お知らせ 独立行政法人 理化学研究所
米国国立衛生研究所
国際薬理遺伝学研究連合、ぜんそくなど新たに5共同研究を開始
- オーダーメイド医療の実現に向け、個人ごとの最適な投薬法の確立へ -
平成20年11月11日
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)ゲノム医科学研究センター(CGM、中村祐輔センター長)と米国国立衛生研究所(NIH、エリアス・ザホーニ所長)薬理遺伝学研究ネットワーク(PGRN、スコット・ワイス議長)、NIH所属の3研究機関(国立一般医学研究所:NIGMS、国立がん研究所:NCI、国立心臓・肺・血液研究所:NHLBI)は、薬剤の有効性や副作用と個人の遺伝的要因との関係を明らかにするため、2008年4月に創設した国際薬理遺伝学研究連合(Global Alliance for Pharmacogenomics:GAP)において、2008年11月、これまでの共同研究に加え、新たに5件の共同研究を開始します。
 理研CGMは、2008年4月1日、理研遺伝子多型研究センター(SRC)を改称し、SRCで取り組んできた、個人の体質の違いを遺伝子レベルで把握し、個人の特性に合った診断・治療・予防や薬剤の投与を可能にするオーダーメイド医療の実現を目指した研究を、さらに強化・推進しています。
 米国NIHの研究グループの連合体であるPGRNは、NIH所属のNIGMS、NCI、NHLBIの協力を得て、体内における薬剤の作用や薬物動態と個人個人の遺伝子の相違との関係について研究を展開しています。
 GAPでは、CGM、PGRN双方の研究能力・資源を有効に活用し、共同研究やフォーラムの開催などを通じた連携・協力を行うこととしており、2008年4月の創設時には、共同研究の第1弾として、遺伝的要因の乳がん治療薬への影響の研究など5件の共同研究を開始しました。今回、新たに遺伝的要因とぜんそく治療薬への応答性との関係に関する研究など、5件の共同研究を開始します。
 これらの共同研究の進展により、薬剤の有効性や副作用に係る遺伝的要因の究明が加速し、その知見が臨床薬物治療に活用されると、個々の患者の体質に適合した最適な薬剤の投与による国際的なヘルスケアの実現につながることが期待できます。


1. 背景
 理研ゲノム医科学研究センター(CGM、2008年4月1日に遺伝子多型研究センターを改称)は、ヒトゲノムの多様性を示すSNP(Single Nucleotide Polymorphism:一塩基多型)を解析し、遺伝子レベルで個人の体質の違いを把握することで、個人の特性に合った病気の診断・治療・予防や薬剤の投与が可能となる「個人の遺伝情報に応じた医療」(オーダーメイド医療)の実現を目指した研究を精力的に展開しています。これまでに、高精度・大規模なSNP解析を行うことができるSNPタイピングシステムを構築し、その解析能力を活かして、個人の体質の差を生みだす遺伝情報の違いが染色体上のどこにあるかを示す「地図」をつくることを目的とした「国際ハップマッププロジェクト」(2002年〜2005年)に参加しました。このプロジェクトでは、単独機関としては世界最大(全データの約25%)のデータ解析を行い、SNP情報の世界的な標準化に貢献してきました。さらに、大規模なSNP解析を行うとともに、臨床現場で利用可能な簡便で高精度なSNP解析機器の開発を行っています。また、心筋梗塞などの生活習慣病の発症や重症化に関連する遺伝子(疾患関連遺伝子)の研究や個人ごとの遺伝子の相違と薬剤への応答性の関係などについても研究を重ねています。
 一方、米国NIHの研究グループの連合体であるPGRNは、体内における薬剤の作用や薬物動態と個人ごとの遺伝子の相違との関係について研究を行い、その研究成果を臨床に応用することを目的としています。
 このように、日米両国の研究機関で、個人ごとの遺伝子の相違と、薬物の治療効果や薬物のもたらす副作用との関係を明らかにする研究が進展している現状を鑑み、この分野における新たな発見につながる共同研究を促進し、オーダーメイド医療の確立に貢献するため、CGM、PGRNおよびNIHの3研究機関(NIGMS、NCI、NHLBI)は、2008年4月に「国際薬理遺伝学研究連合(Global Alliance for Pharmacogenomics:GAP)」を創設し、5件の共同研究を開始しています (2008年4月15日プレス発表)。そして今回、新たに5件の共同研究を追加し、共同研究を開始します。


