お知らせ 独立行政法人 理化学研究所
国立がんセンター
がんのゲノム変異カタログを作成する国際がんゲノムコンソーシアムが発足
- 理研と国立がんセンターをはじめ世界の13機関が参加 -
平成20年4月30日
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立がんセンター(廣橋説雄総長)は、世界9カ国の機関とともに、2008年4月29日(火)(日本時間同日)、主要ながんのゲノム異常(変異)カタログを作成するための国際共同プロジェクト「国際がんゲノムコンソーシアム」(International Cancer Genome Consortium:ICGC)を発足しました。
 がんの患者数は、先進国、発展途上国を問わず世界中で急速に増加しており、がん罹患の早期発見やがん死の減少が人類社会にとって喫緊の課題となっています。がんは、かつては1種類の疾患と考えられていましたが、現在では非常に多くの病態を含むという実態が明らかになっています。ほとんどすべてのがんでは、共通して遺伝子の設計図であるゲノムに異常(変異)が生じ、正常な分子経路が破綻した結果、無秩序な細胞増殖をきたすことがわかっています。さらに、特定のがんや病態では、特徴的なゲノム変異が認められることが明らかになっています。このため、それぞれのがんにおけるゲノム変異を体系的にマッピングし、カタログ化することができると、新たな予防・診断・治療法の研究基盤となる可能性があり、大きな期待が集まっています。
 ICGCでは、最大50種のがんについて高精度のゲノム異常(変異)データを産出し、それらのデータを全世界の研究者に迅速かつ無償で提供します。ICGCの意義について、理研の野依良治理事長は「がんは非常に複雑な病気であるので、このがんゲノム研究における国際協力が、がんの理解を深め、患者さんによりよい治療法の提供をもたらすものと期待している。」と研究の重要性を強調し、国立がんセンターの廣橋説雄総長は「世界のがん研究者が協調してがんゲノムの全貌解明に向けた研究を推進し、その成果をがんの予防・診断・治療のために応用していくことは、がんの克服にとって大きな前進となるだろう。」と抱負を明らかにしました。


1. 経緯
 わが国においては、抗生物質の発見や戦後の衛生環境の向上などにより、感染症による死亡が激減し、これに代わって高齢化とともにがんの発生・死亡数は増加を続け、1981年には国民の死亡原因の第1位に躍り出ることになりました。がんは、先進国のみならず発展途上国においても急速に患者数が増加しており、その克服は人類共通の目的ともいうべき疾患となっています。米国がん学会(American Cancer Society:ACS)によると、2007年には、全世界で約760万人ががんで死亡し1,200万人以上が新たにがんと診断され、がんの解明と克服に何らかの進歩が見られなければ、2050年には、1,750万人のがん死と2,700万人のがん罹患にまで増加するものと予測されています(ACSの発表内容については、Global Cancer Facts & Figures 2007を参照のこと)。このため、がん罹患やがん死の減少は、人類にとっての喫緊の課題となっています。
 がんは、かつては1種類の疾患と考えられていましたが、現在では極めて多数の病態を含むことが明らかになっています。ほとんどすべてのがんでは、共通して遺伝子の設計図であるゲノムに異常(変異)が生じており、その結果、正常な分子経路が破綻して無秩序な細胞増殖をきたすことがわかっています。さらに、特定のがんや病態においては、特徴的なゲノム変異が認められるため、それぞれのがんで、ゲノムの異常(変異)がゲノムのどこでどのようにして起こっているかを体系的に示して(マッピング)、それらのゲノム変異をカタログ化することができれば、がんの予防・診断・治療法の研究分野に新たな手法をもたらす可能性があります。このため、世界のがんゲノム研究機関では、ゲノム変異の研究を推進しています。
 近年のシーケンス(塩基配列解読)技術の急速な進展に伴い、さまざまなタイプのがんについて、がんゲノム変異がどこでどのように生じているかを明らかにすることが現実のものとなってきました。このような状況の中、世界各国で臨床的に重要な各種のがんについて、国際協力でそれらのゲノム変異の姿を明らかにするための取り組みとして考えられたのが「国際がんゲノムコンソーシアム(ICGC)」です。昨年10月のICGC設立準備会合(於カナダ・トロント、22カ国が参加)を経て、今回、10カ国13機関(3.メンバー機関概要を参照)の参加を得て、ICGCが発足しました。


