お知らせ 独立行政法人 理化学研究所
NMR施設の外部利用課題に新たに7研究課題が決定
世界一のタンパク質構造解析施設「NMR立体構造解析パイプライン」を開放
平成20年4月25日
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、理研生命分子システム基盤研究領域(横山茂之領域長)が所有する世界最高レベルの「NMR(核磁気共鳴)※1装置」と、試料の調製からタンパク質の立体構造の決定までを一貫して行う「NMR立体構造解析パイプライン※2」の2008年度第1次外部利用者を決定しました。
 公募決定した外部利用者は、文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業※3」を対象とした利用課題で、株式会社三菱化学生命科学研究所 蛋白質立体構造研究グループの「小麦胚芽無細胞タンパク質合成系を利用した高感度NMR測定解析技術の開発」、株式会社東芝 研究開発センター機能材料ラボラトリーの「NMRを用いた構造情報に基づく食品汚染物質の分析手法の確立」など4件と、「成果非占有利用」を対象とした利用課題で、広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻分子生物物理の「高分子量蛋白質分子形態変化の観測技術の高磁場利用による精密化」など3件を合わせた7件です。
 利用課題の公募は、2008年2月12日(月)から2008年3月31日(月)まで行い、「先端研究施設共用イノベーション創出事業」を対象とした利用課題に4件、「成果非占有利用」を対象とした利用課題に3件、それぞれ応募がありました。2008年4月18日(金)に開いたNMR課題選定委員会※4による審査の結果、応募のあった7件全てを採択しました。
  今後、採択者と個別に打合せを行い、準備の整った利用課題から順次実施していきます。
 「先端研究施設共用イノベーション創出事業」と「成果非占有利用」の2008年度第2回公募は2008年6月に実施予定しています。


1. 経緯
 理研生命分子システム基盤研究領域のNMR(核磁気共鳴)施設(図1)は、タンパク質の立体構造と機能の解析を行う高性能NMR装置40台を備えた、世界最大の集積台数を誇る施設です。
 NMRは、有機化合物や生体高分子などの構造や性質を調べる分析装置の1つです。特にNMRを使った分析は、溶液という生体と同じ生理的な条件でタンパク質の動的な高次構造や分子間相互作用の解析を行うことができるという特徴があります。このため、ポストゲノム研究として注目されるタンパク質の立体構造解析では、X線結晶構造解析と並ぶ有効な方法となっています。
 理研では、この施設を用いて、文部科学省の委託事業「タンパク3000プロジェクト」の「網羅的解析プログラム」で、年間約300のタンパク質構造のNMR解析を行ってきた実績を誇っており、この解析能力や効率が国際的に高い評価を得てきました。  2007年度以降は、本プロジェクトでの技術開発、施設整備、人材育成、解析体制の構築などの成果を発揮しています。その中でも、特にNMR立体構造解析パイプライン(図2)を活かすことは、今後のわが国のライフサイエンス研究のステップアップに貢献することができると評価されてきました。このため、新たなNMR施設の活用推進を展開するため、内外の有識者による「NMR施設検討会」で議論するとともに、2006年10月に募集したモニターの利用結果を検討し、外部開放に関する詳細な制度設計を行いました。
 さらに文部科学省は2007年度から開始した新規事業の「先端研究施設共用イノベーション創出事業」の参画機関に理研の同施設を採択し、国の支援のもと、産業界や産学官によるイノベーションの創出に向け広く活用していくこととなりました。そして、2007年8月24日(金)から、「先端研究施設共用イノベーション創出事業」、「成果占有利用」、「成果非占有利用」の3形態による外部利用の受付を開始し、2007年度には、それぞれ15件、4件、8件を採択しました。
 同時に、「先端研究施設共用イノベーション創出事業」の採択を受けた公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」と連携し、今回の利用課題公募、選定も同時に実施しました。


2. 決定した採択課題と実施機関
○ 文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業」対象利用課題
課題名 利用機関名 代表者職氏名
小麦胚芽無細胞タンパク質合成系を利用した高感度NMR測定解析技術の開発 株式会社三菱化学生命科学研究所 蛋白質立体構造研究グループ グループリーダー
河野 俊之
NMRを用いた構造情報に基づく食品汚染物質の分析手法の確立 株式会社東芝 研究開発センター 機能材料ラボラトリー 主任研究員
菅野 美津子
糖脂肪酸エステルの構造と機能解析 千葉製粉株式会社 機能素材事業本部 化粧品素材事業部 開発課 課長
鈴木 挙直
DNP-NMRによるメタボローム解析およびリアルタイム代謝解析に向けた応用研究開発 オックスフォード・インストゥルメンツ(株) MRI/Biotools事業本部 副本部長
清水 道夫


○ 「成果非占有利用」対象利用課題
課題名 利用機関名 代表者職氏名
高分子量蛋白質分子形態変化の観測技術の高磁場利用による精密化 広島大学 大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 教授
楯 真一
細胞接着装置構成タンパク質の構造生物学的研究(ターゲットタンパクプログラム・基本的な生命の解明・課題A) 神戸大学 大学院医学系研究科・構造生物学分野 特命教授
廣明 秀一
(構造生物学分野)
生体膜高次構造の変換にかかわるタンパク質ドメインの分子機構解明 神戸大学 大学院医学系研究科・構造生物学分野/膜生物学分野/脂質生化学分野 特命教授
廣明 秀一
(構造生物学分野)


