広報活動

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2010年8月7日

独立行政法人 理化学研究所

ヒトES細胞とiPS細胞の培養を困難にする細胞死の原因を解明

-細胞培養の効率と臨床応用への安全性の向上に貢献-

発見したヒトES細胞、iPS細胞の分散培養で見られる特有の「死の舞」

私たちの身体がもつ全種類の細胞を生みだすことができる胚性幹細胞(ES細胞)や誘導多能性幹細胞(iPS細胞)は、再生医療への切り札として大きな期待が寄せられています。しかし、ヒトES細胞やiPS細胞(以下、ヒトES細胞など)を活用していくためには、解決すべき技術的な課題がいくつか残されています。ヒトES細胞などを分散培養すると99%が細胞死を起こし、細胞数を著しく損なうことがその一つです。分散培養は大量培養や遺伝子導入など高度な培養に必要な技術です。マウスES細胞など通常の培養細胞では、このような細胞死は見られないため、ヒトES細胞などに特有の現象が起きていることが考えられました。

発生・再生科学総合研究センター器官発生研究グループは、この高頻度で発生する細胞死のメカニズムを解明し、細胞培養の効率化と安全性を向上させる技術を開発しました。ヒトES細胞などを分散培養すると、細胞骨格タンパク質であるミオシンが過剰活性化して、 「過剰な細胞運動(死の舞)」を起こしながら細胞死に至っていました。ミオシンの過剰活性化を阻害すると、細胞死をほぼ完全に抑制できました。一方、細胞運動の調節因子であるRacタンパク質がヒトES細胞の生存を促進することも分かり、分散培養ではこのRacの働きが抑えられるために細胞死が加速していることが判明しました。さらに、細胞死と細胞生存の制御バランスに異常があると、生体に移植した場合に腫瘍を形成する頻度が高くなることも発見しました。

この成果で、ヒトES細胞などの培養が効率化するとともに、再生医療への応用に必須な細胞の品質管理や安全性の向上に確かな道筋が見えました。

独立行政法人理化学研究所
発生・再生科学総合研究センター 器官発生研究グループ
グループディレクター 笹井 芳樹
Tel: 078-306-1841 / Fax: 078-306-1854