2. ICGCの概要
 ICGCは、世界各国を通じて臨床的に重要ながんを選定し、それらのがんについて、ゲノム変異の包括的なカタログを作成するため、メンバー機関間の調整(情報交換の促進、ゲノム解析作業の重複阻止等)を行う組織です。ICGCの各メンバーは、ICGCの定めたデータ収集・解析に関する共通基準に従い、特定のがんに関する各種ゲノム変異の包括的かつ高精度な解析を分担します。
 ICGCの意義について、ICGC事務局が設置されたカナダ・トロントのオンタリオがん研究所所長のトーマス・ハドソン博士は「がん罹患・がん死の脅威の減少が喫緊の課題であることは明らかである。その要請に応えるため、本コンソーシアムは、新たなゲノム解析技術を活用し、世界の主要ながんについて遺伝子変異の包括的なカタログを作成する。そのようなカタログは、がんの予防・診断・治療の、新しい、より優れた手段を開発しようとしているすべての研究者にとって極めて貴重な情報源となるだろう。」と強調しています。
 ICGCでは、プロジェクトの連携調整のため、世界各国で臨床的に重要ながん約50種類のタイプやサブタイプを選定する予定です。ICGCが対象とするがんを選定する際の基準は、罹患率や死亡率等の観点で、そのがん研究が与えうるインパクト、現時点で得られる治療法、好発年齢、科学的意義、大規模解析を実行する上で十分な質・量を伴った試料収集の可能性などです。
 ICGCではすでに、異なる種類のがん同士の比較を促すため、各メンバーがゲノム変異カタログを作成する際に留意すべき主要事項をガイドラインとしてまとめています。それらの主要項目は、解析の包括性(がんサンプル中、少なくとも3%に認められる変異をもれなく検出できること)、解析の精度(解像度:塩基配列レベルでのゲノム変異の記述を含む)、解析の品質(病理学的分類及びゲノム解析技術に関する標準的な品質モニタリングを含む)、対照群の解析(同一症例からの非がん部組織との比較)などです。
 また、インフォームド・コンセントと倫理的配慮についても共通の標準を設定しています。ICGCでは、ICGC関連研究に参加するがん患者は、あらかじめ、研究への参加が自由意思に基づくものであること、研究への参加/非参加により診療内容に変化が来されないこと、自分の試料の解析データが国際的な研究コミュニティに提供されること、ICGCメンバーは研究に用いるすべての試料について提供者が同定されないよう匿名化して保存すること、といった説明を受けなければならないと定めました。
 ICGCメンバーによる研究の公共的意義を最大限にするため、得られたデータは、全世界の研究コミュニティに対して、迅速かつ無償で提供することとしました。さらに、すべてのコンソーシアム参加者は、ICGCが生み出す直接の1次データに対しての特許やその他の知的所有権の申請を行いません。
 なお、これらICGCの基本方針に係る事項については、ホームページ(英語)に掲載しています。


