ペプチドによる迅速かつ簡便な植物遺伝子導入法の開発(理研№:23760, 23960)
発明者
沼田圭司(酵素研究チーム)、吉積毅(慶應義塾大学)、児玉豊(宇都宮大学)
技術の背景
植物細胞に外来遺伝子を導入することによって、交雑育種では付加できない有用な形質を植物に付与することは、今後の農作物の改良と農業の発展に極めて意義がある。また、石油依存の物質生産に替わる新規の物質生産法として、二酸化炭素を原料とした植物による物質生産を実現するためには、植物の遺伝子組換え技術の利用は不可欠である。アグロバクテリウム法、パーティクルガン法などが知られている。アグロバクテリウム法は、植物細胞への遺伝子導入において、最も一般的に用いられる方法である。しかし、このアグロバクテリウム法では遺伝子導入をすることができない経済的に重要な植物が多く存在するのが現状である。パーティクルガン法は、アグロバクテリウム法と比較して汎用性が高いが、装置コストが高く、遺伝子損傷のリスクがあるとともに、形質転換効率も低いという問題がある。したがって、簡便で、かつあらゆる種類の植物及び遺伝子に広く適用可能な、新しいタイプの遺伝子導入方法が求められている。
技術の概要
オルガネラ形質転換法を特異的なペプチドおよびシリカ粒子を用いることで可能にし、葉緑体やミトコンドリアにおいてバイオ物質を効率的に生産することを目的とする。ここでは、オルガネラを問わず遺伝子を細胞内に導入する方法を紹介する。細胞膜透過配列およびポリカチオン配列を有する融合ペプチドを合成し、遺伝子との複合体を調製することに成功した。調製した複合体を用いることで、シロイヌナズナおよびタバコの葉に対し、レポーター遺伝子を導入することに成功している。シリカナノ粒子を用いることで、更なる効率化およびオルガネラに対するターゲット特異性を付加することを試みており、ペプチド、遺伝子およびシリカナノ粒子から成る複合体も検討中である。
表1: ペプチドによる遺伝子導入法と既存技術との比較
| 技術名称 |
研究フェーズ |
葉緑体・ミトコンドリア 選択性 |
遺伝子サイズ |
植物への汎用性 |
手法としての 利便・汎用性 |
| アグロバクテリウム法 |
実用化済 |
無し(核) |
200kbp以下 |
小(アグロバクテリウムが感染する植物のみ) |
大(特殊装置は必要ない) |
| パーティクルガン法 |
実用化済 |
無し(偶発的) |
50kbp以下 |
大 |
小(特殊装置を要する) |
| 本研究 |
基礎研究段階 |
90%以上(目標値) |
200kbp以上も可能 |
大(ほぼ全ての植物種) |
大(特殊装置は必要ない) |
図1:Plant Factory : production of bioplastic
技術の利点
本技術は、簡便でかつ様々な種類の植物及び核酸に広く適用可能な、植物細胞への核酸導入方法を提供することを目的とする。我々は、細胞透過性配列とポリカチオン配列とを組み合わせた融合ペプチドを遺伝子キャリアとして構築し、当該キャリアペプチドを核酸と混合して複合体を形成することにより、植物細胞に対して優れた遺伝子導入効率を達成できることを見出した。さらに、この核酸導入方法は、特殊な装置や特定の微生物・ウィルスを利用する必要がないため、幅広いユーザーが活用することが可能となる。この成果により、簡便でかつ様々な種類の植物細胞及び核酸に広く適用可能な、植物細胞への核酸導入方法が提供される。
応用が期待される分野
本研究が予定通りに達成されれば、研究植物だけでなく様々な実用植物種を簡単に物質生産技術に利用できるようになり、バイオプラスチックやバイオ燃料等のバイオ物質を二酸化炭素から生産可能な新規植物種を作出できる。本研究成果により、バイオ物質だけでなく、ファインケミカル、化粧品等の化成品原料、医薬用タンパク質、食料、エネルギー物質等の幅広い分野の物質生産を、植物及び二酸化炭素を活用した新しい物質生産技術で代替し、新バイオ産業及び低炭素社会の構築を同時に実現できる可能性がある。物質生産への応用だけでなく、乾燥地の緑化や汚染地域の浄化等への応用も可能である。
(文献情報)
- Manoj Lakshmanan, Yutaka Kodama, Takeshi Yoshizumi, Kumar Sudesh, Keiji Numata*. Rapid and Efficient Gene Delivery into Plant Cells Using Designed Peptide Carriers. Biomacromolecules, Volume 14, Issue 1, pp10-16, 2013.
- Keiji Numata, Takeshi Yoshizumi, Yutaka Kodama, Method of introducing nucleic acids into plant cells. Application Date: 2012/8/22, Patent No: 61/691,833, Country: US PCT Int. Appl.
- 植物細胞に核酸を導入する方法(PCT出願済)
(2013年4月掲載)