子)は決して珍しい粒子ではない。手の平を広げれば、毎秒1 〜2個は~
宇宙線として降ってくる。
ミュオンには+1の電荷をもつ粒子と−1の電荷をもつ粒子の2種があり、質量は陽子の9
分の1とも電子の207倍ともいえる。したがって正ミュオン(μ+)は軽い陽子、負ミュ~
オン(μ−)は重い電子と考えることができる。また1/2のスピンをもっており微小な磁~
石ともいえる。寿命はわずか2.2マイクロ秒だ。
軽い陽子、重い電子、微小磁石といったミュオンの特性によって、今や科学の一大研究領
域が切り開かれている。常にその先頭に立ってきたミュオン科学研究室の永嶺謙忠主任研
究員は、「ミュオンとの出会いは約25年前ですが、この間、守備範囲は物性から核融合に
まで及び、実験のホームグランドもイギリス南部のオックスフォードシャー州にあるラザ
フォード・アップルトン研究所(RAL)にまで広がってしまいました。」
低温度で高密度に核融合反応の起こるミュオン核融合は、従来の熱核融合とはまったく違
う新しいタイプの核融合として、現在注目を集めている。
ミュオンとの出会い
永嶺主任研究員がミュオン科学と出会ったのは、東大理学部物理学教室の助手の時代だっ
た。「当時は原子核の構造研究をしていたのですが、ミュオン原子という現象があること
を知り、この研究が原子核の新しい研究領域になるだろうと思ったのです。」
しかし、当時の日本にはミュオンを生成する加速器がなかった。一方、世界的にはカリフ
ォルニア大バークレー校を始めいろいろな加速器施設ですでに実験が始まっていた。「私
たちは後発組だったのですが、ミュオンを意識してすぐに、当時の上司だった山崎敏光さ
んと、ミュオンが微小磁石であるという性質を使った新しい物性研究法を思いつきました
。」
パルス状のミュオンビームとの出会い
永嶺主任研究員たちがカナダの加速器で研究を続けるうちに、日本でもミュオンを生成で
きるほどの大型加速器開発の気運が高まり、つくば市に高エネルギー加速器研究機構(当~
時、高エネルギー物理学研究所、KEK)が開設され、1976年3月に陽子加速器の最初のビ
ームが発射された。
ミュオン核融合とは
さてミュオンのパルス状ビームのメリットは、話の真打ちとなるミュオン核融合にも十分
生かされている。ミュオン核融合の研究に永嶺主任研究員が取り組み出したのは、ミュオ
ニウムの精密測定の成果が出る直前だった。
理研−RALミュオン施設の成果
ミュオンがアルファ粒子に付着すると特性X線が出るが、問題は三重水素が常に少しずつ
崩壊しながら莫大な量のベータ線を出し、それが強い制動輻射X線を出すことで、これに
隠れてしまって測定できないのである。
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![]() 図1. 永嶺主任研究員
図2. ミュエスアール物性研究スピン偏極したミュオンを物質の原子レベルの結晶中にとめ、微視的な磁場を測定することにより、高温超電導体などの性質を明らかにする
図3. ミュオニウムレーザー共鳴実験(1987年,KEK)を行った、スティーブ・チュー氏(中央)、著者、およびアラン・ミルズ氏(Bell研究所)
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ベトナム基礎科学のために「計算機センター」を開設
−民間企業2社の支援によりハノイに−
![]()
核科学計算機センターでの
設置したパソコン |
1994年3月に、ベトナムの首都ハノイで「90年代後半における核物理の展望」と題する国~
際会議が開催されました。席上、当所の有馬理事長は、長い戦乱で壊滅したベトナムの核
物理再興のために、戦後における日本の経験を踏まえて、いくつかの提言(頭脳流出の防
止 、 計算機センターの建設など)をしました。その後、ベトナム科学技術環境省 原子~
力委員会(VAEC)委員長のN.D.Tu博士(故人)をはじめとする指導的科学者たちから、提
言の実現に向けた支援の訴えがありました。理事長は、理研内の中古パソコンを送る運動
から始めましたがめどが立たず、さりとて政府予算要求にはなじまず、結局、民間企業等
に協力を要請することにしました。幸いにも、日本電気(株)と富士通(株)から好意あ
ふれる支援承諾を得ることができ、計画の実現に向けて動きだすことができました。この
ように民間企業からの支援により外国との研究協力プロジェクトを実現したのは、理研で
は初めてのケースです。
近年、ベトナム経済が驚異の躍進を続ける中で、かつてのロシア中心の科学技術体制は弱
体化し、国内研究施設の整備は大きく立ち遅れ、多くの優秀な研究者が海外に流出して戻
らずにいます。サイクロトロン研究室にSTAフェローで滞在中のN.D.Dang博士(原子核科~
学技術研究所(INST)所属)もその1人です。彼が現地とのパイプ役を担当し、筆者と計
算科学研究室・古沢協力研究員が加わり、企画室、国際協力課とともに、計算機センター
の構成の検討が始まりました。
1997年3月に、理研とVAECとは、長期研究協力のための覚書を締結し、VAEC傘下のINSTに~
「核科学計算機センター(CCNS)」を設立することにしました。その構成は、海外に散在
するベトナム人研究者たちと密接な情報交換を可能にするインターネット接続を基本条件
とし、Windows-NTパソコン12台と、科学計算用のUnixワークステーション1台、各種サー~
バー6台等がLANを組みインターネット接続された、中規模ながら充分実用に耐えうる仕様
としました。これは学際利用としてはベトナム初のインターネット接続されたセンターと
なります。
1997年6月にハノイで、このセンターの開所式が行われました。式典には日本電気、富士~
通両社代表、ベトナム科学技術環境省副大臣C.Hao博士など60余名が参加し、盛大に執り~
行われました。
式典後開催した合同シンポジウム「原子核研究における計算機ネットワークと加速器」に
は、有馬理事長ほか、上坪理事、関審議役、谷畑、安部、戎崎各主任研究員等10余名が参
加し、活発な議論がなされました。今後これらの研究室を中心にセンターを活用した研究
協力がスタートします。
