要旨
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と独立行政法人科学技術振興機構(JST、北澤宏一理事長)は、殺菌効果が高く、ダイオキシンなどの公害物質の高速分解を可能とする波長250nm帯の深紫外※1発光ダイオード(LED)出力を、従来の7倍である15mWと飛躍的に高出力化することに成功しました。これは、理研基幹研究所先端光科学研究領域テラヘルツ光研究グループ・テラヘルツ量子素子研究チームの平山秀樹チームリーダーによる研究成果です。
波長220nm~350nm帯の深紫外光を発する高輝度LEDや同波長のレーザを発する深紫外半導体レーザ(LD)は、殺菌・浄水、各種医療分野、高密度光記録、高演色LED照明、公害物質の高速分解処理などと非常に幅広い分野での応用が期待されています。特に、殺菌効果が最も高い250~280nm帯の半導体紫外光源が実現すると、医療や家庭で用いる小型殺菌灯などの用途が大きく広がります。しかし、これまで深紫外LEDでは、発光領域への電子注入効率※2が10~30%と低く、高効率動作は実現できませんでした。
研究グループは、多重量子障壁(MQB:Multiquantum Barrier)※3層を深紫外LEDに初めて導入し、電子注入効率を80%以上に飛躍的に向上させることに成功しました。この結果、殺菌効果の高い波長250nmのLEDの効率を、従来の0.4%から1.5%まで(約4倍)増加させ、紫外光出力を室温連続動作において従来の2.2mWから15mWまで(約7倍)高めることに成功し、いずれも世界最高値を達成しました。この成果は、今後の医療、殺菌・浄水、生化学産業への応用に向け大きな前進をもたらすと考えられます。さらに、今回用いたMQBによる電子注入の高効率化は、紫外、青色、緑色LDやLED、白色LEDランプなど幅広い発光デバイスにも導入でき、大きな効果が期待できます。
本研究成果は、JST戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」研究領域における研究課題「230-350nm帯InAlGaN系深紫外高効率発光デバイスの研究」(研究代表者:平山秀樹)によって得られたもので、科学雑誌『Applied Physics Express』(3月25日号)に掲載されるに先立ち、2月26日にオンライン版に掲載されます。また、MQBの効果については、2月24日に特許出願しました。
背景
波長が220nm~350nm帯の深紫外光を高効率に発する発光ダイオード(LED)や半導体レーザ(LD)は、殺菌・浄水、各種医療分野、高密度光記録、高演色LED照明、公害物質の高速分解処理など、大変幅広い分野での応用が期待されています(図1)。特に、バクテリアなどの殺菌では、紫外光により直接殺菌する効果が最も高い250~280nm付近の波長領域の光が応用され、有機物、ダスト、ダイオキシンなどの難分解性汚染物質の分解では、酸化チタンなどの光触媒に波長270~320nm帯の紫外光を当て、効率よく分解する紫外線照射システムが注目されています。これまで深紫外光源は、エキシマレーザや各種SHGレーザ(第2高調波発生レーザ)※4のような、ガス・固体を媒体とする紫外レーザやガスランプが主流でした。これらは、大型で、寿命も短く、また高価なため一般への応用が難しいのが現状でした。一方、半導体を使った高輝度の深紫外LEDや深紫外LDが実現すると、コンパクトで安価・高効率・長寿命の紫外光源が得られることになり、応用分野が飛躍的に広がるため、その開発が望まれていました。
窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系の材料※5は、実用可能な深紫外発光デバイスを実現する材料として最も有力であると考えられ、多くの研究グループが、AlGaN系の深紫外発光デバイスの実現に向け、激しい開発競争を繰り広げてきました。研究グループはこれまでに、波長222nm~351nmの広い深紫外領域を持つ三元系半導体のAlGaN系深紫外LED、四元系半導体のInAlGaN系深紫外LEDを開発し、さらに、窒化アルミニウム(AlN)※6バッファー層(下地層)の貫通転位密度※7の低減や、電子ブロック層※8を導入することで、世界最高効率、最高出力動作を実現してきました。しかし、AlGaN系深紫外LEDでは、p型※9層のホール濃度※9が大変低いため、発光層への電子注入効率が10~30%と低く、深紫外LEDの高効率化は難しい状況でした。
研究手法と成果
