当研究室では、「分子」を構成成分とする、新しい電気伝導体・超伝導体の開発を行っています。

加藤主任研究員による一般向けセミナー「分子性固体中の伝導性π電子」もあわせてご覧ください。 →講義資料    →動画

分子性導体の特徴として、以下のような点があげられます。


分子の構造は一見複雑です。しかし、結晶全体の電子構造を考える場合は、分子を1つのユニットと考えることができるので、計算は驚くほど簡単になります。
電気伝導体の物理的性質を議論するためには、そのバンド構造を理解することが第一歩です。エネルギーバンドを計算で求めること(バンド計算)は一般には大規模な計算を必要としますが、分子性導体は、単純な近似計算(“束縛された電子に対する近似”;伝導電子は、「分子」のフロンティア軌道の間を跳び移ると考える。化学者にとってなじみの深いヒュッケル分子軌道法を結晶に拡張したものと思って下さい)が現実の系を記述するのに極めて有効であるという、際立った性質を持っています。
このことは「素性」のはっきりした舞台の上で物理現象を解析できるということを意味します。


これは、文字どおりの意味もありますが(実際、分子性導体は無機物に比較してはるかに低い圧力で、構造や電子状態の変化が観測されます)、物性が外場(光、電場、磁場、圧力等)あるいは微細な分子修飾に対して敏感に対応するという意味も含まれています。


「分子」は極めて多様です。しかも、その多様性は合成化学的に創り出されるものです。我々は、無限に拡がる周期律表を手にしていると言えます。分子修飾によって物性を微細に制御することが可能な点は、分子性導体ならではの特質と言えます。


電子の動きが1次元または2次元の空間に制限された低次元電子系では、電子はその不自由さ故に種々の特異な物性を示します。
元々、平面的なπ分子から構成される分子性導体は、平面分子が面と面を向かい合わせて積み重なったカラム構造をとることが多く、(カラム方向に沿って電気を流す)1次元導体としてこの世に生まれました。
その後、分子修飾等を工夫することによって、2次元的分子配列をとるものが多く創り出されてきましたが、未だに3次元電子系の数は(DCNQI)2Cu等少数に限られています。


電子間の相互作用が非常に強く、お互いにせめぎ合っている強相関電子系では、電荷・スピン・軌道といった電子の内部自由度があらわに顔を出し、これらが複雑に絡み合うことにより多彩な物性が現れます。
銅酸化物高温超伝導体はその代表例ですが、分子性導体もその多くが、強相関電子系としての性格を持っています。


当研究室では、分子集合体の物性を合成化学的手法あるいは物理的手法で制御し、分子性物質の新しい電子状態を開拓することを目指しています。「分子」に注目していますので、研究対象とする系は、有機・無機を問わず広範囲にわたります。





物質合成および単結晶作成が当研究室での仕事の最も基本となります。
まず、「ものづくり」です。得られた新化合物の評価には 、単結晶X線構造解析(室温−7K)や電気伝導度測定(常圧−約 20 kbar、室温−1.5K)等の手段を用いています。
さらに、物質設計の見通しをたてるために分子軌道計算や簡単なバンド計算を用いています。

 


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