背骨を持たない脊椎動物「ヌタウナギ」に背骨の痕跡を発見
-脊椎骨の形成メカニズムの進化について新しい仮説を提唱-
報道発表資料
温帯域の大陸棚周辺部の深海に生育し、一部で食されるヌタウナギは、動物学の教科書で「背骨をもたない脊椎動物」として紹介されています。脊椎動物の仲間はヒトやマウス、ニワトリなど顎を持つ仲間(顎口類)と顎を持たない仲間(無顎類)の2つの大きなグループに分類され、ヌタウナギはヤツメウナギと同じ無顎類に属しています。このヌタウナギは、一見して背骨が無いように見えることから、祖先的状態にある脊椎動物以前の存在と考えられていました。1900年に、米国の動物学者がヌタウナギ類の尾びれの部分にわずかな軟骨の塊を見つけ、背骨の存在を示唆していました。しかし、この軟骨が非常に小さいため観察が難しく、本当に脊椎骨に相当するかどうかについて顧みられることはありませんでした。
発生・再生科学総合研究センター形態進化研究グループは、日本産ヌタウナギ類の一種(ヌタウナギ属ヌタウナギ)の胚と成体を詳細に観察、1900年の発見と同じく尾部に複数の小さな軟骨の塊を確認し、この軟骨が脊髄骨と同様な形態学的特徴を持つことを突き止めました。さらに、脊椎骨の形成に必要とされる脊椎動物の発生プログラムに用いられる遺伝子群が発現していることも見いだし、ヌタウナギ類はむしろ、背骨が極めて退化した特殊な状態にあることを見いだしました。
この研究は、これまで語られてきた「背骨の進化過程」を覆し、「現生脊椎動物全ての共通祖先は、約5億年前に、すでに背骨を作り出す細胞集団と分子メカニズムを持っていた」という仮説の提唱となります。この発見は、脊椎動物学教科書の一部を書き換える可能性があるとともに、私たちの体を作り出す仕組みに関する、より詳細な知識体系の構築に役立つと注目されます。
独立行政法人理化学研究所
発生再生科学総合研究センター 形態進化研究グループ
グループディレクター 倉谷 滋(くらたに しげる)
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