3. メンバー機関概要
(1) オーストラリア保健医学研究会議(NHMRC)〔オブザーバー〕
オーストラリア最大の保健医学研究助成機関で、研究グラント助成の他、人材育成や医療研究にまつわる倫理問題に関する助言等を行っている。
(2) ゲノムカナダ〔オブザーバー〕
カナダにおけるゲノムおよびプロテオミクス研究分野の振興を目的とする研究資金助成機関。
(3) オンタリオがん研究所
カナダ・オンタリオ州の公的助成を受けた、がんの予防・早期発見・診断・治療における各種研究を実施する非営利法人。ICGC事務局が置かれる。
(4) 中国がんゲノムコンソーシアム
中国科学技術省の主導する「中国ハイテク研究開発プログラム(863プログラム)」に位置付けられた中国がんゲノムプロジェクトを遂行するために2005年に組織した組織体。メンバーは、ヒトゲノムセンター(北京及び南京)の両所長、北京ゲノム研究所所長、中国科学院医科学センター所長など。
(5) 欧州委員会(European Commission)〔オブザーバー〕
欧州連合(EU)の行政執行機関として、法令案の提出、法令の執行、権限の範囲内の事項に関する域外国との交渉及び条約締結、予算の執行、という役割を担っている。委員(各国政府の閣僚に相当)の任期は5年で、2007年1月のEU拡大の結果、委員数は2007年1月より27名。事務局は各国の中央省庁に該当する36部局からなる。
(6) フランス国立がんセンター
フランスの対がん政策・計画を実行するため、保健・研究関係省庁の関与のもと、2004年に設立した公的機関。がんの予防・診断・治療やこれらに関する研究、国民に対する情報提供を行なっている。
(7) インド科学技術省バイオテクノロジー局
1986年、バイオテクノロジー振興のため科学技術省が創設した部局。
(8) 理化学研究所ゲノム医科学研究センター
2000年に遺伝子多型研究センターとして設立して以来、ヒトゲノムの多様性を示すSNPを解析し、遺伝子レベルで個人の体質の違いを把握し、個人の特性に合った病気の診断・治療・予防や薬剤の投与が可能となるオーダーメイド医療の実現を目指した研究を実施。2008年4月にゲノム医科学研究センターに改称、新たなスタートをきった。
(9) 国立がんセンター
我が国で初めてのナショナルセンターとして、1962年にわが国全体のがん対策を行なう中核機関として設置。病院、研究所、がん予防・検診研究センター、がん対策情報センター、運営局の5部門より成り、それぞれが力を合わせてがん克服のために努力をしている。その活動は、1がん医療、2がん研究、3がん医療やがん研究の専門家の教育と研修、4正確ながん情報の伝達、である。
(10) シンガポールゲノム研究所
がんゲノム、薬理遺伝学、発生生物学、感染症、ヒトゲノム解析、システムバイオロジー、計算生物科学等、ゲノムに関する広範な研究を実施している研究所。
(11) ウェルカムトラスト財団
イギリスに本拠地を持つ、人及び動物の健康増進を目的とした研究への助成を目的とする公益信託団体。製薬長者のサー・ヘンリー・ウェルカムの財産を管理するため1936年に設立。生物医学研究への資金提供に加え、一般人の科学理解増進のための支援もしている。医学史に関する膨大な蔵書を誇るウェルカム図書館を抱えるが、これも一般向けに無償公開している。
(12) ウェルカムトラスト財団サンガー研究所
ウェルカムトラスト財団からの資金提供によって活動しているゲノム研究所。病気における遺伝子の働きの解明や医科学研究進展のためのデータ産出のため、大規模シーケンシング(塩基配列解読)、バイオインフォマティックス、遺伝子変異の研究を行っている。
(13) 米国国立衛生研究所(NIH)
1887年に設立された合衆国で最も古い医学研究の拠点機関。米国保健社会福祉省(United States Department of Health and Human Services:HHS)傘下にあって、27の研究所やセンターから構成、基礎から臨床までの広範囲な医学研究を実施又は資金援助する機関。


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
横浜研究推進部 企画課
次長兼企画課長事務取扱
岡本 拓也(おかもと たくや)

Tel: 045-503-9328 / Fax: 045-503-9113
国立がんセンター 研究所
ゲノム構造解析プロジェクト
プロジェクトリーダー
柴田 龍弘(しばた たつひろ)

Tel: 03-3542-2511(内線3123)
Fax: 03-3547-5137

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp
国立がんセンター がん対策企画課

Tel: 03-3542-2511(内線2241)
Fax: 03-3542-2545
[Go top]
copyright