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国際がんゲノムコンソーシアムが、8種類のがんゲノムプロジェクトを開始
- 理研、国立がんセンター、医薬基盤研究所など8カ国11機関が解析に着手 -
平成20年11月19日
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)、国立がんセンター(廣橋説雄総長)および独立行政法人医薬基盤研究所(山西弘一理事長)が参加し、主要ながんのゲノム変異(異常)カタログを作成するための国際共同プロジェクト「国際がんゲノムコンソーシアム」(International Cancer Genome Consortium:ICGC)は、2008年11月18日(火)午前8時(日本時間同日午後10時)、参加機関のうち8カ国の11機関が、ICGCで取り組む最初のプロジェクトとして、肝炎ウイルス関連肝臓がんなど8種類のがんのゲノム変異について、包括的で高精度な解析を開始すると発表しました。
 がんの患者数は、先進国、発展途上国を問わず世界中で急速に増加しており、がん罹患の早期発見やがん死の減少が人類社会にとって喫緊の課題となっています。がんは、かつては1種類の疾患と考えられていましたが、現在では多くの病態から成り立っているという実態が明らかになっています。しかし、ほとんどすべてのがんでは、共通して遺伝子の設計図であるゲノムに異常(変異)が生じ、正常な分子経路が破綻した結果、無秩序な細胞増殖をきたすことが分かっています。さらに、特定のがんや病態では、特徴的なゲノム変異が認められることが明らかになっています。このため、それぞれのがんに生じたゲノム変異を網羅的に同定し、カタログ化することができると、新たな予防・診断・治療法を開発するための基盤となる可能性が高まり、大きな期待が集まっています。
 このような状況の中、2008年4月、世界各国を通じて臨床的に重要ながんを選定し、国際協力でそれらのがんについてゲノム変異の姿を明らかにするため国際共同プロジェクトとして発足したのがICGCです。ICGCの各メンバーは、ICGCの定めたデータ収集・解析に関する共通基準に従い、特定のがんに関する各種ゲノム変異の包括的かつ高精度な解析を分担します。
 2008年11月15日から17日まで、米国ワシントン近郊で米国国立衛生研究所(NIH)を幹事としてICGCワークショップが開催され、肝炎ウイルス関連肝臓がん(日本)、胃がん(中国)、すい臓がん(カナダ)など、ICGCによって開始される初のがんゲノムプロジェクトが決定しました。
 ICGCのプロジェクトで産出されるがんゲノム変異のカタログは、がんの予防・診断・治療の新規かつ有効な方法を開発しようとしているすべての研究者にとって、極めて貴重な情報源となることが期待されます。ICGCでは、得られた高精度のゲノム変異データを世界中の研究者に迅速かつ無償で提供する予定です。


1. 経緯
 わが国では、抗生物質の発見や戦後の衛生環境の向上などにより、感染症による死亡が激減し、これに代わって高齢化とともにがんの発生・死亡数が増加を続け、1981年には国民の死亡原因の第1位に躍り出ることになりました。がんは、先進国のみならず発展途上国で急速に患者数が増加しており、その克服は人類共通の目的ともいうべき疾患となっています。米国がん学会(American Cancer Society:ACS)によると、2007年には、全世界で約760万人が、がんで死亡し1,200万人以上が新たにがんと診断され、がんの解明と克服に何らかの進歩が見られなければ、2050年には、1,750万人ものがん死と2,700万人ものがん罹患にまで増加するものと予測されています(ACSの発表内容については、Global Cancer Facts & Figures 2007を参照のこと)。このため、がん罹患やがん死の減少は、人類にとっての喫緊の課題となっています。
 かつて1種類の疾患と考えられていたがんは、現在、極めて多数の病態を含むことが明らかになっています。さらに、ほとんどすべてのがんで、共通して遺伝子の設計図であるゲノムに異常(変異)が生じ、その結果、正常な分子経路が破綻して無秩序な細胞増殖をきたすことが分かっています。特定のがんや病態では、特徴的なゲノム変異が認められるため、それぞれのがんで、ゲノムの異常(変異)がゲノムのどこでどのようにして起こっているかを網羅的に示し(マッピング)、それらのゲノム変異をカタログ化することができると、がんの予防・診断・治療法の研究分野に新たな手法をもたらす可能性が高まるとされています。このため、世界のがんゲノム研究機関では、ゲノム変異の研究を精力的に推進しています。
 近年のシーケンス(塩基配列解読)技術の急速な進展に伴い、さまざまなタイプのがんについて、がんゲノム変異がどこでどのように生じているかの全体像を明らかにすることが現実のものとなってきました。このような状況の中、世界各国で臨床的に重要な各種のがんについて、国際協力でそれらのゲノム変異の姿を明らかにするため結成したのが「国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)」です。2007年10月のICGC設立準備会合(於カナダ・トロント、22カ国が参加)を経て、2008年4月、ICGCが発足しました。
 ICGCの発足を受けて、どのメンバー国・機関が、どのがんの解析を担当するかについて協議すべく、2008年11月15日から17日まで、米国ワシントン近郊で米国国立衛生研究所(NIH)を幹事としてICGCワークショップが開催され、肝炎ウイルス関連肝臓がん(日本)、胃がん(中国)、すい臓がん(カナダ)など、ICGCによって開始される初のがんゲノムプロジェクトが決定しました。


