お知らせ 独立行政法人 理化学研究所
TET Systems Heidelberg
Tetテクノロジーによるトランスジェニックマウスの提供開始
- 理研とTET Systems Heidelbergがライセンス同意書を締結 -
平成20年12月3日
◇ポイント◇
  • 12月3日から、非営利機関による学術研究に対してTetマウスを実費で提供開始
  • 米TJL、欧州EMMAとともにTetシステムを活用したマウスのリソースを展開
  • Tetマウスの普及により、ライフサイエンス研究が大幅に加速
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)とドイツの民間企業のTET Systems Heidelberg(Ernst Böhnlein(エルンスト・ベーンライン)CEO)は、非営利機関による学術研究を対象として、テトラサイクリン※1の投与で遺伝子発現を自由に制御するTetテクノロジーを含むトランスジェニックマウス(Tetマウス)の提供受付を12月3日から開始し、Tetマウスの提供事業を本格的に始動します。
 Tetテクノロジーは、テトラサイクリンの投与で、細胞や動植物個体での遺伝子発現を自在にon/offできる、遺伝子機能の研究に極めて有用な手法です。この技術を活用して、ライフサイエンス研究に有用なトランスジェニックマウス※2が数多く開発されています。理研は、バイオリソースセンター(理研BRC、小幡裕一センター長)が、TET Systems Heidelbergの保有するTetシステムに関するライセンスを活用することについて、11月10日に同意書を締結し、今回、理研BRC・実験動物開発室(吉木淳室長)から、非営利機関による学術研究に対してTetマウスの無償提供が可能となりました。TET Systems Heidelbergとのライセンス同意書の締結は、マウスリソースセンターとしては米国ジャクソン研究所(TJL)※3、欧州マウスミュータントアーカイブ(EMMA)※4に次ぐもので、理研BRCを通して、日本で開発された優れたTetマウスの国際的な利用促進を目指します。
 Tetマウスの利用希望者は、理研BRCと生物遺伝資源提供同意書(MTA)を取り交わした後、Tetマウスの提供を受けることができます。提供は、非営利事業として行い、利用者は、提供手数料を理研BRCに支払います(マウス個体1匹の場合8,715円)。さらに、新たに開発したTetマウスは、理研BRCに寄託することにより、国際的なマウスデータベースIMSR※5に登録され、国内外の研究者への配布も可能となります。
 理研BRCと締結するMTAは、理研BRC実験動物開発室ホームページからダウンロード可能です。


1. 背景
 Tetテクノロジーは、遺伝子の発現を抑える機能で知られる抗生物質のテトラサイクリンを投与し、細胞や動植物個体で遺伝子発現を自在にon/offすることができる手法で、TET Systems Heidelberg創業者の1人であるドイツのヘルマン・ブヤート(Hermann Bujard)博士らによって1990年代に開発されました(図1)。テトラサイクリンを用いる量によって目的遺伝子発現量の調節が容易に行えるため、病気に関係する遺伝子の挙動の解析などに極めて有効です。TET Systems Heidelbergは、ドイツのハイデルベルグに本部を置く民間企業で、Tetテクノロジーや同テクノロジーを用いて作られたバイオリソースのライセンス管理を行っています。
 理研BRCは、“信頼性”、“継続性”、“先導性”を事業のモットーに、戦略的かつ継続的にバイオリソース整備を実施しています。理研BRC実験動物開発室は、マウスの収集・保存・品質管理・提供やマウスリソースに関する世界最先端の技術開発を行う公的リソースバンクで、2002年から文部科学省が展開するナショナルバイオリソースプロジェクト※6の中核機関として活動しています。現在では、TJL、EMMAとともにマウスリソースの世界三大拠点の1つとなっています。
 これまで日本には、TET Systems Heidelbergからライセンスを得て、正式にTetマウスを配布する公的機関がなく、国内研究者が優れたTetマウス系統を多数開発しているにもかかわらず、その普及が遅れていました。今回、理研は、TJL、EMMA などにつづいて、TET Systems Heidelbergとライセンス活用の同意書を締結し、理研BRCから非営利機関による学術研究に対して、Tetマウスをライセンス料不要、提供手数料のみで提供することが可能となりました。


