独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)が、米国科学雑誌『Science』(2000年8月4日号)に発表したウシ・ロドプシンのタンパク質結晶構造解析の論文※1の引用回数が、2,000回を突破しました。この引用回数は、理研の研究者が関わった研究論文としては、ヒトゲノム解読完了※2に次ぐものであり、コレスポンディングオーサー(論文責任著者)※3の論文としては、理研がこれまで発表してきた中で最も多い引用回数となります。引用回数とは、その論文が他の論文から参照された回数を意味します。したがって、引用回数の多い論文は、多くの研究者が参照し、注目する研究内容を発表している論文ということになります。引用回数2,000回を突破した研究は、理研放射光科学総合研究センター(石川哲也センター長)宮野構造生物物理研究室の宮野雅司主任研究員と米国ワシントン大学パルチェフスキー教授のグループによる共同研究成果です(2000年8月3日プレス発表)。
ロドプシンは、ヒトを含む哺乳動物で約1,000種ものメンバーが見つかっている最も大きなタンパク質ファミリー「Gタンパク質共役受容体(GPCR)※4」に属する代表的な膜タンパク質です。GPCRは、細胞が受け取る極めて多様な外部刺激を細胞内に伝達する重要な働きを担うため、生物的に重要なばかりでなく、痛み、発熱のような一般的な症状はもちろん、エイズなどの重篤な感染症、脳神経系疾患などの治療薬開発のターゲットにもなっています。そのため、アカデミックな研究対象だけにとどまらず、世界中の製薬会社でも応用開発研究を展開しています。ウシ・ロドプシンの結晶構造は、これら多くのGPCRのモデル構築の鋳型として実際に研究開発に役立っています。この結晶構造は、SPring-8の強力なX線を用いて、2000年に決定され、米国科学雑誌『Science』誌上で発表しました。2007年にこの研究論文の引用回数が2,000を超えたことは、同年に供用開始から10年を経たSPring-8での象徴的成果となりました。
さらに、2007年には、次のGPCRとして実際の医薬ターゲットであるヒト由来β2アドレナリン受容体(hβ2AR)の結晶構造が、米国スタンフォード大学のブライアン・コビルカ(Brian Kobilka)教授たちの研究グループによって決定されました。他にも、ヒト由来の膜タンパク質の結晶構造では、理研宮野構造生物物理研究室と米国ハーバード大学の共同研究グループと、スウェーデンのカロリンスカ研究所のグループがそれぞれ独立に、喘息などに関わるロイコトリエンC4合成酵素(LTC4S)を解析し、『Nature』誌の同じ号(2007年8月2日号)へ発表しました。また、世界的には、製薬大手メルクが5-リポキシゲナーゼ活性化タンパク質(FLAP)について報告しています。このように、2007年は、医薬ターゲットとして重要視されながら手が届かなかったヒト由来の膜タンパク質を、組み換え体にすることで大量生産し、X線結晶構造解析に成功した最初の年となりました。
これを機に、第一線で活躍する研究者がSPring-8に集い、GPCRを中心とした膜タンパク質構造解析の成果をもとに、2008年2月26日(火)、「SPring-8 GPCRシンポジウム−膜タンパク質構造解析のフロンティア−」を放射光科学総合研究センターにて開催し、大型放射光施設を使って今後10年の研究をいかに展開していくべきかを展望します。シンポジウムでは、海外からの招待講演者として、スタンフォード大学ブライアン・コビルカ教授が「ヒト由来β2アドレナリン受容体の構造と動態」について講演します。他にも、日本国内の大学・公的研究機関・製薬企業の研究者が最新の研究について講演を行います。シンポジウムの詳細は、理化学研究所播磨研究所のホームページおよび別紙1をご参照ください。
| (問い合わせ先) |
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独立行政法人理化学研究所 |
| 放射光科学総合研究センター 宮野構造生物物理研究室 |
| 主任研究員 宮野 雅司(みやの まさし) |
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| Tel | : |
0791-58-2815 |
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Fax | : |
0791-58-2816 |
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| Tel | : |
0791-58-0900 |
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Fax | : |
0791-58-0800 |
