お知らせ 独立行政法人 理化学研究所
NMR施設の外部利用課題公募で、新たに7研究課題が決定
- 世界一のタンパク質構造解析施設「NMR立体構造解析パイプライン」開放で -
平成20年2月8日
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、理研ゲノム科学総合研究センター(榊佳之センター長)が所有する「NMR(核磁気共鳴)※1装置」と試料の調製からタンパク質の立体構造の決定までを一貫して行う「NMR立体構造解析パイプライン※2」の第2次外部利用者を決定しました。
 公募により決定した外部利用者は、文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業※3」対象利用課題で、キッセイ薬品工業株式会社創薬設計研究所の「NMR を用いたタンパク活性部位におけるfragment based drug design 手法の確立」、株式会社ファルマデザイン研究開発本部創薬研究部の「シグナル伝達系スキャフォールドタンパク質複合体の立体構造解析」など7件です。
 利用課題の第2次公募は、2007年10月29日(月)から2008年1月7日(月)まで実施し、「先端研究施設共用イノベーション創出事業」対象利用課題に7件の応募がありました。2008年1月31日(木)に開いたNMR課題選定委員会※4による審査の結果、応募があった7件全てを採択しました。「先端研究施設共用イノベーション創出事業」の採択利用課題数は、これで、10月に採択した8件と合わせ、計15件となりました。
 今後、採択者と個別に打合せを行い、準備の整った利用課題から順次実施していきます。
 「先端研究施設共用イノベーション創出事業」及び「成果非占有利用※5」の2008年度第1回公募は2008年2月12日(月)から開始します(応募締切:2008年3月31日(月))。また、2008年3月19日(水)には、理研横浜研究所交流棟ホールでNMR外部利用事業報告会(仮称)を開催します(詳細については、横浜研究所 ゲノム科学総合研究センター NMR施設案内のホームページで閲覧できます)。


1. 経緯
 理研横浜研究所ゲノム科学総合研究センターのNMR(核磁気共鳴)施設(図1)は、タンパク質の立体構造と機能の解析を行う高性能NMR装置40台を備え、世界最大の集積台数を誇ります。
 NMRは、有機化合物や生体高分子などの構造や性質を調べるために広く使われている分析装置の1つです。特にNMRを使った分析は、溶液という生体と同じ生理的な条件でタンパク質の動的な高次構造や分子間相互作用の解析を行うことができるという特徴があります。このため、ポストゲノム研究として注目されるタンパク質の立体構造解析では、X線結晶構造解析と並ぶ有効な方法となっています。
 理研では、この施設を用いて、文部科学省の委託事業「タンパク3000プロジェクト」の「網羅的解析プログラム」で、年間約300のタンパク質構造のNMR解析を行ってきた実績があり、この解析能力や効率は、国際的にも類を見ないほど高いものです。
 2007年度以降は、本プロジェクトで行なわれた技術開発、施設整備、人材育成、解析体制の構築などの実績と威力を発揮させ、特に、NMR立体構造解析パイプライン(図2)を活かすことが、今後、わが国のライフサイエンス研究のステップアップに貢献できると評価されました。この評価のもと、NMR施設の新たな活用の推進を展開することとなり、内外の有識者による「NMR施設検討会」での議論や、2006年10月に募集したモニターによる利用結果などを踏まえ、外部開放に関する詳細な制度設計を行いました。
 このような状況の中で理研の同施設が、文部科学省の「先端研究施設共用イノベーション創出事業」(2007年度から開始した事業)の参画機関として採択を受け、本施設を国の支援のもと、産業界や産学官による共用を通じたイノベーションの創出に向け、広く活用していくため利用課題を公募していました。なお、同じく採択を受けた公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」とは連携した事業を行っており、今回の利用課題公募、選定も同時に実施しました。
横浜市立大学の本事業関連ホームページ


2. 決定した採択課題と実施機関
文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業」対象利用課題 
課題名 利用機関名 代表者職氏名
NMR を用いたタンパク活性部位におけるfragment based drug design 手法の確立 キッセイ薬品工業株式会社 研究本部 創薬研究部 創薬設計研究所 創薬設計研究所
所長 岡崎浩輔
シグナル伝達系スキャフォールドタンパク質複合体の立体構造解析 株式会社ファルマデザイン 研究開発本部創薬研究部 研究開発本部長
金井 理
in silicoによって見出された新規サイトカイン様タンパク質の立体構造解析 株式会社ファルマデザイン 研究開発本部創薬研究部 研究開発本部長
金井 理
正常型プリオンタンパク質の加圧等による分解反応促進機構 株式会社サイエンステクノロジーインタラクト 技術開発部 医学顧問
藤田雄三
NMRを利用した複合糖質の構造解析と創薬への応用 株式会社 グライエンス 研究開発部 代表取締役社長
矢部宇一郎
新規機能性核酸アプタマーとターゲットタンパク質との複合体の立体構造解析 タグシクス・バイオ株式会社 研究開発部 代表取締役社長
平尾一郎
蛋白質凝集防止剤のNMR測定への有効性の確認 株式会社エルエイシステムズ 取締役
森居 隆史


3. 採択の経過と利用開始の日程
第2回募集開始
2007年10月29日(月)
第2回募集締切 2008年1月7日(月)
NMR課題選定委員会による審査・採択 2008年1月31日(木)
利用者受入開始 2008年2月〜