3. 採択の経過と利用開始の日程
2008年度第1回募集開始 2008年2月12日(月)
2008年度第1回募集締切 2008年3月31日(月)
NMR課題選定委員会による審査・採択 2008年4月18日(金)
利用者受入開始 2008年5月〜


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
横浜研究推進部
企画課 課長  岡本 拓也(おかもと たくや)

Tel: 045-503-9328 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 NMR(核磁気共鳴)
原子核には核スピンがあり、これがゼロではない水素や炭素原子は強い磁場の中に置かれると、2つのエネルギー状態に分かれる。このエネルギー差に相当する電磁波を当てると、共鳴現象が起きて電磁波を吸収。その振動数は、原子核の種類と磁場の強さで決まり、原子核の周りの電子の状態に影響されるため、周辺の電子の分布や原子の結合状態を知る手がかりとなる。NMRは分子構造の決定手段として利用でき、近年ではコンピューターを利用したMRI(磁気共鳴造影法)として、病気の診断に役立っている。
※2 NMR立体構造解析パイプライン
タンパク質のNMR解析適合性の判定、安定同位体標識試料の調製、多次元NMRデータの測定、これに基づくタンパク質の立体構造の決定などを一貫して実施する施設。2005年には、NMRによるヒト、マウスのタンパク質の立体構造決定において、PDB(Protein Data Bank:世界的なタンパク質立体構造データベース)登録の70%にあたる375構造を決定した実績がある(世界全体では536構造)。
※3 先端研究施設共用イノベーション創出事業
2007年度から文部科学省が新たに開始した事業で、大学、独立行政法人などの研究機関が有する先端的な研究施設・機器について、国の経費支援により産業界または産学官による広範な分野における幅広い利用を促進し、イノベーションにつながる成果を創出していくことを目的としている。
理研では、理研が保有するNMR施設を対象とした、「NMR立体構造解析パイプラインの共用化によるイノベーションの創出」について本事業の採択を受けている。なお、同じく採択を受けた公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」とは、課題公募、選定、成果発表などについて連携して事業を実施している。
横浜市立大学の本事業関連ホームページ
※4 NMR課題選定委員会
理研NMR施設利用に提案された公募課題の評価・選定を行うため理研内に設置した委員会で、NMR利用研究につき専門知識を有する理研内外の有識者及びNMR施設に関して責任を有する理研内の者14名で構成する。メンバーは次表のとおり。


NMR課題選定委員会メンバー(◎印は委員長)
氏名 所属
◎ 阿久津秀雄 大阪大学蛋白質研究所招へい教授
上村大輔 慶応義塾大学理工学部生命情報学科教授
大島泰郎 共和化工(株)環境微生物学研究所長
小林祐次 大阪薬科大学創薬基盤科学研究室客員教授
齋藤公児 新日本製鐵(株)環境・プロセス研究開発センター製銑研究開発部 主幹研究員
鈴木榮一郎 味の素(株)理事・ライフサイエンス研究所グループ長
内藤晶 横浜国立大学大学院工学研究院教授
西島和三 持田製薬(株) 医薬開発本部主事
西村善文 横浜市立大学大学院国際総合科学研究科教授
船橋英夫 理化学研究所横浜研究所副所長
篠崎一雄 理化学研究所横浜研究所植物科学研究センター長
伊藤幸成 理化学研究所中央研究所伊藤細胞制御化学研究室主任研究員
横山茂之 理化学研究所横浜研究所生命分子システム基盤研究領域 領域長
木川隆則 理化学研究所横浜研究所生命分子システム基盤研究領域 副領域長


NMR棟とNMR装置の写真
図1 理研生命分子システム基盤研究領域が保有するNMR(核磁気共鳴)施設
写真左:理研西NMR棟
写真右:NMR装置(900MHz)


NMR立体構造解析パイプライン
図2 NMR立体構造解析パイプライン
1 発現確認
無細胞タンパク質合成技術により、対象タンパク質の発現量、可溶性の確認を行う。通常は、複数のコンストラクトを同時に試し、最適なものを選択する。
2 フォールド判定
1で判定に必要な発現量、可溶性が得られることを確認したタンパク質に関し、無細胞タンパク質合成技術により、タンパク質試料を調製し、当該試料が立体構造を形成していることの確認後、立体構造解析適合性を判定。
3 大量調製
無細胞タンパク質合成技術により、NMR測定に必要な純度・分量の安定同位体標識タンパク質試料の調製を行う。
4 NMR測定
NMR装置により、立体構造解析に必要なデータ測定を行う。
5 構造決定
NMRスペクトルデータの解析、シグナルの帰属、構造情報(特にNOEデータ)の抽出などの作業を、独自の立体構造解析統合環境ソフトウェア(KUJIRA)により行う。また、プロトン核間の距離の情報を与えるNOEデータの自動帰属をしながら立体構造計算を行う独自のソフトウェア(CYANA)を用いた立体構造決定を行う。

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