お知らせ 独立行政法人 理化学研究所
NMR施設の外部利用課題に新たに10研究課題が決定
- 世界一のタンパク質構造解析施設「NMR立体構造解析パイプライン」を開放 -
平成20年10月16日
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、理研生命分子システム基盤研究領域(横山茂之領域長)が所有する世界最高レベルの「NMR(核磁気共鳴)※1装置」と、試料の調製からタンパク質の立体構造の決定までを一貫して行う「NMR立体構造解析パイプライン※2」の2008年度第2回外部利用者を決定しました。第1回外部利用者は2008年4月に決定しました。
 公募決定した外部利用者は、文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業※3」を対象とした利用課題で、味の素株式会社 ライフサイエンス研究所の「酵素の構造機能解析」、大塚製薬株式会社 診断事業部営業部CIL試薬課の「安定同位体標識試薬の新規アプリケーション開発」など7件と、「成果非占有利用」を対象とした利用課題で、京都大学生命科学研究科の「LEMタンパク質のリン酸化依存的立体構造変化の解析」など3件を合わせた10件です。
 利用課題の公募は、2008年7月8日(火)から2008年9月5日(金)まで行い、「先端研究施設共用イノベーション創出事業」を対象とした利用課題に7件、「成果非占有利用」を対象とした利用課題に3件、それぞれ応募がありました。2008年10月6日(月)に開いたNMR課題選定委員会※4による審査の結果、応募のあった10件すべてを採択しました。
 今後、採択者と個別に打合せを行い、準備の整った利用課題から順次実施していきます。 なお、「先端研究施設共用イノベーション創出事業」と「成果非占有利用」の2008年度第3回公募は2008年11月4日(火)から開始します(応募締切:2008年12月26日(金))。
 理研横浜研究所に設置されているNMR施設の詳細については、横浜研究所 NMR施設案内のホームページで閲覧できます。


1. 経緯
 理研生命分子システム基盤研究領域のNMR(核磁気共鳴)施設(図1)は、タンパク質の立体構造と機能の解析を行う高性能NMR装置40台を備えた、世界最大の集積台数を誇る施設です。
 NMRは、有機化合物や生体高分子などの構造や性質を調べる分析装置の1つです。特にNMRを使った分析は、溶液という生体と同じ生理的な条件でタンパク質の動的な高次構造や分子間相互作用の解析を行うことができるという特徴があります。このため、ポストゲノム研究として注目されるタンパク質の立体構造解析では、X線結晶構造解析と並ぶ有効な方法となっています。
 理研では、この施設を用いて、文部科学省の委託事業「タンパク3000プロジェクト」の「網羅的解析プログラム」で、年間約300のタンパク質構造のNMR解析を行ってきた実績を誇っており、この解析能力や効率が国際的に高い評価を得てきました。
 2007年度以降は、本プロジェクトでの技術開発、施設整備、人材育成、解析体制の構築などの成果を発揮しています。その中でも、特にNMR立体構造解析パイプライン(図2)を活かすことは、今後のわが国のライフサイエンス研究のステップアップに貢献することができると評価されてきました。このため、新たなNMR施設の活用推進を展開するため、内外の有識者による「NMR施設検討会」で議論するとともに、2006年10月に募集したモニターの利用結果を検討し、外部開放に関する詳細な制度設計を行いました。
 さらに文部科学省は2007年度から開始した新規事業の「先端研究施設共用イノベーション創出事業」の参画機関に理研の同施設を採択し、国の支援のもと、産業界によるイノベーションの創出に向け広く活用していくこととなりました。そして、2007年8月24日(金)から、「先端研究施設共用イノベーション創出事業」、「成果占有利用」、「成果非占有利用」の3形態による外部利用の受付を開始し、2007年度には、それぞれ15件、4件、8件を採択、2008年度にはこれまでに、「先端研究施設共用イノベーション創出事業」で4件、「成果非占有利用」で5件を採択しました。
 今回の利用課題公募、選定は、文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業」の採択を同時に受けた、公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」も兼ねています。


2. 決定した採択課題と実施機関
○文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業」対象利用課題
課題名 利用機関名 代表者職氏名
酵素の構造機能解析 味の素株式会社 ライフサイエンス研究所 主任研究員
榛葉 信久
安定同位体標識試薬の新規アプリケーション開発 大塚製薬株式会社 診断事業部営業部CIL試薬課 課長
藤峰 慶徳
安定同位体標識核酸を用いた相互作用の解析 大塚製薬株式会社 診断事業部営業部CIL試薬課 課長
藤峰 慶徳
チロシン水酸化酵素の機能構造解析による神経疾患治療薬の開発 旭硝子株式会社 東田 英毅
凝集防止剤と蛋白質・ペプチドとの相互作用の解析 株式会社エルエイシステムズ 森井 隆史
木質タールによる樹脂溶解メカニズムの解析 株式会社 東芝 社会システム社 水 環境システム事業部 環境システム技術部 環境システム技術第一担当グループ長
野間 毅
「In-cell NMR法」に適した安定同位体標識化合物の開発 大陽日酸株式会社 メディカル事業本部SI事業部技術部 平 博司

