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2012年2月6日

太陽光励起レーザーで新しいエネルギーをつくり出す研究者

理研基幹研究所に、新しいレーザーシステムを開発し、環境・エネルギー問題への貢献を目指す研究者がいる。 光グリーンテクノロジー特別研究ユニットの小川貴代 特別研究員(以下、研究員)だ。「いつも新しいレーザー結晶を探しています」と小川研究員。新しいレーザー結晶ができると、それまでにない波長のレーザーを出すことができるからだ。小川研究員は2002年、難しいとされていた高品質なバナデイト結晶の作製に成功。現在は「レーザーで社会の役に立ちたい」と、宇宙利用や太陽光励起レーザーなどの応用研究にも力を注いでいる。最近は、太陽光励起レーザー用の集光システムを応用した、水中の放射性物質除去に関する研究プロジェクトにも参加した。趣味は歩くこと。まとまった休みが取れると、お気に入りの土地をひたすら歩くという小川研究員の素顔に迫る。

小川貴代特別研究員

小川貴代 特別研究員

基幹研究所 グリーンテクノロジー特別研究ユニット

1973年、東京都生まれ。博士(理学)。東京理科大学理学部第二部物理学科卒業。2002年、理研中央研究所固体光学デバイス研究ユニット協力技術員。2010年より現職。

太陽光励起レーザーの仕組み

図:太陽光励起レーザーの仕組み

「子どものころの夢はピアニスト。中学のときは読書が好きで数学と理科が苦手。部活は演劇部で、典型的な文系でしたね」と小川研究員。「でも宇宙には興味があり、数式の出てこない科学の本をよく読んでいました」。そして1冊の本に出会った。「電波天文学者の森本雅樹先生が書かれた『宇宙への旅200億年』です。遠くを見ることは宇宙の過去を見ることであり、もっと過去を見ようと努力する研究者の姿が描かれていました。この本をきっかけに、宇宙に関係する仕事をしたいと思うようになりました」
高校では写真部と合唱部。「アマチュア無線部にも入ったのですが、免許を取れないうちに廃部に(笑)。理系クラスを希望すると、先生からやめておけと言われるほど、数学と物理が苦手でした」

その後、東京理科大学理学部第二部物理学科に入学。「4年生のとき、理研でアルバイトを募集していると聞き、応募しました。レーザーに興味があったというよりは、研究の世界に接してみたかったんです。雑用係から始まり、少しずつ実験の手伝いもさせてもらえるようになりました」
そして2002年、協力技術員となり、レーザー結晶の開発に加わった。「浮遊帯溶融法(ふゆうたいようゆうほう)という結晶を成長させる手法をレーザー結晶に初めて取り入れ、高品質なバナデイト結晶の作製に成功しました。融点の高い材料でレーザー結晶をつくる道が拓けました」。理研の連携大学院制度を利用し、東京理科大学でこの研究により博士号を取得した。
現在は、その結晶育成および評価の技術を利用した応用研究にも力を注いでいる。「太陽光をエネルギー源として結晶に照射することでレーザーを発振する“太陽光励起レーザー”の開発もその一つです(図)。その実現には、太陽光を効率よく吸収する新しいレーザー結晶の創製が必要です」。また、(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同で、宇宙で利用するレーザーの開発も進めている。「真空、放射線、排熱など宇宙特有の問題がいくつもあります。問題を一つひとつクリアしていくのは地道で大変な作業ですが、研究の醍醐味(だいごみ)を感じています。この仕事を始めたころは、自分の経歴にコンプレックスを持っていました。でも、気が付くと夢だった宇宙に関係する仕事をしている。不思議ですね」
4月からは、自由な発想で主体性を持って研究することができる基礎科学特別研究員になる予定だ。「高効率太陽光励起レーザーの実用化を目指します。そのレーザーを触媒に照射することで水素を発生させて水素燃料をつくったり、太陽光を蓄積型のエネルギーに変換することができます。社会の役に立つものをつくっていきたいですね」

趣味は歩くこと。「四国が好き。風景写真を撮ったり、地元の人と話したりしながら歩きます。歩くことの魅力は、1歩足を出せば必ず1歩進むこと。研究は頑張った分だけ報われるものではないし、思い続ければ夢がかなうほど甘いものではありません。行き詰まったとき、歩くことで前向きな気持ちを取り戻せることもあります」。着実にステップアップしてきた小川研究員。その歩みは止まらない。

(取材・執筆:鈴木志乃/フォトンクリエイト)

『理研ニュース』2012年2月号より転載