2. 提供事業について
(1) 提供するTetマウスの系統
 提供を開始するマウス系統は、主に国内の非営利機関による学術研究により開発され、理研BRCに寄託されているマウス系統です。脳・神経、がん、発生・分化、エピジェネティクスなどの研究分野で有用なマウス系統です(別表)。
(2) 提供までの流れ
 大学などの非営利団体に所属し、かつ、非営利の学術研究を目的とする場合のみ、提供を希望することができます。提供希望者は、提供を受けるまでに以下の手続きが必要となります(図2)。
1 理研BRCホームページから提供申込書類をダウンロードし、必要事項を記入して、理研BRCへ送る。
提供申込に必要な書類:
  • 提供依頼書
  • 提供承諾書(利用条件によっては不要)
  • 生物遺伝資源提供同意書(MTA)(理研BRCへ2部提出し、1部は提供希望者に返送)
  • 「遺伝子組換え実験承認書」もしくは「計画書」の写し
2 必要書類に不備がなければ、理研BRCはTetマウスの発送作業を開始する。
3 Tetマウスの到着後、理研BRCから請求書が届き、提供希望者は記載額を支払う。
(3) 提供形態
 Tetマウスは以下の形態で提供を行います。ただし、別途、送料、輸送箱代などが加算されます。
区分 単位 提供手数料
(税込み)
生体維持系統   マウス個体 1匹 8,715
凍結胚 凍結胚 凍結胚(凍結チューブ) 2本 15,120
凍結胚から個体を作製 マウス作製費(凍結チューブ2本より個体を作製) 1件 47,775
凍結精子 凍結精子 凍結精子(凍結ストロー) 2本 10,290
凍結精子から個体を作製 マウス作製費(凍結ストロー2本より個体を作製) 1件 81,060


3. 寄託による利用の促進
 今回のライセンス活用の同意書締結により、Tetマウスを開発した国内の研究者は、理研BRCを通じて国内外の非営利機関の、学術研究を目的とした利用希望者にTetマウスの分与が可能となります。これにより、開発したTetマウスの利用が促進され、共同研究の機会が拡大することが期待できます。寄託手続きは以下の通りです。
1 寄託の希望は、理研BRC animal@brc.riken.jpまで連絡する。後日、寄託に関する案内と寄託に必要な書類が届く。
寄託に必要な書類:
  • 生物遺伝資源寄託同意書(MTA)(理研BRCに2部提出し、1部は寄託希望者に返送)
  • 系統のデータシート
  • 遺伝子組換え生物の情報
2 生物遺伝資源寄託同意書の締結を行う。
3 マウス系統の輸送日程や方法などの打ち合わせを行う。輸送容器は理研BRCから発送し、引き取りも手配する。輸送費用は理研BRCが負担する。
4 微生物・遺伝子などの品質検査を終え、理研BRCからの提供が可能になれば理研BRCのホームページやIMSRを通じて、提供可能系統として公開される。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
バイオリソースセンター 実験動物開発室
室長 吉木 淳(よしき あつし)

Tel: 029-836-9193 / Fax: 029-836-9010
筑波研究推進部企画課

Tel: 029-836-9136 / Fax: 029-836-9100
TET Systems Heidelberg
Chief Executive Officer
Ernst Böhnlein(エルンスト・ベーンライン)