2. 今回新たに実施する共同研究(5件)の内容
遺伝的要因とぜんそく治療薬への応答性との関係に関する研究
 気管支拡張作用を有し、ぜんそくの症状を改善する吸入β刺激薬は、個人によって、その効果や副作用に大きな違いが見られることが知られている。共同研究では、これらの個人間の差異をもたらす遺伝的要因を明らかにすることを目指す。個人ごとのぜんそく治療に役立つことが期待できる。
遺伝的要因と乳がん予防薬の予防効果との関係に関する研究
 タモキシフェンやラロキシフェンといった乳がん予防薬を服用しているにもかかわらず、乳がんを発症してしまう患者がいる。共同研究では、そのような違いを遺伝的要因によって説明することを目指し、乳がんの発症や乳がん予防薬の効果の差異にかかわる遺伝子の特定を目指す。乳がん予防薬が効く患者の予測にもつながることが期待できる。
遺伝的要因と乳がん治療薬(再発予防薬)との関係に関する研究
 乳がん患者の中には、手術後の再発を防止するためにタモキシフェンを数年間にわたり服用する人がいるが、患者によっては、タモキシフェンによる重篤な体熱感(ほてり)に見舞われ、服用を中断せざるを得ない場合もある。共同研究は、重篤なほてりに関連する遺伝的なマーカー(手掛かり)を見いだそうとするものであり、副作用の少ない新たな治療法の開発につながる。
遺伝的要因と抗うつ剤の有効性との関係の研究
 うつ病に悩む多くの人は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬によって症状が改善するが、中には効果が見られない人もいる。共同研究では、2種類の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(フルオキセチンおよびパロキセチン)に焦点を当て、個人ごとの抗うつ薬への応答性の違いをもたらす要因を解明することを目指す。新たな治療法の開発、既存の抗うつ薬の使用の個別適正化につながるとともに、感情障害のメカニズムの分子生物学的な解明につながると期待できる。
遺伝的要因と前立腺がん治療薬の副作用との関係に関する研究
 前立腺がんの治療においては、従来の治療法に比べ生存期間の延長が見られたドセタキセルとプレドニゾンの併用療法が2004年にFDA(米国食品医薬品局)に承認されている。共同研究では、前立腺がん治療薬の副作用に係る遺伝子や前立腺がんの進行過程の解明を目指す。また、ドセタキセルとプレドニゾンを用いた併用療法に、血管内皮細胞増殖因子に対するモノクローナル抗体であるベバシズマブを加える治療法の進行性前立腺がん患者における延命効果を調べることを目的としている。
(参考)GAP創設時(2008年4月)に開始した共同研究(5件)の内容
 
遺伝的要因の乳がん治療薬の有効性に対する影響に関する研究
早期乳がんに対する抗がん剤(2種類)治療薬の最適投与期間に関する研究
膵がんに対する抗がん剤治療がもたらす重篤な副作用に関係する遺伝的要因に関する研究
心臓突然死につながる薬剤誘発性不整脈と遺伝的要因との関係に関する研究
国際ワルファリンコンソーシアムとの協働による、患者の遺伝情報に基づく血液凝固防止剤ワルファリンの初期投与量の調整に関する研究


3. 今後の期待
 GAPの下で共同研究が進展することにより、薬剤の有効性や副作用に係る遺伝的要因の究明が加速します。その知見を臨床薬物治療に活用することで、個々の患者の体質に適合した最適な薬剤の投与による国際的なヘルスケアの実現につながることが期待できます。


4. 各機関概要
(1) ゲノム医科学研究センター(Center for Genomic Medicine: CGM)
2000年に遺伝子多型研究センターとして設立されて以来、ヒトゲノムの多様性を示すSNPを解析し、遺伝子レベルで個人の体質の違いを把握し、個人の特性に合った病気の診断・治療・予防や薬剤の投与が可能となるオーダーメイド医療の実現を目指した研究を行っている。2008年4月にゲノム医科学研究センターに改称した。
(2) 米国国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)
1887年に設立された合衆国で最も古い医学研究の拠点機関。米国保健社会福祉省(United States Department of Health and Human Services:HHS)傘下にあって、27の研究所やセンターから構成される、基礎から臨床までの広範囲な医学研究を実施または資金援助する機関。
(3) 薬理遺伝学研究ネットワーク(Pharmacogenetics Research Network: PGRN)
NIH所属の3研究機関(国立一般医学研究所、国立がん研究所、国立心臓・肺・血液研究所)が関与する研究グループの連合体。体内における薬剤の作用や薬物動態と個人ごとの遺伝子の相違との関係について研究を行い、その研究成果を臨床に応用することを目的としている。PGRNの研究者は米国とカナダの研究機関から指名される。
(4) 国立一般医学研究所(National Institute of General Medical Sciences: NIGMS)
米国メリーランド州ベゼスタにあるNIHの1機関で、学術・医療研究機関の基礎医科学研究プログラムに資金提供を行うために設立された機関。PGRNの運営面と資金面について責任を負う。
(5) 国立がん研究所(National Cancer Institute: NCI)
米国メリーランド州ベゼスタにあるNIHの1機関で、がんの原因究明、診断、予防、治療、がん患者およびその家族のケア、がんからのリハビリテーションなどに関する研究、人材育成、情報提供を実施し、またこれらの活動を行う機関へ資金援助をする機関。
(6) 国立心臓・肺・血液研究所(National Heart, Lung, and Blood Institute: NHLBI)
米国メリーランド州ベゼスタにあるNIHの1機関。心肺や血液の疾患、睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群など)に関する原因究明、診断、予防、治療、研究、人材育成、情報提供、普及啓発活動を実施し、またはこれらの活動を行う機関へ資金援助する機関。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
ゲノム医科学研究センター センター長
中村 祐輔(なかむら ゆうすけ)

Tel: 03-5449-5372 / Fax: 03-5449-5433
横浜研究推進部企画課

Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp
[Go top]
copyright