協同現象を示す細胞を用いた情報処理システム(理研No: 20010)
発明者
青野真士、原正彦(揺律機能研究チーム)
キーワード
バイオコンピュータ、ウェットウェア、バイオ情報インターフェース
本技術の特徴
生物細胞組織は、自律的な内部ダイナミクスをもっており、環境中の外部刺激が一義的にその動作を決定する人工デバイスとは異なり、状況に応じて合理的な振舞いを効率よく選択することができます。例えば、脳の柔軟な意思決定を司る神経細胞群、心臓をダイナミックに拍動させる心筋細胞群、粘菌の環境適合的な変形を担うアクトミオシンタンパク群は、近接する素子群との相互作用を通し、時空間的に秩序立った協同現象を示しながら、環境情報を創発的に処理しています(図参照)。
この度弊所では、協同現象を示す細胞組織を、最適化問題の解探索をはじめとする、様々な計算処理に用いる情報システムを提案しました(文献情報1)。その一例として、アメーバ状単細胞生物・真性粘菌Physarum Polycephalumを組込んだシステムが、最も難しい組合せ最適化問題のひとつとして知られる巡回セールスマン問題の解探索に適用できることを示しました(文献情報2)。嫌光応答を示す粘菌は、光刺激被照射リスクを最小化しつつ体面積を最大化できる形状へと変形することで、エネルギー極小安定解を探索することができます(図参照)。さらに、その内部ダイナミクスの不安定性と揺らぎにより、最初に得られた解とは異なる他の解を自発的に導きだすことができます。
粘菌のみならず、自発的挙動を示す細胞組織は全般的に、ユーザーが与えたプログラムを自律的に書換えて能動的に学習/適応していくハードウェアであるとみなすことができ、既存のデジタル計算機の動作が受動的なものに限定されるのとは対照的に、事前に不確定な環境中で素早く正しい動作を選択しなければならない場面において、優位性を発揮するものと予想されます。また弊所では、こうした情報処理システムが実用化されれば、世界で初めて開発された、生きた細胞組織を用いたバイオコンピュータの例を与えることとなり、歴史的な意義も大きいものと考えております。
(文献情報)
- 特願2001-291235: 脳の精神的な機能をモデル化した人工ニューラルネットワーク構造の形成方法
- T. Hoya, Artificial Mind System - Kernel Memory Approach, Springer-Verlag, Heidelberg, 2005.
(2011年10月掲載)