鹿(しし)おどしの原理で神経細胞が入力信号を高速演算
-神経細胞間コミュニケーションは微小信号の高速演算・威力増強へ最適化-
報道発表資料
視覚、聴覚、触覚など私たち五感は、アンテナのようにさまざまな情報をとらえ、脳に送り、脳内の神経細胞がその情報を処理します。神経細胞は、活動電位と呼ぶ短い電気信号によって互いに情報を交換しています。活動電位がシナプスと呼ぶ神経細胞の接点に到達すると、受け手の神経細胞の電位が少しだけ変化してシナプス後電位となり、この小さな変化がある閾値に達すると次の神経細胞に信号を送る活動電位が生じます。神経細胞は何千ものシナプス入力を受けており、この効果は単純な加算によって決定していると考えられていました。しかし、実際の神経活動は加算だけでは説明できず、複雑な演算処理の理論的な証明が神経細胞の情報処理を解くカギとなると注目されていました。
脳科学総合研究センター計算神経物理学研究チームらは、脳内の神経細胞が微量な電気信号を使って情報をやり取りしている情報処理のメカニズムを、数理的に説明する新たな神経計算理論を提唱しました。具体的には、生体脳に似せた人工神経回路をコンピュータ上で再現する世界最高精度の手法を開発して、今まで無いものとして扱ってきた神経細胞の微量な入力信号の効果を考慮に入れた計算理論を構築しました。何千もの入力を受ける神経細胞を鹿おどしに例え、シナプスへの小さな入力を絶え間なく降り注ぐ雨粒になぞらえると、この新理論はよく説明できます。 鹿おどしが満杯になって傾き音を鳴らす動作は、神経細胞で活動電位が生じる現象に相当し、鹿おどしが作動するきっかけとなる最後の雨粒、すなわち活動電位が生じる最後のシナプス入力は、強力な乗算成分となります。この新理論に基づくシミュレーション結果は、神経細胞がこれまで考えられていたより高速で情報処理を行い、単なる入力信号の加算だけでなく乗算のような非線形演算もしていることを示しました。さらに、何千何万もの互いに関係のない信号が、互いから利を得る「非協調的な協調」で活動電位が生じることを発見しました。
独立行政法人理化学研究所
脳科学総合研究センター 計算神経物理学研究チーム
チームリーダー Markus Diesmann(マーカス・ディースマン)
研究員 Moritz Helias (モーリッツ・ヘイリアス)
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