白血球幹細胞の製造方法 (理研No:21661)
発明者
河本宏、伊川友活 (RCAI 免疫発生研究チーム)、桂義元
背景
多能造血前駆細胞を試験管内で増幅させることができれば、さまざまな細胞療法の材料として用いることができる。そのため、これまでに多くの研究が行われ多能造血前駆細胞の自己複製を誘導する外的因子が数多く発見されて来た。これらの成果をもとに、当該細胞の維持のために必要な因子を培養液に添加する方法、転写因子HoxB4の強制発現により増幅効率を上げる方法等が開発されてきた。しかしながら、これらの増幅の効率はせいぜい数百倍か数千倍程度であり、かつ多能性を維持することが困難なため真の自己複製というには程遠い状況であった。
技術の概要
発明者等は、これまでB細胞分化に必須である転写因子E2Aを欠損するマウスにおいて、ミエロイド-リンパ系の細胞が共通前駆細胞段階で分化を停止し、この分化停止した細胞が多能前駆細胞として自己複製することを明らかにして来た。
この現象に着目し、「分化阻害することにより自己複製を誘導する」という従来とは異なる発想に基づき検討を行った結果、E2Aの機能阻害を誘導的に行えば多能前駆細胞が増幅できることを見出した。
実施例のひとつとして、E2AなどのE蛋白のドミナントネガティブ因子として働くId蛋白の一種であるId3という転写因子の強制発現を行った。マウスの造血前駆細胞にId3を強制発現させB細胞分化誘導条件で培養したところ、前駆細胞段階で分化が停止し自己複製を開始した(図1)。この細胞は、月に一千万倍の割合で増え何ヶ月でも維持できた(図2)。この細胞をマウスの生体内に投与すると、好中球、マクロファージ、樹状細胞、T細胞などに分化した(図3)。また、Id3の発現が自然に低下した前駆細胞からB細胞が生成すること、また赤血球はほとんど生成しないことがわかった。これらから本発明で維持・増殖できる細胞は白血球をつくることのできる幹細胞といえる。
なお、ヒト前駆細胞を用いた場合でも同様の細胞を作製することに成功している。
図1 白血球幹細胞の作製
図2 白血球幹細胞はほぼ無限に増幅できる
図3 白血球幹細胞は生体で各種白血球を生成する
(文献情報)
- Ikawa, T. et al, Immunity. 20: 349-360, 2004, WO2009/113595
利点
- 白血球をつくる多能造血前駆細胞を無限に増幅させることができる。
応用
- がんに対する免疫細胞療法などにおいて、T細胞、NK細胞、樹状細胞などの材料として用いることができる。
(2012年2月掲載)