要旨
独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、大規模データ解析により、ゲノムの多くを占めていて、主にレトロトランスポゾン※1やその残骸などに由来する反復配列※2が生物にとって必須の働きをしていることを明らかにしました。理研オミックス※3基盤研究領域 (OSC、林崎良英領域長)ゲノム機能研究チーム(ピエロ・カルニンチ チームリーダー)が、「国際FANTOMコンソーシアム※4」(統括:林﨑良英)の活動の一環として、文部科学省ゲノムネットワークプロジェクト※5と連携した研究成果です。
これまでの研究から、ほ乳類のゲノムの約45%は、反復配列からなっていることが分かっていました。これら反復配列は、さまざまな役割を持つことが推定されていましたが、全ゲノムにわたって解析することが困難でした。今回、研究グループでは、理研OSCが開発したCAGE(Cap Analysis of Gene Expression)法※6を用いて、これらの転写産物をゲノムワイドに調べた結果、ヒトおよびマウスのRNAの約30%が、反復配列の中に転写開始点があることがあることを見いだしました。このようなRNA約25万種類を詳しく分類したところ、その発現が細胞ごとに異なることや、遺伝子が高密度に存在するゲノム領域に特に集中的に存在していることが分かりました。中でも、タンパク質をコードしている遺伝子の先頭部分に位置する反復配列は、選択的プロモーター※7として働き、細胞や発生段階に応じて転写するRNAを切り替えていることを突き止めました。一方、RNAの末尾部分に反復配列があると、そのRNAの発現が抑制されることもわかりました。このことから、反復配列が遺伝子の発現をさまざまな機構で制御していることが強く示唆されます。
今回の成果により、ほ乳類の進化の過程で、レトロトランスポゾンに含まれるプロモーター活性をもつ反復配列が、ゲノム上のさまざまな位置に挿入され、それまでは転写されていなかった遺伝子を発現させるようになったと推定されます。その多くは、現在ではもはやレトロトランスポゾンとしての機能は失い、生物にとって必須の転写制御という役割をもつに至ったものと考えられます。
今回の成果は、米国の科学雑誌『Nature Genetics』の特集号に掲載されるに先立ち、4月19日(日本時間4月20日)付でオンライン掲載されました。
背景
ヒトをはじめとするほ乳類のゲノム解読が行われた結果、ほ乳類ゲノムの約45%は、レトロトランスポゾンやその残骸などに由来する反復配列であることが明らかになりました。しかし、これほど多くの部分を占めるにもかかわらず、反復配列の存在意義はよく分からず、大半が「がらくた」と考えられたこともありました。最近になって、いくつかの限られた遺伝子についての研究から、これらの反復配列が、遺伝子発現制御にかかわり、進化における新たな機能の獲得との関連があると指摘されてきました。しかし、従来のマイクロアレイ※8を用いた方法では、ゲノム上に多数ある反復配列の複数個所に、同じ認識配列で結合してしまうことが障害となり、ゲノム全体にわたって反復配列と遺伝子発現の関連を調べることはできませんでした。
研究手法と成果
FANTOMは、理研のマウスエンサイクロペディアプロジェクト※9で収集した完全長cDNAのアノテーション(機能注釈)を行うことを目的に、2000年に結成された国際研究コンソーシアムで、参加国数が15カ国、参加機関が51機関に上ります。 これまでにFANTOM 1~4の4つの段階※10の活動を行ってきました。アノテーションパイプラインの確立を目指したFANTOMの活動は、急速に発展・拡大し、FANTOM3では、トランスクリプトーム解析からRNA新大陸※11の発見をもたらし、大きな反響を与えました。RNA新大陸の発見は、FANTOM3の活動と文部科学省ゲノムネットワークプロジェクトの活動で得た成果です。最新のFANTOM4プロジェクトでは、本研究成果のほかに、転写制御ネットワーク※12の解明や(2009年4月20日プレスリリース)、新しいRNAの発見と特徴を詳しく解析し、報告しました。このFANTOM4で用いた独自術であるCAGE法では、転写されたRNAの先頭部分(Capサイト)を捕捉して、その塩基配列を決定し、ゲノム配列と比較することで転写開始点をきわめて正確に同定すると同時に、その転写開始点ごとの発現量をほぼ定量的に計測することができます。
そこで、研究グループでは、このCAGE法により、ヒトで12種類、マウスで13種類の組織について、ゲノム全体にわたる転写開始点のマップを作成しました。これをもとに、反復配列と遺伝子発現の関連を調べたところ、マウスで44,264種類、ヒトで275,185種類の転写開始点が反復配列の中にあることが明らかになりました。これは、これまでにわかっている転写開始点のうち、マウスでは18.1%、ヒトでは31.4%に上ります。さらに、組織ごとに精査すると、ヒトでは特に胚で発現している遺伝子に反復配列と関連あるものが多く、およそ30%に上ることがわかりました。このほかにも、反復配列の発現には組織特異性が見られ、何らかの機能と関連していることが予想されました。
次に、タンパク質をコードする遺伝子に注目して、反復配列と遺伝子発現の関連を調べました。この結果、マウスで15,518種類、ヒトで117,165種類の反復配列部分が選択的プロモーターとして働いている可能性が示唆されました。これらのうち、ヒトの24種類の反復配列を選んで、ヒト白血病由来の免疫細胞株(THP-1)やヒト肝臓がん由来細胞株(HEPG2)を用いて発現実験を行うと、15種類が実際に選択的プロモーターとして機能していることを実証しました。
一方、RNAの末尾部分(3’末端)に注目すると、マウスで27.7%、ヒトで28.5%のRNAが反復配列を含んでいることがわかりました。このようなRNAは、まったく反復配列を含まないRNAに比べて、発現量が約60%も少ないことが明らかになりました。
今回の成果から、ほ乳類ゲノムの約45%を占める反復配列が、転写をコントロールする役割を果たしており、個体の発生と生存に必須のものであることが明らかになりました。この事実は、ほ乳類が進化の過程で、時には生存の脅威ともなるレトロトランスポゾンを逆に利用して、新たな遺伝子を発現させ、多様性を獲得していたことを示唆するものです。
今後の期待
今後、これらの反復配列がどのようなメカニズムで転写を制御しているのかに関する詳しい研究が進むものと期待されます。
将来的には、反復配列を制御することで、iPS細胞や皮膚の細胞を、目的とする細胞に分化させるといった技術の一部として、再生医療につなげられるよう研究を進めていきます。
発表者
独立行政法人理化学研究所
オミックス基盤研究領域 ゲノム機能研究チーム
チームリーダー Piero Carninci (ピエロ・カルニンチ)
Tel: 045-503-9222 / Fax: 045-503-9216
お問い合わせ先
横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113
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独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
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