窒化物半導体の物性としてp型層のホール濃度が大変低いため、深紫外LEDの出力効率を決める電子注入効率(EIE)の改善は困難であると考えられてきました。研究グループは、電子ブロック層として多重量子障壁(MQB:Multiquantum Barrier)を量子井戸発光層の上部(p型層側)に挿入することで(図2)、この問題の解決に取り組みました。
シングルバリア※10の場合、バリアの高さは、バリア最上部のポテンシャルエネルギーで決まり、それ以上のエネルギーの電子は、ほとんど反射されず発光層に戻りません。そのため、エネルギーの高い電子は、発光層に注入されずにp型層側へ流れてしまいます。しかし、MQBを用いた場合には、量子力学的な電子の多重反射効果によって、バリアの高さよりも高いエネルギーの電子も反射され、シングルバリアの場合に比べて、実効的なバリアの高さが約2倍という高い電子ブロック効果を実現できます(図3)。すなわち、従来のシングルバリアの場合は、材料の限界でその特性が制限されるのに対し、MQBでは多層バリア構造を最適化することで量子力学的な電子の多重反射効果を用いることができるため、高い実効的バリアの高さを実現することが可能となります。その結果、MQBを用いた電子ブロック層は、発光層への電子注入効率が、従来のシングルバリア層の10~30%程度から、最大で80%以上と飛躍的に改善しました。
MQBを導入したAlGaN系深紫外LEDの発光スペクトル、紫外光出力、外部量子効率※2を測定したところ、殺菌効果の高い波長領域(250~262nm)で高効率動作を実現しました(図4)。紫外光出力・外部量子効率に関して、従来のシングルバリアのLEDと比較した結果、250nmの深紫外LEDでは、外部量子効率が従来の0.4%から1.5%まで約4倍、紫外光出力は室温連続動作において従来の2.2mWから15mWまでの約7倍増加し、いずれも世界最高値を達成しました。MQBの導入によって電子注入効率は、推定で22%から83%程度に増加しており、MQBによる電子注入効率改善の効果は絶大であることが分かりました。すなわち、p型AlGaNの低いホール濃度に起因する電子注入効率低下の問題は、MQB導入によりほぼ解決できることが確かとなりました。
また、MQBを導入したAlGaN系深紫外LEDの外部量子効率の波長依存性を、従来のシングルバリアの深紫外LEDと比べてみると、波長250~260nm帯で大幅な効率の改善が見られました(図5)。また、MQBは同一周期の繰り返しよりも、変調バリア※11を採用した方が効果の高いことが分かりました。この結果は、まだ実験の初期段階の成果であり、今後MQB構造を最適化するに従い、さらに効率は伸びるものと考えられます。
今後の期待
今回、これまで不可能とされていた深紫外LEDの高効率化に初めて成功し、紫外光出力は、実用レベルを大きく上回ることができました。今後、MQB構造の最適化を行うことで、波長250~280nm帯の殺菌用途深紫外LEDの効率はさらに向上し、波長220~390nmの広い波長領域でも高効率化を実現すると考えられます。また、MQBは、高いエネルギーの電子を反射する効果が高いため、高キャリア密度の場合に特にその効果を発揮し、いまだ実現していない深紫外LDを実現する上で鍵を握る技術となります。
MQBは、紫外発光デバイスだけでなく、すでに高効率化が実現している青色LED、緑色LDやLED、白色LEDランプの効率をさらに改善することも可能です。例えば、MQBを用いると、高い注入電流の場合でも高い電子注入効率(~100%)を保持することが可能なため、青色LEDで問題となっている高出力時の効率の低下の改善が期待できます。
研究グループは、現在6~8%と低い光取り出し効率(LEE)※2の改善に取り組んでおり、1年以内に高効率化が実現すると考えています。今後、深紫外LEDの高効率、高出力が進み、現時点で1.5%の効率を数十%まで高めると、殺菌・浄水、各種医療分野、公害物質の高速分解処理など、多岐にわたる分野での応用が開花すると期待されます。
発表者
独立行政法人理化学研究所
基幹研究所 先端光科学研究領域 テラヘルツ光研究グループ
テラヘルツ量子素子研究チーム
チームリーダー 平山 秀樹(ひらやま ひでき)
Tel: 048-462-1247 / Fax: 048-462-1276
お問い合わせ先
(JSTの事業に関すること)
独立行政法人科学技術振興機構
イノベーション推進本部 研究領域総合運営部
廣田 勝巳(ひろた かつみ)
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