iPS細胞の万能性維持に関わるタンパク質 (理研No: 23410)
発明者
長谷川 由紀、アリスター フォレスト、鈴木 治和(オミックス基盤研究領域 LSA要素技術開発グループ)
背景
ES細胞、iPS細胞は未分化細胞であり、その多分化能から再生医療等への応用が注目されている。これら細胞の培養には、一般的に、繊維芽細胞等のフィーダー細胞を使用する培養法が利用されている。また、近年では、フィーダー細胞を使用しない培養方法も構築されている。しかしながら、これらの公知の培養方法によっても、ES細胞、iPS細胞の未分化状態を十分に維持できないという問題がある。例えば、マウス由来ES細胞、iPS細胞の場合、分化抑制因子としてLIF (Leukemia Inhibitory Factor:白血病阻害因子)が培地に添加されるが、フィーダー細胞から分泌される同量のLIFの添加のみでは十分な未分化状態の維持が実現できていない。また、ヒト由来ES細胞、iPS細胞では、 未分化状態を維持、向上するための有効な手段が確立されていない。
技術の概要
本発明では、ES細胞、iPS細胞の未分化状態を維持、向上させる為の新たな培地中の成分として、 ケモカインの一種であるCCL2の機能ドメインを含むタンパク質の提供を目的とする。 ES細胞、iPS細胞を培養する際に、CCL2の機能ドメインを含むタンパク質を含む培地を使用することで、これらの細胞の未分化状態を維持、向上させることが可能となる。本発明は、ES細胞、iPS細胞等を利用した再生医療を始めとする様々な医療やその研究に有用である。
図1:CCl2 遺伝子の強制発現による 各遺伝子の発現上昇(右)
Ccl2 遺伝子を強制発現させることで、特にSox2、Klf4、Tbx3、Nanog 遺伝子の発現が上昇した。
図2:マウスNanog-GFP iPS細胞による
万能性の評価
未分化状態から、分化が進んで分化多能性が減少する様子と(左図)、緑色の強度と細胞数の関係(右図)。分化多能性が減少するにつれて、蛍光タンパク質が発する緑色の強度が減少し(左図)、強度の強かった細胞が次第に減少する(右図)。この方法により、iPS細胞の万能性を定量的に評価できる。
図3:各LIF濃度でのCCL2タンパク質添加による
iPS細胞の万能性の向上
CCL2 タンパク質のiPS 細胞に対する万能性維持能を、各LIF タンパク質の濃度でGFP発現を指標として調べた。フィーダー細胞が分泌する濃度と同等の25u/mlでは、CCL2タンパク質の添加により、iPS細胞の万能性維持が劇的に改善された。同様の効果はES細胞でも確認された。
図4:CCL2タンパク質が作用する
LIFシグナル経路
CCL2タンパク質の情報伝達経路をLIFタンパク質と比較解析した。CCL2タンパク質の添加により、リン酸化 Stat3が有意に増加したことから、CCL2タンパク質はJak-Stat パスウェイを活性化して情報を伝達し、iPS細胞の万能性を維持することが分かった。CCL2タンパク質を添加しても MAPK や Akt のリン酸化に変化はなく、Grb2 およびPI3K パスウェイ化は観察されなかった。PI3K-Akt 系パスウェイを活性化しないことは PI3K 阻害剤である LY294002 を用いた実験でも確認された。
(文献情報)
- CC chemokine ligand 2 and LIF cooperatively promote pluripotency in mouse induced pluripotent cells. Yuki Hasegawa et al. Stem Cells. 2011 Aug:29(8):1196-205
- PCT/JP2012/058665
利点
- ES細胞、iPS細胞の未分化状態を維持、向上に働く。
- 未分化細胞の状態の均質化に役立つ。
応用
- Jak-Stat経路による情報伝達が未分化状態維持に重要な幹細胞であれば、ES細胞、iPS細胞に限らず、体性幹細胞、胚性腫瘍細胞、始原生殖細胞等についても適用できる。
- ヒト由来の未分化細胞について、エピブラストからブラストシストへの脱分化の進行を促進させる。
(2012年11月掲載)