要旨
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、トウモロコシなど宿主の根に寄生することで、アフリカを中心に農作物の収穫量へ打撃を与えている寄生植物ストライガ(Striga hermonthica)※1の大規模遺伝子解析を行い、宿主植物の核内にある遺伝子が寄生植物へ「遺伝子の水平伝播※2」している例があることを初めて明らかにしました。これは、理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)植物免疫研究グループの白須賢グループディレクター、吉田聡子研究員、国立大学法人東京大学大学院理学系研究科 野崎久義准教授、丸山真一朗学術振興会特別研究員らによる研究成果です。
寄生植物は、ほかの植物の中に侵入し、水や栄養分を奪って生活する植物です。中でもストライガは、アフリカ地方に広く分布する真正双子葉植物※3で、単子葉植物のトウモロコシやモロコシなどの穀物の根に寄生し、水分や栄養分を横取りして収穫量を減らすため、大きな食糧問題を引き起こします。
研究グループは、このストライガの寄生の仕組みを探るため、ストライガの発現遺伝子の大規模解析を行いました。その結果、宿主であるモロコシにそっくりな遺伝子ShContig9483を発見しました。ShContig9483は448個のアミノ酸からなる機能未知なタンパク質をコードしており、ストライガの核ゲノムに入り込んでいました。この遺伝子は、ほかの双子葉植物ではまったく見つかっておらず、単子葉植物のイネ科に特異的に存在しています。すなわちストライガは、この遺伝子を祖先の双子葉植物から受け継いでいるのではなく、イネ科の宿主植物から獲得しており、水や栄養だけでなく、遺伝子も宿主からもらっていることが分かりました。
今後、ゲノム解析などを通して、ほかにも水平伝播の例があるかどうかを調べ、その遺伝子の機能を解析することで、遺伝子の宿主から寄生植物への水平伝播が、植物の進化にどのような影響をもたらしたのかという謎の解明が期待されます。
本研究成果は、米国の科学雑誌『Science』(5月28日号)に掲載されます。
背景
通常、遺伝子は、親から子へと受け継がれていきますが、親子関係のない生物同士の間でも遺伝子は伝播することが知られています。これは「遺伝子の水平伝播」と呼ばれ、微生物ではよく知られた現象です。しかし、高等植物では、独自のDNAを持つミトコンドリア遺伝子の水平伝播や、核内の遺伝子がゲノム上を転移するトランスポゾンにより近縁種間で起こる水平伝播などに限られていました。また、寄生植物では、ミトコンドリア遺伝子が宿主植物から移行した例は知られていましたが、細胞の核遺伝子の移行の例はまったく知られていませんでした。
研究グループは、アフリカで猛威をふるう寄生植物ストライガ(Striga hermonthica)(図1)に着目し、ストライガの発現遺伝子の大規模解析を行うことで、寄生の仕組みの解明を目指しました。ストライガは、宿主となる植物が存在しないと生きられない絶対寄生植物※4で、イネ科植物の根にとりついて、水や栄養分を奪って生育します。アフリカの主食であるモロコシやトウモロコシ、イネなどイネ科植物に寄生して、穀物の収量に大きな影響を与えるため、農業上の深刻な問題の1つに数えられています。しかし、雑草であるストライガの遺伝子の情報は非常に少なく、どんな遺伝子が介入し、どういう進化を経て寄生を成立させているのか、そのメカニズムについてはまったく分かっていませんでした。
研究手法と成果
研究グループは、大規模発現遺伝子解析(EST解析※5)を行い、17,000個以上のストライガ遺伝子を同定することに成功しました。このうち、ほかの植物に見つかっていない新規の遺伝子は2,300種ありました(BMC Plant Biol.,10, 55 2010)。同定した遺伝子群を解析して、ストライガの遺伝子がほかのどの植物の遺伝子に似ているかを調べたところ、ストライガは、真正双子葉植物に属するため、取得した遺伝子の約8割は真正双子葉植物であるシロイヌナズナやブドウの遺伝子と良く似ていました。しかし、ストライガの宿主となるイネやモロコシなどの単子葉植物に非常に高い相同性を持ち、双子葉植物には存在しない遺伝子を1個(ShContig9483)発見しました。
ShContig9483の系統解析※6を実施したところ、アフリカで実際の宿主となっているモロコシの遺伝子に一番近縁であることが分かりました(図2)。この単子葉植物に特異的な遺伝子は、ストライガが常に親から子へと受け継いできた遺伝子ではなく、その進化の過程で、宿主から獲得した遺伝子であると考えられます。さらに、ストライガのゲノム上で、ShContig9483の隣にあるcis-prenyltransferaseという酵素タンパク質をコードする遺伝子が双子葉植物の系統に近いことも見いだしたため、ShContig9483だけが宿主から伝播したと考えられました。ShContig9483は、核内の遺伝子が宿主から寄生植物へと水平伝播によって移行したことを示す初めての例となりました。
寄生植物は、宿主と維管束系※7を連結して水や栄養分を奪うことが知られていますが、その際に宿主のmRNAなど低分子物質も移行することが知られています。そのため、ストライガは、ShContig9483のmRNAを自身のゲノムに取り込み、自分の遺伝子として使っている可能性が考えられます。
今後の期待
遺伝子の水平伝播は、生物の進化多様性に飛躍的な影響を与えると考えられています。今回見つけたShContig9483 の機能はまだ不明ですが、今後、機能解析を行うことによって、寄生植物ストライガの進化にこの遺伝子がどのように寄与したのかが分かってくると期待できます。また、今回の発見は、大規模遺伝子解析によって生物の進化の謎を解く現象が見つかることを示しました。今後、ゲノム解析などの網羅的な遺伝子解析を行うことによって、寄生植物への遺伝子の水平伝播が、どのような遺伝子に、どのくらいの頻度で起こっているのかを調べ、宿主植物と寄生植物の進化にどのような影響を与えてきたのかを明らかにできると期待されます。
発表者
独立行政法人理化学研究所
植物科学研究センター 植物免疫研究グループ
グループディレクター 白須 賢(しらす けん)
Tel: 045-503-9574 / Fax: 045-503-9573
お問い合わせ先
横浜研究推進部
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113
報道担当
独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel:048-467-9272 / Fax:048-462-4715
お問い合わせフォーム
産業利用に関するお問い合わせ
独立行政法人理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
お問い合わせフォーム
このページのトップへ