親の受けたストレスは、DNA配列の変化を伴わずに子供に遺伝
-ストレスが影響する非メンデル遺伝学のメカニズムを世界で初めて発見-
報道発表資料
19世紀に、エンドウ豆の交配で、親の性質(形質)を子に受け継ぐ遺伝物質(後のDNA)を予想したグレゴール・ヨハン・メンデルは、「メンデルの法則」の発見者として知られ、この法則が遺伝学の基礎となっています。ところが近年、温度や日照ストレスにより変化した親の形質が次世代に受け継がれるトウモロコシの例で知られるように、DNA配列の変化を伴わない遺伝が注目されています。このメンデルの法則に従わない遺伝現象のメカニズムとして、 DNAやヒストンの化学修飾で制御される遺伝現象であるエピジェネティクスが議論されています。しかし、ストレスがヒストンの化学修飾にどのように影響するのかは分かっていませんでした。
基幹研究所の石井分子遺伝学研究室は、ストレスによる遺伝子発現の変化が、DNA配列の変化を伴わず(エピジェネティク)に親から子供に遺伝する、という新たなメカニズムを発見しました。DNAがヒストンに巻きついて形成しているクロマチンには、メチル化ヒストンが多く、転写が不活発なヘテロクロマチン領域があります。研究チームは、ショウジョウバエの転写因子dATF-2 が、ヘテロクロマチン構造の形成に不可欠である一方、熱ストレスや浸透圧ストレスでリン酸化されると、ヘテロクロマチン構造を弛緩して転写を活発にし、その状態が子供に遺伝することを突き止めました。さらに、親が受けたストレスの影響は子供にだけ遺伝し、孫には遺伝しないものの、二世代にわたってストレスを受けると子供だけでなく孫にまで伝わり、その後何世代にも遺伝する可能性があることが分かりました。ストレスが影響する非メンデル遺伝学のメカニズムを初めて解明したもので、親の受けたストレスが子供の疾患発症頻度にも影響する可能性を示す成果と注目されます。
独立行政法人理化学研究所
基幹研究所 石井分子遺伝学研究室
主任研究員 石井 俊輔(いしい しゅんすけ)
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