Tel: +49-06221-588-0400

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 テトラサイクリン
抗生物質の1種。薬剤として利用する場合は、細菌のリボソームに結合してタンパク質の合成、すなわち遺伝子の発現を阻害する。この働きを利用し、遺伝子発現のOn/Offを自在に誘導するのがTetテクノロジーである。
※2 トランスジェニックマウス
遺伝子操作により、外来遺伝子を導入したマウスの総称。一般的には、外来遺伝子を付加的に過剰発現させるトランスジェニックマウスや、特定の遺伝子を人工的に破壊したノックアウトマウスなどがある。
※3 ジャクソン研究所(TJL)
1929年に設立された、世界で最も歴史が古くかつ最大規模のマウスリソース機関。代表的な近交系マウスから遺伝子操作系統まで、4,000系統以上のマウスを世界中に向けて提供している。
※4 欧州マウスミュータントアーカイブ(EMMA)
欧州7カ国の10研究機関からなるマウスリソース機関連合。1,000系統以上のマウスを収集・保存し、世界中に向けて提供している。なお、EMMAとはThe European Mouse Mutant Archiveの略称である。
※5 IMSR
理研BRCやTJL、EMMAなど、世界各国の中核的なマウスリソース機関は、国際連盟Federation of International Mouse Resources(FIMRe)による連携を行っている。その連携の1つが、世界の研究者が誰でも利用できるマウス系統に関する共通のデータベースIMSR(International Mouse Strain Resources)である。IMSRにより、どのマウスがどのFIMRe参画機関によって提供されているかを検索することができる。
※6 ナショナルバイオリソースプロジェクト
ライフサイエンス研究の基礎・基盤となるバイオリソース(動物、植物等)について収集・保存・提供を行うとともに、バイオリソースの質の向上を目指し、保存技術の開発、ゲノム等解析によるバイオリソースの付加価値向上により時代の要請に応えたバイオリソースの整備を行う、文部科学省が展開する国家プロジェクト。2002〜2006年の第1期が終了し、現在、2007〜2011年度の第2期にあたる。


図1 テトラサイクリン発現調整システム(Tet-On Systemの例)
>>拡大図
図1 テトラサイクリン発現調整システム(Tet-On Systemの例)