開所式の席上、理事長は、アジア各国との将来の研究協力について、「欧州共同原子核研
究所(CERN)において、国家の枠組みを越えた科学技術協力の成功に端を発し、欧州共同
体(EC)が発想され、そして欧州連合(EU)に成長しようとしている。この歴史的展開に
注目し、CERNと対等に渡り合えるような『アジア共同研究機構』を目指して国際研究交流
を促進すべき時期である。このセンターは、アジア科学史における1つの重要なランドマ
ークとなり、同時に今後の日本とベトナムの緊密な科学技術協力の象徴となるものと確信
する」と夢を述べました。
欧米の協力を得て発展してきた我が国の科学技術の歴史を振り返ると、今度は日本がアジ
アに支援を贈ることが大いに望まれています。「新たな有馬提言」が、アジア諸国の賛同
のもとに実現するような国際研究協力を進展させていきたいと思っています。
脳科学総合研究センターの発足を記念して、11月10日に開所記念式典を和光本所で行いま
した。特設会場で行われた記念式には、加藤紀文科学技術庁政務次官、フランスにある国
際脳研究連合の事務局長・王立スウェーデン科学アカデミー会員デビット・オットソン博
士をはじめ、国内外から300人の脳科学研究に携わる関係者が出席しました。
また、翌11日には東京・芝公園の東京プリンスホテルにおいて、利根川進マサチューセッ
ツ工科大学教授、『Science』誌のフロイド・ブルーム編集長をはじめ各国のトップサイ~
エンティストを招いて、開所記念国際シンポジウム「脳科学の未来と展望」を開催しまし
た。シンポジウムでは「脳科学の未来」、脳の働きを解明する「脳を知る」、脳の病気の
克服を目指す「脳を守る」、 脳型コンピューターの開発を試みる「脳を創る」の4つの~
セッションが開かれ、計約700人にものぼる多数の参加者がありました。
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| 開所記念式典 加藤政務次官 | 開所記念式典 D.オットソン事務局長 | 国際シンポジウム 利根川教授 |
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バイオ・ミメティックコントロール研究センター一般公開
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| 記念シールの作成 |
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第5回名古屋市・理化学研究所ジョイント講演会を開催
| 理研と名古屋市が共同して主催する「第5回名古屋市・理化学研究所ジョイント講演会」が11月12日にバイオ・ミメティックコントロール研究センターの大会議室で開催されました。この講演会は、理研と名古屋地域の研究者、産業界との交流と連携の輪を広げることを目的として毎年行われ、5回目となる今回は、吉川研一・名古屋大学大学院人間情報学研究科長教授による「仮想生命現象の科学」、伊藤宗之・愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所長による「大脳皮質のバレル:目に見える脳地図」についての講演が行われ、約70名の参加者を迎えました。 |
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「科学を楽しむセミナー」を開催
| 11月1日に「科学を楽しむセミナー」(主催:科学技術庁、後援:富山県・富山市教育委員会、協力:理化学研究所)が富山県民会館で開催されました。このセミナーは、青少年を対象に科学の楽しさ、すばらしさを実感してもらおうと、一昨年から始まったもので、8月の兵庫県富岡市での開催に続いて本年2回目の開催となりました。 演劇「マーニャ〜若き日のキュリー夫人〜」のあと、理研の谷畑勇夫主任研究員による映像や実験をふんだんに取り入れた「クイズと実験」の講演が行われました。今回も約400人の小学生たちがクイズを解きながら楽しく電子や光の 不思議について学びました。 | ![]() 実験の解説を行う谷畑主任研究員 |
理事長ファンドを取る方法
―Let's Debate―
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| 著者近影 |
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| 平成7年度 理事長ファンド成果報告会 |
理事長ファンド(創造的特別基礎研究奨励研究費)は、若い研究者を中心に研究費が配分 され、自由な研究に大きな可能性を与える。本年度より予算化されたこともあって、さら に多くの研究者の助けになると思われる。予算化されないときからこの制度があったこと も、こんなものが予算化されたことも理研の良さを示していると思う。 この機会に、申請の様式を新しくし、それに対しての意見を求めたところ、多くの有用なコメントをいただいた。しかしそれ以上に、このアンケートにより、申請をする者と審査する者との違いが、浮き彫りにされたの で、これを機会にいろいろなことでのdebateの場を造ろうという主旨で本稿を書いている。実は表題に偽りありで、ファンドを取るためのテクニックを教えようと言うわけではない。
さっそく本論に入ろう。まず申請書はなぜ必要か? それは明らかに『ファンドを与える
かどうかを判断するためである』しかし、これだけでは何の面白味もない。実はそれだけ
ではなく、申請者の研究内容を整理する機会を与えるよう意図されている。忘れがちな最
初の発想や手順をうまく書くことができれば、研究を進める上で指針になるはずである。
さて新しい申請書は、1ページ目のサマリーと2ページ以降の補足説明とになっている。
この補足説明の部分が自由形式になったことで、強調点を各自が選べるようになったのが
特徴である。もちろん審査員が最低限知りたいことは書くように求めている。この形式は
、全般的には好評であったが、いくつかの戸惑いがみられ、以下のような質問や要望があった。
(1)自由になったのはよいのだが、長さの基準を示して欲しい。
(2)意味のなさそうな項目があるが、どうするのか?
