お知らせ 独立行政法人 理化学研究所
NMR施設の外部利用課題に初の16研究課題が決定
- 世界一のタンパク質構造解析施設「NMR立体構造解析パイプライン」を開放 -
平成19年10月30日
 独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、理研ゲノム科学総合研究センター(榊佳之センター長)が所有する「NMR(核磁気共鳴)※1装置」と試料の調製からタンパク質の立体構造の決定までを一貫して行う「NMR立体構造解析パイプライン※2」の外部利用者を決定しました。
 公募により決定した外部利用者は、文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業」対象利用課題が、味の素株式会社 ライフサイエンス研究所の「酵素の構造機能研究」、大日本住友製薬株式会社 ゲノム科学研究所構造生物研究部分子設計グループの「代謝系疾患関連プロテインキナーゼのサブユニットの構造解析」など8件です。また「成果非占有利用」対象利用課題では、国立大学法人広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻・分子生物物理の「観測磁場依存性を利用したタンパク質の動的構造特性解析」、国立大学法人奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科の「低濃度タンパク質の構造解析技術の開発」など8件です。
 なお、「成果占有利用」については、現在数社から利用の打診を受けています。
 利用課題の公募は、2007年8月24日(金)から次の3種類の形態で実施しました。
(1)文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業※3」対象利用課題としての利用(成果非占有、経費国支援)
(2)成果占有利用(有償)
(3)成果非占有利用(有償(割引料金適用))
このうち、(1)文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業」及び(3)成果非占有利用については、公募締切の2007年9月28日(金)までの間にそれぞれ8件の応募があり、2007年10月24日(水)に開いたNMR課題選定委員会※4による審査の結果、応募のあった16件全てを採択しました。
 今後、採択者と個別に打合せを行い、準備の整った利用課題から順次実施していきます。
 また、「先端研究施設共用イノベーション創出事業」及び「成果非占有利用」の第2回公募を2007年10月29日(月)から開始しました。詳細については、横浜研究所 ゲノム科学総合センター NMR施設案内のホームページで閲覧できます(応募締切:2008年1月7日(月)。


1. 経緯
 理研横浜研究所ゲノム科学総合研究センターのNMR(核磁気共鳴)施設(図1)は、タンパク質の立体構造と機能の解析を行う高性能NMR装置40台を備え、世界最大の集積台数を誇る施設です。
 NMRは、有機化合物や生体高分子などの構造や性質を調べるために広く使われている分析装置のひとつです。特にNMRを使った分析は、溶液という生体と同じ生理的な条件でタンパク質の動的な高次構造や分子間相互作用の解析を行えるという特徴があります。このため、ポストゲノム研究として注目されるタンパク質の立体構造解析では、X線結晶構造解析と並ぶ有効な方法となっています。
 理研では、この施設を用いて、文部科学省の委託事業「タンパク3000プロジェクト」の「網羅的解析プログラム」で、年間約300のタンパク質構造のNMR解析を行ってきた実績があり、この解析能力や効率は、国際的にも類を見ないほど高いものです。
 2007年度以降は、本プロジェクトでの技術開発、施設整備、人材育成、解析体制の構築などの成果を発揮し、特に、NMR立体構造解析パイプライン(図2)を活かすことが、今後のわが国のライフサイエンス研究のステップアップに貢献できると評価され、新たなNMR施設の活用推進を展開することとなり、内外の有識者による「NMR施設検討会」での議論や、2006年10月に募集したモニターによる利用結果などを踏まえ、外部開放に関する詳細な制度設計を行いました。
 このような状況の中、文部科学省が2007年度から開始した事業である「先端研究施設共用イノベーション創出事業」の参画機関として、理研の同施設が採択を受けたことにより、本施設を国の支援のもと、産業界や産学官による共用を通じたイノベーションの創出に向け広く活用していくこととなりました。なお、同じく採択を受けた公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」とは連携して事業を行っており、今回の利用課題公募、選定も同時に実施しました。
横浜市立大学の本事業関連URL


2. 決定した採択課題と実施機関
文部科学省「先端研究施設共用イノベーション創出事業」対象利用課題
課題名 利用機関名
酵素の構造機能研究 味の素(株) ライフサイエンス研究所
代謝系疾患関連プロテインキナーゼのサブユニットの構造解析 大日本住友製薬(株)ゲノム科学研究所 構造生物研究部 分子設計グループ
バイオフィルム産生抑制技術のメカニズム解析 花王(株) ファブリック&ホームケア研究センター ハウスホールド研究所
高分子化合物の精密立体構造解析 千葉製粉(株) 機能素材事業本部 化粧品素材事業部
DNP-NMRによる様々な分野でのイノベーション創出に向けた応用研究開発 オックスフォード・インストゥルメンツ(株) MRI/NMR事業本部
RNAの構造学的研究に向けた安定同位体標識RNAユニットおよびRNAオリゴマの開発 大陽日酸株式会社 SI合成研究室
NMRメタボローム解析における13C核情報の利用 (株)東レリサーチセンター 生物科学研究部 生物科学第2研究室
セリンプロテアーゼとタンパク性インヒビター複合体の相互作用解析 持田製薬(株)創薬研究所
「成果非占有利用」対象利用課題
課題名 利用機関名
観測磁場依存性を利用したタンパク質の動的構造特性解析 広島大学 大学院理学研究科・数理分子生命理学専攻・分子生物物理
低濃度タンパク質の構造解析技術の開発 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科
II型GPCR、VIP受容体細胞外ドメインとリガンドの複合体の相互作用解析 神戸大学 大学院医学系研究科・構造生物学分野
Rasタンパク質の新規高次構造を分子標的とする抗がん剤の開発 神戸大学 理学研究科、医学系研究科(日本電気株式会社との共同研究)
生体膜高次構造を検知するタンパク質ドメインの分子機構解明 神戸大学 大学院医学系研究科・構造生物学分野/膜生物学分野/脂質生化学分野
核内因子および細胞内シグナル伝達に関与するタンパク質機能ドメインの構造解析 京都大学 工学研究科 分子工学専攻 生体分子機能化学講座
植物ウィルス由来タンパク質の立体構造解析 横浜市立大学大学院国際総合科学研究科 計測科学研究室
ラフト局在タンパク質の立体構造解析 横浜市立大学大学院国際総合科学研究科 計測科学研究室


