
創薬研究においてはモデル動物の利用が有益です。現在欧米では全遺伝子を標的とした大規模ノックアウトマウス計画が始まろうとしています。我が国においても、創薬研究を効果的に推進するために、疾患モデルマウスに関するリソースを整備し、その利用に関する技術を開発することが重要です。
マウス基盤ユニットでは、米国ジャクソン研究所、EMMA (European MutantMouse Archives)と並んで、世界のマウスセンターの中核的拠点として認知されている理研BRCのリソースを活用ます。そして、疾患モデルマウスの基盤強化とその積極的な活用を支援します。具体的には、変形性関節症(OA: Osteoarthritis)モデルマウスをはじめ、マウス基盤ユニットが持つ60種以上のヒト疾患モデルマウスを理研内外に提供します。また、BRC日本マウスクリニックで構築される網羅的かつ高度に標準化された、26週で400項目の検査を実施するハイスループットなマウス表現型解析を行い、マウスの系統間で直接比較が可能な統計数値データおよび疾患表現型データを集積します。さらにマウス系統名、遺伝子および変異、プロトコル、表現型名などのデータについて、国際標準化されたデータの枠組みに合ったデータベースを構築します、それにより、薬効予測システムをはじめとした創薬開発にとって有用なマウス表現系データの提供を行います。
創薬研究の促進に向けて、マウス表現型解析技術ならびに充実したヒト疾患モデルマウスという2つの技術基盤を整備し、薬効試験や薬物動態試験ツールの提供を通じて、様々な創薬研究を支援します。
マウス基盤ユニットでは、これまでの研究成果からすでに変異原因遺伝子の同定が済んでいる62種のヒト疾患モデルマウスをはじめ、疾患により分類された様々な突然変異マウスを開発しています(表1)。
疾患モデルマウス例1:変形性関節症 (OA: Osteoarthritis)モデル
変異遺伝子:ヒトGDF5 (Growth and Differentiation Factor 5)
主な表現系:関節変形, 関節可動域の低下
疾患モデルマウス例2:注意欠陥多動障害(AD/HD :Attention deficit hyperactivity disorder)モデル
変異遺伝子:Grin1(NMDA受容体サブユニットζ1)
主な表現系:恒常的な高活動、注意の低下(探索行動の短縮)、精神刺激薬(メチルフェニデート:MPH)による活動抑制、MPH投与前後ともに特徴的なc-Fos 発現パターンを示す(前頭前野、線条体)
上記の突然変異マウスに関する詳細な情報は、理化学研究所ゲノム科学総合研究センター(GSC)の突然変異マウス表現型データベース「PhenoSITE」にて公開されており(図3)、変異体データ・基準データ・解析SOPの閲覧と突然変異マウス譲渡に関する申し込みが可能となっています。
>>突然変異マウス表現型データベース「PhenoSITE」はこちら
これまで理化学研究所ゲノム科学総合研究センター(GSC)では表現型解析プラットフォームを構築し、一念に突然変異マウス発見に努め、モデルマウスの開発に重点を置いてきました。その結果、60種を超えるヒト疾患モデルマウスをはじめ、数多くの有用なモデルマウス開発に成功しています。マウス基盤ユニットでは、これまでの研究成果を理研内外で活用していくために、ヒト疾患モデルマウスの網羅的表現型解析と、その数値データに対する情報拡張整備を行います(図2)。疾患モデルマウスの網羅的表現型解析では、BRC日本マウスクリニックにて、目視による行動および外見の検査であるodified-SHIRPA、血液像検査、尿検査、血液生化学検査、PTZ誘発によるてんかん発作誘発検査、X線撮影、行動様式検査であるOpen field、Passive avoidance、Home cage activityの各検査、血圧検査、剖検検査など約400項目の検査をシステマティックに行うことで、26週という非常に短い期間で表現系解析を行います。さらに長期間飼育したマウスに対しても、いくつかの検査を行うことにより、老化に伴う病態/表現型のスクリーニングも行います。本検査により得られた数値データは、測定値の分布が正規分布とは限らず、系統差・性差が存在する場合もあります。そのため、ゆがんでいる分布は正規分布に近づけるようにBox-Cox変換を行うとともに、各系統・性別それぞれに基準範囲を設定する形で統計学的な評価を行い、異常値を分かりやすく示します。また、それだけでなく、同一の基準の上で、変異マウス系統間での表現型データの直接比較を行える体制を整備します。さらに疾患モデルマウスの表現型数値データに対する情報整備拡張では、「マウスクリニック」より得られたデータを、理研のライフサイエンス系総合データベースに格納します。そして、それとともに、国際的に標準化されたデータの枠組みに合った語彙、およびマウス系統名、遺伝子および遺伝子変異、詳細な表現型解析方法、各数値の評価、表現型の名称等の個別情報との関連づけを述語的な情報リンクを用いて実施します。さらに、これらの疾患モデルマウスの表現型に注目した、ヒト疾患データとの関連性を定義します。
