アブシジン酸輸送タンパク質を過剰発現する植物及びその作出方法 (理研No: 22958)
発明者
黒森崇、篠崎一雄 (植物科学研究センター 機能開発研究グループ )
キーワード
ストレス耐性植物、遺伝子組換え植物、アブシジン酸
本技術の特徴
植物は、乾燥状態になると気孔を閉じて水分の蒸散を防ぎますが、この気孔閉鎖の誘導は、植物ホルモンアブシジン酸(ABA)の働きによることが以前から知られています。ABAは乾燥だけでなく、さまざまな環境ストレスにより誘導されて植物を守る働きをするため、植物のストレスホルモンとも呼ばれています。
このABAに関しては、これまで受容・シグナル伝達・遺伝子発現など、細胞「内」での事象については多くの研究が展開されており、その研究成果が育種にも利用されてきました。一方で、細胞と細胞の「間」でのABAのやり取りや移行の実態、また生体内でのABAの移動による環境耐性への影響やその利用価値に関しては、ほとんど知見がありませんでした。
この度弊所では、ABAの機能に関係する新しい遺伝子変異体を選別して解析した結果、原因遺伝子であるAtABCG25を同定し、この遺伝子がコードするタンパク質がABCトランスポーターと呼ばれる生物界に広く保存される輸送因子ファミリーの1つで、細胞の内側から外側へABAを運び出す機能を持つことを初めて突き止めました。植物は、一見受動的と考えられがちですが、外的環境の変化に対応して、能動的にABAを細胞外へ運び出す精巧なメカニズムを持っていることが分かりました(Kuromori T et al, PNAS, 2010)。
更に、このABA輸送因子であるAtABCG25を過剰発現させた植物体を作ったところ、この植物体(過剰発現ライン)では気孔からの蒸散抑制により葉の温度が通常より高く維持されており、実際に葉からの水分蒸散が40%程度抑えられていることを見いだしました(図A, B, C)。また、乾燥状態に置いた植物体の生存率も野生型植物に比べ高まっていました(図D)。
従来、ストレス耐性の向上は、ABAの合成経路を強めたり、ABAによって誘導される遺伝子を増やすなどの方法が試みられてきましたが、これらのやり方では成育阻害という副作用が起きてしまいます。今回の方法は、ABAの輸送を制御する方法を提示したもので、成育阻害が起きていません。
この方法は、これまでとはまったく異なり、ABAの生体内での輸送や移行の制御により乾燥耐性植物の作出が可能であることを明らかにしました。また、この方法により、生育阻害という副作用がほとんど無い条件で、ストレス耐性能を備えた植物の育種を可能にすることが期待できます。
(文献情報)
- PCT/JP2010/073664
(2011年7月掲載)