多方向かつ段階的に進行する細胞分化における運命決定メカニズムの解明究領域略称:細胞運命制御

組織・研究内容

研究課題名
骨髄球系細胞の系列転換における「遷移細胞」の解析

大根田 絹子
研究代表者
大根田 絹子
高崎健康福祉大学・教授
研究室HPE-mail

研究内容

 マスト細胞は造血幹細胞を起源とし、結合組織や粘膜などの末梢組織において最終分化すると考えられている。申請者は、本領域の平成23・24年度公募研究「造血系転写因子によるマスト細胞分化決定機構の解明」において、 Gata1, Gata2遺伝子の発現制御機構が赤血球とマスト細胞とで異なっており、赤血球では細胞分化とともにGATA1によって抑制されるGata2の発現が、マウス骨髄マスト細胞(BMMC)では分化決定後も増加し続けることを見出した(Mol Cell Biol., 2012)。また、さらに解析を進める過程で、GATA2の機能欠失が、BMMCの脱分化を引き起こし、貪食能を有するマクロファージ様細胞と顆粒球様細胞への系列転換を起こすことを見出した。この過程では、骨髄球系に発現するcebpa遺伝子の発現が著しく増加していた。
 一般に、細胞分化は、幹細胞の運命が多段階的に制限されていくことによって進行し、細胞系列が決定した後は不可逆的に進むと考えられている。 iPS細胞のように、最終分化した細胞をリプログラミングするには、外来因子の強制発現が必要である。しかるに、申請者らが観察したGATA2機能欠失BMMCは、内因性因子の喪失のみによって細胞の系列転換が引き起こされ、脱分化によって生じた細胞は正常な血球分化でみられる前駆細胞とは明らかに性質を異にしていた。そこで、本研究では、この細胞を、正常な細胞分化の系譜を辿ることなく系列転換した、不安定な状態にある「遷移細胞」と位置付け、この細胞を解析することによって、骨髄球系細胞の運命転換機構を解明したい。具体的には、【課題1】脱分化によって生じたGATA2機能欠失細胞と正常な前駆細胞との相違を明らかにすること、【課題2】GATA2によるcebpa遺伝子の発現抑制機序を分子レベルで明らかにすること、【課題3】GATA2機能欠失BMMCをマウス個体に移植して、生体内でその運命を観察すること、の3つの課題に取り組む。これらの解析を通じて、正常細胞の脱分化と運命転換が、限られた実験系でのみ観察される稀な事象なのか、それとも生体のストレス応答や恒常性維持に関わる普遍的な仕組みであるのかを明らかにしたい。

主な論文

* correspondence
研究代表者
大根田 絹子

Ohmori S, Takai J, Ishijima Y, Suzuki M, Moriguchi T, Philipsen S, Yamamoto M, *Ohneda K.
The regulation of GATA factor expression is distinct between erythroid and mast cell lineages.
Mol Cell Biol. 32: 4742-4755, 2012.

*Ohneda K, Ohmori S, Ishijima Y, Nakano M, and Yamamoto M.
Characterization of a functional ZBP-89 binding site that mediates Gata1 gene expression
during hematopoietic development.
J Biol Chem. 284: 30187-30199, 2009.

Gutiérrez L, Tsukamoto S, Suzuki M, Yamamoto-Mukai H, Yamamoto M, *Philipsen S, and *Ohneda K.
Ablation of Gata1 in adult mice results in aplastic crisis, revealing its essential role in steady-state and stress erythropoiesis.
Blood 111: 4375-4385, 2008.

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