創薬・医療技術基盤プログラム

細胞イメージング基盤

細胞イメージング基盤

 先端未来基盤(育成基盤)細胞イメージング(脳科学総合研究センター・先端基盤技術コア・細胞機能探索技術開発チーム)では、狙った生体分子を細胞内で光らせてその動きを追跡したり光の色の変化をとらえることにより、生きた細胞の生命活動を「見る」研究を行っています。

活きた細胞を見る

図1 生きた細胞を見る

 狙った蛋白を光らせる蛍光タンパクを動物個体に遺伝的に導入すれば、脳や心臓、骨格筋など、興奮性細胞によって構成される組織・器官で起こる動的現象を詳細に「見る」ことが可能となります。「見る」ために必須な細胞機能探索技術と最近の研究を簡単に説明しながら、細胞イメージング研究を紹介します。

FRETの原理

 蛍光タンパク質を利用していろいろな波長の光を研究に用いています。蛍光タンパク質の光は、FRET(Fluorescence Reasonance Energy Transfer。蛍光のエネルギー移動:近接する2つの分子の間で励起エネルギーが電子の共鳴により直接移動象)の現象として知られています。励起状態にある発光団(エネルギー供与体)の発光が起こらないうちに、その励起エネルギーによってエネルギー受容体が励起されることがあります。そのエネルギー受容体分子が蛍光タンパク質であれば固有の蛍光を発します(図2a)。FRETの効率にはエネルギー供与体と受容体との間の「距離と配向」が重要な因子であることが知られています。それら因子はFRETに分光学的な定規としての特性を与えてくれます(図2b)。

FRETの重要な要素

図2a  FRETの重要な要素

2つの蛍光分子の相対位置関係とFRETの関係

図2b 2つの蛍光分子の相対位置関係とFRETの関係

蛍光タンパク質

 狙った生体分子を光らせる蛍光タンパク質を探すには、刺胞動物であるサンゴを用いています。蛍光タンパク質をコードする遺伝子をクローニングから開始します。サンゴから全RNAの抽出後、特別な酵素を使ってRNAを鋳型にしてDNAを作り、大腸菌に導入します。寒天プレート上でコロニーとして生育させた大腸菌にいろいろな波長の光をあて蛍光を発するものを肉眼で探します。ヒユサンゴ(図3)を用いた探索では、全RNAから15万個のコロニーをつくり、そこから緑の蛍光を放つものが一つ見つかりました。

ヒユサンゴの写真。ここから「カエデ」の遺伝子が単離された。

図3 ヒユサンゴ
ここから「カエデ」の遺伝子が単離された。

 その大腸菌を大量培養し蛍光タンパク質を調製したところ非常に明るい緑色の蛍光を発するもの(カエデ)を得ることができました(図4a)。

 カエデは、紫外光にあたるとフォトコンバージョン(特定波長の光をあてると色が変わる現象)を起こすことが知られています(図4b)。この性質を利用して、海馬神経細胞の細胞ごとの染色に成功しました(図4c)。

ヒユサンゴから発見した蛍光タンパク質「カエデ」

図4a ヒユサンゴから発見した蛍光タンパク質「カエデ」
もともとは緑色の蛍光を発する(左)が紫外光(または紫色光)を
あてると赤色の蛍光を発するようになる(右)

「カエデ」タンパク質の、photconversion(紫外線照射)前(左)と 後(右)の励起スペクトル(波線)と蛍光スペクトル(実線)

図4b 「カエデ」タンパク質の、photconversion(紫外線照射)前(左)と
後(右)の励起スペクトル(波線)と蛍光スペクトル(実線)

「カエデ」を発現する海馬神経細胞の培養(左、すべての細胞が緑色)において、一つの神経細胞の細胞体の一部分に紫外線のパルスを与えたところ、その細胞全体が赤くなった(右、隣同士の神経細胞を色で区別できる)。

図4c 「カエデ」を発現する海馬神経細胞の培養(左、すべての細胞が緑色)に
おいて、一つの神経細胞の細胞体の一部分に紫外線のパルスを与えたところ、
その細胞全体が赤くなった(右、隣同士の神経細胞を色で区別できる)。

改変体・融合体の作成と応用

CFP/YFPペア:

 異なる色の発光、より強い発光、特異的なセンサー機能等を得るために、蛍光タンパク質の改変体や融合体が研究されてきました。
色の違う改変体の合理的な設計が1996年に発表されたGFPの結晶構造を用いて試みられました。203番目のThrをTyrに置換すると、1.Tryの側鎖のフェノール基が発色団のフェノールに積みかさなるように配置されること、2.二つの六員環のπ電子が相互作用することによって長波長シフトがおこる、
との予想に基づき置換体が作成されました。その置換体は見事に黄色蛍光を発しました。