3. 採択の経過と利用開始の日程
募集開始 2007年8月24日(金)
募集締切 2007年9月28日(金)
NMR課題選定委員会による審査・採択 2007年10月24日(水)
2007年10月24日(水) 2007年11月〜


(問い合わせ先)

独立行政法人理化学研究所
 横浜研究推進部
  企画課 課長  岡本 拓也(おかもと たくや)

Tel: 045-503-9328 / Fax: 045-503-9113

(報道担当)

独立行政法人理化学研究所 広報室

Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
Mail: koho@riken.jp


<補足説明>
※1 NMR(核磁気共鳴)
原子核には核スピンがあり、これがゼロではない水素や炭素原子は強い磁場の中に置かれると、2つのエネルギー状態に分かれることが知られている。このエネルギー差に相当する電磁波を当てると、共鳴現象が起きて電磁波が吸収される。その振動数は、原子核の種類と磁場の強さで決まるが、原子核の周りの電子の状態に影響されるので、周辺の電子の分布や原子の結合状態を知る手がかりになる。従って、NMRは分子構造の決定手段として利用される。近年ではコンピューターを利用したMRI(磁気共鳴造影法)として、病気の診断に役立っている。
※2 NMR立体構造解析パイプライン
タンパク質のNMR解析適合性の判定、安定同位体標識試料の調製、多次元NMRデータの測定、これに基づくタンパク質の立体構造の決定などを一貫して実施する施設。2005年には、NMRによるヒト、マウスのタンパク質の立体構造決定において、PDB(Protein Data Bank:世界的なタンパク質立体構造データベース)登録の70%にあたる375構造を決定した実績がある(世界全体では536構造)。
※3 先端研究施設共用イノベーション創出事業
2007年度から文部科学省が新たに開始した事業で、大学、独立行政法人などの研究機関が有する先端的な研究施設・機器について、国の経費支援により産業界または産学官による広範な分野における幅広い利用を促進し、イノベーションにつながる成果を創出していくことを目的としている。
理研では、理研が保有するNMR施設を対象とした、「NMR立体構造解析パイプラインの共用化によるイノベーションの創出」について本事業の採択を受けている。なお、同じく採択を受けた公立大学法人横浜市立大学の「超高磁場超高感度NMR装置利用による化合物のスクリーニング」とは、課題公募、選定、成果発表などについて連携して事業を実施する予定。
横浜市立大学の本事業関連URL
※4 NMR課題選定委員会
理研NMR施設利用に提案された公募課題の評価・選定を行うため理研内に設置した委員会で、NMR利用研究につき専門知識を有する理研内外の有識者及びNMR施設に関して責任を有する理研内の者14名で構成する。メンバーは次表のとおり。

NMR課題選定委員会メンバー(◎印は委員長)
氏   名 所   属
◎阿久津秀雄 大阪大学蛋白質研究所教授
上村大輔
名古屋大学大学院理学研究科教授
大島泰郎
共和化工(株)環境微生物学研究所長
小林祐次
大阪薬科大学創薬基盤科学研究室客員教授
齋藤公児
新日本製鐵(株)技術開発本部主幹研究員
鈴木榮一郎
味の素(株)理事・ライフサイエンス研究所グループ長
内藤晶
横浜国立大学大学院工学研究院教授
西島和三
持田製薬(株) 医薬開発本部主事
西村善文
横浜市立大学大学院国際総合科学研究科教授
船橋英夫
理化学研究所横浜研究所副所長
篠崎一雄
理化学研究所横浜研究所植物科学研究センター長
伊藤幸成
理化学研究所中央研究所伊藤細胞制御化学研究室主任研究員
横山茂之
理化学研究所横浜研究所ゲノム科学総合研究センタープロジェクトディレクター
木川隆則
理化学研究所横浜研究所ゲノム科学総合研究センターチームリーダー


図1 理研ゲノム科学総合研究センターが保有するNMR(核磁気共鳴)施設
写真左:理研西NMR棟 写真右:NMR装置(900MHz)


図2 NMR立体構造解析パイプライン
1 発現確認
無細胞タンパク質合成技術により、対象タンパク質の発現量、可溶性の確認を行う。通常は、複数のコンストラクトを同時に試し、最適なものを選択する。
2 フォールド判定
1で判定に必要な発現量、可溶性が得られることが確認されたタンパク質に関して無細胞タンパク質合成技術により、タンパク質試料を調製し、当該試料が立体構造を形成していることの確認を行い、立体構造解析適合性を判定する。
3 大量調製
無細胞タンパク質合成技術により、NMR測定に必要な純度・分量の安定同位体標識タンパク質試料の調製を行う。
4 NMR測定
NMR装置により、立体構造解析に必要なデータ測定を行う。
5 構造決定
NMRスペクトルデータの解析、シグナルの帰属、構造情報(特にNOEデータ)の抽出などの作業を、独自の立体構造解析統合環境ソフトウェア(KUJIRA)により行う。また、プロトン核間の距離の情報を与えるNOEデータの自動帰属をしながら立体構造計算を行う独自のソフトウェア(CYANA)を用いた立体構造決定を行う。

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