○「成果非占有利用」対象利用課題
課題名 利用機関名 代表者職氏名
LEMタンパク質のリン酸化依存的立体構造変化の解析 京都大学 生命科学研究科 博士研究員
平野 泰弘
「低分子量化硫酸化糖の機能性食品への応用」 明治大学 理工学部応用化学科 専任講師
室田 明彦
ユビキチン結合ドメインによるポリユビキン鎖認識機構の解明 京都大学 工学研究科 分子工学専攻 准教授
杤尾 豪人


3. 採択の経過と利用開始の日程
2008年度第2回募集開始2008年7月8日(火)
2008年度第2回募集締切2008年9月5日(金)
NMR課題選定委員会による審査・採択2008年10月6日(月)
利用者受入開始2008年10月7日(火)〜


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
横浜研究推進部 次長 岡本 拓也(おかもと たくや)

Tel: 045-503-9328 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 NMR(核磁気共鳴)
原子核には核スピンがあり、これがゼロではない水素や炭素原子は強い磁場の中に置かれると、2つのエネルギー状態に分かれる。このエネルギー差に相当する電磁波を当てると、共鳴現象が起きて電磁波を吸収。その振動数は、原子核の種類と磁場の強さで決まり、原子核の周りの電子の状態に影響されるため、周辺の電子の分布や原子の結合状態を知る手がかりとなる。NMRは分子構造の決定手段として利用でき、近年ではコンピューターを利用したMRI(磁気共鳴造影法)として、病気の診断に役立っている。
※2 NMR立体構造解析パイプライン
タンパク質のNMR解析適合性の判定、安定同位体標識試料の調製、多次元NMRデータの測定、これに基づくタンパク質の立体構造の決定などを一貫して実施する施設。2005年には、NMRによるヒト、マウスのタンパク質の立体構造決定において、PDB(Protein Data Bank:世界的なタンパク質立体構造データベース)登録の70%にあたる375構造を決定した実績がある(世界全体では536構造)。
※3 先端研究施設共用イノベーション創出事業
2007年度から文部科学省が新たに開始した事業で、大学、独立行政法人などの研究機関が有する先端的な研究施設・機器について、国の経費支援により産業界利用または産学官の共同研究による広範な分野における幅広い利用を促進し、イノベーションにつながる成果を創出していくことを目的としている。
理研では、理研が保有するNMR施設を対象とした、「NMR立体構造解析パイプラインの共用化によるイノベーションの創出」について本事業の採択を受けている。なお、同じく採択を受けた公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」とは、課題公募、選定、成果発表などについて連携して事業を実施している。
横浜市立大学の本事業関連ホームページ
※4 NMR課題選定委員会
理研NMR施設利用に提案された公募課題の評価・選定を行うため理研内に設置した委員会で、NMR利用研究につき専門知識を有する理研内外の有識者およびNMR施設に関して責任を有する理研内の者14名で構成する。メンバーは次表のとおり。

NMR課題選定委員会メンバー(◎印は委員長)
氏名 所属
阿久津秀雄 大阪大学蛋白質研究所招へい教授
上村大輔 慶応義塾大学理工学部生命情報学科教授
大島泰郎 共和化工(株)環境微生物学研究所長
小林祐次 大阪薬科大学創薬基盤科学研究室客員教授
齋藤公児 新日本製鐵(株)環境・プロセス研究開発センター製銑研究開発部
主幹研究員
鈴木榮一郎 味の素(株)理事・ライフサイエンス研究所グループ長
内藤晶 横浜国立大学大学院工学研究院教授
西島和三 持田製薬(株) 医薬開発本部主事
西村善文 横浜市立大学大学院国際総合科学研究科教授
船橋英夫 理化学研究所横浜研究所副所長
篠崎一雄 理化学研究所横浜研究所植物科学研究センター長
伊藤幸成 理化学研究所基幹研究所伊藤細胞制御化学研究室 主任研究員
横山茂之 理化学研究所横浜研究所生命分子システム基盤研究領域 領域長
木川隆則 理化学研究所横浜研究所生命分子システム基盤研究領域 副領域長


理研西NMR棟とNMR装置(900MHz)の写真
図1 理研ゲノム科学総合研究センターが保有するNMR(核磁気共鳴)施設
写真左:理研西NMR棟
写真右:NMR装置(900MHz)


NMR立体構造解析パイプラインの説明図
図2 NMR立体構造解析パイプライン
1 発現確認
無細胞タンパク質合成技術により、対象タンパク質の発現量、可溶性の確認を行う。通常は、複数のコンストラクトを同時に試し、最適なものを選択する。
2 フォールド判定
1で判定に必要な発現量、可溶性が得られることを確認したタンパク質に関し、無細胞タンパク質合成技術により、タンパク質試料を調製し、当該試料が立体構造を形成していることの確認後、立体構造解析適合性を判定。
3 大量調製
無細胞タンパク質合成技術により、NMR測定に必要な純度・分量の安定同位体標識タンパク質試料の調製を行う。
4 NMR測定
NMR装置により、立体構造解析に必要なデータ測定を行う。
5 構造決定
NMRスペクトルデータの解析、シグナルの帰属、構造情報(特にNOEデータ)の抽出などの作業を、独自の立体構造解析統合環境ソフトウェア(KUJIRA)により行う。また、プロトン核間の距離の情報を与えるNOE(Nuclear Overhauser Effect)データの自動帰属をしながら立体構造計算を行う独自のソフトウェア(CYANA)を用いた立体構造決定を行う。

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