 このように得られた蛍光タンパク質(YFP:黄色蛍光タンパク質)は光を吸収する能力が高く、FRETのエネルギ―受容体として役に立ちます。YFPの吸収スペクトルとCFP(青色蛍光タンパク)の蛍光スペクトルには大きな重なりがあるので、CFP/YFPペアがFRETのドナー/アクセプターとして使うことができることがわかりました(図5)。

CFP/YFPペアがFRETのドナー/アクセプターとして機能

図5 CFP/YFPペアがFRETのドナー/アクセプターとして機能

 

カメレオン:

 細胞内カルシウムイオン濃度に依存して立体構造が大きく変化することが知られているカルモジュリンとその標的蛋白M13を利用することによるカルシウムセンサーの開発を試みました。両蛋白の融合蛋白質は普段は伸びているがカルシウムイオンが結合するとコンパクトな構造を形成する。カルシウムが外れると、また、伸びた形をとります。この動きを利用するFRETを変化させようと考え、CFP、カルモジュリン、M13, YFPが順につながる融合体設計を試みました。うまく設計できれば、カルシウムが結合しないときにはCFPから青い蛍光を発し、カルシウムが結合するときに、CFPからYFPへのFREPが起こり、YFPから黄色い蛍光を発する状況をつくりだすことができます。さらには、青と黄色の蛍光の日(FRETの程度の指標)からカルシウムイオン濃度を知ることができるようになります。CFPとYFPの距離と配向が適切になるように、CFPとカルモジュリンのつなぎ目、また、M13とYEPのつなぎ目のアミノ酸を至適化(置換・削除・挿入)して、狙い通りに、カルシウムセンサーとして機能する融合体を完成させました。カメレオンと命名しました(図6)。

cameleonがcalcium ionをセンスするメカニズム。Calmodulinがcalciumによって活性化されると、M13 を包み込みcomplex formを形成する。

図6 cameleonがcalcium ionをセンスするメカニズム Calmodulinがcalciumに
よって活性化されると、M13 を包み込みcomplex formを形成する。

 

 カメレオンは細胞の生命現象を「見る」ために作製された世界で最初のバイオセンサーです。カメレオンについて、シグナル変化量(ダイナミックレンジ)等のセンサー機能向上を目指す試みを行いました。

 円順列変異を施すことにより、YFPがCFPに対して様々な向きをとらせることができます。実験の結果、大きなダイナミックレンジ(約600%)を示すcameleonを得ることができ(図7)、従来のcameleonと比べて、より高精度・高速のカルシウムイメージングが可能になりました。

YC3.12とYC3.60のスペクトル変化。赤がカルシウム結合時、青がカルシウム非結合時を示す。励起波長は435nm。

図7 YC3.12とYC3.60のスペクトル変化
赤がカルシウム結合時、青がカルシウム非結合時を示す。励起波長は435nm。

 京都大学と共同で、このcameleonを全身に発現する形質転換マウスを作製することに成功し、さらに、脳総合研究センター、脳創成デバイスチームが開発した高速カメラを用いて、その形質転換マウスの海馬におけるカルシウム動態を測定することに成功しました(図8)。

YC3.60を発現した細胞のATP刺激によるカルシウム濃度変化を共焦点ビデオレート観察した例。66ミリ秒ごとの画像をモンタージュしてある。赤いほどカルシウム濃度が高い。

図8 YC3.60を発現した細胞のATP刺激によるカルシウム濃度変化を共焦点ビデオレート観察例
66ミリ秒ごとの画像をモンタージュしてある。赤いほどカルシウム濃度が高い。

最近の研究

 細胞周期の制御に異常をきたし、無制限に分裂を繰り返すような状態が「がん」ですが、発生・再生時の細胞活動の様子や、がんの浸潤・転移など、さまざまな生命現象の根本である細胞周期の実態を生きたままリアルタイムで「見る」ことができれば、たとえば、マウスに移植したがんの浸潤・転移や神経細胞の分化、移動の様子を観察し、生物発生の形態形成、がん化などのメカニズムに関して新たな知見を得ることが大いに期待できます。

 

2008年12月20日 細胞周期のS/G2/M期特異的に細胞のシルエットを描出することに成功-細胞の増殖と形を可視化する技術-

 

2009年11月17日 魚の胚発生における増殖と分化のパターンが生きたまま丸見え
-ゼブラフィッシュで機能する蛍光性細胞周期の可視化プローブzFucciの開発-

 

 

 

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