2. ICGCの概要
 ICGCは、世界各国を通じて臨床的に重要ながんを選定し、それらのがんについてゲノム変異の包括的なカタログを作成するため、メンバー間の調整(情報交換の促進、ゲノム解析作業の重複阻止等)を行う組織です。ICGCの各メンバーは、ICGCの定めたデータ収集・解析に関する共通基準に従い、少なくとも1種類のがんについて約20億円を負担し、約500症例の解析を分担します。
 また、ICGCの各メンバーは、共通の標準化されたインフォームド・コンセント(患者同意)プロセスと倫理面での監視を行い、ICGC関連研究に参加する患者のプライバシーを保護しながらサンプルを収集保存することで同意しています。ICGCメンバーによる研究の公共的意義を最大限にするため、得られたデータを全世界の研究コミュニティに迅速かつ無償で公開する予定です。さらに、すべてのコンソーシアム参加者は、ICGC研究から生じた1次データに対しての特許やその他の知的所有権の申請を行いません。
 なお、これらICGCの基本方針に係る事項については、ホームページ(英語)に掲載しています。


3. ICGCが決定した初のICGCがんゲノムプロジェクト
(解析担当機関および解析対象となるがんの種類)
1 オーストラリア保健医学研究会議 近日公表
2 カナダ・オンタリオがん研究所 すい臓がん
3 中国がんゲノムコンソーシアム 胃がん
4 フランス国立がんセンター アルコール関連肝臓がん
HER陽性乳がん
5 インド科学技術省バイオテクノロジー局 口腔がん
6 理研、国立がんセンター、医薬基盤研究所 肝炎ウイルス関連肝臓がん
7 スペイン科学イノベーション省 慢性リンパ性白血病
8 英国ウェルカムトラスト財団、同サンガー研究所 乳がん(数種の亜種)

 なお、欧州では2008年度のEU(欧州連合)保健衛生基盤研究に関する提案の中で、ICGC参加プロジェクトへの支援を研究課題として掲げています。米国ではICGCに先行して脳腫瘍、肺がん、卵巣がんのゲノム変異解析を行う大型プロジェクト「がんゲノムアトラス」(The Cancer Genome Atlas:TCGA)が開始しており、今回のICGCプロジェクトと相補うものとしています。


4. 今後の展望
 ICGCでは、今後さらなる国・機関の参加を得て臨床的に重要な50種類のがんのゲノム変異カタログを作成することを目的としています。最終的にはICGCプロジェクトによって国際ヒトゲノムプロジェクトの25,000倍以上のデータを産出し、これらのデータが、がんの予防・診断・治療の新規かつ有効な方法を開発しようとしているすべての研究者にとって極めて貴重な情報源となることが期待されます。


