細胞の測定データから細胞分化を引き起こす分子回路を同定
-自己の運命を決定づける細胞中のシステム構造を引き出すことに成功-
報道発表資料
私たちの体を構成するすべての細胞は、本をただせば、親から受け継いだ遺伝子セットを持つたった1つの受精卵から発生し、その後、増殖、分化、ときには細胞死などの過程を経て一生を終えます。生物の存在は、すべての細胞が同一の遺伝子を持つにもかかわらず、それぞれの細胞が、環境や生育条件などの影響を受けて自己の進むべき道を正しくたどることで成り立っています。それでは、細胞が自ら運命を決定していくシステムはどのようになっているのでしょうか?
免疫アレルギー科学総合研究センター細胞システムモデル化研究チームの岡田(畠山)眞里子チームリーダーらは、この細胞の分化や増殖などを決定するシステムを、制御工学でお馴染みの電子回路にみたて、実験による測定データに基づいたコンピュータ計算を駆使し、細胞内の分子回路を描くことに挑みました。その結果、分化に向かう細胞は、頑強なシステム構造を利用して、安定な信号出力を出す仕組みを獲得していることを突き止めました。
研究グループは、細胞の増殖を促す上皮成長因子と、逆に細胞分化を促すヘレギュリンという2種類の成長因子を、MCF-7乳がん細胞に別々に投与し、細胞内のタンパク質のリン酸化や転写因子の遺伝子の発現量などを、免疫学的手法や遺伝子増幅法などで、定量的に時系列を追って測定しました。
その結果を基に、微分方程式をモデルにしたコンピュータシミュレーションを行ったところ、分化過程にカギとなる制御分子と、負のフィードバックやフィードフォワード、ANDゲートなどの論理式を用いた分子回路を同定することに成功しました。
この分子回路の理論は、がん細胞、神経細胞、免疫細胞の分化過程にも存在することが示唆されており、細胞の分化過程が持つ普遍的なシステム構造の1つであると期待されます。
独立行政法人理化学研究所
免疫・アレルギー科学研究センター
細胞システムモデル化研究チーム
岡田 眞里子(おかだ まりこ)
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