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 横浜研究推進部
  企画課 課長 岡本 拓也(おかもと たくや)

Tel: 045-503-9328 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 NMR(核磁気共鳴)
原子核には核スピンがあり、これがゼロではない水素や炭素原子は強い磁場の中に置かれると、2つのエネルギー状態に分かれることが知られている。このエネルギー差に相当する電磁波を当てると、共鳴現象が起きて電磁波が吸収される。その振動数は、原子核の種類と磁場の強さで決まるが、原子核の周りの電子の状態に影響されるので、周辺の電子の分布や原子の結合状態を知る手がかりになる。従って、NMRは分子構造の決定手段として利用される。近年ではコンピューターを利用したMRI(磁気共鳴造影法)として、病気の診断に役立っている。
※2 NMR立体構造解析パイプライン
タンパク質のNMR解析適合性の判定、安定同位体標識試料の調製、多次元NMRデータの測定、これに基づくタンパク質の立体構造の決定などを一貫して実施する施設。2005年には、NMRによるヒト、マウスのタンパク質の立体構造決定において、PDB(Protein Data Bank:世界的なタンパク質立体構造データベース)登録の70%にあたる375構造を決定した実績がある(世界全体では536構造)。
※3 先端研究施設共用イノベーション創出事業
2007年度から文部科学省が新たに開始した事業で、大学、独立行政法人などの研究機関が有する先端的な研究施設・機器について、国の経費支援により産業界または産学官による広範な分野における幅広い利用を促進し、イノベーションにつながる成果を創出していくことを目的としている。
理研では、理研が保有するNMR施設を対象とした、「NMR立体構造解析パイプラインの共用化によるイノベーションの創出」について本事業の採択を受けている。なお、同じく採択を受けた公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」とは、課題公募、選定、成果発表などについて連携して事業を実施している。
横浜市立大学の本事業関連ホームページ
※4 NMR課題選定委員会
理研NMR施設利用に提案された公募課題の評価・選定を行うため理研内に設置した委員会で、NMR利用研究につき専門知識を有する理研内外の有識者及びNMR施設に関して責任を有する理研内の者14名で構成する。メンバーは次表のとおり。

NMR課題選定委員会メンバー(◎印は委員長)
氏名 所属
◎阿久津秀雄 大阪大学蛋白質研究所招へい教授
上村大輔 名古屋大学大学院理学研究科教授
大島泰郎 共和化工(株)環境微生物学研究所長
小林祐次 大阪薬科大学創薬基盤科学研究室客員教授
齋藤公児 新日本製鐵(株)技術開発本部主幹研究員
鈴木榮一郎 味の素(株)理事・ライフサイエンス研究所グループ長
内藤晶 横浜国立大学大学院工学研究院教授
西島和三 持田製薬(株) 医薬開発本部主事
西村善文 横浜市立大学大学院国際総合科学研究科教授
船橋英夫 理化学研究所横浜研究所副所長
篠崎一雄 理化学研究所横浜研究所植物科学研究センター長
伊藤幸成 理化学研究所中央研究所伊藤細胞制御化学研究室主任研究員
横山茂之 理化学研究所横浜研究所ゲノム科学総合研究センタープロジェクトディレクター
木川隆則 理化学研究所横浜研究所ゲノム科学総合研究センターチームリーダー
※5 成果非占有利用
理研NMR施設の利用形態には次の3種類がある。
(1) 「先端研究施設共用イノベーション創出事業」対象利用課題としての利用(成果非占有、経費国支援)
(2) 成果占有利用(有償)
(3) 成果非占有利用(有償(割引料金適用))
(1)は産業界利用や産学官共同研究利用のみが対象。(2)は対象者に制限がなく、随時申込可能。(3)は対象者に制限はないが主にアカデミアによる利用を想定。また、(1)及び(3)は成果公開が条件となる。詳細については以下URLを参照。
http://www.ynmr.riken.jp/


理研西NMR棟とNMR装置(900MHz)の写真
図1 理研ゲノム科学総合研究センターが保有するNMR(核磁気共鳴)施設
写真左:理研西NMR棟
写真右:NMR装置(900MHz)


NMR立体構造解析パイプラインの説明図
図2 NMR立体構造解析パイプライン
1 発現確認
無細胞タンパク質合成技術により、対象タンパク質の発現量、可溶性の確認を行う。通常は、複数のコンストラクトを同時に試し、最適なものを選択する。
2 フォールド判定
1で判定に必要な発現量、可溶性が得られることが確認されたタンパク質に関して無細胞タンパク質合成技術により、タンパク質試料を調製し、当該試料が立体構造を形成していることの確認を行い、立体構造解析適合性を判定する。
3 大量調製
無細胞タンパク質合成技術により、NMR測定に必要な純度・分量の安定同位体標識タンパク質試料の調製を行う。
4 NMR測定
NMR装置により、立体構造解析に必要なデータ測定を行う。
5 構造決定
NMRスペクトルデータの解析、シグナルの帰属、構造情報(特にNOEデータ)の抽出などの作業を、独自の立体構造解析統合環境ソフトウェア(KUJIRA)により行う。また、プロトン核間の距離の情報を与えるNOEデータの自動帰属をしながら立体構造計算を行う独自のソフトウェア(CYANA)を用いた立体構造決定を行う。

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