図2 マウス系統提供の流れ
図2 マウス系統提供の流れ


別表 理研BRCから提供可能なTetマウス系統
系統名
(理研BRC登録No.)
特性 寄託者
(敬称略)
TRE-GFP-Tg (J Strain)
(RBRC00873)
TRE-GFP-Tg (O Strain)
(RBRC00874)
C57BL/6-Tg(TRE-GFP)J.テトラサイクリン依存性プロモーター下でCyclin D1とGFP遺伝子を発現。D型cyclinの生理学的、病理学的機能解析に有用。 理化学研究所・中村幸夫
Transgenic mouse, PTR-H
(RBRC01385)
B6;FVB-Tg(PTR)H.テトラサイクリン依存性プロモーター下でTGF-β2型受容体遺伝子とGFP遺伝子を発現。がんの進展や血管形成の研究に有用。 Otago大学・小石恭子
TOAM8G mice
(RBRC01395)
C57BL/6-Tg(AML1-MTG8)1.TetR-transactivatorの発現によりAML1-MTG8キメラ遺伝子を発現し、白血病を発症。白血病発症メカニズムの研究に有用。 埼玉県立がんセンター研究所・赤木究
PGC7 KO
(RBRC01494)
B6;129S2-Dppa3tm1.母性効果遺伝子であるPGC7遺伝子プロモーターによりreverseテトラサイクリントランスアクチベーター(rtTA)を発現。エピジェネティックな遺伝子発現制御機構の解明に有用。 大阪大学・中村肇伸
CaM-Cre 1 mice
(RBRC01508)
CaM-Cre 5 mice
(RBRC01509)
C57BL/6-Tg(Camk2a-cre)1Tyag.前脳特異的プロモーター(CaMKIIα)下でcre遺伝子を発現する。脳・神経機能の研究に有用。 生理学研究所・池中一裕
GluRδ2-tTA mouse
(RBRC01655)
C57BL/6N-Grid2tm1(tTA)Mim.グルタミン酸受容体GluRδ2サブユニットプロモーターによりテトラサイクリントランスアクチベーター(tTA)を発現。脳・神経機能の研究に有用。 東京大学・三品昌美
B6.Cg-Pax1tm1(LHED)Jtak
(RBRC01953)
Sleeping Beautyトランスポゾンシステムに基づくLocal Hopping Enhancer Detection(LHED)ベクターをPax1遺伝子座の50kb上流のゲノム領域に相同組換えによりノックインしたマウス。発生・分化の研究に有用。 大阪大学・竹田潤二
B6.Cg-Blmtm2Jtak
(RBRC01957)
Gene targetingによってBloom遺伝子を改変し、テトラサイクリンシステムによるBloom遺伝子発現調節が可能。Blm遺伝子が欠失した細胞ではヘテロ接合の変異細胞が有糸分裂する際、ホモ接合の変異娘細胞が生じ易くなり、ヘテロ接合性の喪失率が著しく高くなる。Sc rtTS(single-chain reverse tetracycline-controlled trans-silencer)を用いることによりleakyな発現減少が可能。 大阪大学・竹田潤二
129-Blmtm1Jtak
(RBRC01959)
B6;129-Blmtm1Jtak
(RBRC01960)
Gene targetingによってBloom遺伝子を改変し、テトラサイクリンシステムによるBloom遺伝子発現調節が可能。Blm遺伝子が欠失した細胞ではヘテロ接合の変異細胞が有糸分裂する際、ホモ接合の変異娘細胞が生じ易くなり、ヘテロ接合性の喪失率が著しく高くなる。 大阪大学・竹田潤二
Plexin-A4 KO
(RBRC02099)
B6.Cg-Plxna4tm1HfuPlxna4遺伝子のノックアウトマウス。ホモマウスは神経系を始め多くの組織、器官の発生異常あり。かなりの数が胎仔期・生後発育期に死亡。 名古屋大学・藤澤肇
C57BL/6Cr-Tg(tetO-APTTC)1Yoko(RBRC02188) アルカリフォスファターゼ染色により可視化される逆行性シナプス間トレーサーがテトラサイクリン依存性プロモーターにより発現調節されたマウス。脳・神経機能の解析に有用。 京都大学・横井峰人
C57BL/6Cr-Tg(Pcdh21-cre)Byoko(RBRC02189) Pcdh21遺伝子の発現調節領域を用いて、主嗅球および副嗅球の投射神経細胞であるmitral/tufted cellに選択的にCreリコンビナーゼを発現。脳・神経機能の解析に有用。 京都大学・横井峰人
C57BL/6Cr-Tg(tetO-spH)Cyoko(RBRC02291) テトラサイクリン依存性プロモーターによる発現調節を受け,神経細胞軸索終末が緑蛍光にて可視化可能。脳・神経機能の解析に有用。 京都大学・横井峰人
B6.129-Pde10a2tm1(tTA)Yok(RBRC02317) 線条体投射神経に選択的に発現するPde10a2遺伝子座にtTAがノックインされ、Pde10a2遺伝子が破壊されたマウス。ホモ接合体マウスはPde10a2遺伝子の欠損マウスとして、またヘテロ接合体は線条体投射神経選択的な発現ツールマウスとして利用可能。 京都大学・横井峰人
C57BL/6-Tg(bitetO-GFP)Byoko(RBRC02340) テトラサイクリン依存性プロモーターによる発現調節を受け、細胞全体が緑色蛍光にて可視化可能。脳・神経機能の解析に有用。 京都大学・横井峰人
C57BL/6J-Tg(TRE-OAMB)19Lnt
(RBRC02756)
C57BL/6J-Tg(TRE-OAMB)99Lnt
(RBRC02757)
C57BL/6J-Tg(TRE-OAMB)126Lnt
(RBRC02758)
テトラサイクリン依存性プロモーター下でOAMB(Drosophila octopamine receptor in mushroom bodies)遺伝子を発現。OAMBは哺乳動物には存在しない神経伝達物質オクトパミンに対する受容体で、細胞内カルシウムおよびcAMPの上昇を引き起こすことが知られている。 東京薬科大学・宮川博義

[Go top]
copyright