【参考】 メンバー機関(2008年11月18日現在)概要
(1) オーストラリア保健医学研究会議(NHMRC)
オーストラリア最大の保健医学研究助成機関で、研究グラント助成の他、人材育成や医療研究にまつわる倫理問題に関する助言などを行っている。
(2) ゲノムカナダ〔オブザーバー〕
カナダにおけるゲノムおよびプロテオミクス研究分野の振興を目的とする研究資金助成機関。
(3) オンタリオがん研究所
カナダ・オンタリオ州の公的助成を受けた、がんの予防・早期発見・診断・治療における各種研究を実施する非営利法人。ICGC事務局が置かれる。
(4) 中国がんゲノムコンソーシアム
中国科学技術省の主導する「中国ハイテク研究開発プログラム(863プログラム)」に位置付けられた中国がんゲノムプロジェクトを遂行するために2005年に組織した組織体。メンバーは、ヒトゲノムセンター(北京および南京)の両所長、北京ゲノム研究所所長、中国科学院医科学センター所長など。
(5) 欧州委員会(European Commission)〔オブザーバー〕
欧州連合(EU)の行政執行機関として、法令案の提出、法令の執行、権限の範囲内の事項に関する域外国との交渉及び条約締結、予算の執行、という役割を担っている。委員(各国政府の閣僚に相当)の任期は5年で、2007年1月のEU拡大の結果、委員数は2007年1月より27名。事務局は各国の中央省庁に該当する36部局からなる。
(6) フランス国立がんセンター
フランスの対がん政策・計画を実行するため、保健・研究関係省庁の関与のもと、2004年に設立した公的機関。がんの予防・診断・治療やこれらに関する研究、国民に対する情報提供を行っている。
(7) インド科学技術省バイオテクノロジー局
1986年、バイオテクノロジー振興のため科学技術省が創設した部局。
(8) 理化学研究所ゲノム医科学研究センター
2000年に遺伝子多型研究センターとして設立して以来、ヒトゲノムの多様性を示すSNPを解析し、遺伝子レベルで個人の体質の違いを把握し、個人の特性に合った病気の診断・治療・予防や薬剤の投与が可能となるオーダーメイド医療の実現を目指した研究を実施。2008年4月にゲノム医科学研究センターに改称、新たなスタートをきった。
(9) 国立がんセンター
わが国初のナショナルセンターとして、1962年に国全体のがん対策を行なう中核機関として設置。病院、研究所、がん予防・検診研究センター、がん対策情報センター、運営局の5部門よりなり、それぞれが力を合わせてがん克服のために努力をしている。その活動は、1がん医療、2がん研究、3がん医療やがん研究の専門家の教育と研修、4正確ながん情報の伝達、である。
(10) 医薬基盤研究所
国立医薬品食品衛生研究所、国立感染症研究所、独立行政法人医薬品医療機器総合機構における創薬支援にかかわる組織を統合して、2005年4月に独立行政法人として設立。2基盤的技術研究(医薬品等の開発に資する共通的技術の開発)2生物資源研究(研究に必要な生物資源の供給および研究開発)3研究開発振興(研究の委託、資金の提供、成果の普及)の3事業を行い、民間企業、大学等における新たな医薬品・医療機器の開発を目指した研究開発の支援をしている。
(11) シンガポールゲノム研究所〔オブザーバー〕
がんゲノム、薬理遺伝学、発生生物学、感染症、ヒトゲノム解析、システムバイオロジー、計算生物科学など、ゲノムに関する広範な研究を実施している研究所。
(12) スペイン科学イノベーション省
2008年4月に教育科学省等を改組して発足した、政府部門および産業部門の研究開発を担当する省。
(13) ウェルカムトラスト財団
イギリスに本拠地を持つ、人および動物の健康増進を目的とした研究への助成を目的とする公益信託団体。製薬長者のサー・ヘンリー・ウェルカムの財産を管理するため1936年に設立。生物医学研究への資金提供に加え、一般人の科学理解増進のための支援もしている。医学史に関する膨大な蔵書を誇るウェルカム図書館を抱えるが、これも一般向けに無償公開している。
(14) ウェルカムトラスト財団サンガー研究所
ウェルカムトラスト財団からの資金提供によって活動しているゲノム研究所。病気における遺伝子の働きの解明や医科学研究進展のためのデータ産出のため、大規模シーケンシング(塩基配列解読)、バイオインフォマティックス、遺伝子変異の研究を行っている。
(15) 米国国立衛生研究所(NIH)
1887年に設立された合衆国で最も古い医学研究の拠点機関。米国保健社会福祉省(United States Department of Health and Human Services:HHS)傘下にあって、27の研究所やセンターから構成、基礎から臨床までの広範囲な医学研究を実施または資金援助する機関。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
横浜研究推進部 次長
岡本 拓也(おかもと たくや)

Tel: 045-503-9321 / Fax: 045-503-9113
国立がんセンター 研究所
ゲノム構造解析プロジェクト プロジェクトリーダー
柴田 龍弘(しばた たつひろ)

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研究振興部 基礎研究推進課 課長
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(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

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Mail: koho@riken.jp
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独立行政法人医薬基盤研究所 基礎研究推進課

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