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| (報道担当) |
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独立行政法人理化学研究所 広報室 |
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<補足説明>
| ※1 |
ウシ・ロドプシンのタンパク質構造解析の論文とX線結晶構造解析分野について |
Title: Crystal structure of rhodopsin: A G protein-coupled receptor
Source: SCIENCE Volume: 289 Issue: 5480 Pages: 739-745, AUG 4 2000
Author(s): Krzysztof Palczewski, Takashi Kumasaka, Tetsuya Hori, Craig A. Behnke, Hiroyuki Motoshima, Brian A. Fox, Isolde Le Trong, David C. Teller, Tetsuji Okada, Ronald E. Stenkamp, Masaki Yamamoto, Masashi Miyano
米国ロックフェラー大学のロデリック・マキノンは、2003年に“イオンチャネルの構造および機構の研究”に対してノーベル化学賞を受賞した。受賞のきっかけとなったのは、1998年に『Science』誌へ発表した論文で、X線結晶構造解析の手法を使い、カリウムチャネルの三次元構造を決定し、カリウムイオンより小さいナトリウムイオンが、なぜカリウムイオンチャンネルを通過できないのか、というイオンチャンネルの選択性について説明した。この受賞が示すように、X線結晶構造解析は、構造から機能を推測するために非常に有効な方法である。ウシ・ロドプシンの論文は、GPCRという非常に大切なタンパク質の構造を世界で初めて決定したことに加え、生物が光を感知し、電気信号に変わる瞬間の仕組みを説明したという点においても非常に意義深い。
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| ※2 |
ヒトゲノム解読完了 |
| 米、英、日、仏、独、中国の6ヶ国が参加した国際ヒトゲノムプロジェクトにより、ヒトゲノムの全配列が決定された。国際チームは、2003年4月にヒトゲノム解読完了を宣言し、その成果は『Nature』(2004年10月21日号)に発表された。 |
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| ※3 |
コレスポンディングオーサー(論文責任著者) |
| その論文に関する質問や資料の請求先として、その論文の内容に責任を持つ人のこと。一般的には、研究を主導した組織の研究者が担当するため、貢献度を知る目安になる。 |
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| ※4 |
Gタンパク質共役受容体(GPCR) |
| 細胞膜受容体は、細胞膜状に存在し、細胞の外から内へ情報を伝達する役割を果たしている。GPCRは1,000種類以上存在するといわれ、7回膜貫通型という特徴的な形をしている。現在市販されている薬の半数以上はGPCRに作用するといわれていることからも明らかなように、GPCRは様々な疾患に関与しているため創薬ターゲットとして非常に重要である。国際ヒトゲノムプロジェクトによって解読されたヒトの全遺伝子配列を調べた結果、GPCRをコードしていると予想される未知の遺伝子が多数見つかった。これらは体内での反応相手が不明なため、「オーファン(孤児)受容体」と呼ばれ、創薬ターゲットとして世界中で熾烈な研究競争が展開している。 |
<参考>
- 世界のトップ1%以内の論文被引用実績
- トムソンサイエンティフック社が2007年4月9日に発表した統計分析データより。表題の()内の数字は、同社のデータベースに収載されている研究機関のうち、1996〜2006年の11年間の論文引用回数が世界上位1%以内に抽出された機関数。表1より、理化学研究所が発表した論文は、平均で13.67回引用されたことになる。日本でトップレベルとされる研究機関の引用回数の平均が10回〜15回程度ということを考慮すると、2,000回という数字がいかに大きいかがわかる。

- 今回のデータは、トムソンサイエンティフィック社のISI Web of Knowledge [v.4.1] - Web of Scienceを使用。
トムソンサイエンティフィック社関連ページ
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