強相関酸化物を用いた新しいスイッチング素子(理研No: 23548, 23549)
発明者
中野匡規、畑野敬史、小野新平、岩佐義宏、渋谷圭介、川崎雅司、十倉好紀(基幹研究所 交差相関物性科学研究グループ)
キーワード
電気二重層、相転移、結晶構造
背景
コンデンサの蓄電効果を利用した電界効果トランジスタ(FET)は、電圧による電気抵抗のスイッチング機能を提供する基本素子であり、コンピュータや携帯電話などの電子機器には欠かせない要素技術の1つである。従来の半導体エレクトロニクスでは、シリコンを基盤としたFETを微細化・高集積化することによる高性能化を目指してきた。しかしFETの微細化には限界があり、それを乗り越えるためにシリコン以外の物質を用いた新しい情報処理技術の開発が盛んに行われている。その候補材料の一つに、電子同士が強く相互作用する結果として、高温超伝導や超巨大磁気抵抗効果など、従来の常識とはかけ離れた性質を示す「強相関酸化物」がある。高温超伝導体の発見以後、この物質群を対象として膨大な研究が行われ、強相関電子が生み出す多彩な電子相と、それに起因した特異な諸性質が次々と明らかになってきた。しかし一方で、エレクトロニクス応用をダイレクトに意識させるような成果はこれまで挙げられてこなかった。材料として非常に高いポテンシャルを持ちながらも、それを外部から応用上重要な「電圧で制御」するすべがなかったのである。
技術の概要
本技術では、従来の固体誘電体の代わりに固体・電解質界面に自発的に形成される「電気二重層」を利用することで、強相関酸化物の性質を電圧で制御する方法を提供する。プロトタイプとして代表的な強相関酸化物である二酸化バナジウム(VO2)を用いたデバイスを作製したところ、たった1 V程度の電圧で絶縁体から金属に変化(相転移)し(右図)、その前後で結晶構造も変化することがわかった。また、この電圧で誘起した低抵抗状態(金属状態)は電圧を遮断しても長時間保持され、不揮発性を示すことが分かった(右挿入図)。さらに、絶縁体状態と金属状態では赤外線領域の光透過性が大きく異なり、電圧でスイッチング可能な熱線カットフィルターとしても利用できることが分かった。従来のシリコンをベースとしたFETは、単に電気抵抗をスイッチする素子であるが、強相関酸化物をベースとするFETはそれに加えて結晶構造や光透過性もスイッチ可能であることが明らかになった。
(文献情報)
- M. Nakano, K. Shibuya, D. Okuyama, T. Hatano, S. Ono, M. Kawasaki, Y. Iwasa, and Y. Tokura, Nature 487, 459 (2012).
- 特願2011-163950、特願2011-163951
利点
- 乾電池程度の低い電圧で巨大な抵抗変化を実現可能
- 電圧によるエネルギー損失の少ないスイッチングが可能
- 電気的性質に加えて結晶構造や光透過性もスイッチング可能
応用
- 超低消費電力トランジスタ
- 不揮発性メモリ
- 光スイッチ
(2012年11月掲載)