重イオンビームで四季咲きサクラの品種改良に成功
-開花に欠かせない休眠打破の低温要求性を低減、長い開花期を獲得-
報道発表資料
春、一挙に淡い桜色が開花、前線を伴い北上し日本列島を駆け抜けるサクラは、日本人の心の花と評されています。人々は、開花を心待ちにし、満開の花盛りに熱狂し、その余韻にひたりながら散りぎわも見事と驚嘆します。サクラは、花が散るとともに夏に花芽を形成し、晩秋に休眠に入り、冬の寒さにさらされて休眠打破し、早春に花芽が成長、春に一気に開花する、という開花のプロセスを経ます。この一気に目覚めるサクラは、一定期間低温にさらされることが大事で、休眠打破の必須な条件となっています。
しかし一方で、地球温暖化が冬の気温上昇を招き、サクラが咲かなくなるのでは?という心配が、わが国でも現実味をおび始めています。
理研仁科加速器研究センター生物照射チームは、サクラ種苗家のJFC石井農場(山形県山形市釈迦堂)と協力し、重イオンビームの「炭素イオン」を山形13系敬翁桜に照射、野外栽培では春と秋の二季、温室栽培ではいつでも花が咲く四季咲きサクラの新品種「仁科乙女」の作出に成功しました。
重イオンビームを園芸植物に照射して突然変異を誘発する品種改良は、ほかの有用形質に影響を与えずに変異を誘発でき、ガンマ線やX線、化学変異剤処理などの従来手法に比べて生存率が低下しない処理区において変異率が高く、変異株そのものが新品種となるため、育種に要する期間が短縮できるという特徴を持っています。生物照射チームは、この特徴を活用し、ダリア、ペチュニア、バーベナ、ナデシコなどで実用化し、15種の園芸植物で新品種の育成に成功しています。2004年には黄色いサクラ「仁品蔵王」を育成し、理研初の品種登録を行いました。
新品種「仁科乙女」は、山形13系敬翁桜の穂木に炭素イオンを10Gy照射し、敬翁桜に接木した後、生育の良い枝から挿し木苗を増殖、高効率で花が咲く系統を得たものです。温室で栽培したところ、春から四季咲き性を示し、野外で冬の寒さにさらすと4月に一斉に開花し、花数が元品種の3倍程度に増え、春と秋の二季咲きとなりました。「仁科乙女」は、農林水産省に品種登録出願を行い、2009年12月15日に受理されました。新品種は、低温にさらす休眠打破が不要で、一年中花を咲かすことができるため、地球温暖化にも耐え、南方でも咲くサクラとして私たちに新たな楽しみを与えてくれます。