(3)どのような判断基準で選考されるのか、解るようにして欲しい。
これらは、私には受験ぼけの発言に聞こえる。まず (1)だが、なにが一番かといって、
必要な情報が入っていて、短ければ短いほど良いのは自明である。申請書のページ数や、
読むのに必要な時間で判断はしない。ページ数を満たすことで安心感を得るのは無意味で
ある。理研には、種々の違った研究分野があることが特徴であ
る。それ故に判断の基準は一つにはならない。申請書には、ある分野では重要だが他の分野ではそうでもないことが当然含まれている。すべての人に、同じように配点されている
わけではない。(2)について特に目立ったのが、実用化の可能性の項である。基礎研究分
野の方は、この質問に敏感で、聞かれたくない質問の筆頭のようであるが、心配無用。審
査員は基礎分野の研究者からの答えを期待してはいない。(ただし現実的なものが
あれば歓迎されることは事実である)申請者にとって意味のない質問は、自分の判断ですっ飛ばしてもかまわない。(3)はそれ故とんでもない要望である。試験の様に一様に各項
目に点数をつけて、というような判断基準はない。そんなものを作ったらきっと受験(申
請)産業が出来てしまうだろう。そのほかにも複数の方からの、意見があったのは、「予
測される困難」の項である。この質問はネガティヴに感じるようである。しかし質問にそういう意図はないし、単に「難しそうだから予算やるのはやめよう」のためでもない。逆に、全く困難のない研究はあるのだろうか? 技術的困難や、選ぶ方向を予測できない分
岐点があるのがふつうである。
これらの問題点をいかに掘り出せているか、理解しているかが、研究者の能力といえるし、研究の準備の状況を表してもいる。だから、これは重要な判断基準なんですよ!
もう一つは、「項目にないことを書いてもよいのか」である。答えは当然Yesである。申請書にも、「以下の項目を」ではなく「以下の項目を含めて」とある。申請者が研究の重要性を示すことは、当然含めるべきである。
さて最後に、大きな問題がある。「不採択の理由を知らせる」べきかどうかである。この問題は、ほかの申請などの場合も含めて、課題予算委員会でときどき議論になる。しかし結論は出ないのが現状である。特に申請の選択は、絶対的判断ではなく、その場の相対的判断できまる(予算に限りがあるため避けられない)。それ故すべての申請に対して、申請者に納得の出来る理由を書くことは、時間的にもほとんど不可能に近い。(これは理由 としては最低に近いが、現実としてはもっとも重い)どうすればよいのだろうか? 理由が聞きたい場合は、直接聞くのがよいと私は思う。そうすることによって、ただ単に報告を読むよりは、得られるものが多いのではないだろうか。理研外の申請などでは、審査した人と接触するのは、はばかられるかもしれない、しかし理研内での場合には、自由に意見を聞くのがよいと思う。そうすれば思ったより多くの助言が得られるだろう。
結局は、「申請者のめざすものが科学として重要な意味を持つこと」、「それが実際に実行できそうであること」を簡潔に示すことが重要なのである。それに加えて、研究への心 意気が大事にされる。ヒアリングでも本人がおもしろいと思っていることが溢れて来るよ うなものは、評判がよい。もちろんその前に「言ったことはちゃんと最後までやる」とい う信用を勝ち得ておくことが基本ではあるが。
理研は自由で闊達な研究が出来るとよく言われる。しかし、研究員の方々から理事長ファンドを始め、いろいろな審査委員会に対しての意見や要望を聞くことはほとんどなかった。研究者の身近な話題である理事長ファンドについて、意見を聞く機会を得たので、意見交換の提案をこの場を借りて行いたい。自由に意見を出し「良いとこ取り」をしていくの はどうだろうか。Let's Debate!